ゲスト
(ka0000)
優しさを強さに変えて
マスター:一要・香織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/03/18 22:00
- 完成日
- 2018/03/22 19:15
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
澄み渡る青空―――。
真っ赤に熟れた果実の様な太陽―――。
暖かい風は頬を擽り、草原を駆け抜けた。
そんな穏やかな午後、レイナ・エルト・グランツ(kz0253)は父親から受け継いだ領地内の視察に出掛けていた。
領地内の東側、林に程近い場所に位置するこの村は、農業が盛んで今は定植の真っ最中であった。
レイナは数人の私兵と共に、広い畑を歩き、村人が定植をする様子を眺めた。
「今年は苗の状態も良いみたいね」
いつもの様に男物の貴族服を身に着けたレイナは、笑みを浮かべて隣を歩く兵士のサイファーに話しかけた。
「ええ、天候次第ではありますが、良い作物が出来るでしょう」
優しく微笑みサイファーは応えた。
「アイザック様にもご覧になって頂きたかったですね」
アイザック……、その言葉にレイナの胸がズキンと痛む。
先代の領主であるアイザックは、レイナにとっても、サイファーにとっても大切な人だった。
レイナの父であり、サイファーにとっても父と呼べる存在。
サイファーは物心着いた頃に両親を亡くし、孤児となった彼を引き取ったのがアイザックだった。
自分の意思で兵士になる事を決めたサイファーはたくさんの訓練を積み、グランツ家筆頭の兵士となるまでに成長した。
アイザックが視察に出る時には同行し、アイザックの身を守ってきたのだ。
レイナとも兄弟の様に仲が良く、気弱なレイナをいつも励ましていた。
そして先日、領内に出没した雑魔によってアイザックが亡くなった。
同行していたサイファーは、目の前で父と呼べる存在をなくしたのだ。
その悲しみは計り知れない。
しかし、だからと言って、私情に走る事は出来なかった。
サイファーには、もう1人守るべき存在があったから―――。
アイザックの名前を耳にし小さく唇を噛んだレイナに、サイファーは優しく声を掛けた。
「今のレイナ様の姿を見たら、アイザック様はきっと喜ばれたでしょう」
「え?」
その言葉に目を見張ったレイナは勢いよく振り向いた。
「先日のパーティーでのお言葉、素晴らしかったです。俺は、……弱いことを認めるというのは、ひとつの強さだと思います。自分が弱いと認める事は誰しもできる事ではありません。弱いからこそ、その立場の人々の事を思いやり、助けてあげる事が出来るのです。だから、……レイナ様は優しいのですね」
直後、レイナの顔は火が付いたように見る見る赤くなり、両手で顔を覆い隠し座り込んでしまった。
「そんな……恥ずかしいです……」
絞り出した声は嬉しさに僅かに震えていた。
自分の事を認めてくれるサイファーの言葉に、レイナの胸はいっぱいになった。
「さあ、村の反対側も見に参りましょう」
サイファーがそう声を掛けると、レイナはチラリとサイファーを見上げ立ち上がった。
まだ赤みの残る顔を上げ、深く息を吐いたレイナを見てサイファーは小さく笑う。
「はっはっ! レイナ様、顔に泥が……」
「え?」
レイナは驚き、思い出したように両手を見て、あぁー、と情けない声を出した
畑を視察した際、土をいじった事を忘れていたようだ。
領主として頑張る姿も、昔と変わらずドジなところも好ましく、より一層守ってあげたいと、サイファーは思った。
サイファーがハンカチを取りだし、顔の泥を拭ってあげるとレイナは気まずそうに歩き出した。
しかし、この和やかな時間は長くは続かなかった。
大方の視察を終え村に戻ると、何やら村がざわついている。
「何かあったのですか?」
駆け寄ったレイナが村人に尋ねるが、村人は邪険にレイナを見詰めるだけで答えない。
その異様な空気に、レイナは眉を顰めた。
「あんたには、何も期待していない。ささっと帰ってくれ」
村長のきつい言葉に、サイファーが喰ってかかる。
「貴様、レイナ様に向かってなんて口を!」
「っ! サイファー、いいのです。……帰りましょう」
何かあったのは確かだというのに、それを教えてもらえない。
まったく頼りにされていない事実に歯を食い縛り、レイナはサイファーを引きずるようにして村を出た。
「レイナ様、いいのですか?」
サイファーは腹を立てたままレイナに問う。すると、
「いいえ、良くありません。このままにしてはおけませんから、私たちで調べましょう」
その冷静な言葉に、サイファーは息を飲んだ。
自分を取り巻く状況を理解し、最善を導き出そうとするレイナの姿が、僅かにアイザックと重なり、サイファーは目を細めた。
「しかし、どう調べたらいいでしょう……」
小さく唸り考えるレイナの背後から、
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
と声が掛けられた。振り向くとそこには、女の子が……
「どうしたの?」
レイナが近付くと女の子は周りを気にしながら、レイナに耳打ちした。
「お姉ちゃん、さっきのこと気にしてるんでしょ?」
「うん」
レイナが短く返事をすると、
