ゲスト
(ka0000)
【RH】黄金のがちょう
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/03/07 07:30
- 完成日
- 2018/03/10 11:10
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
研究施設「アスガルド」から失踪した強化人間達が現れたのは、ダンバー。
かつてイングランドの内戦にて戦場となったドゥーン・ヒルと呼ばれる小高い丘の上であった。
強化人間達は、何故このドゥーン・ヒルへ現れたのか。
強化人間達は、一体今まで何をしていたのか。
未だ少年少女の年齢である強化人間の子供達は沈黙を続けている。
そう、未だすべては謎に包まれたままなのだ。
事態収拾に駆り出されたラズモネ・シャングリラの面々が呼びかけを行っているものの、それに答えようとする素振りすら見せない。
――違和感。
強化人間達を前に感じた率直な感覚。
それは強化人間達を前にしたものならば、誰もが抱いたものだ。
おかしい、と口にしようとした直後――静寂は動乱へと移り変わる。
強化人間達は、一斉にラズモネ・シャングリラとハンター達に襲い掛かったのだ。
●
「総員、防御態勢。敵は新型のCAMだ……備えろ」
八重樫 敦(kz0056)は、魔導型ドミニオンで強化人間達と対峙していた。
試作型対VOID砲壁盾を構え、新型CAM「コンフェッサー カスタム」の襲撃を受け止めるつもりだ。
強化人間達は失踪する前に訓練でも使用していたCAMを奪っていた。
それがコンフェッサーの強化人間専用機――悪条件下での戦闘や格闘を視野にパイロットの行動をコンピュータが支援する事で覚醒者が操縦する機体に近付けたCAMだ。
性能は函館や鎌倉の歪虚CAMとは大きく異なると見るべきだろう。
「八重樫、後方にはラズモネ・シャングリラがある。こいつら、狙いはそれだ」
ハンターの一人がトランシーバーで八重樫に伝えてきた。
強化人間が進もうとする先には、ラズモネ・シャングリラが存在している。
ラズモネ・シャングリラが損傷すれば、特殊部隊「スワローテイル」の作戦行動にも大きな影響があるだろう。
「やはりか。直感的にシャングリラを狙ったのか?」
八重樫は自問自答する。
強化人間達が単に戦うだけなら、目の前の八重樫達を襲えばいい。
だが、強化人間達は八重樫達の防衛線を突破してラズモネ・シャングリラを狙っている。
それが意味する事は――何か。
「艦長、ラズモネ・シャングリラで反撃するのは待って下さい」
ハンターの一人がラズモネ・シャングリラ艦長森山 恭子()へ呼び掛けた。
八重樫が抱いた違和感を、ハンターも感じ取ったのだろう。
ラズモネ・シャングリラが強化人間達に反撃をすれば新型CAMであっても抵抗はできるだろう。
だが、それはCAMに乗っている強化人間達が死亡する可能性が飛躍的に上がる。
既に統一地球連合宙軍からも強化人間が攻撃してきた場合は、反撃しても良いという命令は出ている。
その命令があったとしても、恭子は一縷の望みをハンター達に託したかった。
「分かってるザマス。皆さんを信じているザマス。
ですが、皆さんもそのまま防戦一方という訳にはいかないザマス。……中尉、聞こえているザマスね?」
恭子は、戦車型CAM「ヨルズ」に騎乗するジェイミー・ドリスキル中尉へ通信を入れた。
最悪の事態に備えて、恭子は既に手を打っていた。
八重樫が強化人間と交戦を開始した段階で、側面へ回り込んでいたドリスキルが森林地帯からヨルズで強化人間を砲撃。
当たらなくても構わない。命中しても操縦席でなければ即死は免れるはずだ。重要な事は、ヨルズの砲撃で強化人間を別方向から攻撃する事だ。
前方への注意が逸れた段階で、八重樫達が攻勢に転じて強化人間達の無力化を狙うというものだ。可能な限り強化人間に被害を出さず、取り押さえる方針なのだが……。
「……ああ、聞こえてるよ」
「元気がないザマスね。大丈夫ザマスか?」
ドリスキルの声の調子を聞いて、恭子はその身を案じた。
ドリスキルも強化人間。アスガルドから失踪した子供達同様、強化人間化の手術を受けている。何らかの影響があると考えても不思議ではない。
だが、恭子の心配をドリスキルは否定する。
「いや、心配ねぇよ。女性に心配かけるなんて、俺らしくねぇな。妙齢を随分前に通り越した婆さんだけどよ」
「婆さんじゃないザマス。まだ還暦前ザマス。
……まあ、その調子なら大丈夫ザマスね。作戦通り頼んだザマスよ」
「…………」
ドリスキルは、恭子の通信に沈黙を持って答えた。
●
「団長、前方から猛スピードで接近する機体があります!」
ハンターの一人が八重樫に報告する。
八重樫が顔を上げると、一機のコンフェッサーが八重樫の目前にまで迫っていた。
既にコンフェッサーは大きく右腕を振りかぶっている。
「邪魔だーーー!」
疑似マテリアルフィストが壁盾に直撃。
ドミニオンの機体に伝わる振動が、一撃の重さを物語る。
明らかに――この一機だけが、特殊だ。
「この防御ラインを突破する気か? かなり無茶をする奴だな」
「どけー! 俺があのデッカい奴をぶっ叩くんだ! それで、お前らを地球から追い出してやる!」
コンフェッサーから聞こえてくるのは、子供の声。
やはり、行方不明となった強化人間であるのは間違いない。
どうやら、八重樫達を歪虚だと思い込んでいるようだ。
そこへ恭子が八重樫へ通信を入れてくる。
「その機体は、エース機のようザマス」
「エース機?」
「強化人間の中でも優秀な子には特別な機体を与えられていると財団から情報が入っているザマス。その子は……マルコスって名前みたいザマスね」
恭子によれば、一部の強化人間にはエース機として特別な機体を用意されていたようだ。マルコスには接近戦に特化した機体であり、ブーストと強化されたマテリアルフィスト、マテリアルナイフ等が主要武器のようだ。
「なるほど。いずれにしても、マルコスという子を無力化しなければならんようだな」
覚悟を決める八重樫。
森林地帯からドリスキルが砲撃してくれれば、マルコスの隙もできるはずなのだが……。
「見てろよ! 絶対お前達を倒してやるんだからな!」
