ゲスト
(ka0000)
Grimm
マスター:愁水

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/03/19 19:00
- 完成日
- 2018/03/29 01:19
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
おひめさまは
おうじ さま に 死んぞうを
さされ て
死あわせ に 死に
ま死た
めでた死 めで た
――死
**
「――」
「クロ……? どうかした……?」
「……別に」
遠くへ耳をそばだてていたような面差しをさっと引いて、黒亜(kz0238)は何事もなかったかのように階段を上がっていく。
「んー……?」
紅亜(kz0239)が気抜けな表情で小首を傾げていると、「――紅亜、次はお前が見たがっていた赤ずきんのフロアだぞ。早く来い」と、空中廊下に差し掛かっていた白亜(kz0237)の声が、紅亜の意識を惹いた。
「おー……見る見るー……」
波打たない喜びのトーンを発しながら、紅亜は階段の手摺りに指先をかけた。
兄妹であり、天鵞絨サーカス団の団員でもある三人は、近々公演する演目の参考に、都市内にある美術館へ訪れていた。
公演のテーマは、童話。
機会よく、絵画や彫刻を中心とした“お伽噺”の展示会が開催されていた為、見聞を広めていた。
一階から二階まで吹き抜けとなった空間。
螺旋階段や空中廊下。
天井のガラスドーム――。
「ふおー……赤ずきんがいるー……」
紅亜達を出迎えたのは、窓や暖炉、テーブルや椅子という、祖母の家で赤ずきんが息づく、壁絵の“部屋”。
壁に掛けられた絵画からは、赤い少女の物語が順序立てて語られている。部屋の中央には、赤ずきんの祖母に化けた狼と、落ち葉を一枚傍らにした赤ずきんのオブジェが飾られていた。ベッドから赤ずきんを食べる機会を窺っているシーンのようだ。
牙を隠し、爪を隠す、赤い赤い――残酷な物語。
軈て、閉館の時刻となった。
白亜達が一階の中央ホールへ下りると、其処には“あなた達”の姿が。
「おや、君達も来ていたのか。ふむ……何処かで行き違ったか?」
「いや、二階でも見かけなかったよ。大方、閉館の時間間違えて来たとかなんじゃないの? まぬけだね」
勘も言葉も鋭い。
「うむ……? ぜんぶ回れなかったの……? あー……残念だったね……」
「悄気ることはない。暫くは開催しているようだぞ。また明日以降、ゆっくり見て回るといい」
「……ねえ。無駄話するにしても、ココ出てからにしたら? 館内に残ってる客、あとオレ達だけみたいなんだけど」
「おや、それはいかんな。早々に――」
その時だった。
キイィン――……
張り詰めた、“それ”。
耳許で羽音のように囁く音。
髪を触手で撫ぜるような気配。
肌を針で刺すような感覚。
どれをとっても、不快。
何より、ハンターならば馴染みのある歪なこの力の流れは――雑魔だ。
「……は? なに、このタイミングでとか……マジウザイんだけど」
敵の位置は定かではないが、雑魔が何がしかの能力を発動させたようだ。先程とは打って変わり、空気が澱んでいる。
不機嫌極まりない面持ちに反して、黒亜の行動は冷静で迅速だった。
黒亜が状況の確認へ向かっている間、白亜達は職員の保護に回る。黒亜を含めた一同が再び、中央ホールへ集った。
黒亜が調べた様子では、美術館の正面入口や裏口、非常口等の出入口は全て、通行を抑制する力が発動している為、脱出は不可能らしい。事務室や収蔵庫、トイレ、スタッフルームに異常はなかった。
「この美術館は主に中央ホールと四つの展示ホールがメインで構成されているみたいだけど……多分、この四つの展示ホールがキモっぽいね」
「と言うと、何か収穫があったようだな」
「ん。ヘンゼルとグレーテルのホール調べてたら、襲ってきたんだよね。――グレーテルが。まあ、正確には、その“オブジェ”が、だけど。予想つくでしょ? 変身能力と遮断能力を持ってて、常に四体で狩場を成す雑魔」
「ふむ……黄蓮か。となると」
「残りは三体。オレが調べていないホールも、三。一階の白雪姫と人魚姫、二階の赤ずきんのホールだね」
「化けるには適した空間ということか」
昨日まで何一つ被害の報告がなかったということは、黄蓮は恐らく昨夜の内に湧いたのだろう。人気の少なくなった時間を狙い、遮断能力を発動させ、閉じ込めた獲物をゆっくりと喰らう思惑だったのだろうが――雑魔達こそ、タイミングが悪かったのかもしれない。
統率の才を面に、白亜が一同を見渡す。
「全員で手分けをして状況を打破するぞ。出入りの遮断を解放させるには、黄蓮を殲滅する他ない」
「職員はどうするの? わざわざ彼らを襲いに来るなんてことはないだろうけど……放ってもおけないでしょ」
「クロ、頼めるか?」
「……まあ、それが妥当だよね。りょーかい」
「紅亜は俺と――」
「えー……子供じゃないんだからひとりでもへーきだよ……私は赤ずきんのトコ行くー……」
「ふむ……わかった。では、俺は白雪姫のホールへ向かうとしよう。君達も各自、討伐へ向かうホールを決めてくれ。黄蓮は恐らく、童話のオブジェに姿を変えているはずだ。くれぐれも見誤るなよ」
