ゲスト
(ka0000)
【幻兆】力を示すもの
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/03/22 22:00
- 完成日
- 2018/04/04 21:19
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●眠りの龍
小さき白龍ヘレの変調。
ぐったりとして起きる様子が見られない龍を何とか助けたいと動き出したリムネラ(kz0018)とハンター達。
幻獣の森の護りの要であり、元々は六大龍の中の緑龍であった大幻獣『ナーランギ』や勇気の精霊イクタサ(kz0246)、ハンターズソサエティ総長にしてクリムゾンウェスト連合軍司令官であり、青龍の巫女であるナディア・ドラゴネッティ(kz0207)に話を聞きに行った彼らは以下の情報を得た。
今回の一件はリアルブルー来訪に端を発した可能性が大きいこと。
恐らく今回の変調は、ヘレが成長しようとしているためであろうこと。
龍の成長については、恐らく六大龍の一角、青龍が知っているであろうこと――。
ただ、これはあくまでも『可能性』だ。
青龍が知っているという確証はない。
それでも、ヘレが目覚める可能性が少しでもあるのなら――。
こうしている間も昏々と眠り続ける小さき龍。
それを救う一縷の希望。ヘレが眠り続ける理由、目覚めさせる鍵を求めて、リムネラとハンター達は北の大地にある龍園を目指す。
●神官長との謁見
「……面倒なことを頼んでしまってすまないな……」
「いいえ。構いませんよ。僕から言い出したことですし」
頭を下げるバタルトゥ・オイマト(kz0023)に人懐こい笑みを返すシャンカラ(kz0226)。言葉を探すように澄んだ青い瞳を泳がせると、徐に口を開く。
「……こんなことになってしまって、大変ですね。ご心労お察しします」
「……気遣いに感謝する。リムネラも心配ではあるが……白龍は辺境にとっても大切な存在ゆえ、何とか救ってやりたい……。立場のある身で軽率なことはするなとヴェルナーには言われたのだが……辺境の一大事に動かぬ大首長など何の意味があるのか」
そう続けたバタルトゥに、シャンカラはこくりと頷く。
「僕も青龍様に剣を捧げると誓った身です。同胞である白龍の危機は他人事とは思えません。僕もバタルトゥさんの立場だったら、同じことをしていると思います」
「……そうか」
その言葉に、どこか嬉しそうなバタルトゥ。シャンカラはそんな彼を先導して歩く。
――北方王国リグ・サンガマの龍園ヴリトラルカ。
リムネラとハンター達がここを訪れる少し前のこと。
2人はその中枢にある建物の中を歩いていた。
眠り続けるヘレの情報を得る為、青龍や彼の神官たちに謁見を求めてやってきた彼。
ナディアからの紹介状もあった為、面会自体は出来るだろうと踏んでいたが――バタルトゥは部族会議の大首長……要するに辺境地域の代表者という立場であるのだが、青龍も神官たちも、辺境の事情には暗く、大首長についても『クリムゾンウェスト連合軍の一員』程度にしか認識がない。
ハンター達と積極的に交流し、西方の事情にもある程度詳しい自分からの口添えがあった方がいいだろう、とシャンカラ自身が申し出て、この状況がある。
「アズラエル様、失礼致します」
「やあ、シャンカラじゃないか。どうしたんだい? 僕に会いに来るなんて珍しいね」
「今日は西方より客人を連れて参りました」
「……客人?」
「西方の辺境地域の代表者の方です」
「……部族会議の大首長、バタルトゥ・オイマトと言う」
そう言われて初めてシャンカラから目線を移したアズラエル・ドラゴネッティ。
バタルトゥを上から下までじろじろと眺める。
「僕は青龍の神官長のアズラエルだよ。で、その辺境の偉い人が僕に何の用かな?」
「……辺境部族にとって大切な存在である小さき白龍が眠ったまま目を覚まさない。青龍であれば目覚めさせる方法を知っているかもしれぬと思い、話を聞きに来た……。謁見の許可を戴きたい……」
そう言い、ナディアからの紹介状を手渡すバタルトゥ。差出人を見て、アズラエルはため息をつく。
「成程。ナディアの回し者って訳か。……君達とは既に協力体制を敷いているはずだし、青龍様も会いに来た人の子を拒否したりはしないよ。何故わざわざ許可を得に来たんだい?」
「……こちらの事情に、お前達の大事な存在を巻き込むのだ。代表者に話を通すのは当然だろう」
「ふーん。そう。戦うだけしか能がない代表者って訳じゃなさそうだね」
「……すみません。アズラエル様はあのような態度を取られていますが悪気がある訳ではないのです……」
ひそひそとバタルトゥに耳打ちするシャンカラ。アズラエルは受け取った手紙に目を落とす。
「……事情は大体分かったよ。同朋の危機とあらば寛大な青龍様も力をお貸しになるだろうし、白龍の幼体であれば僕達も歓迎するよ。ただ……」
