物資集積所防衛

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/03/15 22:00
完成日
2018/03/24 12:10

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 昨年に行われた奪還作戦により解放されたイスルダ島── だが、長らく強大な歪虚に居座り続けられた影響だろう。島には墨の濃淡の様に特に強く負のマテリアルが蟠っている地域が幾らかあり、それらの浄化は未だ達成されてはいなかった。
 『魔の森』と呼ばれる一帯もまた、そんな瘴気が重く立ち込める吹き溜まりの様な場所の一つ。かつて島民たちに恵みをもたらしていた森は、既に人界の理から外れた歪虚の森へと変わっていた。送り込んだ斥候はただの一人として戻らず……いつしか、島に駐留する兵たちは『帰らずの森』と呼んで恐れた。
 できれば近づきたくはなかった。だが、放置しておくわけにはいかぬ理由があった。かの樹海には『アレクシウスの騎士たち』が──ホロウレイドの戦で国王と共に戦死し、その身を歪虚へ堕とされたかつての王国騎士たちの残党が、奪還作戦の敗勢から逃れて潜んでいたからだ。
 やがて、斥候では埒が明かぬと送り出した小隊規模、約40人の捜索隊がただの一人も戻らぬ事態に至って、駐留部隊は『魔の森』に対する本格的な掃討作戦を実施した。……そして、這う這うの体で逃げてきた。
 数多の命を代償に、生き残った者らは情報を得た。──これまでの犠牲者たちは森に隠れた歪虚にではなく、『森そのもの』に殺されていたのだ。森の木々、それ自体が樹木型の歪虚だったのだ。
 戦訓はすぐに活かされた。まだ本土に帰還していなかった大砲やCAMが掻き集められ…… 森そのものを対象とする掃討作戦が始まった。

 後方に砲列を敷いた大砲やVolcaniusが一斉に砲を撃ち鳴らし── 自分たちの頭上を越えて飛んで行った砲弾が、前方の森へと一斉に着弾した。
 派手な炸裂音と共に破片が撒き散らされ、周囲のありとあらゆる物をのべつ幕無しに吹き飛ばす。無数の砲弾が織りなす乱痴気騒ぎに、しかし、砲撃に驚いて飛び立つ鳥も逃げ出す動物の群れもなく。そんな死の森らしい沈黙を厭うように、人間たちはドカンドカンと砲声の太鼓を鳴らし続ける。
 やがて、一方的な加虐に満足したのか、或いは全ての砲弾を吐き出して腹ペコになったのか──兵たちに耳鳴りを残して砲列が射撃を止めた。
 続く命令に従い、歩兵たちが前進する。枝葉や幹を吹き飛ばされた木々が乱立する森へと入る。
 樹木型の歪虚はその殆どが砲弾の破片に引き千切られていた。僅かに残った生き残りを兵たちは長槍で突いて滅ぼし、進んだ。
 時折、運よく破片を殆ど浴びなかった樹木型が不意打ちを仕掛けてきたが、兵たちは落ち着いて距離を取り、新たに配備された魔導通信機なるもので──まだまだ数は少ないが、これも王女の富国の結果だ──味方に支援を要請した。
「シーズー1よりバーナード1。前面において2体の大樹型歪虚と遭遇した。片付けてくれ」
「シーズー1、こちらバーナード1。了解した。支援射撃はバーナード1、2にて行う。射線上から退避してくれ」
 シーズー1──接敵した歩兵小隊の隊長から連絡を受けたバーナード1──歩兵に後続していたドミニオンMk.IVのパイロットが、機体に膝射姿勢を取らせ、105mm狙撃砲を構える。HMDに映し出される機体の視界にレティクルが表示され…… 蔓に捕らわれた味方を巻き込まぬよう、慎重に照準して、引き金を引く。
 ドォンッ! という音と共に放たれた105mm砲弾が、『巨大柳』の一番太い幹の根本を撃ち貫いた。本体の半ば以上を吹き飛ばされた大樹がミキミキと音を立てて倒れ込む。
 更に砲撃を加えて兵を捕らえた蔓を断ち切り、本体を更に数か所で穿つ。同時に、『捻れ木』の方は僚機であるバーナード2が30mmガトリングで片付けた。高速の連射音が止まり、弾着の砂塵が晴れていくと……穴だらけになって砕けた樹木型歪虚の姿が露になって、兵たちから歓声が湧き起る。
「シーズー1、こちらバーナード1。標的は始末した。剪定の具合はどうかね?」
「シーズー1よりバーナード1、2。文句のない出来栄えだ。今夜は一杯奢らせてくれ」
 ──『魔の森』は既に、兵たちにとって『帰らずの森』ではなくなっていた。
 いずれはこの森の残骸も浄化が済めばドーザー付きのGnomeが入って整地され、農地なり宅地なりに造成されることだろう。


