ゲスト
(ka0000)
ひび割れた欠片たち
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/09 12:00
- 完成日
- 2014/12/13 04:11
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「――間違いない。咎人キアラだ」
エルフハイムの最奥地、神霊樹の眠るオプストハイム。古来からこの里を収める長老達は渋い表情で議論に興じていた。
元々長老会という名の決定装置は頻繁に招集されるべきものではない。実際ここ数年の間、議会が開かれる事自体が稀だった筈。
それもこれも、全てはあのサルヴァトーレ・ロッソなる異界の船がやってきてから。人間の国と歪虚、そして維新派エルフまでが活動を活発化させている。
「悩ましいですな。“咎人”までが動き出すとは……」
「咎人ジュリは人間に拿捕されたと聞く。あれもここ数年の間鳴りを潜めていた筈が、急に活動を再開した物であったな?」
「ジュリとキアラは元は行動を共にしていましたが、最近は別行動だったと聞いています。今回の騒動には無関係かと」
エルフハイムの高官でもある“図書館”の司書の一人が資料を片手に口を挟む。老人達は次々に溜息を零し、テーブルの上を陰気な声が行き交う。
「キアラはジュリとは違う。あ奴は元々器の候補者であった。器とそれに伴う術、エルフハイムの神秘に近づきすぎている」
「だのにこれまで何の問題も起きていなかったのは、奴が腐っても器の候補者としての矜持を持っていたから。それもいつまで持つかはわかりません。時の流れは膨大です」
「……里を抜け罪を重ねる咎人どもめ。やつらの生、それその物が害悪よ」
――咎人。それはエルフハイムが罪の烙印を押し、その生命を刈り取る対象として定めた者達である。
エルフハイムの住人が森の外に出る事そのものは罪ではない。エルフには旅をし、見聞の理を持ち帰る風習があるからだ。
しかし中にはエルフハイムに反旗を翻す者達もいる。ことエルフハイムにおいて裏切りは最も重い罪。その償いは命を以って全うするしかない。
「やむを得まい。目についてしまった以上罰を下さぬわけにはいかん。執行者を送り出す」
「お言葉ですが。キアラもまた元執行者です。警備隊の中でも腕が立ち、こと森林地帯におけるサイレントキリングにおいて右に出る者はいません」
「現行の執行者では荷が重いか……。あの時代は様々な事が重なりすぎた。だからこそあんな異常を来す個体が現れる」
「今の執行者の中で腕の立つ者をあてがうしかあるまい。何分外の事だ。追撃に関してはある程度任せる」
「では、器の扱いは器の関係者に任せるが良かろう。――ジエルデ、貴様の手駒から追手を用意せよ。器殺しは貴様の得意分野であろう」
年齢だけではなく、外見も老人となった長老エルフ達の中、その末席にまだ若さを保つ女が一人座っていた。
場違いとも言えるほど女は瑞々しく、しかし他の長老の例にもれず、その瞳はとうに死んでいる。
「承知いたしました」
「くれぐれも情けはかけるでないぞ、ジエルデ。“アイリスの大罪”、その二の舞いだけは避けねばならぬ」
「……無論です。私は同胞を裁き、同胞を討ち、その亡骸を葬る為だけにここにいるのですから」
誰にも見えぬように作った握り拳。大丈夫、声は震えてなんかいないし、その瞳に涙なんて溢れない。
殺して殺して殺しまくる。同胞殺しの異端は、いつも通りその役割に従事した。
「これより咎人キアラの追撃戦を開始します。今この時より貴方はハジャを名乗り、外部の者として振る舞いなさい」
オプストハイムの一画。木漏れ日の下に黒衣の男が立っていた。ジエルデの言葉に従い男は黒衣を剥ぎ取り素顔を露わにする。
「了解。これよりハジャ・エルフハイムとして咎人殲滅を開始します……っと。で? 戦力はまさか俺だけかい?」
「我々の任務は本来器の守護、そこに穴を作る事は出来ません」
「咎人狩りにソロで行くのはきっついなー。俺に死ねって言ってるよね、それ。しかも俺が抜けても戦力に穴は出来ませんときた」
「逆です。あなた一人で十分で、あなたならば死なないと踏んでいるだけの事」
単発の男は軽く肩を竦める。どちらにせよ異論はない。執行者なんて役割、そのへんで野垂れ死んで上等だ。
「委細任せますが、一つ。帝国軍がキアラを拿捕する前にその生命を奪うのが前提条件です」
「あー。奴は知りすぎてるからな。ご愁傷様。けど元器候補か。あんたも複雑な心境と見た」
軽口にジエルデは殺意めいた視線で応じる。この話題に関してはハジャが悪い。誰にだって踏み抜いてはいけない地雷というものがある。
「執行者の俺が言うのもなんだが、こんな事いつまで繰り返すのかねえ、爺さん達は」
「この森が終わるまで、いつまででも、永遠にでも、ですよ」
目を反らし呟いた言葉はまるで悲鳴のようだ。ハジャはニンマリと笑い、女の肩を叩く。
「確認するが、細かい手段は本日のおまかせで構わないんだな?」
「ええ。追撃暗殺は門外漢です」
「じゃあ俺流でやらせてもらうが――後で文句言うのはナシだかんな?」
時折、昔の夢を見る。
「キアラ、また姉御の指示を破って人間殺しまくったッスね?」
ジュリというのは同じ組織の同僚だったエルフの女だ。お互い仲良く咎人認定だが、友人関係としては冷えきっていた。
