ゲスト
(ka0000)
山岳地帯の山賊たち
マスター:きりん

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 8~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/03/02 22:00
- 完成日
- 2018/03/09 03:59
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●山道にて
激しいゲリラ豪雨は、降り始めた時と同様に唐突に止んだ。
服がびしょ濡れになったことを嘆きつつ歩くあなたたちは、前方で馬車が一台立ち往生しているのを見つけた。
中年の男と中年の女、少年、少女が一丸となって馬車を押しているが、全く動く様子を見せない。
あなたたちに気付いた中年の男が振り返る。
「た、助けてくれ! さっきの雨で車輪がぬかるみに嵌まってしまって……!」
助けを求めてきた中年の男は、ディルクと名乗った。
中年の女と少年、少女が振り返り、中年の女が会釈をして名乗る。
「妻のアンティと申します。こっちは息子のアルムと娘のトアです」
アルムとトアが揃ってあなたたちにお辞儀をした。
「よろしくお願いします」
「はんたーさん、よろしくおねがいします。とあです」
受け答えがしっかりしている年上の兄と、まだ舌足らずだがおませな妹といった感じだ。
話によると、彼らはこの山岳地帯を抜けた先にある盆地の街を目指して、友人を尋ねて旅をしてきたのだという。
護衛の一人も雇っていないことから見て、それほど裕福な家族ではなさそうだ。
乗っている馬車もそれなりに大きいが古臭い。
馬車を押すのは重労働である。
しかもぬかるみに嵌まってしまったとあっては、一家総出でも馬車を動かすのは至難の業だろう。
馬もぬかるみに足を取られて動き辛そうで、何度か車体を脱出させようともがいていたものの、どうすることもできず完全に立ち止まってしまっていた。
ぬかるみは馬車の足元だけでなく、山道全体に及んでいる
あなたたちと馬車が立ち往生している山道は緩いSの字型のカーブを描いている。
Sの字の下に位置する道からあなたたちは歩いてきて、ちょうど今の位置は真ん中だ。この場所は、ディルクの馬車とほぼ同じ大きさの馬車が、辛うじてすれ違える違える程度の幅しかない細い道になっている。
道の片方は十メートルほどの急斜面で、もう片方にも十五メートル近い断崖絶壁が聳える。崖の下に位置するこの場所からは、崖の地層が見えている。
急斜面の方は楽に谷底に降りられそうだが、それでも滑落の危険性はそれなりにある。粗末な柵が転落防止のために設置されているものの、風雨に晒され古びて脆くなっており、勢いよくぶつかると壊れてしまいそうだ。
ただ、本道とは別に一人程度が通れるくらいの狭さだが、少し戻ったところに崖上へ続く急な獣道があったことを、ここまで歩いてきたあなたたちは見つけていた。
また、馬車の向こうに急斜面を避けるように分かれ道がなだらかな下り坂となって下まで続いているのが見える。こちらの道は、二人程度なら同時に進めそうである。
それぞれの分かれ道は、馬車の側にいるあなたたちから約百メートルほどの距離にある。そこから崖上までの道は八十メートル、谷底までの道は倍の百六十メートルほどだ。
足が特別速い人物なら早く着くだろう。ただし、足元がぬかるんでいることは頭に入れておいた方がいいかもしれない。
「はんたーさん、とあね、おみずのみたいの。もってない?」
「こら、やめろよ、失礼だろ」
気付けば、あなたたちの足元にトアとアルムが近寄ってきていた。
どうやら子ども故の物怖じしなさを発揮したトアに対し、アルムが止めようとして失敗し、ずるずると引きずられてきたようだ。
「やだ、とあ、おのどかわいたのー」
「すみません、娘には後でよくいって聞かせますので、お気になさらず」
母親であるアンティもぬかるみに足を取られそうになりながら追いかけてきて、アルムと一緒に嫌がるトアを馬車へ連れて行こうとする。
「やだっ。とあ、はんたーさんのおしごとみるの。いらいしゃとしてきちんとたちあって、おわったらおれいいわなきゃめっ、なんだよ」
トアは抵抗して、アンティにむふっとこまっしゃくれた態度を取る。
どうやら喉が渇いていた事実は、トアの中でどこかに飛んでしまったようである。実に好奇心旺盛な、子どもらしい切り替えの早さだ。
心温まる光景にほんわかしたあなたたちが作業を始めようとした時、鍛えられたあなたたちの耳が、風切り音を拾った。
自然とあなたたちの表情が引き締まる。
敵襲だ。
谷底から放たれた矢が十本、空中で弓なりの軌跡を描いて、あなたたちの頭上に落ちてくる。
同時に、崖上からは人間の成人男性一人が丸々隠れてしまいそうな大きさの岩が三つ、じりじりと落ちようとしている。
彼らもぬかるみに嵌まって岩を動かすのに苦労しているが、このままあなたたちが何もしなければ、崖下にいるあなたたちを狙って落とされるだろう。あるいは馬車の逃げ道を塞がれるかもしれない。
崖下から離れて急斜面の柵の側に居れば岩に当たることはないだろう。その分谷底から弓矢持ちの山賊に狙われる可能性はあるが。
降ってくる大量の矢は、怖くはないにしても対処が面倒なことには変わりない。
矢の本数からして、谷底に潜んでいた敵の人数は十人。崖上から岩を転がすには少なくとも力自慢の男三人は必要だと考えると、九人だ。