「あ――それと、もう一つ。童話の世界に夢見てるヤツは……まあ、壊されないようにせいぜい気をつけた方がいいかもね」
黒亜が含みのある物言いで、此方を一瞥した。
黄蓮には厄介な力がもう一つある。
それは、人形を操る能力。
人型のオブジェも例外ではないだろう。つまり、敵は黄蓮だけではないということ。そして、足を踏み入れたその先に、誰でも知っているお伽噺――幸せな“世界”が待っているとは限らない。
現実と同じように。
おひめさまは
おうじ さま に 死んぞうを
さされ て
死あわせ に 死に
ま死た
めでた死 めで た
――死
**
「――」
「クロ……? どうかした……?」
「……別に」
遠くへ耳をそばだてていたような面差しをさっと引いて、黒亜(kz0238)は何事もなかったかのように階段を上がっていく。
「んー……?」
紅亜(kz0239)が気抜けな表情で小首を傾げていると、「――紅亜、次はお前が見たがっていた赤ずきんのフロアだぞ。早く来い」と、空中廊下に差し掛かっていた白亜(kz0237)の声が、紅亜の意識を惹いた。
「おー……見る見るー……」
波打たない喜びのトーンを発しながら、紅亜は階段の手摺りに指先をかけた。
兄妹であり、天鵞絨サーカス団の団員でもある三人は、近々公演する演目の参考に、都市内にある美術館へ訪れていた。
公演のテーマは、童話。
機会よく、絵画や彫刻を中心とした“お伽噺”の展示会が開催されていた為、見聞を広めていた。
一階から二階まで吹き抜けとなった空間。
螺旋階段や空中廊下。
天井のガラスドーム――。
「ふおー……赤ずきんがいるー……」
紅亜達を出迎えたのは、窓や暖炉、テーブルや椅子という、祖母の家で赤ずきんが息づく、壁絵の“部屋”。
壁に掛けられた絵画からは、赤い少女の物語が順序立てて語られている。部屋の中央には、赤ずきんの祖母に化けた狼と、落ち葉を一枚傍らにした赤ずきんのオブジェが飾られていた。ベッドから赤ずきんを食べる機会を窺っているシーンのようだ。
牙を隠し、爪を隠す、赤い赤い――残酷な物語。
軈て、閉館の時刻となった。
白亜達が一階の中央ホールへ下りると、其処には“あなた達”の姿が。
「おや、君達も来ていたのか。ふむ……何処かで行き違ったか?」
「いや、二階でも見かけなかったよ。大方、閉館の時間間違えて来たとかなんじゃないの? まぬけだね」
勘も言葉も鋭い。
「うむ……? ぜんぶ回れなかったの……? あー……残念だったね……」
「悄気ることはない。暫くは開催しているようだぞ。また明日以降、ゆっくり見て回るといい」
「……ねえ。無駄話するにしても、ココ出てからにしたら? 館内に残ってる客、あとオレ達だけみたいなんだけど」
「おや、それはいかんな。早々に――」
その時だった。
キイィン――……
張り詰めた、“それ”。
耳許で羽音のように囁く音。
髪を触手で撫ぜるような気配。
肌を針で刺すような感覚。
どれをとっても、不快。
何より、ハンターならば馴染みのある歪なこの力の流れは――雑魔だ。
「……は? なに、このタイミングでとか……マジウザイんだけど」
敵の位置は定かではないが、雑魔が何がしかの能力を発動させたようだ。先程とは打って変わり、空気が澱んでいる。
不機嫌極まりない面持ちに反して、黒亜の行動は冷静で迅速だった。
黒亜が状況の確認へ向かっている間、白亜達は職員の保護に回る。黒亜を含めた一同が再び、中央ホールへ集った。
黒亜が調べた様子では、美術館の正面入口や裏口、非常口等の出入口は全て、通行を抑制する力が発動している為、脱出は不可能らしい。事務室や収蔵庫、トイレ、スタッフルームに異常はなかった。
「この美術館は主に中央ホールと四つの展示ホールがメインで構成されているみたいだけど……多分、この四つの展示ホールがキモっぽいね」
「と言うと、何か収穫があったようだな」
「ん。ヘンゼルとグレーテルのホール調べてたら、襲ってきたんだよね。――グレーテルが。まあ、正確には、その“オブジェ”が、だけど。予想つくでしょ? 変身能力と遮断能力を持ってて、常に四体で狩場を成す雑魔」
「ふむ……黄蓮か。となると」
「残りは三体。オレが調べていないホールも、三。一階の白雪姫と人魚姫、二階の赤ずきんのホールだね」
「化けるには適した空間ということか」
昨日まで何一つ被害の報告がなかったということは、黄蓮は恐らく昨夜の内に湧いたのだろう。人気の少なくなった時間を狙い、遮断能力を発動させ、閉じ込めた獲物をゆっくりと喰らう思惑だったのだろうが――雑魔達こそ、タイミングが悪かったのかもしれない。
統率の才を面に、白亜が一同を見渡す。
「全員で手分けをして状況を打破するぞ。出入りの遮断を解放させるには、黄蓮を殲滅する他ない」
「職員はどうするの? わざわざ彼らを襲いに来るなんてことはないだろうけど……放ってもおけないでしょ」
「クロ、頼めるか?」
「……まあ、それが妥当だよね。りょーかい」
「紅亜は俺と――」
「えー……子供じゃないんだからひとりでもへーきだよ……私は赤ずきんのトコ行くー……」
