ゲスト
(ka0000)
男と、娘と、犬
マスター:硲銘介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/13 09:00
- 完成日
- 2014/12/20 22:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●男と、娘と、犬
●
月の照らす夜道を一人の男が歩いていた。
結構な距離を歩きとおしていたにも関わらず、男の足取りは軽かった。
とはいえ、男は旅慣れているという訳ではない。彼は細工師、指の動きこそ至妙の域だが、体力的には一般男性のそれより劣る程度だろう。
それでも、夜道を行く男は次第に歩みを速めてすらいく。その表情も疲れを訴えるものより、喜びの色が強いように見える。
何故か。男の仕事が特別旨くいったという訳ではない。
自身の手掛けた細工品を売りに町へ行き、売り切った辺りで引き上げ、こうして村へ帰るのが男の日常だった。
此度もそれは変わらず、むしろ今回は不調で、売り切るのに十日もかかってしまった。
品質を落としたつもりは無かったのだが、デザインの問題だろうか。今時の若者の感性と自分の作る物は噛み合わなくなってきているのかもしれない。
そんな反省を頭の中で繰り返しつつも、足は健気に歩を進めていく。毎回通る道だけに暗がりでも不安は無い。
疲れた体には応える小高い丘を上り終えて、男の顔が一層明るくなる。視線の先には、男の住まう村はずれの小さな家。窓からはまだ明かりが漏れている。
思わず、男は走り出していた。ここまでの疲れなど、どこかへ吹き飛んでしまったかのようだった。
明かりが点いているということはまだ眠っていないということ。随分遅くなってしまったが、娘はまだ起きているらしい。
男は走りながら、自身の首からぶら下げた花を象ったペンダントを見る。
それは彼の娘が、父親の為に作ってくれた物だ。形も歪で、花びらなんて今にも取れてしまいそうな不安定さ。自分が作った物には遠く及ばない、がらくたとさえ言える粗末な出来だった。
それでも、嬉しかった。むしろ不器用なりの頑張りを感じられるそれが愛おしくてたまらないとさえ思えた。
お返しにと、男も娘の為に仕立てた細工を送った。受注した鉱石の中に偶然紛れていた見たことの無い石を加工した物だったが、仕上がりは中々だと自負していた。
一品物のそれを受け取った、娘の嬉しそうな笑顔を思い出す。妻を早くに亡くした男にとって、彼女の見せるそんな表情が何よりも励ましだった。
今も、娘に早く会いたい、その一心で疲れているにも関わらず、こうして帰路を急いでいる。
息を切らしながら家の前まで来た男はすぐにドアをノックしようとした。
が、ふと思い立って愛犬の姿を見ておこうと留まった。自分の留守の間、娘と家を守ってくれていたもう一人の家族にも挨拶が必要だろう。
と、男は家の外にある犬小屋を覗いた――が、そこに愛犬の姿は無かった。
首を傾げる男。娘と家の中で遊んでいるのだろうか。仕事場を荒らされては困るから、家には入れないように普段から言いつけてあるのだが。
しかし、今回は自分にも落ち度がある。出先から手紙を送ってはいたが、こんなに長く家を空けてしまったのだから。娘も不安だったのかもしれない。
そう思うと怒る気も起きず、軽く注意する程度に留めよう、と男は決めた。気を取り直して再び、家の戸をノックする。
すぐに扉が開いて、満面の笑みで自分を迎える娘が現れる――筈だったのだが、いつまで待っても反応が無い。
灯りを点けたまま眠ってしまったのだろうか。荷物から鍵を取り出し、ドアを開け、家の中に入る。
――と、同時に男は絶句した。部屋の中は荒れ果てていた。鋭利なものでつけた様な傷がそこら中にあるだけでなく、家具の多くが損壊していた。
強盗――まずそう思ったが、戸締りはしてあった。何より、この荒れ方はそんなものではないように思えた。
次に、男の口から娘の名前が漏れた。同時に視線が部屋のあちこちを探る。焦燥感に襲われ、娘の名を叫ぶ。
――返事はない。慌てて、娘の寝室へ向かう。途中の廊下も傷だらけだったが、そんなことはどうでもよかった。ただ娘の身だけを案じて、走った。
そうしてすぐに部屋の前へ辿り着いて、扉を開けた――瞬間、何かが男の喉下を妁いた。
なんだ、これは。男に分かったのは何かが自分の喉を引き裂いたこと、そして、そこが妁けるように痛いこと。
激痛に悲鳴を上げようとするも、既に男が発するそれは声にならない。悲痛な音が家中に響き渡る。
首から血が滴る。視界が反転しそうになる程の激痛、男は立っていられなくなり転倒する。その拍子に花のペンダントが外れた。
ペンダントを拾おうと必死に体を捻って手を伸ばす。そんな場合じゃないのは分かっている。喉下からの流血はすぐに――どうにかできるものなら――何とかしなければ死んでしまう。それでも、手を伸ばした。
