ゲスト
(ka0000)
【RH】死神の名付け親
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/03/07 09:00
- 完成日
- 2018/03/10 11:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
研究施設「アスガルド」から失踪した強化人間達が現れたのは、ダンバー。
かつてイングランドの内戦にて戦場となったドゥーン・ヒルと呼ばれる小高い丘の上であった。
強化人間達は、何故このドゥーン・ヒルへ現れたのか。
強化人間達は、一体今まで何をしていたのか。
未だ少年少女の年齢である強化人間の子供達は沈黙を続けている。
そう、未だすべては謎に包まれたままなのだ。
事態収拾に駆り出されたラズモネ・シャングリラの面々が呼びかけを行っているものの、それに答えようとする素振りすら見せない。
――違和感。
強化人間達を前に感じた率直な感覚。
それは強化人間達を前にした者ならば、誰もが抱いたものだ。
おかしい、と口にしようとした直後――静寂は動乱へと移り変わる。
強化人間達は、一斉にラズモネ・シャングリラとハンター達に襲い掛かったのだ。
●
「総員、防御態勢。敵は新型のCAMだ……備えろ」
八重樫 敦(kz0056)は、魔導型ドミニオンで強化人間達と対峙していた。
試作型対VOID砲壁盾を構え、新型CAM「コンフェッサー カスタム」の襲撃を受け止めるつもりだ。
強化人間達は失踪する前に訓練でも使用していたCAMを奪っていた。
それがコンフェッサーの強化人間専用機――悪条件下での戦闘や格闘を視野にパイロットの行動をコンピュータが支援する事で覚醒者が操縦する機体に近付けたCAMだ。
性能は函館や鎌倉の歪虚CAMとは大きく異なると見るべきだろう。
「八重樫、後方にはラズモネ・シャングリラがある。こいつら、狙いはそれだ」
ハンターの一人がトランシーバーで八重樫に伝えてきた。
強化人間が進もうとする先には、ラズモネ・シャングリラが存在している。
ラズモネ・シャングリラが損傷すれば、特殊部隊「スワローテイル」の作戦行動にも大きな影響があるだろう。
「やはりか。直感的にシャングリラを狙ったのか?」
八重樫は自問自答する。
強化人間達が単に戦うだけなら、目の前の八重樫達を襲えばいい。
だが、強化人間達は八重樫達の防衛線を突破してラズモネ・シャングリラを狙っている。
それが意味する事は――何か。
「艦長、ラズモネ・シャングリラで反撃するのは待って下さい」
ハンターの一人がラズモネ・シャングリラ艦長森山 恭子()へ呼び掛けた。
八重樫が抱いた違和感を、ハンターも感じ取ったのだろう。
ラズモネ・シャングリラが強化人間達に反撃をすれば新型CAMであっても抵抗はできるだろう。
だが、それはCAMに乗っている強化人間達が死亡する可能性が飛躍的に上がる。
既に統一地球連合宙軍からも強化人間が攻撃してきた場合は、反撃しても良いという命令は出ている。
その命令があったとしても、恭子は一縷の望みをハンター達に託したかった。
「分かってるザマス。皆さんを信じているザマス。
ですが、皆さんもそのまま防戦一方という訳にはいかないザマス。……中尉、聞こえているザマスね?」
恭子は、戦車型CAM「ヨルズ」に騎乗するジェイミー・ドリスキル中尉へ通信を入れた。
最悪の事態に備えて、恭子は既に手を打っていた。
八重樫が強化人間と交戦を開始した段階で、側面へ回り込んでいたドリスキルが森林地帯からヨルズで強化人間を砲撃。
当たらなくても構わない。命中しても操縦席でなければ即死は免れるはずだ。重要な事は、ヨルズの砲撃で強化人間を別方向から攻撃する事だ。
前方への注意が逸れた段階で、八重樫達が攻勢に転じて強化人間達の無力化を狙うというものだ。可能な限り強化人間に被害を出さず、取り押さえる方針なのだが……。
「……ああ、聞こえてるよ」
「元気がないザマスね。大丈夫ザマスか?」
ドリスキルの声の調子を聞いて、恭子はその身を案じた。
ドリスキルも強化人間。アスガルドから失踪した子供達同様、強化人間化の手術を受けている。何らかの影響があると考えても不思議ではない。
だが、恭子の心配をドリスキルは否定する。
「いや、心配ねぇよ。女性に心配かけるなんて、俺らしくねぇな。ま、妙齢を随分前に通り越した婆さんだけどよ」
「婆さんじゃないザマス。まだ還暦前ザマス。
……まあ、その調子なら大丈夫ザマスね。作戦通り頼んだザマスよ」
「…………」
ドリスキルは、恭子の通信に沈黙を持って答えた。
ドリスキルは戦車兵時代から考えてもベテランだ。ハンター達が現れる前は、狂気のVOIDとも交戦。先日もエバーグリーンでは相応の戦果を上げている。
だが、今回はいつもの相手と大きく異なる。
●
「……あの森に何かいる気がする」
新型CAM『コンフェッサー カスタム』エース機に騎乗するランディは、ぽつりと呟いた。
何故、そう思ったのかは分からない。
強いて言えば――直感。
あの森の中に何かが、いる。
「あの森を調べてみる」
そう仲間へ告げたランディはドゥーン・ヒルの東にある森林地帯へと進んでいく。
ランディの身を案じたのか、数体のコンフェッサーが後へ続く。
心配ない。
だって、この機体がある。
あっという間に砲弾を浴びせかけてやるから。
●
「……くそっ」
調子が狂う。
照準にコンフェッサーを収めた瞬間、先日バレンタインで出会った子供達の顔がチラつく。
顔を上げれば――操縦席に貼られた一枚の写真。
そこには、ムーンリーフ財団総帥トモネ・ムーンリーフを中心に強化人間のマルコスとランディが笑顔で映っている。
嫌々で参加した訓練であったが、子供達と触れ合ったのはいつ以来だったか。
軍人として命令であれば、『やる事はやる』つもりだ。
先日、一緒に訓練をした子供達をどうにか連れて帰れないのか。
そればかりを考えていたのだ。
ここで砲撃すれば、戦いは始まってしまう。
そうなれば子供達に被害も出る。しかし、待っていても今度はハンターに被害が及ぶ。
きっと、失踪した理由が何かあるはずだ。
統一連合宙軍が痺れを切らす前に、子供達を連れ帰るにはどうすれば良いのか。
現場で臨機応変に対応する必要があるのだが――その思考がキャノンのトリガーを硬くする。
「……ドリスキルさん、やっぱり体調が良くないザマスか?」
恭子がドリスキルへ再び連絡を入れてきた。
「婆さん、ガキどもを……」
ドリスキルは相談を持ちかけよう。が、それは途中で遮られる。
「艦長、戦線を離れて移動を開始しています」
ラズモネ・シャングリラのブリッジでオペレーターが恭子へ報告する。
ドリスキルがモニターをチェックすれば、コンフェッサーが一団から離れて動き出していた。
ヨルズが発見されたのか。仮に発見されたとすれば、行き先は森林地帯だ。
「ドリスキルさん、敵がそっちへ行ったザマス!」
「分かってる!」
恭子の声に、ドリスキルは怒気交じりに答える。
気付けば、ドリスキルは酒を一口も飲んでいなった。
かつてイングランドの内戦にて戦場となったドゥーン・ヒルと呼ばれる小高い丘の上であった。