 一方、『いずれは農地なり宅地なりに造成されることだろう』では済まない者たちもいる。魔の森の奥に潜んでいる騎士歪虚たちの一団である。
「王国軍が迫っています」
 部下から報告を受けた『初老』の騎士歪虚、『爺』ことブリアック・エティエンヌ・エルヴェシウスは、既に身体の一部と化した『鎧』の中で眉をひそめた。
「……なんと。想定していたよりも随分と早いではないか」
「それもこれもあの異世界の巨人と大砲持ちの所為です。連中が道を切り開いています」
 吐き捨てるように言う青年騎士。本来であれば、王国軍がこの植物型歪虚がひしめく森を突破するにはずっと時間が掛かっていたはずなのだ。だが、生まれ変わった王国軍はこちらの想定した以上の早さでこの森を『平らげ』つつある。
「我らが王国軍旗と大公旗の下で死してより早数年…… この僅かな間に随分と時代が変わったらしいの」
 かつての好々爺らしき響きを声に乗せてニヤリと笑うブリアックに、かつての面影を思い出して青年騎士は微笑を浮かべた。もっとも、互いのその相貌は、今は鎧兜の面甲の下だが。
「……笑ってばかりもいられませんぞ、ブリアック老。ラスヴェート様を初め、主だった騎士たちは皆、出払っております。今、王国軍とぶつかり合えば、勝てぬとまでは言いませんが、大きな損失を免れ得ません」
 正面から突撃を仕掛けますか? と青年騎士はブリアックに正対した。今、ここに残っている戦力の半数で突撃すれば、残る半数が離脱するだけの時間くらいは稼げるだろう。
「お前の言は正しい」
 ブリアックは言った。騎士として、傲慢の歪虚として、真正面から敵と戦い、捻じ伏せるのは、彼らの誇り──というか存在意義にも等しい。
 だが……
「お館様のおられぬ間に、お預かりしている兵たちを自らの無能に因りていたずらに損なうのもまた恥辱」
 では、如何しますか、と訊ねる青年騎士に、『爺』は声だけで愉楽を伝えた。
「なに、確かに我らも元は人間──その事実は変わるまい。たとえ他の傲慢の方々に見下されようとも、我らは元人間としての戦い方をお見せしようぞ」
 全てはお館様の為。帰属する集団の勝利の為に。それだけが彼らの誇り──存在意義に他ならねばこそ。

 後日── 魔の森討伐隊の補給拠点たる物資集積所に、飛行騎士歪虚の1団が攻め寄せた。
「遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我こそは歪虚大公が騎士団副長、ブリアック・エルヴェシウス! いざ尋常に勝負めされい!」