だが、それはすぐに止まった。力尽きたのではない。ぼやけていく視界の中に、自分と同じように床に広がる赤色、そこ、に、伏し、た――娘だったものが目に入った。
何かが男の顔を伝って床を濡らしていく。それが自分の流した血なのか、涙なのか――もう男には確かめる術も無い。
そうして、視界は暗転する。全てが喪失する手前――男は犬の遠吠えを耳にした。
●
ハンターオフィスへとやってきた男――村人の代表という食料品店の主は悲痛な面持ちで語った。
細工師の父とその娘、二人暮らしの家族を襲った悲劇。
仕事で度々家を空ける父親と、周囲に心配をかけまいと振舞う健気な少女、彼らの家に獣から変じた雑魔が住み着いたという。
「しっかりした子だったのだけど、やはりまだ幼いから。私達も気にかけるようにしていたんだが……やはり、飼い犬が死んでしまったのがきっかけだったのだろう」
その家族には飼い犬がいた。少女にとっては、父の留守を一緒に守る友達だったという。だが――その友達は父親のいないその時に死んでしまったらしい。
病気か、寿命か。愛犬の死に傷心し少女はふさぎ込み、村の子供達の遊びの誘いも断り、一人家に篭っていた。亡骸と共に、父の帰還を待っていた。
「あの子、いつも親父さんが戻ると嬉しそうに一緒に買出しに来たんですよ。だけど、今回はそれが無くてね。ずっと姿が見えなくて、それで――」
様子を見に行った村人達が窓から家の様子を窺うと――闊歩する血濡れの異形を目にしたという。
彼らは直感的に悟った。死んだ飼い犬が雑魔に姿を変え、家族を襲ったのだと。
店主は語る。睦まじい少女と飼い犬の姿を今も思い出せるのに、それでも、恐ろしくて堪らないのだと。
「……村の平和の為なんです。あの犬を――いえ、雑魔を殺してください。それと……出来れば、せめて家族の遺体を弔ってやりたいと思うんです」
救うことは出来なかったけれど。店主はそう、最後に加えた。
●
月の照らす夜道を一人の男が歩いていた。
結構な距離を歩きとおしていたにも関わらず、男の足取りは軽かった。
とはいえ、男は旅慣れているという訳ではない。彼は細工師、指の動きこそ至妙の域だが、体力的には一般男性のそれより劣る程度だろう。
それでも、夜道を行く男は次第に歩みを速めてすらいく。その表情も疲れを訴えるものより、喜びの色が強いように見える。
何故か。男の仕事が特別旨くいったという訳ではない。
自身の手掛けた細工品を売りに町へ行き、売り切った辺りで引き上げ、こうして村へ帰るのが男の日常だった。
此度もそれは変わらず、むしろ今回は不調で、売り切るのに十日もかかってしまった。
品質を落としたつもりは無かったのだが、デザインの問題だろうか。今時の若者の感性と自分の作る物は噛み合わなくなってきているのかもしれない。
そんな反省を頭の中で繰り返しつつも、足は健気に歩を進めていく。毎回通る道だけに暗がりでも不安は無い。
疲れた体には応える小高い丘を上り終えて、男の顔が一層明るくなる。視線の先には、男の住まう村はずれの小さな家。窓からはまだ明かりが漏れている。
思わず、男は走り出していた。ここまでの疲れなど、どこかへ吹き飛んでしまったかのようだった。
明かりが点いているということはまだ眠っていないということ。随分遅くなってしまったが、娘はまだ起きているらしい。
男は走りながら、自身の首からぶら下げた花を象ったペンダントを見る。
それは彼の娘が、父親の為に作ってくれた物だ。形も歪で、花びらなんて今にも取れてしまいそうな不安定さ。自分が作った物には遠く及ばない、がらくたとさえ言える粗末な出来だった。
それでも、嬉しかった。むしろ不器用なりの頑張りを感じられるそれが愛おしくてたまらないとさえ思えた。
お返しにと、男も娘の為に仕立てた細工を送った。受注した鉱石の中に偶然紛れていた見たことの無い石を加工した物だったが、仕上がりは中々だと自負していた。
一品物のそれを受け取った、娘の嬉しそうな笑顔を思い出す。妻を早くに亡くした男にとって、彼女の見せるそんな表情が何よりも励ましだった。
今も、娘に早く会いたい、その一心で疲れているにも関わらず、こうして帰路を急いでいる。
息を切らしながら家の前まで来た男はすぐにドアをノックしようとした。
が、ふと思い立って愛犬の姿を見ておこうと留まった。自分の留守の間、娘と家を守ってくれていたもう一人の家族にも挨拶が必要だろう。
と、男は家の外にある犬小屋を覗いた――が、そこに愛犬の姿は無かった。
首を傾げる男。娘と家の中で遊んでいるのだろうか。仕事場を荒らされては困るから、家には入れないように普段から言いつけてあるのだが。
しかし、今回は自分にも落ち度がある。出先から手紙を送ってはいたが、こんなに長く家を空けてしまったのだから。娘も不安だったのかもしれない。
そう思うと怒る気も起きず、軽く注意する程度に留めよう、と男は決めた。気を取り直して再び、家の戸をノックする。
すぐに扉が開いて、満面の笑みで自分を迎える娘が現れる――筈だったのだが、いつまで待っても反応が無い。