実際、あなたたちは崖上と谷底に見えている敵の数が、見立て通りであることを確認している。
さらに、馬車の逃げ道を塞ぐように十五人ずつ山賊たちが現れた。
地の利を生かし待ち伏せされていたようだ。
「た、助けて下さい! どうか私たちと馬車を守って下さい! 馬車を押すくらいなら私たちでもできますから!」
慌てて家族を馬車に避難させ、自分は馬車を押す中年の男の懇願に応えたあなたたちは、武器を抜き放ち降り注ぐ矢を打ち払いつつ、山賊たちの襲撃を迎え撃った。
激しいゲリラ豪雨は、降り始めた時と同様に唐突に止んだ。
服がびしょ濡れになったことを嘆きつつ歩くあなたたちは、前方で馬車が一台立ち往生しているのを見つけた。
中年の男と中年の女、少年、少女が一丸となって馬車を押しているが、全く動く様子を見せない。
あなたたちに気付いた中年の男が振り返る。
「た、助けてくれ! さっきの雨で車輪がぬかるみに嵌まってしまって……!」
助けを求めてきた中年の男は、ディルクと名乗った。
中年の女と少年、少女が振り返り、中年の女が会釈をして名乗る。
「妻のアンティと申します。こっちは息子のアルムと娘のトアです」
アルムとトアが揃ってあなたたちにお辞儀をした。
「よろしくお願いします」
「はんたーさん、よろしくおねがいします。とあです」
受け答えがしっかりしている年上の兄と、まだ舌足らずだがおませな妹といった感じだ。
話によると、彼らはこの山岳地帯を抜けた先にある盆地の街を目指して、友人を尋ねて旅をしてきたのだという。
護衛の一人も雇っていないことから見て、それほど裕福な家族ではなさそうだ。
乗っている馬車もそれなりに大きいが古臭い。
馬車を押すのは重労働である。
しかもぬかるみに嵌まってしまったとあっては、一家総出でも馬車を動かすのは至難の業だろう。
馬もぬかるみに足を取られて動き辛そうで、何度か車体を脱出させようともがいていたものの、どうすることもできず完全に立ち止まってしまっていた。
ぬかるみは馬車の足元だけでなく、山道全体に及んでいる
あなたたちと馬車が立ち往生している山道は緩いSの字型のカーブを描いている。
Sの字の下に位置する道からあなたたちは歩いてきて、ちょうど今の位置は真ん中だ。この場所は、ディルクの馬車とほぼ同じ大きさの馬車が、辛うじてすれ違える違える程度の幅しかない細い道になっている。
道の片方は十メートルほどの急斜面で、もう片方にも十五メートル近い断崖絶壁が聳える。崖の下に位置するこの場所からは、崖の地層が見えている。
急斜面の方は楽に谷底に降りられそうだが、それでも滑落の危険性はそれなりにある。粗末な柵が転落防止のために設置されているものの、風雨に晒され古びて脆くなっており、勢いよくぶつかると壊れてしまいそうだ。
ただ、本道とは別に一人程度が通れるくらいの狭さだが、少し戻ったところに崖上へ続く急な獣道があったことを、ここまで歩いてきたあなたたちは見つけていた。
また、馬車の向こうに急斜面を避けるように分かれ道がなだらかな下り坂となって下まで続いているのが見える。こちらの道は、二人程度なら同時に進めそうである。
それぞれの分かれ道は、馬車の側にいるあなたたちから約百メートルほどの距離にある。そこから崖上までの道は八十メートル、谷底までの道は倍の百六十メートルほどだ。
足が特別速い人物なら早く着くだろう。ただし、足元がぬかるんでいることは頭に入れておいた方がいいかもしれない。
「はんたーさん、とあね、おみずのみたいの。もってない?」
「こら、やめろよ、失礼だろ」
気付けば、あなたたちの足元にトアとアルムが近寄ってきていた。
どうやら子ども故の物怖じしなさを発揮したトアに対し、アルムが止めようとして失敗し、ずるずると引きずられてきたようだ。
「やだ、とあ、おのどかわいたのー」
「すみません、娘には後でよくいって聞かせますので、お気になさらず」
母親であるアンティもぬかるみに足を取られそうになりながら追いかけてきて、アルムと一緒に嫌がるトアを馬車へ連れて行こうとする。
「やだっ。とあ、はんたーさんのおしごとみるの。いらいしゃとしてきちんとたちあって、おわったらおれいいわなきゃめっ、なんだよ」
トアは抵抗して、アンティにむふっとこまっしゃくれた態度を取る。
どうやら喉が渇いていた事実は、トアの中でどこかに飛んでしまったようである。実に好奇心旺盛な、子どもらしい切り替えの早さだ。
心温まる光景にほんわかしたあなたたちが作業を始めようとした時、鍛えられたあなたたちの耳が、風切り音を拾った。
自然とあなたたちの表情が引き締まる。
敵襲だ。
谷底から放たれた矢が十本、空中で弓なりの軌跡を描いて、あなたたちの頭上に落ちてくる。
同時に、崖上からは人間の成人男性一人が丸々隠れてしまいそうな大きさの岩が三つ、じりじりと落ちようとしている。
彼らもぬかるみに嵌まって岩を動かすのに苦労しているが、このままあなたたちが何もしなければ、崖下にいるあなたたちを狙って落とされるだろう。あるいは馬車の逃げ道を塞がれるかもしれない。
崖下から離れて急斜面の柵の側に居れば岩に当たることはないだろう。その分谷底から弓矢持ちの山賊に狙われる可能性はあるが。
降ってくる大量の矢は、怖くはないにしても対処が面倒なことには変わりない。
矢の本数からして、谷底に潜んでいた敵の人数は十人。崖上から岩を転がすには少なくとも力自慢の男三人は必要だと考えると、九人だ。