かつてイングランドの内戦にて戦場となったドゥーン・ヒルと呼ばれる小高い丘の上であった。
強化人間達は、何故このドゥーン・ヒルへ現れたのか。
強化人間達は、一体今まで何をしていたのか。
未だ少年少女の年齢である強化人間の子供達は沈黙を続けている。
そう、未だすべては謎に包まれたままなのだ。
事態収拾に駆り出されたラズモネ・シャングリラの面々が呼びかけを行っているものの、それに答えようとする素振りすら見せない。
――違和感。
強化人間達を前に感じた率直な感覚。
それは強化人間達を前にしたものならば、誰もが抱いたものだ。
おかしい、と口にしようとした直後――静寂は動乱へと移り変わる。
強化人間達は、一斉にラズモネ・シャングリラとハンター達に襲い掛かったのだ。
●
「総員、防御態勢。敵は新型のCAMだ……備えろ」
八重樫 敦(kz0056)は、魔導型ドミニオンで強化人間達と対峙していた。
試作型対VOID砲壁盾を構え、新型CAM「コンフェッサー カスタム」の襲撃を受け止めるつもりだ。
強化人間達は失踪する前に訓練でも使用していたCAMを奪っていた。
それがコンフェッサーの強化人間専用機――悪条件下での戦闘や格闘を視野にパイロットの行動をコンピュータが支援する事で覚醒者が操縦する機体に近付けたCAMだ。
性能は函館や鎌倉の歪虚CAMとは大きく異なると見るべきだろう。
「八重樫、後方にはラズモネ・シャングリラがある。こいつら、狙いはそれだ」
ハンターの一人がトランシーバーで八重樫に伝えてきた。
強化人間が進もうとする先には、ラズモネ・シャングリラが存在している。
ラズモネ・シャングリラが損傷すれば、特殊部隊「スワローテイル」の作戦行動にも大きな影響があるだろう。
「やはりか。直感的にシャングリラを狙ったのか?」
八重樫は自問自答する。
強化人間達が単に戦うだけなら、目の前の八重樫達を襲えばいい。
だが、強化人間達は八重樫達の防衛線を突破してラズモネ・シャングリラを狙っている。
それが意味する事は――何か。
「艦長、ラズモネ・シャングリラで反撃するのは待って下さい」
ハンターの一人がラズモネ・シャングリラ艦長森山 恭子()へ呼び掛けた。
八重樫が抱いた違和感を、ハンターも感じ取ったのだろう。
ラズモネ・シャングリラが強化人間達に反撃をすれば新型CAMであっても抵抗はできるだろう。
だが、それはCAMに乗っている強化人間達が死亡する可能性が飛躍的に上がる。
既に統一地球連合宙軍からも強化人間が攻撃してきた場合は、反撃しても良いという命令は出ている。
その命令があったとしても、恭子は一縷の望みをハンター達に託したかった。
「分かってるザマス。皆さんを信じているザマス。
ですが、皆さんもそのまま防戦一方という訳にはいかないザマス。……中尉、聞こえているザマスね?」
恭子は、戦車型CAM「ヨルズ」に騎乗するジェイミー・ドリスキル中尉へ通信を入れた。
最悪の事態に備えて、恭子は既に手を打っていた。
八重樫が強化人間と交戦を開始した段階で、側面へ回り込んでいたドリスキルが森林地帯からヨルズで強化人間を砲撃。
当たらなくても構わない。命中しても操縦席でなければ即死は免れるはずだ。重要な事は、ヨルズの砲撃で強化人間を別方向から攻撃する事だ。
前方への注意が逸れた段階で、八重樫達が攻勢に転じて強化人間達の無力化を狙うというものだ。可能な限り強化人間に被害を出さず、取り押さえる方針なのだが……。
「……ああ、聞こえてるよ」
「元気がないザマスね。大丈夫ザマスか?」
ドリスキルの声の調子を聞いて、恭子はその身を案じた。
ドリスキルも強化人間。アスガルドから失踪した子供達同様、強化人間化の手術を受けている。何らかの影響があると考えても不思議ではない。
だが、恭子の心配をドリスキルは否定する。
「いや、心配ねぇよ。女性に心配かけるなんて、俺らしくねぇな。妙齢を随分前に通り越した婆さんだけどよ」
「婆さんじゃないザマス。まだ還暦前ザマス。
……まあ、その調子なら大丈夫ザマスね。作戦通り頼んだザマスよ」
「…………」
ドリスキルは、恭子の通信に沈黙を持って答えた。
●
「団長、前方から猛スピードで接近する機体があります!」
ハンターの一人が八重樫に報告する。
八重樫が顔を上げると、一機のコンフェッサーが八重樫の目前にまで迫っていた。
既にコンフェッサーは大きく右腕を振りかぶっている。
「邪魔だーーー!」
疑似マテリアルフィストが壁盾に直撃。
ドミニオンの機体に伝わる振動が、一撃の重さを物語る。
明らかに――この一機だけが、特殊だ。
「この防御ラインを突破する気か? かなり無茶をする奴だな」
「どけー! 俺があのデッカい奴をぶっ叩くんだ! それで、お前らを地球から追い出してやる!」
コンフェッサーから聞こえてくるのは、子供の声。
やはり、行方不明となった強化人間であるのは間違いない。
どうやら、八重樫達を歪虚だと思い込んでいるようだ。
そこへ恭子が八重樫へ通信を入れてくる。
「その機体は、エース機のようザマス」
「エース機?」
「強化人間の中でも優秀な子には特別な機体を与えられていると財団から情報が入っているザマス。その子は……マルコスって名前みたいザマスね」
恭子によれば、一部の強化人間にはエース機として特別な機体を用意されていたようだ。マルコスには接近戦に特化した機体であり、ブーストと強化されたマテリアルフィスト、マテリアルナイフ等が主要武器のようだ。
「なるほど。いずれにしても、マルコスという子を無力化しなければならんようだな」
覚悟を決める八重樫。
森林地帯からドリスキルが砲撃してくれれば、マルコスの隙もできるはずなのだが……。
「見てろよ! 絶対お前達を倒してやるんだからな!」
リプレイ本文
アスガルドの子供達の失踪。
そして、ドゥーン・ヒルでの交戦。
それはハンターにとって、想像していない事態であった。
「悪ふざけにも……さすがに限度ってモンがあるだろ」
アニス・テスタロッサ(ka0141)は、ドゥーン・ヒルから攻め込んでくる強化人間達を前にそう呟いた。
強化人間研究施設からの失踪。
さらには新型CAMの強奪。
統一地球連合宙軍から見れば処罰の対象となり得る行動を幾つも犯している。
既に『悪ふざけ』と表現するには、遙かに過ぎた状況である。