「ふむ……わかった。では、俺は白雪姫のホールへ向かうとしよう。君達も各自、討伐へ向かうホールを決めてくれ。黄蓮は恐らく、童話のオブジェに姿を変えているはずだ。くれぐれも見誤るなよ」
「あ――それと、もう一つ。童話の世界に夢見てるヤツは……まあ、壊されないようにせいぜい気をつけた方がいいかもね」
黒亜が含みのある物言いで、此方を一瞥した。
黄蓮には厄介な力がもう一つある。
それは、人形を操る能力。
人型のオブジェも例外ではないだろう。つまり、敵は黄蓮だけではないということ。そして、足を踏み入れたその先に、誰でも知っているお伽噺――幸せな“世界”が待っているとは限らない。
現実と同じように。
リプレイ本文
●
とうざいかくもにぎにぎ死く。
**
猫耳フードの鬼は夢を見る。
残酷なお伽噺は絵本の中だけで充分。
自分の目の前に在る“今”くらいは、心の底から笑いたい。
だから、
どうかこの幸せが、“今”が――ずっと続きますように。
夢を、願(み)る。
●
赫のホール――赤ずきん。
「あまり広いホールでは無いですね。照明が暗めなので、紅亜さんも足元には気を付けてくださいね」
猫を被った赤帽子――ステラ・レッドキャップ(ka5434)
白い指先を口許へ置き、慎ましい物腰で微笑を浮かべるステラを眺めて、彼女が一言。
「……だれ?」
天鵞絨を被ったレッドフード――紅亜(kz0239)
先程までの粗雑さとは打って変わった彼に、紅亜は何時もの無表情で小首を傾げた。
「中央のオブジェはどちらも本物みたいに見えますね。んー、動き出したら怖そうです」
ステラは編み上げのブーツを響かせながら、オブジェの付近を繁々と見て回る。
視界に落ちたのは、赤茶を帯びたひとつの色。
「あら……赤ずきんの傍らに落ち葉、ですか……さて、どうしましょうか? ……ねぇ?」
問うた独白を終えると、オリーブグリーンに煌めく彼の瞳が、奥底で妖しさを放つ。
――ガキン。
ステラは、ホルスターから抜いたリボルバーを赤ずきんのこめかみへ当てた。
「こちらの隙を伺っているなら、どこまで堪えられますか?」
偽る敵へ、語る。
敵は、撃たれる直前までどういう反応を示すのか――ステラは清楚な上辺とは真逆な内心を浮かせていた。
自身の間合いに狼を置いた紅亜が、成り行きを見守る。
だが、返ってきたのは、只の沈黙。
ステラは落胆を帯びた息を小さく零すと、腹を裂かれた狼の方へ狙いをつけた。銃床に髑髏の文様を刻んだライフルを頬付ける。そして、赤ずきんに背を向けた瞬間――
「やっと動いてくれたな! 余計な手間掛けさせやがって!」
両者の化けの皮が剥がれた。
ステラの“意図”した隙に掛かった赤ずきん――黄蓮は、気配と音を撓らせる。黄蓮の腕が赤帽子の背面へ鋭く伸びた。だが、ステラは構えていた戦闘術を即座に起こす。振り向き様、銃身で蔓を打ち払い――射撃。紫電を帯びた弾に、高加速が相乗する。黄蓮の右腕が文字通り、砕かれた枝葉の如く散った。
狼のオブジェに背を向ける形となったステラ。機会とばかりに二足歩行の獣が爪を立てようとするが、天鵞絨の赤ずきんがそれを許さない。右脚のレガースで爪を受けると、スピンキック。薙ぎられた狼の身体が吹き飛んでいく。
狼は淡と黙す紅亜に任せ、ステラは黄蓮を追い詰めていく。
「人生は御伽噺なんかじゃねぇよな。だろ?」
故に、都合良くなど逃げられない。それは敵も自分も同じ。
「まあ、オレは逃げる気なんて更々無いけどな」
ステラは不敵な笑みを浮かべると、黄蓮が発射してきた球の嵐へ飛び込んでいった。感覚を鋭らせ、棘の間隙を縫っていく。幾度か和肌に赤い筋が咲くが、眼光は獲物を捕らえたまま逃さない。黄蓮は距離を取ろうと後退するが、
「往生際が悪いぜ」
ステラは《クローズコンバット》で迅と接近。肩付けしたライフルを黄蓮の頭部へ構え――
「どんなに恐ろしい姿の赤ずきんでも、レッドキャップには勝てねぇだろ?」
砕かれた、蔓。
宙へ散る、枝葉。
事切れた“獣”を足許に、赤い猟師は形の良い唇へ指先を添えると、じとり――目笑したのであった。
●
碧のホール――人魚姫。
「白雪姫に人魚姫、赤ずきん、なあ。俺でも知っている“お伽噺”のようだが、さて中身は随分物騒だな?」
流れのゼルトナー――ソレル・ユークレース(ka1693)が、視界へ翳ってきた癖毛に片眉を上げながら呟いた。
「この人魚姫もお転婆姫ってとこか。俺としてはもうちょいとお淑やかなほうが好みだな」
頑強な首を小さく横へ振って、銀の色を払う。
「――っと。雑談は程々に、仕事するとしますか。ま、美人を相手するのは歓迎なんだがね」
童話は、綺麗な嘘。
王子様を待つことが許されるのは、決まって、健気な非存在。
綺麗な、綺麗な――
「お姫様、かぁ……。赤ずきんほどの無垢さも、白雪姫みたいに来てくれる王子様のあてもないなぁ」
灯火の水晶球が、海の色を帯びる空間で踊る。それはまるで、魚の尾鰭が揺れる様。
「夢を見れる歳でもなし、ガラでもなし……せやな、うちみたいんは“魔女”や“女王”が似合うと思わん?」
白の黒曜――白藤(ka3768)が、人魚姫に焦点を当てながらくすくすと独り言ちる。その面差しのまま、眩しそうに双眸を細めた。
「(でも、自ら泡沫と消えるトコ、潔えぇて嫌いやないな)」
