水路から溢れるスライム流し

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/03/04 22:00
完成日
2018/03/11 19:16

みんなの思い出

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オープニング

 それは黒大公ベリアルによる王都襲撃の際に、闇の中で誰に気付かれることもなくひっそりと生まれた。
 自我も無く、闇のマテリアルに汚染された自覚もなく、故に当然、自らの意思にもよらず──ソレはまるでがん細胞の如く、変質し、種本来の限界を超えて大きくなり始めた。
 大きくなり過ぎた身体は、やがて出口から自身を出られなくした。日も当たらぬ、ただ水だけが流れ続ける行き止まりの空間で、ソレは何の思考も考察もなく、ただ延々と流れ続けて来る水と、そこに含まれている負のマテリアル──自分と同じベリアル襲撃時の残滓──を取り込みながら大きくなっていった。
 通常、たとえ雑魔と化しても何の影響も周囲に与えず、すぐに消え去る運命だったその『単細胞生物』は、やがて巨大化して自身が負のマテリアルを伝播させる存在となり。周囲にいるかつての同種を汚染しながらその場に在り続けた。
 何年も、何年も……

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 『王都は天地の賜物』という言葉がある。
 『王都』とはグラズヘイム王国王都イルダーナのこと。『天地』とは宗教的権威たる聖堂教会と、世俗的権威たるグラハム王家──具体的には、王都の中心、丘の上に並び立つ聖ヴェレニウス大聖堂と王城を指していると世間一般には思われている。
 実際、聖堂教会とグラハム王家が歴史上、王都の発展に大きく寄与してきたことは厳然たる事実であるし、その事実こそがこの言葉の持つ意味をかように変遷させていったであろう。
 だが、本来、この『天地の賜物』というのは、丘の頂に湧き出す一つの聖泉を指す言葉であったのである。

 ──当時、レーヌ川の畔の小村に過ぎなかったイルダーナの地において、農地の開拓に悩んでいた当時の村長(この逸話では後のグラハム王家の祖とされる)が夢で大精霊に「丘の上に井戸を掘れ」との天啓を受け、周囲に嗤われながらもただひたすらにお告げを信じて掘り続けたところ、やがて丘の裾野まで覆い尽くさんばかりの水が噴き出し、後の繁栄を築いたという。

 或いは、まだイルダーナが一都市国家に過ぎなかった何百年もの昔── 当時、迫害されていたエクラ教徒を保護したイルダーナが排斥派の敵国に丘の上の砦に追い込まれて水の手を切られた時。教徒たちの祈りに応えて地上に遣わされた聖女が手にした聖杖で丘の頂を一突きすると、そこから尽きる事のない水が湧き出し…… その奇蹟によって危機を脱したイルダーナはやがて敵国を打ち負かし、大陸全土を領土とする大グラズヘイム王国への一歩を刻んだのだという──


 数々の神話・伝説と共に語られるこの『奇跡の泉』は、今も聖ヴェレニウス大聖堂の敷地内に聖泉として存在する。王国巡礼の最後に訪れる大聖堂で、長旅の疲れを癒す手水の小川──その源泉がかの聖泉である。
 そう、驚くべきことに、泉からは今も水が湧き出し続けているのだ。記録に残る限り1000年以上。しかも、王都の端々に至るまで張り巡らされた上水道網は自然流下方式であり……そこに流れる水は全て、この泉から湧き出した水で賄われているのである。

 古の人々は『王都は天地の賜物』と言った。その『天地』は『天』の奇蹟により『地』からもたらされた恵みの泉。
 王都の発展史を語る上で欠くことのできないこの存在を、奇跡と呼ぶ以外の言葉を私は持たない……


(古都アークエルスの大図書館。とある歴史学者の論文より一部を抜粋)
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 王都第六城壁の外に広がる通称『第七街区』は、元々、難民たちが寄り集まって形成された街である。
 第七城壁建設と上水道整備計画、2つの公共事業によって難民と呼ばれる状況を脱した彼らは、自らを新たな『王都の民』とするべく、自分たちの町をそれに相応しいものへと変えていった。
 王城から放射状に延びる大通り──新しく設けられた城門を抜け、新たに第六街区と接続されたこの道の脇に掘られた水路もその一つである。大通りに並行して整備された広い石畳と緑地の公園と、水路の上に架けられた何本もの人道橋は、夜は最新の自動式魔導灯の街灯と照明によってライトアップされ、他の街区と比べても遜色のない文化的で先鋭的な造形物として新たな名所となるだろう。
 ……本来、この人造の川は別段必要なものでなく、この地区の復興担当官が公共事業へのGnome導入を巡るリベートの為にゴリ押しした土木工事の賜物である、などという裏事情は、聞かなきゃよかった、という類の逸話であろうが。