「ただ……?」
「西方の人々とナディアは一度、青龍様との約束を違えている。青龍様の元に集い、共に歪虚に立ち向かうことは勿論、青龍様の存在すら忘れ去った。……勿論、青龍様はそれを罪とは思ってないけどね」
「……だが、神官達の中には快く思っていないものがいる……そういうことだな?」
「へえ。君、察しがいいんだね」
「……以前にも似たようなことがあったゆえ」
「昔の約束の尻拭いをしたことが他にもあったのかい? 随分君も変な苦労してるんだね。まあ、いいや。白龍の民が青龍様に協力の姿勢を示す……それだけで大分神官達の心証が違うと思うんだ。どうかな、僕達に少し協力してみない?」
「……分かった。その決定に従おう」
「物分かりが良くて助かるよ。じゃあ早速行って貰おうかな。歪虚討伐に」
●力を示すもの
「……北方に現れた歪虚を退治しに行く。協力してくれ……」
「え。青龍に話を聞きに行くんじゃなかったんですか?」
「……ちょっと事情があってな。アズラエルに頼まれた……」
「バタルトゥ、お前また厄介事背負いこんだのか?」
「……青龍との謁見を滞りなくする為だ。……厄介事ではない」
バタルトゥの返答にため息を漏らすハンター達。
どうせ大真面目に義理立てをした結果なのだろうとも推測がついたが……それでヘレの容態が好転しないまま終わるのも困るし、こういうところがまあ、バタルトゥらしいと言えばそうだし。
ハンター達は『仕方がない、付き合うか』と頷き合うと族長を見る。
「それで、それはどういった歪虚なんですか?」
「巨大な火龍だそうだ……。強欲の残党といったところだな……」
「うわあ。それユニットないと厳しそうだな」
「……そうだな。持ち込むユニットは各員に任せる。火龍は火属性の攻撃に高い耐性を誇るが、水と氷に弱いとのことだ……」
「なるほど。弱点を狙った戦略を取ることが出来そうですね……」
「了解。皆で力を合わせてアズラエルをビックリさせてやろうぜ」
「……うむ。すまぬが、小さき白龍と……辺境の未来の為に力を貸してくれ」
バタルトゥの言葉に頷くハンター達。
白龍ヘレを救うための、水面下の戦いが始まろうとしていた。
小さき白龍ヘレの変調。
ぐったりとして起きる様子が見られない龍を何とか助けたいと動き出したリムネラ(kz0018)とハンター達。
幻獣の森の護りの要であり、元々は六大龍の中の緑龍であった大幻獣『ナーランギ』や勇気の精霊イクタサ(kz0246)、ハンターズソサエティ総長にしてクリムゾンウェスト連合軍司令官であり、青龍の巫女であるナディア・ドラゴネッティ(kz0207)に話を聞きに行った彼らは以下の情報を得た。
今回の一件はリアルブルー来訪に端を発した可能性が大きいこと。
恐らく今回の変調は、ヘレが成長しようとしているためであろうこと。
龍の成長については、恐らく六大龍の一角、青龍が知っているであろうこと――。
ただ、これはあくまでも『可能性』だ。
青龍が知っているという確証はない。
それでも、ヘレが目覚める可能性が少しでもあるのなら――。
こうしている間も昏々と眠り続ける小さき龍。
それを救う一縷の希望。ヘレが眠り続ける理由、目覚めさせる鍵を求めて、リムネラとハンター達は北の大地にある龍園を目指す。
●神官長との謁見
「……面倒なことを頼んでしまってすまないな……」
「いいえ。構いませんよ。僕から言い出したことですし」
頭を下げるバタルトゥ・オイマト(kz0023)に人懐こい笑みを返すシャンカラ(kz0226)。言葉を探すように澄んだ青い瞳を泳がせると、徐に口を開く。
「……こんなことになってしまって、大変ですね。ご心労お察しします」
「……気遣いに感謝する。リムネラも心配ではあるが……白龍は辺境にとっても大切な存在ゆえ、何とか救ってやりたい……。立場のある身で軽率なことはするなとヴェルナーには言われたのだが……辺境の一大事に動かぬ大首長など何の意味があるのか」
そう続けたバタルトゥに、シャンカラはこくりと頷く。
「僕も青龍様に剣を捧げると誓った身です。同胞である白龍の危機は他人事とは思えません。僕もバタルトゥさんの立場だったら、同じことをしていると思います」
「……そうか」
その言葉に、どこか嬉しそうなバタルトゥ。シャンカラはそんな彼を先導して歩く。
――北方王国リグ・サンガマの龍園ヴリトラルカ。
リムネラとハンター達がここを訪れる少し前のこと。
2人はその中枢にある建物の中を歩いていた。
眠り続けるヘレの情報を得る為、青龍や彼の神官たちに謁見を求めてやってきた彼。
ナディアからの紹介状もあった為、面会自体は出来るだろうと踏んでいたが――バタルトゥは部族会議の大首長……要するに辺境地域の代表者という立場であるのだが、青龍も神官たちも、辺境の事情には暗く、大首長についても『クリムゾンウェスト連合軍の一員』程度にしか認識がない。