強化人間達は、何故このドゥーン・ヒルへ現れたのか。
強化人間達は、一体今まで何をしていたのか。
未だ少年少女の年齢である強化人間の子供達は沈黙を続けている。
そう、未だすべては謎に包まれたままなのだ。
事態収拾に駆り出されたラズモネ・シャングリラの面々が呼びかけを行っているものの、それに答えようとする素振りすら見せない。
――違和感。
強化人間達を前に感じた率直な感覚。
それは強化人間達を前にした者ならば、誰もが抱いたものだ。
おかしい、と口にしようとした直後――静寂は動乱へと移り変わる。
強化人間達は、一斉にラズモネ・シャングリラとハンター達に襲い掛かったのだ。
●
「総員、防御態勢。敵は新型のCAMだ……備えろ」
八重樫 敦(kz0056)は、魔導型ドミニオンで強化人間達と対峙していた。
試作型対VOID砲壁盾を構え、新型CAM「コンフェッサー カスタム」の襲撃を受け止めるつもりだ。
強化人間達は失踪する前に訓練でも使用していたCAMを奪っていた。
それがコンフェッサーの強化人間専用機――悪条件下での戦闘や格闘を視野にパイロットの行動をコンピュータが支援する事で覚醒者が操縦する機体に近付けたCAMだ。
性能は函館や鎌倉の歪虚CAMとは大きく異なると見るべきだろう。
「八重樫、後方にはラズモネ・シャングリラがある。こいつら、狙いはそれだ」
ハンターの一人がトランシーバーで八重樫に伝えてきた。
強化人間が進もうとする先には、ラズモネ・シャングリラが存在している。
ラズモネ・シャングリラが損傷すれば、特殊部隊「スワローテイル」の作戦行動にも大きな影響があるだろう。
「やはりか。直感的にシャングリラを狙ったのか?」
八重樫は自問自答する。
強化人間達が単に戦うだけなら、目の前の八重樫達を襲えばいい。
だが、強化人間達は八重樫達の防衛線を突破してラズモネ・シャングリラを狙っている。
それが意味する事は――何か。
「艦長、ラズモネ・シャングリラで反撃するのは待って下さい」
ハンターの一人がラズモネ・シャングリラ艦長森山 恭子()へ呼び掛けた。
八重樫が抱いた違和感を、ハンターも感じ取ったのだろう。
ラズモネ・シャングリラが強化人間達に反撃をすれば新型CAMであっても抵抗はできるだろう。
だが、それはCAMに乗っている強化人間達が死亡する可能性が飛躍的に上がる。
既に統一地球連合宙軍からも強化人間が攻撃してきた場合は、反撃しても良いという命令は出ている。
その命令があったとしても、恭子は一縷の望みをハンター達に託したかった。
「分かってるザマス。皆さんを信じているザマス。
ですが、皆さんもそのまま防戦一方という訳にはいかないザマス。……中尉、聞こえているザマスね?」
恭子は、戦車型CAM「ヨルズ」に騎乗するジェイミー・ドリスキル中尉へ通信を入れた。
最悪の事態に備えて、恭子は既に手を打っていた。
八重樫が強化人間と交戦を開始した段階で、側面へ回り込んでいたドリスキルが森林地帯からヨルズで強化人間を砲撃。
当たらなくても構わない。命中しても操縦席でなければ即死は免れるはずだ。重要な事は、ヨルズの砲撃で強化人間を別方向から攻撃する事だ。
前方への注意が逸れた段階で、八重樫達が攻勢に転じて強化人間達の無力化を狙うというものだ。可能な限り強化人間に被害を出さず、取り押さえる方針なのだが……。
「……ああ、聞こえてるよ」
「元気がないザマスね。大丈夫ザマスか?」
ドリスキルの声の調子を聞いて、恭子はその身を案じた。
ドリスキルも強化人間。アスガルドから失踪した子供達同様、強化人間化の手術を受けている。何らかの影響があると考えても不思議ではない。
だが、恭子の心配をドリスキルは否定する。
「いや、心配ねぇよ。女性に心配かけるなんて、俺らしくねぇな。ま、妙齢を随分前に通り越した婆さんだけどよ」
「婆さんじゃないザマス。まだ還暦前ザマス。
……まあ、その調子なら大丈夫ザマスね。作戦通り頼んだザマスよ」
「…………」
ドリスキルは、恭子の通信に沈黙を持って答えた。
ドリスキルは戦車兵時代から考えてもベテランだ。ハンター達が現れる前は、狂気のVOIDとも交戦。先日もエバーグリーンでは相応の戦果を上げている。
だが、今回はいつもの相手と大きく異なる。
●
「……あの森に何かいる気がする」
新型CAM『コンフェッサー カスタム』エース機に騎乗するランディは、ぽつりと呟いた。
何故、そう思ったのかは分からない。
強いて言えば――直感。
あの森の中に何かが、いる。
「あの森を調べてみる」
そう仲間へ告げたランディはドゥーン・ヒルの東にある森林地帯へと進んでいく。
ランディの身を案じたのか、数体のコンフェッサーが後へ続く。
心配ない。
だって、この機体がある。
あっという間に砲弾を浴びせかけてやるから。
●
「……くそっ」
調子が狂う。
照準にコンフェッサーを収めた瞬間、先日バレンタインで出会った子供達の顔がチラつく。
顔を上げれば――操縦席に貼られた一枚の写真。
そこには、ムーンリーフ財団総帥トモネ・ムーンリーフを中心に強化人間のマルコスとランディが笑顔で映っている。
嫌々で参加した訓練であったが、子供達と触れ合ったのはいつ以来だったか。
軍人として命令であれば、『やる事はやる』つもりだ。
先日、一緒に訓練をした子供達をどうにか連れて帰れないのか。
そればかりを考えていたのだ。
ここで砲撃すれば、戦いは始まってしまう。
そうなれば子供達に被害も出る。しかし、待っていても今度はハンターに被害が及ぶ。
きっと、失踪した理由が何かあるはずだ。
統一連合宙軍が痺れを切らす前に、子供達を連れ帰るにはどうすれば良いのか。
現場で臨機応変に対応する必要があるのだが――その思考がキャノンのトリガーを硬くする。
「……ドリスキルさん、やっぱり体調が良くないザマスか?」
恭子がドリスキルへ再び連絡を入れてきた。
「婆さん、ガキどもを……」
ドリスキルは相談を持ちかけよう。が、それは途中で遮られる。
「艦長、戦線を離れて移動を開始しています」
ラズモネ・シャングリラのブリッジでオペレーターが恭子へ報告する。
ドリスキルがモニターをチェックすれば、コンフェッサーが一団から離れて動き出していた。
ヨルズが発見されたのか。仮に発見されたとすれば、行き先は森林地帯だ。
「ドリスキルさん、敵がそっちへ行ったザマス!」
「分かってる!」
恭子の声に、ドリスキルは怒気交じりに答える。
気付けば、ドリスキルは酒を一口も飲んでいなった。
リプレイ本文
「アスガルドのって……この間の強化人間達か……っ!」
キヅカ・リク(ka0038)は、森を背に魔導型デュミナス『インスレーター・SF』のアクティブブラスターを始動させた。
最前線ではラズモネ・シャングリラの防衛部隊が強化人間と衝突。既にラズモネ・シャングリラ側は東の森林地帯に奇襲部隊を配備。長距離から奇襲砲撃を行う手筈となっていた。
だが、その奇襲に気付いた強化人間の一部隊が森林地帯へ接近。
奇襲部隊に属していたハンター達が動き出す瞬間であった。
「丘、行方不明の子供達……ふん、ハーメルンの笛吹き男かっつーの。嫌な感じだぜ」