 この日、この地区の『自治』を任されている『地域の実力者』、ドニ・ドゥブレーは、件の水路の完成式典に参加する為、かの地を訪れていた。
 やる気もなく、表面だけは真面目な顔して、式典参加者の列に並ぶドニ。王都のお偉いさんたちの挨拶の後、計画推進者である担当官、ルパート・J・グローヴァーが意気揚々と演台に上がる。
(俺の手の届かないところであいつが何かをやると、大抵ろくな事にならないんだよな)
 そんな事をドニが思っていると、ルパートたちがテープカットをして水路に初めて水が入れられた。
 意気揚々と入水を叫んだルパートの声に反し……城門の下に開けられた水門は暫し、うんともすんとも言わなかった。観客たちがざわつき、壇上のルパートが目に見えて慌て始めた時。ドドドドドッという轟音と共に、まるでダムの放水の様に激しく水が水路に流れ込んだ。
 おおっ、と観客たちから湧く歓声。なんという心憎い演出、とルパートを褒めそやす上役たちの中で、ドニだけか(んなわけあるか)と心の中で毒づいた。
 案の定、流れる水の怒涛に交って、何かが水門から吐き出された。
 それはスライムの塊──いや、山だった。それは水路の向かい端の水門(水路はまだ一部しか完成しておらず、未完成区間はまだ水門によって閉じられていた)に、台風の際に海岸に打ち寄せる波の如く、どぱあぁぁ……ん! とぶち当たり…… 上方に打ち上げられた水(とスライム)の塊が空中に砕け解れて、バケツをひっくり返した様に地上へと降り注いだ。
「むぅ! アレは自然種でも魔法生物でもな歪虚型……!」
 たまたまその場に居合わせたアークエルスのスライム学者(様々な学者が魔導実験を行うかの古都では水路にスライムが発生するくらいは日常茶飯事だ)が叫ぶ。
「歪虚……? ってことは、『アレ』は人を襲うんだな!?」
 ドニは間髪入れずに部下を呼ぶと、人々の避難誘導に当たるよう指示を出した。
「あのデカブツはどうするんで!?」
「心配するな。多分、いつもの様に……」
 おせっかいな連中が既に動き出しているはずだ── そういうドニの視線の先で、偶々近場にいたハンターたちが現場に駆けつけていくのが見えた。

リプレイ本文

「相手はスライム──打撃が効き難いとなれば、魔法でなんとかするしかありません」
 石畳の路面のそこかしこにいるスライムたちを踏まぬよう、まるでステップを踏むように── アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)はサクラ・エルフリード(ka2598)やシレークス(ka0752)らと共に敵中へと飛び込んだ。
 正のマテリアルの気配にスライムたちが自分たちへと向いた瞬間、ハンターたちは内圧を高めたマテリアルを一気に解放する。『セイクリッドフラッシュ』──光の波動が波紋の様に周囲へ爆発的に広がり、周囲にいたスライムたちを白光の中に掠れ消す。
「どうですか。いかなスライムとてそれなりのダメージを与えることは出来たはず。このまま一気に……」
 言いかけたアデリシアは、しかし、次の瞬間、絶句した。
 スライムたちは健在だった。光の波動はスライムにも有効だったが、衝撃に関してはやはり軽減されていた。
 その身をぷるんと震わせ、一斉に飛び掛かって来るスライムたち。それを防ぎに掛かったアデリシアは受けたパリィグローブごと腕に纏わりつかれ。シレークスは1体目こそ盾で受け止めたものの、2体目に叩き込んだ拳(鉄球付き)をその腕ごと呑み込まれた。
 後衛のJ・D(ka3351)は舌を打つと、仲間たちに飛び掛かるスライムを狙ってリボルバーを抜き打ち気味に速射した。銃弾を受けたスライムが空中で軌道を逸らされ、しかし、スライム自体は銃弾の威力すら殺して健在のまま地面に落ちる。
「だったら……!」
 J・Dは改めて両手で愛銃を構え直すと、マテリアルを込めた弾丸を高初速で発射した。より威力を増した銃撃をスライムは受け切れず、内部のコア──弱点である急所を貫かれてパシャッと水風船の様に弾ける。
「ハッ! 切った叩いたは効くめえが、こいつならそうもいくめえ」
 仲間に飛びつこうとするスライムたちを『高加速射撃』で次々と撃ち落としていくJ・D。だが、その表情は台詞程には余裕はない。
 シュウシュウと言う音と、焦げ臭いニオイ── 獲物に取りついたスライムの発する分泌液が、まずはマテリアルの防護や加護の無い部分──肉体や特殊な装備品以外の無機物、即ち普通の服や布から溶かし始めたのだ。