「姉御も言ってただろ。積極的に命を奪うようではやってる事が同じだって」
「でも、未然に防ぐ事が善行じゃないかな。後で殺しておけば良かったなんて後悔しても間に合わないし。……アイリスはどう思う?」
石造りの薄暗いアジトの一室。かすかな松明の灯りに照らされて女は振り返った。
とても長い髪、そして氷のように冷たい眼差し。女は腕を組み息をつき。
「そのようなやり方を続ければいずれは人に、そして同胞に裁かれるでしょう。自戒なさいキアラ。その怒りも憎しみも尊い物ですが、人に当てつけるには濃すぎます」
師匠でもある女にそう言われては考えてしまう。アイリスとジュリとキアラ、その三人は力も考え方も三つ巴にあった。
だからこそ保たれていたバランスならば、アイリスが失踪した事を切欠に崩壊したとしても、なんらおかしな事もなかった。
ゆっくりを瞼を開き、意図して夢から覚める。
暗闇のロッジの中、まるで少女のような少年は月明かりを弾くナイフの切っ先にまどろんでいた。
冒険都市リゼリオの酒場。そこでいつものようにくつろいでいたハンターの隣に一人の男が座った。
「マスター、この店で一番いい酒を。俺と、それからこいつにも」
突然の申し出に目を向けるとそこには若いエルフの男が微笑んでいた。男は琥珀色の液体が注がれたグラスを掲げ。
「あんたハンターだろ? 見たところ腕も立ちそうだ。ちょっといい仕事があるんだが、付き合わんかね?」
何の悪気もなさそうな笑顔で。気前よく羽振りよく、そう言った。
エルフハイムの最奥地、神霊樹の眠るオプストハイム。古来からこの里を収める長老達は渋い表情で議論に興じていた。
元々長老会という名の決定装置は頻繁に招集されるべきものではない。実際ここ数年の間、議会が開かれる事自体が稀だった筈。
それもこれも、全てはあのサルヴァトーレ・ロッソなる異界の船がやってきてから。人間の国と歪虚、そして維新派エルフまでが活動を活発化させている。
「悩ましいですな。“咎人”までが動き出すとは……」
「咎人ジュリは人間に拿捕されたと聞く。あれもここ数年の間鳴りを潜めていた筈が、急に活動を再開した物であったな?」
「ジュリとキアラは元は行動を共にしていましたが、最近は別行動だったと聞いています。今回の騒動には無関係かと」
エルフハイムの高官でもある“図書館”の司書の一人が資料を片手に口を挟む。老人達は次々に溜息を零し、テーブルの上を陰気な声が行き交う。
「キアラはジュリとは違う。あ奴は元々器の候補者であった。器とそれに伴う術、エルフハイムの神秘に近づきすぎている」
「だのにこれまで何の問題も起きていなかったのは、奴が腐っても器の候補者としての矜持を持っていたから。それもいつまで持つかはわかりません。時の流れは膨大です」
「……里を抜け罪を重ねる咎人どもめ。やつらの生、それその物が害悪よ」
――咎人。それはエルフハイムが罪の烙印を押し、その生命を刈り取る対象として定めた者達である。
エルフハイムの住人が森の外に出る事そのものは罪ではない。エルフには旅をし、見聞の理を持ち帰る風習があるからだ。
しかし中にはエルフハイムに反旗を翻す者達もいる。ことエルフハイムにおいて裏切りは最も重い罪。その償いは命を以って全うするしかない。
「やむを得まい。目についてしまった以上罰を下さぬわけにはいかん。執行者を送り出す」
「お言葉ですが。キアラもまた元執行者です。警備隊の中でも腕が立ち、こと森林地帯におけるサイレントキリングにおいて右に出る者はいません」
「現行の執行者では荷が重いか……。あの時代は様々な事が重なりすぎた。だからこそあんな異常を来す個体が現れる」
「今の執行者の中で腕の立つ者をあてがうしかあるまい。何分外の事だ。追撃に関してはある程度任せる」
「では、器の扱いは器の関係者に任せるが良かろう。――ジエルデ、貴様の手駒から追手を用意せよ。器殺しは貴様の得意分野であろう」
年齢だけではなく、外見も老人となった長老エルフ達の中、その末席にまだ若さを保つ女が一人座っていた。
場違いとも言えるほど女は瑞々しく、しかし他の長老の例にもれず、その瞳はとうに死んでいる。
「承知いたしました」
「くれぐれも情けはかけるでないぞ、ジエルデ。“アイリスの大罪”、その二の舞いだけは避けねばならぬ」
「……無論です。私は同胞を裁き、同胞を討ち、その亡骸を葬る為だけにここにいるのですから」
誰にも見えぬように作った握り拳。大丈夫、声は震えてなんかいないし、その瞳に涙なんて溢れない。
殺して殺して殺しまくる。同胞殺しの異端は、いつも通りその役割に従事した。
「これより咎人キアラの追撃戦を開始します。今この時より貴方はハジャを名乗り、外部の者として振る舞いなさい」
オプストハイムの一画。木漏れ日の下に黒衣の男が立っていた。ジエルデの言葉に従い男は黒衣を剥ぎ取り素顔を露わにする。
「了解。これよりハジャ・エルフハイムとして咎人殲滅を開始します……っと。で? 戦力はまさか俺だけかい?」
「我々の任務は本来器の守護、そこに穴を作る事は出来ません」
「咎人狩りにソロで行くのはきっついなー。俺に死ねって言ってるよね、それ。しかも俺が抜けても戦力に穴は出来ませんときた」
「逆です。あなた一人で十分で、あなたならば死なないと踏んでいるだけの事」
