ゲスト
(ka0000)
楽しいパーティーの作り方
マスター:一要・香織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/03/04 12:00
- 完成日
- 2018/03/08 22:24
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「どうしてもやらないとダメなの?」
執務室の机に突っ伏しながら、レイナ・エルト・グランツ(kz0253)は泣きそうな声を上げた。
「はい、お嬢様。領主となる者、皆が通る道でございます」
その側に佇んだ白髭の初老の男は、レイナを一喝するようにピシャリと言い放つ。
「でも、私はきちんと受け継いだ訳ではありませんし……」
「そんなことは関係ございません」
「っ………」
ここは王国の片田舎。
父親の突然の死により領主の座を継いだレイナは、―――ある問題を抱えていた。
従来、この領地では親から子へと領主の座が渡されてきた。
新たな領主が就任すると、それを報告するためのパーティーが開かれる。
参列者は、近隣の村長や付き合いのある貴族、この土地を管轄する王国の官僚などだ。
通例、前領主が次の領主を紹介し、今後の変わらぬ友好をお願いしていたのだが、今回は……例外だった。
先日領内に出没した雑魔によって父親は殺され、急遽レイナがその後を継ぐことになったのだが……、前領主が居ない……気弱なレイナにとってそれは心の支えを失ったも同然だった。
「お嬢様。ただご挨拶をすればいいのですから……深く考える必要はありません」
そう心配する初老の男性は、幼少のころからレイナを世話する執事のジル。
「……きっと私がご挨拶しても、楽しんでもらえないよ……」
父親の勇ましさの欠片を一つも引き継いでいないレイナに、ジルは内心ため息を吐いた。
「確かに、楽しんで頂くことは大事な事ですが、報告のパーティーを開かない事の方が心象が悪くなると思いますぞ」
その言葉に、レイナはガバッと頭を上げた。
「えぇ……どうしよう……」
レイナの瞳には涙が滲み、引き結んだ唇は小さく震えた。
困り焦るレイナを尻目に、ジルは抱えていた紙の束を机に置いた。
「先々代の頃から付き合いのある方々のリストです。招待状を書いておいてください」
「…………………」
しかし、レイナは何か思案しているようで、ジルの言葉は耳に入っていない。
「ハァ……」
呆れた様にジルがため息を吐いた途端、
「そうよ! 私が出来ないなら、手伝って貰えばいいのよ」
どの様な思考回路の末に辿りついた結論なのかは知らないが、レイナは笑みを取り戻すと勢いよく立ち上がった。
「ジル、ちょっと出掛けてきます!」
レイナはそう言うと掛けてあったジャケットを手に部屋を出て行った。
「まったく……。こういう事にだけは行動力があるんですから……」
苦笑を浮かべるものの、ジルはどこか安心したような表情だった。
一刻後、ハンターオフィスにはレイナの姿があった。
「こんな事をお願いするのは筋違いだとわかっています。ですが、どうか力を貸してくださいませんか?」
頭を下げるレイナに受付の女性はおろおろするばかりだ。
「一人でもいいのです、お力を貸していただける方を探してくださいませんか?」
「しかし、パーティーを盛り上げてほしいなんて依頼、今まで受けたことが無くて……」
「ええ……そうですよね。でも、なんでも構いません。特技でも、冒険していて見聞きした面白い話でも……何か披露して盛り上げて下さる方は居ないでしょうか?」
レイナは折れそうな気持ちを堪え、再び頭を下げた。
すると、
「へえ、面白そうじゃない! パーティーを盛り上げろだなんて」
「ああ、パーティーの主役は俺が頂くぜ」
レイナの話を聞いていたハンターが口元に笑みを浮かべ集まった。
「楽しそうだから、力になってあげるわ」
「っ!! ありがとうございます」
レイナは安堵の笑みを浮かべ、ハンターに頭を下げた。
執務室の机に突っ伏しながら、レイナ・エルト・グランツ(kz0253)は泣きそうな声を上げた。
「はい、お嬢様。領主となる者、皆が通る道でございます」
その側に佇んだ白髭の初老の男は、レイナを一喝するようにピシャリと言い放つ。
「でも、私はきちんと受け継いだ訳ではありませんし……」
「そんなことは関係ございません」
「っ………」
ここは王国の片田舎。
父親の突然の死により領主の座を継いだレイナは、―――ある問題を抱えていた。
従来、この領地では親から子へと領主の座が渡されてきた。
新たな領主が就任すると、それを報告するためのパーティーが開かれる。
参列者は、近隣の村長や付き合いのある貴族、この土地を管轄する王国の官僚などだ。
通例、前領主が次の領主を紹介し、今後の変わらぬ友好をお願いしていたのだが、今回は……例外だった。
先日領内に出没した雑魔によって父親は殺され、急遽レイナがその後を継ぐことになったのだが……、前領主が居ない……気弱なレイナにとってそれは心の支えを失ったも同然だった。
