南北から挟撃を……!

マスター:なちゅい

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~12人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/03/09 19:00
完成日
2018/03/17 15:03

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 グラズヘイム王国。
 クリムゾンウェストの半島尖端に位置する国家。王都イルダーナを中心とした千年王国なる名を冠する大国だ。
 王国北東部の山岳地帯。
 その山の一つにトカゲ雑魔が住み着いており、南側の集落民が古都アークエルスにまで避難する状況となっている。
 この状況を知ったエルフ、アルウェスを中心に、ルイス、ドミニクの男性3人が主に無人の集落に詰め、入れ代わり立ち代わり訪れるハンター達と協力して集落を守っている。
 山側に石壁を作り、周囲に堀を作り上げ、いつ雑魔が襲ってきても集落を破壊することなく応戦できるよう奮戦する。
 戦いが長引く間に、この地域の雑魔、歪虚を倒そうと協力してくれるハンターが徐々に増えて来ていた。
 山に攻め込み、トカゲ雑魔達の殲滅を。
 日増しに大きくなって来ているその声を、山の手前、前線基地となっている集落に詰めているエルフ達は実感していた。
 この為、ハンターに集落の護りを任せ、エルフ達は、時に山の麓まで出向いてトカゲ雑魔の相手をすることが増えた。
 ただ、大トカゲを相手にするとなれば限界があるし、まして極大トカゲなど、自分達だけで歯が立つ相手ではない。
「南北から一気に攻め込むことができれば……」
 エルフのリーダー、アルウェスは考える。
 ハンターの助力が必要になるが、山の中腹より上を目指すなら、一気に数を集めて駆け上りたいところ。
 その上で、この地に現れるドラゴンの姿をした歪虚を直接叩くことができれば……。
「できれば、北東の聖堂戦士団メンバーと連携したいところだな」
 彼は早速、応援に駆けつけてきたハンター達に相談を持ちかけることにする。

 同じく、山の北東、湖畔の集落。
 現在、聖堂戦士団の一隊が護るこの地にも、交替でハンターが訪れるようになっていた。
 雑魔とのせめぎ合いが続く中、ハンターが連絡役となって南北集落に詰めるエルフ、聖堂戦士団の双方が連絡を取り合う。なお、エルフのアルウェスと聖堂戦士団小隊長とはとある事件で顔見知りの間柄だ。
 時間は要したが、同じ日、同じ時刻に山を登ることで、相手のプレッシャーを与えていく作戦の立案にこぎつける。
 相手はトカゲ雑魔達もそうだが、やはりここは元凶である歪虚に揺さぶりを。できるなら、交戦も行いたいところだ。
 集まるハンターから有志を募り、山の南北に分かれて同時に攻め込むことになる。
 そうなれば……。北東の町にいる聖堂戦士団小隊長ファリーナ・リッジウェイ(kz0182)は思う。
「今作戦は必ず、どちらかが歪虚を相手にすることになるはずです」
 歪虚を相手にしても善戦できるよう備えておく必要がある。しっかりと準備して臨まねば、深手を負ってしまいかねない。

 ある、春も近い日の朝、作戦は実行されることになる。
 南から、エルフとハンター達。そして、北側からは聖堂戦士団とハンター達が時を同じくして山を登り始める。

リプレイ本文


 グラズヘイム王国北東部。
 そこは、山岳部のとある山の南側にある集落だ。
「……いよいよ反攻作戦の開始か」
 赤髪、赤髭の猟撃士、アバルト・ジンツァー(ka0895)が魔導型デュミナス「Falke」から降り、集落を見回す。
 幾度か足を運んだこの地はトカゲ雑魔に脅かさせ続けていたが、雑魔の数が減ってきたからか、雑魔が集落を襲ってくることも格段に減ったとのこと。
 それでも、元凶となる歪虚の姿がつかめぬことを彼は指摘して。
「未だに敵の全容は掴めていないが、この作戦でその足掛かりが掴めると良いのだが」
 できる範囲で尽力させてもらおうと、アバルトは意気込みを見せる。
「この件に関わるのは、これが初めてですが……」
 魔術師であるものの、どちらかといえば奇術師といった見た目のフーリィ・フラック(ka7040)が呟く。
「だからこそ、全力で挑みたいものです」
 依頼方針を聞くに威力偵察込みと判断した彼は、敵の数はできるだけ減らすのが吉だと仲間達に話す。
 ワイルドな印象を抱かせる辺境出身の女戦士、レイア・アローネ(ka4082)はワイバーンを連れての参戦だが、フーリィ自身も魔導アーマー「ヘイムダル」を操縦してやってきている。
「シュナッグ君と私の力をどこまで出せるかも、試してみましょう」
「お山のボスに揺さぶりかけて、今度こそ出てきて貰っちゃうんだからっ!!」
 今日も可愛らしく元気な、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は刻令ゴーレム「Volcanius」、ニンタンク『大輪牡丹』を連れての参加だ。
「ルンルン忍法とニンタンクちゃんの力を駆使して、蜥蜴の山に攻め入っちゃいます!」
「いつもすまないな」
 依頼に応じてこの地を訪れるルンルンらハンター達へ、挨拶を交わすアルウェスらエルフ達は感謝の意を示す。
「貴方たちの活躍は聞いていたわ。敵の厄介さもね」
 グリフォンを駆ってきたカーミン・S・フィールズ(ka1559)はエルフ達を労い、一言釘を刺す。
「今回も生き残ってよ? 死んだら許さないんだから」
 とはいえ、自分もまた割と危ないことをしようとしていると、カーミンは自覚していたようである。
 今回は攻勢をかけるだけではない。
 後に続く作戦もあると岩井崎 旭(ka0234)は再認識し、エルフ3人組に負担が無い様に余裕を持って作戦に当たりたいと語る。
「まぁ、つまり。いつもどおり速攻でぶっ叩くってことだな! 行くぜ、ウォルドーフ!」
 旭の呼びかけに、イェジドのウォルドーフは誇らしげに嘶いて見せた。
「とはいえ、何が出るかわからないし、慎重に行こう」
 鞍馬 真(ka5819)は仲間達にそう告げ、イェジドのレグルスに跨って仲間と共に集落を出発するのである。