「さっきね、隣の家のおじちゃんが怪我して戻ってきたの。猪に襲われたんだって」
小さな声で、女の子は先ほどの騒ぎの原因を話してくれた。
「猪に襲われたの? それが騒ぎの原因なのね?」
「うん、でも隣のおじちゃん狩りの名人なのに、変だよね……」
萎んでいく少女の声に、レイナとサイファーは顔を見合わせた。
女の子を帰らせた後、2人は大きく息を吐いた。
「狩りの名人が猪に襲われる……ありえない事は無いですが、あれだけの騒ぎになるということは、雑魔の可能性が大きいですね」
「……ええ。………サイファー……調査をお願いできる?」
神妙な面持ちで呟くレイナに
「任せて下さい」
サイファーは力強く頷くと、仲間の兵士と共に林へと向かっていった。
●ハンターオフィス
「至急の依頼が来ています」
カウンターに書類を置いた受付の女性は、内容を読み上げた。
「グランツ領にある林に、猪の雑魔が3匹出没したそうです。怪我人が1人出ていますが、死者はありません。村からそう離れていない場所に出没したそうで、領主のレイナさんが心配しています」
カウンターに寄り掛かったハンターは依頼の紙を覗き込み、口を開いた。
「この詳細は信用できるのかしら?」
「はい。レイナさんの私兵が調査を行っています。1頭は小型、残り2頭が大人2人程の大型。大型の猪には鋭い牙があるそうです」
「村に近い場所ならいつ村を襲うか分かんねぇな。急いだ方がいいだろう」
「そうね、この依頼受けるわ!」
「では、こちらにサインをお願いします」
受付の女性は頭を下げると、羽ペンを差しだした。
真っ赤に熟れた果実の様な太陽―――。
暖かい風は頬を擽り、草原を駆け抜けた。
そんな穏やかな午後、レイナ・エルト・グランツ(kz0253)は父親から受け継いだ領地内の視察に出掛けていた。
領地内の東側、林に程近い場所に位置するこの村は、農業が盛んで今は定植の真っ最中であった。
レイナは数人の私兵と共に、広い畑を歩き、村人が定植をする様子を眺めた。
「今年は苗の状態も良いみたいね」
いつもの様に男物の貴族服を身に着けたレイナは、笑みを浮かべて隣を歩く兵士のサイファーに話しかけた。
「ええ、天候次第ではありますが、良い作物が出来るでしょう」
優しく微笑みサイファーは応えた。
「アイザック様にもご覧になって頂きたかったですね」
アイザック……、その言葉にレイナの胸がズキンと痛む。
先代の領主であるアイザックは、レイナにとっても、サイファーにとっても大切な人だった。
レイナの父であり、サイファーにとっても父と呼べる存在。
サイファーは物心着いた頃に両親を亡くし、孤児となった彼を引き取ったのがアイザックだった。
自分の意思で兵士になる事を決めたサイファーはたくさんの訓練を積み、グランツ家筆頭の兵士となるまでに成長した。
アイザックが視察に出る時には同行し、アイザックの身を守ってきたのだ。
レイナとも兄弟の様に仲が良く、気弱なレイナをいつも励ましていた。
そして先日、領内に出没した雑魔によってアイザックが亡くなった。
同行していたサイファーは、目の前で父と呼べる存在をなくしたのだ。
その悲しみは計り知れない。
しかし、だからと言って、私情に走る事は出来なかった。
サイファーには、もう1人守るべき存在があったから―――。
アイザックの名前を耳にし小さく唇を噛んだレイナに、サイファーは優しく声を掛けた。
「今のレイナ様の姿を見たら、アイザック様はきっと喜ばれたでしょう」
「え?」
その言葉に目を見張ったレイナは勢いよく振り向いた。
「先日のパーティーでのお言葉、素晴らしかったです。俺は、……弱いことを認めるというのは、ひとつの強さだと思います。自分が弱いと認める事は誰しもできる事ではありません。弱いからこそ、その立場の人々の事を思いやり、助けてあげる事が出来るのです。だから、……レイナ様は優しいのですね」
直後、レイナの顔は火が付いたように見る見る赤くなり、両手で顔を覆い隠し座り込んでしまった。
「そんな……恥ずかしいです……」
絞り出した声は嬉しさに僅かに震えていた。
自分の事を認めてくれるサイファーの言葉に、レイナの胸はいっぱいになった。
「さあ、村の反対側も見に参りましょう」
サイファーがそう声を掛けると、レイナはチラリとサイファーを見上げ立ち上がった。
まだ赤みの残る顔を上げ、深く息を吐いたレイナを見てサイファーは小さく笑う。
「はっはっ! レイナ様、顔に泥が……」
「え?」
レイナは驚き、思い出したように両手を見て、あぁー、と情けない声を出した
畑を視察した際、土をいじった事を忘れていたようだ。
領主として頑張る姿も、昔と変わらずドジなところも好ましく、より一層守ってあげたいと、サイファーは思った。
サイファーがハンカチを取りだし、顔の泥を拭ってあげるとレイナは気まずそうに歩き出した。
しかし、この和やかな時間は長くは続かなかった。
大方の視察を終え村に戻ると、何やら村がざわついている。
「何かあったのですか?」
駆け寄ったレイナが村人に尋ねるが、村人は邪険にレイナを見詰めるだけで答えない。
その異様な空気に、レイナは眉を顰めた。
「あんたには、何も期待していない。ささっと帰ってくれ」
村長のきつい言葉に、サイファーが喰ってかかる。
「貴様、レイナ様に向かってなんて口を!」
「っ! サイファー、いいのです。……帰りましょう」