灯りを点けたまま眠ってしまったのだろうか。荷物から鍵を取り出し、ドアを開け、家の中に入る。
――と、同時に男は絶句した。部屋の中は荒れ果てていた。鋭利なものでつけた様な傷がそこら中にあるだけでなく、家具の多くが損壊していた。
強盗――まずそう思ったが、戸締りはしてあった。何より、この荒れ方はそんなものではないように思えた。
次に、男の口から娘の名前が漏れた。同時に視線が部屋のあちこちを探る。焦燥感に襲われ、娘の名を叫ぶ。
――返事はない。慌てて、娘の寝室へ向かう。途中の廊下も傷だらけだったが、そんなことはどうでもよかった。ただ娘の身だけを案じて、走った。
そうしてすぐに部屋の前へ辿り着いて、扉を開けた――瞬間、何かが男の喉下を妁いた。
なんだ、これは。男に分かったのは何かが自分の喉を引き裂いたこと、そして、そこが妁けるように痛いこと。
激痛に悲鳴を上げようとするも、既に男が発するそれは声にならない。悲痛な音が家中に響き渡る。
首から血が滴る。視界が反転しそうになる程の激痛、男は立っていられなくなり転倒する。その拍子に花のペンダントが外れた。
ペンダントを拾おうと必死に体を捻って手を伸ばす。そんな場合じゃないのは分かっている。喉下からの流血はすぐに――どうにかできるものなら――何とかしなければ死んでしまう。それでも、手を伸ばした。
だが、それはすぐに止まった。力尽きたのではない。ぼやけていく視界の中に、自分と同じように床に広がる赤色、そこ、に、伏し、た――娘だったものが目に入った。
何かが男の顔を伝って床を濡らしていく。それが自分の流した血なのか、涙なのか――もう男には確かめる術も無い。
そうして、視界は暗転する。全てが喪失する手前――男は犬の遠吠えを耳にした。
●
ハンターオフィスへとやってきた男――村人の代表という食料品店の主は悲痛な面持ちで語った。
細工師の父とその娘、二人暮らしの家族を襲った悲劇。
仕事で度々家を空ける父親と、周囲に心配をかけまいと振舞う健気な少女、彼らの家に獣から変じた雑魔が住み着いたという。
「しっかりした子だったのだけど、やはりまだ幼いから。私達も気にかけるようにしていたんだが……やはり、飼い犬が死んでしまったのがきっかけだったのだろう」
その家族には飼い犬がいた。少女にとっては、父の留守を一緒に守る友達だったという。だが――その友達は父親のいないその時に死んでしまったらしい。
病気か、寿命か。愛犬の死に傷心し少女はふさぎ込み、村の子供達の遊びの誘いも断り、一人家に篭っていた。亡骸と共に、父の帰還を待っていた。
「あの子、いつも親父さんが戻ると嬉しそうに一緒に買出しに来たんですよ。だけど、今回はそれが無くてね。ずっと姿が見えなくて、それで――」
様子を見に行った村人達が窓から家の様子を窺うと――闊歩する血濡れの異形を目にしたという。
彼らは直感的に悟った。死んだ飼い犬が雑魔に姿を変え、家族を襲ったのだと。
店主は語る。睦まじい少女と飼い犬の姿を今も思い出せるのに、それでも、恐ろしくて堪らないのだと。
「……村の平和の為なんです。あの犬を――いえ、雑魔を殺してください。それと……出来れば、せめて家族の遺体を弔ってやりたいと思うんです」
救うことは出来なかったけれど。店主はそう、最後に加えた。
リプレイ本文
●
件の村に辿り着いたハンター達は突入の前準備を行うことにした。
「雑魔の逃走を許さないよう窓を塞ぎたい。何でもいい、使えそうな物を用意できるか?」
代表でそう言ったアーヴィン(ka3383)の言葉に村人は少し考え込んでから答えた。
「不要になった廃材なんかで良ければすぐに用意できるかと思います」
「それでいいぜ。例の家まで運んでくれ。後はこっちでやる」
村人は頷き、すぐに資材の手配に向かった。
ハンター達が逃走阻止の算段を立てている傍ら、時音 ざくろ(ka1250)熱心に他の村人から話を聞いていた。
彼が尋ねていたのは細工師の家の構造、間取りについて。突入後の事を考えての情報収集だった。
数人の話から大体の間取りが掴めたざくろは不安げな村人達に向けて宣言する。
「ざくろ達に任せてよ、細工師親子の敵、必ず取ってくる……そして、村の平和も守るから!」
強くそう断言して、ざくろは村人達を安心させる為、にっこりと笑ってみせた。
その様子に周りの人々も少し不安を拭われたのか、つられて表情を和らげた。
●
「あくまで保険だからな……こんなものかね」
「ええ、そうですね。簡単なものですけど、逃亡時に少しでも時間が稼げるなら」
アーヴィンと仙道・宙(ka2134)は村人から提供された廃材を窓の前に積み上げながらそんな言葉を交わしていた。
細工師の家は家族二人暮らしだった事もあり、さほど大きいものではなかった。正面の玄関口の他に内と外を繋ぐのは窓が幾つかのみ。
その中で雑魔の出入りが可能だと思われる窓の前に廃材を積み重ね、簡易的な防柵代わりとしたのだ。