リプレイ本文

 『魔の森』の前線の後方、近郊に位置する物資集積場── その日、偶々その場に居合わせたハンターたちは、突如、『爺』ことブリアック・E・エルヴェシウスが上げた名乗りに心を戦場に引き戻された。
「……あれは『アレクシウスの騎士』の残党……? 隠れていたはずの歪虚騎士たちが打って出て来た……?」
 愛竜と水浴びをしていた鞍馬 真(ka5819)が手近な見張り台に上がって、歪虚の騎士らを見やり、言う。
(ようやくのお出ましか……! よかった。このまま会えないで終わるかと思ったぜ……!)
 グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)もまた同様にその存在を確認し、その身を歓喜に打ち震わす。
 他の部隊に、ではあるが、彼は以前、『アレクシウスの騎士たち』に『敗北』したことがあった。もう再戦の機会は無いものと思っていたところ、『魔の森』の残党の話を聞いて討伐隊に参加したのだが…… 一向に騎士らが現れる気配もなく、半ば諦めかけていたところだった。
(随分と待たせてくれたぜ。だが、これで改めてあいつらに打ち克つ機会を得た……!)
 見張り台の梯子を滑り降り、そのまま愛機であるプラヴァー『アド・アストラ』へ向かって駆け出すグリムバルド。だが、一方、当然ながら、歪虚の騎士たちの登場を歓迎できぬ者たちもいた。敵襲など思いもよらなかった集積所詰めの兵士たちだ。
「なんでだ!? 連中、森の奥に引っ込んでガタガタ震えていたはずだろ!?」
「後方にいるからって気を抜いてんじゃねぇです。ここも戦場──油断した奴からやられると思いやがれ」
 『ホーリーパニッシャー』──棘鉄球付き鎖鞭を地面に叩きつけつつ、兵たちを叱咤するシレークス(ka0752)。そんな主を見上げながら、ユグディラ「インフラマラエ」は(ご主人様、今日も烈しいのにゃ)と首を竦めた。──黙っていればお淑やかなのにゃあ…… (お酒を飲みつつ豪快な)笑顔の素敵なご主人様なのに── ……まぁ、時折、深酒が過ぎるとご飯が半分の時もあるけれど。
「歪虚へと堕とされた王国騎士たちの『生き残り』…… 『騎士』らしく正面で迎え撃たず、補給拠点を襲うということは……」
 アイシュリング(ka2787)の言葉に、クオン・サガラ(ka0018)も同意した。そう、或いは彼らもある程度には追い詰められているのかもしれない。
「『大公軍旗の騎士たち』が何も考え無しに突撃してきたとは思えません」
 サクラ・エルフリード(ka2598)が、出て来たばかりのコクピットにとんぼ返りしながらそう言った。駐機後、機の自己診断プログラムを走らせた寝入ってしまい、食事休憩もトイレ休憩も取らぬままでこんな事態になってしまったのは皆には内緒だ。
「目的は物資破壊による時間稼ぎと言ったところかなぁ。ボクが守る側なら同じことをするけど」
「機体を弾薬庫の側面へ移動させます。可能な限り警戒されないよう、シルエットを隠す偽装を……」
 ヒース・R・ウォーカー(ka0145)は愛機『ウェスペル・リィン』のコクピットから顔を出すと、正面の敵を迎え撃つべく、下にいる整備士にフライトフレームを装着するよう指示を出した。
 クオンもまた愛機『Phobos』を見上げ、周囲の兵たちに偽装を頼もうとして……
「偽装か…… そんな時間は与えちゃくれねぇようだぜ?」
 ジャンク(ka4072)が振り返り、親指で背後を指さした。見れば、爺が魔力の投げ槍を思いっきり振り被り……「ふんっ!」と助走をつけて投擲したところだった。放たれた暗黒の槍は人の手によるものとは思えぬ速度で宙を飛翔し…… 集積所の端の敷地に『着弾』し、爆発する。
「どうしたどうした?! 騎士の名乗りを受けて応える者はおらんのか! 出て来ぬのならばこのままこの槍で砦を破壊し尽くすぞ!」
 がはは、という高笑いと共に二投目を放つ爺。爆発が巻き上げた土塊をパラパラと降り浴びつつ…… ジャンクとクオンは映画ならそのまま煙草の火でも交換しそうな落ち着きっぷりで互いに顔を見合わせた。
「陽動だな」
「陽動ですね」
 二人の意見は一致した。本当にあの槍で集積所を『破壊し尽くす』ことができるのならば、既に実行しているはずだ。
「敵の戦力が少ない。別動隊がいるのだろう。輜重を失えばこちらの優位性が崩れる」
「とは言え、応じなければ相手は戦術を変えてくるでしょうしね。一撃離脱なんかに切り替えられたりしたら面倒になります」