ハンター達と積極的に交流し、西方の事情にもある程度詳しい自分からの口添えがあった方がいいだろう、とシャンカラ自身が申し出て、この状況がある。
「アズラエル様、失礼致します」
「やあ、シャンカラじゃないか。どうしたんだい? 僕に会いに来るなんて珍しいね」
「今日は西方より客人を連れて参りました」
「……客人?」
「西方の辺境地域の代表者の方です」
「……部族会議の大首長、バタルトゥ・オイマトと言う」
そう言われて初めてシャンカラから目線を移したアズラエル・ドラゴネッティ。
バタルトゥを上から下までじろじろと眺める。
「僕は青龍の神官長のアズラエルだよ。で、その辺境の偉い人が僕に何の用かな?」
「……辺境部族にとって大切な存在である小さき白龍が眠ったまま目を覚まさない。青龍であれば目覚めさせる方法を知っているかもしれぬと思い、話を聞きに来た……。謁見の許可を戴きたい……」
そう言い、ナディアからの紹介状を手渡すバタルトゥ。差出人を見て、アズラエルはため息をつく。
「成程。ナディアの回し者って訳か。……君達とは既に協力体制を敷いているはずだし、青龍様も会いに来た人の子を拒否したりはしないよ。何故わざわざ許可を得に来たんだい?」
「……こちらの事情に、お前達の大事な存在を巻き込むのだ。代表者に話を通すのは当然だろう」
「ふーん。そう。戦うだけしか能がない代表者って訳じゃなさそうだね」
「……すみません。アズラエル様はあのような態度を取られていますが悪気がある訳ではないのです……」
ひそひそとバタルトゥに耳打ちするシャンカラ。アズラエルは受け取った手紙に目を落とす。
「……事情は大体分かったよ。同朋の危機とあらば寛大な青龍様も力をお貸しになるだろうし、白龍の幼体であれば僕達も歓迎するよ。ただ……」
「ただ……?」
「西方の人々とナディアは一度、青龍様との約束を違えている。青龍様の元に集い、共に歪虚に立ち向かうことは勿論、青龍様の存在すら忘れ去った。……勿論、青龍様はそれを罪とは思ってないけどね」
「……だが、神官達の中には快く思っていないものがいる……そういうことだな?」
「へえ。君、察しがいいんだね」
「……以前にも似たようなことがあったゆえ」
「昔の約束の尻拭いをしたことが他にもあったのかい? 随分君も変な苦労してるんだね。まあ、いいや。白龍の民が青龍様に協力の姿勢を示す……それだけで大分神官達の心証が違うと思うんだ。どうかな、僕達に少し協力してみない?」
「……分かった。その決定に従おう」
「物分かりが良くて助かるよ。じゃあ早速行って貰おうかな。歪虚討伐に」
●力を示すもの
「……北方に現れた歪虚を退治しに行く。協力してくれ……」
「え。青龍に話を聞きに行くんじゃなかったんですか?」
「……ちょっと事情があってな。アズラエルに頼まれた……」
「バタルトゥ、お前また厄介事背負いこんだのか?」
「……青龍との謁見を滞りなくする為だ。……厄介事ではない」
バタルトゥの返答にため息を漏らすハンター達。
どうせ大真面目に義理立てをした結果なのだろうとも推測がついたが……それでヘレの容態が好転しないまま終わるのも困るし、こういうところがまあ、バタルトゥらしいと言えばそうだし。
ハンター達は『仕方がない、付き合うか』と頷き合うと族長を見る。
「それで、それはどういった歪虚なんですか?」
「巨大な火龍だそうだ……。強欲の残党といったところだな……」
「うわあ。それユニットないと厳しそうだな」
「……そうだな。持ち込むユニットは各員に任せる。火龍は火属性の攻撃に高い耐性を誇るが、水と氷に弱いとのことだ……」
「なるほど。弱点を狙った戦略を取ることが出来そうですね……」
「了解。皆で力を合わせてアズラエルをビックリさせてやろうぜ」
「……うむ。すまぬが、小さき白龍と……辺境の未来の為に力を貸してくれ」
バタルトゥの言葉に頷くハンター達。
白龍ヘレを救うための、水面下の戦いが始まろうとしていた。
リプレイ本文
雪がところどころ残る荒野。地面を撫でるように、冷たい風が吹きすさぶ。
その気流を利用して滑空する炎の竜は、遠目からでもハッキリ見ることができた。
「結構デカいな……」
「あの竜、何でこんなところに1匹でぽつんといるんだろ。それをわざわざ私達に退治して欲しいなんて……」
赤い竜を目で追う輝羽・零次(ka5974)。夢路 まよい(ka1328)の呟きに、彼は竜を見据えたまま思考を巡らせる。
――政治の道具にされるというのは気の毒な気もしたが……あれが強欲の残党だと言うのであれば、同情する意味も無い。
放っておけば遅かれ早かれ世界に破壊を撒き散らすのだから。
「ナディアからの紹介状も貰ってきたんだし、アズラエルもケチ臭いこと言わずに、そのまま青龍に会わせてくれてもいいのにね」
「協力体制になってはいても、過去のことで、思うところのあるひともいるんだろうね」
続いたまよいの声にため息をつくイスフェリア(ka2088)。藤堂研司(ka0569)もその瞳に赤い竜を映す。