「お嬢様。ただご挨拶をすればいいのですから……深く考える必要はありません」
そう心配する初老の男性は、幼少のころからレイナを世話する執事のジル。
「……きっと私がご挨拶しても、楽しんでもらえないよ……」
父親の勇ましさの欠片を一つも引き継いでいないレイナに、ジルは内心ため息を吐いた。
「確かに、楽しんで頂くことは大事な事ですが、報告のパーティーを開かない事の方が心象が悪くなると思いますぞ」
その言葉に、レイナはガバッと頭を上げた。
「えぇ……どうしよう……」
レイナの瞳には涙が滲み、引き結んだ唇は小さく震えた。
困り焦るレイナを尻目に、ジルは抱えていた紙の束を机に置いた。
「先々代の頃から付き合いのある方々のリストです。招待状を書いておいてください」
「…………………」
しかし、レイナは何か思案しているようで、ジルの言葉は耳に入っていない。
「ハァ……」
呆れた様にジルがため息を吐いた途端、
「そうよ! 私が出来ないなら、手伝って貰えばいいのよ」
どの様な思考回路の末に辿りついた結論なのかは知らないが、レイナは笑みを取り戻すと勢いよく立ち上がった。
「ジル、ちょっと出掛けてきます!」
レイナはそう言うと掛けてあったジャケットを手に部屋を出て行った。
「まったく……。こういう事にだけは行動力があるんですから……」
苦笑を浮かべるものの、ジルはどこか安心したような表情だった。
一刻後、ハンターオフィスにはレイナの姿があった。
「こんな事をお願いするのは筋違いだとわかっています。ですが、どうか力を貸してくださいませんか?」
頭を下げるレイナに受付の女性はおろおろするばかりだ。
「一人でもいいのです、お力を貸していただける方を探してくださいませんか?」
「しかし、パーティーを盛り上げてほしいなんて依頼、今まで受けたことが無くて……」
「ええ……そうですよね。でも、なんでも構いません。特技でも、冒険していて見聞きした面白い話でも……何か披露して盛り上げて下さる方は居ないでしょうか?」
レイナは折れそうな気持ちを堪え、再び頭を下げた。
すると、
「へえ、面白そうじゃない! パーティーを盛り上げろだなんて」
「ああ、パーティーの主役は俺が頂くぜ」
レイナの話を聞いていたハンターが口元に笑みを浮かべ集まった。
「楽しそうだから、力になってあげるわ」
「っ!! ありがとうございます」
レイナは安堵の笑みを浮かべ、ハンターに頭を下げた。
リプレイ本文
●領主屋敷
パーティーが始まる前に集まったハンター達は、執務室にて領主でありこの度の依頼主であるレイナと顔を合わせた。
「この様な依頼に来て下さって、本当にありがとうございます」
パーティーの為の煌びやかなドレスを纏ったレイナは深く頭を下げた。
レイナが顔を上げると、
「ご招待ありがとうございます。そして、ご就任おめでとうございます」
カティス・フィルム(ka2486)が小さく頭を下げお礼とお祝いの言葉を呟き、レイナは緊張した面持ちで、ありがとうございます、と応えた。
「まあ、俺たちなりに盛り上げてみるぜ」
続く様に、トリプルJ(ka6653)が唇の端を持ち上げにやりと笑う。
「その前にさ、いくつか相談したいんだよね」
悪戯に瞳を揺らし、口を開いた姫之宮 アテナ(ka7145)が一歩前に進み出た。
「はっ、はい!」
レイナは背筋を伸ばし応える。
ハンター達と軽くパーティーの打ち合わせをしたレイナは、執事に呼ばれ慌てた様子で部屋を出て行った。
間もなく屋敷にはたくさんの招待客が集まりだし、会場は話し声が溢れだした。
会場に移動したハンター達は招待客の中に溶け込み、辺りの様子を窺う。
ひそひそと囁かれる会話は、就任を喜ぶ声と、否定的な声……、貴族同士のお世辞に自慢話……、そのあまりにも表面的な乾いたやり取りにレイア・アローネ(ka4082)は小さく息を吐いた。
「上流階級の宴席は正直苦手なのだ……。いや、レイナは私以上に心細い筈だから、我が儘は言ってられんな……」
レイアがポツリと呟くと、隣に佇んだカティスが優しく目を細めた。
「この様な腹の探り合いは、気弱なレイナには酷な事だ……。しかし、良くやっていると思う」
レイアは入り口で客人を出迎えるレイナを眺め、眉を下げた。
「皆様、今宵は私の就任報告のパーティーに来てくださいまして、ありがとうございます」
檀上に上がったレイナはその緊張を無理やり押し込む為に、前で組んだ手をぎゅっと握った。
会場中の視線がレイナに注がれる中―――、
「先日、領内に出没した雑魔によって父は亡くなり帰らぬ人となりました。急ではありますが、私がその跡を継ぎ領主としてこの地を守って参ります。未熟者ではありますが皆様のお力添えとこれからも変わらぬ友好を、ここにお願い申し上げます」
レイナは突き刺さるような視線を受けながら、深く頭を下げた。
すると一拍の後会場からは、
「新領主、レイナに!」
幾つもの声が重なり、掲げられたグラスがきらりと光ってそれぞれの口元に運ばれた。
こうしてパーティーの幕は開けた。
「フォーマルなパーティーなんてだりぃじゃん」