当初アーヴィンは漆喰やレンガ、セメントの類を用いて窓を塞ぐことを考えていたが、手に入ったのが廃材程度だったこと、それと作業時間を増やすことで雑魔に気づかれる危険性を考慮し、今の案に落ち着けた。
作業中は、雑魔が飛び出してくる可能性も考慮して宙とアーヴィンを除いたメンバー達は常に警戒を張っていた。作業をする二人も武器は常に携帯し、手放さないようにしていた。
――そして、最後の窓を塞ぎ終える。幸い、雑魔に反応は見られなかった。気を張ったままの作業を終えた二人は、どちらともなく安堵に息を吐いていた。
前準備を全て終えたハンター達は家の正面に移動し、作戦の最終確認に入った。
廃材と共に用意してもらった梯子に手をかけ、まずアーヴィンが口を開く。
「俺は屋根の上に待機、全方位見渡せる位置に陣取る。歪虚が出てきたら仕留めるぜ。お前ら、突入の陣形は分かってるな?」
頷く面々。ざくろと天竜寺 舞(ka0377)が答える。
「前衛はざくろに任せてよ!」
「あたしは隊列の殿について、背後からの襲撃を警戒するよ」
宙が静かに続ける。
「私達は中央に入らせていただきますね」
「うん、ボクはまだまだ弱いからそうさせてもらえると嬉しいな。あっ、でもね! 索敵は頑張るよ!」
控えめな言葉でそう続けると、ユーリィ・リッチウェイ(ka3557)ははにかんだ笑顔を見せた。
面々に少し遅れて、夢路 まよい(ka1328)も口を開く。
「私も真ん中で、ハンディLEDライトで周囲を照らすね。おイタの過ぎるお犬さんは、女の子にめっ! してもらわないとね?」
全員の隊列を確認し、ハンター達は一斉に頷いた。
先頭のざくろが玄関の扉を開き、アーヴィンを除く五人は雑魔の潜む家へと入っていった。
●
家の中は荒れ果てていた。報告として聞いてはいたものの、いざ目の当たりにした事でハンター達は皆息を呑んだ。
床や壁は獣の爪で引き裂かれた傷跡が残り、家具の大半は倒れ、またその多くは半壊していた。
その有様は廃墟のそれに近かったが、その中に確かな生活感の名残があった。
「……平和で幸せな家庭だったんだろうな……それを壊した雑魔、ざくろ絶対に許せないよ」
警戒を続けたまま、残骸に視線を落としたざくろがそう言った。
「そんな事を望んじゃいないのに、大切な友達を、その父親を殺めた可哀想な犬……そうさせた雑魔を赦さない。必ず倒して、二人と一匹の魂を弔うよ」
隊列の最後尾、背後を警戒する舞も同じような感情を抱いたのだろう。気を引き締めるように、自身の想いを口にしていた。
他のメンバー達も想いは同じようだった。神妙な面持ちで周囲の警戒を続ける。
廊下を進み、部屋があれば注意しながら中へ入り、一つ一つ丁寧に調べていく。
昼間ではあったが、家の中は薄暗かった。屋内の灯りはとうに油が切れ、消えてしまっていた。
廃材で簡素に塞いだ窓から光が差し込んではくるが、それも家全体を明るくするには遠く及ばず、光源を得られない暗闇も随所に点在していた。
そういった場所にこそ雑魔が潜んでいるかもしれない。まよいが手にしたライトで隅々までを照らし、探っていく。
先頭で部屋に入ったざくろは仲間を守れるよう気を配りながら、物陰に敵が居ないか確認する。
ユーリィも同じように物陰や、頭上にも注意しながら部屋の中を検めていった。
ハンター達が部屋の中を探っている間、入り口の扉には舞が立ち、襲撃を防ぐようにしていた。
そうして守りについている間も彼女は周囲の様子を窺うことに余念が無かった。
雑魔の移動の手がかりとなりそうな血痕や他のメンバーの探索とは別の音を拾う為、五感を研ぎ澄ましていた。
二つほど部屋を調べた一行は更に家の奥へ進んでいく。やがて廊下は二方向へ分かれていたが、作戦通り全員一丸となって探索を続ける。
ざくろが右方向へ曲がり、その後にユーリィ、まよいが続く。
「――いたよ!」
突如、まよいが声を上げる。進路の逆方向、左側の廊下へ振り向いた彼女は奥の部屋から飛び出す獣の姿を目撃していた。
その声に全員が直ちに戦闘態勢に入る。それは雑魔も同様で、獲物を見つけた獣は素早い動きでハンター達へ強襲を仕掛けた。
鋭い牙を光らせ一行に襲い来る雑魔。その一撃を――舞の剣が弾いた。
瞬脚で強化された彼女の動きは獣のそれに決して劣らない。素早い動きから繰り出された雑魔の一撃だったが、舞はそれを完全に防いで見せた。
「その体の持ち主は、飼い主親子を愛していたんだ。その魂の尊厳を汚すお前を絶対許さないよ!」
舞は握った剣に力を込め、雑魔を振り払う。後方へ飛び退いた雑魔は一行から距離を取り、奥の部屋へと逃げ込んでいく。
ハンター達もすぐに後を追い、部屋へ飛び込む――その瞬間、再び雑魔が飛び掛ってきた。
「受け止める!」
ざくろの掛け声と共に防御の姿勢をとる。ムーバブルシールド――発動した盾は飛びつく獣を押し止め防御する。
ざくろが雑魔を足止めする間に、その脇から舞とユーリィが飛び出す。
そのスピードを活かし舞は雑魔の後方へ、ユーリィは逃げ道となる窓の前に立ち、それぞれ敵の逃亡を阻止する位置に着く。