 水場に残していた『カートゥル』の元へ真が駆け戻った時。すっかり洗い終えたはずの相棒の身体は『砲撃』の土と砂塵でかえって泥だらけになっていた。
 なんとも言えない表情で相棒と苦笑し合った後、真は蒼空を思わせる水色と白の鱗についた泥を払って、急ぎ鐙と防具を装着する。
 サクラは再び機体に火を入れると機体の頭部を巡らせて、兵たちに怒声で応戦準備を『お願い』するシレークスをカメラの視界に入れた。気づいてこちらを見返しながら、こっちは任せろとばかりに威風堂々と頷いてみせるシレークス。その後ろでペコリと頭を下げるインフラマラエの姿に微笑を浮かべ、サクラもまた集積所正面の敵へ向けて機を前進させる……
「悪いけど、武器弾薬と『燃料』(マテリアル物質)の防衛を最優先にさせてもらうよ。魔の森を狩る『鎌』が無くなると、守る側に時間を与えることになるからねぇ」
 ヒースもまた無線機越しに集積所の警備隊長にそう言い残し、サクラ機の後を追った。──食糧が無ければ軍隊は動けないが、CAMに関しては事情が異なる。それらは最小限の『口(くち)』で巨大な戦果を挙げ得る兵種だ。無力化するなら食糧よりも燃料や弾薬といった『戦う手段』を奪う方が早い。
「しかし、食い物がなくなっちまったら……」
 戸惑う警備隊長の肩を、ジャンクは「同情するぜ」と言いたげに後ろからポンと叩いた。
「燃料弾薬は連中に任せろ。代わりと言っちゃあなんだが、比較的退避し易い兵糧の運搬を非戦闘員に頼みてえんだが……」
 自分たちの食い扶持である。警備隊長は一も二もなく了承した。すぐに各所に声が掛けられ、各部署ごとに倉庫から持ち出した食糧を表の馬車へと載せていく……
「いざという時の消火の備えは? 無ぇ? 元々仮設だったから、って、んなもん、言い訳になるか! だったら桶に水でも組んで倉庫んとこに並べとけ。動ける負傷兵も働かせるんだ!」
 慌ただしく警備隊長に指示を出していくジャンクが、いつの間にか馬車の傍に立つアイシュリングに気付いた。
「……何してるんだ?」
「……護衛よ」
 そこで一旦、言葉を切って、アイシュリングがジャンクを見返した。
「……物資を守るのも大切だけど、人を守るのも大事だわ」
 きっぱりと言い切った後、エルフは伏し目がちに言葉を続けた。……既にこの島では多くの人命が喪われた。……これ以上の犠牲は出せない。人がいなければ何もできない──何かを生み出すこともなくなってしまうもの。
「彼らも『騎士らしさ』より『生き残る』ことを選んだ…… 彼らにも彼らなりの目的や矜持があるのでしょうけれど……こちらも譲ることはできないわ」
 そう言って言葉を切ると、アイシュリングは友人であるユキウサギのマーニを見下ろし、しゃがみ込んだ。
「マーニもよろしくお願いね。あなたの紅水晶、紫水晶は皆を退避させるのにとても向いているはずだから」
 淡々と、しかし、微かに穏やかな表情でアイシュリングが話すその場に、グリムバルドの『アド・アストラ』が装輪走行で到着した。身の丈の倍はありそうな巨大なガトリングガンに、増加装甲を施した追加フレーム── 厳つい武装を施しつつ軽快に停止してみせるプラヴァーに、「魔導アーマーが護衛についてくれる!」と非戦闘員たちから歓声が上がる。
(再挑戦だ。あの爺さんたちには迷惑なことかもしれんが、今度こそちゃんと守ってみせるぜ……!)
 機体に大きく手を振らせて歓声に応えながら、グリムバルドは心に誓う……

