はもんのゆくえ

マスター:鷹羽柊架

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/03/02 19:00
完成日
2018/03/09 05:13

みんなの思い出

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オープニング

 鬼哭組の目論見をハンターと共に阻止した即疾隊は後始末に追われていた。
 疲労困憊は皆同じであり、交代しながら休みを取り、事態の収束を行っている。
 そんな中、一番隊隊長の壬生和彦はどこか心にあらず。
「和彦さん……鬼哭組の件より上の空です。如何されましたか?」
 即疾隊主治医の越乃初名が心配そうに声をかけると、和彦は参ったと肩を落とした。
「私は、東行大輔という者を知りませんでした。もしかしたら、どこかで顔を合わせたかもしれませんが……その、上原様をまだ慕っていた、父を知っていたのと久しぶりに捨てた名で呼ばれたということが……嬉しくて」
「和彦さん……」
 恥ずかしそうに前髪を掌で抑える和彦は珍しく年齢相応の様相を見せており、その様子に初名は気遣う。
 壬生和彦という名は彼が名乗りたくて名乗っていないことは知っているから。
「しかし、私はもう、壬生和彦として生きる覚悟をしてます。三条家がどうのより、この国に住まう者達を守りたい気持ちが私をここに立たせているのですから」
「そうですね……私もです」
 吹っ切っている和彦の言葉に初名も頷いた。

 そんな二人のやり取りの後日、亀田診療所にある人物が現れる。
「清さん!」
 ぱぁっと、顔を明るくする初名に清は艶やかに笑む。
 現在も亀田診療所は午前中のみの診療となったので、清との会話は昼になった。
「ちょっと、家族の用事でこっちに用事があってね」
 ふふと笑う清は話を切り替え、初名に前回の旅の成果があったのか尋ねる。
「ええ、快くお墓参りをさせて頂きました」
「そうかい、心残りがなくなるのはいいことだ」
 頷く清に初名は心残りという言葉に困った様子を見せた。
「実を言いますと、師匠のご親友より、刀を預かりまして……」
「刀?」
 首を傾げる清の髪が揺れ、甘く刺した簪がずるりと動く。
「ええ……あの、宜しければ直しましょうか?」
 初名が申し出ると、清は簪を渡す。
 飴色の柘植に赤いトンボ玉のような飾りがついている。ある一面に細い楕円の線が入っており、まるで蛇の目のような簪。
「お願いできるかい? コシの無い髪でね。で、その刀って?」
 困りきった清は話を進めようをする。
「ええ、それは……」
 さらさらな清の髪を手で梳きながら初名は師匠の親友より預かった刀の話をした。
 当時、初名の師匠が才ある剣士だったが、非覚醒者であるが故に練達の限界を感じ、鬱屈していた。刀匠は親友である彼の為に刀を打ったが、親友は医師の道へと歩み、刀はお蔵入りとなる。
「一度は刀が盗まれたこともあるそうで、その時に双頭をした蛇の歪虚を倒したとか」
「……へぇ」
 清は初名の話に相槌を打ちながら聞いていた。
「できた……と。清さん、もしよろしければ、この薬を」
 髪を結い終わった初名は薬が入っている棚より塗り薬を取り出す。
「傷跡を少しでも消す薬です。余計なお世話とは……」
 遠慮がちに初名が言えば、清は自分への気遣いとわかり、笑う。
「ありがとう……人の目はあるからねぇ」
 懐にしまう清は初名に礼を言いった。
「そういえば、清さん。以前に簪を奪われた際、賊の中に赤い羽根を付けた殿方を見たと仰ってましたよね」
「ああ、盗賊と付き合いはあったようだけど、旅人みたいで、顔も東方では見ない顔立ちだねぇ。私が見たのも、そいつが帰る時だったし。最近じゃ、西方のハンターが来るようになったんだろう? 異国の人かもね」
 清が唸りながら思い出してくれると、初名は申し訳なさそうに礼を言う。
「まぁ、また来るよ」
 ひらひら手を振り、清は去っていった。