何かあったのは確かだというのに、それを教えてもらえない。
まったく頼りにされていない事実に歯を食い縛り、レイナはサイファーを引きずるようにして村を出た。
「レイナ様、いいのですか?」
サイファーは腹を立てたままレイナに問う。すると、
「いいえ、良くありません。このままにしてはおけませんから、私たちで調べましょう」
その冷静な言葉に、サイファーは息を飲んだ。
自分を取り巻く状況を理解し、最善を導き出そうとするレイナの姿が、僅かにアイザックと重なり、サイファーは目を細めた。
「しかし、どう調べたらいいでしょう……」
小さく唸り考えるレイナの背後から、
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
と声が掛けられた。振り向くとそこには、女の子が……
「どうしたの?」
レイナが近付くと女の子は周りを気にしながら、レイナに耳打ちした。
「お姉ちゃん、さっきのこと気にしてるんでしょ?」
「うん」
レイナが短く返事をすると、
「さっきね、隣の家のおじちゃんが怪我して戻ってきたの。猪に襲われたんだって」
小さな声で、女の子は先ほどの騒ぎの原因を話してくれた。
「猪に襲われたの? それが騒ぎの原因なのね?」
「うん、でも隣のおじちゃん狩りの名人なのに、変だよね……」
萎んでいく少女の声に、レイナとサイファーは顔を見合わせた。
女の子を帰らせた後、2人は大きく息を吐いた。
「狩りの名人が猪に襲われる……ありえない事は無いですが、あれだけの騒ぎになるということは、雑魔の可能性が大きいですね」
「……ええ。………サイファー……調査をお願いできる?」
神妙な面持ちで呟くレイナに
「任せて下さい」
サイファーは力強く頷くと、仲間の兵士と共に林へと向かっていった。
●ハンターオフィス
「至急の依頼が来ています」
カウンターに書類を置いた受付の女性は、内容を読み上げた。
「グランツ領にある林に、猪の雑魔が3匹出没したそうです。怪我人が1人出ていますが、死者はありません。村からそう離れていない場所に出没したそうで、領主のレイナさんが心配しています」
カウンターに寄り掛かったハンターは依頼の紙を覗き込み、口を開いた。
「この詳細は信用できるのかしら?」
「はい。レイナさんの私兵が調査を行っています。1頭は小型、残り2頭が大人2人程の大型。大型の猪には鋭い牙があるそうです」
「村に近い場所ならいつ村を襲うか分かんねぇな。急いだ方がいいだろう」
「そうね、この依頼受けるわ!」
「では、こちらにサインをお願いします」
受付の女性は頭を下げると、羽ペンを差しだした。
リプレイ本文
暖かな日差しと心地よい風が吹く街道の脇に佇んだレイナ・エルト・グランツ(kz0253)は、眉を顰め俯いていた。
落ち着かなく手を揉み、時折大きく息を吐くと、隣に立つサイファーがその様子に眉を下げて視線を街道の先に向けた。
「レイナ様、ハンターの方々が」
直後顔を上げたレイナは、待ちきれないとばかりにハンターに駆け寄った。
「皆さん、ありがとうございます」
勢いよく頭を下げるレイナに、ハンター達は苦笑を漏らす。
向き直ったレイナはその中に面識のある顔を見つけ、嬉しそうに目尻を下げた。
「カティスさん! 錬介さん、来て下さったんですね」
名前を呼ばれたカティス・フィルム(ka2486)はニッコリと微笑み、鳳城 錬介(ka6053) は軽く手を上げて応えた。
「皆さんも、来て下さって本当にありがとうございます」
レイナは再び深く頭を下げた。
その隣にサイファーが並び、レイナ同様に頭を下げる。
「早速だが、最新の情報があれば教えて欲しい」
守原 有希弥(ka0562) が真摯な表情で問うと、レイナは小さく頷いた。
「私達が持っている情報は依頼の際お伝えした物が全てで……強いて言えば、新たな被害者は出ていない事と、雑魔も林からは出てきていない事くらいしか……」
レイナは気まずそうに視線を下げた。
「まあ、村人から詳しく聞けない状況だったみたいだし、しょうがないよな」
ジャック・エルギン(ka1522)は少しも気にしていない様子で口を開く。
「オフィスの使いで調査に来た――、という体で私達が村人から情報を集めよう」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109) が提案するように呟くと、レイナは自分の至らなさに唇を噛んだ。
「大丈夫なのですよ。これから、なのです!」
そんなレイナに、自身が一番上の姉にしてもらっていた様に、カティスは背中をぽんぽふ撫でながら励まし、
「これ以上被害が増える前に討伐しましょう。……そうすれば、大丈夫です!」
抑揚のない静かな声で、安心させるように巳蔓(ka7122)も頷きながら呟いた。
いくつかの確認を終えたハンター達は、村がある方角へと視線を移した。
「俺に出来るのは戦いの手伝い位ですが、少しでも力になれるよう頑張りますね」
錬介が優しい笑みを浮かべると、
「よろしくお願いいたします」
レイナは祈るように手を組んで、街道を進んでいくハンター達の背を見送った。
村に着いたハンター達は村の様子を見ると共に、情報の収集を始めた。
「少しざわついている感じはありますが、私達に敵意は無いみたいですね」