実際、あなたたちは崖上と谷底に見えている敵の数が、見立て通りであることを確認している。
さらに、馬車の逃げ道を塞ぐように十五人ずつ山賊たちが現れた。
地の利を生かし待ち伏せされていたようだ。
「た、助けて下さい! どうか私たちと馬車を守って下さい! 馬車を押すくらいなら私たちでもできますから!」
慌てて家族を馬車に避難させ、自分は馬車を押す中年の男の懇願に応えたあなたたちは、武器を抜き放ち降り注ぐ矢を打ち払いつつ、山賊たちの襲撃を迎え撃った。
リプレイ本文
●歴戦のハンターたち
「はんたーさんたち、がんばって!」
「おいこら、危ないぞ!」
「ほら、静かにしてるのよ!」
最年少のトアが馬車の扉から顔を出してエールを送り、慌てて兄のアルムと母アンティが連れ戻す。
逃げ出さないように二人掛かりで押さえられぷくっと頬を膨らませるトアの頭を、戻ってきたディルクが優しく撫でた。
「彼らに全て任せよう。私たちは馬車の中で、大人しくしているべきだ」
例え奇襲であっても、大人数であっても、覚醒者でもない山賊たちに遅れを取るようなハンターは一人としていない。
「私は崖上の奴らをやるわ。それじゃ、行ってくるわね」
「ここは私たちが食い止めます。トアちゃんも、アルム君も大丈夫だからね」
鍛島 霧絵(ka3074)とルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が馬車越しにアルムとトアに声をかけ、音もなく崖上をするすると登っていく。
「楽に戦いたいところだがそうも言ってられないか。なら谷底のアレを何とかしようかね、と」
「人間相手は気が進まんが仕方ない。……割り切るがな。ったく、俺はシリアルキラーじゃねえんだぞ」
ため息をつきつつも気楽そうなアルト・ハーニー(ka0113)とともに、リカルド=フェアバーン(ka0356)がぼやきながら急斜面を谷底へと下る。
「ギャラリーに子どもがいるんだ。血生臭いのはほどほどにしとこうぜ!」
「ういういっ♪ 山賊さんのことハ、パティ達におまかせネ♪ 大船に乗ったつもりでいると良いヨ♪」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が馬車の後方に、パトリシア=K=ポラリス(ka5996)は馬車の前方にそれぞれ陣取り、それぞれ向かってくる山賊たちを迎え撃つ。
「戦況は馬車の上から私が見ます。岩の落着地点予測、および馬車の守りはお任せを」
「気持ちは切り替えねえとな。討ち漏らしはオレたちが片付ける。援護は任せろ!」
馬車の上に飛び乗り、エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)とステラ・レッドキャップ(ka5434)が戦場を見据える。
戦いが始まった。
●谷底の戦闘
谷底に降りているアルトとリカルドの間には、どこか微妙な空気が漂っていた。
それは、目の前の盗賊たちに理由がある。
「ぬかるみは強敵だったね、と」
「……バイクを降りれば問題ない」
二人を迎え撃つ盗賊たちの多くは、矢が二人にまるで効果がないことを悟るとさっさと剣に持ち替えて走り寄ろうとした。
いや、正確には、走り寄ろうとして途中でバタバタと転んだ。
ぬかるんで泥濘状になった地面が、想像以上に厄介だったのである。
覚醒者であるアルトとリカルドは危なげなく移動できるが、一般人には難しい。
途中でリカルドがぬかるみで滑るバイクの車輪に苛立ったのはご愛嬌だろう。
「この距離で攻撃出来ないと思ったら間違いさねぇ。じゃあ、二手に分かれてあとはスマートに、と」
「了解だ」
転倒してもがいている山賊たちのうち、起き上がりそうな敵にアルトがハンマーで衝撃波を起こして復帰を邪魔し、リカルドもアサルトライフルで銃撃を加えつつ距離を詰めていく。
「こうやって惨状にビビって逃げてくれれば楽なんだが」
「逃げる途中でも転ぶだろうから無理だねぇ」
「……マジかよ」
軽口を叩き合う間も、二人は時に離れ、時に近付き、山賊たちを100tハンマーの一撃と試作振動刀「オートMURAMASA」、ナイフ「TCSG」の二刀によって屠っていく。
二人を後押しするように、馬車の方角から放たれた三条の光が山賊たちを貫く。
「粗方終わったね、と」
「馬車に戻るぞ。連中の加勢に行く」
途中でエラによる三散の援護もあり、二人は危なげなく谷底の山賊片付けると、アサルトライフルに再び持ち替え、100tハンマーを担ぎ直しともに走り出した。
●崖上の奇襲
一足先に崖上に着いたのは、ルンルンの方だった。
彼女は山賊たちが押そうと四苦八苦していた岩の上に勢いよく飛び乗り、ビシッと山賊たちに手を突きつける。
手の先の指には、既に十分な数の符が挟まれ、今か今かと出番を待っている。
「もう岩なんて押してる場合じゃないですよ! 私たちをどうにかしないと……あー!」
前口上を述べようとしたルンルンの目の前で、男たちの身体を銃弾が引き裂く。
ルンルンが振り向くと、遅れて到着した霧絵がアサルトライフルによる銃撃を加えていたところだった。
「むー」
「ごめんなさい。あいつらがあなたに気を取られて隙だらけだったものだから、つい」
アサルトライフルの代わりにリボルバーをホルダーから抜き放ちつつ、謝りながらも淡々と追撃を撃ち込んでいく霧絵を見て、ルンルンは青くなった。
──早くしないと、見せ場がなくなる!