 その数日後、初名は局長達よりこのままなにごともなければ春には治安も落ち着くだろうから、元の生活に戻ってよしと告げられた。
 通いの生活は何かと大変だという事もあり、初名の仕事を気遣ってのことだ。
 しかし、そんな安堵も束の間だった。
 初名が診療所に向かうと、内鍵が壊されており、家の中が荒らされていた。
「屯所に連絡しろ!」
 隊士達が確認で走り回る中、初名はそのまま腰を抜かし、座り込んでしまう。
「し、診療録……」
 抜ける腰で動けないのに初名は腕を動かし、立ち上がろうとした。
 彼女にとって、診療録は何よりも大事なものであり、ここに通う患者の事が書かれている。
「先生! 診療録棚の鍵に触った形跡はありません。大丈夫です!」
 中を見て来てくれた隊士が叫ぶと、他の隊士が青ざめた様子で初名のもとへ戻ってきた。
「……刀が……盗られてました」
 その言葉に初名は肩を落とし、膝を崩した。

 初名が無事であったことが唯一の救いであったが、初名が預かった刀が奪われたことに一番隊長である壬生和彦は内心苛立ちを覚える。
 一昨年の事件まで関わり合いがなかった祖父の刀であったが、姉妹のように大事にしている初名を怖がらせたことを許す気はならない。
 とはいえ、窃盗は即疾隊の範囲外。
 故に番屋へ任せるしかない。
 一昨年の連続辻斬りの件で番屋とは小競り合いも絶えないのも事実だが、協力し合えなくては民を守れないという考えは一緒のようだ。
「亀田診療所の初名先生は知る人ぞ知る美人先生だからなぁ。他の岡っ引き共も目くじら立てて走り回ってら。出がらしでわりぃな」
 筒香町の岡っ引き親分八助が情報を聞きに来た和彦に茶を渡す。
「頂きます。初名先生も心細いので、その気持ちだけでありがたいです。進展は」
「最近、斬り合いの喧嘩が絶えなくってな。しかも、片方に必ず覚醒者がいる」
「鬼哭組ですか?」
 和彦の問いに八助は「わからん」と返す。
「片方は必ず逃げている。そいつが八割喧嘩を吹っ掛けているそうだ。壬生さんよ、こりゃぁ……ハンター先生の出番じゃないかって俺ぁ思うんだが」
「奇遇です。俺もそう思ってました」
「しっかし、あんたもお姉さんばっかりじゃなくて、そろそろいい女のひとりや……」
「は、八助親分! そんな現を抜かしていては、若峰を守れません!」
 顔を真っ赤にする和彦に八助は「はいはい」と笑う。

 屯所に戻る時、和彦は先日に事を構えた鬼哭組浪士である東行大輔の言葉を思い出していた。
 彼は自分が引き入れようとした浪人がおかしな様子を見せていたこと。見知らぬ女と接触していたことを知り、浪人が夜中近づいていた亀田診療所に探りを入れようとしていたこと。
 鬼哭組の首魁である松永武人の他、ブラッドリーという異邦人の姿をした歪虚が存在したという話は聞いている。
 東行もまだ実態を掴んではいなかったのだろう。
 この街に巣食う『何か』を。
 東行はもう即疾隊の手を離れているし、和彦が把握している事以上は奴も知らないのだろうと和彦は思う。
 怪しまれても、即疾隊に追われようとも、奴は奴なりに探そうとしていたのかもしれない。
 嘆息を吐いた和彦はハンターオフィスへと足を向けた。