「ガキ共がやるってぇんなら……」
アニスはオファニム『レラージュ・ベナンディ』の手にするプラズマライフル「ラッド・フィエル01」で出鼻を挫く。
序盤から命中させる気はない。威嚇して戦意を喪失させられればいい。
あくまでも、強化人間の保護が目的だ。
魔導エンジンに直結され、増幅されたエネルギーが矢継ぎ早に弾丸を撃ち出した。
小気味良い発射音が、新型CAMへと向けられる。
「ちっ。怯まねぇか」
コンフェッサーは射撃を物ともせず向かって来る。
どうやら、強化人間の子供達に退く気はないようだ。
何者かに操られて精神が不安定にでもなっているのだろうか。
一方、ハンターの中には失踪事件の中に潜む謎を気にする者もいた。
「うーん、脱走って言っても……奴隷扱いされてるとか情緒不安定とかって風には見えなかったけどなぁ」
ウーナ(ka1439)はオファニム『Re:AZ-L』の中で、聞き及んだアスガルドの状況を思い返していた。
強化人間研究施設であるアスガルドで過ごしていた強化人間の子供達。
そこへ足を踏み入れていたハンターによれば、冷遇されている事はなかった。むしろ、年齢相応の子供達のように比較的自由闊達に行動していたようだ。さすがに施設外の行動は制限されていたのだろうが、わざわざ自分から脱走する気配はなかったようだ。
「新型に乗ってるってことはぁ、単純にHPがどーんっと上乗せされたのと同じだと思いますぅ。手足を潰して鉄の棺桶状態にして浄化してあげれば、何とかなりそうな気がしませんかぁ」
星野 ハナ(ka5852)は、R7エクスシアの中で迫るCAMへ意識を集中させる。
強化人間達が乗っているのは新型CAM『コンフェッサー』のカスタム機。
元々はVOID勢力域内での強行作戦を想定された特別機だ。次世代機開発構想に関連する機体であり、悪条件下での戦闘や格闘戦を想定されている。
この機体に対してムーンリーフ財団が強化人間仕様に改修したのが奪われた機体だ。コンピュータ制御により操縦者の行動を支援する事で覚醒者が操縦する機体に近い戦闘力を確立させているという。
それが――ハナ達が今から交戦する相手だ。
「来るぞ。総員、備えろ」
魔導型ドミニオンに乗る山岳猟団団長の八重樫 敦(kz0056)が叫んだ。
函館クラスタ攻略戦にも投入された試作型対VOID砲壁盾を前面に押し出す。
そこへ突貫してくる一機のコンフェッサー。
「どっけーーーーー!」
強行突破。
そう表現するのが正しいと思わせる力業だ。
他のコンフェッサーを押し退けながら現れたのは、肩に赤い三本のラインを持つエース機。
マルコスと呼ばれる少年が乗り込んだ機体だ。
「…………」
八重樫は沈黙を守ったまま、壁盾を手に進路を塞ぐ。
この先にはラズモネ・シャングリラが待機している。もし、強化人間の子供達がラズモネ・シャングリラへ被害を及ぼしたとなれば、軍は本気で失踪した強化人間達をお尋ね者にするだろう。
それを回避する為には、ここで子供達を保護しなければならないのだが。
「邪魔するな、悪者め!」
大きく引かれた腕から放たれる疑似マテリアルフィスト。
強烈な一撃が壁盾に振り下ろされた。
衝撃。
魔導型ドミニオンの機体に伝わる振動が、威力を物語っている。
「各機、新型の格闘戦は注意しろ。他の機体とは訳が違うぞ」
「了解。何とか無力化させて、全員無事に生きて帰る! リアルブルーという同郷の、それに子供達を死なせてたまるかっ!」
テンシ・アガート(ka0589)は、魔導アーマー量産型『マッチョメン』を前線へと押し進めた。
八重樫がマルコスを相手にしている最中、テンシは他のコンフェッサーの足止めを試みようとしていた。
それは自らの体を盾にしての進路妨害。
作戦上、今は敵のこの場で押し止める必要があるのだ。その時が来るまで、今は必死に耐える他無い。
「うわっ! この威力、ちょっと凄いかも」
疑似マテリアルフィストをCAMシールドで受け止めるマッチョメン。
八重樫の言う通り、他の機体とはスペックそのものが違うようだ。
それでもマッチョメンはここで耐える。
――攻勢の合図があるまでは。
●
現時点で、原因は考えても分からない。
それがアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の答えだ。
あまりにも情報が少なすぎるのだ。
だが、それでも強化人間達を止める他無い。
ならば、ここは割り切る。
新型CAM『コンフェッサー』の実力を――ハンターと新型機の実戦データ収集と考えて機体を容赦なく破壊する。
だが、ここでアルトの脳裏に過去の映像が蘇る。
「あの時の私の刃は……届かなかった」
かつて連合軍が成立する前、サルヴァトーレ・ロッソが所有していたCAMを歪虚に強奪された事があった。
アルトはそのCAMを奪還する為に奮闘していたが、強奪犯の一人にして災厄の十三魔アレクサンドル・バーンズ(kz0112)を止める事ができなかった。
あれから――対峙する相手も状況も大きく変わってはいるが、大事な物を取り戻さなければならない事実は同じだ。
「私はまた一つ、過去を克服できるかもしれない。
イレーネ、他の機体を先に進ませるな。『あの子』は、私が相手をする」
傍らにいるイェジド『イレーネ』に声をかける。
リベンジ――否、そんな陳腐な言葉で片付けたくはない。
強化人間の子を保護する事は、アルトに課せられた試練なのだ。
●
「ガキ共、前に進む事しか考えてねぇな」
アニスは後方へ飛び退きながら、プラズマガン「アウダークス」を連射する。
その弾丸に怯む様子も無く、突き進んでくるコンフェッサー。
アニスにとって厄介な事は、操縦席を狙えない事だ。
強化人間達を傷つけずに保護をするには、極力無傷で取り押さえたい。
この為、自然と狙いはコンフェッサーの手足、それも駆動部分という事になる。
的は小さい。
それでも、アニスはやるしかない。
この事件の真相を探る為にも。
「わふ、今度は『遊んで』くれる……わけじゃなさそうです?」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)は、目の前の状況を理解できず首を傾げた。
ハンターと敵対しているのは、強化人間の子供達?
