ゲスト
(ka0000)
【東幕】粋な男を叩いてみれば
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/03/09 19:00
- 完成日
- 2018/03/15 21:12
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
エトファリカ連邦国・詩天。
少年商人・史郎(kz0242)は、街をゆく人々の顔が明るく安堵に満ちているのを眺め、自らも安堵していた。
(まあ、ひとまず、というところではあるけど、安心できる状態にはなったもんな)
この一連の戦いに、実は史郎も一枚かんでいたということを知る者は少ない。史郎も、わざわざ宣伝したりはしない。商売の足しになるならまだしも、荒事に関するうわさは、それがたとえ良いものだとしても商売にとっては邪魔になることが多いのだ。
「さあって、稼ぎますかねえ」
せっかく街の人々の表情が明るいのだ、ここを逃す手はない。詩天での取引が済んだら、また天ノ都へ戻らなければならないし、と考えつつ歩いていると。
「おっ、なんだお前、その帽子」
「カッコいいだろ? 西の地のものなんだってよ。ちょっと高かったが、思い切って買ったんだ」
そんな会話が、史郎の耳に飛び込んできた。ふと見れば、洒落た中折れハットをかぶる若い男の姿がある。
(ん、あの帽子……、この前俺がトオヤマ商店に卸したやつだな)
「似合うぜ。……さてはお前、それでめかしこんで、あのコの気を引こうってつもりじゃ……」
「そ、そんなんじゃねえよ」
そんなんじゃねえはずねえだろう、と史郎は内心で呟いてニヤリとした。これだ、と。
男性向けのお洒落用品を充実させては、という史郎の営業に、トオヤマ商店の若旦那はすぐ乗ってきた。このところ、男性の衣服への意識も変わってきている、と肌で感じていたらしい。
「着物だけではなく、小物や靴にもこだわりたい若者は、増えているんですよ。たぶん、そうしていかないと……、女性にモテない」
「なるほど」
史郎は若旦那と顔を見合わせて笑った。
「男子たるもの、やっぱりモテたいと思いますからねえ」
「わかります」
と返事はしたものの、モテたい、という感情は白皙の美少年・史郎にはイマイチ理解できないものであった。それはともかく。
「しかし史郎さん、単純に男性物を充実させる、というのは、少し問題があるのですよ」
「そうですよね。女性物とは違いますからね」
「さすが、よくわかっておられる」
女性物は、流行に乗る、もしくは流行を作り出してしまえば、似たような柄や仕立てのものがたくさん売れる。つまり、大量に仕入れてもさばききることができる。しかし、男性物はそうはいかず、売れ行きを計算することが難しいのだ。
「そこでですね、若旦那。ひとつ、提案があります。ファッション講座を開いてはいかがでしょう」
「ふぁっしょん講座?」
史郎の提案は、こうだ。
モテたい男子を集めて、どんなものを着るのがカッコいいのか、どんな小物を持つのが粋か、を教える講座を開く。そこで紹介した着物や小物に、その場で予約を受け付け、予約の数を目安にして仕入れを行うのだ。
「なるほど、受注制ですね。そこで予約の多かったものを、少し多めに仕入れるようにすれば」
「はい。店頭にどれを置くと売れやすいかも把握できます。無駄も少なくて済むかと」
「いいですね、是非、やりましょう」
「講師は若旦那がやっていただけますか」
「いいですとも」
話はまとまり、史郎は早速準備に取りかかった。大々的に宣伝し、講座の参加募集をかけると、予想以上の人数が集まることとなった。
「これは、講師が私だけではちょっと心配ですね。史郎さん、お願いできませんか」
若旦那に言われ、史郎はふむ、と首をひねった。講師をすることが嫌なのではないが、史郎のような少年が講師、となると反感を抱かれる可能性も低くはない。
「ここはひとつ、助っ人を頼みましょう。会場規模も大きくなってしまったことだし、準備にも人出がいるでしょう」
講座参加者が予想より多かったことで、受講料だけでも儲けが出る。もう少し、投資してみてもいいだろう、という考えだった。
「粋な男を叩いてみれば、金儲けの音がする、ってね」
史郎は形の良い唇を、すいっと持ち上げて見せた。
少年商人・史郎(kz0242)は、街をゆく人々の顔が明るく安堵に満ちているのを眺め、自らも安堵していた。