リプレイ本文

 屯所に現れたハンター達を迎えたのは初名だった。
「来て頂いてありがとうございます」
 膝の上で両手を組んで佇む初名が微かに震えていることに気づいたのはエステル・クレティエ(ka3783)。
「……初名先生、大丈夫ですか?」
「はい……」
 挨拶よりも先にエステルは初名の手を握りしめると、初名は安堵で声が震えてしまった。
「御身は御無事でしたか、初名さん。ところで…あの刀、今度戻ってきたら壬生さんにお預けになるのは如何でしょう?」
 ハンス・ラインフェルト(ka6750)の提案に初名は目を瞬く。
「今回の件は壬生さんにあると思います」
 ハンスが言葉を切り込むと、和彦は彼の方へと顔を向ける。
「あの刀は歪虚に好まれてるらしいという曰くがある」
 一度目は蛇の歪虚が絡んでいた。
 負のマテリアルに中ってしまっている可能性が高いとハンスは考えているのだ。
「このままでは初名さんの手元に戻っても何度も襲撃がある可能性がある。このままだと、早晩初名さんが死にますよ?」
 初名は先日の感覚を思い出す。 荒らされた診療所を見て、初名は腰を抜かすほどの恐怖に襲われた。
 診療所に戻り、一人でいる際に無事でいられるかの保証などどこにもない。
 すぅ、と目を細めるハンスは更に言葉を続ける。
「貴方の祖父は、刀を持たない医者で女性に刀のために死ねと仰る方ですか? 刀の処遇は貴方が行った方が良い」
「此度の事件、即疾隊の立場では番屋との対立を招く可能性がある。それ故にハンターオフィスへ頼みました。貴殿は依頼を遂行しないという事か」
 筒香町の番屋である八助は若峰を守る者達を鑑みてハンターへの依頼を勧めた。
 和彦の問いかけにハンスは否定した。
「刀は必ず取り戻します」
「お待ちください! 原因は私にあります」
 即座に反論したのは初名だった。
「剣客なら剣に命を賭けるのは当たり前。しかし貴女は医者です」
 ハンスは初名へ言い聞かせるように言葉を押す。
「元は自分の祖父のもの。ラインフェルト殿の意見には同意です。しかし自分は……」
「壬生」
 即疾隊副局長の前沢が和彦の言葉を止めるように名を呼ぶ。
「ラインフェルト殿の意見している今回の件が壬生の不始末であれば、これ以上越乃先生を危険な目に遭わせるわけにはいかない」
「副局長っ!」
 悲痛な声をあげる初名を和音・空(ka6228)が制した。
「壬生和彦、この事件が解決となるまで一時的に一番隊長を剥奪する」
 局長の江邨は否定も肯定もせず、その場を見つめている。
「即疾隊としても行動することを禁ずる」
 淡々と告げる前沢に迷いもない。
「わかりました」
 それだけ返した和彦は部屋を出て行った。
「ハンター諸君もこの場を去ってもらう」
 続いてハンスの方を向き、前沢は引取りを願う。
 和彦の一番隊長剥奪の件はすぐに伝えられ、動揺が屯所中に走る。
「なんだか、面倒になったな……」
 屯所から出ようとするボルディア・コンフラムス(ka0796)が呟く。
「そうですね……」
 ボルディアとエステルの視線の先は一番隊の隊員に囲まれる空と初名。
 和彦の隊長職剥奪が何故なのか空に詰め寄っている。
「決めたのは副局長よ」
 きっぱり言う空に隊員達は「壬生隊長をお願いします……」と途端に大人しくなった。
「今回の事件が終わりましたら、隊長職に戻るとのこと。在るべき姿があるなら、早く済ますべきです」
 空蝉(ka6951)の言葉はもっともだ。
「初名様、空様。出ませんか?」
 隊員達の間から初名と空を引っ張り出したのは木綿花(ka6927)。
「気分転換といいましょうか、診療所のお片付けしませんか?」
「は、はい」
 こくこくと頷きつつ、初名はハンター達、私服姿の和彦と共に屯所を出た。
 診療所組と繁華街組と分かれる中、空は和彦の方へ向き直る。
「これからどうするの?」
「とりあえず、各番所の親分達に挨拶回り。勝手に動いて後々引きずらないようにしないと」
「礼と義は金で買えないわよね」
 笑う空に和彦も笑む。
「積み重ねないと財産にならないからな」
 珍しく軽口を叩く和彦に新鮮さを覚えつつ空は繁華街方面へと向かっていった。