ラスティ(ka1400)もキヅカの動きに注視する。。
R7エクスシア『スカラー』を森へ潜ませて、強化人間の駆る新型CAM『コンフェッサー カスタム』の動きを見定めていた。
強化人間の失踪には何者かが存在している。
まさに『ハーメルンの笛吹き男』が、強化人間の子供達を先導している。この一件に関わる黒幕の存在を感じ取りながら、静かに息を潜めていた。
「ま、黒幕がいるならそれでもいいさ。あたしらは精々稼がせてもらうぜ」
ラスティの相棒リコ・ブジャルド(ka6450)もユニット用ギリースーツでR7エクスシア『トラバントII』を森に潜ませていた。
リコは伝波増幅で強化人間のトランシーバを傍受。情報を密かに盗聴しようとしていた。だが、情報を探り当てる前に敵が森へと接近してしまう状況となっていた。森林地帯に潜むハンターが多かった分、キヅカ一人で敵の侵攻を抑えるのは難しかったようだ。
ならば、思い切ってリコは戦略を変更する。
「要はヨルズを叩かなければいいんだろ? なら、やる事は分かりきってるな」
リコは次なる行動の準備に入る。
敵が奇襲砲撃を行う予定の機体――戦車型CAM『ヨルズ』を狙い始めるようであれば事態は深刻だ。
もし、ヨルズが破損すれば、防衛部隊への奇襲砲撃が成立しない。防衛部隊も撃破されるならばと全力で抵抗すれば強化人間側へ被害が及ぶ事は免れない。
強化人間達を『無事に』制圧する為には奇襲砲撃が必須なのだ。
だが――事態は、もう少し複雑であった。
「こちらヤタガラスからヨルズへ! 何やってんですか!」
魔導アーマー「ヘイムダル」『ヤタガラス』のクレール・ディンセルフ(ka0586)は、悲鳴にも似た声を上げる。
無理もない。
先程から予定していた作戦開始時刻は経過している。
にも関わらず、ヨルズは砲撃をする気配は無い。
必死でクレールが呼び掛けているのだが、先程から応答する気配がまったくないのだ。
クレールは必死になってトランシーバーに向かって話し掛ける。
「あの子達がこの上、人的被害でも出そうものなら、連れ帰っても弁護しようがありません! 新型相手に被害ゼロで、あの子達を生かして凌ぐなんて、それこそヨルズの奇襲砲撃でもなければ無理です!
飲酒運転でも何でもいいから、しっかりして下さい!」
クレールの言葉は、間違いなく事実だろう。
事情は不明だが、失踪した強化人間がラズモネ・シャングリラと交戦。既に統一地球連合宙軍からは『強化人間の撃破許可』が下ったという話も伝わっている。
ラズモネ・シャングリラの艦長である森山恭子(kz0216)が今は強化人間の保護を打ち出して押さえているようだが、防衛部隊に存在を与えたとなれば連合宙軍が黙っていない。強化人間の処罰を巡って権力争いは激化。恭子にも何らかの処罰が下るだろう。
何より、保護した強化人間の子供達がどうなるか想像するのも恐ろしい。
「…………くそっ」
クレールのトランシーバから聞こえたのは、ヨルズのパイロットであるジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉の悪態だった。
一体、何があったのか。
それはクレールにも分からない。
「今はおっさんは放っておけ。森に奴らが近づいてきたぜ」
リコの声がトランシーバから響き渡る。
クレールが顔を上げれば、森のすぐ近くにまでコンフェッサーが接近している。
「きっとあの子達に何かあったんだ……。それを知る為にも、まずは彼らを止めなくちゃね。
大丈夫、俺達なら絶対あの子達を極力傷つけずに止められる。
さぁ、気合い入れて行くよ!」
ジュード・エアハート(ka0410)とユグディラ『クリム』が森の中を移動する。
木々の隙間からジュードがガントレット「アナタラクシ」を龍弓「シ・ヴリス」を狙い撃つ。クリムもジュードの後方から聖弓「ルドラ」を撃ち続ける。
相手は新型CAMのコンフェッサー。それでも敵の目を惹いてヨルズから注意を逸らす事ができる。
そして、それに呼応するように各機も行動を開始する。
「始めるか! たっぷり稼がせてもらうぜ」
「ああ。ついでに悪ガキ共を連れて帰ってやるか」
各々が、強化人間の子供達を巡って動き出す。
ドゥーン・ヒルでのもう一つの戦いは、こうして幕を開けた。
●
「迎撃……すればいいんだよね」
ランディのコンフェッサーに装備されたマテリアルキャノンが轟音を発する。
振動と共に発射された砲弾は、インスレーター・SFの近くで炸裂。地面を大きく抉った。
それでもキヅカはアクティブスラスターでランディへの接近を止める気配は無い。
「ったく……よりにもよってこっちに気付くって、余程勘が良いっていう事か。気を抜いていると当てられるなぁ」
キヅカは、前を見据えた。
その言葉はキヅカがランディに抱いた率直な感想だ。砲撃に対するセンスも悪くは無い。磨けば光る。そう言っても差し支えないだろう。
――しかし。
「とにかく、生きて連れて帰らなきゃ。怯えても、震えても始まらない。
……変えられるのは、僕達だけなんだ」
再びランディのマテリアルキャノンが発射するタイミングを推測して、一気に機体を前進させる。
砲撃仕様の機体の弱点は、近距離にある。
砲撃した直後に襲う機体への反動。どうしても一瞬、脚で踏ん張る必要がある。そこをアクティブスラスターで一気に詰めて叩く。狙うは両手かバックパックの駆動系、行動不能に陥らせて保護に持ち込みたい。
「させない。させたら、いけないって教わったから」
キヅカが飛び込んだタイミングは悪くなかった。
それでも、想定よりも早くコンフェッサーが次の行動に出る。
エース機――肩に入った青い三本のラインは伊達ではないようだ。
「思ったよりも反応がいい……だがっ!」
コンフェッサーの疑似マテリアルフィスト。
弱点を狙い撃つ一撃。当たればダメージとなっていたかもしれないが、来ると分かっていれば難しい事ではない。砲撃タイプへと強引な換装を行った結果、接近すれば胸部バルカン、疑似マテリアルフィスト、疑似マテリアルネットの三択である。
もし、瞬時に反応するとすればランディが選択するのは疑似マテリアルフィストだとキヅカは予測したのだ。
「止められたのか」
コンフェッサーの拳はフライトシールド「プリドゥエン」によって受け止められる。
その瞬間、キヅカは機導の徒でコンフェッサーを見定める。
自爆の可能性を考えたからだ。戦いの中でランディが自爆を選択すれば、全員無事につれて帰るという願いは達成できない事になる。
「自爆装置は感じられないか。でも、油断はできない」
キヅカが確認する限り、自爆装置のようなものは発見できなかった。
しかし、もしラスティやリコの指摘する通り『ハーメルンの笛吹き男』が存在するのであれば、自爆装置以外でランディの口を封じる事も考えられる。
「厄介な相手だ。それでも、ここで退く訳にはいかないんだ」
キヅカの脳裏に浮かぶのは、先日赴いた強化人間研究施設「アスガルド」の一場面。
屈託の無い子供達の笑顔。
あの笑顔を取り戻す為――キヅカは、インスレーター・SFのアクティブスラスターを再び起動させる。
●