逃げ場を無くし、困惑する雑魔。その隙を逃さず、ハンター達の攻撃が飛ぶ。
ユーリィが距離を取った状態でリボルバーの引き金を引く。放たれた銃弾は外れこそしたものの、回避した雑魔には先ほど以上の隙が生まれていた。
間髪入れずにまよいの行動が続く。
「お仕置きだよ、マジックアロー!」
まよいが言葉と共に杖を振るう。輝く光の矢が現れ、真っ直ぐに雑魔へ向け飛翔する。
意識を集中したその一撃は素早い獣の姿を確実に捉え、正面から突き刺さり、そのエネルギーが弾ける。
与えたダメージは相当なもので雑魔の四足がふらつき動きを鈍らせた。
だが、相手も人外の怪物。傷を負いながらもその敵意は薄れることなく、尚もハンター達を食い殺そうと牙を剥く。
離れていても、一瞬気を抜くだけでその爪で引き裂かれてしまう――そう思わせるだけの気迫。
戦意には戦意で応える、仲間の作った隙を活かす為控えていた宙が術を唱える。
「これでおしまいです……ウィンドスラッシュ!」
宙が叫ぶと杖の先から風の刃が放たれる。まよいの攻撃で傷ついた雑魔は回避することが出来なかった。
ハンター達の連係で整った戦場。宙の意識は僅かの乱れも無く、その魔法も十分な威力を発揮する。
疾風の如き術が雑魔の体を切り裂いていく。断末魔か、最後に大きく、遠く叫び――獣の姿は霧散する。
風の猛りが止む頃には、この家を悲劇へ見舞った災厄は跡形も無く消えていた。
●
――それは苦しみよりも、悲しさからの声だった。
万一に備え、屋上に待機していたアーヴィンの耳に犬の遠吠えが届いた。
直感的に、終わったのだと、アーヴィンは悟っていた。自然と張り詰めていた警戒が弛んでいく。
最後の遠吠え、搾り出すような声には不思議と憎しみのようなものはこもっていなかった。
それは断末魔に違いないが――死を呪うものではなかった。恨みを残すものではなく、あるいは、先に逝った家族に向けた――
「――――――」
アーヴィンはただ口を閉ざしていた。笑うでもなく嘆くでもなく、静かに空を見上げる。
その表情はやはりどちらの感情によるものでもなく、その心中も彼のみぞ知るのだった。
雑魔退治を終えたハンター達はアーヴィンと合流し、家の探索を進め――少女と父親の亡骸を発見した。
可愛らしい人形や小物がたくさん置かれていたそこは女の子の部屋だったのだろう。だが、今は荒れ果て、見る影も無い。
床には夥しい量の血痕が広がり、その上に二つの人影が横たえていた。
――凄惨な光景だった。その場に居る多くの者が目を伏せていた。
その中で、宙は遺体の傍らで黙祷を捧げていた。彼らの死を悼む行為はどれくらい続いただろうか――しばらくして、宙は大きな布を取り出した。
遺体を運び出すために村で購入したそれを広げ、丁寧に作業に移っていく。彼の後ろに佇んでいた仲間達もそれを手伝う。
「……村人達に近くの墓地を尋ね、埋葬を手伝いましょう」
作業の最中、宙がそう口にした。ハンター達にも異論は無く、皆黙って頷いた。
「……あれ? これって……」
ふとユーリィがあるものに気づく。父親――男の遺体が手を伸ばした先に歪な首飾りが落ちていた。
血で汚れており判断に迷うものの、それは花に見えた。そして、男の手はそれを掴むもうと伸ばされていたようにも。
彼の小さな手がペンダントを掬い上げる。
「これ、きっと大切な物なんだよね? 綺麗にして、返すね」
仲間達の手で布をかけられた二人に向けて、ユーリィは小さな声で約束をした。
●
「皆さん、ありがとうございました。雑魔の討伐ばかりか、墓を作るのまで手伝っていただいて……これで彼らも、少しは安心して眠れるでしょうか……」
ハンターオフィスへと依頼に来た商店の主が、村人を代表してハンター達へ礼を言う。
「村人一同、皆さんには感謝しております。良ければ、皆さんも亡くなった家族へ墓参りをしていってください」
そう言って、男は細工師家族の墓を示した。
墓の前には既に幾人もの村人が集まり、村の仲間の不幸を悼んでいた。
その列にハンター達も加わっていく。
家族の墓の隣には小さな墓がもう一つあった。
「犬の墓も、家族の側に作ってあげられないかな……? あんな事になっちゃったけど、やっぱり、家族だからさ」
舞のその言葉で作られたのがそれである。雑魔として消滅してしまった犬の体はそこにはないけれど、反対するものは誰もいなかった。
そして今――墓前では弔いの為の舞が披露されている。
彼女の名そのものでもある舞――踊りは見事で、美しくも儚く、悲劇に遭った二人と一匹の魂を鎮められるであろうものだった。
周囲が彼女の舞に魅せられている中、まよいが犬の墓の前にやってきた。
まよいはそこに屈むと、子供をしかるような仕草で墓に向かって話しかけた。
「ね、お犬さん。向こうで女の子にちゃんとゴメンね、って言えたかな? 今度こそケンカしないように、一緒に仲良くしなきゃダメだよ?」
めっ、と叱って見せるまよい。