単発の男は軽く肩を竦める。どちらにせよ異論はない。執行者なんて役割、そのへんで野垂れ死んで上等だ。
「委細任せますが、一つ。帝国軍がキアラを拿捕する前にその生命を奪うのが前提条件です」
「あー。奴は知りすぎてるからな。ご愁傷様。けど元器候補か。あんたも複雑な心境と見た」
軽口にジエルデは殺意めいた視線で応じる。この話題に関してはハジャが悪い。誰にだって踏み抜いてはいけない地雷というものがある。
「執行者の俺が言うのもなんだが、こんな事いつまで繰り返すのかねえ、爺さん達は」
「この森が終わるまで、いつまででも、永遠にでも、ですよ」
目を反らし呟いた言葉はまるで悲鳴のようだ。ハジャはニンマリと笑い、女の肩を叩く。
「確認するが、細かい手段は本日のおまかせで構わないんだな?」
「ええ。追撃暗殺は門外漢です」
「じゃあ俺流でやらせてもらうが――後で文句言うのはナシだかんな?」
時折、昔の夢を見る。
「キアラ、また姉御の指示を破って人間殺しまくったッスね?」
ジュリというのは同じ組織の同僚だったエルフの女だ。お互い仲良く咎人認定だが、友人関係としては冷えきっていた。
「姉御も言ってただろ。積極的に命を奪うようではやってる事が同じだって」
「でも、未然に防ぐ事が善行じゃないかな。後で殺しておけば良かったなんて後悔しても間に合わないし。……アイリスはどう思う?」
石造りの薄暗いアジトの一室。かすかな松明の灯りに照らされて女は振り返った。
とても長い髪、そして氷のように冷たい眼差し。女は腕を組み息をつき。
「そのようなやり方を続ければいずれは人に、そして同胞に裁かれるでしょう。自戒なさいキアラ。その怒りも憎しみも尊い物ですが、人に当てつけるには濃すぎます」
師匠でもある女にそう言われては考えてしまう。アイリスとジュリとキアラ、その三人は力も考え方も三つ巴にあった。
だからこそ保たれていたバランスならば、アイリスが失踪した事を切欠に崩壊したとしても、なんらおかしな事もなかった。
ゆっくりを瞼を開き、意図して夢から覚める。
暗闇のロッジの中、まるで少女のような少年は月明かりを弾くナイフの切っ先にまどろんでいた。
冒険都市リゼリオの酒場。そこでいつものようにくつろいでいたハンターの隣に一人の男が座った。
「マスター、この店で一番いい酒を。俺と、それからこいつにも」
突然の申し出に目を向けるとそこには若いエルフの男が微笑んでいた。男は琥珀色の液体が注がれたグラスを掲げ。
「あんたハンターだろ? 見たところ腕も立ちそうだ。ちょっといい仕事があるんだが、付き合わんかね?」
何の悪気もなさそうな笑顔で。気前よく羽振りよく、そう言った。
リプレイ本文
ハジャの拳は素早く、そして読み辛い独特の軌道を描く。
まるで蛇のような拳に打たれ、膝を着くキヅカ・リク(ka0038)の髪を掴み、男は目を細める。
「甘いねぇ。甘すぎる。そんな手じゃ合格点はやれないねぇ……」
「キヅカさん!」
叫ぶリサ=メテオール(ka3520)の傍らにはキヅカの銃で撃たれ倒れたキアラの姿がある。キヅカは視線だけそちらに向け。
「彼はエルフハイムと帝国の軋轢を取り払う為に必要なヒントだ。ここで殺させるわけにはいかない」
「そりゃ結構だが現実を見なぼうず。何かを変えたいと願うのはいい。だが力がなけりゃそれはただの我儘だ」
ハジャの膝がキヅカの顎を打つ。よろめきながら構えるが、ハジャはキヅカより何段も格上だった。
滅多打ちにされる度に意識が飛びそうになる。こみ上げる血の味を噛み締め、命の危機の中少年は十数分前へと想いを馳せた。
「結界林、という物がある」
キアラのアジト周辺に巡らされた不可視の結界。エルフハイムで開発された侵入者感知のトラップだ。
罠を警戒していたキヅカだが、知らなければ警戒も出来ない。ハジャは腕を組み。
「ここから先に入った瞬間感知されるぜ。もう迎撃されると思った方がいい」
「隠密行動や成功法が通じるとは思ってないし、それならそういうつもりで動くだけよ」
それはリサの言う通り。それにそんなものがある時点でここは当たりとわかる。ハンター達は意を決して駆け出した。
100m程進むと視界に小さく目当てのコテージが見えた。そして正面から複数のエルフが剣を手に向かってくる。
「やはり感知されているようですね」
フェリア(ka2870)が呟くと同時、Σ(ka3450)がエルフの先頭と刃を交える。Σは何も口にしなかったが、視線で仲間に先に進むよう合図していた。
「頼らせて貰うか。俺達はキアラに辿り着かにゃならんからな」
片目を瞑りながら頷くイブリス・アリア(ka3359)。幸いこのエルフ達の中に覚醒者はいない。標的を探す為に前に進むべきと判断した。
「私も残りましょう。一人では無勢が過ぎますから」
フェリアの言葉にΣは返事をしないまま構え直す。
二人を残して前進するハンター達、それをコテージの屋根上に立ったエルフ達が矢による迎撃を行う。
「あの様子じゃキアラもあそこか?」
イブリスは手裏剣を手の中に取り出し、屋根上のエルフを狙う。キヅカも発砲すると、二人の狙いは正確で次々にエルフが倒れていく。
「お上手お上手。非覚醒者だとしてもこう遠くからやられては面倒だものね」
微笑むクリス・クロフォード(ka3628)とリサが小屋へ迫ると、樹上から二刀流のエルフが飛び込んでくる。その動きは他のエルフの比ではない。