アスガルドで一緒に遊んだ子。
なんで、戦わないといけないの?
ただ、アルマにも分かっている事がある。
「……大切な宝物。守らないとですー」
懐から取り出したのは、一枚の写真。
アスガルドで過ごした子供達。
そこに映し出された笑顔。
それは、絶対に守らなければならない。
「あ、マルコスくんの声がするですー」
反射的にコンフェッサーのエース機に反応するアルマ。
ふらりと移動する様を見る限り、その実力を鑑みる事はできない。
「くっ、さっさと砲撃しろってぇんだ。何やってんだよ、森の連中は?」
アニスは、視線を東の森へ送った。
そろそろ森から奇襲砲撃が行われる手筈になっている。
それを合図に攻勢を仕掛ける予定だが――未だに砲撃が行われる気配はなかった。
●
「キミらの相手はこっち!」
防衛ラインの側面からRe:AZ-Lでコンフェッサーに戦いを挑むウーナ。
フライトフレーム「アディード」を起動、さらに末那識により空間認識能力を向上させた。
既にコンフェッサーはロングレンジライフル「ルギートゥスD5」の照準で押さえている。
相手は接近タイプ。上空から距離を置かれた射撃に対処は難しいはずだ。
――ロックオン。
計器が発射タイミングをウーナに知らせる。
「お願い。コックピットの直撃は避けて」
響く、ドラゴンの咆哮。
弾丸は、回避を試みるコンフェッサーに腕を直撃。
突き刺さった弾丸が、腕を大きく弾いた。
その隙をアニスは逃さない。
「悪いな。予定より早いが、倒させてもらうぞ」
身を屈め、ラッド・フィエル01をコンフェッサーに撃ち込んだ。
足を貫き、バランスを崩す。
コンフェサーは、地面へと倒れ込んだ。
「スペックは高いけど、倒せない相手じゃないね。攻勢に転じれば何とかなるかも」
斜め45度でマッチョメンを叩くテンシ。
確かに他の機体に比べて初期スペックは高めなのかもしれない。
それでも、様々な戦場を渡り歩いてきたハンターからすれば倒せない相手ではない。
問題は、操縦する強化人間の子供達を保護しなければならない点だ。
その為、マッチョメンは残るコンフェッサーの行く手を阻もうと必死で進路を妨害している。
――そして。
その我慢を続けた結果、ハンター達が動き出す時間が訪れる。
「きたか」
突如、コンフェッサーの脚部がもぎ取られ倒れ込む。
続いて響き渡る、空気の悲鳴にも似た音。
森からの奇襲砲撃。
アニスが待っていた、攻勢転換のタイミングだ。
「よぉーし、一気にいくよー!」
Re:AZ-Lは、ルギートゥスD5の次弾を装填し終えていた。
●
攻勢へと転じたハンター達。
そこからの行動は素早く、そして破壊的であった。
「……確かにヨルズに全成果を持って行かれたら、お前ら何しているんだって話になりますけどぉ……やりにくいんですよぅ」
R7エクスシアを八重樫の後方に布陣させ、ハナはマルコス機へ狙いを定める。
既に奇襲砲撃でコンフェッサーが脚から吹き飛ばされているシーンを目撃している。それも防衛ラインでハンター達が足止めしたからこそ為し得た功績なのだが、ハナはもう一働きしたいと考えているようだ。
取り出した符を使ってマルコス機の周囲に結界を形成する。
「な、なんだ?」
周囲の異変に気付くマルコス。
だが、マルコスには分かるはずもない。
強化人間としてアスガルドで過ごしてきた彼に、ハンターの持つ技が如何なるものかを。
「敵の武器はフィストですからぁ、ネットで絡まれる前に足止めすれば何とかなるはずなんですよねぇ」
現出する魔法――五色光符陣。
光がコンフェッサーの周りを焼き、マルコスの目をホワイトアウトさせる。
「うわっ、目がっ!」
「ダメですーーーっ!!」
アンチボディを発動させたアルマが滑り込んできた。
コンフェッサーが五色光符陣で攻撃された事を知り、マルコスの身を案じたようだ。
だが、そんなアルマの心配をよそに、マルコスは操縦席で大騒ぎし始める。
「ずるいぞ! 目潰しなんて卑怯だ!」
「わぅっ!? 僕、敵じゃないですー! いじめたらやーですー!?」
マルコスへ呼び掛けるアルマ。
だが、マルコスからの反応はない。
「エース機の実力を見せてもらおうと思ったが、既に行動を封じられていたか」
アルトはマルコス機を見据えた。
先日、アスガルドで見かけた少年――アルトはそう記憶している。
無邪気な少年と認識しているが、戦いとなれば話は別だ。
手を鈍らせるつもりは毛頭ない。だが、無駄な戦いが回避できるとあればそれが一番良いのも分かっている。
「OK、そこまでだガキ共。武装解除して投降しな。悪いようにはしねぇ」
アニスは攻勢に転じた状況を利用して降伏勧告を試みた。
しかし、マルコスを含む強化人間達にはその気配はまったくない。
「卑怯な手を使う奴に投降なんかするもんか!」
「ま、聞くとは思っちゃいなかったが……悪い意味で迷いが無ぇなコイツ等」
「なら、やる事は一つ。全力をぶつけて制圧するだけだ」
アルトは狼牙「アマルティア」を手にマルコス機へと接近する。
踏鳴で移動力を上昇している時点で、CAM相手に本当に全力を出すつもりのようだ。
これを見ていたアルマも何かあると本能的に直感したのだろう。同じようにマルコス機との間合いを詰める。
「わふ、遊ぶです? わふぅ!」
「そろそろ魔法の効果が切れるか? なら、一気に終わらせる!」
アルトは手裏剣「飛燕十文字」をマルコス機の左足へ投擲。
そして紅糸で引き寄せられるように移動する。
「うう、ようやく目が大丈夫に……あれ? この隙に近づいてたな!」
二人の接近に気付いてコンフェサーを移動させようとするマルコス。
だが、もう遅い。
「格好良く決めるですー」
マルコス機の右足に近づいたアルマは、ファイアスローワーを放った。
扇状の炎の力を持った高いエネルギーがマルコス機の右足を襲う。
通常の相手であれば、その一撃だけで行動に支障が出るとは考えられない。
だが――相手があまりにも悪すぎた。
「え!?」
揺らぐマルコス機。
バランサーが狂った訳でも、計器に損傷した訳でもない。