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法戌三全集陣! 今集まれ、めがね、うくれれ、おいーっす。更に、後ろ後ろ、ペッ! ついに全員集合なんだからっ!」
慌てて投げ上げられたルンルンの符が稲妻に変わり、山賊たちに降り注ぎ貫いていく。
次々に飛び出す新しい符によるルンルンの殲滅速度は、霧絵に勝るとも劣らない。
そのうち何枚かはひらりひらりと馬車の方へと飛んで消えていくが、それすらルンルンにとっては計算済みなのだ。
負けじと霧絵が放った銃弾が、変則的な軌道を描いて山賊たちを撃ち抜いていく。
山賊たちが倒れたことを確認すると、ルンルンと霧絵は残された岩の活用を試み始める。
「それじゃあ、落としましょうか。地縛符で足止めしてくれてたみたいだけど、私たちまで巻き込まれたりしないわよね?」
「問題ないですよ。結界は効果時間こそ長いですけど、発動したら時間が残ってても終了します」
「へえ。詳しいのね」
「そりゃ、専門ですし! 人呼んで、ニンジャキャプタールンルン☆ とは私のことです!」
「え……キャプ……え?」
元気いっぱいなルンルンと、淡々と話すことからクールそうに見えて実は根がのんびり屋の霧絵は、どこか抜けた会話をしつつ、馬車を守る味方たちの援護をするために岩を落とすため、行動を開始した。
●敵の足止め
レイオスとパトリシアの役目は、馬車とディルクらを狙う山賊たちの妨害だ。
「ココから先ハ、パティを倒してカラ行くのダヨっ♪ かもーん、御霊ちゃんっ」
パトリシアは御霊符で二体の御霊を召喚する。
使用する生命力は一体につき三分の一、惜しげなく注ぎ込む。
式神は高身長の鬼を模しており、パトリシアにとっては近接戦で頼りになる、戦友にも似た存在である。
道を塞ぐように並ばせ、近付く山賊に手痛い一撃を喰らわせる。
はずだったのだが……。
「……アレ?」
ばたばたと、山賊たちが泥濘に足を滑らせて転んでいた。
「アー、パティと山賊さんたちじゃ、身体能力が違い過ぎダネ。でもこの隙、逃がさないヨっ!」
ただでさえ転倒中な山賊たちに、パトリシアによる無慈悲な追撃が行われる。
五色光符陣による光で目を焼かれた男たちは、目が眩んで見えなくなった。
「フッフーン♪ 上手くいったんダヨっ! デモちょっと、数が多くて面倒くさいヨ……」
符の効果範囲から免れた盗賊たちの何人かが、パトリシアを無視して馬車へ抜けようとする。
パトリシアは再び符を引き抜き、背後へと飛ばした。
レイオスは馬車の後方に陣取りながら、迫り来る山賊たちを待ち構える。
「うーむ。数は多いが、まあ行けるだろ! あいつら転んでるし!」
何だか毛に泥をつけた愛馬が胡乱な眼差しを送ってくる気がしたが、無視した。
颯爽と愛馬を駆って一度転び、自分の足で走った方が速いことに気付いたわけではない。レイオスの身体は泥に汚れていないので、決して転んだわけではないのだ。
「足場悪いのが思い切りこっちに味方してるしな!」
素早く行動を起こし、剣を振った衝撃波で遠隔攻撃しつつ、身を起こそうとしている山賊たちに接近する。
「悪いがもうちょっと止まっててくれよ!」
守りの構えでさらに山賊たちの動きを阻害する。
圧倒的な実力差がある相手なのだ。レイオスは一人も通す気はない。
それに、レイオスの背後にはステラが控えている。
今も、ステラは馬車の上にエラとともに陣取り、ライフルで山賊たちを狙撃している。
「一応聞いておくぜ。今すぐ降参して捕まるか、叩き潰されて捕まるか。好きな方を選べよ」
動けない山賊たちに対し、レイオスは言い放った。
●馬車を守る者たち
エラは抜けてくる敵を三散で撃退しながら、ずっと冷静なまま戦況を見つめていた。
「こんな泥濘の中でまともに動けるのは私たち覚醒者くらいなもの。今の展開は全て予測済みです」
「いや、絶対嘘だろそれ」
クールな表情で戦況を見据えるエラに、ぼそっとステラがツッコミを入れる。
「何か?」
「いや、何でもねえ」
眼鏡のつるをくいっと持ち上げてステラを見るエラに対し、ステラはわざとらしく口笛を吹いて誤魔化した。
その間ステラもまたライフルでレイオスとパトリシアの援護を的確に行い、抜けて馬車に寄ってきそうな敵を威嚇射撃や妨害射撃で足止めしている。
さりげないが恐るべき腕だ。
崖上の状況を注視していたエラは、ルンルンと霧絵のしようとしていることにいち早く気付き伝える。
「秘書見習い、レイオス、十秒後に岩が落ちます。落下場所は馬車の前後六メートルの崖上側。余波で谷底側に二メートルほど転がりそうです。気をつけてください」
「何それ怖いな! 助かるが!」
「さすがししょーネ!」
一度に多数を相手取るレイオスとパトリシアは覚醒者と一般人の地力の違いというものを散々見せつけ大暴れしていたが、相手がぬかるみに足を取られて転倒しやすいとはいえ、一人で対応するのは大変だったようだ。