戦闘中でありながら、マリィア・バルデス(ka5848)は『らしくない』行動に出た。
「中尉を説得する。五分……いや、三分頼む」
中尉――ドリスキルが乗る戦車型CAM「ヨルズ」の横に姿をみせた。
CAMにも乗らず、生身で現れたマリィア。
森の先には強化人間の乗る「コンフェッサー」がハンターと交戦している。
そう、ここは戦場。
その中でマリィアは、ヨルズの射線を遮らないように立っている。
「ば、馬鹿野郎っ! CAMはどうした! ここは戦場……」
ドリスキルは、マリィアへの言葉を抑え込んだ。
周囲のハンターが自分に気に懸けてくれていたのは理解できていた。だが、それでも強化人間の子供達にどう対処すれば良いか悩んでいた。
このまま黙っていては、作戦は失敗する。
そんな中、マリィアは敢えて自分の姿をヨルズの前に晒した。
「ジェイミー、馬鹿な人。出ていらっしゃいな。貴方の顔を見て話したいの」
「珍しく女の顔を見せてくれたか。そういう顔は酒場かベッドで拝みたかったな」
ヨルズのハッチを開けるドリスキル。
ドリスキルも軽口を叩いてはいるが、この状況が異常事態であると理解していた。
「ありがとう、出て来てくれて」
「レディの願いは断るなって死んだ親父から言われていたからな」
「お酒、飲んでないのね」
「……ドクターから止められているんだ。ホットミルクでも飲んでろ、だとさ」
二人が話している間にも、近くでも大きな爆発。
空気が、激しく震動する。
「助けて欲しいの……貴方の嫌いなCAMに乗っている子供達を、助けたいの」
懇願。
そう表現しても差し支えのない、マリィアの言葉。
もし、マリィアがドリスキルを騙そうとしているなら、マリィアは女優となるべきだ。主演女優賞も夢ではない。
マリィアの指先が、そっとドリスキルの手に触れる。僅かな震えが、ドリスキルに伝わる。
「全員か? 姫は無茶な願いを望まれるな」
「貴方の腕なら、CAMの脚だけ吹き飛ばせるはずよ。そうすれば、子供達をCAMから降ろしてあげられる。狂気感染の治療だってすぐ受けられるようになる」
マリィアは見てきた。
ドリスキルという男が、ヨルズという戦車型CAMで様々な敵と戦った事を。
強化人間でも、ハンターに負けない戦いを見せた事を。
彼なら、子供達を救う事ができるはずだ。
「貴方、自分で狙いをつけるのは得意だって言ったわ。凄腕の戦車兵だって。ピッチャーで4番でそういうのは得意だって……」
「ああ。ついでにお前のメモに付け加えておいてくれ。オリンピックに出れば、金メダルでコインマジックを見せられるってな」
相変わらずの軽口を叩くドリスキル。
だが、その心情は嵐に遭った小舟のよう。常に大波に攫われるかもしれない。
それが分かるマリィアだからこそ、顔を歪めたのかもしれない。
「ジェイミー、貴方は良い男だから……女狐のような私に騙されてくれるでしょう? お願い、助けて」
マリィアの視界が歪む。
ドリスキルにとって、マリィアが騙そうとしている等、どうでも良かった。
一人の女が、目に涙を浮かべて助けを求めている。
ここで奮い立たなければ、男じゃない。
「来いっ!」
マリィアをヨルズの操縦席へ引き込むドリスキル。
狭い操縦席に押し込まれる形となったマリィア。体勢を立て直す横で、ドリスキルはアルミ製の水筒を開くと一気にウイスキーを流し込んだ。
「調子が出て来たみたいね。……いける?」
「やれって見せるさ。姫の願いを叶えるのが、王子の仕事だ」
「王子、ね。どちらかと言えば王様かしら」
砲身の角度を調整しながら、各計器に目を配るドリスキル。
「ラブシーンは終わったかよ? 終わったなら、さっさと戦線復帰しやがれ!」
「ドリスキルさん、奇襲砲撃をお願いします! 戦車の力、見せて下さい!」
ラスティとクレールの声が通信機から流れ混んでくる。
既にモニター上では、ヨルズ狙うコンフェッサーと対峙するハンター達が奮戦を見せていた。
ヨルズを奇襲砲撃へ集中させるべく動いていたのだ。
「任せておけ。これが終わったら好きなだけ飯を食わせてやるよ……八重樫の奢りでな」
●
一際大きな轟音が、森林地帯に木霊する。
ヨルズの155mm大口径滑空砲が、防衛部隊に向けて発射されたのだ。
――奇襲砲撃成功。
それは、森林地帯でヨルズを守るように戦っていたハンター達が攻勢へ転じる合図にもなった。
「けっけっけ。騙まし討ちはチェシャキャット様の得意技だぜ!」
ヨルズの方向へ向いたコンフェッサー目掛けて、リコのトラバントIIが強襲。
フライトフレーム「アディード」で飛行しながらアクティブスタスターを全開。森の木々をなぎ倒しながら、コンフェッサーを側面から襲い掛かる。
「うわっ!」
思わず情けない声を上げる強化人間。
その瞬間、リコは直感的に察した。強化人間達は確かに戦闘訓練は受けてきたのだろうが、実戦経験はほとんどない。
つまり、駆け出しの新兵のような対応しかできない者も多い。
だが、注意も必要だ。反応が鈍くや急な対処が遅い分、当たり所が悪ければ一発で死亡する恐れもある。
「ラスティ。こりゃ思ったよりも楽に稼げそうだ。こいつら、マニュアルな動きしかできねぇぞ」
地面へ引き倒したコンフェッサーに向けて試作錬機剣「NOWBLADE」の一撃。
脚部に向けて振り下ろされた刃は、確実に脚部の機能を奪う。相手を行動不能にした上で、強化人間を保護しようという腹づもりだ。
「はーん、それでか。だから、こいつら直線的な動きが多い訳だ」
リコの強襲が成功した事で、反射的に視線を送ったコンフェッサー。
その隙を突いて、ラスティはプラズマボム「ネブリーナ」を投擲。
本来であれば機体へ直撃させるべきなのだが、今回は強化人間の保護が目的だ。
敢えて直撃はさせず、爆風でコンフェッサーを揺さぶる。相手が新兵同然なら、これで十分だ。
「て、敵の爆弾!?」
コンフェッサーの直前で爆発するネブリーナ。
コンフェッサーは頭部を腕でガードする姿勢を取った。しかし、その体勢は接近戦が信条のコンフェッサーが脚を止める事と同義であった。
「覚えとけ! プラズマボクはこういう使い方もあるぜ!」
コンフェッサーに近づいたスカラーは、試作錬機剣「NOWBLADE」の一撃を脚部へ叩き込む。
体の支えを失ったコンフェッサーは、派手に地面へと転ぶ。
確実に行動不能にして強化人間の動きを止めていく。
「リコ、そっちはどうだ?」
「上々。機体性能は高いが、動かす奴が新兵なら苦労はせずに済みそうだ」
経験値が物を言う戦いへ持ち込む。
それがハンター側に勝機をもたらす鍵かもしれない。
●
「さぁ、あれだけ啖呵を切ったんだから……みっともない砲撃はできないよ、ヤタガラス!」
クレールのヤタガラスも支援砲撃を開始する。
ホログラフィックサイト「ゼーエン」、高性能照準装置「ベルサーリオ」でコンフェッサーを照準に収める。さらにテールスタビライザーBによる尾部スタビライザーを地面に固定。さらにアルケミックパワーでマテリアルを増幅させる。
「狙いは脚部……対空砲発射!」
ヤタガラスの対空砲CC-01が火を噴いた。
今回は撃破が狙いではない。対空砲の砲弾が一部でも脚部に命中すればいい。それで敵の駆動系にダメージを与えられれば、リコやラスティが強化人間を保護しやすくなるからだ。