 診療所へ着くと、片付けから始まった。
「他に盗られたものはありますか?」
 エステルの問いに初名は大事なものや貴重品は盗られていないとの事。
「薬の方は……ここにあった軟膏は処方されましたか?」
「お墓参りの旅に出た時に出会った方が若峰に来てまして」
「確か、保湿を目的とし、傷跡を少しでも目立たなくさせる薬でしたよね」
 記憶を探りながら呟くエステルに初名は覚えてくれたことを喜ぶ。
「清さんの古傷が少しでも目立たなくなればいいなと、お渡ししました」
「こちらへ来られたのですか?」
 木綿花の声に初名は頷いた。
「家族の用事と仰っていたのですが」
「宿泊先は伺ってますか?」
 更に尋ねる木綿花の言葉に初名は松坂町と返す。
 場所を聞けば、斬り合い喧嘩近隣。空蝉は情報として記憶する。
 更に片づけながらエステルは初名に問う。
「あの……ああなってしまったのですが、刀が戻たっらどうするのですか……」
 遠慮がちに尋ねるエステルに初名は肩を落とす。
「浄化するしかないと思ってます。その後は神社などで預けてもらおうと。和彦さんにはひどいことになってしまって……」
 寂しそうな初名にハンター達はかける言葉を失う。

 繁華街で聞き込みをしていた空は妙に視線を受けているが、何故か避けられている。
 どうしてくれようかと悩んでいた空に声をかけたのは道端の長椅子に座る老人。
「その恰好、お前さん、ハンターじゃろ?」
「ええ」
 東洋西洋折衷な服装だが、一つ一つが丁寧な代物であり、若い娘が繁華街を堂々と歩くのはハンター稼業の者だろうと察しがついたようだ。
「最近、斬り合いの喧嘩が絶えなくてのう、腕に覚えがありそうな者に関わらないようにしてるんじゃよ」
「おじいさんは現場見たことあるの?」
 空はゆっくりと屈んで老人に目を合わせる。
「見かけたよ」
「どんな人だった?」
 老人が応えたのは二十代前半の青年だが、見た目は浪人。ただ、持っていた刀の特徴は白賀時光の刀と似ていた。
「歩いているところは何度か見かけた」
「その時の様子は?」
「何だか目の焦点が合ってないようでなぁ。三日くらい前に見た時は女と一緒だった」
「どんな?」
「ここいらでは見たことがない女だった。随分別嬪さんで、蛇の目みたいな簪をしていたのう」
 更に女の様子を聞いた空はトランシーバーを取り出した。

 空が聞き込みをしていた同時刻。
 エステルと空蝉、木綿花は初名を屯所へ送り届けた後、今永町番屋の昇太の番屋へ向かう。
 美少女、美形、美人に丁寧な挨拶を受けた昇太はとても上機嫌で差し入れのチョコ餅を誉めちぎっていた。
「東方と異郷のお菓子も合わさってこんなに美味しくなるんです。同じ地域の者同士でしたら、尚上手くいくと思いませんか?」
「お嬢ちゃんに心配されちゃぁ申し訳ねぇなぁ」
 エステルの言葉に昇太は自分の手で額を叩いた。
「事件の事を伺っても?」
 木綿花の問いに昇太が顔を上げる。
「この場所を知る人だからこそ、お話を聞きたく」
 エステルが言えば、昇太は今回の件を話し出した。
 まず喧嘩に必ずいる方が鬼哭組残党かは分からないが、奴らの仕業ではないと踏んでいる。
 その理由は、松永がいなくなったすぐの事件の為、急に目立つような事はしないだろうとのこと。
 地図を開いて今永町の現場を指し示す。大体松坂町に近い所だと言った。
「失礼」
 声をかけて入ってきたのは和彦。
「よぉ、色男の隊長さん……あいや、今日は何用で」
 反射的にからかってしまう昇太だが、すぐに姿勢を変える。
 和彦は初名の事件が終わるまで隊長職の任を解かれ、個人として事件を追う事、手に入れた情報の交換をしたいという申し出であった。
「そこまで義理立てしなくても……そうだ、お前さんたちに聞いてほしいことがあったんだ」
 呆れる昇太だが、思い出したように意気込む。
「前に、壬生さんが鬼哭組の下っ端が初名先生の家をうろうろしてたって話、あっただろう」
「私達が捕まえまえた浪人さんですか?」
 エステルが確認をとると、昇太は頷く。
「その後、黒狗城の火付けをしていた奴が下っ端が女と会っていたって話。それに該当しそうな女の情報が入ってきた」
 先日の黒狗城の火付け役の東行大輔は自分が誘った浪人が鬼哭組に姿を見せず、亀田診療所の周囲をうろうろしていたので、自力で調査していたと捕縛後の尋問で知った。
 和彦は番屋に情報を頼んでいた。
 女の特徴は別嬪な女で、蛇の目のような赤いトンボ玉の簪をしているとのこと。
「現れるようになったのはいつごろですか?」
「診療所近くをうろつきだした頃だ」
 木綿花の問いに答えた昇太へ更に問いをかけるのは空蝉だ。
「該当する『女』に傷はありませんでしたか」
「暗がりだったり、後ろ髪を下ろしているせいでよく見えなが、首に傷があるそうだ」
 特徴を確認していく空蝉の言葉に木綿花は在る人物を思い出す。
 初めて会った依頼の時、ハンターの一人が傷に気づいたのだ。『彼女』は何でもないように笑ったのだ。