白藤は紫煙を零すような意をひっそりと胸の内に収めると、周囲を見渡し、木の葉や枯れ木――“綺麗な美術館”にはないものを探す。
「(そういや……あっちはなんも問題あらへんやろか)」
ふと、中央ホールに残してきた黒亜(kz0238)のことが気に掛かった。
『――クロ、トランシーバー渡しておく。何かあったら使ってくれ。それでピンチを歌にして歌ってくれても……おぉー氷の視線涼しー』
『こぉら、陸ぅ? 黒亜をからかったらあかんよ。まあ、せやけど、寂しかったらいつでも呼んでえぇんやで?』
『……必要ないし。ウインクとかもしなくていいから。そこのたらしにでもやってあげたら?』
『え、何? 誰のこと言ってんの? クロ。聞こえないわー、俺』
『耳も悪いんだね』
『おい、“も”ってどういう意味だ。“も”って』
『こらこら、仲良ぇしとき? ――黒亜。一人にさしてまうけど、黒亜なら大丈夫やって信用しとるから。な?』
『……いいから早く行ってきなよ』
そんな、数分前のことを思い起こしていた、その時――
「うっし、やりますかね!」
豪快な声音、そして、刀身を振るう風音が響いた。正体を現した人魚姫――黄蓮へ、ソレルがカオスウィースで応戦する。
「こういう時は大体メインのオブジェに擬態して……って、思ってたらマジだったな。うっかりしげしげと観察しちまったじゃねぇか」
血色を鈍らせる武器へ《ソウルエッジ》で力を宿し、黄蓮の弱みを突く。紙一重、剣先が黄蓮の脇をすり抜けた。機にと、麻痺効果のある蔓のカウンターが伸びてくる。だが、ソレルは発動させたスキルにより、胴の部分で攻撃を受け流した。
「加勢するぜ」
白藤と同様、オブジェの足許で“探し物”をしていた、新緑の青――浅生 陸(ka7041)のベディーネンが唸りを上げる。しかし、黄蓮は陸の攻撃をしなやかに避けると、王子のオブジェを嗾けてきた。
陸の締まった口許が歪む。
「俺、人魚姫の王子嫌いなんだよ、見る目ねーのが許せねぇ」
不快を露わにした陸は、後方で構える白藤の射線を塞がぬよう、適確な動作で攻撃を仕掛けてゆく。
「援護は任せとき」
白藤が慣れた手つきで拳銃をグリップし、構えた。陸が鞭を引くタイミングに合わせ、エア・スティーラーから高速の弾丸を発射する。目標――オブジェの拳へ、着弾。飛散する破片の雨ごと、陸の鞭がオブジェを打ち払う。
白藤はその隙に乗じて、銃口を黄蓮へと向けた。
一発、二発――。
ブレの無い精度と意志が、弾丸に乗る。
ソレルの身体を纏うオーラのおかげで、黄蓮の注意は頃合い良く、彼に引き付けられていた。
黄蓮は既にソレルとの交戦で手負いとなっている。だが――
「来るぞ! 陸、白藤、俺の後ろへまわれ!」
瞬すらの余裕も与えない球弾が、前方から押し寄せてきた。
それはまるで、猛然たる氷の散弾。
「俺はそれなりに頑丈だしな、代わりに攻撃を受けても問題ないさ」
ソレルは二人の被弾を減らす為に《鎧受け》を発動させ、屈強な身体を彼等の盾とする。幾本もの創傷がソレルの肌へ刻まれるが、彼の肝が動じるはずもない。しかし――
「ぐッ!」
「……ッ!」
両刃の大剣と身体では、背後への全ての攻撃を防ぐことは出来なかった。痛覚に漏れる二人の声音が、ソレルの背中に振動する。
陸は光の防御壁を展開し、白藤に回復させる時間を図るが、オブジェの攻撃が障壁を霧散させてしまった。舌打ちをした陸が、ソレルと目配せをする。
――片をつける。
「下がれ! ファイアスローワーを発動させる!」
大声を振り立てた陸が掌を翳した瞬間――熱が爆発した。炎の力を帯びたエネルギーが、扇状を描いて噴射される。
「植物ならよく燃えるだろ」
陸は半目に据え、黄蓮の金切り声を耳にしながら言い捨てた。その冷ややかさが、熱を刺す。
碧い空間を染め上げる焔が引いていくと、身体に残り火を纏った黄蓮が物狂いに藻掻いていた。既に、隙とも油断とも言えぬその状況を、“彼”が終わらせる。
「とっておきをくれてやる」
血を、
生命を、
一撃の力に代えて――。
ソレルのカオスウィースから稲妻のような閃きが放たれたのち、“変身”の意味を持つ“花”は、散り敷くように潰えたのだった。
「俺が赤ずきんの方に向かってたら、腹をかっ捌かれてたかね? ――なんてな」
White Wolfが歯を見せず、微笑んだ。
●
白のホール――白雪姫。
「――うニャ? クロちゃんの心配ニャスか? ミアはしてないニャスよ」
ブーツを履いた“猫”――ミア(ka7035)が、曇りのない笑みを浮かべた。
「出来ないことはしないだろうし、やると決めたことは独りでもちゃんとやる人だと思うニャスから」
鈴をふるわすような澄んだ声音が、拳の“爪”を研ぐ。
拳には、拳で相殺。
その際に生まれた相手の僅かな後込みに乗じて、ミアの乱打が決まる。
「クロのことを信頼してくれているのだな」
平定の雪椿――白亜(kz0237)の低い声音に、懇ろな質が宿っていた。
「ニャはは。ミアもいつか、クロちゃんに信頼してもらえるかニャぁ」
強烈な打撃に転倒した“王子”。
「その意志に揺らぎがないのなら、関わってやるといい。クロの“姿勢”を引き出してみろ」
ミアが追撃を図る。しかし、彼女の死角から揚げられたのは、蔓質なる緑。
だが――
ガゥンッ!!