リサとクリスの反撃を左右の剣で流し、くるりと回るように弾く。体制を立て直す二人だが、次の瞬間側面から矢が飛来する。
矢はクリスの腕に突き刺さる。それに気を取られた所へ目の前の敵が襲いかかるが、それはイブリスが割り込み中断させた。
「矢……どこから?」
二刀使いは油断ならない強敵だ。その挙動に合わせ放たれた矢は正確かつ力強く、そして気配がない。射出方向を予想し目を向けるイブリスだが、また別の方向から矢が飛んでくる。
「キアラだな。開けた場所にいちゃ的だぜ」
イブリスの頬の横で矢を素手で掴んで投げるハジャ。
「お前ら遠距離攻撃への対策甘すぎない? 俺をアテにしてくれてるなら光栄だけど」
「攻撃は森の中からだ。コテージに入ってしまった方がいい」
「それはわかるけど、逃げられるんじゃないかしら?」
キヅカの提案に難色を示すクリス。二刀流がキヅカを襲うとリサが援護に入り、二人が戦うその頭上からキアラの矢が飛んでくる。
「ちょ……矢の方向全然読めない! 何これ!?」
肩に刺さった矢に叫ぶリサ。ハジャはその瞬間弾かれるように駆け出した。
「方向が分かったのか。俺達も続くぞ」
続いて移動するイブリスとクリス。二刀流の男は三人を追おうとするも、キヅカの射撃に邪魔される。
「俺に当てるとは、いい腕をしているな、人間」
「お褒めにあずかりどうも」
反撃を防御障壁で受け止め、キヅカはリサの手を取って走りだす。
「こいつは素早い。開けた場所でやりあうんじゃ不利だ。もう狙撃手がいないとも限らないしね」
もう三人とは十分距離を取った。敵もキアラとの分断を狙うだろう。コテージへ駆け出す二人を予想通り二刀使いは追いかけていく……。
「何故そうまでして人を狙うのか……あなたとしてはどう思うかしら、賞金稼ぎさん?」
道中、木漏れ日に照らされながらフェリアは言った。ハジャに代わりイブリスは肩を竦め。
「どんな大義を掲げたとしても、それで罪を犯しちゃただの狂人だよ。奴の言い分に聞く耳を持つ価値はあるのかね?」
「そうですね。どんな理由があっても人殺しは人殺し……ですから」
イブリスの言葉に頷くフェリア。「あなたはどうですか?」というフェリアの声にΣは僅かに視線だけ向ける。どうでもいいようだ。
「でも何でハジャさんはハンターズソサエティを通さずにこの仕事を依頼したの?」
酒場で声をかけられたのはリサだけではない。厳密にはソサエティに依頼は通したが、面子を選んだのはハジャの一存だ。
「組む相手の人となりは気になるだろ? どうせならカワイイ女の子がいい」
「だからって汚れ仕事を手伝わせるなんてね。多少は恩を感じて貰わなきゃ困るわよ?」
馴れ馴れしくクリスの肩を抱いて頷くハジャ。勘違いは正さない方が彼の為だ。
「可愛い子選ぶのはいいけど、それで思う通り行かなかったらどうするの? 例えば、あたしがキアラを殺したくないって言ったら?」
「別に?」
ニタリと笑うハジャ。その時リサが覚えた悪寒は、きっと間違いではない。
「それなら、それで」
底知れぬ冷たさに息を呑む。その瞬間からリサにとってこのエルフは信じすぎてはいけない存在になった。
「下がってください。これで纏めて……!」
フェリアはΣに群がる敵集団へスリープクラウドを放つ。背後へ飛んだΣと入れ替わりに広がった煙はエルフ達の動きを封じる。
中には眠らなかったエルフもいるが、動きが鈍れば十分。Σはロングソードで次々に切り伏せていく。
「一般人が相手ではこんなものですか。さて、次はどちらへ向かったものか」
Σは森の奥を指差す。戦闘中にハジャ達が向かった方向だ。フェリアは頷き、コテージをスルーし森へ急ぐ。
一方そのコテージではリサとキヅカが二刀流のエルフと戦いを繰り広げていた。
キヅカの狙い通り閉所では回避スペースに限りがあり、リサを壁とするキヅカの射撃に晒されていた。
リサの剣は聖導士と侮れない程鋭く、エルフも看過は出来ない。そして危険な攻撃はキヅカが障壁で防ぎ、キヅカの銃もまた身動きの封じられた場所で受けるには正確過ぎた。
「この俺がこうも手球に取られるとはな……」
「まあ、さっきやられた戦法だけどね」
男は舌打ちし背後に跳ぶ。まだ余力を残していたのか、壁と天井を蹴り立体的な動きで外へ一気に飛び出していく。
「キアラの方へ行ったの?」
「だとしても、そうでなかったとしても、僕らも向かうべきだ」
頷くリサ。二人もコテージから飛び出し、キアラを探し森の中へ飛び込んだ。
樹上を跳び回るキアラは逃げながら空中から矢を放つ。マテリアルの篭った一撃は土を吹き飛ばす勢いでイブリスを狙う。
「……ちっ。さっさと死んでくれるとありがたいんだがな。咎人さんよ」
一方クリスは脂汗を浮かべ肩で息をしている。先ほどから身体の調子が悪く上手く走る事が出来ない。
「やっぱ毒か。何発も貰うとアウトだぞ」
躓き転倒するクリス。イブリスも既に矢を受けてしまっている。キアラは逃げながら射るだけではなく、時折不自然に進行方向を変更する。
「まじーな。分断されてるぞ。照明弾か煙か笛かなんか……ないよねー」
直ぐに指笛を鳴らすハジャ。キアラはそれを止めようと矢を番えるが、イブリスはその隙を狙う。
マテリアルの光を帯びた手裏剣が飛来し、キアラの構えた弓を切断した。樹上から落ちる弓を見てイブリスは一気に距離を詰める。
「追いついたぜ。さぁて、死ぬ覚悟は出来てるかい?」