この戦いにどういった意味があるのか――すべての答えは出ないけれど。それでも。
「……龍園の上の人達の真意はわからん。だが、それを差っ引いても、竜の成れの果ては見るに忍びねぇ」
「今回のことだけで心証がよくなるわけじゃないとは思うけれど、真摯さを伝えるためにも依頼を成功させなきゃ、だね」
「そうですね。ヘレのためにもまずはこの頼まれごとを終わらせましょう」
「うむ! 辺境の為と云われれば、その民に否やはあるまい!」
イスフェリアに頷く夜桜 奏音(ka5754)。辺境の民であるディヤー・A・バトロス(ka5743)は部族会議の大首長であるバタルトゥの同行が嬉しくて仕方ないのか、今回の仕事に対する気合も十分だった。
研司はバタルトゥ・オイマト(kz0023)に向き直ると、トランシーバーを手渡す。
「……研司。これは……?」
「連絡用のトランシーバーだよ。俺達が戦ってる間、地上からヤツの動きを観測して伝えてくれると嬉しいな」
「しかし……」
「大首長様! 指揮官というのは後方で指示を出す役割なのじゃ! ワシ知っておるぞ!」
「ああ、偉いさんがドーンと後ろに居てくれんのは頼もしいしね!」
ディヤーと研司の言葉に戸惑うバタルトゥ。
その様子から前線に立つ気満々だったことが伺えて、イスフェリアは苦笑する。
――ヴェルナーに毎度嗜められても、大切なもののために動く彼は、鉄仮面の内に熱いものを秘めているんだろうと思う。
勿論立場も大切だけれど……そういう時に迷わず実行に移せる人柄は、とても素敵だと思うし好きだなーなんて思ったりして……。
「……どうした、イスフェリア。……俺の顔に何かついているか?」
「ん? ううん。何でもないよ! じゃあ行こっか!」
「ああ。あいつに引導を渡すぞ!」
バタルトゥの声で我に返るイスフェリア。零次の言葉に仲間達も頷いてユニットに跨り……滑るよう空へと舞い上がり、行動を開始した。
「火竜、こっちに気付いたみたい!」
「こっちも大きいの連れてますし仕方ないですね……」
刻令ゴーレムの陰から空を見上げるイスフェリア。
ワイバーンの背の上から淡々と言う奏音。
研司と零次もまた、ワイバーンに騎乗したまま叫ぶ。
「それじゃ皆、手筈通りによろしく!」
「おう! さっさとあいつを地面に叩き落としてくれ」
「任せておくのじゃ!」
R7エクスシアの操縦席でニヤリと笑うディヤー。
まよいが散開した仲間達と濡羽色の羽をもつグリフォンに声をかける。
「皆ストップ! それ以上前に出ないでね! イケロス、この高度維持して!」
――全てを無に帰せ。
続いた短い詠唱。現れた禍々しい紫色の球体。そこに引きつけられるように、ガクンと火竜の身体が傾ぐ。
「……こちらバタルトゥ。竜の飛行速度が遅くなった。そのまま……いや、待て。ブレスが来る」
火竜の苦しげな咆哮。バタルトゥの通信の直後、八つ当たりのように吐き出される炎のブレス。
一気に距離を詰めた零次の腕を掠めて焦がす。
「うお?! あっち!!」
「零次さん、近づきすぎだよ!」
「近づかないと囮になれねえだろ!」
イスフェリアと零次がこんなやりとりをしている間、ブレスを避けたディヤーと研司は火竜を挟むように位置取りをしていた。
「ふふーん! ブレスなど当たらなければどうということはないのじゃ! 行くぞ研司殿!」
「OK! 移動は任せた、竜葵!」
動きの鈍い火竜。ほぼ同時に放たれた砲撃。
それは全弾、竜の翼に命中したが……傷ついた様子がなく、まよいが目を見開く。
「うっそでしょ!? あの羽根薄そうなのに!」
「硬くてダメージが通りにくいなら……まずはこれです」
苦しげな火竜の唸り声。その様子から見てもダメージは行っているのだろうが。
完全に足止め出来ねば意味はない――。
奏音は、滑るように距離を詰めると、きびきびとした迫力のある歌を歌い始める。
「オラオラ! お前の相手はこの俺だ!!」
ワイバーンに騎乗したまま竜の目の前に滑り込む零次。
……本当は降りて直接殴りに行く気満々だったのだが、いくら行動阻害が効いているとはいえ、自分の足では火竜の速度に追いつけそうにない。
直接対決は叩き落とすまでお預けだ。
精々上手いこと竜を煽らないと――。
思うように動けず、ちらちらと飛び回る虫のような存在に苛立ったのか、火竜は大きく羽ばたいて風を起こす。
「羽ばたき来てるよ! 気を付けて!」
咄嗟にゴーレムの後ろに隠れたイスフェリア。
次の瞬間、巻き起こる突風。
比較的近くにいた零次と奏音、まよいが巻き込まれた。
「くそっ……!」
「もう! 何すんのよ! 奏音さん、マーキスソング続けて!」
「言われなくても……!」
吹き飛ばされて傾くワイバーン。慌てて体勢を立て直す零次。
突風で途切れかけた歌を紡ぐ奏音。
旋回して距離を取ったまよい。続く詠唱。鋭い氷の矢が音もなく火竜に迫る――。
――グオオオオ……!!