要らぬ邪魔立てに――もとい、容赦などしない。
当初より落ち着きを崩さない白亜の掩護射撃が着弾。水面を穿たれた水飛沫のように、緑の欠片が飛散した。醜い“白雪姫”の悲鳴が反響する。
「うニャ。その為にも、今は目の前の敵を潰してやるってば――ニャスッ!」
メルヘンで明るい色味のツインテールが、円を描いてくるりと踊った。ミアの旋風脚が風を切る。――黄蓮の胴へ直撃。脚に伝わってきた重い衝撃ごと、ミアは豪快に黄蓮を吹き飛ばした。
前以て、ミアは紅亜から、赤ずきんの傍らに落ちていた葉の情報を入手していた。その為、当たりをつけたミア達は、ミアが提案した遣り口で正体を見抜く。それは――
殺伐とした先手。
破裂音よりも早く、雹の如く飛来する弾丸が、黄蓮の頭部を撃ち抜こうと宙を裂いた。相手の戦闘態勢など知ったことではない。焦慮に駆られた黄蓮は既の所で躱すが、してやったり――死角で構えていたミアが「ニャは♪」と、愛嬌のある八重歯を零した。すかさず、強烈な拳を喰らわせる。
対象を固定せず、瞬く暇の状況を見て、臨機応変に戦いを繰り広げていくミア。敵に逃亡を図らせないよう、扉には近づけないことも考慮していた。
黄蓮に標準を合わせていた白亜に、オブジェが攻撃を仕掛ける。
「白の王子様にお触りは禁止ニャス!」
しかし、ミアの放った《気功波》が、オブジェの意識を散らす。
前方から雨のように降り注ぐ棘の球は、高速移動の妙で回避を試みた。回避と言うよりも突撃と変わりのない行動ではあったが、下手に避けるよりも効率が良かった。白亜のフォローで適確な間合いに入り込めた分――
「BAD ENDをくれてやるニャス」
繋がった終止符。
必殺の域にまで引き上げたミアの一撃が、咆吼の如き音を上げた。――薙ぐ。
宙へ舞った黄蓮の頭部は、まるで、毒々しい林檎のようであった。
「そう言えば、白亜ちゃんと二人きりになるのって初めてニャスかな?」
肩の力を抜いたミアが、白亜を仰ぐ。
「ん? ああ、そうかもしれんな」
「ニャは♪ ミアは嬉しいニャスけど、白の王子様はやっぱり白雪姫と一緒がよかったニャスかニャぁ?」
揶揄するような声音で、にしし、と、笑うミア。白亜は僅かに首を傾げると、ミアの“猫耳”を指先で摘まんで、
「俺としては、猫耳フードの“鬼”と共に戦うことが出来、光栄だったぞ?」
心安い微笑みを浮かべた。
「ニャはーん♪
――あ。みんなで手分けする前に、しーちゃんから手渡されたチェムスタープーリァ、使わなかったんニャスネ?」
「ああ……君を守れと言われたからには、使用するべき弾だったのだろうが……意図せぬ内に、納まってしまっていたようだ。すまない」
「ミアのことならいいんニャスよ♪ うニャ、お守りにしたかったんニャスかな?」
ミアにとっては何気ない一言だった。しかし、当の白亜は意表外な様子で、瞳を丸くしていた。
●
解放された美術館。
ミアと白亜が中央ホールへ戻ると、ソレルとステラが職員達の誘導を行っていた。ミアが改めて、ほっと安堵の胸を撫で下ろす。
「――ミアー! 怪我してへん? 痛いとこあらへん??」
ミアの姿を目にするなりすっ飛んで来たのは、白藤だ。ミアを労りながら怪我の確認をするその様は、まるで実の姉。
「ニャはは、くすぐったいニャス。ミアなら全然だいじょうぶニャスのに」
「むぅ、手傷負っとるやん……ミアも紅亜も女の子なんよ? “お姫様”やねんから、綺麗にしとかんと!」
「しーちゃん。しーちゃんだってきっと、誰かのお姫様ニャスよ?」
ミアにとっては何気ない一言だった。しかし、白藤は、ぽかん、と面を食らっていた。
「紅亜は赤ずきんが好きなのか? 仮装も赤ずきんだったよな」
レッドフードを上げた紅亜に、耳に澄む低い声音が掛かる。
「おー……陸だ……。んー……ふつう……? 陸は童話の世界……好き……?」
「そうだな……こういう世界も”美しい”し、惹かれないことはない。けど、好みじゃないんだ」
陸の瞳は一瞬、“迷子”になった時のように、色を変えた。
「俺は、”俺なり”のハッピーエンドがいい。食われる前に狼ぶん殴って撃退するくらいのね」
だから――と、結び、
「もし演目にするなら、3人なりの”エンド”が見たいかな。楽しみにしてるよ」
唇の縁に微笑を湛えた。
視線を返す紅亜の表情は相変わらず乏しいが、瞳には思考が宿っている。僅かに、目の光が揺れていた。紅亜は伏し目がちに顎を引くと、「うん……」と、気の抜けた風船玉のように答えたのであった。
物語には、確定した形の終焉が在るとは限らない。
幸福も、
不幸も、
語り手も、
受け手も――
頁の最後は、Open-Endingなのかもしれない。
とうざいかくもにぎにぎ死く。
**
猫耳フードの鬼は夢を見る。
残酷なお伽噺は絵本の中だけで充分。
自分の目の前に在る“今”くらいは、心の底から笑いたい。