彼女の傍らで祈っていた宙がその様子を見て穏やかに微笑む。そして再び墓へ向き直り、同じように言葉をかける。
「元気な姿で会いたかったね。おやすみ」
せめて安らかに――哀悼の意を告げ、宙は墓前を譲った。
次に墓の前にやってきたのはざくろとユーリィ。場の雰囲気のせいか、ざくろの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「敵は討ったよ……せめて親子2人天国で幸せにね」
ざくろは手を合わせながらそう言った。顔を伏せた拍子に溜めていた涙が一筋、頬を伝って零れ落ちる。
その横でユーリィが墓前に花を添える。小柄な体に抱えていた白い花が今度は墓を埋めていく。
花を全て供えると、今度は懐から首飾りを取り出した。汚れを落としたペンダントは不恰好ながらも、並ぶネリネに劣らない立派な花に見えた。
「ネリネの花言葉にはね、幸せな思い出……っていうのがあるんだよ。どうか……天国で幸せに……」
花と首飾りを供え、ユーリィも手を合わせる。
村人とハンター達、多くの人が亡くなった者達の冥福を祈る。
その想いに応えるように、舞の踊る鎮魂の舞は続く。彼女もまた、自身の舞に祈りを込める。
それはきっとその場の誰もが抱く願い。二人と一匹が天国でもう一度、幸せな家族として暮らせるように――――
件の村に辿り着いたハンター達は突入の前準備を行うことにした。
「雑魔の逃走を許さないよう窓を塞ぎたい。何でもいい、使えそうな物を用意できるか?」
代表でそう言ったアーヴィン(ka3383)の言葉に村人は少し考え込んでから答えた。
「不要になった廃材なんかで良ければすぐに用意できるかと思います」
「それでいいぜ。例の家まで運んでくれ。後はこっちでやる」
村人は頷き、すぐに資材の手配に向かった。
ハンター達が逃走阻止の算段を立てている傍ら、時音 ざくろ(ka1250)熱心に他の村人から話を聞いていた。
彼が尋ねていたのは細工師の家の構造、間取りについて。突入後の事を考えての情報収集だった。
数人の話から大体の間取りが掴めたざくろは不安げな村人達に向けて宣言する。
「ざくろ達に任せてよ、細工師親子の敵、必ず取ってくる……そして、村の平和も守るから!」
強くそう断言して、ざくろは村人達を安心させる為、にっこりと笑ってみせた。
その様子に周りの人々も少し不安を拭われたのか、つられて表情を和らげた。
●
「あくまで保険だからな……こんなものかね」
「ええ、そうですね。簡単なものですけど、逃亡時に少しでも時間が稼げるなら」
アーヴィンと仙道・宙(ka2134)は村人から提供された廃材を窓の前に積み上げながらそんな言葉を交わしていた。
細工師の家は家族二人暮らしだった事もあり、さほど大きいものではなかった。正面の玄関口の他に内と外を繋ぐのは窓が幾つかのみ。
その中で雑魔の出入りが可能だと思われる窓の前に廃材を積み重ね、簡易的な防柵代わりとしたのだ。
当初アーヴィンは漆喰やレンガ、セメントの類を用いて窓を塞ぐことを考えていたが、手に入ったのが廃材程度だったこと、それと作業時間を増やすことで雑魔に気づかれる危険性を考慮し、今の案に落ち着けた。
作業中は、雑魔が飛び出してくる可能性も考慮して宙とアーヴィンを除いたメンバー達は常に警戒を張っていた。作業をする二人も武器は常に携帯し、手放さないようにしていた。
――そして、最後の窓を塞ぎ終える。幸い、雑魔に反応は見られなかった。気を張ったままの作業を終えた二人は、どちらともなく安堵に息を吐いていた。
前準備を全て終えたハンター達は家の正面に移動し、作戦の最終確認に入った。
廃材と共に用意してもらった梯子に手をかけ、まずアーヴィンが口を開く。
「俺は屋根の上に待機、全方位見渡せる位置に陣取る。歪虚が出てきたら仕留めるぜ。お前ら、突入の陣形は分かってるな?」
頷く面々。ざくろと天竜寺 舞(ka0377)が答える。
「前衛はざくろに任せてよ!」
「あたしは隊列の殿について、背後からの襲撃を警戒するよ」
宙が静かに続ける。
「私達は中央に入らせていただきますね」
「うん、ボクはまだまだ弱いからそうさせてもらえると嬉しいな。あっ、でもね! 索敵は頑張るよ!」
控えめな言葉でそう続けると、ユーリィ・リッチウェイ(ka3557)ははにかんだ笑顔を見せた。
面々に少し遅れて、夢路 まよい(ka1328)も口を開く。
「私も真ん中で、ハンディLEDライトで周囲を照らすね。おイタの過ぎるお犬さんは、女の子にめっ! してもらわないとね?」
全員の隊列を確認し、ハンター達は一斉に頷いた。
先頭のざくろが玄関の扉を開き、アーヴィンを除く五人は雑魔の潜む家へと入っていった。
●
家の中は荒れ果てていた。報告として聞いてはいたものの、いざ目の当たりにした事でハンター達は皆息を呑んだ。
床や壁は獣の爪で引き裂かれた傷跡が残り、家具の大半は倒れ、またその多くは半壊していた。
その有様は廃墟のそれに近かったが、その中に確かな生活感の名残があった。