(まあ、ひとまず、というところではあるけど、安心できる状態にはなったもんな)
この一連の戦いに、実は史郎も一枚かんでいたということを知る者は少ない。史郎も、わざわざ宣伝したりはしない。商売の足しになるならまだしも、荒事に関するうわさは、それがたとえ良いものだとしても商売にとっては邪魔になることが多いのだ。
「さあって、稼ぎますかねえ」
せっかく街の人々の表情が明るいのだ、ここを逃す手はない。詩天での取引が済んだら、また天ノ都へ戻らなければならないし、と考えつつ歩いていると。
「おっ、なんだお前、その帽子」
「カッコいいだろ? 西の地のものなんだってよ。ちょっと高かったが、思い切って買ったんだ」
そんな会話が、史郎の耳に飛び込んできた。ふと見れば、洒落た中折れハットをかぶる若い男の姿がある。
(ん、あの帽子……、この前俺がトオヤマ商店に卸したやつだな)
「似合うぜ。……さてはお前、それでめかしこんで、あのコの気を引こうってつもりじゃ……」
「そ、そんなんじゃねえよ」
そんなんじゃねえはずねえだろう、と史郎は内心で呟いてニヤリとした。これだ、と。
男性向けのお洒落用品を充実させては、という史郎の営業に、トオヤマ商店の若旦那はすぐ乗ってきた。このところ、男性の衣服への意識も変わってきている、と肌で感じていたらしい。
「着物だけではなく、小物や靴にもこだわりたい若者は、増えているんですよ。たぶん、そうしていかないと……、女性にモテない」
「なるほど」
史郎は若旦那と顔を見合わせて笑った。
「男子たるもの、やっぱりモテたいと思いますからねえ」
「わかります」
と返事はしたものの、モテたい、という感情は白皙の美少年・史郎にはイマイチ理解できないものであった。それはともかく。
「しかし史郎さん、単純に男性物を充実させる、というのは、少し問題があるのですよ」
「そうですよね。女性物とは違いますからね」
「さすが、よくわかっておられる」
女性物は、流行に乗る、もしくは流行を作り出してしまえば、似たような柄や仕立てのものがたくさん売れる。つまり、大量に仕入れてもさばききることができる。しかし、男性物はそうはいかず、売れ行きを計算することが難しいのだ。
「そこでですね、若旦那。ひとつ、提案があります。ファッション講座を開いてはいかがでしょう」
「ふぁっしょん講座?」
史郎の提案は、こうだ。
モテたい男子を集めて、どんなものを着るのがカッコいいのか、どんな小物を持つのが粋か、を教える講座を開く。そこで紹介した着物や小物に、その場で予約を受け付け、予約の数を目安にして仕入れを行うのだ。
「なるほど、受注制ですね。そこで予約の多かったものを、少し多めに仕入れるようにすれば」
「はい。店頭にどれを置くと売れやすいかも把握できます。無駄も少なくて済むかと」
「いいですね、是非、やりましょう」
「講師は若旦那がやっていただけますか」
「いいですとも」
話はまとまり、史郎は早速準備に取りかかった。大々的に宣伝し、講座の参加募集をかけると、予想以上の人数が集まることとなった。
「これは、講師が私だけではちょっと心配ですね。史郎さん、お願いできませんか」
若旦那に言われ、史郎はふむ、と首をひねった。講師をすることが嫌なのではないが、史郎のような少年が講師、となると反感を抱かれる可能性も低くはない。
「ここはひとつ、助っ人を頼みましょう。会場規模も大きくなってしまったことだし、準備にも人出がいるでしょう」
講座参加者が予想より多かったことで、受講料だけでも儲けが出る。もう少し、投資してみてもいいだろう、という考えだった。
「粋な男を叩いてみれば、金儲けの音がする、ってね」
史郎は形の良い唇を、すいっと持ち上げて見せた。
リプレイ本文
ファッション講座の開催日当日は、梅の花が可憐にほころぶ、うららかな陽気となった。すっかり春らしくなってきた、と空を見上げて史郎 ( kz0242 )は目を細める。
「さあって、商売するとしますか!」
史郎が自分に気合を入れると、くすくすと笑い声が聞こえてきた。振り返ると、そこに立っていたのは鳳城 錬介(ka6053)だった。
「気合充分ですね」
「ええ。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ」
史郎が頭を下げると、錬介はにこやかに応じた。他のハンターたちも集まり、まずは会場設営だ。