 装備を整え終えた飛竜に騎乗した真は、装輪走行で地上を走るヒース機とサクラ機の頭上を越えて、一路、空中の歪虚の騎士らへ向かって飛んでいた。
「強そうな敵……だけど、私たちも負けてないよな、カートゥル!」
 風の音に負けぬよう叫ぶ真の心が躍る。普段、好戦的という言葉から程遠い真たちであったが、相棒と組んでの空中戦にそのテンションは互いに上がっている。
「カートゥル! このまま突進、任せる!」
 彼我の距離70に達したところで、真は愛竜に突撃を指示して魔導剣を引き抜いた。血色の刀身に光と闇の刃を纏わせ、更に己のマテリアルをこれでもかと注ぎ込み……その急加速に目を瞠る爺へ向かって、裂帛の気合と共に剣圧の斬撃で宙を薙ぐ。
 その不可視の衝撃波を、爺が愛馬の手綱をぬんっ、と引き寄せ、強引に回避した。交差する爺と真の視線── 一瞬の反航戦を終え、各騎が馬首を巡らせ巴戦へと移行する。
 指揮官を守るように3騎の騎士が前に出た。騎士にはそれぞれ3体の従士(飛翔歩兵)がついて一つの戦闘単位を構成している。
「カートゥル!」
 その内の1つへ真は抜刀衝撃波を飛ばして従士を剣圧で潰しつつ、飛竜に指示を出して別の戦闘単位に炎の息を吐きかけさせた。その間に肉薄して来る三人目── 歩兵たちの放つ魔力の拡散矢が雨の様に降り注ぐ中、真は右の鐙をガッと踏み込んで相棒に回避指示を出し。切りかかって来る騎士の剣閃をバレルロールで回避しつつ、渾身の力を込めた一撃を騎士の盾へと打ちつける。
 その間にも残る2つの戦闘単位が真たちを包囲に掛かる。圧し掛かる激しいGの中、素早く視線を振って包囲の穴を探す真。だが、高度な連携で当たる敵手に隙は見い出せない。
 その時、砲声が轟いて、地上から緩やかな弧を描いて砲弾が飛来した。それにハッと気づいた騎士が、慌てて身体を横に向けて盾でそれを受け止めて。その一瞬に出来た隙間を真が強引に突破する。
 その砲弾を放った主は空戦の舞台から距離120ほど離れた地上で、肩部に搭載した大型磁力砲を空へと向けていた。冷却の為に砲から立ち上る水蒸気── 慌てて散開する飛翔騎士らの動きに合わせ、機体のFCSと高速演算装置が新たな弾道計算を始める。
「……ふむ。飛んでいる相手にどの程度当てられるのか分からなかったですが、存外当たるものですね…… 多少なりとも射撃寄りにセッティングしたのが功を奏したようです」
 その機体──オファニムの操縦席で、サクラが淡々と呟いた。機体が導き出した計算式に則り、砲身を動かし、再度発砲。轟音と共に投射された砲弾が再び空中に弧を描き、騎士の盾の表面で爆発する。
「カーヴァー! 先行してアレを抑えよ! 隙あらばそのまま集積所へ突入しても構わん!」
 爺の指示を受け、騎士の一人が真との空中戦から離れてサクラの方へ飛ぶ。その抜けた部下の代わりに前に出ようとした爺は、だが、斜め下方から磁力砲弾を放たれて。慌てて空中にたたらを踏んだ騎士の眼前を、地上から急上昇してきた巨大な宵闇色の何かが物凄い勢いで飛び過ぎていった。
「名乗る敵に応えるのも礼儀かな、と。ハンターのヒース・R・ウォーカー、愛機は『ウェスペル・リィン』。全力を以って、お前たちを迎え撃つ」
 フライトシステムの推進力そのままに大回りで空中を旋回しながら名乗りを上げるヒース。爺もまた「よかろう、相手になってやる!」と声に喜色を浮かべて迎え撃つ。
 ……交戦は続く。ヒースはそのまま敵指揮官と交戦に入り、真は2つの戦闘単位を引き続き相手取る。
 後方のサクラにも騎士カーヴァーの班が接近し、サクラ機は白い湯気を上げるプラズマキャノンの砲身を手で後ろに払うと、地面に突き立てていた巨大な騎兵槍を引っこ抜いて、腰溜めに構えて空へと向けた。
「これがただの槍ではないことを見せてあげますよ……!」
 それはただの槍に見えた。だが、その円錐形の槍身には、実際には砲口が空いていた。
 衝撃と砲炎と共に放たれた砲弾が、迫る飛翔騎士を不意打ち気味に捉えた。ガァン! と重い金属音と共に兜に弾かれた砲弾がすぐ近くの空中で爆発する。騎士はクラクラする頭を二度三度と振ると、一旦、接近を中断して旋回に入った。そんな主を援護する為、従者たちが魔力の弓矢をサクラ機へバラバラ放つ……
 一方、空中── 血色のオーラを纏ったヒース機が、相手の側面に回り込みながら立て続けに磁力小銃を撃ち放つ。敵の軌道を読んでの偏差射撃は直撃コースで敵へと迫り。だが、爺は飄々とした機動でその悉くを回避した。
 逆に、こちらの旋回半径の内側に入り込んで、従者たちと連携しつつ肉薄して来る爺。この空中では敵の方が優速で、運動性も凌駕している。
「……ッ!」
 ヒースは機体の周囲に自機のマテリアルの幻影をばら撒くと、失速覚悟で強引に操縦桿を引き戻した。サイドスカートスラスターが急角度で向きを変え、強引な急停止で速度を犠牲に敵の背後を占位する。
「……運動性に劣るその巨体でよく避けおる!」
「傭兵と騎士。共に踊るのも一興かなぁ、と」
 ヒース機は磁力小銃を捨てると右腕でハンドガン「トリニティ」を引き抜いた。その銃剣部にオーラを纏わせ、スラスターを噴かせて再加速。後ろへ向き直った敵へと迫る。
「ほぅ! 無駄のない魔力形成だ」
「驚くのはまだ早いよぉ?」
 ヒースは武器を持たない左手を向けると、内臓火器の『プラズマクラッカー』を放った。放射されたプラズマが従者を巻き込んで爆発し──慌てて散開する敵の只中へヒースは機を突っ込ませた。
「ぬっ!?」
 落ち着け、と指示を出す爺の至近で、ヒース機に突きつけられたトリニティが長銃身へと変形する。
 帯電し、放たれる『プラズマグレネード』。炸裂したプラズマが爺を白光に包み込み── 直後、その光の帳の中から繰り出された拳がヒース機の顔面を捉えて、2人はそれぞれ機体と鎧の中で笑みを浮かべる。