「届かないと思った!? 残念でした! マテリアルで飛距離調整済よ!!」
火竜の怒りの咆哮にぺろりと愛らしく舌を出すまよい。
赤い鱗を穿つ氷の矢は思いの他痛かったらしい。氷で動きを阻害されながらも、ゆっくり頭を擡げて彼女の方を見る。
「えっ。もしかして恨み買っちゃった!? 矢が痛いのは半分くらい奏音さんのお陰なんだけどな!?」
「その分は引き受ける! まよいと奏音は下がってろ!」
2人の間に滑り込むように竜の前に立ち塞がる零次。
ブレスを吐こうとしているのか、口を開いたところで……ギャッという短い悲鳴が響いた。
「……なんじゃ。この間会った強欲竜は喋っておったがこやつは喋らんのか。頭も悪いようじゃのー。真打に気付かんとは」
つまらなそうに言うディヤー。真横から飛び込んできた一条の光。宝石のように煌びやかなR7エクスシアから放たれた槍の一撃。
それは確かに羽根を突いて――火竜は大きくバランスを崩す。
「お前の弱点は聞いているぜ! ――往け、白き水の魔矢!」
「Volcanius、攻撃は皆に合わせて! お願いね!」
続く研司。マテリアルを視力と感覚、複数番えた矢に集中させ、火竜の左側の翼目掛けて一気に引き放つ――!
そしてイスフェリアの刻令ゴーレムの砲撃が、歪虚の身体に雨霰のように降り注いだ。
研司の矢に刺し貫かれ、左翼に深刻なダメージを負ったのか再び吠える火竜。
――まだ落ちない。落ちてはいないが時間の問題か……。
右の翼の力だけで何とか飛翔しようとするそれに、ハンター達は追い縋る。
「逃がしませんよ……!!」
一旦歌を止めた奏音。すぐさま符を空に放ち、光の結界を組み上げる。
眩い閃光。鱗の焼ける匂い。方向感覚を失った竜は首を捻って炎を撒き散らす。
「ブレス来たぞ!! 避けろ!」
「わぁっ!! イケロス上昇!!」
「よしきた! カウンタマジック……ってあっぢ!! あぢぢぢぢぢ!! ジャウハラの装甲が焼けたらどうするんじゃバカモノーーー!!」
一撃入れようとするも咄嗟に距離を取る零次とまよい。
ディヤーがカウンターマジックを試みるも、炎のブレスは消える様子はなく――白いR7エクスシアの装甲から焦げた匂いを放つ。
「ディヤーさん、大丈夫!? 今回復するから!」
「おお、助かる! じゃがこれでハッキリしたぞ! このブレスは魔法由来ではない!」
「了解! 俺の隠し玉が効くって訳だな! 奏音さん、もう1回マーキスソングお願い!」
「承りました!」
精霊に祈りを捧げて傷を癒すイスフェリア。
身体を張ってブレスの性質を証明したディヤーに感謝しつつ叫ぶ研司。
その通信に頷いた奏音は、再び力強い歌を紡ぐ。
「さーて! ダメージ与えながら行動阻害行っちゃうよ☆ あ、零次。また竜のヘイト買ったら嫌だから、盾役宜しくね!」
「了解。あいつが落ちるまで俺が出来ることはそんくらいだからな。思いっきり打ち込んでやれ!」
「かしこまりィ☆」
にっこりと笑うまよい。零次の背中越しに見える火竜。
そこ目掛けて氷の矢を放つ。
それに合わせるように、研司が矢を番える。
「制空権は俺達のものだ!! 絶対、空に逃がさん!!!」
「狙いは右翼じゃ! 総員撃てェーー!!」
戦場に響くディヤーの声。同時に放たれる砲撃。
聞こえるのは凍り付いた音。そして鱗を突き破る音――。
翼を封じられた火竜は鈍い音を立てて地面へ墜落した。
「皆さん、ここからが本番ですよ! 私が黒曜封印符を使いますから……」
言いかけた奏音。固まる彼女に、イスフェリアが首を傾げる。
「奏音さん、どうかした?」
「……黒曜封印符を活性化してくるのを忘れたようです」
「えええええ! 奏音に動き封じてもらってボコボコにする予定だったのにー!!」
「まあ、何にせよやることは変わらないな。ひたすら殴るっきゃねえ」
ガビーンとショックを受けるまよいに汗をぬぐいながら言う零次。
それに研司とディヤーも頷く。
「そうだね。引き続き脚を狙おう。走って逃げられたらたまらないからね」
「うむ。引き続きチクチクと狙撃してくれようぞ! 行くぞ!」
――火竜との戦闘は長い時間を要した。
水と氷属性に弱い性質。既に翼は破壊した。
竜の弱点は明らかだし、空へと逃げる手段は封じたし、後はひたすらダメージを与えるだけなのだが何しろ身体が大きい。
しかも、初盤からハンター優位で進んでいた為か、竜の怒りは最高潮で……怒り狂い、暴れる巨体を抑え込むのはなかなか骨が折れる作業だった。
氷の嵐を遮るように炎のブレスが吐かれ、その隙間を縫うように拳と砲弾が行き交う。
「くっそ。硬ぇな……!」
「零次さん、そのナックル火属性じゃないの? それで殴るなんて無謀だよ……!」
「この拳がどこまで通じるか試したいんだよ!」
「そんなこと言って、もうボロボロじゃない! 髪の毛も焦げてるし!」
「ブレスが思いの外火力強いんだよ! 仕方ないだろ!」
火竜の前に飛び出しては、直接拳で殴りかかる零次に何度目かの回復をかけるイスフェリア。
零次は火竜が地上に降りてからはワイバーンから降り、真っ向勝負を挑んでいた。
いくら地上に降りたとはいえ、身一つで戦うには荷が重い相手だ。
火竜の物理攻撃は研司が放つ妨害射撃『EEE』が大分回数を減らしてくれているが、それでも防ぎきれるものではない。
幾度となくブレスで焼かれ、強靭な尻尾で薙ぎ払われて……それでも何とか立っているのは零次の気合ゆえだろうか。
焼け焦げた彼の装備と髪を見て、まよいがため息をつく。
「零次ー。そろそろ下がったら? 次の攻撃耐えられないでしょ」
「うっせ!! 次こそあの尻尾捕まえてやる!」
「強がっちゃってもー! 髪の毛全部燃えてハゲても知らないからねー!」
悪戯っぽく言うまよい。続く短い詠唱。
何度目かの氷の矢が火竜の硬い鱗を穿つ。
その様子を見ながら、奏音は考えていた。
――私がきちんと黒曜封印符を活性化してきていれば、きっとここまで戦闘が長引かずに済んだ。
それでも。今この状況で、私に出来る精一杯を……!