「イケメンが多いって話を聞いて見にきたら、イケメンになりたい人達が集まる会だったようで……」
椅子を並べながらそう苦笑するのはアシェ-ル(ka2983)だ。ファッション講座の趣旨を理解した彼女は、それなら、と講師になることを決めた。
「きっと、女の子からの意見も役に立つかな……」
「もちろんです。皆、喜ぶと思いますよ」
史郎がにっこりした。アシェールは座りやすさを考えてゆとりを持たせた並べ方をするなど、すでに女性らしい気遣いを見せている。今、会場中に香りがゆきわたるように焚き染めている香木も、アシェールのアイディアだ。
「講座が始まる前から、参考になりそうなことに出会えました」
ルーレン・シュウールノート(ka6501)が会場の空気をゆっくりと吸い込みながら微笑んだ。ルーレンはこの会場設営が終わったら、受講者としてこの椅子に座る予定だ。
「戦いのサポート以外で東方へと来たのは初めてだ」
ルーレンと同じく受講者として参加するつもりのユリウス・ベルク(ka6832)は、マネキンを運び込んだり、ステージ脇に紹介するアイテムを並べたりしながら早くも自分の商売に繋がるポイントはないかと余念なくチェックしていた。その姿勢が、自分に通ずるものがある、と史郎は思って、なかなか強力なライバルになるかもしれない、とひそかにニヤリとした。
「すみません、受講者受付を設置しますので、この机を運ぶのを手伝ってもらえませんか」
「わかりました」
トオヤマ商店の従業員に声をかけられ、錬介が会場入り口まで机を運ぶと、そこにはすでに受付開始を待つ受講者たちが列をつくっていた。
「うーん……意外と人数多い。帰りたい……」
こっそりそんなことを呟いてしまう錬介だった。
ハンターたちが並べた椅子は、みるみる埋まって行った。受講者は、圧倒的に男性が多いが、中には女性の姿もある。「ウチの旦那にもお洒落させなくっちゃ」と笑う年配の女性に、史郎は愛想よく頷いた。
「是非、参考になさってください」
ルーレンとユリウスも空いている椅子を見つけて席についた。参加者の誰もが楽しみにしている空気が伝わり、ふたりも待ち遠しくなってくる。
ステージ脇では、そんな会場の様子に気圧されているのか、アシェールがそわそわしていた。
「き、緊張してきました……」
「そうですね……。普段活動しているのは西の王国なので少しは力になれるかと思いましたが、モテるかどうかの自信はあまり……などと言っている場合ではありませんね」
錬介も緊張気味の面持ちで息を整えている。ふたりに向かって、トオヤマ商店の若旦那が笑いかけた。
「大丈夫ですよ。私がしっかりご紹介いたしますから」
「ありがとうございます。講師が自信無さそうにしていたら、受講者も不安でしょうしね。これは格好いいのだと胸を張って、何とかしてみせましょうか」
「そうそう、その意気です」
若旦那が頷いたとき、史郎がステージ脇にやってきた。講師でも受講者でもない彼は、講座の司会進行役をつとめることになっている。
「若旦那、ハンターの皆さん、そろそろ始めますよ」
史郎はそう言って、まず自分がステージに出た。見目麗しい史郎は、出て行くだけで会場の視線をすべて奪ってゆく
「お集まりの皆さん、お待たせいたしました! ただいまより、トオヤマ商店主催のファッション講座を開始いたします! まずはトオヤマ商店の若旦那からご挨拶をいただき、そのまま講習に入っていただきます」
盛大な拍手の中、若旦那が出て行った。トップバッターを免れたアシェールと錬介はホッとしつつ、若旦那の講習の間に気持ちを整えようと心に決める。
若旦那は、にこやかに挨拶をしたあと、「黒い紳士ステッキ」「螺鈿ネクタイピン」「鳥打帽」の紹介をしながら和服姿の自分へ、ひとつひとつ順番にそのアイテムを加えてゆき、和洋折衷のモダンな若者に変身して見せた。
「おお~~~~」
会場から歓声が沸き起こる。しっかりファッションを教えつつも商売のことを第一に考えているのはさすがだな、と史郎は感心した。ふと見れば、ユリウスもそこに注目しているらしく、目を光らせてメモを取っている。
「この恰好を今、してみたいという方はいらっしゃいませんか?」
若旦那がそう問いかけると、ユリウスはさっと挙手をした。
「私のような西方の人間にも東方の服や着こなしが様になるか、気になる」
「大丈夫ですよ、さあどうぞこちらへ」
若旦那に促され前へ出ると、ユリウスはされるがままに帽子をかぶり、ステッキを持った。その姿は若旦那以上に様になって見えた。