アルマの強烈なファイアスローワーが、マルコス機の右足を破壊していたのだ。
そして左足にはアルトが――アマルティアを握って近づいてくる。
「……散華」
全力で駆け抜けるアルト。
しかしアマルティアの刃が確実にマルコス機の左足を捉えていた。
刃が食い込み、そして破壊。
両足に深いダメージを負う事になったマルコス機は、そのまま地面へと倒れ込んだ。
「痛ってぇ!」
操縦席で叫ぶマルコス。
どうやら、大きな怪我もなくマルコス機の移動を阻害する事ができたようだ。
「一人の力では無かったが、一つの傷を癒す事ができたか」
アルトは倒れたマルコス機に視線を送ると、そっと背を向けた。
●
「皆さんに一つ報告があるザマス」
エース機を機能停止させた後、ラズモネ・シャングリラ艦長、森山恭子(kz0216)からハンターへある報告が行われた。
それは、半ば予想されながらも――聞きたくはなかった報告。
「一部戦域にて強化人間の子が……死亡したザマス」
吐き出すように紡がれる恭子の言葉。
八重樫や森林地帯のCAMではないものの、一部戦域で強化人間の子供に犠牲が出たようだ。統一地球連合宙軍は強化人間の反乱として戦いを処理するつもりだったようだが、恭子にとっては出したくは無かった犠牲だった。
「でも、ハンターの皆さんをが悪いとは思ってないザマス。好き好んで子供達に手をかけるハンターはいない。止む無く倒さなければならなかった。あたくしはそう信じてるザマス。
裏切り者としてこの世界から居場所を失うより、ここで止める事が……あの子達にとって幸せだった。でも……」
時折漏れる恭子の吐息までは、ハンターの耳に通信越しで届く。
その言葉にならない瞬間、どのような感情が恭子の中にあったのか。
「でも、あたくしは……あの子達を、アスガルドに返してあげたかった。戦う前の、アスガルドで見た笑顔を、あたくしは守ってあげたかったザマス」
起こった事は、もう戻らない。
そこにあるのは後悔なのか。
――やるしかなかった。自分にそう言い聞かせるしかない。
行き場のない感情は、言葉に乗ってハンターの耳に届いた。
●
「やっぱりな。こいつら技量はそれなりにあるが、戦闘ってモンが分かってねぇ」
アニスは、至近距離からプラズマガン「アウダークス」でコンフェッサーでCAMを沈黙させた。
予想できた話だ。アスガルドで戦闘訓練を受けた強化人間といっても、年齢から見れば子供だ。実戦経験を積んでいるとは思えない。言い換えれば、新兵と左程変わらない。
幾つもの戦いを繰り広げたハンター達を前に、強化人間達が勝つ事は難しい。
だからこそ、『不慮の事故』も起こりえる。
「本当に、戦闘が分かってねぇよ。こいつら」
足下で転がるコンフェッサーを、アニスは黙って見つめていた。
●
ドゥーン・ヒルの戦いは終結した。
犠牲は発生、一部の強化人間を取り逃がしたが、強化人間達を保護する事ができた。
だが、事件はこれで終わらない。
「落ち着いてくださいですよー……僕ですー。水風船で一緒に遊んだ、アルマですー……」
身柄を拘束されたマルコス達を前に、アルマはしょげかえっていた。
手にした写真は、過ぎ去った記憶残している。
既に過ぎ去った時間。
眼前に子供達から、その時間を想像する事は難しい。
「うるさいっ! 離せっ!」
反抗的な態度を示すマルコス。
ハンター達は、強化人間を戻すべく機導浄化術・浄癒や浄龍樹陣、トランスキュアを施した。またアルトも恭子の協力も得て精神安定剤などを用いてみたが、状況が変わる事はなかった。
スキルでも薬品でも治らない。
失踪の原因も未だ分からない。
戦いは終わっても、事件は何一つ終わっていないのだ。
「なんで急にねぇ、何かヤな事でもあったの?」
ウーナは屈み込んで子供達に視線を合わせた。
だが、ウーナの前にいる子供達の目に浮かぶは敵意。
明らかに憎しみに染まった瞳だ。
「お前なんかっ! お前なん、……」
「どうした?」
アルトが子供の肩に触れて軽く揺らす。
何度か瞬きをしたかと思えば、そのまま意識を喪失する。
それも一人じゃない。保護された強化人間全員が、その力を失ってがっくりと項垂れている。
「これって、どういう事?」
「分からない。情報が少なすぎる。失踪の原因に理由があるのかもしれない。
だが……これで子供達から事情を聞くのは難しくなったか」
テンシの問いに、アルトが返答した。
元々、アスガルドへ移送して強化人間達を保護する予定だったが、この状況では精密検査を行う必要があるだろう。
それで原因が分かれば良いのだが――。
「艦長。子供達が失踪した事件で何か分かったら、すぐに知らせてくれ。このままでは終われない」
「私からもお願いしますぅ。きっと、この事件には何か裏がありますぅ」
アニスとハナは恭子へ事件の継続調査を強く願っていた。
子供達に何が起こったのか。
どうして、この事件が起こらなければならなかったのか。
真実を見つけなければ、犠牲になった子供達は――。
「分かっているザマス。あたくしも、このまま終わらせる気はないザマス」
恭子は、力強く答えた。
もうこれ以上、犠牲は出したくない。
それが叶わぬ願いだったとしても、そう誓わずにはいられなかった。
そして、ドゥーン・ヒルでの交戦。
それはハンターにとって、想像していない事態であった。
「悪ふざけにも……さすがに限度ってモンがあるだろ」
アニス・テスタロッサ(ka0141)は、ドゥーン・ヒルから攻め込んでくる強化人間達を前にそう呟いた。
強化人間研究施設からの失踪。
さらには新型CAMの強奪。
統一地球連合宙軍から見れば処罰の対象となり得る行動を幾つも犯している。
既に『悪ふざけ』と表現するには、遙かに過ぎた状況である。
「ガキ共がやるってぇんなら……」
アニスはオファニム『レラージュ・ベナンディ』の手にするプラズマライフル「ラッド・フィエル01」で出鼻を挫く。
序盤から命中させる気はない。威嚇して戦意を喪失させられればいい。