「しかし、有機物より無機物を優先して溶かすスライムって生物学的にどうなんだ?」
 人々を避難させる為にその場に残っていたドニが閑話的に学者に訊ねる。
「連中はスライムと言っても歪虚型──服を溶かすことによって発生する怒りや羞恥、悦楽といった負の感情を啜り取っているのかもしれん」(←適当)

「消化液…… これは割りとシャレになりませんね」
「ダアァァァッ! 鬱陶しい!」
 自身に纏わりついたゼリー軟体を再度の光の波動で吹き飛ばすアデリシア。シレークスはボヨンと弾かれるのも構わず突いた拳をそのまま『怪力無双』でズブズブとスライム内部へ押し込むと、その核をガッシと掴んだ直後、グシャリとそれを握り潰す。
「あははははっ! 打撃が効かなくても強引に玉ァ潰しゃあいいんですよ! つまり、慣れた喧嘩と同じでやがります!」
 さり気に青春時代を暴露しつつ(嘘)、高笑いするシレークス。だが、そんな彼女たちを、十色 乃梛(ka5902)は「ちょっと待った、だよ!」と制止した。
「『セイクリッドフラッシュ』も使える数に限りがあるし、1、体に使うのは勿体ないよ。最も効果を発揮するのは私たちに張り付いて薄く伸びた時だと思うし…… もっとたくさん焼けるようになるまで、このまま耐えよう!」
 マジか、と異口同音に呟くハンターたち。けれども、言い出しっぺの乃梛が率先し、クッと我慢しながらスライムたちが集るに任せて覚悟を示すと、その提案を受け入れた。
 急に抵抗を止めたハンターたちへ、スライムたちが(のんびりと)殺到し始めた。ぬるりとした冷たい感触に小さく悲鳴を上げる彼女らの、足から脚、腰から背中や胸部へと、取りついたスライムたちがぬらぬらと蠢きながら舐めるように這い上がっていく……
「ちょ、何処に入り込んで…… ふぁっ!? な、中で大きく……!」
 ぬるり、と襟元から胸元に入り込まれて思わず甲高い声を上げたサクラは、しかし、ふとある事に気が付いて抵抗することを止めた。胸元に入り込むスライムを見下ろして、膨らんだ胸部で自分の足元が見えなくなる。
(こ……これが巨乳の視界と重みと心持ち……ですか)
 何やらそう感動しながら、サクラはそっと自分の胸(注:スライムです)に手を宛がい、ふにふにと持ち上げたり、十指を沈ませてみたり、手の平で押してみたり……と、『セイクリッドフラッシュ』が使えないので構わずスライムを殴り続けていたシレークスと目が合って…… ニヤリ、と笑われてピシッ……! と硬直する。
「うぅぅ、スカートの中には入らないでぇ……っ!」
 一方、乃梛は両足から這い上がって来た2体のスライムの進行をスカートの端を押さえて必死に押し留めようとしていたが、無論、その様なことでは止まらない。自由に身体を変形させつつ隙間からスカートの下へと潜り込んだスライムたちが脚の付け根にまで達し── 瞬間、背筋に電気が走ったようになって、乃梛はゾクゾク……ッ! とその身を震わせた。
(何これ……!? 前の時はこんなんじゃ……ッ!)
 乃梛の全身の肌がほんのりと赤く色づき始め、上昇した体温は彼女の顔を上気させて耳たぶまで真っ赤に染める。自分でも信じられないくらいに吐息が熱く、荒くなり、スライムが耳に触れ、背中をなぞり、全身で蠢く度に、ビクビクッとその身体が反応する。
(ふぁっ……身体が、あついよぉ…… コレ……癖になっちゃう……かも)
 そんな乃梛の傍らでは、アデリシアが複数のスライムたちに纏わりつかれながらも平然とした面持ちで立っていた。その間もスライムの消化液は元々けしからん格好な彼女の戦闘モード服を溶かして各所に穴をあけ、その端からジワジワと肌の露出が広がっていっているのだが、本人はあくまで涼しい顔。まるで動じない。
「これ、あと何匹くらい集めれば良いのでしょうね?」
 乃梛に訊く為に背後を振り返ったアデリシアの視線が── 『拡散ヒートレイ』と『フリージングレイ』、扇型と直線、2つの荒ぶる青白機導光線で路面に掃除機を掛ける様に、鼻歌混じりに小走りでスライム駆除を行いながら周囲を一周して戻って来た時音 ざくろ(ka1250)の視線とかち合った。
 その状態のまま2人は暫し硬直し……ざくろの視線がチラと下へ──自分の身体へ向けられた。半透明のスライムに塗れてぬるぬるになった自身の身体──ピッタリと服が張り付いて、身体のラインがなまめかしくはっきりと出ていることに気付いた瞬間、ボッと火が付いたようにアデリシア(とざくろ)の顔が瞬間沸騰的に真っ赤に染まる。
「~~~~~ッ!????」
「わわわわ、何も見てない、見てないから……!」
 両手を突き出し手を振りながら、きつく両目を瞑って顔を逸らしたざくろが「あ」と路面のスライムを踏んでしまい、漫画みたいに盛大にその足を滑らせて。その前面に立っていたアデリシアと乃梛を巻き込んで転倒する。
 痛たたた…… と身を起こそうとしたざくろの手の平に、それぞれボリュームの違う2つの柔らな感触── スライムかな? と視線を下ろした彼が目にした光景は、あられもない恰好で自分に胸を触られて、顔を真っ赤にしたまま口をパクパクさせるアデリシアと乃梛の姿──
 瞬間、アデリシアは混乱したまま『セイクリッドフラッシュ』を発動し、自身に纏わりついていたスライムたちを──ついでにざくろも──吹き飛ばした。驚いた乃梛とさくらもまた連鎖して光の波動を噴き上げて。纏わりついていたスライムたちをすっかり消し飛ばした後、自身の胸元に手を当てたサクラがちょっぴりセンチに空を見上げる。
 前髪で目元が隠れたアデリシアが立ち上がり、どうにか引き千切られずに済んで路面に落ちたすべすべみずまんじゅうどもに向かってズンズンと歩を進めると、再度の、連打の光の波動でもって何度も何度も連打した。
「油! 油はないですか?! スライムと言えば火! ぶちかけて全部燃やし尽くしてやりやがります!」(←口調、移った)
 飛び掛かって来た新手を光の防御壁で弾きながら、なんか狼煙の様な闘気を何本も立ち上らせたアデリシアがスラリと抜いた太刀でもって足元のスライムの核を貫く。
 あっちは何か楽しそうだな、とか思いつつ、高加速射撃でスライムを撃ち続けるJ・D。あはははは、と核を潰し続けるシレークスの高笑いがどこか遠くから聞こえて来た。