巳蔓は隣を歩くカティス、アルトにそう話しながら、3人は村長の家を訪ねた。
「この辺りに雑魔が出たと聞いたので、オフィスから調査に来たのです」
「そうかい、ご苦労なこったね」
ぶっきら棒な返事をする村長の警戒心を煽らないよう、アルトは話術を駆使して尋ねた。
「村人に怪我人が出たと聞いたが、……なぜ領主に頼らないんだ?」
その問いに、村長は眉を顰めて大きな溜息を吐いた。
「………………」
沈黙を続ける村長を見つめていると、温かいお茶を運んできた奥さんが代わりに口を開いた。
「先代のアイザック様は、それは立派な方でね。……統率力も判断力にも長けて本当に素晴らしい方だったの。そんなアイザック様に連れられて、子供の頃何度かレイナ様もいらした事があるんだけど、アイザック様の後ろに隠れてばかりの、気弱で、人前に出るのを嫌がる子だったのよ」
奥さんの話に重ねるように、村長は漸く口を開いた。
「そんな気の弱い女が領主なんて、頼りになるもんか」
その話にアルトとカティス、巳蔓は目配せして頷く。
有希弥、ジャック、錬介も猟師や村人から話を聞き、いくつかの情報を集めた。
村の外で合流したハンター達は情報を共有すると、各々の武器を握り締め、林へと向かった。
林の入り口に到着すると
「んじゃま、おっ始めるか」
ジャックの気合の一言で、ハンター達の顔付が変わる。
「ああ、レイナさんの為に修練の成果を出しましょうか!」
有希弥が愛刀のオートMURAMASAの柄を握り唇の端を持ち上げると、同時にアルトも大輪一文字の柄を握り唇を引き上げた。
有希弥、錬介、巳蔓そして、ジャック、アルト、カティスの2班に分かれたハンター達は林の中に踏み入った。
猟師の話を元に猪の現れそうな茂みや木々の陰、大きな岩の後ろなどを注意深く探していく―――。
突然前方から、バキバキバキッと木が折れる音が響き、有希弥、錬介、巳蔓は顔を見合わせた。
「行こう!」
有希弥の鋭い声に頷いた錬介と巳蔓は走り出した。
巳蔓は走りながら魔導スマートフォンで一方の班に連絡を入れ、錬介は周囲からの接敵が無いかを警戒する。
重なり合う様に視界を埋め尽くす木々が開けると、前方には今まさに一本の大木をへし折った大きな猪の雑魔が居た。
頭上からは逃げ遅れた鳥たちの羽ばたきが聞こえ、ピーィピーィと悲鳴を上げ飛び去っていく。
「有希弥さん、援護します」
錬介はそう言うと祈るように手を組んだ。
猪に向かって走る有希弥にアンチボディの障壁を付与すると、直後巳蔓の強弾が猪の横顔に直撃し、正面から駆け寄る有希弥への意識を僅かに逸らした。
巳蔓は直ぐに駆け出し、敵の側面へと回り込む。
強弾の衝撃に頭を振った猪は、ザッザッと地面を蹴ると重心を低くした。
猪が駆け出そうと足に力を入れた瞬間、首を狙って風を斬ったオートMURAMASAがギラリと光る。
猪は振り下ろされる有希弥の刀を鋭い牙で受け止め、弾き返すように首を振った。
「もう一発!」
巳蔓はクイックリロードで素早く装填を済ますと、再び強弾を放った。
ストラフォルンから飛び出した弾丸は猪の前足に当たり、その衝撃と痛みで猪の体勢が僅かに崩れた。
その隙を見逃さず、有希弥が刀を振り上げる。
「完全武装の鎧武者を斬り、殴り倒す。それが我が流派のならいなれば」
崩れた体勢を立て直そうと踏ん張った猪が振り向こうとした瞬間、振り下ろした刀が猪の耳を切り落とし、横顔を裂いた。
刹那、怒り狂ったように暴れ出した猪は間近にいる有希弥に体当たりし跳ね飛ばす。
有希弥の身体は木の幹に打ち付けられた。
「っく……」
自らの背後、そして戦場の周辺から新たな雑魔が出現しないかを警戒していた錬介は、ハッとした様に目を見開き、手を組んだ。
「暗黒で鍛えられし無数の刃よ―――悪しき猪を貫け!」
錬介がプルガトリオを唱えると、宙に浮かんだ無数の刃が猪に突き刺さり、猪の足を縫い付けた。
自らの体液が飛び散り片目を塞がれた猪は、もう片方の目で辺りを窺う。
しかし、回り込んだ巳蔓が残されたその目を狙い、引き金を引いた。
着弾した瞬間、――猪は激しく頭を振った。
「ここまでだ!」
有希弥は勢いよく踏み込むと跳躍し、猪の首を目掛け一気に刀を振り下ろした。
刀を通して伝わる確かな感覚に息を吐くと―――、猪の身体はボロボロと崩れ出し、消え去った―――。
その様子を見つめホッと息を吐いた錬介は、
「向こうはどうなっているでしょうね?」
林の奥に視線を向けて、ポツリと呟いた。
それに釣られるように、巳蔓と有希弥も林の奥に視線を移した。
「向こうの班が猪を見つけたそうです」
魔導スマートフォンで巳蔓からの連絡を受けたカティスが、こちらを見つめるジャックとアルトに伝えた。
「どうする……加勢に行くか?」
ジャックが問うと、
「そうだな……他の猪もその近くに居るかもしれないな」
アルトの答えに3人は目配せし合い駆け出した。
ガサガサと草の擦れあう音、そして自分たちの足音が、静かな林の中を駆け抜けた。
前を走る2人に続き辺りを警戒しながら走っていたカティスは、耳に届く音に違和感を覚えた。
先程まで足音や草の音しか聞こえなかったというのに、その音に混じるように……荒い呼吸の音が聞え出した。
振り向いたカティスの視界に、木々の間をすり抜ける小型の猪の姿が映る。
「ジャックさん、アルトさん、猪です!」