声を張り上げて歌う彼女。こうなれば声が枯れても、血を吐いても。
この竜を滅ぼすまではこの歌を歌い続ける……!!
砲撃の雨を降らせていたディヤーは操縦桿を握ったまま矢を放ち続けている研司に声をかける。
「のう、研司殿。そろそろ弾切れのお時間じゃ。仕上げに入るとしようかの?」
「俺もそろそろスキルが尽きそうだ。イスフェリアさんは?」
「私も回復、あと数回が限度かな」
「私もそろそろ弾切れだよー! あと奏音がそろそろ血吐きそうー!」
イスフェリアとまよいの返答に、そろそろ仲間達の限界が近いことを悟って、研司は意を決して大地に蠢く火竜を見つめる。
――翼をもがれ、足を潰され、それでも怒りに任せて暴れ続けている。
この哀れな竜を、一刻も早く眠らせてやらなくては……。
「よし。とっておきお見舞いするか! 零次さん、尻尾捕まえるなら最後のチャンスだよ!」
「……了解! 任せとけ!!」
聞こえた2人の声。再び火竜の前に踊り出る零次。
ディヤーの蜂のように素早い連撃。それが面倒に感じたのか。彼女を薙ぎ払うべく大きな尻尾を振り回して――。
跳躍で尻尾を避けた彼女の代わりに滑り込んだ零次。
尻尾の勢いと自らの動きを合わせ、力をいなし……そのまま尻尾を掴んで抑え込む。
「ぬおおおっ!!」
気合を入れる零次。通常の敵であれば余裕で抑え込める筈だが、さすがに竜本体をなぎ倒すまでには至らない。
だが、尻尾くらいなら――!!
「研司! ディヤー! 今だ! 全弾ぶちこめ!!」
「了解!」
「任せておくのじゃ!」
2人に反応する火竜。
――弓に矢を番える研司を特に警戒する。
幾度となく水の魔矢を撃ち込まれている。今回もそうだろうと踏んでいたが――。
「……!?」
「残念じゃったの! 研司殿は囮じゃ!!」
いつまでも飛来せぬ矢。
火竜が異変に気付き、炎で薙ぎ払おうと口を開けたその場所へ、ディヤーの砲撃が叩き込まれる。
「……今だ、竜葵! 光に消えろ、竜の骸!!」
主の命に嘶く蒼いワイバーン。
その身から光が溢れ――無数の光線が放出し、火竜へと降り注ぐ――!
――オオオオオォ!
響き渡る火竜の咆哮。大地を震わせるその声は怒りに満ちて――。
歪虚となっても痛みは感じるのだろうか? 分からないが……強欲に支配されたその身は開放されるはずだ。
「……助けにくるのが遅くなってごめんな。ゆっくり休んでくれ」
研司の呟きは届いただろうか――。
それからまもなく火竜は塵となって、跡形もなく消え……荒野に、静けさが戻った。
火竜を倒した報告をすべく戻って来たハンター達。それを出迎えたのはアズラエルだった。
「……へえ。ちゃんとあの火竜退治してきてくれたんだ。君達結構律儀なんだね」
「アズラエルがそう言ったからでしょ! 見てよ! 零次なんて焦げ焦げなんだからね!」
「そうじゃそうじゃ! 禿げたらどうしてくれるんじゃ!」
「俺のことはいいんだよ!! つーか禿げないっての!!」
言い募るまよいとディヤーに慌てる零次。
奏音はこほんと咳払いをすると、神官長を見つめる。
「……私達は約束を果たしました。アズラエルさんも約束を果たして戴けますか?」
「勿論。約束には約束で応えるべきだ。僕達青龍配下の神官は、白龍、及び白龍の巫女、部族会議の面々を歓迎するよ」
「それじゃあ……」
「ああ、大手を振って青龍様に会うといい」
「やったーーーー!!」
思わず万歳をする研司の横でバタルトゥが頭を下げる。
「……神官長の配慮に感謝する」
「こちらこそ。試すようなことをして悪かったね。さぞ腹黒い神官長だと思っただろう?」
「うん。正直……」
「大分……。ナディアの紹介状だって渡したのに」
ぼそりと本音を吐露する研司とまよい。アズラエルはクククと笑いを漏らす。
「君達は本当正直だね。……長きに渡る龍の支配で生きて来たこの地の人間達は思いの他頭が固くてね。ナディアを裏切り者だと言うものが少なからずいる。こうして貰うのが一番スムーズだったんだよ」
青龍の支配の元で暮らして来た人間達。
いずれナディアが育てた援軍を連れて戻って来ると信じていたのだろう。
――その間に世界の守護者であるはずの龍は次々と消え、青龍の存在は忘れ去られた。
青龍を絶対と信じているからこそ、同じヒトへの失望は深かったのかもしれない。
「過去の蟠りは捨てるべきだと皆気づくだろう。青龍様はもう人の子もナディアもお赦しになられている。その上で、君達は力と誠意を示したんだからね」