「ほら、この通り。いかがです、カッコいいでしょう」
若旦那がユリウスを示して拍手を贈ると、会場中がそれにならって大きな拍手をした。一般女性にモテたいという気持ちはあまりない、と自覚しているユリウスだったが、こういうのも悪くないかもしれない、と思って、微笑んだ。
ユリウスが客席へ戻ると、若旦那はステージ脇に目線で合図をした。出番だ、とふたりの背筋が伸びる。
「ではここからは、素晴らしいゲスト講師の方々にご教授願いましょう。まずは、西方きってのモテ男、鳳城錬介殿です!」
「えっ」
思いがけない紹介の仕方をされてしまった錬介は、狼狽えつつもなんとかにこやかな微笑みを作ってステージに上がった。盛大な拍手と共に、期待のまなざしが錬介にそそがれる。史郎は布のかけられたマネキンを、そっと傍らに用意した。
「皆さんこんにちは。なんだか、大げさな紹介をされてしまいましたが、少しでもお役に立てれば幸いです」
錬介はそう挨拶したあと、簡単に和装と洋装の違いについて説明を始めた。和装には合わせのある着物が主流となるが、洋装は合わせはなく、中央についたボタンでとめておくものである云々。
「こちらでは、まだ西の物の流通は少ないようですね。ですから、物珍しいそれらを身に着ければ自然と目を引くでしょう」
目を引く、という言葉に、客席の若い男性が前のめりになった。錬介はこのタイミングですかさず、マネキンの布を取り払う。
「そこで推すのはリアルブルーでいう所の『和洋折衷』ファッション」
洋装であるスーツの上に羽織を合わせ、奇抜に見えつつもすっきりと上品な印象の装いが現れた。会場が、どよめく。
「西の物で固めても皆さんなら素敵に着こなせると思いますが……中には全て着慣れないもので固めると違和感を感じたり疲れてしまう人もいるでしょう。なのでまずは普段の服装の中に西の要素を混ぜ込む形で始めるのが良いと思います。もうすぐ暖かくなるので出番は先になってしまうかもしれませんが、着物姿にインバネスというコートを合わせたり、あるいは、このマネキンが着ているように西のスーツに羽織を合わせたり」
マネキンを示しながら説明する錬介に、受講者は皆釘づけになって熱心に話を聞いていた。熱心に聞かれると、話す方も熱が入る。
「もっと簡単に上は西方のシャツ、下は袴姿というも良いかもしれません。……ああ、この鳥打帽なども素敵ですね。これには柄がありませんが着れなくなった着物の布や反物の余りや切れ端をあてれば自分だけの着こなしに幅が出ると思います」
錬介は、鳥打帽をマネキンにかぶせた。また先ほどとは印象が変わり、会場から拍手が起こる。
「皆さん、それぞれの着こなしを、楽しんでくださいね」
錬介は最後まで堂々と講習を行った。笑顔で締めくくり、ステージ脇に戻ってくる。次にステージに出ることになるアシェールに、がんばって、とエールを送った。
「次は、可憐な女の子の登場です! 皆さん、よく言うことを聞いてくださいよ! 女の子の意見ですよ! アシェールさん、どうぞ!」
史郎の、これまた大げさな紹介で、アシェールはステージに上がった。錬介のときとは違う種類の歓声と拍手が巻き起こる。
「ええと、よろしくお願いします」
アシェールはぺこりとお辞儀をしてから、講習を始めた。
「ええと、私は、講師……というよりかは、西方女子としての感想みたいな形になるんですけど、聞いていただけたらと思います」
ファッションがただのひとりよがりになってしまわないためにも、こうした「感想」は実はとても重要だ。史郎は、こうしたことは自分には絶対無理だとわかっているだけに、ハンターにお願いして良かった、と改めて思った。
アシェールはまず、錬介もコーディネートに使用していた鳥打帽を手に取り、皆に店ながら話した。
「先ほどから登場している鳥打帽ですが、雑に扱わないで下さいね」
言葉を態度で示すように、そっと自分でかぶって見せる。
「そういうのが雑な男子は、付き合った女の子にも同じようにするのかなって思うかもしれませんし」
この言葉にドキッとした受講者は多かったらしい。う、と眉を下げて反省するような表情をした者がいた。アシェールは、そこへさらにたたみかける。
「あと、大切なのは、『清潔感』です! 帽子を外したら、ふけだらけとか、髪がはげ散らかしているのはダメです! それから、猫背は感心しません。背筋を伸ばして堂々と!」