足に光を集め、一気に木を駆け上がるイブリス。ナイフを振るうその眼前につきつけられたのは白い拳銃だった。
咄嗟に手裏剣を翳して弾を弾くイブリス。キアラは木から飛び降りながらイブリスの頭を太ももではさみ、空中を回転しながら大地へ投げ飛ばした。
「イブリス!」
クリスの毒への抵抗力は比較的高い。麻痺から抜け出すと枯れ葉を吹き飛ばし一気に前進する。
振り下ろす刃をキアラはナイフで受け銃口をクリスの額に突きつける。これを刀で弾き上げ、その刀をキアラはかわしナイフを繰り出す。
「捕まえたぁ……!」
突き出したナイフの持ち手を掴み、ぐっと身体を反らし突きを放つクリス。キアラは横から拳銃を構え引き金を引いた。
光を帯びた弾丸が光を帯びた切っ先を横に弾く。刃はキアラの脇腹を切り裂き、しかし空振り。掴まれた手からナイフを零したキアラはそれを足先に乗せ、クリスの脇腹に突き刺した。
「凄いね“お兄さん”。思い切りの良い攻撃」
「今ので決めるつもりが痛み分けとはねぇ……」
腹のナイフを引き抜くクリス。防具が良かったのか、傷は浅い。
「とは言え、もう逃さんよ」
起き上がったイブリス、そしてハジャがキアラを囲む。キアラは新たに銃を抜き、二丁を左右に突き出しイブリスとクリスを牽制。駆け寄るハジャの拳を背後に跳んでかわす。
そこへ突然側面から炎の矢が迫る。フェリアの魔法だ。更に回りこんでいたΣが木陰から飛び出しロングソードで斬りつける。
すかさず投げたイブリスの手裏剣がキアラの腕に突き刺さる。ハジャは銃撃を掻い潜り近づくと、鋭く銃を蹴り上げた。
「いいとこは譲ってやるよ、クリスちゃん!」
マテリアルを帯びた刀を袈裟に振り下ろすクリス。直撃を受け血飛沫を上げるキアラ、更に刃を返したその時。
「――どういうつもり?」
振り下ろした刃を光の壁が受け止めていた。駆け寄ってきたのはキヅカとリサ。キヅカの展開した障壁が消えると、傷ついたキアラの前にリサが立ち塞がった。
「そうまでするかい、おまえさん達は」
呆れたようにパイプに手を伸ばすイブリス。キヅカはハジャへ目を向け。
「彼を殺さずに捕らえる事は出来ないだろうか?」
「どういう事ですか?」
困ったように目を丸くするフェリア。Σは成り行きを見る事にしたのか、遠巻きに腕を組んで見ている。
「貴方が人間を嫌っている事は解ってる。でも、何で今の様になるまで至ったのか、それを聞いてみたいんだ」
「確かにそれは気になりますが……」
キアラが話すだろうか。リサの言葉に考えこむフェリア、一方イブリスは首を横に振り。
「言った筈だ。どんな事情があろうとも罪は罪だと。逃げる物を無理に追うつもりはないが、目の前で死にかけているのに止めを刺さん道理もない」
「生け捕りとか冗談……仕事も満足に仕上げられないような甘ちゃんが何言ってんのよ。いい? 私にはハンターとして戦うという矜持がある」
抜身のままの刃を仲間へと突きつけるクリス。
「半端仕事の始末は誰がつけるのかしら。私は汚点を抱え込むのは御免よ。アンタ達にハンターとしての矜持とかって……あるの?」
そう言いながら視線を動かしたクリスの瞳が驚きに固まる。が、それよりも更なる驚きが続いた。
「そうか。なら仕方ない」
そう言ってキヅカはキアラへ連続で引き金を引いた。銃声が轟き、キアラは仰向けに倒れ、地面に血溜まりが広がっていく。
「……こうなったか」
ぽつりと呟くΣの声は誰にも聞こえなかった。キヅカは淡々と銃をリロードしながらハジャに目を向ける。
「今更だけど提案がある。僕は譲歩したんだから、呑んでもらいたい」
「というと?」
「この死体を預かりたい。帝国に持っていけば別に報酬がもらえるからね。殺した後の事までは君の依頼にはなかったでしょ」
「ああ。そういう事ならしょうがねぇ、好きにしな」
頷きリサがキアラの身体を抱えようとした時だ。
「ちょい待ち」
「何? 死体は持ってっていいんでしょ?」
「“死体は”な。でもそいつ生きてるじゃねぇか」
びくりと背筋を震わせるリサ。咄嗟に前に出たキヅカだが、その顔面を容赦無いハジャの拳が襲った。
「逃げろ、リサ……ここは、僕が……」
「キヅカさん……ごめんなさい!」
気絶しているキアラを抱え走り出すリサ。キヅカは体中を殴られ、蹴られ、血反吐を吐きながらハジャに縋り付いている。
「……ハジャさん、幾らなんでもやり過ぎです」
「ああ。そんな事より向こうを追うべきじゃないのかい? それ以上やったら死んじまう」
慌てるフェリア。イブリスも険しい表情でハジャを見ている。
ハジャは強い。先の戦闘中も加減していたとしか思えない。キヅカのつけている防具は優秀だが、それを持ってしても傷は深い。
「んー。まー、そのうち追っかけるさ」
「……ちょっと待って。何なのそれは? さっきもそう、私が合図をしたのにアンタは……!」
クリスは自分が注意を引き付けている間にキアラを殺せと合図を送った。しかしその視線の先に居たハジャは、まるで状況を楽しむように邪悪な笑みを浮かべていたのだ。
「アンタ……こうなると分かってたんじゃないの?」
返り血に染まった笑みを見て確信した。ハジャは最初からハンターを何か別の目的に利用する為に“選んで”いたのだと。
「別に大した事じゃないよクリスちゃん。俺はこいつに足止めを食ってる。こいつが倒れない限り後は追えない。それだけさ」