いったん下がる二人を追いかけた山賊たちを、降ってきた岩が押し潰し、転がってはね飛ばす。
「物事は全て私の掌の上です。それにしても、最初の頃以外ろくに矢が飛んできませんね?」
「アルトとリカルドの奴らが上手くやってくれたみたいだぜ。迅速に片付けてくれたおかげで、すげえやりやすい。馬に当たりそうだった矢も、パティとルンルンの瑞鳥符がしっかり止めてたしな」
レイオスとパトリシアの防御を抜けてくる山賊も、岩で道を塞がれたとあっては数にものを言わせる強行突破ができず、エラの機導術とステラのライフルによる攻撃で十分に迎撃が間に合う。
さらに、崖下からアルトとリカルドが、崖上から霧絵と式神を従えたルンルンが加勢して、完全に形勢は決した。
●全てが終わって……
「はんたーさんたち、すごーい!」
山賊たちの抵抗が止み、人獣問わず怪我の確認とステラのヒールによる治療が済むと、トアが真っ先に馬車から降りて駆け出した。
「ふっふっふー。トアちゃん、お水欲しいですか?」
「ほしい!」
「なら、この水筒のお水をあげますね!」
「わーい!」
今頃になって喉が渇いていたことを思い出したトアは大はしゃぎで水筒を受け取り、ゴクゴクと飲み干す。
トアに遅れて、強張った表情でアルムが馬車から降りてくる。
「よく、泣かずに頑張ったわね。偉いわ」
霧絵が穏やかな表情で、アルムの頭を静かに撫でる。
「もう子どもじゃありませんから」
恐怖を感じていたのは確かだろうに、アルムは強がりをいっている。
「これ、アルム君とトアちゃんにあげる。二人で分けなさい」
静かに笑みを浮かべた霧絵は、アルムにミネラルウォーターとキャンディを手渡す。
「あっ、ありがとうございます!」
一瞬霧絵の笑顔に見惚れたアルムは、我に返って赤くなった顔で深く頭を下げた。
「皆さん、ありがとうございました。よろしけれお礼に馬車で街までお送りしますよ」
「街に着いたら、改めてお礼をさせていただきますので」
安全になったことを確認したディルクとアンティが外に出てきて一行に礼をいい、街まで一緒に帰還することを提案する。
「ぜひお願いしたいねぇ。旅は道連れ、世は情けだぞ、と」
せっかくの申し出なのだからと、アルトが一番に二人の申し出を受け入れた。
「いいですネっ! 実はステラやししょーと一緒にお茶しようと思ってハーブティーとクッキーを持ってきてるんデス! お子さんを交えてお二人もどうデスか?」
さっそく用意を始めているパトリシアが笑顔でディルクたちを誘った。
「お、じゃあいっそのこと、皆で山賊撃退記念ティータイムとしゃれ込むか!」
ステラはいつものメンバーに加え、全員で一服することに乗り気なようだ。
「ふむ。なら迅速に岩やまだ生きてる山賊たちをどうにかする必要があるか。少し待て。すぐ戻る」
仕事時のビジネスライクな丁寧口調から素に戻ったエラが、無力化した山賊たちの後始末をしに外に出ようとする。
その後をアルトが追った。
「力仕事は男の役目だしねぇ。手伝うぞ、と」
「助力感謝する」
男という言葉で反射的に残る二人を探したステラは、辺りにいないことに気付いて首を傾げる。
「ん? あれ? そういえば、レイオスはどこ行った? せっかく誘ってやろうと思ったのに……。リカルドもいないぞ?」
二人は先に山賊たちの後始末をしていた。
いや、正確にはリカルドが一人で始めていて、レイオスが途中でそのことに気付き後を追った形になる。
具体的には、パトリシアのティータイム発言を聞いた直後だ。
「なあ、リカルドは参加しないのか? ディルクさんたちもお礼をいいたがってるぜ、きっと」
「俺はいい。子どもにこんな姿を見せるもんじゃない。それに誰も斥候をしないのも問題だろう。俺がしておくから、あんたは楽しめよ」
黙々と山賊たちに対してするべきことをこなすリカルドを見ていたレイオスは、おもむろに歩き出すと馬車の進路を塞ぐ岩を退かし始めた。
視線でどうして行かないのか問うリカルドに、レイオスはニッと笑った。
「後で改めてこのメンバーで集まって記念に宴会しようぜ。でな、その時料理を作ってくれよ。リカルドって、料理上手いんだろ?」
気遣われたのだと気付いたリカルドは、口元に小さく笑みを浮かべる。
「分かった。戻ったらな」
途中からルンルンやエラ、アルトらも合流し、後始末はあっという間に済んだ。
その後、斥候を続けるリカルドの手元からは、事情を知って様子を見に来たパトリシアがくれたハーブティーとクッキーのいい香りが漂ってきていた。
最後の一欠片を口にして、くいとハーブティーを飲み干したリカルドは僅かに笑みをたたえ、先行して一人景色を睨み続ける。
静けさを取り戻した山岳地帯で、後を行く馬車からしばらくの間、アルムとトアの楽しそうなはしゃぎ声と、アルムとトアの両親であるディルクとアンティ、そしてアルト、霧絵、エラ、ルンルン、ステラ、パトリシアの、穏やかな会話と笑い声が響いているのを聞きながら。