シャツの前を大きくあけ、タキシードをワイルドに着崩したゾファル・G・初火(ka4407)はそう呟くも、手にしたお皿にたくさんの料理を乗せそれを口に運んでは
「美味しい!」
と料理を褒めた。
無道(ka7139)とアテナもゾファルの表情に釣られるように料理を食べ、2人はそろって頷く。
その和やかな雰囲気が徐々に招待客に広がり出すと、今度は歓談を楽しむ集団に混じり、相槌を打っては笑い声を生み出した。
「普段はあまり着ないんですが、どうでしょう……似合いますか?」
シックな黒のタックワンピースを着た冷泉 緋百合(ka6936)がクルリと回るとその動きに合わせてフワッとシフォンが広がり、同時に頭に結んだリボンも翻る。
「着慣れないから、少し緊張しちゃいます」
緋百合が照れたようにワンピースの裾を撫でつけると、
「うん、凄く似合ってて可愛いよ」
イヴ(ka6763)は大きな笑みを浮かべながらワンピースを眺め、手にしたお皿に山盛りに乗る苺を頬張った。
一際目を引く艶やかな着物、小春を着る宵待 サクラ(ka5561)は美味しい料理を頬張りながら招待客との会話を楽しみ、時折耳にする不穏な言葉を記憶に書き留める。
笑顔は崩さずに、静かに相槌を打っては違う話の輪に混ざった。
少し離れた場所で鳳城 錬介(ka6053)も食事を楽しみつつ、自身の体験談などを語り場を沸かせていた。
レイナは会場を回り、招待客に挨拶の言葉を掛けていく。
しかし、ある白髪の男性に声を掛けると、
「お前の様な若造に、領地を治められるとは思えんな……。なんなら私がこの領地を治めてやってもいいぞ」
見下すような卑しい視線に、バカにするような笑みを浮かべ、レイナを罵った。
その棘のある言葉が次第に周りに広がり、レイナを良く思っていない者が頷き始める……。
それを合図にしたように、イヴが前に進み出た。
「私も言わせてもらおうと思ったんだけど……、ハンターを大道芸人代わりにするなんていけないよ。緊急性の低い畑違いの仕事をやらせて、歪虚が出た時ハンターが足りなくなったらどうするの?」
イヴの試すような視線に、レイナは息を飲んだ。
周りからは、そうだそうだ! とレイナを責め立てる声が聞こえ出し、ハンター達はその声の主をすかさず確認する。
「っ、……申し訳ありません。イヴさんの仰る通りです。もし……歪虚が出現したなら、私の事は捨て置いて構いません。その場合、私から重ねて皆さんに、歪虚討伐の依頼をさせていただきます」
試す様な視線に負けない力強い眼差しで、レイナはイヴを見詰め返した。
(打ち合わせ済みとは言え、良い事言うじゃない)
イヴは胸の内でそう思いながら、小さな笑みを浮かべる。
すると、
「レイナは領主として、ちゃんと務めを果たしている」
優しい眼差しのレイアが励ますようにレイナに歩み寄った。
「レイナは誰よりもこの領地に住まう者の事を思っている。先日の父上の仇である雑魔討伐時も、レイナは私情よりもこの領地の者の事を一番に考えていた」
レイアが静かにそう話すと、
「ええ、あれは本当に立派でしたね」
カティスもその時の事を思い出しながら、口を開いた。
「本当なら、自分自身も雑魔討伐に向かいたかっただろう。しかしそうしなかったのは、守るべきもの……父上が残した大切な領地があったからだ。私はレイナのその行動を誇りに思う」
レイアが語るレイナの姿に、招待客達からは感心の声が上がり始めた。
その様子を窺っていたイヴとレイアは目配せすると、小さく頷き頬を緩めた。
直後、少し沈んだ空気を一蹴するような明るい声が会場に響いた。
「じゃあ、ここからもっと楽しんでもらおうかな」
そう言って白狐面を着けたサクラが、フワフワの毛並みの柴犬を連れ壇上に上がった。
「わぁ、可愛いわ」
その声に反応するように、柴犬達はクリクリとした瞳を輝かせ、客たちの間を駆け回った。
注目を集めた頃合いに、ポン! と空気を震わせ小太鼓が鳴り、サクラが打ち鳴らす太鼓の音に合わせ、柴犬たちはテンポよくクルクルと回る。
一際高く太鼓を打つと、勢いよく宙返りし、早いテンポで打ち鳴らすと前足だけで立ち上がり逆立ちをしてみせた。
予想外の芸に客たちからは驚きと歓声が沸き起こる。
次にサクラがマテリアルを体に巡らせ重力に逆らい壁を歩き始めると、柴犬達はそんなサクラを必死に追いかける。
その可愛らしい姿に、女性達は声援を送った。
犬と共に壇上を降りると、サクラに続きカティスも前に出て華麗な手品を披露し始めた。
「では、このコインを手に握って下さい」
深い青色のドレスを着た女性の掌にコインを乗せ握らせると、カティスは少し離れた所に立った若い男性に近付き
「手を見せて頂けますか?」
そう言って手を取った。男性の掌に何も乗っていない事を確認させると手を握らせ、周りの人たちの注意が2人に注がれると、
「1……2……3!!」
大きな声でカウントする。
2人は同時に手を開き、自分の手の中を見て驚きの声を上げた。
女性の手の中にあったはずのコインは一瞬にして男性の手の中に移ったのだ
カティスはそのコインを摘み上げ、今度は自身の掌で、1枚2枚とコインを増やし更なる驚きを与えた。