 同時刻、同じ山の北側にて。
 北東の湖畔にある集落にも、数人のハンター達が幻獣やCAMと共に南側メンバーと同様の作戦に臨もうとしている。
「ユニットは初めてだけど、頑張ろう」
 ――大きいだけで、やる事はいつものわたしとかわらないはずだ。
 金髪ポニーテールと大きな胸が目を引くエルフのイヴ(ka6763)は自身が乗ってきたR7エクスシアを仰ぎつつ、この場にやってきたハンターと合流する。
「よろしくお願い致します」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」
 オファニム「ヴァルキューレ」を駆ってきた赤髪のオートマトン、冷泉 緋百合(ka6936)が丁寧に頭を下げると、聖堂戦士団団員達も会釈し、小隊長のファリーナ・リッジウェイ(kz0182)がハンター達へと握手を求める。
「前回はちーとばっかし遊びすぎたじゃーん」
 軽口を叩くゾファル・G・初火(ka4407)は、彼女なりに深く反省していた様子。
 死地好きな性格もあって、ゾファルは極大トカゲの相手をとことん味わい尽くすつもりで前回は一寸刻みに戦っていた。
 ただ、その性格が災いしてしまい、挟撃に回ってきた緋百合らに大けがを負わせてしまったのだ。
 今回も、極大トカゲと出会う確率は高い。
 だからこそ、彼女は喜び勇んでガルガリンのガルちゃんとこの作戦に臨む。前回の轍は踏まぬと肝に銘じて。
「久しぶりだね。着実に成長しているようで何より」
「はい、ありがとうございます」
 長身の女疾影士、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の言葉に、ファリーナは嬉しそうに言葉を返す。
「ずいぶんご無沙汰だな」
 イェジドのグレンに乗ってやってきたのは、炎のような印象を抱かせるヴァイス(ka0364)。こちらも久方ぶりの再会だったらしい。
 彼は、この場のハンターと聖堂戦士団団員達のスキルの把握に努める。
 また、ヴァイスは聖導士達の指揮系統についてもはっきりとさせておきたいと希望を出す。なお、ファリーナが倒れてしまった場合、副官セリアが代行するとのことだ。
「それにしても、ドラゴンか」
 アルトは遠く北の地を見やる。
 ハンターらが龍園と協力するようになり、人と龍が触れ合う機会も増えた。
 雑魔達の親玉である歪虚が龍から堕ちたものか、あるいは別の存在からドラゴンの姿を取ったのか。それはアルトにも分からないが。
「人語も解すとなると、少々後味は悪くなるかもな」
 そんな呟きと共に、アルトは準備の整ったハンター、聖堂戦士団混合隊と共に、イェジドのイレーネに乗って地面を駆けていくのである。

 北側メンバーは時刻を確認し、山を登り始める。おそらく、南側でも登り始めているはずだ。
 こちらの構成員は聖堂戦士団小隊、ファリーナ以下7名。
 聖導士達の頭数がいることもあってハンターは南側より少なく、ヴァイス、アルト、ゾファル、イヴ、緋百合といった顔ぶれである。
 ヴァイスがイェジドのグレンに敢えて乗らず、斥候に当たらせるなど先行させていた。
 一応、聖堂戦士団団員達もハンターに合わせる可能性も考えてゴースロンを駆っていたが、ヴァイスと共に徒歩で歩くことになる。
「ボクも足がついていたほうがいいかな」
 アルトも移動中はイレーネに乗るつもりだったようだが、仲間に合わせて歩くことにしていたようだ。
 さて、先行するグレンは嗅覚を働かせて警戒してくれている間、ヴァイスは騎士団のフォローにグレンを当たらせるという話をファリーナへとしていた。
「よろしいのですか?」
 ただでさえ、北側はハンターの数がやや少ない。
 その状況で攻め主体のメンバーが減るのは、ハンターにとって手痛い状況のはず。
「あくまで共に戦う相棒で、仲間だからな」
 そう語るヴァイスからは、グレンに対する篤い信頼が感じられた。