「はんたーさんたち、がんばって!」
「おいこら、危ないぞ!」
「ほら、静かにしてるのよ!」
最年少のトアが馬車の扉から顔を出してエールを送り、慌てて兄のアルムと母アンティが連れ戻す。
逃げ出さないように二人掛かりで押さえられぷくっと頬を膨らませるトアの頭を、戻ってきたディルクが優しく撫でた。
「彼らに全て任せよう。私たちは馬車の中で、大人しくしているべきだ」
例え奇襲であっても、大人数であっても、覚醒者でもない山賊たちに遅れを取るようなハンターは一人としていない。
「私は崖上の奴らをやるわ。それじゃ、行ってくるわね」
「ここは私たちが食い止めます。トアちゃんも、アルム君も大丈夫だからね」
鍛島 霧絵(ka3074)とルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が馬車越しにアルムとトアに声をかけ、音もなく崖上をするすると登っていく。
「楽に戦いたいところだがそうも言ってられないか。なら谷底のアレを何とかしようかね、と」
「人間相手は気が進まんが仕方ない。……割り切るがな。ったく、俺はシリアルキラーじゃねえんだぞ」
ため息をつきつつも気楽そうなアルト・ハーニー(ka0113)とともに、リカルド=フェアバーン(ka0356)がぼやきながら急斜面を谷底へと下る。
「ギャラリーに子どもがいるんだ。血生臭いのはほどほどにしとこうぜ!」
「ういういっ♪ 山賊さんのことハ、パティ達におまかせネ♪ 大船に乗ったつもりでいると良いヨ♪」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が馬車の後方に、パトリシア=K=ポラリス(ka5996)は馬車の前方にそれぞれ陣取り、それぞれ向かってくる山賊たちを迎え撃つ。
「戦況は馬車の上から私が見ます。岩の落着地点予測、および馬車の守りはお任せを」
「気持ちは切り替えねえとな。討ち漏らしはオレたちが片付ける。援護は任せろ!」
馬車の上に飛び乗り、エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)とステラ・レッドキャップ(ka5434)が戦場を見据える。
戦いが始まった。
●谷底の戦闘
谷底に降りているアルトとリカルドの間には、どこか微妙な空気が漂っていた。
それは、目の前の盗賊たちに理由がある。
「ぬかるみは強敵だったね、と」
「……バイクを降りれば問題ない」
二人を迎え撃つ盗賊たちの多くは、矢が二人にまるで効果がないことを悟るとさっさと剣に持ち替えて走り寄ろうとした。
いや、正確には、走り寄ろうとして途中でバタバタと転んだ。
ぬかるんで泥濘状になった地面が、想像以上に厄介だったのである。
覚醒者であるアルトとリカルドは危なげなく移動できるが、一般人には難しい。
途中でリカルドがぬかるみで滑るバイクの車輪に苛立ったのはご愛嬌だろう。
「この距離で攻撃出来ないと思ったら間違いさねぇ。じゃあ、二手に分かれてあとはスマートに、と」
「了解だ」
転倒してもがいている山賊たちのうち、起き上がりそうな敵にアルトがハンマーで衝撃波を起こして復帰を邪魔し、リカルドもアサルトライフルで銃撃を加えつつ距離を詰めていく。
「こうやって惨状にビビって逃げてくれれば楽なんだが」
「逃げる途中でも転ぶだろうから無理だねぇ」
「……マジかよ」
軽口を叩き合う間も、二人は時に離れ、時に近付き、山賊たちを100tハンマーの一撃と試作振動刀「オートMURAMASA」、ナイフ「TCSG」の二刀によって屠っていく。
二人を後押しするように、馬車の方角から放たれた三条の光が山賊たちを貫く。
「粗方終わったね、と」
「馬車に戻るぞ。連中の加勢に行く」
途中でエラによる三散の援護もあり、二人は危なげなく谷底の山賊片付けると、アサルトライフルに再び持ち替え、100tハンマーを担ぎ直しともに走り出した。
●崖上の奇襲
一足先に崖上に着いたのは、ルンルンの方だった。
彼女は山賊たちが押そうと四苦八苦していた岩の上に勢いよく飛び乗り、ビシッと山賊たちに手を突きつける。
手の先の指には、既に十分な数の符が挟まれ、今か今かと出番を待っている。
「もう岩なんて押してる場合じゃないですよ! 私たちをどうにかしないと……あー!」
前口上を述べようとしたルンルンの目の前で、男たちの身体を銃弾が引き裂く。
ルンルンが振り向くと、遅れて到着した霧絵がアサルトライフルによる銃撃を加えていたところだった。
「むー」
「ごめんなさい。あいつらがあなたに気を取られて隙だらけだったものだから、つい」
アサルトライフルの代わりにリボルバーをホルダーから抜き放ちつつ、謝りながらも淡々と追撃を撃ち込んでいく霧絵を見て、ルンルンは青くなった。
──早くしないと、見せ場がなくなる!