「では続いて、中庭をご覧頂こう」
開け放たれた扉から涼やかな風が入り込み、同時に中庭で揺らめく蝋燭が招待客達の興味を引きつけた。
およそ20mの距離の左右に、蝋燭を灯した燭台が合計8本立っていた。
「お目に掛けるは、燭火疾風剣と名付けた、蝋燭の火を剣戟で消す技です」
騎士の如く鎧を着た無道が、優雅に一礼すると、その腰に下がる村雨丸を抜き放った。
その研ぎ澄まされた空気に招待客達のざわめきは消え、チロチロと踊る火が緊張感を高めた。
無道は大きく足を広げ腰を落すと一気に踏込み、燭台の間を駆け抜ける。
狙い澄ました一撃が、蝋燭の芯に直撃し、花びらのような名残の火が宙を舞い――消える。
1本また1本と――8本の蝋燭の火を全て斬り消すまで、観客は息をするのも忘れ、その華麗な剣裁きを見詰めた。
「本当に芯の部分だけが切れているぞ」
燭台に近付いた男の驚きの声に、会場からはドッと歓声が溢れた。
「幾つもの驚きで喉が渇いていませんか?」
会場に戻り始めた招待客達に、錬介は笑顔で尋ねた。
「俺、大した事は出来ませんが……」
そう言いながら錬介は祈るように手を組み、一拍の後、パッと手を開くと掌の上に清らかな水球が浮かび上がっていた。
「わぁ!」
会場からはまたもや驚きの声が上がり、錬介はホッとした様に口元を綻ばせた。
錬介の念に呼応するように、宙を漂う水球は形を変えていく――。
球体は輪となり、輪はいくつも繋がり鎖となった。
再び丸い水球に戻すと、錬介はそれを空の水差しに移す。
「精霊により生み出された清らかな水を、どうぞご賞味下さい」
そう言って手に取った水差しで、ズラリと並んだ空のグラスの上を、一直線に移動させた。
グラスの中で水が揺れ、チャポンと水玉が跳ねる。
零れることなく注がれた水は、―――どのグラスもピッタリ同じ量だった。
その鮮やかな手捌きに招待客達からは感嘆の声と拍手が起こった。
錬介の掌に水球が浮かび上がった頃、会場の一角では新たに運ばれてきたデザートに、アテナ、緋百合、ゾファル、イヴの女子達が、黄色い声を上げた。
「わあ! 美味しそう!」
「可愛い!」
宝石の様に煌めくゼリーに、苺が零れる程乗ったタルト、メロンと桃とリンゴのコンポート、カラフルなマカロン、カスタードプリン、ロールケーキにチョコレートケーキ―――。
目移りするそれらを、お皿にとっては頬張っていた。
トリプルJは食事と招待客達との会話を一通り楽しんだ後、壁の花を決め込んでいる令嬢に目を留めた。
「初めまして。俺はジョナサン・ジュード・ジョンストン。トリプルJと呼ばれています」
そう話しかけると、令嬢は一瞬身体を強張らせたが、名前を聞くと、クスッと笑い
「本当にトリプルなのですね」
と微笑んだ。
ウィットに富んだ会話で相手の心を開かせると、レイナに紹介し、2人の会話が弾む様フォローする。
この機にレイナの友人が増えればいいと願って。
暫くしてレイナの側を離れたトリプルJが
「俺が披露するのは……」
そう言って檀上に進み出ると、用意していた度数の強いアルコールを口に含み、着火の指輪に小さく灯った火を掲げ、吹き抜けの天井目掛け吹き掛けた。
小さな火は空を駆け、刹那、羽を広げる不死鳥の如く大きな炎となると一瞬にして姿を消した。
その鮮やかで、熱い存在は客達の視線を釘付けにし、小さな悲鳴と吃驚の声を起こした。
続いて取り出したのは掌サイズの水晶球。まるで生き物のように動く様に、客たちは不思議がり目配せし合う。
クラブにフープのジャグリングを披露し、最後はデビルスティック。
カンカンッと軽快な音をさせ左右のハンドステッキで弾かれた棒は一際大きな音をさせ空高く舞った。
直後トリプルJはその場でターンを決めると落ちてくる棒を受け止め、深々と頭を下げる。
会場はドッと沸き、誰もが楽しそうな笑顔を浮かべた。
会場を満たしていく和やかな空気の中、緋百合、無道、ゾファル達と食事を楽しんでいたアテナはご機嫌に口を開いた。
「あー、あー。ひっさびさに歌うなーコレ! いっちょ歌っちゃるかー!!」
ひまわりの様な明るい声でそういうと、コホンッと一つ咳払いをし大きく息を吸い込んだ。
金色の髪を揺らし、白百合の様に可憐な立ち姿で薔薇の様な唇から紡がれるのは、リアルブルーで歌っていた聖歌。
緩やかな旋律は力強く、それでいながら優しい。
小さな響きはやがて大きな響きとなり会場を満たしていく。
透き通るソプラノボイスに、招待客達はうっとりと目を細めた。
「次はあの歌かなーー」
一曲歌い終わったアテナは、隣に立つ無道と目配せし今度は一緒に歌い出す。
その歌声に釣られるように、楽団が演奏を始めると会場が一気に華やいだ。
リズムに合わせ身体を揺らすと、ゾファルが緋百合の手を取って会場の中央に進み出る。
手と手を取って軽快なリズムに乗りステップを踏むと、緋百合のシフォンワンピースがフワリと膨らみ翻った。
ハンターらしいキレのある動きに、招待客達の視線は縫い止められ次第に心が躍り出す。
「なんだかんだ、パーティーも結構楽しいじゃん」
ゾファルは腕の中でターンする緋百合に笑いかけた。