 脳震盪(?)から回復した飛翔騎士・カーヴァーは、命令通り、地上から騎兵槍砲をドカンドカンと撃ち放つサクラ機を無視して集積場に突っ込むことにした。
 その意図に気付いたサクラは槍への給弾作業を中断すると、磁力砲をパージして機を軽量化。機の全てのスラスターを下へと向けると背部に陽炎を揺らし、それらを最大出力で噴射させつつ思いっきり機を跳躍させた。
「空は飛べなくとも、ジャンプくらいならば……!」
 敵の進路上へと割り込み、その見た目通りの役割で騎兵槍を「とぉっ!」と突き入れる。主を庇ってその槍を受けた従者が腹を貫かれ。その死骸を振り捨てつつサクラは騎士に殴り掛かる。一合、二合……そのまま空中に留まれずに落下へと転じるサクラの機体。それを見下ろしながらニヤリと笑ったカーヴァーは、従者にそれを追撃させると自身は前進を再開して集積所への突入しようとした。
「これより敵の補給拠点へ突入し……ッ!?」
 だが、報告は途中で中断を余儀なくされた。弾薬庫の横に潜伏したクオン機が、非戦闘員たちの避難先の近くの屋根に上ったジャンクが、背部に背負った連装カノン砲と魔導式施条銃による待ち伏せ攻撃でその前身を阻んだからだ。
 古めかしい外観の魔導銃──ターバンと中東風の騎兵鎧には良く似合う──の棹桿を手早く操作し、銃内部に込めた3発の銃弾を立て続けに速射するジャンク。翼を撃たれた飛翔騎士がガクリと高度を落とし、慌てて翼を再生させて失速状態から回復させる。
「ブ、ブリアック殿! 集積所に敵戦力が残っております……!」
「何……?」
 直後、クオン機が放った砲弾が直撃し、カーヴァーは地面へ落下した。主の危機に一瞬、動揺して動きを止めた従者の一人をサクラ機が騎兵槍の殴打で地面へ叩き潰す。
「……確認した。後方から飛翔騎士一騎が率いる別動隊が接近中」
「やはり廃墟から近づいて来ましたか」
 ジャンクの報告に、機を背後へ転回させながらクオンは大きく頷いた。非戦闘員の護衛に立つプラヴァーの操縦席で、「本当に別動隊が現れやがった」とグリムバルドが笑みを引きつらせる。
 やはり敵は青年騎士の別動隊を別行動させていたのだ。爺が正面でハンターたちを誘引している間に廃墟から後方に突入。弾薬庫や燃料庫を狙って奇襲を試みる──それが敵の目論見だ。
「ぬぅ……! 看破されておったか……!」
 ヒースと渡り合いながら、爺は全騎兵に撤収を命じた。意図を看破されていた以上、最早、成功は見込めない。
 だが、青年騎士は退かなかった。クオン機が放った砲弾が周囲へ降り注ぐ中、廃墟の路地を左右へ階段状に進行していく。
「我らはこのまま突っ込みます。ここで事を成さなければ我らは森の拠点を失いかねない。それでは主に会わせる顔がない」
「また主を残して先に逝く気か! ラスヴェート様は許さぬぞ!?」
 返事は無かった。代わりに剣を立てて騎士の礼を取り、青年騎士が廃墟を抜けて集積場へと突入する。
「……近接戦闘の準備を。敵は足が速い。すぐにここまで到達します」
 敷地内に入られたところで砲撃を中止し、周囲の味方に告げながらクオンが機を操作する。起動と同時に機体の周囲に浮かび上がる浮遊盾。左手に保持した鞘から右手で引き抜いた斬魔刀の、黒い刀身と白銀の刃紋が正面の風景と共にモニタへと映り込む。
「我々も突撃する! あの馬鹿めを死なせるな!」
 周囲の騎士たちへ声を掛け、自らも突撃を掛ける爺。真は間に入った従者ごと飛翔騎士の1人を刺し貫き。ヒースもまた「こちらも行かせるわけにはいかない」と爺の前に立ち塞がる。
「ホント、歪虚となってなお、ヒトと戦っている感覚だねぇ……! だとしたらボクも傭兵らしく全力で臨もうかぁ。……ヒト同士の戦いに!」