だから、
どうかこの幸せが、“今”が――ずっと続きますように。
夢を、願(み)る。
●
赫のホール――赤ずきん。
「あまり広いホールでは無いですね。照明が暗めなので、紅亜さんも足元には気を付けてくださいね」
猫を被った赤帽子――ステラ・レッドキャップ(ka5434)
白い指先を口許へ置き、慎ましい物腰で微笑を浮かべるステラを眺めて、彼女が一言。
「……だれ?」
天鵞絨を被ったレッドフード――紅亜(kz0239)
先程までの粗雑さとは打って変わった彼に、紅亜は何時もの無表情で小首を傾げた。
「中央のオブジェはどちらも本物みたいに見えますね。んー、動き出したら怖そうです」
ステラは編み上げのブーツを響かせながら、オブジェの付近を繁々と見て回る。
視界に落ちたのは、赤茶を帯びたひとつの色。
「あら……赤ずきんの傍らに落ち葉、ですか……さて、どうしましょうか? ……ねぇ?」
問うた独白を終えると、オリーブグリーンに煌めく彼の瞳が、奥底で妖しさを放つ。
――ガキン。
ステラは、ホルスターから抜いたリボルバーを赤ずきんのこめかみへ当てた。
「こちらの隙を伺っているなら、どこまで堪えられますか?」
偽る敵へ、語る。
敵は、撃たれる直前までどういう反応を示すのか――ステラは清楚な上辺とは真逆な内心を浮かせていた。
自身の間合いに狼を置いた紅亜が、成り行きを見守る。
だが、返ってきたのは、只の沈黙。
ステラは落胆を帯びた息を小さく零すと、腹を裂かれた狼の方へ狙いをつけた。銃床に髑髏の文様を刻んだライフルを頬付ける。そして、赤ずきんに背を向けた瞬間――
「やっと動いてくれたな! 余計な手間掛けさせやがって!」
両者の化けの皮が剥がれた。
ステラの“意図”した隙に掛かった赤ずきん――黄蓮は、気配と音を撓らせる。黄蓮の腕が赤帽子の背面へ鋭く伸びた。だが、ステラは構えていた戦闘術を即座に起こす。振り向き様、銃身で蔓を打ち払い――射撃。紫電を帯びた弾に、高加速が相乗する。黄蓮の右腕が文字通り、砕かれた枝葉の如く散った。
狼のオブジェに背を向ける形となったステラ。機会とばかりに二足歩行の獣が爪を立てようとするが、天鵞絨の赤ずきんがそれを許さない。右脚のレガースで爪を受けると、スピンキック。薙ぎられた狼の身体が吹き飛んでいく。
狼は淡と黙す紅亜に任せ、ステラは黄蓮を追い詰めていく。
「人生は御伽噺なんかじゃねぇよな。だろ?」
故に、都合良くなど逃げられない。それは敵も自分も同じ。
「まあ、オレは逃げる気なんて更々無いけどな」
ステラは不敵な笑みを浮かべると、黄蓮が発射してきた球の嵐へ飛び込んでいった。感覚を鋭らせ、棘の間隙を縫っていく。幾度か和肌に赤い筋が咲くが、眼光は獲物を捕らえたまま逃さない。黄蓮は距離を取ろうと後退するが、
「往生際が悪いぜ」
ステラは《クローズコンバット》で迅と接近。肩付けしたライフルを黄蓮の頭部へ構え――
「どんなに恐ろしい姿の赤ずきんでも、レッドキャップには勝てねぇだろ?」
砕かれた、蔓。
宙へ散る、枝葉。
事切れた“獣”を足許に、赤い猟師は形の良い唇へ指先を添えると、じとり――目笑したのであった。
●
碧のホール――人魚姫。
「白雪姫に人魚姫、赤ずきん、なあ。俺でも知っている“お伽噺”のようだが、さて中身は随分物騒だな?」
流れのゼルトナー――ソレル・ユークレース(ka1693)が、視界へ翳ってきた癖毛に片眉を上げながら呟いた。
「この人魚姫もお転婆姫ってとこか。俺としてはもうちょいとお淑やかなほうが好みだな」
頑強な首を小さく横へ振って、銀の色を払う。
「――っと。雑談は程々に、仕事するとしますか。ま、美人を相手するのは歓迎なんだがね」
童話は、綺麗な嘘。
王子様を待つことが許されるのは、決まって、健気な非存在。
綺麗な、綺麗な――
「お姫様、かぁ……。赤ずきんほどの無垢さも、白雪姫みたいに来てくれる王子様のあてもないなぁ」
灯火の水晶球が、海の色を帯びる空間で踊る。それはまるで、魚の尾鰭が揺れる様。
「夢を見れる歳でもなし、ガラでもなし……せやな、うちみたいんは“魔女”や“女王”が似合うと思わん?」
白の黒曜――白藤(ka3768)が、人魚姫に焦点を当てながらくすくすと独り言ちる。その面差しのまま、眩しそうに双眸を細めた。
「(でも、自ら泡沫と消えるトコ、潔えぇて嫌いやないな)」
白藤は紫煙を零すような意をひっそりと胸の内に収めると、周囲を見渡し、木の葉や枯れ木――“綺麗な美術館”にはないものを探す。
「(そういや……あっちはなんも問題あらへんやろか)」
ふと、中央ホールに残してきた黒亜(kz0238)のことが気に掛かった。
『――クロ、トランシーバー渡しておく。何かあったら使ってくれ。それでピンチを歌にして歌ってくれても……おぉー氷の視線涼しー』