「そうですね、皆さんも楽しまれてるようです」
頷きながら応えた緋百合は、姫様よろしく抱き抱えられ、無表情ながらに、わーい! と喜ぶ。
アテナの鈴の様な高い声、無道の空気を震わす低い声。
そのハーモニーが会場を優しく包み込んでいく。
ハンター達の楽しげな顔を見ていた招待客達も、1人、2人と手を取りゆったりと踊りだした。
緋百合は縮地で加速すると、体内で練り上げた気を背中から放出した。それは鴉の羽の様に広がり、身体は宙を舞う。
ゾファルが伸ばした手に捕まると、ゾファルは大きく円を描く様に旋転した。
宙舞う緋百合も鳥のように両手を伸ばせば、赤く長い髪と黒いワンピースがなびき、その美しい姿に客達はハァッと息を吐く。
アテナのしっとりとした歌をバックにダンスを楽しんだ招待客達は、皆笑顔を浮かべていた。
夜も深くなった頃、レイナは壇上に上がりお礼の言葉を述べた。
「本日は就任報告のパーティーに来て下さってありがとうございました」
強張った表情に無理やり笑みを張り付けると、レイナは大きく息を吸う。
「私の無理なお願いを聞いて下さったハンターの皆様にも、お礼申し上げます。……私はまだまだ未熟者です。故に、私を信頼できず不安を募らせている方も居る事でしょう。その憂いを晴らすことが出来るよう、しっかりと務めて参ります。……私には力がありません。教えを請える家族も居りません。そんな中、先日父の仇となる雑魔討伐に御力を貸してくださったのが、ハンターの方々でした。本当に感謝しております。私は、ハンターの皆さんの強さに、勇敢さに、そして自由な心に憧れています。貴族の中にはハンターとの接点が無い方もいらっしゃるかと思いますが、これを機に関係が深まっていったらいいなと思っております」
レイナの素直な心の内なのだろう。先ほどまで強張っていた顔は晴れやかで幾分すっきりして見えた。
レイナが深々と頭を下げると、会場は拍手の音でいっぱいになった。
見送りを済ませたレイナは、再びハンターに頭を下げた。
「これは、お祝いなのですよ。とっても美味しいので飲んでみてください」
カティスが可愛くラッピングした紅茶の缶を渡すと、
「わぁ、嬉しい。紅茶大好きなんです」
レイナは嬉しそうに微笑んだ。
「それから、コレを」
そう言ってサクラが紙の束を差しだした。
「これは……?」
首を傾げたレイナに
「私たちが今回のパーティーで聞いた会話のとりまとめだよ」
レイナは驚きに目を見開いた。
「これからの執務の参考になればと思って。……どうぞ」
パーティーを盛り上げるだけではなく、この様な事にまで気を使ってくれたハンター達の優しさに、胸がいっぱいになった。
「良かったな、パーティーも盛り上がって」
ゾファルが満足気に呟くと、
「本当に。大成功でしたね」
緋百合も笑みを浮かべ頷き、
「あたし達も楽しめたしな」
アテナも続けて頷いた。
「これからが大変だろうが、頑張ってほしい」
落ち着いた低い声で無道が呟くと、ハンター達は静かに頷いた。
「本当に、ありがとうございました」
レイナはハンターの顔を見詰め、深く深く頭を下げた。
「じゃあ、俺達はこれで……」
錬介が軽く手を上げ、別れを告げると、
「またね、レイナ」
高く結った金色の髪を揺らし、イヴも背を向けた。
「頑張れよ」
トリプルJは激励の言葉を残し、扉を潜った。
ハンター達を見送るレイナはパーティーが始まる前より、少しだけ………本当に少しだけ頼もしく感じられ、そんなレイナの姿にハンター達は小さな笑みを浮かべ帰っていった。
パーティーが始まる前に集まったハンター達は、執務室にて領主でありこの度の依頼主であるレイナと顔を合わせた。
「この様な依頼に来て下さって、本当にありがとうございます」
パーティーの為の煌びやかなドレスを纏ったレイナは深く頭を下げた。
レイナが顔を上げると、
「ご招待ありがとうございます。そして、ご就任おめでとうございます」
カティス・フィルム(ka2486)が小さく頭を下げお礼とお祝いの言葉を呟き、レイナは緊張した面持ちで、ありがとうございます、と応えた。
「まあ、俺たちなりに盛り上げてみるぜ」
続く様に、トリプルJ(ka6653)が唇の端を持ち上げにやりと笑う。
「その前にさ、いくつか相談したいんだよね」
悪戯に瞳を揺らし、口を開いた姫之宮 アテナ(ka7145)が一歩前に進み出た。
「はっ、はい!」
レイナは背筋を伸ばし応える。
ハンター達と軽くパーティーの打ち合わせをしたレイナは、執事に呼ばれ慌てた様子で部屋を出て行った。
間もなく屋敷にはたくさんの招待客が集まりだし、会場は話し声が溢れだした。
会場に移動したハンター達は招待客の中に溶け込み、辺りの様子を窺う。
ひそひそと囁かれる会話は、就任を喜ぶ声と、否定的な声……、貴族同士のお世辞に自慢話……、そのあまりにも表面的な乾いたやり取りにレイア・アローネ(ka4082)は小さく息を吐いた。
「上流階級の宴席は正直苦手なのだ……。いや、レイナは私以上に心細い筈だから、我が儘は言ってられんな……」
レイアがポツリと呟くと、隣に佇んだカティスが優しく目を細めた。