アシェールがそう言った瞬間、ルーレンの隣に座っていた男性の背がしゃきん、と伸ばされた。ルーレンは思わずくすりと笑ってしまいながら、自分も、意識して姿勢を正してみた。
「そして、爽やかスマイルですよ」
アシェールは自分もにっこりスマイルをしてそう付け加えた。大事なのは着こなしばかりではないのだ。姿勢や態度、表情は、服装以上に「カッコよさ」をつくる。アシェールの講習に、受講者は目を開かれた思いでいるようだった。
「どこで見られているか分かりませんから、常に見られているという意識を持って下さい」
そう締めくくって、アシェールは見事に講師の役目をつとめあげた。
ステージには再び若旦那と錬介が出てきて、三人並んでお辞儀をする。史郎は三人に労いの拍手をしながら、客席に呼びかけた。
「では、ここから質問を受け付けます。何かご質問のある方は」
すると、講習をずっと、おとなしく聞いていたルーレンが挙手をした。史郎が指し示すと、おずおずと立ち上がる。
「髪型について、質問してもよいでしょうか。髪を……、これから伸ばすつもりでいるのですが、よかったら、あれんじ? と、それに合わせた飾りについて、何か、助言をいただけたらと」
この質問には、アシェールが答えることとなった。
「ええっと、髪の長さにもよりますけど、セミロングくらいになれば、いろいろなことができますよね。三つ編みをいくつも編んでからまとめてアップにしたり、シンプルにポニーテールも可愛いし……。飾りもいろいろあって、バレッタとか飾りピンとか……、意外に万能で優秀なのはリボンです! 好みの柄を探すのも楽しいですよ!」
ルーレンはふむふむ、と熱心にメモを取り、嬉しそうに礼を言った。髪が伸びた時の、参考になったようだ。
続いて質問をしたのはユリウスだ。ユリウスは、冠婚葬祭での服装や小物について尋ねた。これには、若旦那が回答する。
「そうですね……、銀製品の小物をオススメいたしますね。金は、祝い事には最適ですが、弔事にはつけられませんから、どちらにも使いたいのであれば銀がいいでしょう。細かいことを言いだすと長くなりますので、よろしければ、講座が終わった後、是非詳しくお話いたしましょう」
ユリウスは喜んで礼を言った。できれば主催者にコネを作りたいと考えていた彼にとっては、その申し出は願ったりかなったりというところだ。
最後に、史郎から紹介した商品の注文方法について説明があり、盛況のうちに、ファッション講座は幕を閉じた。
並べた椅子を、今度は片付ける。作業をしながら、ユリウスは若旦那とフォーマルな服装について話し合っていた。根幹が「商売」にあるふたりは、どうやらとても話が弾んでいるようだ。
ルーレンはそっとアシェールに近寄った。講座全体のこともあるが、質問に答えてくれたことにも礼を言いたかったのだ。
「今日は、ありがとうございました」
頭を下げるルーレンに、アシェールはいえいえ、と笑顔で答える。少しだけ周りを気にしてから、ルーレンにそっと耳打ちした。
「……私……実は、引き籠もりだったので、さっきのはぜーんぶ、受け売りなんですよー」
「え」
「で、でも、きっと、大丈夫ですよね!」
「はい、大丈夫です。私には、とっても、役に立ちました。それに、受け売りだって立派に自分のものにしてしまえばいいんですから」
ルーレンが穏やかに微笑むと、アシェールは安心したように大きく頷いた。
「お疲れ様です」
錬介は、史郎に話しかける。史郎は妙に上機嫌な顔を錬介に向けた。
「今日は錬介の兄さんたちのおかげで助かりましたよ。俺が忙しいのはこれからってところですが」
「へえ? どういうことでしょう?」
錬介が興味深そうに尋ねると、史郎は分厚い紙束をびらっと見せた。
「今日の商品の注文票です。特に鳥打帽の人気がすごい。こりゃあ張り切って、西に買い付けに行かなくっちゃあ」
「なるほど」
爛々と輝く史郎の目を見て、錬介は笑った。美少年商人の本領発揮は、これからであるらしい。
「さあって、商売するとしますか!」
史郎が自分に気合を入れると、くすくすと笑い声が聞こえてきた。振り返ると、そこに立っていたのは鳳城 錬介(ka6053)だった。
「気合充分ですね」
「ええ。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ」
史郎が頭を下げると、錬介はにこやかに応じた。他のハンターたちも集まり、まずは会場設営だ。
「イケメンが多いって話を聞いて見にきたら、イケメンになりたい人達が集まる会だったようで……」