 南側メンバーもまた徐々に歩を進め、山を登る。
 こちらのメンバー構成は、ハンター7人、旭、アバルト、カーミン、レイア、ルンルン、真、フーリィ。それに、集落に詰めたエルフ3人、アルウェス、ルイス、ドミニクだ。
 真はイェジド、レグルスに騎乗しているが、全てのハンター達は幻獣やCAMに乗っての移動の為、エルフ達もゴースロンに乗っての移動で合わせていた。
 雑魔の数も徐々に減っているのか、それともただ高地へと避難しているからかほとんどが姿を現さず、あるいは遠くからこちらを見ている個体を稀に見かけるだけ。
「トカゲの山より、キノコやタケノコの山がいいのです……」
 直接ニンタンクに乗っかって移動していたルンルンは、覗き込んだ双眼鏡で敵の姿を確認し、思わず呟く。
『単独行動は避けるべきだな』
 アバルトは仲間達へと通信機で伝える。
 相手がこちらを襲ってくる様子がないこと、そして距離が遠すぎることもあり、メンバー達も深追いはせずに山を登ることにする。
「硬い鱗に、物理でどこまで押せるかしら?」
 カーミンは事前に、極大トカゲに魔法の効きがいいというデータを確認している。
「親玉も似た性質を持っていないかしら」
 マテリアル兵器、魔法攻撃を試したい彼女だが、生憎と自身でそれを試すことはできない為、仲間達に歪虚に対して試したいことを告げる。
 もっとも、こちらに歪虚が現れればの話ではあるのだが……。
「誰か実戦できそうか?」
 一隊の先頭を「Falke」を操縦しながら歩くアバルトは仲間との連絡を密にしながら、先へと進んでいく。
 そんな一行の視界に、こちらへと近づいてくるトカゲ雑魔の集団の姿が入ってくる。
「皆さん、気をつけてください!」
 敵を捕捉したルンルンが仲間へと呼びかけてから、乗っていたニンタンクに呼びかけて。
「ニンタンクちゃん仲間を巻き込まないうちに先制攻撃です……。撃てー!」
 自律行動をとるニンタンクはプラズマキャノン「アークスレイ」の砲身から、炸裂弾を発射していく。
 着弾した弾は霰玉となり、トカゲ雑魔達の体へと浴びせかかった。
 その間に、メンバー達は敵の数の把握に努める。
「敵は5体か」
 呟くアバルト。大型1体、小型3体の後ろから、全長6mほどある極大型が近づいてくるではないか。
「火を吹く相手だそうだしな」
 ならば、相手の属性は火、あるいは強力な強欲に多かった光ではないかと旭は考える。
 先ほどのカーミンの希望もあり、旭は自らとウォルドーフが持つ火と闇の属性武器の使用を考えていた。
 真はレグルスに乗ったまま、旭と共に前方へと駆け出していく。
 雑魔に対して仕掛けるメンバーに対し、フーリィはヘイムダルの操縦席から後方の足元にいるエルフたちへと呼びかける。
「皆さん、いざという時は私の機体を盾にしてください」
「了解した。健闘を祈っている」
 アルウェスはそうして、エルフ3人で迎撃の態勢を整えるのだった。


 先に敵と遭遇した、南側メンバー達。
 北側メンバーよりもやや先行して山を登った為、トカゲ雑魔達に狙われたのかもしれないが、警戒を強めていたメンバーが先に発見したのは幸いといったところか。
 南北間では距離が遠すぎる為、通信することができぬ状況ということもあり、その状況を知らないメンバー達は近づいてくる敵の迎撃へと当たっていく。
 傾斜がやや煩わしくある場所だが、平原ではある。
 道中、林道になっていたことを考えれば、不自由なく戦える場所だ。
 覚醒したルンルンのニンタンクが先んじて砲弾を発射する中、「Falke」のコクピット内で顔半分を青銅のように変貌させたアバルトもまた、プラズマキャノン「アークスレイ」で砲撃を開始していた。
 素早い小型トカゲ雑魔を牽制するには十分なはずだが、敵は時に砲弾を避けつつこちらへと近寄ってくる。
 ある程度近づいてきたことで、フーリィもミサイルランチャー「ガダブタフリール」の射程に入ったと察し、砲撃していく。
 できる限り、壁として位置できる距離を保ちつつ、彼は移動と攻撃を繰り返すこととなる。
 レグルスで戦線を駆け出る真は刹那瞳を金色に輝かせてから、レグルスの機動力を生かして敵後方の極大雑魔を狙う。
「勝てない相手ではないが……」
 相手は見上げんばかりの巨躯を持つ化け物トカゲ。
 大小だけだったなら大した相手ではないという印象だが、極大トカゲは温存を考えられるほど生温い相手ではないと、真は認識していた。
 何より、自身のみ突出しているこの状況において、相手の魔眼で睨まれて石となってしまうわけにはいかない。
 可能な限り、彼は相手の目線を気にかけながら、レグルスの脚でその周囲を動き回り、両腕の魔導剣「カオスウィース」と魔剣「ストームレイン」の刃を極大の脚へと見舞っていく。
「小型っつっても十分デカいし、足速い上に離れて拘束できるとか、厄介だな!」
 同じく、イェジドのウォルドーフで戦場を走っていた旭だったが、彼はウォルドーフから飛び降りてサイドから大小雑魔の進路を遮る。
「こーゆーのは、さっさと倒しちまうに限るぜ!」
 上半身を羽毛に覆い、ミミズクのように頭部を変えた旭は相手の足止めに動く。
 同時に、彼はウォルドーフを振り返って。
「ウォルドーフ! お前はあっちのトカゲの足止めだ、頼むぜ!」
 呼びかけに気高い咆哮で応えたウォルドーフは大型の手前まで大きく跳んで移動し、その侵攻を遮って見せた。
 そこに、ワイバーンに乗るレイアが迫ってくる。
 彼女はソウルトーチで相手の注意を引き付けようとしつつ、攻撃重視の構えを取った。
 その上で、レイアは魔剣「シーガルスホルム」にマテリアルを溜めていき、衝撃波として放っていく。
 一撃を見舞うとレイアは即座に離脱し、次なる攻撃の機をはかっていたようだ。
 地上でグリフォンに乗っていたカーミンは両腕に数条の光を回路状に走らせつつ、手にした2本の刃で切り込む。
 狙うは動きの速い小型。カーミンは「ワンハンドハルバード」を真横に薙ぎ払い、さらに蒼機剣「N=Fフリージア」を鞭のように変形させて相手の体を絡めとる。
 仲間に当たらぬよう、アバルトは「30mmアサルトライフル」に武装を替え、射撃での攻撃を続けていく。
「では、私はこの辺りで」
 シュナッグの射程を考慮しつつ、エルフを含む後衛陣の盾にもなれる場所に立つフーリィ。
 機体を壁とすることを考えつつ、前線メンバーをすり抜けて近づく敵を抑えようとする彼だが、生憎と発動したいスキルがスキルトレースのレベルを上回っており、行使することができない。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法畳返し! 簡易陣地構築です」
 そこで、動いていたルンルンも同じことを考えており、アースウォールを立てて壁となす。
 これでしばらくは、トカゲの接近に耐えられるはずだ。
「ハンターに続くぞ」
「あいよ、行くぜ」
「了解しました」
 エルフ達も射程を考えつつ、アルウェスの呼びかけを皮切りとして、ルイスが弓で、ドミニクが魔法で攻撃を開始する。
 もちろん、アルウェス自身も矢にマテリアルを篭めていき、威力と射程を強化した一矢を射放っていた。
「ふむ、これは運用方法を見直さねばなりませんね」
 思ったようにシュナッグの性能を活かしきれないと感じつつ、彼は近づいてくる敵へと「30mmガトリングガン」を浴びせかけていくのである。