あくまでも、強化人間の保護が目的だ。
魔導エンジンに直結され、増幅されたエネルギーが矢継ぎ早に弾丸を撃ち出した。
小気味良い発射音が、新型CAMへと向けられる。
「ちっ。怯まねぇか」
コンフェッサーは射撃を物ともせず向かって来る。
どうやら、強化人間の子供達に退く気はないようだ。
何者かに操られて精神が不安定にでもなっているのだろうか。
一方、ハンターの中には失踪事件の中に潜む謎を気にする者もいた。
「うーん、脱走って言っても……奴隷扱いされてるとか情緒不安定とかって風には見えなかったけどなぁ」
ウーナ(ka1439)はオファニム『Re:AZ-L』の中で、聞き及んだアスガルドの状況を思い返していた。
強化人間研究施設であるアスガルドで過ごしていた強化人間の子供達。
そこへ足を踏み入れていたハンターによれば、冷遇されている事はなかった。むしろ、年齢相応の子供達のように比較的自由闊達に行動していたようだ。さすがに施設外の行動は制限されていたのだろうが、わざわざ自分から脱走する気配はなかったようだ。
「新型に乗ってるってことはぁ、単純にHPがどーんっと上乗せされたのと同じだと思いますぅ。手足を潰して鉄の棺桶状態にして浄化してあげれば、何とかなりそうな気がしませんかぁ」
星野 ハナ(ka5852)は、R7エクスシアの中で迫るCAMへ意識を集中させる。
強化人間達が乗っているのは新型CAM『コンフェッサー』のカスタム機。
元々はVOID勢力域内での強行作戦を想定された特別機だ。次世代機開発構想に関連する機体であり、悪条件下での戦闘や格闘戦を想定されている。
この機体に対してムーンリーフ財団が強化人間仕様に改修したのが奪われた機体だ。コンピュータ制御により操縦者の行動を支援する事で覚醒者が操縦する機体に近い戦闘力を確立させているという。
それが――ハナ達が今から交戦する相手だ。
「来るぞ。総員、備えろ」
魔導型ドミニオンに乗る山岳猟団団長の八重樫 敦(kz0056)が叫んだ。
函館クラスタ攻略戦にも投入された試作型対VOID砲壁盾を前面に押し出す。
そこへ突貫してくる一機のコンフェッサー。
「どっけーーーーー!」
強行突破。
そう表現するのが正しいと思わせる力業だ。
他のコンフェッサーを押し退けながら現れたのは、肩に赤い三本のラインを持つエース機。
マルコスと呼ばれる少年が乗り込んだ機体だ。
「…………」
八重樫は沈黙を守ったまま、壁盾を手に進路を塞ぐ。
この先にはラズモネ・シャングリラが待機している。もし、強化人間の子供達がラズモネ・シャングリラへ被害を及ぼしたとなれば、軍は本気で失踪した強化人間達をお尋ね者にするだろう。
それを回避する為には、ここで子供達を保護しなければならないのだが。
「邪魔するな、悪者め!」
大きく引かれた腕から放たれる疑似マテリアルフィスト。
強烈な一撃が壁盾に振り下ろされた。
衝撃。
魔導型ドミニオンの機体に伝わる振動が、威力を物語っている。
「各機、新型の格闘戦は注意しろ。他の機体とは訳が違うぞ」
「了解。何とか無力化させて、全員無事に生きて帰る! リアルブルーという同郷の、それに子供達を死なせてたまるかっ!」
テンシ・アガート(ka0589)は、魔導アーマー量産型『マッチョメン』を前線へと押し進めた。
八重樫がマルコスを相手にしている最中、テンシは他のコンフェッサーの足止めを試みようとしていた。
それは自らの体を盾にしての進路妨害。
作戦上、今は敵のこの場で押し止める必要があるのだ。その時が来るまで、今は必死に耐える他無い。
「うわっ! この威力、ちょっと凄いかも」
疑似マテリアルフィストをCAMシールドで受け止めるマッチョメン。
八重樫の言う通り、他の機体とはスペックそのものが違うようだ。
それでもマッチョメンはここで耐える。
――攻勢の合図があるまでは。
●
現時点で、原因は考えても分からない。
それがアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の答えだ。
あまりにも情報が少なすぎるのだ。
だが、それでも強化人間達を止める他無い。
ならば、ここは割り切る。
新型CAM『コンフェッサー』の実力を――ハンターと新型機の実戦データ収集と考えて機体を容赦なく破壊する。
だが、ここでアルトの脳裏に過去の映像が蘇る。
「あの時の私の刃は……届かなかった」
かつて連合軍が成立する前、サルヴァトーレ・ロッソが所有していたCAMを歪虚に強奪された事があった。
アルトはそのCAMを奪還する為に奮闘していたが、強奪犯の一人にして災厄の十三魔アレクサンドル・バーンズ(kz0112)を止める事ができなかった。
あれから――対峙する相手も状況も大きく変わってはいるが、大事な物を取り戻さなければならない事実は同じだ。
「私はまた一つ、過去を克服できるかもしれない。
イレーネ、他の機体を先に進ませるな。『あの子』は、私が相手をする」
傍らにいるイェジド『イレーネ』に声をかける。
リベンジ――否、そんな陳腐な言葉で片付けたくはない。
強化人間の子を保護する事は、アルトに課せられた試練なのだ。
●
「ガキ共、前に進む事しか考えてねぇな」
アニスは後方へ飛び退きながら、プラズマガン「アウダークス」を連射する。
その弾丸に怯む様子も無く、突き進んでくるコンフェッサー。
アニスにとって厄介な事は、操縦席を狙えない事だ。
強化人間達を傷つけずに保護をするには、極力無傷で取り押さえたい。
この為、自然と狙いはコンフェッサーの手足、それも駆動部分という事になる。
的は小さい。
それでも、アニスはやるしかない。
この事件の真相を探る為にも。
「わふ、今度は『遊んで』くれる……わけじゃなさそうです?」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)は、目の前の状況を理解できず首を傾げた。
ハンターと敵対しているのは、強化人間の子供達?