椅子を並べながらそう苦笑するのはアシェ-ル(ka2983)だ。ファッション講座の趣旨を理解した彼女は、それなら、と講師になることを決めた。
「きっと、女の子からの意見も役に立つかな……」
「もちろんです。皆、喜ぶと思いますよ」
史郎がにっこりした。アシェールは座りやすさを考えてゆとりを持たせた並べ方をするなど、すでに女性らしい気遣いを見せている。今、会場中に香りがゆきわたるように焚き染めている香木も、アシェールのアイディアだ。
「講座が始まる前から、参考になりそうなことに出会えました」
ルーレン・シュウールノート(ka6501)が会場の空気をゆっくりと吸い込みながら微笑んだ。ルーレンはこの会場設営が終わったら、受講者としてこの椅子に座る予定だ。
「戦いのサポート以外で東方へと来たのは初めてだ」
ルーレンと同じく受講者として参加するつもりのユリウス・ベルク(ka6832)は、マネキンを運び込んだり、ステージ脇に紹介するアイテムを並べたりしながら早くも自分の商売に繋がるポイントはないかと余念なくチェックしていた。その姿勢が、自分に通ずるものがある、と史郎は思って、なかなか強力なライバルになるかもしれない、とひそかにニヤリとした。
「すみません、受講者受付を設置しますので、この机を運ぶのを手伝ってもらえませんか」
「わかりました」
トオヤマ商店の従業員に声をかけられ、錬介が会場入り口まで机を運ぶと、そこにはすでに受付開始を待つ受講者たちが列をつくっていた。
「うーん……意外と人数多い。帰りたい……」
こっそりそんなことを呟いてしまう錬介だった。
ハンターたちが並べた椅子は、みるみる埋まって行った。受講者は、圧倒的に男性が多いが、中には女性の姿もある。「ウチの旦那にもお洒落させなくっちゃ」と笑う年配の女性に、史郎は愛想よく頷いた。
「是非、参考になさってください」
ルーレンとユリウスも空いている椅子を見つけて席についた。参加者の誰もが楽しみにしている空気が伝わり、ふたりも待ち遠しくなってくる。
ステージ脇では、そんな会場の様子に気圧されているのか、アシェールがそわそわしていた。
「き、緊張してきました……」
「そうですね……。普段活動しているのは西の王国なので少しは力になれるかと思いましたが、モテるかどうかの自信はあまり……などと言っている場合ではありませんね」
錬介も緊張気味の面持ちで息を整えている。ふたりに向かって、トオヤマ商店の若旦那が笑いかけた。
「大丈夫ですよ。私がしっかりご紹介いたしますから」
「ありがとうございます。講師が自信無さそうにしていたら、受講者も不安でしょうしね。これは格好いいのだと胸を張って、何とかしてみせましょうか」
「そうそう、その意気です」
若旦那が頷いたとき、史郎がステージ脇にやってきた。講師でも受講者でもない彼は、講座の司会進行役をつとめることになっている。
「若旦那、ハンターの皆さん、そろそろ始めますよ」
史郎はそう言って、まず自分がステージに出た。見目麗しい史郎は、出て行くだけで会場の視線をすべて奪ってゆく
「お集まりの皆さん、お待たせいたしました! ただいまより、トオヤマ商店主催のファッション講座を開始いたします! まずはトオヤマ商店の若旦那からご挨拶をいただき、そのまま講習に入っていただきます」
盛大な拍手の中、若旦那が出て行った。トップバッターを免れたアシェールと錬介はホッとしつつ、若旦那の講習の間に気持ちを整えようと心に決める。
若旦那は、にこやかに挨拶をしたあと、「黒い紳士ステッキ」「螺鈿ネクタイピン」「鳥打帽」の紹介をしながら和服姿の自分へ、ひとつひとつ順番にそのアイテムを加えてゆき、和洋折衷のモダンな若者に変身して見せた。
「おお~~~~」
会場から歓声が沸き起こる。しっかりファッションを教えつつも商売のことを第一に考えているのはさすがだな、と史郎は感心した。ふと見れば、ユリウスもそこに注目しているらしく、目を光らせてメモを取っている。
「この恰好を今、してみたいという方はいらっしゃいませんか?」
若旦那がそう問いかけると、ユリウスはさっと挙手をした。
「私のような西方の人間にも東方の服や着こなしが様になるか、気になる」
「大丈夫ですよ、さあどうぞこちらへ」
若旦那に促され前へ出ると、ユリウスはされるがままに帽子をかぶり、ステッキを持った。その姿は若旦那以上に様になって見えた。