「……それより、これからどうするか、だな。……この先は、新たな関係を築けると良いのだが」
「勿論、そうしたいところだね」
差し出されたバタルトゥの手を握り返すアズラエル。
――これから、青龍と幼き白龍が出会う。
手を取り合う部族会議の大首長と青龍の神官長の姿が、何だか心地よい。
「龍の成長かあ……。ヘレ、目を覚ましたら、どんな風に変わるんだろう」
「いきなり大きくなったりするのかなあ。ちょっと楽しみだよね」
「辺境の民としても白龍様の成長に立ち会えるのは幸運なことなのじゃ」
「健やかに育ってくれるといいですね」
微笑み合うイスフェリアとまよい。白龍の可能性にディヤーと奏音は目を細めて――それを聞いていた研司と零次がへなへなと座り込んだ。
「あぁ……気が抜けたら急に身体痛い……」
「そう言われてみれば俺もだ……」
「おや。随分とお疲れのようだね。良かったらお茶でも飲んでいくかい?」
「いいの!?」
「ああ、傷の手当ても必要だろう。今手配するよ」
「……急に優しくされると何かくすぐったいね」
「別に君達が望むならこれまで通りの対応にしても構わないが?」
「そんなこと言ってないでしょ! アズラエルのいじわる!!」
「これは失礼。元々こういう性格なのでね」
まよいとアズラエルのやりとりに笑う仲間達。
新たな始まりの予感。
白龍の成長に、ハンター達の胸は期待に高鳴るのだった。
その気流を利用して滑空する炎の竜は、遠目からでもハッキリ見ることができた。
「結構デカいな……」
「あの竜、何でこんなところに1匹でぽつんといるんだろ。それをわざわざ私達に退治して欲しいなんて……」
赤い竜を目で追う輝羽・零次(ka5974)。夢路 まよい(ka1328)の呟きに、彼は竜を見据えたまま思考を巡らせる。
――政治の道具にされるというのは気の毒な気もしたが……あれが強欲の残党だと言うのであれば、同情する意味も無い。
放っておけば遅かれ早かれ世界に破壊を撒き散らすのだから。
「ナディアからの紹介状も貰ってきたんだし、アズラエルもケチ臭いこと言わずに、そのまま青龍に会わせてくれてもいいのにね」
「協力体制になってはいても、過去のことで、思うところのあるひともいるんだろうね」
続いたまよいの声にため息をつくイスフェリア(ka2088)。藤堂研司(ka0569)もその瞳に赤い竜を映す。
この戦いにどういった意味があるのか――すべての答えは出ないけれど。それでも。
「……龍園の上の人達の真意はわからん。だが、それを差っ引いても、竜の成れの果ては見るに忍びねぇ」
「今回のことだけで心証がよくなるわけじゃないとは思うけれど、真摯さを伝えるためにも依頼を成功させなきゃ、だね」
「そうですね。ヘレのためにもまずはこの頼まれごとを終わらせましょう」
「うむ! 辺境の為と云われれば、その民に否やはあるまい!」
イスフェリアに頷く夜桜 奏音(ka5754)。辺境の民であるディヤー・A・バトロス(ka5743)は部族会議の大首長であるバタルトゥの同行が嬉しくて仕方ないのか、今回の仕事に対する気合も十分だった。
研司はバタルトゥ・オイマト(kz0023)に向き直ると、トランシーバーを手渡す。
「……研司。これは……?」
「連絡用のトランシーバーだよ。俺達が戦ってる間、地上からヤツの動きを観測して伝えてくれると嬉しいな」
「しかし……」
「大首長様! 指揮官というのは後方で指示を出す役割なのじゃ! ワシ知っておるぞ!」
「ああ、偉いさんがドーンと後ろに居てくれんのは頼もしいしね!」
ディヤーと研司の言葉に戸惑うバタルトゥ。
その様子から前線に立つ気満々だったことが伺えて、イスフェリアは苦笑する。
――ヴェルナーに毎度嗜められても、大切なもののために動く彼は、鉄仮面の内に熱いものを秘めているんだろうと思う。
勿論立場も大切だけれど……そういう時に迷わず実行に移せる人柄は、とても素敵だと思うし好きだなーなんて思ったりして……。
「……どうした、イスフェリア。……俺の顔に何かついているか?」
「ん? ううん。何でもないよ! じゃあ行こっか!」
「ああ。あいつに引導を渡すぞ!」
バタルトゥの声で我に返るイスフェリア。零次の言葉に仲間達も頷いてユニットに跨り……滑るよう空へと舞い上がり、行動を開始した。
「火竜、こっちに気付いたみたい!」
「こっちも大きいの連れてますし仕方ないですね……」
刻令ゴーレムの陰から空を見上げるイスフェリア。
ワイバーンの背の上から淡々と言う奏音。