「ふえぇ、べとべと…… このままじゃお家にも帰れないよ……」
 路面に落ちたスライムたちを無事に掃討し終えた後── すっかり滲み込み、というか、べっちょりとなった服や、指や顎や髪の先から垂れ下がり、滴り落ちるスライム粘液を洗い落とすべく河川敷から川へと下りていった乃梛は…… それから時間も経たぬ内に「ふええぇぇぇえ!?」と大きな悲鳴を上げることとなった。
 川の中にはまだスライムが残っていた。河川敷を這い上がり、ずしん、と上陸を果たしたそれは、その全長8mをも越えそうな巨大なスライムだった。その外見的特徴を一言で表すなら『煮詰めたお餅』(と訳された)といったところか。その身体は白くて透明性は殆どなく、軟体生物(?)ではあるが固形物と呼べる程にまでその粘着性は高い。
「……。まだこんな大きなのが隠れていたとは……」
「……サテ、核があるならそれを狙うが、こうもデカけりゃァ鉛弾も届くやら」
 とりあえず殴ってみましょう、とJ・Dに言って、サクラは『お餅』スライムに向かって突っ込んでいった。殴りつけたメイスがべとりと張り付き、それを引きはがそうと両手で引っ張り、直後、ぼよんと揺れた敵の身体にぶつけられた。動く度に張り付き、もがく度に呑まれていく身体── シレークスが慌ててサクラに駆け寄り、まだ無事な部分を掴んで怪力で引っ張り出さんと試みる。
「待ってください、服が餅に張り付いて……」
「つべこべ言ってる場合じゃねぇです……おらぁっ!!」
 ベリッ……! という音と共に、サクラは敵中から引き剥がされた。……張り付いたままのナース服を残し、その留め具を破壊して。スライム(とシレークス)の手によって強引にナース服脱ぎ掛け状態(触手系無理矢理風味)とされたサクラが「ちょっと待ったぁ!」と悲鳴を上げるもおかまいなしに、シレークスが「どらあぁぁ!」と半裸のサクラを引っこ抜く。
 同時に、伸ばした腕状の餅に捕らわれていた乃梛が光の波動で周囲を吹き飛ばし、ひゅ~と落下したところを走り込んで来たざくろに受け止められた。
 偶然、植物油の入った樽を見つけたサクラが、とそれを頭からざんぶと被った。ついでにシレークスにもぶっかけた。なにしやがります!? と叫ぶ彼女に「これで少しは餅がくっつきにくくなるかもしれません」とサクラ。それを聞いたシレークスはパチリと瞬きを一つして……「そいつは良いでやがります!」と呆気なく受け入れ、立ち上がる。
 結果から言えば、油は餅の粘着に対して効果があった。代償として肌はてらてらでぬらぬらとなり、油をたっぷり吸った聖衣はぴっちりと肌に張り付き、その下の身体のラインとその上に纏った紐状下着をくっきりと浮かび上がらせてしまっていたが、シレークスは堂々としたものだ。
「よう、ドニの旦那」
 高加速射撃を撃ち尽くして「……」と愛銃を見下ろしたJ・Dは、ドニの元に走り寄ると公園の端に置かれた作業用のGnomeを親指で指して訊ねた。
「あっちのデカブツは『安全なやつ』かい?」
「……恐らくは、な。今回のは演劇用とは違って普通の作業用のやつだ。刻令術を弄る機会も必要もなかったはずだ」
 それだけを確認すると、J・Dはざくろに声を掛け(女性陣は皆あられもない恰好なので遠慮した)て、Gnomeの元へと走っていった。
 記念式典のデモンストレーション用に展示されていたそれは、子供を乗せての体験操作会もやる予定であったのだろう。つまり、誰でも操作できるように有線コントローラーが差してあった。
「こいつ、動くぞ……!」
「そいつァ渡りに舟だ」
 J・DとざくろはそれぞれGnomeに取りついた。あれだけ大きなスライムに普通の攻撃は効きそうにない。Gnomeのドーザーであの煮凝りを抑え込んで薄く延ばしてやれれば、或いは餅の様に千切り易くなるかもしれない。
 二人は起動したゴーレムを最高速度で巨大餅へ向かって走らせた。人の身体程もある野太い腕状餅に捕まったアデリシアの元へ突っ込み、ドーザーで敵の『腕』を踏み潰すようにしながらその脱出を助ける。
「今だっ! そのまま引っ張るんだ!」
 敵本体の反対側にもう1体のGnomeを突っ込ませたざくろが、ゴーレムに全速後退を命じた。出来たばかりの路面を削って火花と共に無限軌道が回る。
 左右に引っ張られて薄く伸び始める巨大餅。J・Dはゴーレムからヨッと飛び降りると、自身の銃に冷気のマテリアルを込めた銃弾をリローダーで装填した。
「さて、と。凍らせられりゃァ万々歳。でなくとも粘土が上がってくれりゃァ切り分けることもできるンじゃねえかね」
 J・Dの冷却弾が、ざくろの冷凍弾が伸び切った敵の身体に放たれ、巨大餅は各所で凍結し。そこを女性陣に殴られ、各所で寸断されていった。
「……烈風機導剣・改!!」 
 最後に、ゴーレムの頭の上から跳躍したざくろがフリーズドライの様になった餅を縦一文字に切り裂いて。ベリアルの王都襲撃以降、上水道の片隅にあり続けた歪虚は日の光の下、滅び去った。