カティスの焦った声に、2人は足を止め振り返る。
猪はハンターが足を止めた瞬間、獲物を追い詰めるかのように勢いよく向かってきた。
「自ら、我が刃の露となりにくるとは」
赤い瞳を僅かに細め、アルトは大輪一文字を抜き放った。
その瞬間、
「凍てつく氷の刃よ、敵を貫け! ――アイスボルト!」
カティスの凛とした声が響くと、徐々に近付く猪の周りに生じた氷の刃が一斉に猪に突き刺さる。
猪の身体に霜が降りると足は凍り付き、動きは止まった。
カティスがアイスボルトを唱えると同時に弓矢を引き絞ったジャックは、猪の動きが止まった瞬間、矢を放った。
同時に放たれた3本の矢は、猪の頭に刺さり猪はその矢を振り払おうと頭を振る。
しかし、そんな動作も空しく―――疾風の如く駆け抜けたアルトの刀が、すれ違い様ギラリと光り猪の身体を斬り裂いた。
振り抜いた刀から飛び散る血が花の様にパッと咲くと、それを合図に猪の身体は塵に変わる。
その様子を見届ける間もなく、
「カティス、後ろだ!」
ジャックの鋭い声が響いた。
ガウスジェイルで結界の様に張り巡らせたマテリアルが大型の猪の存在を感知する。
それがカティスを狙い真っ直ぐに向かってくる事に気付いたジャックは、猪の気を強制的に引き寄せた。
頭を低くし、猛進する猪をアニマ・リベラで受け止めるが、あまりの衝撃にジャックは顔を顰めた。
「っと!」
歯を食い縛ったジャックがその衝撃を転換させる様に刃を翻し、反撃の一閃を放つと、猪はヨロヨロと踏鞴を踏み僅かな隙が生じた。
カティスは集中で高めたマテリアルを感じながらライトニングボルトを唱えると、雷撃が一直線に伸び猪に直撃する。
プスプスと燻る音をさせながら、猪はハンターに向き直った。
猪を挟み込む様に左右に立ったジャックとアルトは刀の柄を握り直し、荒く息を吐きだす猪を睨み付け、一瞬の隙を窺う―――。
「アイスボルト―――!」
威力を高めたカティスのアイスボルトが猪を包むと、
「これで、終わりだ―――」
「これで、終わりだ!」
ジャックとアルトの声が重なり、2人は同時に踏み込んだ。
大きく振り上げたジャックの刀は硬い猪の皮を引き裂き肉を抉り、疾風の如く走ったアルトの剣閃は2度に亘って猪を深く斬りつけた。
どちらからも赤い血の花びらが散ると、猪は倒れ――――跡形もなく消えた。
猪雑魔の討伐を終えたハンター達は、すぐに村に戻った。
「林の中に出没した雑魔は、討伐しました」
訝しげに顔を歪めた村長に、錬介は優しい笑みを湛え報告した。
「なに……? そんな事は頼んでおらんぞ」
村長は不機嫌そうに口を開く。
「報酬はいらねえぜ。ここの領主サマが手配してくれてるからな」
ジャックはしてやったりと言わんばかりに唇の端を持ち上げた。
「なんだと?」
すると村長は驚いたように目を見開いた。
「オフィスからの使いと言ったが、そのオフィスに雑魔討伐の依頼を出したのは領主だ」
アルトは赤い瞳で村長を見つめ、静かに呟く。
「危機に対して早急に適切な対処をした、立派な領主様じゃないですか」
巳蔓にしては珍しく張った声で呟かれた言葉に、村長は眉間に皺を寄せた。
「ああ、依頼書に書いてあったぜ。村が心配だ。至急で頼む。ってな」
ジャックが重ねるように言うと、
「…………」
村長は黙り込んでしまった。
「報告は以上です。雑魔はもう居ませんから、安心してください」
錬介はそう言うと村長に背を向け、続く様にハンター達は村長の家を後にした。
村を出て暫らく歩くと、道の先にレイナの姿があった。
村が心配で、屋敷に戻れなかったのだろうか……。
ハンター達の姿を見つけると、会った時の様に駆け寄ってきた。
「皆さん、お怪我はありませんか?」
レイナの青白い顔は、ハンター達を心配していた事を伝えている。
「これくらい、どうってことありません」
「ああ、なんてことねえよ」
有希弥とジャックの言葉にレイナは小さな笑みを浮かべた。
「それで、あの……猪の雑魔は……?」
不安そうに瞳を揺らし、レイナはハンター達の顔を見た。
「討伐は完了しました」
巳蔓がポツリと応えるとレイナは大きく息を吐き、胸を撫で下ろして深く頭を下げた。
「本当に、……ありがとうございます」
顔を上げたレイナの瞳には安堵からか、涙が滲んでいた。
その様子にハンター達は優しい笑みを浮かべた。
「安心した所でこんな話をするのは何ですが……」
巳蔓はレイナの青い目を見つめ僅かに眉を寄せた。
「村でなぜレイナさんの事を頼らないのか、訊いてみたのです。そしたら……」
カティスは気まずそうに視線を下げ言葉を飲んだ。
レイナはその話に居住まいを正すと真摯な表情でハンターを見つめた。
「君は幼少の頃、父親の後ろに隠れてばかりだったようだね。それが今も村人の記憶にあり、今の君が頼りなく映っているようだよ」
アルトの言葉に、レイナはしっかりと頷き、
「そうですか……」
そう呟いた。
唇を噛み締めるレイナの横に立ったサイファーが心配そうに声を掛けた。
「レイナ様……」
皆がレイナを見つめていると、レイナはキュッと唇を引き結び顔を上げた。
――途端、草原を駆け抜けた風がレイナの、ハンター達の頬を優しく撫でていく。
「私は、今も臆病です……。大切な人を失いたくないといつもビクビクしています。今すぐに直せるものではありませんが、少しずつ、少しずつでも領民に頼りにされる様に、努力します」