相手は戦闘経験の少ない強化人間。動きも比較的読みやすい。おかげで動きを先読みして命中させる事も難しくは無い。
ヨルズを狙うコンフェッサーへ適確に命中させていく。
「クレール、一機が側面から襲うつもりだ!」
「え?」
リコがクレールのトランシーバーへ通信を入れた。
その言葉を受け、クレールは反射的にヤタガラスをその場から飛び退かせた。
そこへ投げ込まれたのは――疑似マテリアルネット。
ネットでヤタガラスの動きを封じてから、疑似マテリアルフィストで追撃を行うつもりだったのだろう。
コンフェッサーがゆっくりとした足取りでヤタガラスへと近づいていく。
敵数に対して防衛側の戦力が少ない為、森へ接近する機体が現れたようだ。
「行くよ、クリム」
事態に気付いたジュードとクリムは、クレールの救出へ動き出す。
龍弓「シ・ヴリス」でリトリビューションを発動。天に向かって一斉に放たれた矢は、マテリアルを纏って光の雨を降り注ぐ。
コンフェッサーの鋼の体に命中し、激しい金属の衝突音が木霊する。
さらにその隙に猫たちの挽歌を奏で、強化人間の攻撃的な気分を緩和させようと試みる。
「クレールさん、大丈夫?」
「心配ありがとう。だけど、ここで踏ん張らなきゃ」
クレールは、向き直った。
今が、まさに戦う時――クレールは、猫たちの挽歌で動きを止めているコンフェッサーに狙いを定める。
「被害ゼロで、あの子達を生かして凌ぐ……! 自分で守れなきゃ女が廃る!! ……ヤタガラァァス!」
クレールの叫び。
それに呼応するかのように、ヤタガラスは重機関銃「ラワーユリッヒNG5」でコンフェサーの脚部を狙う。
撃ち出される弾丸が、コンフェッサーの脚を穿つ。
気付けば、コンフェッサーの間接部から煙を放ち始めていた。
「これで一機。だけど、まだエースが……」
ジュードは、森から視線を逸らした。
その先にはエースと戦うキヅカの機体があった。
●
ランディは良いパイロットになる。
それがキヅカの見立てだ。
だが、それは十分な経験を積んだ上での話だ。
既に多くの戦いを経たキヅカも、ランディの戦い方が新兵のそれに近いと気付いている。
「こっちも後少しだ。そろそろそっちも終わらせろよ」
ラスティからの声。
他のコンフェッサーを抑える事ができたようだ。
確かに性能の高い機体だ。
だが、だからこそ未熟なランディが操縦するには残念すぎた。
「当たらない!?」
ランディの声に焦りが見える。
今までアスガルドで訓練していた時には砲撃も疑似マテリアルフィストも簡単に命中していたのだろう。
しかし、相手は数々の修羅場を潜ったハンター。今までの相手とは段違いだ。
「来るな!」
至近距離からの胸部バルカン。
キヅカを接近された上での反撃だ。
それでも、キヅカはその攻撃を先読みしている。
「オファイン起動……ここからもう一段ギアを上げる……出来るか、今の僕に。
いや、やれる……今の僕とこいつなら。
行くよ、インスレーター!」
バルカンが命中する前に、アクティブスラスターで側面へ回り込むキヅカ。
ランディが振り返るよりも早く、斬艦刀「雲山」の一撃が脚部へと叩き込まれる。
さらに肩部のマテリアルキャノンにも一刀。強烈な一撃にコンフェッサーは地面へと倒れ込んだ。
「なんで!? 動いて! お願いだから! ここで倒れられないのに!」
ランディの叫びが、キヅカの耳にも届く。
足元で悶えるランディを見ながら、キヅカはゆっくりと息を整える。
「はぁ……はぁ……。こちらキヅカ、エース機を抑えた。
ジュード、残る強化人間の保護をシャングリラに急がせてくれ。戦っていて……あまり良い気分じゃないんだ」
●
「皆さんに一つ報告があるザマス」
エース機を機能停止させた後、ラズモネ・シャングリラ艦長、森山恭子(kz0216)からハンターへある報告が行われた。
それは、半ば予想されながらも――聞きたくはなかった報告。
「一部戦域にて強化人間の子が……死亡したザマス」
吐き出すように紡がれる恭子の言葉。
八重樫や森林地帯のCAMではないものの、一部戦域で強化人間の子供に犠牲が出たようだ。統一地球連合宙軍は強化人間の反乱として戦いを処理するつもりだったようだが、恭子にとっては出したくは無かった犠牲だった。
「でも、ハンターの皆さんをが悪いとは思ってないザマス。好き好んで子供達に手をかけるハンターはいない。止む無く倒さなければならなかった。あたくしはそう信じてるザマス。
裏切り者としてこの世界から居場所を失うより、ここで止める事が……あの子達にとって幸せだった。でも……」
時折漏れる恭子の吐息までは、ハンターの耳に通信越しで届く。
その言葉にならない瞬間、どのような感情が恭子の中にあったのか。
「でも、あたくしは……あの子達を、アスガルドに返してあげたかった。戦う前の、アスガルドで見た笑顔を、あたくしは守ってあげたかったザマス」
起こった事は、もう戻らない。
そこにあるのは後悔なのか。
――やるしかなかった。自分にそう言い聞かせるしかない。
行き場のない感情は、言葉に乗ってハンターの耳に届いた。
●
ドゥーン・ヒルでの戦いは終結した。
別戦域でやむを得ない犠牲が出てしまったものの、一部の強化人間を保護する事はできた。
だが、安心するには早すぎる。
「あの子達も生かして凌ぐ……それはできたんだけどね」
クレールの視界に入っているのは、担架で運ばれる子供達。保護されたものの、その全員が意識を失って目を覚まさない。
財団がアスガルドへ彼らを輸送する手筈だが、目を醒ますかは分からないらしい。
「俺達は十分にやった。だけど……」
ジュードの横で、クリムは哀しそうな瞳を浮かべる。
予想通りの戦果を上げたものの、昏睡状態の子供達を前にハンター達は何もできない。唯一できたのは、機導浄化術・浄癒を強化人間の子へ使ったことだ。それも特に変化は無かったのだが。
一体、彼らに何が起こったのだろうか。
「……まだまだ稼げそうだな」
「ああ。こりゃ、あの話もあながち間違ってねぇかもな」
リコとラスティは交わした会話。
この事件には、黒幕がいる。
ランディも黒幕にとっては、ただの駒だとすれば――。
事件はまだ、始まったばかりなのかもしれない。
「『ハーメルンの笛吹男』、か」
そう呟いたキヅカの目の前で、ランディを乗せた財団の輸送車が走り出した。
●
「あなたからご連絡をいただけるとは思いませんでした。どういう心境の変化でしょうか」
「もう、戦車だCAMだと言ってる場合じゃねぇ。敵はもっと厄介になってやがる」
「では、機体をアスガルドへ移送します」
「どれぐらいかかる?」
「半年程でしょうか」
「二ヶ月で上げろ。女と約束したんだ。ガキ共を助けるってな」
キヅカ・リク(ka0038)は、森を背に魔導型デュミナス『インスレーター・SF』のアクティブブラスターを始動させた。
最前線ではラズモネ・シャングリラの防衛部隊が強化人間と衝突。既にラズモネ・シャングリラ側は東の森林地帯に奇襲部隊を配備。長距離から奇襲砲撃を行う手筈となっていた。
だが、その奇襲に気付いた強化人間の一部隊が森林地帯へ接近。