 青年騎士とその従者3体が低空で集積所を侵攻する。こちらへ来るのか、と訊ねるグリムバルド機の手に乗って屋根へと上ったアイシュリングがその動きをジッと見つめ……「こちらには来ないわ」と告げてヒラリと屋根の上から飛び降りる。
「そうなのか?」
「敵の動きは直線的。フェイントを入れる素振りも見せない」
 アイシュリングはそれだけ言うと、マーニを連れて共にゴースロンへと飛び乗った。そして倉庫群へ向かって一路馬を走らせる。
 グリムバルドはその場を警備隊長に任せると、急いで機をその後に走らせた。ジャンクの姿は既に無い。
「ふん。堕ちた者が随分と吼えやがります」
 一方の倉庫群── 屋根の上に立ったシレークスが呟き、背後の兵らを振り返る。
「さぁて、このシスター・シレークスがおめーたちを導いてやりやがります! 光が我らを導き給う……いざ、いざいざいざ! 光の名の下に、邪悪を打ち砕かんっ!」
 覚醒し、金色のオーラを噴き出しながら檄を飛ばすシレークス。歓声を上げる兵たちに鷹揚に頷きながら、彼女は背後に立つインフラマラエに小さく呟いた。
「おめーは私の後ろに。回復は全ておめーに一任します。……逃げたりさぼったりは後でお仕置きでやがりますよ?」
 青年騎士らが倉庫群前の防衛線へと突入する。兵らが放つ弓矢を無視してその頭上を飛び越えて。地上を走る馬の鞍上でそれをジッと見上げていたアイシュリングが、そちらへ先回りするべくその馬首を巡らせる。
 突進する青年騎士は、しかし、眼前を跳び過ぎて行った『角材』に驚き、たたらを踏んだ。屋根を跳び渡って来たシレークスが『怪力無双』で投げ槍の如くぶん投げたものだった。
「おらぁっ! 聖職者の力、思い知りやがれ!」
「聖職者!?」
 驚きつつも無視して倉庫群へ飛び込まんとする青年騎士。その進路上──路地の横から飛び出してきたアイシュリングが、飛び出すタイミングで詠唱を終えた『グラビティフォール』の魔法を放ち。紫色の重力波が路地を飛ぶ為に密集していた青年騎士の主従を捉え、見えざる重しの負荷を掛けてその速度を低減させる。
「追い付いた……!」
 ローラーダッシュで土煙を上げつつ路地を曲がったグリムバルドが『マテリアルレーダー』を一回打って建物の向こう側の彼我の位置を確認した。そのまま加速を続けて跳躍したグリムバルド機が眼前に迫る兵舎を跳び箱の様に飛び越えて。牽制のガトリングガンを撃ち下ろしつつ、敵の背後へと着地。直後、飛び来る魔力の矢を避けて機体を左右に振りながら、アイシュリングとシレークスと自身に『多重化強化』を使用する。
「クッ……! 従士たちよ、奴らを抑えよ! 私は本命を叩く!」
 主の指示を了解し、3体の従士がそれぞれハンターたちへ突撃した。放たれた魔力の拡散投げ槍を生やした土壁で防ぐアイシュリング。グリムバルドは火線の鞭を振るいながら射撃戦を展開し。眉間に繰り出された槍の穂先を盾で逸らしたシレークスが、その盾の淵で相手の額部をガンッ、と思いっきり殴りつける……
 3人の従士が稼げた時間は僅か──だが、その間に青年騎士は倉庫へ迫る。クオンは弾薬庫の傍らから機を前進させると、その巨体を壁の如く倉庫の前に立ちはだからせた。最早回り込むこともせず、ただ一点を衝く青年騎士。その突撃をクオンは浮遊盾に受け止めさせつつ、両手に保持した斬魔刀を弧月を描く様に振るった。ガンッ、という重い金属音と共に、騎士の左腕が盾ごとひしゃげた。騎士は構わずクオン機の肩を跳び越え、倉庫へ向かって魔力の槍を投擲する。
 倉庫の屋根を貫通し、内部で爆発するはずだったそれは、しかし、因果を曲げられて、『ガウスジェイル』を使用したシレークスを中心に爆発した。倉庫は──壁の表面を炙られただけで無事だった。直前に爆発の範囲外へ蹴り飛ばされたインフラマラエが慌てて主人に走り寄る
「こうなったら……!」
 自身の身体に魔力を込めて自爆攻撃を図る青年騎士。どれが燃料・弾薬庫かは分からないが、最早勘に賭けるしかない。
「させるか……死守だっ!」
 ガトリング砲を脇へ投げ捨て、跳躍するグリムバルド機。突き出された騎兵槍に装甲を削られつつその槍身を機の小脇に抱えてホールドし、そのままシートベルトを外して機から飛び出して、突進する騎士へと飛びつき、ありったけの炎のオーラを叩き込む。
「がああぁぁ……ッ!」
 機に掴まれた馬を捨て、グリムバルドを振り払って青年騎士が倉庫へ跳ぶ。直前にその入り口前に駆けこんで来たアイシュリングが張った不入の結界を、広げた翼で飛び越えて……
「マーニ」
 その合図と共に、主の頭上に展開されたユキウサギの『紅水晶』が展開され、青年騎士はその結界に激突した。驚愕する彼の耳にパンッ、と乾いた音が鳴り── 兜のこめかみの部分に小さな小さな穴が空く。
(狙撃……?)
 ちらりと振った視線の先──兵舎の屋根裏に伏射姿勢で潜んだジャンクが棹桿を操作し、排莢する。狙いは一発──リヒトクーゲルを装填した『高加速射撃』による一撃は、ハンターたちの激しい攻撃に晒され続けた青年騎士への文字通りの止めとなった。
 最後の力を振り絞り、青年騎士が自爆する。
 その爆発に建物の半分を巻き込まれたその倉庫は── 運び出されて空っぽになった食糧倉庫だった。