『こぉら、陸ぅ? 黒亜をからかったらあかんよ。まあ、せやけど、寂しかったらいつでも呼んでえぇんやで?』
『……必要ないし。ウインクとかもしなくていいから。そこのたらしにでもやってあげたら?』
『え、何? 誰のこと言ってんの? クロ。聞こえないわー、俺』
『耳も悪いんだね』
『おい、“も”ってどういう意味だ。“も”って』
『こらこら、仲良ぇしとき? ――黒亜。一人にさしてまうけど、黒亜なら大丈夫やって信用しとるから。な?』
『……いいから早く行ってきなよ』
そんな、数分前のことを思い起こしていた、その時――
「うっし、やりますかね!」
豪快な声音、そして、刀身を振るう風音が響いた。正体を現した人魚姫――黄蓮へ、ソレルがカオスウィースで応戦する。
「こういう時は大体メインのオブジェに擬態して……って、思ってたらマジだったな。うっかりしげしげと観察しちまったじゃねぇか」
血色を鈍らせる武器へ《ソウルエッジ》で力を宿し、黄蓮の弱みを突く。紙一重、剣先が黄蓮の脇をすり抜けた。機にと、麻痺効果のある蔓のカウンターが伸びてくる。だが、ソレルは発動させたスキルにより、胴の部分で攻撃を受け流した。
「加勢するぜ」
白藤と同様、オブジェの足許で“探し物”をしていた、新緑の青――浅生 陸(ka7041)のベディーネンが唸りを上げる。しかし、黄蓮は陸の攻撃をしなやかに避けると、王子のオブジェを嗾けてきた。
陸の締まった口許が歪む。
「俺、人魚姫の王子嫌いなんだよ、見る目ねーのが許せねぇ」
不快を露わにした陸は、後方で構える白藤の射線を塞がぬよう、適確な動作で攻撃を仕掛けてゆく。
「援護は任せとき」
白藤が慣れた手つきで拳銃をグリップし、構えた。陸が鞭を引くタイミングに合わせ、エア・スティーラーから高速の弾丸を発射する。目標――オブジェの拳へ、着弾。飛散する破片の雨ごと、陸の鞭がオブジェを打ち払う。
白藤はその隙に乗じて、銃口を黄蓮へと向けた。
一発、二発――。
ブレの無い精度と意志が、弾丸に乗る。
ソレルの身体を纏うオーラのおかげで、黄蓮の注意は頃合い良く、彼に引き付けられていた。
黄蓮は既にソレルとの交戦で手負いとなっている。だが――
「来るぞ! 陸、白藤、俺の後ろへまわれ!」
瞬すらの余裕も与えない球弾が、前方から押し寄せてきた。
それはまるで、猛然たる氷の散弾。
「俺はそれなりに頑丈だしな、代わりに攻撃を受けても問題ないさ」
ソレルは二人の被弾を減らす為に《鎧受け》を発動させ、屈強な身体を彼等の盾とする。幾本もの創傷がソレルの肌へ刻まれるが、彼の肝が動じるはずもない。しかし――
「ぐッ!」
「……ッ!」
両刃の大剣と身体では、背後への全ての攻撃を防ぐことは出来なかった。痛覚に漏れる二人の声音が、ソレルの背中に振動する。
陸は光の防御壁を展開し、白藤に回復させる時間を図るが、オブジェの攻撃が障壁を霧散させてしまった。舌打ちをした陸が、ソレルと目配せをする。
――片をつける。
「下がれ! ファイアスローワーを発動させる!」
大声を振り立てた陸が掌を翳した瞬間――熱が爆発した。炎の力を帯びたエネルギーが、扇状を描いて噴射される。
「植物ならよく燃えるだろ」
陸は半目に据え、黄蓮の金切り声を耳にしながら言い捨てた。その冷ややかさが、熱を刺す。
碧い空間を染め上げる焔が引いていくと、身体に残り火を纏った黄蓮が物狂いに藻掻いていた。既に、隙とも油断とも言えぬその状況を、“彼”が終わらせる。
「とっておきをくれてやる」
血を、
生命を、
一撃の力に代えて――。
ソレルのカオスウィースから稲妻のような閃きが放たれたのち、“変身”の意味を持つ“花”は、散り敷くように潰えたのだった。
「俺が赤ずきんの方に向かってたら、腹をかっ捌かれてたかね? ――なんてな」
White Wolfが歯を見せず、微笑んだ。
●
白のホール――白雪姫。
「――うニャ? クロちゃんの心配ニャスか? ミアはしてないニャスよ」
ブーツを履いた“猫”――ミア(ka7035)が、曇りのない笑みを浮かべた。
「出来ないことはしないだろうし、やると決めたことは独りでもちゃんとやる人だと思うニャスから」
鈴をふるわすような澄んだ声音が、拳の“爪”を研ぐ。
拳には、拳で相殺。
その際に生まれた相手の僅かな後込みに乗じて、ミアの乱打が決まる。
「クロのことを信頼してくれているのだな」
平定の雪椿――白亜(kz0237)の低い声音に、懇ろな質が宿っていた。
「ニャはは。ミアもいつか、クロちゃんに信頼してもらえるかニャぁ」
強烈な打撃に転倒した“王子”。
「その意志に揺らぎがないのなら、関わってやるといい。クロの“姿勢”を引き出してみろ」
ミアが追撃を図る。しかし、彼女の死角から揚げられたのは、蔓質なる緑。
だが――
ガゥンッ!!