大切な人―――、それはレイナの家族……だけではない。この領地に住まう者すべてが、レイナにとって大切な人なのだということが、言葉の端々から窺えた。
「それで、良いと思います」
巳蔓は小さく微笑み頷いた。
「レイナさんに出来ない事は、うち等ハンターに任せてくれ」
有希弥も優しい笑みを浮かべ応えた。
「はい、ありがとうございます。これからもどうか、皆様の御力をお貸しください」
心強いハンター達の言葉に、レイナは大きな笑みを湛え頭を下げた。
ハンターが村長の家を出て暫らくした頃、温かいお茶を運んできた奥さんが、村長に声を掛けた。
「お父さん……。アイザック様の後ろに隠れてばかりの、あの小さかったレイナ様は、もうどこにも居ないみたいですよ……。きっと今にアイザック様のような立派な領主になられますね」
そう言うと、奥さんは部屋から出て行った。
バタンッとドアが閉まり静寂が部屋を包み込む―――。
するとその静寂を掻き消すように
「ふんっ、そんなこと分かっておるわ」
と、皮肉めいた言葉を放つが、村長は優しく瞳を細めたのだった―――。
落ち着かなく手を揉み、時折大きく息を吐くと、隣に立つサイファーがその様子に眉を下げて視線を街道の先に向けた。
「レイナ様、ハンターの方々が」
直後顔を上げたレイナは、待ちきれないとばかりにハンターに駆け寄った。
「皆さん、ありがとうございます」
勢いよく頭を下げるレイナに、ハンター達は苦笑を漏らす。
向き直ったレイナはその中に面識のある顔を見つけ、嬉しそうに目尻を下げた。
「カティスさん! 錬介さん、来て下さったんですね」
名前を呼ばれたカティス・フィルム(ka2486)はニッコリと微笑み、鳳城 錬介(ka6053) は軽く手を上げて応えた。
「皆さんも、来て下さって本当にありがとうございます」
レイナは再び深く頭を下げた。
その隣にサイファーが並び、レイナ同様に頭を下げる。
「早速だが、最新の情報があれば教えて欲しい」
守原 有希弥(ka0562) が真摯な表情で問うと、レイナは小さく頷いた。
「私達が持っている情報は依頼の際お伝えした物が全てで……強いて言えば、新たな被害者は出ていない事と、雑魔も林からは出てきていない事くらいしか……」
レイナは気まずそうに視線を下げた。
「まあ、村人から詳しく聞けない状況だったみたいだし、しょうがないよな」
ジャック・エルギン(ka1522)は少しも気にしていない様子で口を開く。
「オフィスの使いで調査に来た――、という体で私達が村人から情報を集めよう」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109) が提案するように呟くと、レイナは自分の至らなさに唇を噛んだ。
「大丈夫なのですよ。これから、なのです!」
そんなレイナに、自身が一番上の姉にしてもらっていた様に、カティスは背中をぽんぽふ撫でながら励まし、
「これ以上被害が増える前に討伐しましょう。……そうすれば、大丈夫です!」
抑揚のない静かな声で、安心させるように巳蔓(ka7122)も頷きながら呟いた。
いくつかの確認を終えたハンター達は、村がある方角へと視線を移した。
「俺に出来るのは戦いの手伝い位ですが、少しでも力になれるよう頑張りますね」
錬介が優しい笑みを浮かべると、
「よろしくお願いいたします」
レイナは祈るように手を組んで、街道を進んでいくハンター達の背を見送った。
村に着いたハンター達は村の様子を見ると共に、情報の収集を始めた。
「少しざわついている感じはありますが、私達に敵意は無いみたいですね」
巳蔓は隣を歩くカティス、アルトにそう話しながら、3人は村長の家を訪ねた。
「この辺りに雑魔が出たと聞いたので、オフィスから調査に来たのです」
「そうかい、ご苦労なこったね」
ぶっきら棒な返事をする村長の警戒心を煽らないよう、アルトは話術を駆使して尋ねた。
「村人に怪我人が出たと聞いたが、……なぜ領主に頼らないんだ?」
その問いに、村長は眉を顰めて大きな溜息を吐いた。
「………………」
沈黙を続ける村長を見つめていると、温かいお茶を運んできた奥さんが代わりに口を開いた。
「先代のアイザック様は、それは立派な方でね。……統率力も判断力にも長けて本当に素晴らしい方だったの。そんなアイザック様に連れられて、子供の頃何度かレイナ様もいらした事があるんだけど、アイザック様の後ろに隠れてばかりの、気弱で、人前に出るのを嫌がる子だったのよ」
奥さんの話に重ねるように、村長は漸く口を開いた。
「そんな気の弱い女が領主なんて、頼りになるもんか」
その話にアルトとカティス、巳蔓は目配せして頷く。
有希弥、ジャック、錬介も猟師や村人から話を聞き、いくつかの情報を集めた。
村の外で合流したハンター達は情報を共有すると、各々の武器を握り締め、林へと向かった。
林の入り口に到着すると
「んじゃま、おっ始めるか」
ジャックの気合の一言で、ハンター達の顔付が変わる。
「ああ、レイナさんの為に修練の成果を出しましょうか!」
有希弥が愛刀のオートMURAMASAの柄を握り唇の端を持ち上げると、同時にアルトも大輪一文字の柄を握り唇を引き上げた。
有希弥、錬介、巳蔓そして、ジャック、アルト、カティスの2班に分かれたハンター達は林の中に踏み入った。