『古傷だよ。気にしないでおくれ』

 エステルが薬の一つが無くなっている事を指摘した時の初名の言葉を空蝉は思い出す。
 朗らかに笑う初名はきっと、善意であったかもしれない。
 空蝉が判断した可能性を口にしようとした瞬間。
「はい、空さん? 清さんに似た人が浪人と会っていた可能性がある?」
 エステルに空からの通話が入り、彼女は同席しているハンター達の方を向く。
「清殿の方へ向かいます」
「刀はどうされるのですか」
 戸口に手をかける和彦が告げると、木綿花が尋ねる。
「ラインフェルト殿は刀の件を私がするように言ってました。しかし、それ以上に芽を摘むべきと思ってます」
「空さんは刀奪還に向かうそうです。まずは現場周辺へ行きましょう」
 エステルが空の会話を伝えると、和彦とハンター達は番屋を出て行った。

 一方、ボルディアは超嗅覚を頼りに現場周辺を歩いていた。
「薬の匂いがするな」
 周囲は繁華街であり、薬屋などはない。
 記憶に新しい初名の匂いと似ているような気がするので、目的の覚醒者が持っているだろう刀が初名が預かった刀である可能性が高くなった。
 同時に超聴覚を使用しているので、先ほどから斬り合い喧嘩の巻き込みを恐れる声がボルディアに聞こえてくる。
 巻き込まないようにしたいと思っているが、その時は逃げてくれと思うばかりだ。
 繁華街の奥まったところへ歩いていくボルディアは新しい匂いに気づく。
 つんと嗅覚を突く独特の薬草の香りは蝶嗅覚を使ってもとても微かで集中してないと途切れそうだ。
 魔導スマートフォンで呼び出して近くにいたのはハンスだ。彼も近くにいるようであり、すぐに来るとの事。
「さっさと終わらせるか」
 そう呟くボルディアの視界には暗がりの中を歩く浪人の姿があった。

 今永町の過去の現場周辺を早歩きで歩いていた空は奥の道より聞こえる声に足を止める。
「喧嘩だ! また始めやがった!」
「次は女だ!」
 口々に実況してくれる町民達が来た方向へ駆け出す空は浪人と事を構えるボルディアの姿を見る。
「騒ぎに流れてみれば」
 ハンスも別の方向より駆けつけており、ボルディアの加勢についた。