「ほら、この通り。いかがです、カッコいいでしょう」
若旦那がユリウスを示して拍手を贈ると、会場中がそれにならって大きな拍手をした。一般女性にモテたいという気持ちはあまりない、と自覚しているユリウスだったが、こういうのも悪くないかもしれない、と思って、微笑んだ。
ユリウスが客席へ戻ると、若旦那はステージ脇に目線で合図をした。出番だ、とふたりの背筋が伸びる。
「ではここからは、素晴らしいゲスト講師の方々にご教授願いましょう。まずは、西方きってのモテ男、鳳城錬介殿です!」
「えっ」
思いがけない紹介の仕方をされてしまった錬介は、狼狽えつつもなんとかにこやかな微笑みを作ってステージに上がった。盛大な拍手と共に、期待のまなざしが錬介にそそがれる。史郎は布のかけられたマネキンを、そっと傍らに用意した。
「皆さんこんにちは。なんだか、大げさな紹介をされてしまいましたが、少しでもお役に立てれば幸いです」
錬介はそう挨拶したあと、簡単に和装と洋装の違いについて説明を始めた。和装には合わせのある着物が主流となるが、洋装は合わせはなく、中央についたボタンでとめておくものである云々。
「こちらでは、まだ西の物の流通は少ないようですね。ですから、物珍しいそれらを身に着ければ自然と目を引くでしょう」
目を引く、という言葉に、客席の若い男性が前のめりになった。錬介はこのタイミングですかさず、マネキンの布を取り払う。
「そこで推すのはリアルブルーでいう所の『和洋折衷』ファッション」
洋装であるスーツの上に羽織を合わせ、奇抜に見えつつもすっきりと上品な印象の装いが現れた。会場が、どよめく。
「西の物で固めても皆さんなら素敵に着こなせると思いますが……中には全て着慣れないもので固めると違和感を感じたり疲れてしまう人もいるでしょう。なのでまずは普段の服装の中に西の要素を混ぜ込む形で始めるのが良いと思います。もうすぐ暖かくなるので出番は先になってしまうかもしれませんが、着物姿にインバネスというコートを合わせたり、あるいは、このマネキンが着ているように西のスーツに羽織を合わせたり」
マネキンを示しながら説明する錬介に、受講者は皆釘づけになって熱心に話を聞いていた。熱心に聞かれると、話す方も熱が入る。
「もっと簡単に上は西方のシャツ、下は袴姿というも良いかもしれません。……ああ、この鳥打帽なども素敵ですね。これには柄がありませんが着れなくなった着物の布や反物の余りや切れ端をあてれば自分だけの着こなしに幅が出ると思います」
錬介は、鳥打帽をマネキンにかぶせた。また先ほどとは印象が変わり、会場から拍手が起こる。
「皆さん、それぞれの着こなしを、楽しんでくださいね」
錬介は最後まで堂々と講習を行った。笑顔で締めくくり、ステージ脇に戻ってくる。次にステージに出ることになるアシェールに、がんばって、とエールを送った。
「次は、可憐な女の子の登場です! 皆さん、よく言うことを聞いてくださいよ! 女の子の意見ですよ! アシェールさん、どうぞ!」
史郎の、これまた大げさな紹介で、アシェールはステージに上がった。錬介のときとは違う種類の歓声と拍手が巻き起こる。
「ええと、よろしくお願いします」
アシェールはぺこりとお辞儀をしてから、講習を始めた。
「ええと、私は、講師……というよりかは、西方女子としての感想みたいな形になるんですけど、聞いていただけたらと思います」
ファッションがただのひとりよがりになってしまわないためにも、こうした「感想」は実はとても重要だ。史郎は、こうしたことは自分には絶対無理だとわかっているだけに、ハンターにお願いして良かった、と改めて思った。
アシェールはまず、錬介もコーディネートに使用していた鳥打帽を手に取り、皆に店ながら話した。
「先ほどから登場している鳥打帽ですが、雑に扱わないで下さいね」
言葉を態度で示すように、そっと自分でかぶって見せる。
「そういうのが雑な男子は、付き合った女の子にも同じようにするのかなって思うかもしれませんし」
この言葉にドキッとした受講者は多かったらしい。う、と眉を下げて反省するような表情をした者がいた。アシェールは、そこへさらにたたみかける。
「あと、大切なのは、『清潔感』です! 帽子を外したら、ふけだらけとか、髪がはげ散らかしているのはダメです! それから、猫背は感心しません。背筋を伸ばして堂々と!」