猟師の話を元に猪の現れそうな茂みや木々の陰、大きな岩の後ろなどを注意深く探していく―――。
突然前方から、バキバキバキッと木が折れる音が響き、有希弥、錬介、巳蔓は顔を見合わせた。
「行こう!」
有希弥の鋭い声に頷いた錬介と巳蔓は走り出した。
巳蔓は走りながら魔導スマートフォンで一方の班に連絡を入れ、錬介は周囲からの接敵が無いかを警戒する。
重なり合う様に視界を埋め尽くす木々が開けると、前方には今まさに一本の大木をへし折った大きな猪の雑魔が居た。
頭上からは逃げ遅れた鳥たちの羽ばたきが聞こえ、ピーィピーィと悲鳴を上げ飛び去っていく。
「有希弥さん、援護します」
錬介はそう言うと祈るように手を組んだ。
猪に向かって走る有希弥にアンチボディの障壁を付与すると、直後巳蔓の強弾が猪の横顔に直撃し、正面から駆け寄る有希弥への意識を僅かに逸らした。
巳蔓は直ぐに駆け出し、敵の側面へと回り込む。
強弾の衝撃に頭を振った猪は、ザッザッと地面を蹴ると重心を低くした。
猪が駆け出そうと足に力を入れた瞬間、首を狙って風を斬ったオートMURAMASAがギラリと光る。
猪は振り下ろされる有希弥の刀を鋭い牙で受け止め、弾き返すように首を振った。
「もう一発!」
巳蔓はクイックリロードで素早く装填を済ますと、再び強弾を放った。
ストラフォルンから飛び出した弾丸は猪の前足に当たり、その衝撃と痛みで猪の体勢が僅かに崩れた。
その隙を見逃さず、有希弥が刀を振り上げる。
「完全武装の鎧武者を斬り、殴り倒す。それが我が流派のならいなれば」
崩れた体勢を立て直そうと踏ん張った猪が振り向こうとした瞬間、振り下ろした刀が猪の耳を切り落とし、横顔を裂いた。
刹那、怒り狂ったように暴れ出した猪は間近にいる有希弥に体当たりし跳ね飛ばす。
有希弥の身体は木の幹に打ち付けられた。
「っく……」
自らの背後、そして戦場の周辺から新たな雑魔が出現しないかを警戒していた錬介は、ハッとした様に目を見開き、手を組んだ。
「暗黒で鍛えられし無数の刃よ―――悪しき猪を貫け!」
錬介がプルガトリオを唱えると、宙に浮かんだ無数の刃が猪に突き刺さり、猪の足を縫い付けた。
自らの体液が飛び散り片目を塞がれた猪は、もう片方の目で辺りを窺う。
しかし、回り込んだ巳蔓が残されたその目を狙い、引き金を引いた。
着弾した瞬間、――猪は激しく頭を振った。
「ここまでだ!」
有希弥は勢いよく踏み込むと跳躍し、猪の首を目掛け一気に刀を振り下ろした。
刀を通して伝わる確かな感覚に息を吐くと―――、猪の身体はボロボロと崩れ出し、消え去った―――。
その様子を見つめホッと息を吐いた錬介は、
「向こうはどうなっているでしょうね?」
林の奥に視線を向けて、ポツリと呟いた。
それに釣られるように、巳蔓と有希弥も林の奥に視線を移した。
「向こうの班が猪を見つけたそうです」
魔導スマートフォンで巳蔓からの連絡を受けたカティスが、こちらを見つめるジャックとアルトに伝えた。
「どうする……加勢に行くか?」
ジャックが問うと、
「そうだな……他の猪もその近くに居るかもしれないな」
アルトの答えに3人は目配せし合い駆け出した。
ガサガサと草の擦れあう音、そして自分たちの足音が、静かな林の中を駆け抜けた。
前を走る2人に続き辺りを警戒しながら走っていたカティスは、耳に届く音に違和感を覚えた。
先程まで足音や草の音しか聞こえなかったというのに、その音に混じるように……荒い呼吸の音が聞え出した。
振り向いたカティスの視界に、木々の間をすり抜ける小型の猪の姿が映る。
「ジャックさん、アルトさん、猪です!」
カティスの焦った声に、2人は足を止め振り返る。
猪はハンターが足を止めた瞬間、獲物を追い詰めるかのように勢いよく向かってきた。
「自ら、我が刃の露となりにくるとは」
赤い瞳を僅かに細め、アルトは大輪一文字を抜き放った。
その瞬間、
「凍てつく氷の刃よ、敵を貫け! ――アイスボルト!」
カティスの凛とした声が響くと、徐々に近付く猪の周りに生じた氷の刃が一斉に猪に突き刺さる。
猪の身体に霜が降りると足は凍り付き、動きは止まった。
カティスがアイスボルトを唱えると同時に弓矢を引き絞ったジャックは、猪の動きが止まった瞬間、矢を放った。
同時に放たれた3本の矢は、猪の頭に刺さり猪はその矢を振り払おうと頭を振る。
しかし、そんな動作も空しく―――疾風の如く駆け抜けたアルトの刀が、すれ違い様ギラリと光り猪の身体を斬り裂いた。
振り抜いた刀から飛び散る血が花の様にパッと咲くと、それを合図に猪の身体は塵に変わる。
その様子を見届ける間もなく、
「カティス、後ろだ!」
ジャックの鋭い声が響いた。
ガウスジェイルで結界の様に張り巡らせたマテリアルが大型の猪の存在を感知する。
それがカティスを狙い真っ直ぐに向かってくる事に気付いたジャックは、猪の気を強制的に引き寄せた。
頭を低くし、猛進する猪をアニマ・リベラで受け止めるが、あまりの衝撃にジャックは顔を顰めた。
「っと!」
歯を食い縛ったジャックがその衝撃を転換させる様に刃を翻し、反撃の一閃を放つと、猪はヨロヨロと踏鞴を踏み僅かな隙が生じた。
カティスは集中で高めたマテリアルを感じながらライトニングボルトを唱えると、雷撃が一直線に伸び猪に直撃する。
プスプスと燻る音をさせながら、猪はハンターに向き直った。