 その頃、北側では。
 こちらのメンバー達は南側に比べれば、やや遅めの進行で登ることとなる。
 それはそれで、ゾファルがやや焦れていた感もあったが、彼女は前回の失敗もあってやや自制をしていたようだ。
「どうやら、来たようだな」
 ヴァイスはグレンがこちらに戻ってきたことで、敵の出現を察する。
 それによって、相手の襲撃を警戒し始めるハンターと聖堂戦士団メンバー。
 手前から、大小トカゲ雑魔4体がこちらへと素早く近づいてくる。
「わー、おっきなトカゲだー! すごーい!」
 イヴが見つめる相手は、全長4mある大トカゲだ。
「いかにも、合戦場って感じのところに出てきたもんだなぁ」
 こちらも所々に段差はあれど、比較的緩やかな傾斜のある平原だ。
 イヴは後方の聖導士達を気にかけ、トランシーバーで呼びかける。
「あなた達は回復、援護をお願いね!」
「はい、ご武運を!」
 ファリーナの言葉を背に受け、イヴは覚醒によって左目を緑が買った黄色の爬虫類のように変化させる。
 そして、左目を中心にして皮膚が白化し、蛇が這いずった痕のような模様を浮かび上がらせた彼女は、R7エクスシアに装備させたMライフル「イースクラW」から紫の光線を発射していく。
 傍の緋百合もまた、ヴァルキューレのコクピットで圧縮したマテリアルを体内に吸収して覚醒する。
 真紅の髪を白く染め、肌は逆に炎に焼かれたように褐色へと染めた彼女は、白銀の炎を纏ってから攻撃に乗り出す。
 今回は、援護射撃に徹する構えの緋百合。
 彼女はヴァルキューレのロングレンジライフル「ルギートゥスD5」で、あっという間に距離を詰めてくるトカゲ雑魔どもを狙い撃っていく。
 そして、ゾファル。
 前に出てトカゲを狙うゾファルは、本命の極大トカゲがいないことに嘆息してしまう。
 それでも、彼女は全身から眩いばかりのマテリアルを吹き出して、ガルガリン、ガルちゃんにスーパー巨大な斬艦刀を担がせ、軽々と振り回して斜面を駆け上がっていく。
「一刀のもとに、切り伏せて御覧に入れよう」
 彼女は猛然と、正面から向かい来る大トカゲに刃を振り下ろしていた。
 さて、相手の構成は大2体、小2体。
 緋百合、イヴは聖堂戦士団の手前で近寄る小型に援護射撃を繰り返す。
 敵の数減らしに、ヘイト稼ぎ。
 イェジドやゾファルが交戦を開始したことで、緋百合は少し後退する。
 実際、トカゲ雑魔どもは攻撃しながらも、隙を見て後衛メンバーを狙うようじりじりと近づいてくる。
 雑魔の頭を狙い撃っていたイヴは敵の接近もあり、距離を取らずにそのまま試作錬機剣「NOWBLADE」での応戦に切り替えていた。
 小型に切り込む間に、イヴはプロペラントタンク「フィーア」を使用し、機動用スラスターによって機動性を上げつつ敵の舌の回避に努める。
「ハンターの皆様の援護を!」
 ファリーナは隊員に告げ、ホーリーライトを発したり、ヒールでの回復をしたりしてハンター達を支援していく。
 徐々に後退しながら戦うアルト。イェジドにブロッキングさせながら、彼女は周囲の雑魔達の動きを咆哮によって阻害させる。
 アルトは動きを止めた雑魔どもを、個別に狙う。
 とりわけ咆哮からのすくみを逃れた敵に対して、全身にマテリアルを纏うアルトは残像を纏って加速して迫り、剛刀「大輪一文字」で連撃を浴びせかけていく。
 ヴァイスは後方にグレンを下がらせ、聖堂戦士団メンバーの守りに護らせ、自らは灯火を魔鎌「ヘクセクリンゲ」に纏わせ、アルトらと合わせて挟撃を仕掛ける形だ。
 ゾファルはそんな仲間を大トカゲののしかかり、尻尾からガルちゃんに展開させたマテリアルカーテンで護りつつ、近接戦闘プログラムを起動させ、機体を加速させながら渾身の力で斬艦刀「雲山」を真上から叩き込んでいく。
 トカゲ雑魔達は攻撃の手こそ止めないものの、ハンター達の勢いに気圧されてしまっていたようだった。