アスガルドで一緒に遊んだ子。
なんで、戦わないといけないの?
ただ、アルマにも分かっている事がある。
「……大切な宝物。守らないとですー」
懐から取り出したのは、一枚の写真。
アスガルドで過ごした子供達。
そこに映し出された笑顔。
それは、絶対に守らなければならない。
「あ、マルコスくんの声がするですー」
反射的にコンフェッサーのエース機に反応するアルマ。
ふらりと移動する様を見る限り、その実力を鑑みる事はできない。
「くっ、さっさと砲撃しろってぇんだ。何やってんだよ、森の連中は?」
アニスは、視線を東の森へ送った。
そろそろ森から奇襲砲撃が行われる手筈になっている。
それを合図に攻勢を仕掛ける予定だが――未だに砲撃が行われる気配はなかった。
●
「キミらの相手はこっち!」
防衛ラインの側面からRe:AZ-Lでコンフェッサーに戦いを挑むウーナ。
フライトフレーム「アディード」を起動、さらに末那識により空間認識能力を向上させた。
既にコンフェッサーはロングレンジライフル「ルギートゥスD5」の照準で押さえている。
相手は接近タイプ。上空から距離を置かれた射撃に対処は難しいはずだ。
――ロックオン。
計器が発射タイミングをウーナに知らせる。
「お願い。コックピットの直撃は避けて」
響く、ドラゴンの咆哮。
弾丸は、回避を試みるコンフェッサーに腕を直撃。
突き刺さった弾丸が、腕を大きく弾いた。
その隙をアニスは逃さない。
「悪いな。予定より早いが、倒させてもらうぞ」
身を屈め、ラッド・フィエル01をコンフェッサーに撃ち込んだ。
足を貫き、バランスを崩す。
コンフェサーは、地面へと倒れ込んだ。
「スペックは高いけど、倒せない相手じゃないね。攻勢に転じれば何とかなるかも」
斜め45度でマッチョメンを叩くテンシ。
確かに他の機体に比べて初期スペックは高めなのかもしれない。
それでも、様々な戦場を渡り歩いてきたハンターからすれば倒せない相手ではない。
問題は、操縦する強化人間の子供達を保護しなければならない点だ。
その為、マッチョメンは残るコンフェッサーの行く手を阻もうと必死で進路を妨害している。
――そして。
その我慢を続けた結果、ハンター達が動き出す時間が訪れる。
「きたか」
突如、コンフェッサーの脚部がもぎ取られ倒れ込む。
続いて響き渡る、空気の悲鳴にも似た音。
森からの奇襲砲撃。
アニスが待っていた、攻勢転換のタイミングだ。
「よぉーし、一気にいくよー!」
Re:AZ-Lは、ルギートゥスD5の次弾を装填し終えていた。
●
攻勢へと転じたハンター達。
そこからの行動は素早く、そして破壊的であった。
「……確かにヨルズに全成果を持って行かれたら、お前ら何しているんだって話になりますけどぉ……やりにくいんですよぅ」
R7エクスシアを八重樫の後方に布陣させ、ハナはマルコス機へ狙いを定める。
既に奇襲砲撃でコンフェッサーが脚から吹き飛ばされているシーンを目撃している。それも防衛ラインでハンター達が足止めしたからこそ為し得た功績なのだが、ハナはもう一働きしたいと考えているようだ。
取り出した符を使ってマルコス機の周囲に結界を形成する。
「な、なんだ?」
周囲の異変に気付くマルコス。
だが、マルコスには分かるはずもない。
強化人間としてアスガルドで過ごしてきた彼に、ハンターの持つ技が如何なるものかを。
「敵の武器はフィストですからぁ、ネットで絡まれる前に足止めすれば何とかなるはずなんですよねぇ」
現出する魔法――五色光符陣。
光がコンフェッサーの周りを焼き、マルコスの目をホワイトアウトさせる。
「うわっ、目がっ!」
「ダメですーーーっ!!」
アンチボディを発動させたアルマが滑り込んできた。
コンフェッサーが五色光符陣で攻撃された事を知り、マルコスの身を案じたようだ。
だが、そんなアルマの心配をよそに、マルコスは操縦席で大騒ぎし始める。
「ずるいぞ! 目潰しなんて卑怯だ!」
「わぅっ!? 僕、敵じゃないですー! いじめたらやーですー!?」
マルコスへ呼び掛けるアルマ。
だが、マルコスからの反応はない。
「エース機の実力を見せてもらおうと思ったが、既に行動を封じられていたか」
アルトはマルコス機を見据えた。
先日、アスガルドで見かけた少年――アルトはそう記憶している。
無邪気な少年と認識しているが、戦いとなれば話は別だ。
手を鈍らせるつもりは毛頭ない。だが、無駄な戦いが回避できるとあればそれが一番良いのも分かっている。
「OK、そこまでだガキ共。武装解除して投降しな。悪いようにはしねぇ」
アニスは攻勢に転じた状況を利用して降伏勧告を試みた。
しかし、マルコスを含む強化人間達にはその気配はまったくない。
「卑怯な手を使う奴に投降なんかするもんか!」
「ま、聞くとは思っちゃいなかったが……悪い意味で迷いが無ぇなコイツ等」
「なら、やる事は一つ。全力をぶつけて制圧するだけだ」
アルトは狼牙「アマルティア」を手にマルコス機へと接近する。
踏鳴で移動力を上昇している時点で、CAM相手に本当に全力を出すつもりのようだ。
これを見ていたアルマも何かあると本能的に直感したのだろう。同じようにマルコス機との間合いを詰める。
「わふ、遊ぶです? わふぅ!」
「そろそろ魔法の効果が切れるか? なら、一気に終わらせる!」
アルトは手裏剣「飛燕十文字」をマルコス機の左足へ投擲。
そして紅糸で引き寄せられるように移動する。
「うう、ようやく目が大丈夫に……あれ? この隙に近づいてたな!」
二人の接近に気付いてコンフェサーを移動させようとするマルコス。
だが、もう遅い。
「格好良く決めるですー」
マルコス機の右足に近づいたアルマは、ファイアスローワーを放った。
扇状の炎の力を持った高いエネルギーがマルコス機の右足を襲う。
通常の相手であれば、その一撃だけで行動に支障が出るとは考えられない。