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法戌三全集陣! 今集まれ、めがね、うくれれ、おいーっす。更に、後ろ後ろ、ペッ! ついに全員集合なんだからっ!」
慌てて投げ上げられたルンルンの符が稲妻に変わり、山賊たちに降り注ぎ貫いていく。
次々に飛び出す新しい符によるルンルンの殲滅速度は、霧絵に勝るとも劣らない。
そのうち何枚かはひらりひらりと馬車の方へと飛んで消えていくが、それすらルンルンにとっては計算済みなのだ。
負けじと霧絵が放った銃弾が、変則的な軌道を描いて山賊たちを撃ち抜いていく。
山賊たちが倒れたことを確認すると、ルンルンと霧絵は残された岩の活用を試み始める。
「それじゃあ、落としましょうか。地縛符で足止めしてくれてたみたいだけど、私たちまで巻き込まれたりしないわよね?」
「問題ないですよ。結界は効果時間こそ長いですけど、発動したら時間が残ってても終了します」
「へえ。詳しいのね」
「そりゃ、専門ですし! 人呼んで、ニンジャキャプタールンルン☆ とは私のことです!」
「え……キャプ……え?」
元気いっぱいなルンルンと、淡々と話すことからクールそうに見えて実は根がのんびり屋の霧絵は、どこか抜けた会話をしつつ、馬車を守る味方たちの援護をするために岩を落とすため、行動を開始した。
●敵の足止め
レイオスとパトリシアの役目は、馬車とディルクらを狙う山賊たちの妨害だ。
「ココから先ハ、パティを倒してカラ行くのダヨっ♪ かもーん、御霊ちゃんっ」
パトリシアは御霊符で二体の御霊を召喚する。
使用する生命力は一体につき三分の一、惜しげなく注ぎ込む。
式神は高身長の鬼を模しており、パトリシアにとっては近接戦で頼りになる、戦友にも似た存在である。
道を塞ぐように並ばせ、近付く山賊に手痛い一撃を喰らわせる。
はずだったのだが……。
「……アレ?」
ばたばたと、山賊たちが泥濘に足を滑らせて転んでいた。
「アー、パティと山賊さんたちじゃ、身体能力が違い過ぎダネ。でもこの隙、逃がさないヨっ!」
ただでさえ転倒中な山賊たちに、パトリシアによる無慈悲な追撃が行われる。
五色光符陣による光で目を焼かれた男たちは、目が眩んで見えなくなった。
「フッフーン♪ 上手くいったんダヨっ! デモちょっと、数が多くて面倒くさいヨ……」
符の効果範囲から免れた盗賊たちの何人かが、パトリシアを無視して馬車へ抜けようとする。
パトリシアは再び符を引き抜き、背後へと飛ばした。
レイオスは馬車の後方に陣取りながら、迫り来る山賊たちを待ち構える。
「うーむ。数は多いが、まあ行けるだろ! あいつら転んでるし!」
何だか毛に泥をつけた愛馬が胡乱な眼差しを送ってくる気がしたが、無視した。
颯爽と愛馬を駆って一度転び、自分の足で走った方が速いことに気付いたわけではない。レイオスの身体は泥に汚れていないので、決して転んだわけではないのだ。
「足場悪いのが思い切りこっちに味方してるしな!」
素早く行動を起こし、剣を振った衝撃波で遠隔攻撃しつつ、身を起こそうとしている山賊たちに接近する。
「悪いがもうちょっと止まっててくれよ!」
守りの構えでさらに山賊たちの動きを阻害する。
圧倒的な実力差がある相手なのだ。レイオスは一人も通す気はない。
それに、レイオスの背後にはステラが控えている。
今も、ステラは馬車の上にエラとともに陣取り、ライフルで山賊たちを狙撃している。
「一応聞いておくぜ。今すぐ降参して捕まるか、叩き潰されて捕まるか。好きな方を選べよ」
動けない山賊たちに対し、レイオスは言い放った。
●馬車を守る者たち
エラは抜けてくる敵を三散で撃退しながら、ずっと冷静なまま戦況を見つめていた。
「こんな泥濘の中でまともに動けるのは私たち覚醒者くらいなもの。今の展開は全て予測済みです」
「いや、絶対嘘だろそれ」
クールな表情で戦況を見据えるエラに、ぼそっとステラがツッコミを入れる。
「何か?」
「いや、何でもねえ」
眼鏡のつるをくいっと持ち上げてステラを見るエラに対し、ステラはわざとらしく口笛を吹いて誤魔化した。
その間ステラもまたライフルでレイオスとパトリシアの援護を的確に行い、抜けて馬車に寄ってきそうな敵を威嚇射撃や妨害射撃で足止めしている。
さりげないが恐るべき腕だ。
崖上の状況を注視していたエラは、ルンルンと霧絵のしようとしていることにいち早く気付き伝える。
「秘書見習い、レイオス、十秒後に岩が落ちます。落下場所は馬車の前後六メートルの崖上側。余波で谷底側に二メートルほど転がりそうです。気をつけてください」
「何それ怖いな! 助かるが!」
「さすがししょーネ!」
一度に多数を相手取るレイオスとパトリシアは覚醒者と一般人の地力の違いというものを散々見せつけ大暴れしていたが、相手がぬかるみに足を取られて転倒しやすいとはいえ、一人で対応するのは大変だったようだ。
いったん下がる二人を追いかけた山賊たちを、降ってきた岩が押し潰し、転がってはね飛ばす。
「物事は全て私の掌の上です。それにしても、最初の頃以外ろくに矢が飛んできませんね?」