奇襲部隊に属していたハンター達が動き出す瞬間であった。
「丘、行方不明の子供達……ふん、ハーメルンの笛吹き男かっつーの。嫌な感じだぜ」
ラスティ(ka1400)もキヅカの動きに注視する。。
R7エクスシア『スカラー』を森へ潜ませて、強化人間の駆る新型CAM『コンフェッサー カスタム』の動きを見定めていた。
強化人間の失踪には何者かが存在している。
まさに『ハーメルンの笛吹き男』が、強化人間の子供達を先導している。この一件に関わる黒幕の存在を感じ取りながら、静かに息を潜めていた。
「ま、黒幕がいるならそれでもいいさ。あたしらは精々稼がせてもらうぜ」
ラスティの相棒リコ・ブジャルド(ka6450)もユニット用ギリースーツでR7エクスシア『トラバントII』を森に潜ませていた。
リコは伝波増幅で強化人間のトランシーバを傍受。情報を密かに盗聴しようとしていた。だが、情報を探り当てる前に敵が森へと接近してしまう状況となっていた。森林地帯に潜むハンターが多かった分、キヅカ一人で敵の侵攻を抑えるのは難しかったようだ。
ならば、思い切ってリコは戦略を変更する。
「要はヨルズを叩かなければいいんだろ? なら、やる事は分かりきってるな」
リコは次なる行動の準備に入る。
敵が奇襲砲撃を行う予定の機体――戦車型CAM『ヨルズ』を狙い始めるようであれば事態は深刻だ。
もし、ヨルズが破損すれば、防衛部隊への奇襲砲撃が成立しない。防衛部隊も撃破されるならばと全力で抵抗すれば強化人間側へ被害が及ぶ事は免れない。
強化人間達を『無事に』制圧する為には奇襲砲撃が必須なのだ。
だが――事態は、もう少し複雑であった。
「こちらヤタガラスからヨルズへ! 何やってんですか!」
魔導アーマー「ヘイムダル」『ヤタガラス』のクレール・ディンセルフ(ka0586)は、悲鳴にも似た声を上げる。
無理もない。
先程から予定していた作戦開始時刻は経過している。
にも関わらず、ヨルズは砲撃をする気配は無い。
必死でクレールが呼び掛けているのだが、先程から応答する気配がまったくないのだ。
クレールは必死になってトランシーバーに向かって話し掛ける。
「あの子達がこの上、人的被害でも出そうものなら、連れ帰っても弁護しようがありません! 新型相手に被害ゼロで、あの子達を生かして凌ぐなんて、それこそヨルズの奇襲砲撃でもなければ無理です!
飲酒運転でも何でもいいから、しっかりして下さい!」
クレールの言葉は、間違いなく事実だろう。
事情は不明だが、失踪した強化人間がラズモネ・シャングリラと交戦。既に統一地球連合宙軍からは『強化人間の撃破許可』が下ったという話も伝わっている。
ラズモネ・シャングリラの艦長である森山恭子(kz0216)が今は強化人間の保護を打ち出して押さえているようだが、防衛部隊に存在を与えたとなれば連合宙軍が黙っていない。強化人間の処罰を巡って権力争いは激化。恭子にも何らかの処罰が下るだろう。
何より、保護した強化人間の子供達がどうなるか想像するのも恐ろしい。
「…………くそっ」
クレールのトランシーバから聞こえたのは、ヨルズのパイロットであるジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉の悪態だった。
一体、何があったのか。
それはクレールにも分からない。
「今はおっさんは放っておけ。森に奴らが近づいてきたぜ」
リコの声がトランシーバから響き渡る。
クレールが顔を上げれば、森のすぐ近くにまでコンフェッサーが接近している。
「きっとあの子達に何かあったんだ……。それを知る為にも、まずは彼らを止めなくちゃね。
大丈夫、俺達なら絶対あの子達を極力傷つけずに止められる。
さぁ、気合い入れて行くよ!」
ジュード・エアハート(ka0410)とユグディラ『クリム』が森の中を移動する。
木々の隙間からジュードがガントレット「アナタラクシ」を龍弓「シ・ヴリス」を狙い撃つ。クリムもジュードの後方から聖弓「ルドラ」を撃ち続ける。
相手は新型CAMのコンフェッサー。それでも敵の目を惹いてヨルズから注意を逸らす事ができる。
そして、それに呼応するように各機も行動を開始する。
「始めるか! たっぷり稼がせてもらうぜ」
「ああ。ついでに悪ガキ共を連れて帰ってやるか」
各々が、強化人間の子供達を巡って動き出す。
ドゥーン・ヒルでのもう一つの戦いは、こうして幕を開けた。
●
「迎撃……すればいいんだよね」
ランディのコンフェッサーに装備されたマテリアルキャノンが轟音を発する。
振動と共に発射された砲弾は、インスレーター・SFの近くで炸裂。地面を大きく抉った。
それでもキヅカはアクティブスラスターでランディへの接近を止める気配は無い。
「ったく……よりにもよってこっちに気付くって、余程勘が良いっていう事か。気を抜いていると当てられるなぁ」
キヅカは、前を見据えた。
その言葉はキヅカがランディに抱いた率直な感想だ。砲撃に対するセンスも悪くは無い。磨けば光る。そう言っても差し支えないだろう。
――しかし。
「とにかく、生きて連れて帰らなきゃ。怯えても、震えても始まらない。
……変えられるのは、僕達だけなんだ」
再びランディのマテリアルキャノンが発射するタイミングを推測して、一気に機体を前進させる。
砲撃仕様の機体の弱点は、近距離にある。
砲撃した直後に襲う機体への反動。どうしても一瞬、脚で踏ん張る必要がある。そこをアクティブスラスターで一気に詰めて叩く。狙うは両手かバックパックの駆動系、行動不能に陥らせて保護に持ち込みたい。
「させない。させたら、いけないって教わったから」
キヅカが飛び込んだタイミングは悪くなかった。
それでも、想定よりも早くコンフェッサーが次の行動に出る。
エース機――肩に入った青い三本のラインは伊達ではないようだ。
「思ったよりも反応がいい……だがっ!」
コンフェッサーの疑似マテリアルフィスト。
弱点を狙い撃つ一撃。当たればダメージとなっていたかもしれないが、来ると分かっていれば難しい事ではない。砲撃タイプへと強引な換装を行った結果、接近すれば胸部バルカン、疑似マテリアルフィスト、疑似マテリアルネットの三択である。
もし、瞬時に反応するとすればランディが選択するのは疑似マテリアルフィストだとキヅカは予測したのだ。
「止められたのか」
コンフェッサーの拳はフライトシールド「プリドゥエン」によって受け止められる。
その瞬間、キヅカは機導の徒でコンフェッサーを見定める。
自爆の可能性を考えたからだ。戦いの中でランディが自爆を選択すれば、全員無事につれて帰るという願いは達成できない事になる。
「自爆装置は感じられないか。でも、油断はできない」
キヅカが確認する限り、自爆装置のようなものは発見できなかった。
しかし、もしラスティやリコの指摘する通り『ハーメルンの笛吹き男』が存在するのであれば、自爆装置以外でランディの口を封じる事も考えられる。
「厄介な相手だ。それでも、ここで退く訳にはいかないんだ」
キヅカの脳裏に浮かぶのは、先日赴いた強化人間研究施設「アスガルド」の一場面。
屈託の無い子供達の笑顔。