アシェールがそう言った瞬間、ルーレンの隣に座っていた男性の背がしゃきん、と伸ばされた。ルーレンは思わずくすりと笑ってしまいながら、自分も、意識して姿勢を正してみた。
「そして、爽やかスマイルですよ」
アシェールは自分もにっこりスマイルをしてそう付け加えた。大事なのは着こなしばかりではないのだ。姿勢や態度、表情は、服装以上に「カッコよさ」をつくる。アシェールの講習に、受講者は目を開かれた思いでいるようだった。
「どこで見られているか分かりませんから、常に見られているという意識を持って下さい」
そう締めくくって、アシェールは見事に講師の役目をつとめあげた。
ステージには再び若旦那と錬介が出てきて、三人並んでお辞儀をする。史郎は三人に労いの拍手をしながら、客席に呼びかけた。
「では、ここから質問を受け付けます。何かご質問のある方は」
すると、講習をずっと、おとなしく聞いていたルーレンが挙手をした。史郎が指し示すと、おずおずと立ち上がる。
「髪型について、質問してもよいでしょうか。髪を……、これから伸ばすつもりでいるのですが、よかったら、あれんじ? と、それに合わせた飾りについて、何か、助言をいただけたらと」
この質問には、アシェールが答えることとなった。
「ええっと、髪の長さにもよりますけど、セミロングくらいになれば、いろいろなことができますよね。三つ編みをいくつも編んでからまとめてアップにしたり、シンプルにポニーテールも可愛いし……。飾りもいろいろあって、バレッタとか飾りピンとか……、意外に万能で優秀なのはリボンです! 好みの柄を探すのも楽しいですよ!」
ルーレンはふむふむ、と熱心にメモを取り、嬉しそうに礼を言った。髪が伸びた時の、参考になったようだ。
続いて質問をしたのはユリウスだ。ユリウスは、冠婚葬祭での服装や小物について尋ねた。これには、若旦那が回答する。
「そうですね……、銀製品の小物をオススメいたしますね。金は、祝い事には最適ですが、弔事にはつけられませんから、どちらにも使いたいのであれば銀がいいでしょう。細かいことを言いだすと長くなりますので、よろしければ、講座が終わった後、是非詳しくお話いたしましょう」
ユリウスは喜んで礼を言った。できれば主催者にコネを作りたいと考えていた彼にとっては、その申し出は願ったりかなったりというところだ。
最後に、史郎から紹介した商品の注文方法について説明があり、盛況のうちに、ファッション講座は幕を閉じた。
並べた椅子を、今度は片付ける。作業をしながら、ユリウスは若旦那とフォーマルな服装について話し合っていた。根幹が「商売」にあるふたりは、どうやらとても話が弾んでいるようだ。
ルーレンはそっとアシェールに近寄った。講座全体のこともあるが、質問に答えてくれたことにも礼を言いたかったのだ。
「今日は、ありがとうございました」
頭を下げるルーレンに、アシェールはいえいえ、と笑顔で答える。少しだけ周りを気にしてから、ルーレンにそっと耳打ちした。
「……私……実は、引き籠もりだったので、さっきのはぜーんぶ、受け売りなんですよー」
「え」
「で、でも、きっと、大丈夫ですよね!」
「はい、大丈夫です。私には、とっても、役に立ちました。それに、受け売りだって立派に自分のものにしてしまえばいいんですから」
ルーレンが穏やかに微笑むと、アシェールは安心したように大きく頷いた。
「お疲れ様です」
錬介は、史郎に話しかける。史郎は妙に上機嫌な顔を錬介に向けた。
「今日は錬介の兄さんたちのおかげで助かりましたよ。俺が忙しいのはこれからってところですが」
「へえ? どういうことでしょう?」
錬介が興味深そうに尋ねると、史郎は分厚い紙束をびらっと見せた。
「今日の商品の注文票です。特に鳥打帽の人気がすごい。こりゃあ張り切って、西に買い付けに行かなくっちゃあ」
「なるほど」
爛々と輝く史郎の目を見て、錬介は笑った。美少年商人の本領発揮は、これからであるらしい。
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相談卓 ユリウス・ベルク(ka6832) 人間(クリムゾンウェスト)|26才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/03/09 17:31:37 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/03/09 17:29:14 |