キヅカを突き飛ばし殴りつける。気絶しかけながらもキヅカは地べたを這ってハジャに向かう姿勢を見せる。
「根性あるよぼうず。だけど夢を語るにはまだ甘いな」
「……おかしい、か?」
少年はぼこぼこになった顔を上げ。
「僕が……夢や理想を語るのは、おかしい……か?」
震えながら立ち上がるキヅカ。再び殴りかかろうとする拳を掴んだのはΣで、見れば他のハンターもハジャを止めようと動き出していた。
「んー……。ん。合格かな?」
そんな呟きと共に手を引くハジャ。倒れこむキヅカを受け止めたのはイブリスだ。
「うん、合格。これなら次第点をあげてもいい」
「ふざけないでくれる? 言ったわよね、私はハンターとしての矜持を持っていると。依頼には従順よ。でも、それ以外でナメた真似をされるのは許せない!」
肩をすくめて笑うハジャ。結局彼はキアラを追撃しなかった。
得体の知れない不気味さを感じるハンターに報酬を支払い、ハジャと名乗った男は姿を消した。
そしてこの選択は、意図せぬ形で波紋を広げ、ハジャにも予想外の形で広がっていく事になる――。
まるで蛇のような拳に打たれ、膝を着くキヅカ・リク(ka0038)の髪を掴み、男は目を細める。
「甘いねぇ。甘すぎる。そんな手じゃ合格点はやれないねぇ……」
「キヅカさん!」
叫ぶリサ=メテオール(ka3520)の傍らにはキヅカの銃で撃たれ倒れたキアラの姿がある。キヅカは視線だけそちらに向け。
「彼はエルフハイムと帝国の軋轢を取り払う為に必要なヒントだ。ここで殺させるわけにはいかない」
「そりゃ結構だが現実を見なぼうず。何かを変えたいと願うのはいい。だが力がなけりゃそれはただの我儘だ」
ハジャの膝がキヅカの顎を打つ。よろめきながら構えるが、ハジャはキヅカより何段も格上だった。
滅多打ちにされる度に意識が飛びそうになる。こみ上げる血の味を噛み締め、命の危機の中少年は十数分前へと想いを馳せた。
「結界林、という物がある」
キアラのアジト周辺に巡らされた不可視の結界。エルフハイムで開発された侵入者感知のトラップだ。
罠を警戒していたキヅカだが、知らなければ警戒も出来ない。ハジャは腕を組み。
「ここから先に入った瞬間感知されるぜ。もう迎撃されると思った方がいい」
「隠密行動や成功法が通じるとは思ってないし、それならそういうつもりで動くだけよ」
それはリサの言う通り。それにそんなものがある時点でここは当たりとわかる。ハンター達は意を決して駆け出した。
100m程進むと視界に小さく目当てのコテージが見えた。そして正面から複数のエルフが剣を手に向かってくる。
「やはり感知されているようですね」
フェリア(ka2870)が呟くと同時、Σ(ka3450)がエルフの先頭と刃を交える。Σは何も口にしなかったが、視線で仲間に先に進むよう合図していた。
「頼らせて貰うか。俺達はキアラに辿り着かにゃならんからな」
片目を瞑りながら頷くイブリス・アリア(ka3359)。幸いこのエルフ達の中に覚醒者はいない。標的を探す為に前に進むべきと判断した。
「私も残りましょう。一人では無勢が過ぎますから」
フェリアの言葉にΣは返事をしないまま構え直す。
二人を残して前進するハンター達、それをコテージの屋根上に立ったエルフ達が矢による迎撃を行う。
「あの様子じゃキアラもあそこか?」
イブリスは手裏剣を手の中に取り出し、屋根上のエルフを狙う。キヅカも発砲すると、二人の狙いは正確で次々にエルフが倒れていく。
「お上手お上手。非覚醒者だとしてもこう遠くからやられては面倒だものね」
微笑むクリス・クロフォード(ka3628)とリサが小屋へ迫ると、樹上から二刀流のエルフが飛び込んでくる。その動きは他のエルフの比ではない。
リサとクリスの反撃を左右の剣で流し、くるりと回るように弾く。体制を立て直す二人だが、次の瞬間側面から矢が飛来する。
矢はクリスの腕に突き刺さる。それに気を取られた所へ目の前の敵が襲いかかるが、それはイブリスが割り込み中断させた。
「矢……どこから?」
二刀使いは油断ならない強敵だ。その挙動に合わせ放たれた矢は正確かつ力強く、そして気配がない。射出方向を予想し目を向けるイブリスだが、また別の方向から矢が飛んでくる。
「キアラだな。開けた場所にいちゃ的だぜ」
イブリスの頬の横で矢を素手で掴んで投げるハジャ。
「お前ら遠距離攻撃への対策甘すぎない? 俺をアテにしてくれてるなら光栄だけど」
「攻撃は森の中からだ。コテージに入ってしまった方がいい」
「それはわかるけど、逃げられるんじゃないかしら?」
キヅカの提案に難色を示すクリス。二刀流がキヅカを襲うとリサが援護に入り、二人が戦うその頭上からキアラの矢が飛んでくる。
「ちょ……矢の方向全然読めない! 何これ!?」
肩に刺さった矢に叫ぶリサ。ハジャはその瞬間弾かれるように駆け出した。
「方向が分かったのか。俺達も続くぞ」
続いて移動するイブリスとクリス。二刀流の男は三人を追おうとするも、キヅカの射撃に邪魔される。
「俺に当てるとは、いい腕をしているな、人間」
「お褒めにあずかりどうも」
反撃を防御障壁で受け止め、キヅカはリサの手を取って走りだす。
「こいつは素早い。開けた場所でやりあうんじゃ不利だ。もう狙撃手がいないとも限らないしね」