あの笑顔を取り戻す為――キヅカは、インスレーター・SFのアクティブスラスターを再び起動させる。
●
戦闘中でありながら、マリィア・バルデス(ka5848)は『らしくない』行動に出た。
「中尉を説得する。五分……いや、三分頼む」
中尉――ドリスキルが乗る戦車型CAM「ヨルズ」の横に姿をみせた。
CAMにも乗らず、生身で現れたマリィア。
森の先には強化人間の乗る「コンフェッサー」がハンターと交戦している。
そう、ここは戦場。
その中でマリィアは、ヨルズの射線を遮らないように立っている。
「ば、馬鹿野郎っ! CAMはどうした! ここは戦場……」
ドリスキルは、マリィアへの言葉を抑え込んだ。
周囲のハンターが自分に気に懸けてくれていたのは理解できていた。だが、それでも強化人間の子供達にどう対処すれば良いか悩んでいた。
このまま黙っていては、作戦は失敗する。
そんな中、マリィアは敢えて自分の姿をヨルズの前に晒した。
「ジェイミー、馬鹿な人。出ていらっしゃいな。貴方の顔を見て話したいの」
「珍しく女の顔を見せてくれたか。そういう顔は酒場かベッドで拝みたかったな」
ヨルズのハッチを開けるドリスキル。
ドリスキルも軽口を叩いてはいるが、この状況が異常事態であると理解していた。
「ありがとう、出て来てくれて」
「レディの願いは断るなって死んだ親父から言われていたからな」
「お酒、飲んでないのね」
「……ドクターから止められているんだ。ホットミルクでも飲んでろ、だとさ」
二人が話している間にも、近くでも大きな爆発。
空気が、激しく震動する。
「助けて欲しいの……貴方の嫌いなCAMに乗っている子供達を、助けたいの」
懇願。
そう表現しても差し支えのない、マリィアの言葉。
もし、マリィアがドリスキルを騙そうとしているなら、マリィアは女優となるべきだ。主演女優賞も夢ではない。
マリィアの指先が、そっとドリスキルの手に触れる。僅かな震えが、ドリスキルに伝わる。
「全員か? 姫は無茶な願いを望まれるな」
「貴方の腕なら、CAMの脚だけ吹き飛ばせるはずよ。そうすれば、子供達をCAMから降ろしてあげられる。狂気感染の治療だってすぐ受けられるようになる」
マリィアは見てきた。
ドリスキルという男が、ヨルズという戦車型CAMで様々な敵と戦った事を。
強化人間でも、ハンターに負けない戦いを見せた事を。
彼なら、子供達を救う事ができるはずだ。
「貴方、自分で狙いをつけるのは得意だって言ったわ。凄腕の戦車兵だって。ピッチャーで4番でそういうのは得意だって……」
「ああ。ついでにお前のメモに付け加えておいてくれ。オリンピックに出れば、金メダルでコインマジックを見せられるってな」
相変わらずの軽口を叩くドリスキル。
だが、その心情は嵐に遭った小舟のよう。常に大波に攫われるかもしれない。
それが分かるマリィアだからこそ、顔を歪めたのかもしれない。
「ジェイミー、貴方は良い男だから……女狐のような私に騙されてくれるでしょう? お願い、助けて」
マリィアの視界が歪む。
ドリスキルにとって、マリィアが騙そうとしている等、どうでも良かった。
一人の女が、目に涙を浮かべて助けを求めている。
ここで奮い立たなければ、男じゃない。
「来いっ!」
マリィアをヨルズの操縦席へ引き込むドリスキル。
狭い操縦席に押し込まれる形となったマリィア。体勢を立て直す横で、ドリスキルはアルミ製の水筒を開くと一気にウイスキーを流し込んだ。
「調子が出て来たみたいね。……いける?」
「やれって見せるさ。姫の願いを叶えるのが、王子の仕事だ」
「王子、ね。どちらかと言えば王様かしら」
砲身の角度を調整しながら、各計器に目を配るドリスキル。
「ラブシーンは終わったかよ? 終わったなら、さっさと戦線復帰しやがれ!」
「ドリスキルさん、奇襲砲撃をお願いします! 戦車の力、見せて下さい!」
ラスティとクレールの声が通信機から流れ混んでくる。
既にモニター上では、ヨルズ狙うコンフェッサーと対峙するハンター達が奮戦を見せていた。
ヨルズを奇襲砲撃へ集中させるべく動いていたのだ。
「任せておけ。これが終わったら好きなだけ飯を食わせてやるよ……八重樫の奢りでな」
●
一際大きな轟音が、森林地帯に木霊する。
ヨルズの155mm大口径滑空砲が、防衛部隊に向けて発射されたのだ。
――奇襲砲撃成功。
それは、森林地帯でヨルズを守るように戦っていたハンター達が攻勢へ転じる合図にもなった。
「けっけっけ。騙まし討ちはチェシャキャット様の得意技だぜ!」
ヨルズの方向へ向いたコンフェッサー目掛けて、リコのトラバントIIが強襲。
フライトフレーム「アディード」で飛行しながらアクティブスタスターを全開。森の木々をなぎ倒しながら、コンフェッサーを側面から襲い掛かる。
「うわっ!」
思わず情けない声を上げる強化人間。
その瞬間、リコは直感的に察した。強化人間達は確かに戦闘訓練は受けてきたのだろうが、実戦経験はほとんどない。
つまり、駆け出しの新兵のような対応しかできない者も多い。
だが、注意も必要だ。反応が鈍くや急な対処が遅い分、当たり所が悪ければ一発で死亡する恐れもある。
「ラスティ。こりゃ思ったよりも楽に稼げそうだ。こいつら、マニュアルな動きしかできねぇぞ」
地面へ引き倒したコンフェッサーに向けて試作錬機剣「NOWBLADE」の一撃。
脚部に向けて振り下ろされた刃は、確実に脚部の機能を奪う。相手を行動不能にした上で、強化人間を保護しようという腹づもりだ。
「はーん、それでか。だから、こいつら直線的な動きが多い訳だ」
リコの強襲が成功した事で、反射的に視線を送ったコンフェッサー。
その隙を突いて、ラスティはプラズマボム「ネブリーナ」を投擲。
本来であれば機体へ直撃させるべきなのだが、今回は強化人間の保護が目的だ。
敢えて直撃はさせず、爆風でコンフェッサーを揺さぶる。相手が新兵同然なら、これで十分だ。
「て、敵の爆弾!?」
コンフェッサーの直前で爆発するネブリーナ。
コンフェッサーは頭部を腕でガードする姿勢を取った。しかし、その体勢は接近戦が信条のコンフェッサーが脚を止める事と同義であった。
「覚えとけ! プラズマボクはこういう使い方もあるぜ!」
コンフェッサーに近づいたスカラーは、試作錬機剣「NOWBLADE」の一撃を脚部へ叩き込む。
体の支えを失ったコンフェッサーは、派手に地面へと転ぶ。
確実に行動不能にして強化人間の動きを止めていく。
「リコ、そっちはどうだ?」
「上々。機体性能は高いが、動かす奴が新兵なら苦労はせずに済みそうだ」
経験値が物を言う戦いへ持ち込む。
それがハンター側に勝機をもたらす鍵かもしれない。
●
「さぁ、あれだけ啖呵を切ったんだから……みっともない砲撃はできないよ、ヤタガラス!」
クレールのヤタガラスも支援砲撃を開始する。
ホログラフィックサイト「ゼーエン」、高性能照準装置「ベルサーリオ」でコンフェッサーを照準に収める。さらにテールスタビライザーBによる尾部スタビライザーを地面に固定。さらにアルケミックパワーでマテリアルを増幅させる。
「狙いは脚部……対空砲発射!」
ヤタガラスの対空砲CC-01が火を噴いた。