「この様な腹の探り合いは、気弱なレイナには酷な事だ……。しかし、良くやっていると思う」
レイアは入り口で客人を出迎えるレイナを眺め、眉を下げた。
「皆様、今宵は私の就任報告のパーティーに来てくださいまして、ありがとうございます」
檀上に上がったレイナはその緊張を無理やり押し込む為に、前で組んだ手をぎゅっと握った。
会場中の視線がレイナに注がれる中―――、
「先日、領内に出没した雑魔によって父は亡くなり帰らぬ人となりました。急ではありますが、私がその跡を継ぎ領主としてこの地を守って参ります。未熟者ではありますが皆様のお力添えとこれからも変わらぬ友好を、ここにお願い申し上げます」
レイナは突き刺さるような視線を受けながら、深く頭を下げた。
すると一拍の後会場からは、
「新領主、レイナに!」
幾つもの声が重なり、掲げられたグラスがきらりと光ってそれぞれの口元に運ばれた。
こうしてパーティーの幕は開けた。
「フォーマルなパーティーなんてだりぃじゃん」
シャツの前を大きくあけ、タキシードをワイルドに着崩したゾファル・G・初火(ka4407)はそう呟くも、手にしたお皿にたくさんの料理を乗せそれを口に運んでは
「美味しい!」
と料理を褒めた。
無道(ka7139)とアテナもゾファルの表情に釣られるように料理を食べ、2人はそろって頷く。
その和やかな雰囲気が徐々に招待客に広がり出すと、今度は歓談を楽しむ集団に混じり、相槌を打っては笑い声を生み出した。
「普段はあまり着ないんですが、どうでしょう……似合いますか?」
シックな黒のタックワンピースを着た冷泉 緋百合(ka6936)がクルリと回るとその動きに合わせてフワッとシフォンが広がり、同時に頭に結んだリボンも翻る。
「着慣れないから、少し緊張しちゃいます」
緋百合が照れたようにワンピースの裾を撫でつけると、
「うん、凄く似合ってて可愛いよ」
イヴ(ka6763)は大きな笑みを浮かべながらワンピースを眺め、手にしたお皿に山盛りに乗る苺を頬張った。
一際目を引く艶やかな着物、小春を着る宵待 サクラ(ka5561)は美味しい料理を頬張りながら招待客との会話を楽しみ、時折耳にする不穏な言葉を記憶に書き留める。
笑顔は崩さずに、静かに相槌を打っては違う話の輪に混ざった。
少し離れた場所で鳳城 錬介(ka6053)も食事を楽しみつつ、自身の体験談などを語り場を沸かせていた。
レイナは会場を回り、招待客に挨拶の言葉を掛けていく。
しかし、ある白髪の男性に声を掛けると、
「お前の様な若造に、領地を治められるとは思えんな……。なんなら私がこの領地を治めてやってもいいぞ」
見下すような卑しい視線に、バカにするような笑みを浮かべ、レイナを罵った。
その棘のある言葉が次第に周りに広がり、レイナを良く思っていない者が頷き始める……。
それを合図にしたように、イヴが前に進み出た。
「私も言わせてもらおうと思ったんだけど……、ハンターを大道芸人代わりにするなんていけないよ。緊急性の低い畑違いの仕事をやらせて、歪虚が出た時ハンターが足りなくなったらどうするの?」
イヴの試すような視線に、レイナは息を飲んだ。
周りからは、そうだそうだ! とレイナを責め立てる声が聞こえ出し、ハンター達はその声の主をすかさず確認する。
「っ、……申し訳ありません。イヴさんの仰る通りです。もし……歪虚が出現したなら、私の事は捨て置いて構いません。その場合、私から重ねて皆さんに、歪虚討伐の依頼をさせていただきます」
試す様な視線に負けない力強い眼差しで、レイナはイヴを見詰め返した。
(打ち合わせ済みとは言え、良い事言うじゃない)
イヴは胸の内でそう思いながら、小さな笑みを浮かべる。
すると、
「レイナは領主として、ちゃんと務めを果たしている」
優しい眼差しのレイアが励ますようにレイナに歩み寄った。
「レイナは誰よりもこの領地に住まう者の事を思っている。先日の父上の仇である雑魔討伐時も、レイナは私情よりもこの領地の者の事を一番に考えていた」
レイアが静かにそう話すと、
「ええ、あれは本当に立派でしたね」
カティスもその時の事を思い出しながら、口を開いた。
「本当なら、自分自身も雑魔討伐に向かいたかっただろう。しかしそうしなかったのは、守るべきもの……父上が残した大切な領地があったからだ。私はレイナのその行動を誇りに思う」
レイアが語るレイナの姿に、招待客達からは感心の声が上がり始めた。
その様子を窺っていたイヴとレイアは目配せすると、小さく頷き頬を緩めた。
直後、少し沈んだ空気を一蹴するような明るい声が会場に響いた。
「じゃあ、ここからもっと楽しんでもらおうかな」
そう言って白狐面を着けたサクラが、フワフワの毛並みの柴犬を連れ壇上に上がった。
「わぁ、可愛いわ」
その声に反応するように、柴犬達はクリクリとした瞳を輝かせ、客たちの間を駆け回った。
注目を集めた頃合いに、ポン! と空気を震わせ小太鼓が鳴り、サクラが打ち鳴らす太鼓の音に合わせ、柴犬たちはテンポよくクルクルと回る。