「……平和で幸せな家庭だったんだろうな……それを壊した雑魔、ざくろ絶対に許せないよ」
警戒を続けたまま、残骸に視線を落としたざくろがそう言った。
「そんな事を望んじゃいないのに、大切な友達を、その父親を殺めた可哀想な犬……そうさせた雑魔を赦さない。必ず倒して、二人と一匹の魂を弔うよ」
隊列の最後尾、背後を警戒する舞も同じような感情を抱いたのだろう。気を引き締めるように、自身の想いを口にしていた。
他のメンバー達も想いは同じようだった。神妙な面持ちで周囲の警戒を続ける。
廊下を進み、部屋があれば注意しながら中へ入り、一つ一つ丁寧に調べていく。
昼間ではあったが、家の中は薄暗かった。屋内の灯りはとうに油が切れ、消えてしまっていた。
廃材で簡素に塞いだ窓から光が差し込んではくるが、それも家全体を明るくするには遠く及ばず、光源を得られない暗闇も随所に点在していた。
そういった場所にこそ雑魔が潜んでいるかもしれない。まよいが手にしたライトで隅々までを照らし、探っていく。
先頭で部屋に入ったざくろは仲間を守れるよう気を配りながら、物陰に敵が居ないか確認する。
ユーリィも同じように物陰や、頭上にも注意しながら部屋の中を検めていった。
ハンター達が部屋の中を探っている間、入り口の扉には舞が立ち、襲撃を防ぐようにしていた。
そうして守りについている間も彼女は周囲の様子を窺うことに余念が無かった。
雑魔の移動の手がかりとなりそうな血痕や他のメンバーの探索とは別の音を拾う為、五感を研ぎ澄ましていた。
二つほど部屋を調べた一行は更に家の奥へ進んでいく。やがて廊下は二方向へ分かれていたが、作戦通り全員一丸となって探索を続ける。
ざくろが右方向へ曲がり、その後にユーリィ、まよいが続く。
「――いたよ!」
突如、まよいが声を上げる。進路の逆方向、左側の廊下へ振り向いた彼女は奥の部屋から飛び出す獣の姿を目撃していた。
その声に全員が直ちに戦闘態勢に入る。それは雑魔も同様で、獲物を見つけた獣は素早い動きでハンター達へ強襲を仕掛けた。
鋭い牙を光らせ一行に襲い来る雑魔。その一撃を――舞の剣が弾いた。
瞬脚で強化された彼女の動きは獣のそれに決して劣らない。素早い動きから繰り出された雑魔の一撃だったが、舞はそれを完全に防いで見せた。
「その体の持ち主は、飼い主親子を愛していたんだ。その魂の尊厳を汚すお前を絶対許さないよ!」
舞は握った剣に力を込め、雑魔を振り払う。後方へ飛び退いた雑魔は一行から距離を取り、奥の部屋へと逃げ込んでいく。
ハンター達もすぐに後を追い、部屋へ飛び込む――その瞬間、再び雑魔が飛び掛ってきた。
「受け止める!」
ざくろの掛け声と共に防御の姿勢をとる。ムーバブルシールド――発動した盾は飛びつく獣を押し止め防御する。
ざくろが雑魔を足止めする間に、その脇から舞とユーリィが飛び出す。
そのスピードを活かし舞は雑魔の後方へ、ユーリィは逃げ道となる窓の前に立ち、それぞれ敵の逃亡を阻止する位置に着く。
逃げ場を無くし、困惑する雑魔。その隙を逃さず、ハンター達の攻撃が飛ぶ。
ユーリィが距離を取った状態でリボルバーの引き金を引く。放たれた銃弾は外れこそしたものの、回避した雑魔には先ほど以上の隙が生まれていた。
間髪入れずにまよいの行動が続く。
「お仕置きだよ、マジックアロー!」
まよいが言葉と共に杖を振るう。輝く光の矢が現れ、真っ直ぐに雑魔へ向け飛翔する。
意識を集中したその一撃は素早い獣の姿を確実に捉え、正面から突き刺さり、そのエネルギーが弾ける。
与えたダメージは相当なもので雑魔の四足がふらつき動きを鈍らせた。
だが、相手も人外の怪物。傷を負いながらもその敵意は薄れることなく、尚もハンター達を食い殺そうと牙を剥く。
離れていても、一瞬気を抜くだけでその爪で引き裂かれてしまう――そう思わせるだけの気迫。
戦意には戦意で応える、仲間の作った隙を活かす為控えていた宙が術を唱える。
「これでおしまいです……ウィンドスラッシュ!」
宙が叫ぶと杖の先から風の刃が放たれる。まよいの攻撃で傷ついた雑魔は回避することが出来なかった。
ハンター達の連係で整った戦場。宙の意識は僅かの乱れも無く、その魔法も十分な威力を発揮する。
疾風の如き術が雑魔の体を切り裂いていく。断末魔か、最後に大きく、遠く叫び――獣の姿は霧散する。
風の猛りが止む頃には、この家を悲劇へ見舞った災厄は跡形も無く消えていた。
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――それは苦しみよりも、悲しさからの声だった。
万一に備え、屋上に待機していたアーヴィンの耳に犬の遠吠えが届いた。
直感的に、終わったのだと、アーヴィンは悟っていた。自然と張り詰めていた警戒が弛んでいく。
最後の遠吠え、搾り出すような声には不思議と憎しみのようなものはこもっていなかった。
それは断末魔に違いないが――死を呪うものではなかった。恨みを残すものではなく、あるいは、先に逝った家族に向けた――