もう三人とは十分距離を取った。敵もキアラとの分断を狙うだろう。コテージへ駆け出す二人を予想通り二刀使いは追いかけていく……。
「何故そうまでして人を狙うのか……あなたとしてはどう思うかしら、賞金稼ぎさん?」
道中、木漏れ日に照らされながらフェリアは言った。ハジャに代わりイブリスは肩を竦め。
「どんな大義を掲げたとしても、それで罪を犯しちゃただの狂人だよ。奴の言い分に聞く耳を持つ価値はあるのかね?」
「そうですね。どんな理由があっても人殺しは人殺し……ですから」
イブリスの言葉に頷くフェリア。「あなたはどうですか?」というフェリアの声にΣは僅かに視線だけ向ける。どうでもいいようだ。
「でも何でハジャさんはハンターズソサエティを通さずにこの仕事を依頼したの?」
酒場で声をかけられたのはリサだけではない。厳密にはソサエティに依頼は通したが、面子を選んだのはハジャの一存だ。
「組む相手の人となりは気になるだろ? どうせならカワイイ女の子がいい」
「だからって汚れ仕事を手伝わせるなんてね。多少は恩を感じて貰わなきゃ困るわよ?」
馴れ馴れしくクリスの肩を抱いて頷くハジャ。勘違いは正さない方が彼の為だ。
「可愛い子選ぶのはいいけど、それで思う通り行かなかったらどうするの? 例えば、あたしがキアラを殺したくないって言ったら?」
「別に?」
ニタリと笑うハジャ。その時リサが覚えた悪寒は、きっと間違いではない。
「それなら、それで」
底知れぬ冷たさに息を呑む。その瞬間からリサにとってこのエルフは信じすぎてはいけない存在になった。
「下がってください。これで纏めて……!」
フェリアはΣに群がる敵集団へスリープクラウドを放つ。背後へ飛んだΣと入れ替わりに広がった煙はエルフ達の動きを封じる。
中には眠らなかったエルフもいるが、動きが鈍れば十分。Σはロングソードで次々に切り伏せていく。
「一般人が相手ではこんなものですか。さて、次はどちらへ向かったものか」
Σは森の奥を指差す。戦闘中にハジャ達が向かった方向だ。フェリアは頷き、コテージをスルーし森へ急ぐ。
一方そのコテージではリサとキヅカが二刀流のエルフと戦いを繰り広げていた。
キヅカの狙い通り閉所では回避スペースに限りがあり、リサを壁とするキヅカの射撃に晒されていた。
リサの剣は聖導士と侮れない程鋭く、エルフも看過は出来ない。そして危険な攻撃はキヅカが障壁で防ぎ、キヅカの銃もまた身動きの封じられた場所で受けるには正確過ぎた。
「この俺がこうも手球に取られるとはな……」
「まあ、さっきやられた戦法だけどね」
男は舌打ちし背後に跳ぶ。まだ余力を残していたのか、壁と天井を蹴り立体的な動きで外へ一気に飛び出していく。
「キアラの方へ行ったの?」
「だとしても、そうでなかったとしても、僕らも向かうべきだ」
頷くリサ。二人もコテージから飛び出し、キアラを探し森の中へ飛び込んだ。
樹上を跳び回るキアラは逃げながら空中から矢を放つ。マテリアルの篭った一撃は土を吹き飛ばす勢いでイブリスを狙う。
「……ちっ。さっさと死んでくれるとありがたいんだがな。咎人さんよ」
一方クリスは脂汗を浮かべ肩で息をしている。先ほどから身体の調子が悪く上手く走る事が出来ない。
「やっぱ毒か。何発も貰うとアウトだぞ」
躓き転倒するクリス。イブリスも既に矢を受けてしまっている。キアラは逃げながら射るだけではなく、時折不自然に進行方向を変更する。
「まじーな。分断されてるぞ。照明弾か煙か笛かなんか……ないよねー」
直ぐに指笛を鳴らすハジャ。キアラはそれを止めようと矢を番えるが、イブリスはその隙を狙う。
マテリアルの光を帯びた手裏剣が飛来し、キアラの構えた弓を切断した。樹上から落ちる弓を見てイブリスは一気に距離を詰める。
「追いついたぜ。さぁて、死ぬ覚悟は出来てるかい?」
足に光を集め、一気に木を駆け上がるイブリス。ナイフを振るうその眼前につきつけられたのは白い拳銃だった。
咄嗟に手裏剣を翳して弾を弾くイブリス。キアラは木から飛び降りながらイブリスの頭を太ももではさみ、空中を回転しながら大地へ投げ飛ばした。
「イブリス!」
クリスの毒への抵抗力は比較的高い。麻痺から抜け出すと枯れ葉を吹き飛ばし一気に前進する。
振り下ろす刃をキアラはナイフで受け銃口をクリスの額に突きつける。これを刀で弾き上げ、その刀をキアラはかわしナイフを繰り出す。
「捕まえたぁ……!」
突き出したナイフの持ち手を掴み、ぐっと身体を反らし突きを放つクリス。キアラは横から拳銃を構え引き金を引いた。
光を帯びた弾丸が光を帯びた切っ先を横に弾く。刃はキアラの脇腹を切り裂き、しかし空振り。掴まれた手からナイフを零したキアラはそれを足先に乗せ、クリスの脇腹に突き刺した。
「凄いね“お兄さん”。思い切りの良い攻撃」
「今ので決めるつもりが痛み分けとはねぇ……」
腹のナイフを引き抜くクリス。防具が良かったのか、傷は浅い。
「とは言え、もう逃さんよ」
起き上がったイブリス、そしてハジャがキアラを囲む。キアラは新たに銃を抜き、二丁を左右に突き出しイブリスとクリスを牽制。駆け寄るハジャの拳を背後に跳んでかわす。
そこへ突然側面から炎の矢が迫る。フェリアの魔法だ。更に回りこんでいたΣが木陰から飛び出しロングソードで斬りつける。
すかさず投げたイブリスの手裏剣がキアラの腕に突き刺さる。ハジャは銃撃を掻い潜り近づくと、鋭く銃を蹴り上げた。