一際高く太鼓を打つと、勢いよく宙返りし、早いテンポで打ち鳴らすと前足だけで立ち上がり逆立ちをしてみせた。
予想外の芸に客たちからは驚きと歓声が沸き起こる。
次にサクラがマテリアルを体に巡らせ重力に逆らい壁を歩き始めると、柴犬達はそんなサクラを必死に追いかける。
その可愛らしい姿に、女性達は声援を送った。
犬と共に壇上を降りると、サクラに続きカティスも前に出て華麗な手品を披露し始めた。
「では、このコインを手に握って下さい」
深い青色のドレスを着た女性の掌にコインを乗せ握らせると、カティスは少し離れた所に立った若い男性に近付き
「手を見せて頂けますか?」
そう言って手を取った。男性の掌に何も乗っていない事を確認させると手を握らせ、周りの人たちの注意が2人に注がれると、
「1……2……3!!」
大きな声でカウントする。
2人は同時に手を開き、自分の手の中を見て驚きの声を上げた。
女性の手の中にあったはずのコインは一瞬にして男性の手の中に移ったのだ
カティスはそのコインを摘み上げ、今度は自身の掌で、1枚2枚とコインを増やし更なる驚きを与えた。
「では続いて、中庭をご覧頂こう」
開け放たれた扉から涼やかな風が入り込み、同時に中庭で揺らめく蝋燭が招待客達の興味を引きつけた。
およそ20mの距離の左右に、蝋燭を灯した燭台が合計8本立っていた。
「お目に掛けるは、燭火疾風剣と名付けた、蝋燭の火を剣戟で消す技です」
騎士の如く鎧を着た無道が、優雅に一礼すると、その腰に下がる村雨丸を抜き放った。
その研ぎ澄まされた空気に招待客達のざわめきは消え、チロチロと踊る火が緊張感を高めた。
無道は大きく足を広げ腰を落すと一気に踏込み、燭台の間を駆け抜ける。
狙い澄ました一撃が、蝋燭の芯に直撃し、花びらのような名残の火が宙を舞い――消える。
1本また1本と――8本の蝋燭の火を全て斬り消すまで、観客は息をするのも忘れ、その華麗な剣裁きを見詰めた。
「本当に芯の部分だけが切れているぞ」
燭台に近付いた男の驚きの声に、会場からはドッと歓声が溢れた。
「幾つもの驚きで喉が渇いていませんか?」
会場に戻り始めた招待客達に、錬介は笑顔で尋ねた。
「俺、大した事は出来ませんが……」
そう言いながら錬介は祈るように手を組み、一拍の後、パッと手を開くと掌の上に清らかな水球が浮かび上がっていた。
「わぁ!」
会場からはまたもや驚きの声が上がり、錬介はホッとした様に口元を綻ばせた。
錬介の念に呼応するように、宙を漂う水球は形を変えていく――。
球体は輪となり、輪はいくつも繋がり鎖となった。
再び丸い水球に戻すと、錬介はそれを空の水差しに移す。
「精霊により生み出された清らかな水を、どうぞご賞味下さい」
そう言って手に取った水差しで、ズラリと並んだ空のグラスの上を、一直線に移動させた。
グラスの中で水が揺れ、チャポンと水玉が跳ねる。
零れることなく注がれた水は、―――どのグラスもピッタリ同じ量だった。
その鮮やかな手捌きに招待客達からは感嘆の声と拍手が起こった。
錬介の掌に水球が浮かび上がった頃、会場の一角では新たに運ばれてきたデザートに、アテナ、緋百合、ゾファル、イヴの女子達が、黄色い声を上げた。
「わあ! 美味しそう!」
「可愛い!」
宝石の様に煌めくゼリーに、苺が零れる程乗ったタルト、メロンと桃とリンゴのコンポート、カラフルなマカロン、カスタードプリン、ロールケーキにチョコレートケーキ―――。
目移りするそれらを、お皿にとっては頬張っていた。
トリプルJは食事と招待客達との会話を一通り楽しんだ後、壁の花を決め込んでいる令嬢に目を留めた。
「初めまして。俺はジョナサン・ジュード・ジョンストン。トリプルJと呼ばれています」
そう話しかけると、令嬢は一瞬身体を強張らせたが、名前を聞くと、クスッと笑い
「本当にトリプルなのですね」
と微笑んだ。
ウィットに富んだ会話で相手の心を開かせると、レイナに紹介し、2人の会話が弾む様フォローする。
この機にレイナの友人が増えればいいと願って。
暫くしてレイナの側を離れたトリプルJが
「俺が披露するのは……」
そう言って檀上に進み出ると、用意していた度数の強いアルコールを口に含み、着火の指輪に小さく灯った火を掲げ、吹き抜けの天井目掛け吹き掛けた。
小さな火は空を駆け、刹那、羽を広げる不死鳥の如く大きな炎となると一瞬にして姿を消した。
その鮮やかで、熱い存在は客達の視線を釘付けにし、小さな悲鳴と吃驚の声を起こした。
続いて取り出したのは掌サイズの水晶球。まるで生き物のように動く様に、客たちは不思議がり目配せし合う。
クラブにフープのジャグリングを披露し、最後はデビルスティック。
カンカンッと軽快な音をさせ左右のハンドステッキで弾かれた棒は一際大きな音をさせ空高く舞った。
直後トリプルJはその場でターンを決めると落ちてくる棒を受け止め、深々と頭を下げる。
会場はドッと沸き、誰もが楽しそうな笑顔を浮かべた。
会場を満たしていく和やかな空気の中、緋百合、無道、ゾファル達と食事を楽しんでいたアテナはご機嫌に口を開いた。
「あー、あー。ひっさびさに歌うなーコレ! いっちょ歌っちゃるかー!!」