要らぬ邪魔立てに――もとい、容赦などしない。
当初より落ち着きを崩さない白亜の掩護射撃が着弾。水面を穿たれた水飛沫のように、緑の欠片が飛散した。醜い“白雪姫”の悲鳴が反響する。
「うニャ。その為にも、今は目の前の敵を潰してやるってば――ニャスッ!」
メルヘンで明るい色味のツインテールが、円を描いてくるりと踊った。ミアの旋風脚が風を切る。――黄蓮の胴へ直撃。脚に伝わってきた重い衝撃ごと、ミアは豪快に黄蓮を吹き飛ばした。
前以て、ミアは紅亜から、赤ずきんの傍らに落ちていた葉の情報を入手していた。その為、当たりをつけたミア達は、ミアが提案した遣り口で正体を見抜く。それは――
殺伐とした先手。
破裂音よりも早く、雹の如く飛来する弾丸が、黄蓮の頭部を撃ち抜こうと宙を裂いた。相手の戦闘態勢など知ったことではない。焦慮に駆られた黄蓮は既の所で躱すが、してやったり――死角で構えていたミアが「ニャは♪」と、愛嬌のある八重歯を零した。すかさず、強烈な拳を喰らわせる。
対象を固定せず、瞬く暇の状況を見て、臨機応変に戦いを繰り広げていくミア。敵に逃亡を図らせないよう、扉には近づけないことも考慮していた。
黄蓮に標準を合わせていた白亜に、オブジェが攻撃を仕掛ける。
「白の王子様にお触りは禁止ニャス!」
しかし、ミアの放った《気功波》が、オブジェの意識を散らす。
前方から雨のように降り注ぐ棘の球は、高速移動の妙で回避を試みた。回避と言うよりも突撃と変わりのない行動ではあったが、下手に避けるよりも効率が良かった。白亜のフォローで適確な間合いに入り込めた分――
「BAD ENDをくれてやるニャス」
繋がった終止符。
必殺の域にまで引き上げたミアの一撃が、咆吼の如き音を上げた。――薙ぐ。
宙へ舞った黄蓮の頭部は、まるで、毒々しい林檎のようであった。
「そう言えば、白亜ちゃんと二人きりになるのって初めてニャスかな?」
肩の力を抜いたミアが、白亜を仰ぐ。
「ん? ああ、そうかもしれんな」
「ニャは♪ ミアは嬉しいニャスけど、白の王子様はやっぱり白雪姫と一緒がよかったニャスかニャぁ?」
揶揄するような声音で、にしし、と、笑うミア。白亜は僅かに首を傾げると、ミアの“猫耳”を指先で摘まんで、
「俺としては、猫耳フードの“鬼”と共に戦うことが出来、光栄だったぞ?」
心安い微笑みを浮かべた。
「ニャはーん♪
――あ。みんなで手分けする前に、しーちゃんから手渡されたチェムスタープーリァ、使わなかったんニャスネ?」
「ああ……君を守れと言われたからには、使用するべき弾だったのだろうが……意図せぬ内に、納まってしまっていたようだ。すまない」
「ミアのことならいいんニャスよ♪ うニャ、お守りにしたかったんニャスかな?」
ミアにとっては何気ない一言だった。しかし、当の白亜は意表外な様子で、瞳を丸くしていた。
●
解放された美術館。
ミアと白亜が中央ホールへ戻ると、ソレルとステラが職員達の誘導を行っていた。ミアが改めて、ほっと安堵の胸を撫で下ろす。
「――ミアー! 怪我してへん? 痛いとこあらへん??」
ミアの姿を目にするなりすっ飛んで来たのは、白藤だ。ミアを労りながら怪我の確認をするその様は、まるで実の姉。
「ニャはは、くすぐったいニャス。ミアなら全然だいじょうぶニャスのに」
「むぅ、手傷負っとるやん……ミアも紅亜も女の子なんよ? “お姫様”やねんから、綺麗にしとかんと!」
「しーちゃん。しーちゃんだってきっと、誰かのお姫様ニャスよ?」
ミアにとっては何気ない一言だった。しかし、白藤は、ぽかん、と面を食らっていた。
「紅亜は赤ずきんが好きなのか? 仮装も赤ずきんだったよな」
レッドフードを上げた紅亜に、耳に澄む低い声音が掛かる。
「おー……陸だ……。んー……ふつう……? 陸は童話の世界……好き……?」
「そうだな……こういう世界も”美しい”し、惹かれないことはない。けど、好みじゃないんだ」
陸の瞳は一瞬、“迷子”になった時のように、色を変えた。
「俺は、”俺なり”のハッピーエンドがいい。食われる前に狼ぶん殴って撃退するくらいのね」
だから――と、結び、
「もし演目にするなら、3人なりの”エンド”が見たいかな。楽しみにしてるよ」
唇の縁に微笑を湛えた。
視線を返す紅亜の表情は相変わらず乏しいが、瞳には思考が宿っている。僅かに、目の光が揺れていた。紅亜は伏し目がちに顎を引くと、「うん……」と、気の抜けた風船玉のように答えたのであった。
物語には、確定した形の終焉が在るとは限らない。
幸福も、
不幸も、
語り手も、
受け手も――
頁の最後は、Open-Endingなのかもしれない。
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むかしむかし…【相談卓】 白藤(ka3768) 人間(リアルブルー)|28才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/03/18 21:33:57 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/03/14 07:11:13 |
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教えて白の王子様!【質問卓】 ミア(ka7035) 鬼|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2018/03/14 21:08:46 |