「まさか二度も喪うことになろうとは、な……」
 青年騎士の敗滅を受け、爺の率いる陽動部隊も撤収を開始した。
「さらばだ、息子よ」
 集積所を振り返り、爺がポツリと呟いた。

「次に会った時は決着をつけさせてもらいます」
 その背を見送り、サクラが続ける。
「でも、今は……一刻も早くトイレに行かねばなりません」

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    フォボス
    Phobos(ka0018unit001
    ユニット|CAM
  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ウェスペル・リィン
    ウェスペル・リィン(ka0145unit003
    ユニット|CAM
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    インフラマラエ
    インフラマラエ(ka0752unit002
    ユニット|幻獣
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    オファニム
    オファニム(ka2598unit007
    ユニット|CAM
  • 未来を想う
    アイシュリング(ka2787
    エルフ|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    マーニ
    マーニ(ka2787unit002
    ユニット|幻獣
  • 明敏の矛
    ジャンク(ka4072
    人間(紅)|53才|男性|猟撃士
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    アド・アストラ
    アド・アストラ(ka4409unit003
    ユニット|魔導アーマー

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    カートゥル
    カートゥル(ka5819unit005
    ユニット|幻獣

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
人間(リアルブルー)|24才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/03/15 21:19:52
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/03/15 20:02:23