今回は撃破が狙いではない。対空砲の砲弾が一部でも脚部に命中すればいい。それで敵の駆動系にダメージを与えられれば、リコやラスティが強化人間を保護しやすくなるからだ。
相手は戦闘経験の少ない強化人間。動きも比較的読みやすい。おかげで動きを先読みして命中させる事も難しくは無い。
ヨルズを狙うコンフェッサーへ適確に命中させていく。
「クレール、一機が側面から襲うつもりだ!」
「え?」
リコがクレールのトランシーバーへ通信を入れた。
その言葉を受け、クレールは反射的にヤタガラスをその場から飛び退かせた。
そこへ投げ込まれたのは――疑似マテリアルネット。
ネットでヤタガラスの動きを封じてから、疑似マテリアルフィストで追撃を行うつもりだったのだろう。
コンフェッサーがゆっくりとした足取りでヤタガラスへと近づいていく。
敵数に対して防衛側の戦力が少ない為、森へ接近する機体が現れたようだ。
「行くよ、クリム」
事態に気付いたジュードとクリムは、クレールの救出へ動き出す。
龍弓「シ・ヴリス」でリトリビューションを発動。天に向かって一斉に放たれた矢は、マテリアルを纏って光の雨を降り注ぐ。
コンフェッサーの鋼の体に命中し、激しい金属の衝突音が木霊する。
さらにその隙に猫たちの挽歌を奏で、強化人間の攻撃的な気分を緩和させようと試みる。
「クレールさん、大丈夫?」
「心配ありがとう。だけど、ここで踏ん張らなきゃ」
クレールは、向き直った。
今が、まさに戦う時――クレールは、猫たちの挽歌で動きを止めているコンフェッサーに狙いを定める。
「被害ゼロで、あの子達を生かして凌ぐ……! 自分で守れなきゃ女が廃る!! ……ヤタガラァァス!」
クレールの叫び。
それに呼応するかのように、ヤタガラスは重機関銃「ラワーユリッヒNG5」でコンフェサーの脚部を狙う。
撃ち出される弾丸が、コンフェッサーの脚を穿つ。
気付けば、コンフェッサーの間接部から煙を放ち始めていた。
「これで一機。だけど、まだエースが……」
ジュードは、森から視線を逸らした。
その先にはエースと戦うキヅカの機体があった。
●
ランディは良いパイロットになる。
それがキヅカの見立てだ。
だが、それは十分な経験を積んだ上での話だ。
既に多くの戦いを経たキヅカも、ランディの戦い方が新兵のそれに近いと気付いている。
「こっちも後少しだ。そろそろそっちも終わらせろよ」
ラスティからの声。
他のコンフェッサーを抑える事ができたようだ。
確かに性能の高い機体だ。
だが、だからこそ未熟なランディが操縦するには残念すぎた。
「当たらない!?」
ランディの声に焦りが見える。
今までアスガルドで訓練していた時には砲撃も疑似マテリアルフィストも簡単に命中していたのだろう。
しかし、相手は数々の修羅場を潜ったハンター。今までの相手とは段違いだ。
「来るな!」
至近距離からの胸部バルカン。
キヅカを接近された上での反撃だ。
それでも、キヅカはその攻撃を先読みしている。
「オファイン起動……ここからもう一段ギアを上げる……出来るか、今の僕に。
いや、やれる……今の僕とこいつなら。
行くよ、インスレーター!」
バルカンが命中する前に、アクティブスラスターで側面へ回り込むキヅカ。
ランディが振り返るよりも早く、斬艦刀「雲山」の一撃が脚部へと叩き込まれる。
さらに肩部のマテリアルキャノンにも一刀。強烈な一撃にコンフェッサーは地面へと倒れ込んだ。
「なんで!? 動いて! お願いだから! ここで倒れられないのに!」
ランディの叫びが、キヅカの耳にも届く。
足元で悶えるランディを見ながら、キヅカはゆっくりと息を整える。
「はぁ……はぁ……。こちらキヅカ、エース機を抑えた。
ジュード、残る強化人間の保護をシャングリラに急がせてくれ。戦っていて……あまり良い気分じゃないんだ」
●
「皆さんに一つ報告があるザマス」
エース機を機能停止させた後、ラズモネ・シャングリラ艦長、森山恭子(kz0216)からハンターへある報告が行われた。
それは、半ば予想されながらも――聞きたくはなかった報告。
「一部戦域にて強化人間の子が……死亡したザマス」
吐き出すように紡がれる恭子の言葉。
八重樫や森林地帯のCAMではないものの、一部戦域で強化人間の子供に犠牲が出たようだ。統一地球連合宙軍は強化人間の反乱として戦いを処理するつもりだったようだが、恭子にとっては出したくは無かった犠牲だった。
「でも、ハンターの皆さんをが悪いとは思ってないザマス。好き好んで子供達に手をかけるハンターはいない。止む無く倒さなければならなかった。あたくしはそう信じてるザマス。
裏切り者としてこの世界から居場所を失うより、ここで止める事が……あの子達にとって幸せだった。でも……」
時折漏れる恭子の吐息までは、ハンターの耳に通信越しで届く。
その言葉にならない瞬間、どのような感情が恭子の中にあったのか。
「でも、あたくしは……あの子達を、アスガルドに返してあげたかった。戦う前の、アスガルドで見た笑顔を、あたくしは守ってあげたかったザマス」
起こった事は、もう戻らない。
そこにあるのは後悔なのか。
――やるしかなかった。自分にそう言い聞かせるしかない。
行き場のない感情は、言葉に乗ってハンターの耳に届いた。
●
ドゥーン・ヒルでの戦いは終結した。
別戦域でやむを得ない犠牲が出てしまったものの、一部の強化人間を保護する事はできた。
だが、安心するには早すぎる。
「あの子達も生かして凌ぐ……それはできたんだけどね」
クレールの視界に入っているのは、担架で運ばれる子供達。保護されたものの、その全員が意識を失って目を覚まさない。
財団がアスガルドへ彼らを輸送する手筈だが、目を醒ますかは分からないらしい。
「俺達は十分にやった。だけど……」
ジュードの横で、クリムは哀しそうな瞳を浮かべる。
予想通りの戦果を上げたものの、昏睡状態の子供達を前にハンター達は何もできない。唯一できたのは、機導浄化術・浄癒を強化人間の子へ使ったことだ。それも特に変化は無かったのだが。
一体、彼らに何が起こったのだろうか。
「……まだまだ稼げそうだな」
「ああ。こりゃ、あの話もあながち間違ってねぇかもな」
リコとラスティは交わした会話。
この事件には、黒幕がいる。
ランディも黒幕にとっては、ただの駒だとすれば――。
事件はまだ、始まったばかりなのかもしれない。
「『ハーメルンの笛吹男』、か」
そう呟いたキヅカの目の前で、ランディを乗せた財団の輸送車が走り出した。
●
「あなたからご連絡をいただけるとは思いませんでした。どういう心境の変化でしょうか」
「もう、戦車だCAMだと言ってる場合じゃねぇ。敵はもっと厄介になってやがる」
「では、機体をアスガルドへ移送します」
「どれぐらいかかる?」
「半年程でしょうか」
「二ヶ月で上げろ。女と約束したんだ。ガキ共を助けるってな」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/03/07 05:07:45 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/03/02 20:55:52 |