 南側でも、交戦が続く。
 レイアは主に小トカゲの露払いに動くことになる。
 ワイバーンに乗り、ヒット&アウェイを繰り返す彼女。
 後方目指してにじりよる敵へ、レイアは地面すれすれを飛びながらも相手の懐へと潜り込み、魔剣「シーガルスホルム」を真上から一閃させる。
 思った以上にしぶとい相手であるが、敵も少しずつ弱ってきているのは間違いない。
 カーミンも仲間の援護攻撃に巻き込まれぬよう、グリフォンを乗りこなしながらもう1体の小トカゲへ、攻撃を仕掛ける。
 蒼機剣を鞭のように使って地面を打ち鳴らして相手の態勢を崩しながら、2本の刃を浴びせかけて黒い鱗を裂いて行く。
 全身からどす黒い血を噴き出した小トカゲは、全身を萎ませるようにして潰えてしまう。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法土蜘蛛の術! 符を設置して、ターンエンド」
 ルンルンは戦場の地面に不可視の結界を張り巡らし、雑魔の足止めへと動く。
 素早く近づこうとしてくる小型1体がそれに足を取られ、身体を硬直させてしまう。
「近づけば大丈夫、と思いました?」
 すばしっこそうなのを片付けようと、フーリィがスキルトレースを活かし、得意の魔法を構築、光るエネルギーの矢を飛ばす。
 フーリィにとって、それは足止めで十分。
 衝撃に顔を背けた小トカゲへ、後ろからエルフたちの飛ばす矢と氷の魔法が小トカゲに命中していく。
 ついに、体力が尽きてしまったのか、そいつは蒸発するように消えてしまった。
 ルンルンは前方を双眼鏡で見つめ、戦う仲間達を見つめる。
 今、狙うならば極大雑魔の足止めだと彼女は認識し、仲間を巻き込まぬようニンタンクへと指示を飛ばす。
「ニンタンクちゃん、やっちゃってください!」
 呼びかけを受けたニンタンクは火炎弾を発射し、トカゲ雑魔達の連携を防ぐ。
 逆に、真はその支援を受けながらも、極大雑魔の機を引き続ける。
(鬱陶しがられていれば、幸いだが)
 その周囲を回転するように走りながら、相手のかく乱を気がけ、2本の剣で相手の下半身を刻む。
 ただ、思ったよりも極大雑魔は冷静だ。動き回る真目掛け、炎を吐き掛けてじりじりとその体力を削っていた。


 再度、北側の戦場。
 北班メンバーは大小雑魔のみが相手ということで、比較的スムーズに討伐を進めていた。
 前線では、ゾファルが嬉々として雑魔の相手をしている。
 現状は狙った相手をダンスパートナーとして、ゾファルは戦場を舞い踊りながらスキルトレースで自らの技をガルちゃんに反映し、大トカゲ雑魔を切りつける。
 布陣の後方から、相手を狙いすます緋百合。
 イェジドのイレーネがブロッキングして小トカゲの歩みを止めようとするが、その動きが思った以上に素早い。
 緋百合は命中補正の為にと演算装置を使って敵の動きを予測し、ロングレンジライフル「ルギートゥスD5」の引き金を引く。
 音速の速さで飛ぶ弾丸は見事に、小トカゲ雑魔の頭を貫通する。
 頭部を半壊させた雑魔は地べたに倒れこみ、どろりと溶けるように地面へと吸い込まれていった。
 やや前方に出て、舌を伸ばしつつ前へ前へと迫ってくるもう1体を、イヴがマテリアルの刃で切りかかる。
 相手はやはり素早く、舌を伸ばして応戦してきた。
 かなり面倒な相手だとイヴも感じながらも、その高速を活かして相手の体を引きずろうと試みる。
「今です。発射してください!」
 その隙をついて、イェジド、グレンに護られる聖堂戦士団隊員達が次々に魔法を発していく。
 とはいえ、元々回復援護を任されていたこともあり、隊員達の攻撃スキルは多くない。
「イヴさんの回復を!」
 ファリーナの指示で隊員がキュアを使用し、イヴのR7エクスシアを拘束する舌を取り払ってしまう。
 さらに、ファリーナ自身もヒーリングスフィアを展開し、ハンター達の回復を行う。
 舌を解かれたことで、小トカゲはのしかかってイヴの機体にダメージを与えていくが、体格差もあって拘束させるには至らず、単なるボディアタックに留まってしまう。
 その攻撃の隙をつき、イヴはマテリアルの刃を真横に薙ぎ払う。
 次の瞬間、トカゲ雑魔の体は腹を大きく切り裂かれて血を吹き出してしまう。
 じたばたと苦しみにのた打ち回っていたが、その小トカゲはやがて力尽きてしまい、だらりと舌を出して倒れこんだ。
 小トカゲが倒れたことで、後衛メンバーは大トカゲを射程に捕えるべく、前進していく。
 ヴァイスは横目でそれを見ながら精神を高めていく、目の前の大トカゲに対してそれと解き放ち、体長が倍以上ある大トカゲを威圧した。
 小さい相手に身が竦むほどのプレッシャーを覚えていた敵へ、加勢に入るアルトが全身をマテリアルで包んで俊敏な立ち回りで大トカゲを攻め立てる。
「もらった……」
 一度距離を取ったアルトは相手の脇を通り抜け、その一瞬で剛刀「大輪一文字」の刃を幾度も浴びせかけた。
 大トカゲとて、硬い鱗を持つ雑魔ではあるのだが、ハンターの度重なる攻撃、そして、アルトの練り上げられたマテリアルの前に、地を這うどころか地を舐めることとなってしまうのである。
 残す敵は、1体。
 緋百合は敵が少なくなったこともあり、スラスターを行使した上でヴァルキューレに持ち替えさせた魔銃「ダウロキヤ」で銃弾を浴びせかける。
 大トカゲも前方へと尻尾を振り回し、ハンター達へと強烈な一撃を叩き込んでくる。
 回避に努めるメンバーも多いが、真横からの襲撃に対処できないこともある。
 だが、ゾファルの駆るガルちゃんは多少の攻撃ではビクともしない。
 相手が弱ったところへ、ゾファルは相手を見下ろすように立ちはだかって。
「ブルルダッシャー」
 その身体を無骨な大立ちで断ち切り、さらに無残にその身体を引き裂いていく。
「なんだ、もう終わってんじゃーん」
 残る相手の恫喝も考えていただけに、ゾファルはやや拍子抜けした態度を見せていたのだった。