猪を挟み込む様に左右に立ったジャックとアルトは刀の柄を握り直し、荒く息を吐きだす猪を睨み付け、一瞬の隙を窺う―――。
「アイスボルト―――!」
威力を高めたカティスのアイスボルトが猪を包むと、
「これで、終わりだ―――」
「これで、終わりだ!」
ジャックとアルトの声が重なり、2人は同時に踏み込んだ。
大きく振り上げたジャックの刀は硬い猪の皮を引き裂き肉を抉り、疾風の如く走ったアルトの剣閃は2度に亘って猪を深く斬りつけた。
どちらからも赤い血の花びらが散ると、猪は倒れ――――跡形もなく消えた。
猪雑魔の討伐を終えたハンター達は、すぐに村に戻った。
「林の中に出没した雑魔は、討伐しました」
訝しげに顔を歪めた村長に、錬介は優しい笑みを湛え報告した。
「なに……? そんな事は頼んでおらんぞ」
村長は不機嫌そうに口を開く。
「報酬はいらねえぜ。ここの領主サマが手配してくれてるからな」
ジャックはしてやったりと言わんばかりに唇の端を持ち上げた。
「なんだと?」
すると村長は驚いたように目を見開いた。
「オフィスからの使いと言ったが、そのオフィスに雑魔討伐の依頼を出したのは領主だ」
アルトは赤い瞳で村長を見つめ、静かに呟く。
「危機に対して早急に適切な対処をした、立派な領主様じゃないですか」
巳蔓にしては珍しく張った声で呟かれた言葉に、村長は眉間に皺を寄せた。
「ああ、依頼書に書いてあったぜ。村が心配だ。至急で頼む。ってな」
ジャックが重ねるように言うと、
「…………」
村長は黙り込んでしまった。
「報告は以上です。雑魔はもう居ませんから、安心してください」
錬介はそう言うと村長に背を向け、続く様にハンター達は村長の家を後にした。
村を出て暫らく歩くと、道の先にレイナの姿があった。
村が心配で、屋敷に戻れなかったのだろうか……。
ハンター達の姿を見つけると、会った時の様に駆け寄ってきた。
「皆さん、お怪我はありませんか?」
レイナの青白い顔は、ハンター達を心配していた事を伝えている。
「これくらい、どうってことありません」
「ああ、なんてことねえよ」
有希弥とジャックの言葉にレイナは小さな笑みを浮かべた。
「それで、あの……猪の雑魔は……?」
不安そうに瞳を揺らし、レイナはハンター達の顔を見た。
「討伐は完了しました」
巳蔓がポツリと応えるとレイナは大きく息を吐き、胸を撫で下ろして深く頭を下げた。
「本当に、……ありがとうございます」
顔を上げたレイナの瞳には安堵からか、涙が滲んでいた。
その様子にハンター達は優しい笑みを浮かべた。
「安心した所でこんな話をするのは何ですが……」
巳蔓はレイナの青い目を見つめ僅かに眉を寄せた。
「村でなぜレイナさんの事を頼らないのか、訊いてみたのです。そしたら……」
カティスは気まずそうに視線を下げ言葉を飲んだ。
レイナはその話に居住まいを正すと真摯な表情でハンターを見つめた。
「君は幼少の頃、父親の後ろに隠れてばかりだったようだね。それが今も村人の記憶にあり、今の君が頼りなく映っているようだよ」
アルトの言葉に、レイナはしっかりと頷き、
「そうですか……」
そう呟いた。
唇を噛み締めるレイナの横に立ったサイファーが心配そうに声を掛けた。
「レイナ様……」
皆がレイナを見つめていると、レイナはキュッと唇を引き結び顔を上げた。
――途端、草原を駆け抜けた風がレイナの、ハンター達の頬を優しく撫でていく。
「私は、今も臆病です……。大切な人を失いたくないといつもビクビクしています。今すぐに直せるものではありませんが、少しずつ、少しずつでも領民に頼りにされる様に、努力します」
大切な人―――、それはレイナの家族……だけではない。この領地に住まう者すべてが、レイナにとって大切な人なのだということが、言葉の端々から窺えた。
「それで、良いと思います」
巳蔓は小さく微笑み頷いた。
「レイナさんに出来ない事は、うち等ハンターに任せてくれ」
有希弥も優しい笑みを浮かべ応えた。
「はい、ありがとうございます。これからもどうか、皆様の御力をお貸しください」
心強いハンター達の言葉に、レイナは大きな笑みを湛え頭を下げた。
ハンターが村長の家を出て暫らくした頃、温かいお茶を運んできた奥さんが、村長に声を掛けた。
「お父さん……。アイザック様の後ろに隠れてばかりの、あの小さかったレイナ様は、もうどこにも居ないみたいですよ……。きっと今にアイザック様のような立派な領主になられますね」
そう言うと、奥さんは部屋から出て行った。
バタンッとドアが閉まり静寂が部屋を包み込む―――。
するとその静寂を掻き消すように
「ふんっ、そんなこと分かっておるわ」
と、皮肉めいた言葉を放つが、村長は優しく瞳を細めたのだった―――。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/03/14 21:25:41 |
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猪雑魔討伐作戦室 守原 有希弥(ka0562) 人間(リアルブルー)|19才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2018/03/18 21:05:46 |