「いいとこは譲ってやるよ、クリスちゃん!」
マテリアルを帯びた刀を袈裟に振り下ろすクリス。直撃を受け血飛沫を上げるキアラ、更に刃を返したその時。
「――どういうつもり?」
振り下ろした刃を光の壁が受け止めていた。駆け寄ってきたのはキヅカとリサ。キヅカの展開した障壁が消えると、傷ついたキアラの前にリサが立ち塞がった。
「そうまでするかい、おまえさん達は」
呆れたようにパイプに手を伸ばすイブリス。キヅカはハジャへ目を向け。
「彼を殺さずに捕らえる事は出来ないだろうか?」
「どういう事ですか?」
困ったように目を丸くするフェリア。Σは成り行きを見る事にしたのか、遠巻きに腕を組んで見ている。
「貴方が人間を嫌っている事は解ってる。でも、何で今の様になるまで至ったのか、それを聞いてみたいんだ」
「確かにそれは気になりますが……」
キアラが話すだろうか。リサの言葉に考えこむフェリア、一方イブリスは首を横に振り。
「言った筈だ。どんな事情があろうとも罪は罪だと。逃げる物を無理に追うつもりはないが、目の前で死にかけているのに止めを刺さん道理もない」
「生け捕りとか冗談……仕事も満足に仕上げられないような甘ちゃんが何言ってんのよ。いい? 私にはハンターとして戦うという矜持がある」
抜身のままの刃を仲間へと突きつけるクリス。
「半端仕事の始末は誰がつけるのかしら。私は汚点を抱え込むのは御免よ。アンタ達にハンターとしての矜持とかって……あるの?」
そう言いながら視線を動かしたクリスの瞳が驚きに固まる。が、それよりも更なる驚きが続いた。
「そうか。なら仕方ない」
そう言ってキヅカはキアラへ連続で引き金を引いた。銃声が轟き、キアラは仰向けに倒れ、地面に血溜まりが広がっていく。
「……こうなったか」
ぽつりと呟くΣの声は誰にも聞こえなかった。キヅカは淡々と銃をリロードしながらハジャに目を向ける。
「今更だけど提案がある。僕は譲歩したんだから、呑んでもらいたい」
「というと?」
「この死体を預かりたい。帝国に持っていけば別に報酬がもらえるからね。殺した後の事までは君の依頼にはなかったでしょ」
「ああ。そういう事ならしょうがねぇ、好きにしな」
頷きリサがキアラの身体を抱えようとした時だ。
「ちょい待ち」
「何? 死体は持ってっていいんでしょ?」
「“死体は”な。でもそいつ生きてるじゃねぇか」
びくりと背筋を震わせるリサ。咄嗟に前に出たキヅカだが、その顔面を容赦無いハジャの拳が襲った。
「逃げろ、リサ……ここは、僕が……」
「キヅカさん……ごめんなさい!」
気絶しているキアラを抱え走り出すリサ。キヅカは体中を殴られ、蹴られ、血反吐を吐きながらハジャに縋り付いている。
「……ハジャさん、幾らなんでもやり過ぎです」
「ああ。そんな事より向こうを追うべきじゃないのかい? それ以上やったら死んじまう」
慌てるフェリア。イブリスも険しい表情でハジャを見ている。
ハジャは強い。先の戦闘中も加減していたとしか思えない。キヅカのつけている防具は優秀だが、それを持ってしても傷は深い。
「んー。まー、そのうち追っかけるさ」
「……ちょっと待って。何なのそれは? さっきもそう、私が合図をしたのにアンタは……!」
クリスは自分が注意を引き付けている間にキアラを殺せと合図を送った。しかしその視線の先に居たハジャは、まるで状況を楽しむように邪悪な笑みを浮かべていたのだ。
「アンタ……こうなると分かってたんじゃないの?」
返り血に染まった笑みを見て確信した。ハジャは最初からハンターを何か別の目的に利用する為に“選んで”いたのだと。
「別に大した事じゃないよクリスちゃん。俺はこいつに足止めを食ってる。こいつが倒れない限り後は追えない。それだけさ」
キヅカを突き飛ばし殴りつける。気絶しかけながらもキヅカは地べたを這ってハジャに向かう姿勢を見せる。
「根性あるよぼうず。だけど夢を語るにはまだ甘いな」
「……おかしい、か?」
少年はぼこぼこになった顔を上げ。
「僕が……夢や理想を語るのは、おかしい……か?」
震えながら立ち上がるキヅカ。再び殴りかかろうとする拳を掴んだのはΣで、見れば他のハンターもハジャを止めようと動き出していた。
「んー……。ん。合格かな?」
そんな呟きと共に手を引くハジャ。倒れこむキヅカを受け止めたのはイブリスだ。
「うん、合格。これなら次第点をあげてもいい」
「ふざけないでくれる? 言ったわよね、私はハンターとしての矜持を持っていると。依頼には従順よ。でも、それ以外でナメた真似をされるのは許せない!」
肩をすくめて笑うハジャ。結局彼はキアラを追撃しなかった。
得体の知れない不気味さを感じるハンターに報酬を支払い、ハジャと名乗った男は姿を消した。
そしてこの選択は、意図せぬ形で波紋を広げ、ハジャにも予想外の形で広がっていく事になる――。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/08 01:55:34 |
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相談卓 リサ=メテオール(ka3520) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/12/08 23:43:57 |