 南側の戦場も、大詰めを迎えてきていた。
 トカゲ雑魔達は目ざとく、ハンター達の連携の穴をついて攻め込んでくる感もある。
 いつどこから襲ってくるとも分からない歪虚対処について、考えなければならなかいメンバー達だ。
 場合によっては、その隙を突かれることもあるのは仕方の無いことかもしれないが……。
 なお、周囲双眼鏡で見ていたルンルンがこの場に歪虚の姿がないことを確認してくれている。
 さて、メンバーの脇をついて攻め込んでくる小トカゲへ、アバルトは距離を詰められたことで、スラスターで距離を取りながらライフルの弾丸を叩き込む。
「鬼ごっこは終わりにさせてもらう」
 叩きこむ弾丸が相手の眉間を砕く。
 シャアアアァァァ…………。
 そんな奇怪な鳴き声を上げて小トカゲは果てていき、無へと帰してしまう。
 数が減れば、ハンター、エルフ混成隊が徐々に有利になっていく。
 残る大型雑魔1体はここまで、ウォルドーフがここまでしっかりと抑えてくれていた。
 旭は赤い腕輪、竜環「ライズ・オン・ウィル」にマテリアルを篭めることで、燃えるように揺らめく青い光を腕に纏い、雑魔の食らいつきを防ごうとする。
 イェジドから降り、自身の身で見上げるような相手に立ち向かう旭だ。
 その対格差を埋める為には……。
 旭は火と闇の属性を持つ魔斧「モレク」を手にして、自らの内に眠る野生の力を引き出していく。
 その上で、全長250cmもある斧を軽々と使いこなし、遠心力で勢いをつけ、さらに斧の重さで威力を増して。
「――つまるところ、破ァ壊力ゥゥウ!!」
 振り下ろされる厚い刃。それが幾度目かの攻撃で大トカゲの頭蓋を砕いてしまう。
 頭を砕かれ、雑魔とはいえトカゲとして活動できなくなったそいつは見るも無残な死骸を見せつけ、この場からその存在をなくしてしまったのだった。

 ここまでは、ハンター達も問題なく対処してみせていたが、残る極大トカゲはドラゴンのような姿を見せる強敵。
 気を抜けばやられる。誰もがそう思って立ち回り、極大トカゲを攻め立てていく。
 ここまでは、真がレグルスと抑え続けていたのだが、さすがに彼の負担は大きい。
 真とレグルスが動いて極大を抑えているうちに、極大を弱らせる必要がある。
 この場に歪虚が出現しないようなので、カーミンは歪虚用の立ち回りを実戦することにしていた。
 フライングファイトを取った彼女は姿勢制御しつつ、相手の出方を見る。
「できるなら、歪虚の調査にと思ったんだけれどね」
 本来、歪虚の攻撃方法などの調査を考えていたのだが、致し方ないだろう。
 相手は真に加え、カーミンにも気を払うこととなる。
 そこへ、ワイバーンに乗ったレイアが仕掛けてくる。彼女は大小雑魔とほとんど対処を変えず、魔剣で渾身の一撃を叩き込んで離脱するといった動作を繰り返す。
 さらに後方メンバーもまた、援護射撃を行う。
「休むな。休めばそれだけ、相手に判断の猶予を与えてしまう」
 アルウェスがそう呼びかけると、エルフ達は絶えず矢と魔法を発射し続ける。
 その手前、ルンルンは仲間を巻き込まぬよう砲撃支援するが、なかなかに炸裂弾での支援のタイミングが難しい。
 一方で、アバルトはスキルトレースを活かして自らの技量も乗せ、ダメージの底上げをしながら、牽制、威嚇射撃を行う。
「的としては、これ以上ないほど最適な相手なのだがな……」
 何せ、相手は全長6mもの巨体を持つ相手だ。小型などを相手にした後では、アバルトの腕があれば外しようもない敵である。
「何の支援もしない、というのもダメでしょうね」
 壁が作れぬという不手際もあり、フーリィは支援の手を強めてミサイルランチャー「ガダブタフリール」で援護射撃を行う。
 度重なる攻撃に、とりついてくるハンター達。
 さすがに極大雑魔も苛立ちを隠すことなく、業火を浴びせかけてくる。
 その攻撃はかく乱に努める真だけでなく、後方のメンバーにも時に向けられていたようだ。
 思ったより眼力の範囲は広く、個別ではあったが、ニンタンクやフーリィにまで影響が及ぶことがある。
 精霊纏化を使い、祖霊を自らに憑依させて幻影を纏う旭は極大の攻撃全てを危険視する。
 旭はこの状況を最大限活かすことができるように、魔法で作り出した幻影の腕で掴みかかる。
 それは、極大雑魔から見れば、小さな腕だったはず。
 だが、その腕に掴みかかられ、そいつは足を封じられてしまう。
「加勢すんぜ」
 相手が範囲攻撃を使いにくい状況になるようにと、旭は真に呼びかけて逆側で同じ方向に回ることで相手を牽制して見せた。
 カーミンは茨の檻を使い、防御に専念する。極大がどれだけの相手か、折角だから見定めようと彼女は考えを切り替えていたようだ。
 そこで、レイアも再度近づいてくる。
 大小雑魔の対処については考えて立ち回っていた彼女だが、極大雑魔についても同じ対処を続けており、戦術は甘すぎたと言わざるを得ない。
 極大が大きく口を開き、彼女をワイバーンと共に捕食せんと食らいついてしまう。
 ヒットアンドアウェイで戦っていたとはいえ、傷は多少受けていたレイア。
 そこへ、その一撃をもろに受けて意識を失ってしまい、ワイバーンと共に地面へと落ちていってしまう。
 ルンルンがそこで、ニンタンクに火炎弾を発射させる。
 相手に近寄られることがない分、ルンルンは戦いやすい立ち回りはできていたが、やはり敵が単体になると仲間を巻き込むのは避けられない。
 極大雑魔も徐々に攻撃が重なり、増える傷から血が流れ出す。
「もう一息だ。畳み掛けろ」
 アサルトライフルで射撃を繰り返すアバルト。殺傷力を強め、極大雑魔を追い込んでいく。
「……だそうだ。気合を入れないとな」
 アバルトの声に、真はイェジドのレグルスに一言告げ、相手の周囲を駆け巡りながら斬撃を繰り返す。
 旭はそのまま相手の周囲を駆け回りながら、仲間達の状況を一旦確認する。
 距離をとって戦うメンバー、それに、自分と同様に遊撃を繰り返すメンバー。それぞれ得意の攻撃で、極大雑魔の体力を削る。
「ウォルドーフ、畳み掛けるぜ!」
 仲間の攻撃の切れ目に、彼はウォルドーフと連携して攻撃に出た。
 軽やかにウォルドーフがステップをしながら極大の胸倉に飛び込み、マテリアルを牙に篭めて食らいつく。
 グ、グオオォォォ……。
 叫ぶ極大へ、旭が飛びあがって魔斧を薙ぎ払う。
 そこで、防御態勢を取っていたカーミンも動いた。
「あっはっはー、……あとは任せたーっ!」
 グリフォンを駆る彼女は、脱兎の如くその場から逃げ出そうと……見せ掛け、旭のつけた傷口へ狙いすましてハルバードの刃を重ねるようにして斬り払った。
 グアアアオオオオォォォ……!!
 明らかに、極大雑魔の叫びが大きくなる。
 真はじっと、その瞬間を待ち続けていた。
「これが……私の最大火力だ」
 両手の魔導剣と魔剣を同時に振り払い、相手の喉元めがけて十字に斬撃を見舞った真。
 その直後、桜吹雪の幻影が敵の体を包み、巻き込んでいく。
 ア、オオォォォ……。
 弱々しい声を上げたトカゲ雑魔はゆっくりと崩れ落ち、地響きを鳴らして地面に倒れた後、霧散するように消えていった。
 ふうと一息ついた真は自身の嫁が参戦しているはずの北の方角を見つめ、その無事を祈るのである。