だが――相手があまりにも悪すぎた。
「え!?」
揺らぐマルコス機。
バランサーが狂った訳でも、計器に損傷した訳でもない。
アルマの強烈なファイアスローワーが、マルコス機の右足を破壊していたのだ。
そして左足にはアルトが――アマルティアを握って近づいてくる。
「……散華」
全力で駆け抜けるアルト。
しかしアマルティアの刃が確実にマルコス機の左足を捉えていた。
刃が食い込み、そして破壊。
両足に深いダメージを負う事になったマルコス機は、そのまま地面へと倒れ込んだ。
「痛ってぇ!」
操縦席で叫ぶマルコス。
どうやら、大きな怪我もなくマルコス機の移動を阻害する事ができたようだ。
「一人の力では無かったが、一つの傷を癒す事ができたか」
アルトは倒れたマルコス機に視線を送ると、そっと背を向けた。
●
「皆さんに一つ報告があるザマス」
エース機を機能停止させた後、ラズモネ・シャングリラ艦長、森山恭子(kz0216)からハンターへある報告が行われた。
それは、半ば予想されながらも――聞きたくはなかった報告。
「一部戦域にて強化人間の子が……死亡したザマス」
吐き出すように紡がれる恭子の言葉。
八重樫や森林地帯のCAMではないものの、一部戦域で強化人間の子供に犠牲が出たようだ。統一地球連合宙軍は強化人間の反乱として戦いを処理するつもりだったようだが、恭子にとっては出したくは無かった犠牲だった。
「でも、ハンターの皆さんをが悪いとは思ってないザマス。好き好んで子供達に手をかけるハンターはいない。止む無く倒さなければならなかった。あたくしはそう信じてるザマス。
裏切り者としてこの世界から居場所を失うより、ここで止める事が……あの子達にとって幸せだった。でも……」
時折漏れる恭子の吐息までは、ハンターの耳に通信越しで届く。
その言葉にならない瞬間、どのような感情が恭子の中にあったのか。
「でも、あたくしは……あの子達を、アスガルドに返してあげたかった。戦う前の、アスガルドで見た笑顔を、あたくしは守ってあげたかったザマス」
起こった事は、もう戻らない。
そこにあるのは後悔なのか。
――やるしかなかった。自分にそう言い聞かせるしかない。
行き場のない感情は、言葉に乗ってハンターの耳に届いた。
●
「やっぱりな。こいつら技量はそれなりにあるが、戦闘ってモンが分かってねぇ」
アニスは、至近距離からプラズマガン「アウダークス」でコンフェッサーでCAMを沈黙させた。
予想できた話だ。アスガルドで戦闘訓練を受けた強化人間といっても、年齢から見れば子供だ。実戦経験を積んでいるとは思えない。言い換えれば、新兵と左程変わらない。
幾つもの戦いを繰り広げたハンター達を前に、強化人間達が勝つ事は難しい。
だからこそ、『不慮の事故』も起こりえる。
「本当に、戦闘が分かってねぇよ。こいつら」
足下で転がるコンフェッサーを、アニスは黙って見つめていた。
●
ドゥーン・ヒルの戦いは終結した。
犠牲は発生、一部の強化人間を取り逃がしたが、強化人間達を保護する事ができた。
だが、事件はこれで終わらない。
「落ち着いてくださいですよー……僕ですー。水風船で一緒に遊んだ、アルマですー……」
身柄を拘束されたマルコス達を前に、アルマはしょげかえっていた。
手にした写真は、過ぎ去った記憶残している。
既に過ぎ去った時間。
眼前に子供達から、その時間を想像する事は難しい。
「うるさいっ! 離せっ!」
反抗的な態度を示すマルコス。
ハンター達は、強化人間を戻すべく機導浄化術・浄癒や浄龍樹陣、トランスキュアを施した。またアルトも恭子の協力も得て精神安定剤などを用いてみたが、状況が変わる事はなかった。
スキルでも薬品でも治らない。
失踪の原因も未だ分からない。
戦いは終わっても、事件は何一つ終わっていないのだ。
「なんで急にねぇ、何かヤな事でもあったの?」
ウーナは屈み込んで子供達に視線を合わせた。
だが、ウーナの前にいる子供達の目に浮かぶは敵意。
明らかに憎しみに染まった瞳だ。
「お前なんかっ! お前なん、……」
「どうした?」
アルトが子供の肩に触れて軽く揺らす。
何度か瞬きをしたかと思えば、そのまま意識を喪失する。
それも一人じゃない。保護された強化人間全員が、その力を失ってがっくりと項垂れている。
「これって、どういう事?」
「分からない。情報が少なすぎる。失踪の原因に理由があるのかもしれない。
だが……これで子供達から事情を聞くのは難しくなったか」
テンシの問いに、アルトが返答した。
元々、アスガルドへ移送して強化人間達を保護する予定だったが、この状況では精密検査を行う必要があるだろう。
それで原因が分かれば良いのだが――。
「艦長。子供達が失踪した事件で何か分かったら、すぐに知らせてくれ。このままでは終われない」
「私からもお願いしますぅ。きっと、この事件には何か裏がありますぅ」
アニスとハナは恭子へ事件の継続調査を強く願っていた。
子供達に何が起こったのか。
どうして、この事件が起こらなければならなかったのか。
真実を見つけなければ、犠牲になった子供達は――。
「分かっているザマス。あたくしも、このまま終わらせる気はないザマス」
恭子は、力強く答えた。
もうこれ以上、犠牲は出したくない。
それが叶わぬ願いだったとしても、そう誓わずにはいられなかった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 アニス・テスタロッサ(ka0141) 人間(リアルブルー)|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/03/07 03:22:08 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/03/02 22:14:15 |