 昇太がいる番屋からでて、和彦とエステル達は更に繁華街へと入っていった。
 今いる場所は今永町と松坂町が隣り合う場所。
 ざわついているところから、ハンター達が刀を持っている覚醒者と対峙しているのだろう。
「私は清殿を追いますが、皆さんはどうしますか」
 ハンター達に和彦は問う。
「あたしに何か用? って、しらばっくれても仕方ないみたいだね」
 暗がりより姿を現し、堪え切れなく噴き出すのは清だ。
「清様……」
 静かに名を呟く木綿花が見ている清は治安が悪いところなのにもかかわらず、平然としていた。
「おや、久しぶりだねぇ」
 木綿花を覚えており、彼女は目を細める。
「浪人へ関与した者と、特徴が一致していると思われます」
 空蝉は清をしっかり見て、静かに告げると、清はオートマトンの空蝉を一瞥したが、和彦へと視線を向ける。
「即疾隊一番隊長のアンタに持ってほしいねぇ。あの刀」
 ふふと笑む清は一歩、近づく。
「浪人が持っている刀ですか」
 エステルが尋ねると、清は肯定した。
「あたしもあの刀がとても好きでね、綺麗な刃が血にまみれるのが見たいんだよ」
 ゆっくりと話す清から赤く細長い舌が唇より覗く。まるで、蛇のように。
「強い奴がその刀で人を殺している姿を見たいんだ」
 清の白い肌に鱗のようなものが浮かんでいく。ずるずると身体が伸びていったと同時に伸びている鋭い爪が木綿花へ食い込む。
 防御障壁で一度目は防いだが、尻尾が木綿花の腹を叩く。
「……くっ!」
 思った以上のダメージに木綿花は片膝をついた。
 人ならざる者の姿となった清へ空蝉は開眼し、武器を構える。
 清は身を捩り、まるで滑るように暗がりへと走った。

 ボルディアは前衛となり、覚醒者と交戦していた。
「随分とやるな」
 とはいえ、覚醒者は正気を失っているようであり、次々と撃ち込んできて彼女の身体を斬っていた。
「人みたいね」
 生命感知で確認した空はボルディアとハンスに距離を取るように指示を飛ばした。
 五色光符陣を展開し、浪人は光に視界を奪われてしまう。
 ハンスが活人剣を繰り出し、浪人は膝をついた。
「捕まえることが優先です」
 そう嘯き、捕縛作業へ移ろうとしたが、更なる乱入者に阻まれてしまう。
「歪虚……!?」
 武器を構えるボルディアに乱入者たる白蛇の歪虚は目を見開き、彼女へ威嚇のような声を上げる。
 一瞬の眩暈ののち、動悸が強くなり、感覚が『引きずられる』ようだ。
「この……!」
 意識を奪われまいと武器を振り上げようとするボルディアへ空の注意が飛ぶ。
「それじゃ、建物が壊れるわよ!」
「お優しいねぇ」
「若峰に住む人によ。清さん」
 空は即座に黒曜封印符を展開するが、清と呼ばれた歪虚は尻尾で浪人を握りこみ、地に叩きつけ、虚を突いて消えてしまった。
 続いて、木綿花達も現れて合流する。
「貴方がとるべきです」
「言わずもがな」
 ハンスが和彦へ促すと、覚醒状態のまま刀をとった和彦は反射的に刀を手放す。
「どうした」
 不審がったボルディアが言えば、和彦は覚醒状態を解く。
「……以前、ハンターにこの刀に異変がないか調べた方がいました。その時は波紋に蛇の鱗のような波紋しかなく、特に異常がなかったそうです」
「私も見ました……まさか、覚醒状態の時に反応する……?」
 エステルが察すると、和彦は頷く。
「清様が歪虚でしたか……」
 初名を思いやる木綿花の言葉が静かに落ちた。

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MVP一覧

  • 虹彩の奏者
    木綿花ka6927

重体一覧

参加者一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 即疾隊一番隊士
    和音・空(ka6228
    人間(紅)|19才|女性|符術師
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • 虹彩の奏者
    木綿花(ka6927
    ドラグーン|21才|女性|機導師
  • 潰えぬ微笑
    空蝉(ka6951
    オートマトン|20才|男性|舞刀士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/02/27 20:07:15
アイコン 相談場
空蝉(ka6951
オートマトン|20才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2018/03/02 16:58:14