 北側メンバーは戦いを終え、一息ついていたところだった。
「いかがしますか?」
 ハンター達の傷を診ていたファリーナがメンバー達に進軍を続けるか否かと問う。
 これまでも、報告書によれば幾度か交戦の後に退却といった作戦はあっている。
 もう一戦くらいならばと気合を入れるメンバー達の視界に、こちらへと向かってくる黒い陰が見えた。
 この地を牛耳らんとする強欲、グラフ。
 全長は4mほどと極大トカゲよりは小さいものの、その存在感は雑魔どもの比ではない。
「……あれが、グラフか」
 すぐさま臨戦態勢に入るメンバー達。ヴァイスはグレンを呼び寄せてその背に跨る。
 相手は一行の真上まで飛んで来て、翼を羽ばたかせながら徐々に降下してくる。
 すると、ゾファルは悠長に地面に降り立つのを待つ気はないようで、蹴り上げた飛行盾プリドゥエンの上にガルちゃんを飛び乗らせ、歪虚目掛けて空中格闘戦を仕掛ける。
「やってやるじゃん!」
 同時に、アルトは生身のまま飛び上がり、極薄のマテリアルによる足場を作り、さらに足にマテリアルを篭めて頭上に飛び上がる。
(さて、どこまでできるか……)
 攻め行く2人の前に歪虚は猛然と両腕の爪を薙ぎ払い、宙にいる1機と1人を八つ裂きにせんと攻め立てる。
 アルトはその重い攻撃によって全身から血飛沫を上げ、顔をしかめていたが、コクピットのゾファルは多少の衝撃で済んでおり、軽口を叩く。
「のんきに顔見世なんかさせねーじゃん。今日が貴様の命日にしてやるじゃん」
 斬艦刀を振り上げた彼女はその翼を切り裂こうとする。
 確かに一閃させた刃は翼に傷を入れて見せたが、そこまで深くはない。
 ゾファルはできるなら、宙で翼を切り裂いて地面に叩き落とそうとしていたのだ。
 地上に斬艦刀で固定できれば、逃がさずにすんだのに。
 そう考えた彼女だったが、さすがにそんな甘い相手ではなかったらしい。
 アルトもまた、敵の足を捉えて剛刀を切り払うが、報告どおりの鱗の硬さに眉を顰める。
 そのまま距離を取るようにして、彼女は着地していたようだ。
「ずいぶん、トカゲどもを倒してくれたようだな」
 赤く光るグラフの瞳は敵意に満ちている。
 そいつはさらに前方へと降下しながら、地上のメンバー目掛けて炎を吐き掛けてくる。
 焼かれてしまったのは、後方のイヴ、緋百合の機体と聖堂戦士団メンバーだ。
「皆、堪えて……!」
 さすがに、その苛烈な攻撃は一撃で聖導士達の体力を大きく削ぎ落としてしまう。
「魔法攻撃通るか? ……って話みたいだし」
 その手前、CAMに乗るイヴは機体のダメージを気にかけ、反撃にとライフルを発射する。
 硬い鱗をその弾丸は貫いた。
 さすがに痛打となるほどの傷とはならぬようだが、通用することが分かっただけでも大収穫だ。
「抗うか……」
 敵もまた、ハンター達の力量を見定めようとしている。
 いわば、小手調べのつもりなのだろう。
 地上へと降りてきたグラフへ、緋百合は高速演算を行った上で頭を狙って狙撃する。
 光の弾丸は敵の頭へと撃ちこまれた。小さいが、確かにその傷痕は残されている。
 狙い通りに頭に命中させた彼女は、さらに魔銃の引き金を弾いていく。
(真……)
 南の戦いの地では、夫が奮戦しているはず。
 先ほどの炎によるヴァルキューレの損傷が気になるが、ここで背を向けてもいられない。
 その緋百合の射撃に合わせ、ヴァイスはマテリアルで強化した魔鎌で相手の体を断ち切らんとする。
 物理攻撃が効きづらい相手。
 されど、魔法的な力を宿せば、攻撃はしっかりと通っているのは間違いない。