「――――――」
アーヴィンはただ口を閉ざしていた。笑うでもなく嘆くでもなく、静かに空を見上げる。
その表情はやはりどちらの感情によるものでもなく、その心中も彼のみぞ知るのだった。
雑魔退治を終えたハンター達はアーヴィンと合流し、家の探索を進め――少女と父親の亡骸を発見した。
可愛らしい人形や小物がたくさん置かれていたそこは女の子の部屋だったのだろう。だが、今は荒れ果て、見る影も無い。
床には夥しい量の血痕が広がり、その上に二つの人影が横たえていた。
――凄惨な光景だった。その場に居る多くの者が目を伏せていた。
その中で、宙は遺体の傍らで黙祷を捧げていた。彼らの死を悼む行為はどれくらい続いただろうか――しばらくして、宙は大きな布を取り出した。
遺体を運び出すために村で購入したそれを広げ、丁寧に作業に移っていく。彼の後ろに佇んでいた仲間達もそれを手伝う。
「……村人達に近くの墓地を尋ね、埋葬を手伝いましょう」
作業の最中、宙がそう口にした。ハンター達にも異論は無く、皆黙って頷いた。
「……あれ? これって……」
ふとユーリィがあるものに気づく。父親――男の遺体が手を伸ばした先に歪な首飾りが落ちていた。
血で汚れており判断に迷うものの、それは花に見えた。そして、男の手はそれを掴むもうと伸ばされていたようにも。
彼の小さな手がペンダントを掬い上げる。
「これ、きっと大切な物なんだよね? 綺麗にして、返すね」
仲間達の手で布をかけられた二人に向けて、ユーリィは小さな声で約束をした。
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「皆さん、ありがとうございました。雑魔の討伐ばかりか、墓を作るのまで手伝っていただいて……これで彼らも、少しは安心して眠れるでしょうか……」
ハンターオフィスへと依頼に来た商店の主が、村人を代表してハンター達へ礼を言う。
「村人一同、皆さんには感謝しております。良ければ、皆さんも亡くなった家族へ墓参りをしていってください」
そう言って、男は細工師家族の墓を示した。
墓の前には既に幾人もの村人が集まり、村の仲間の不幸を悼んでいた。
その列にハンター達も加わっていく。
家族の墓の隣には小さな墓がもう一つあった。
「犬の墓も、家族の側に作ってあげられないかな……? あんな事になっちゃったけど、やっぱり、家族だからさ」
舞のその言葉で作られたのがそれである。雑魔として消滅してしまった犬の体はそこにはないけれど、反対するものは誰もいなかった。
そして今――墓前では弔いの為の舞が披露されている。
彼女の名そのものでもある舞――踊りは見事で、美しくも儚く、悲劇に遭った二人と一匹の魂を鎮められるであろうものだった。
周囲が彼女の舞に魅せられている中、まよいが犬の墓の前にやってきた。
まよいはそこに屈むと、子供をしかるような仕草で墓に向かって話しかけた。
「ね、お犬さん。向こうで女の子にちゃんとゴメンね、って言えたかな? 今度こそケンカしないように、一緒に仲良くしなきゃダメだよ?」
めっ、と叱って見せるまよい。
彼女の傍らで祈っていた宙がその様子を見て穏やかに微笑む。そして再び墓へ向き直り、同じように言葉をかける。
「元気な姿で会いたかったね。おやすみ」
せめて安らかに――哀悼の意を告げ、宙は墓前を譲った。
次に墓の前にやってきたのはざくろとユーリィ。場の雰囲気のせいか、ざくろの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「敵は討ったよ……せめて親子2人天国で幸せにね」
ざくろは手を合わせながらそう言った。顔を伏せた拍子に溜めていた涙が一筋、頬を伝って零れ落ちる。
その横でユーリィが墓前に花を添える。小柄な体に抱えていた白い花が今度は墓を埋めていく。
花を全て供えると、今度は懐から首飾りを取り出した。汚れを落としたペンダントは不恰好ながらも、並ぶネリネに劣らない立派な花に見えた。
「ネリネの花言葉にはね、幸せな思い出……っていうのがあるんだよ。どうか……天国で幸せに……」
花と首飾りを供え、ユーリィも手を合わせる。
村人とハンター達、多くの人が亡くなった者達の冥福を祈る。
その想いに応えるように、舞の踊る鎮魂の舞は続く。彼女もまた、自身の舞に祈りを込める。
それはきっとその場の誰もが抱く願い。二人と一匹が天国でもう一度、幸せな家族として暮らせるように――――
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相談 アーヴィン(ka3383) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/12/12 22:15:03 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/09 01:17:44 |