 すっかり避難が済んで人気の少なくなった式典会場── 僅かに残っていた人たちが快挙に歓声を上げる。
 よその人様の視線を意識して、サクラは初めて『ほぼ下着姿+油でぬらぬら』という自身の恰好に気が付いて赤面した。シレークスは相変わらずまるで気にした素振りは無いが。
「片付いたら後始末をしましょうか…… 回復もですが、服もなんとかせねば……」
 アデリシアの言葉に、乃梛が慌てて河川敷へと駆けて行った。ざくろが上着を脱いでアデリシアに掛けてやって……サクラとシレークスと乃梛の分はどうしよう、とわたわたする。
「済まねえが、旦那。毛布か何かあったら手配してくれねぇか? 見ちゃいられねえ格好もそうだが、身体が冷えちまうといけねぇや」
 J・Dがドニに頼むと、彼の下の若い衆が既に用意しているところだった。
 流石だねぇ、と口の端に笑みを浮かべながら、J・Dはすっかり湿気ってしまった咥え煙草を新たな物へと換えた。

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参加者一覧

  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 交渉人
    J・D(ka3351
    エルフ|26才|男性|猟撃士
  • 疾風の癒し手
    十色 乃梛(ka5902
    人間(蒼)|14才|女性|聖導士

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J・D(ka3351
エルフ|26才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2018/03/02 02:46:34
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/03/01 21:37:58