 その後、しばしの間交戦が続く。
 結果としては僅かな間ではあったのだが、ハンター達は歪虚の力を思い知った形だ。
 相手の強襲は全身を生かした攻撃。翼を羽ばたかせて相手を怯ませた上で、縦横無尽に飛び回ってその場にいる相手を蹂躙していくのだ。
 地上でも、ゾファルは果敢に斬艦刀で攻め立てる。
 艦艇の装甲すら断ち切った経験もあるという刀だが、何かに護られているのか、それだけの硬度があるのか、やはり物理攻撃の効果は薄い。
 アルトは残るスキルを駆使し、できるだけ傷を増やそうとする。
 イレーネに相手の動きを制してもらうよう動いてもらい、自らは敵とすれ違いざまに剛刀「大輪一文字」で連撃を浴びせかけていく。
(なるほど、硬いな)
 手ごたえがありすぎて、アルトの腕に僅かな痺れすら覚えてしまう。
 ただ、目の前のヴァイスが相手を威圧しながら、振るった魔鎌「ヘクセクリンゲ」の一撃をじっと見つめていたアルト。
 黒きオーラを纏った一撃は、自身の攻撃以上に相手の体を傷つけていたのに、彼女は目を見張っていた。
 その間、イヴはイースクラの弾丸が切れたことで、R7エクスシアから飛び降りる。
「ごめんよ、エクスシア。初陣なのに」
 彼女は機体を弾除け代わりにして、自らアサルトライフル「ファナーリクL37」による射撃に切り替え、弾丸にマテリアルを篭めて冷気を纏った一撃を発していたようだ。
「なるほど」
 しかし、グラフはそこで動きを止める。ある程度こちらの力量を見定めたのだろうか。
「本気でやらねば、こちらが滅するやもしれぬな……」
 そう告げ、グラフは翼を羽ばたかせて急上昇し、この場から瞬く間に去って行ってしまう。
「深追いは……避けるべきだろうね」
 覚醒状態を解いたアルトが深く息をつくと、ゾファルもそれに従ってこの場は引き下がることにしたようだった。


 極大トカゲ雑魔を倒したハンター、エルフ隊は皆の……とりわけ深手を負ってしまったレイアの傷を考慮し、今作戦を切り上げることにする。
 皆が帰還準備に動く中、ルンルンは魔導カメラで山の上の方を撮影し続けていた。
「ボスは上の方に、トカゲを集めているんでしょうか?」
 見れば、山頂付近に禍々しい雰囲気が漂っている。雑魔達が集まっているのが、山の中腹にいるハンター達でもはっきりとわかった。
「しかし、歪虚が現れなかったな」
 アバルトがそう告げると、皆気にしていたらしい。戦力をやや少なめに配した北側メンバーが無事ならばよいのだが……。
「こちらはこちらで、集めた情報を整理するとしましょう。……殿はお任せを」
 フーリィが仲間達に切り替えるよう促す。
 今回戦った極大トカゲを主として、情報の分析を。
 間違いなくある「次の」戦いに備えるべく、南側のメンバーは下山していくのである。

 一方、北側メンバー。
 こちらもなんとか歪虚グラフの撃退に成功したものの、イヴは盾としたR7エクスシアの機体に刻まれた傷を気にかける。
 相手の力がかなりのものだと確認したメンバー達。
 アルトは初めての交戦でかなり傷ついてはいたが、討伐に対する確かな手ごたえは覚えていた様子だ。
 ヴァイスは被害状況を確認すべく、リペアキット「キズナオール君」を使って手当てを行う。主に、聖堂戦士団メンバーの傷を癒す
 敵はこれ以上登ってくるなら、全力で潰すと忠告してきた。
「上等ジャン」
 相手をこの場で仕留め切れなかったものの、ゾファルはなおも軽い調子のまま。今度こそとガルちゃんの操縦席で気合を入れていたようだ。
 聖堂戦士団メンバーをゴースロンに乗せ、ハンター達は山を下る。
 ――今度はグラフを倒す。そう誓って。

 その後、帰還したメンバー達は南北の状況を合わせて情報交換することになる。
 ハンターの力を脅威に感じた歪虚グラフは、確実に本気で攻めてくる。
 報告書を纏めるメンバー達は、誰一人それを疑わないのだった……。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 9
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭ka0234
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109

  • 鞍馬 真ka5819
  • きざはしの一歩
    イヴka6763

重体一覧

  • 乙女の護り
    レイア・アローネka4082

参加者一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ウォルドーフ
    ウォルドーフ(ka0234unit001
    ユニット|幻獣

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    グレン
    グレン(ka0364unit001
    ユニット|幻獣
  • 孤高の射撃手
    アバルト・ジンツァー(ka0895
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    フォルケ
    Falke(ka0895unit003
    ユニット|CAM
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    フィデル
    グリフォン(ka1559unit002
    ユニット|幻獣
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イレーネ(ka3109unit001
    ユニット|幻獣
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アウローラ
    アウローラ(ka4082unit001
    ユニット|幻獣
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火(ka4407
    人間(蒼)|16才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アサルトガルチャン
    ガルちゃん・改(ka4407unit004
    ユニット|CAM
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    ニンタンクタイリンボタン
    ニンタンク『大輪牡丹』(ka5784unit002
    ユニット|ゴーレム

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    レグルス
    レグルス(ka5819unit001
    ユニット|幻獣
  • きざはしの一歩
    イヴ(ka6763
    エルフ|21才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ハーミットパープル
    隠者の紫(ka6763unit001
    ユニット|CAM
  • 狂える牙
    冷泉 緋百合(ka6936
    オートマトン|13才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    ヴァルキューレ
    ヴァルキューレ(ka6936unit003
    ユニット|CAM
  • 交渉上手
    フーリィ・フラック(ka7040
    人間(紅)|22才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    シュナッグ
    シュナッグ(ka7040unit002
    ユニット|魔導アーマー

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン トカゲ狩り~打合せ卓~
ゾファル・G・初火(ka4407
人間(リアルブルー)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/03/09 09:01:38
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/03/07 08:08:58