「アルトとリカルドの奴らが上手くやってくれたみたいだぜ。迅速に片付けてくれたおかげで、すげえやりやすい。馬に当たりそうだった矢も、パティとルンルンの瑞鳥符がしっかり止めてたしな」
レイオスとパトリシアの防御を抜けてくる山賊も、岩で道を塞がれたとあっては数にものを言わせる強行突破ができず、エラの機導術とステラのライフルによる攻撃で十分に迎撃が間に合う。
さらに、崖下からアルトとリカルドが、崖上から霧絵と式神を従えたルンルンが加勢して、完全に形勢は決した。
●全てが終わって……
「はんたーさんたち、すごーい!」
山賊たちの抵抗が止み、人獣問わず怪我の確認とステラのヒールによる治療が済むと、トアが真っ先に馬車から降りて駆け出した。
「ふっふっふー。トアちゃん、お水欲しいですか?」
「ほしい!」
「なら、この水筒のお水をあげますね!」
「わーい!」
今頃になって喉が渇いていたことを思い出したトアは大はしゃぎで水筒を受け取り、ゴクゴクと飲み干す。
トアに遅れて、強張った表情でアルムが馬車から降りてくる。
「よく、泣かずに頑張ったわね。偉いわ」
霧絵が穏やかな表情で、アルムの頭を静かに撫でる。
「もう子どもじゃありませんから」
恐怖を感じていたのは確かだろうに、アルムは強がりをいっている。
「これ、アルム君とトアちゃんにあげる。二人で分けなさい」
静かに笑みを浮かべた霧絵は、アルムにミネラルウォーターとキャンディを手渡す。
「あっ、ありがとうございます!」
一瞬霧絵の笑顔に見惚れたアルムは、我に返って赤くなった顔で深く頭を下げた。
「皆さん、ありがとうございました。よろしけれお礼に馬車で街までお送りしますよ」
「街に着いたら、改めてお礼をさせていただきますので」
安全になったことを確認したディルクとアンティが外に出てきて一行に礼をいい、街まで一緒に帰還することを提案する。
「ぜひお願いしたいねぇ。旅は道連れ、世は情けだぞ、と」
せっかくの申し出なのだからと、アルトが一番に二人の申し出を受け入れた。
「いいですネっ! 実はステラやししょーと一緒にお茶しようと思ってハーブティーとクッキーを持ってきてるんデス! お子さんを交えてお二人もどうデスか?」
さっそく用意を始めているパトリシアが笑顔でディルクたちを誘った。
「お、じゃあいっそのこと、皆で山賊撃退記念ティータイムとしゃれ込むか!」
ステラはいつものメンバーに加え、全員で一服することに乗り気なようだ。
「ふむ。なら迅速に岩やまだ生きてる山賊たちをどうにかする必要があるか。少し待て。すぐ戻る」
仕事時のビジネスライクな丁寧口調から素に戻ったエラが、無力化した山賊たちの後始末をしに外に出ようとする。
その後をアルトが追った。
「力仕事は男の役目だしねぇ。手伝うぞ、と」
「助力感謝する」
男という言葉で反射的に残る二人を探したステラは、辺りにいないことに気付いて首を傾げる。
「ん? あれ? そういえば、レイオスはどこ行った? せっかく誘ってやろうと思ったのに……。リカルドもいないぞ?」
二人は先に山賊たちの後始末をしていた。
いや、正確にはリカルドが一人で始めていて、レイオスが途中でそのことに気付き後を追った形になる。
具体的には、パトリシアのティータイム発言を聞いた直後だ。
「なあ、リカルドは参加しないのか? ディルクさんたちもお礼をいいたがってるぜ、きっと」
「俺はいい。子どもにこんな姿を見せるもんじゃない。それに誰も斥候をしないのも問題だろう。俺がしておくから、あんたは楽しめよ」
黙々と山賊たちに対してするべきことをこなすリカルドを見ていたレイオスは、おもむろに歩き出すと馬車の進路を塞ぐ岩を退かし始めた。
視線でどうして行かないのか問うリカルドに、レイオスはニッと笑った。
「後で改めてこのメンバーで集まって記念に宴会しようぜ。でな、その時料理を作ってくれよ。リカルドって、料理上手いんだろ?」
気遣われたのだと気付いたリカルドは、口元に小さく笑みを浮かべる。
「分かった。戻ったらな」
途中からルンルンやエラ、アルトらも合流し、後始末はあっという間に済んだ。
その後、斥候を続けるリカルドの手元からは、事情を知って様子を見に来たパトリシアがくれたハーブティーとクッキーのいい香りが漂ってきていた。
最後の一欠片を口にして、くいとハーブティーを飲み干したリカルドは僅かに笑みをたたえ、先行して一人景色を睨み続ける。
静けさを取り戻した山岳地帯で、後を行く馬車からしばらくの間、アルムとトアの楽しそうなはしゃぎ声と、アルムとトアの両親であるディルクとアンティ、そしてアルト、霧絵、エラ、ルンルン、ステラ、パトリシアの、穏やかな会話と笑い声が響いているのを聞きながら。
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相談卓 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142) 人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/03/02 07:56:53 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/02/27 15:44:00 |