ひまわりの様な明るい声でそういうと、コホンッと一つ咳払いをし大きく息を吸い込んだ。
金色の髪を揺らし、白百合の様に可憐な立ち姿で薔薇の様な唇から紡がれるのは、リアルブルーで歌っていた聖歌。
緩やかな旋律は力強く、それでいながら優しい。
小さな響きはやがて大きな響きとなり会場を満たしていく。
透き通るソプラノボイスに、招待客達はうっとりと目を細めた。
「次はあの歌かなーー」
一曲歌い終わったアテナは、隣に立つ無道と目配せし今度は一緒に歌い出す。
その歌声に釣られるように、楽団が演奏を始めると会場が一気に華やいだ。
リズムに合わせ身体を揺らすと、ゾファルが緋百合の手を取って会場の中央に進み出る。
手と手を取って軽快なリズムに乗りステップを踏むと、緋百合のシフォンワンピースがフワリと膨らみ翻った。
ハンターらしいキレのある動きに、招待客達の視線は縫い止められ次第に心が躍り出す。
「なんだかんだ、パーティーも結構楽しいじゃん」
ゾファルは腕の中でターンする緋百合に笑いかけた。
「そうですね、皆さんも楽しまれてるようです」
頷きながら応えた緋百合は、姫様よろしく抱き抱えられ、無表情ながらに、わーい! と喜ぶ。
アテナの鈴の様な高い声、無道の空気を震わす低い声。
そのハーモニーが会場を優しく包み込んでいく。
ハンター達の楽しげな顔を見ていた招待客達も、1人、2人と手を取りゆったりと踊りだした。
緋百合は縮地で加速すると、体内で練り上げた気を背中から放出した。それは鴉の羽の様に広がり、身体は宙を舞う。
ゾファルが伸ばした手に捕まると、ゾファルは大きく円を描く様に旋転した。
宙舞う緋百合も鳥のように両手を伸ばせば、赤く長い髪と黒いワンピースがなびき、その美しい姿に客達はハァッと息を吐く。
アテナのしっとりとした歌をバックにダンスを楽しんだ招待客達は、皆笑顔を浮かべていた。
夜も深くなった頃、レイナは壇上に上がりお礼の言葉を述べた。
「本日は就任報告のパーティーに来て下さってありがとうございました」
強張った表情に無理やり笑みを張り付けると、レイナは大きく息を吸う。
「私の無理なお願いを聞いて下さったハンターの皆様にも、お礼申し上げます。……私はまだまだ未熟者です。故に、私を信頼できず不安を募らせている方も居る事でしょう。その憂いを晴らすことが出来るよう、しっかりと務めて参ります。……私には力がありません。教えを請える家族も居りません。そんな中、先日父の仇となる雑魔討伐に御力を貸してくださったのが、ハンターの方々でした。本当に感謝しております。私は、ハンターの皆さんの強さに、勇敢さに、そして自由な心に憧れています。貴族の中にはハンターとの接点が無い方もいらっしゃるかと思いますが、これを機に関係が深まっていったらいいなと思っております」
レイナの素直な心の内なのだろう。先ほどまで強張っていた顔は晴れやかで幾分すっきりして見えた。
レイナが深々と頭を下げると、会場は拍手の音でいっぱいになった。
見送りを済ませたレイナは、再びハンターに頭を下げた。
「これは、お祝いなのですよ。とっても美味しいので飲んでみてください」
カティスが可愛くラッピングした紅茶の缶を渡すと、
「わぁ、嬉しい。紅茶大好きなんです」
レイナは嬉しそうに微笑んだ。
「それから、コレを」
そう言ってサクラが紙の束を差しだした。
「これは……?」
首を傾げたレイナに
「私たちが今回のパーティーで聞いた会話のとりまとめだよ」
レイナは驚きに目を見開いた。
「これからの執務の参考になればと思って。……どうぞ」
パーティーを盛り上げるだけではなく、この様な事にまで気を使ってくれたハンター達の優しさに、胸がいっぱいになった。
「良かったな、パーティーも盛り上がって」
ゾファルが満足気に呟くと、
「本当に。大成功でしたね」
緋百合も笑みを浮かべ頷き、
「あたし達も楽しめたしな」
アテナも続けて頷いた。
「これからが大変だろうが、頑張ってほしい」
落ち着いた低い声で無道が呟くと、ハンター達は静かに頷いた。
「本当に、ありがとうございました」
レイナはハンターの顔を見詰め、深く深く頭を下げた。
「じゃあ、俺達はこれで……」
錬介が軽く手を上げ、別れを告げると、
「またね、レイナ」
高く結った金色の髪を揺らし、イヴも背を向けた。
「頑張れよ」
トリプルJは激励の言葉を残し、扉を潜った。
ハンター達を見送るレイナはパーティーが始まる前より、少しだけ………本当に少しだけ頼もしく感じられ、そんなレイナの姿にハンター達は小さな笑みを浮かべ帰っていった。
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相談卓 イヴ(ka6763) エルフ|21才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/03/04 02:10:25 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/03/02 16:19:12 |