研司と零次もまた、ワイバーンに騎乗したまま叫ぶ。
「それじゃ皆、手筈通りによろしく!」
「おう! さっさとあいつを地面に叩き落としてくれ」
「任せておくのじゃ!」
R7エクスシアの操縦席でニヤリと笑うディヤー。
まよいが散開した仲間達と濡羽色の羽をもつグリフォンに声をかける。
「皆ストップ! それ以上前に出ないでね! イケロス、この高度維持して!」
――全てを無に帰せ。
続いた短い詠唱。現れた禍々しい紫色の球体。そこに引きつけられるように、ガクンと火竜の身体が傾ぐ。
「……こちらバタルトゥ。竜の飛行速度が遅くなった。そのまま……いや、待て。ブレスが来る」
火竜の苦しげな咆哮。バタルトゥの通信の直後、八つ当たりのように吐き出される炎のブレス。
一気に距離を詰めた零次の腕を掠めて焦がす。
「うお?! あっち!!」
「零次さん、近づきすぎだよ!」
「近づかないと囮になれねえだろ!」
イスフェリアと零次がこんなやりとりをしている間、ブレスを避けたディヤーと研司は火竜を挟むように位置取りをしていた。
「ふふーん! ブレスなど当たらなければどうということはないのじゃ! 行くぞ研司殿!」
「OK! 移動は任せた、竜葵!」
動きの鈍い火竜。ほぼ同時に放たれた砲撃。
それは全弾、竜の翼に命中したが……傷ついた様子がなく、まよいが目を見開く。
「うっそでしょ!? あの羽根薄そうなのに!」
「硬くてダメージが通りにくいなら……まずはこれです」
苦しげな火竜の唸り声。その様子から見てもダメージは行っているのだろうが。
完全に足止め出来ねば意味はない――。
奏音は、滑るように距離を詰めると、きびきびとした迫力のある歌を歌い始める。
「オラオラ! お前の相手はこの俺だ!!」
ワイバーンに騎乗したまま竜の目の前に滑り込む零次。
……本当は降りて直接殴りに行く気満々だったのだが、いくら行動阻害が効いているとはいえ、自分の足では火竜の速度に追いつけそうにない。
直接対決は叩き落とすまでお預けだ。
精々上手いこと竜を煽らないと――。
思うように動けず、ちらちらと飛び回る虫のような存在に苛立ったのか、火竜は大きく羽ばたいて風を起こす。
「羽ばたき来てるよ! 気を付けて!」
咄嗟にゴーレムの後ろに隠れたイスフェリア。
次の瞬間、巻き起こる突風。
比較的近くにいた零次と奏音、まよいが巻き込まれた。
「くそっ……!」
「もう! 何すんのよ! 奏音さん、マーキスソング続けて!」
「言われなくても……!」
吹き飛ばされて傾くワイバーン。慌てて体勢を立て直す零次。
突風で途切れかけた歌を紡ぐ奏音。
旋回して距離を取ったまよい。続く詠唱。鋭い氷の矢が音もなく火竜に迫る――。
――グオオオオ……!!
「届かないと思った!? 残念でした! マテリアルで飛距離調整済よ!!」
火竜の怒りの咆哮にぺろりと愛らしく舌を出すまよい。
赤い鱗を穿つ氷の矢は思いの他痛かったらしい。氷で動きを阻害されながらも、ゆっくり頭を擡げて彼女の方を見る。
「えっ。もしかして恨み買っちゃった!? 矢が痛いのは半分くらい奏音さんのお陰なんだけどな!?」
「その分は引き受ける! まよいと奏音は下がってろ!」
2人の間に滑り込むように竜の前に立ち塞がる零次。
ブレスを吐こうとしているのか、口を開いたところで……ギャッという短い悲鳴が響いた。
「……なんじゃ。この間会った強欲竜は喋っておったがこやつは喋らんのか。頭も悪いようじゃのー。真打に気付かんとは」
つまらなそうに言うディヤー。真横から飛び込んできた一条の光。宝石のように煌びやかなR7エクスシアから放たれた槍の一撃。
それは確かに羽根を突いて――火竜は大きくバランスを崩す。
「お前の弱点は聞いているぜ! ――往け、白き水の魔矢!」
「Volcanius、攻撃は皆に合わせて! お願いね!」
続く研司。マテリアルを視力と感覚、複数番えた矢に集中させ、火竜の左側の翼目掛けて一気に引き放つ――!
そしてイスフェリアの刻令ゴーレムの砲撃が、歪虚の身体に雨霰のように降り注いだ。
研司の矢に刺し貫かれ、左翼に深刻なダメージを負ったのか再び吠える火竜。
――まだ落ちない。落ちてはいないが時間の問題か……。
右の翼の力だけで何とか飛翔しようとするそれに、ハンター達は追い縋る。
「逃がしませんよ……!!」
一旦歌を止めた奏音。すぐさま符を空に放ち、光の結界を組み上げる。
眩い閃光。鱗の焼ける匂い。方向感覚を失った竜は首を捻って炎を撒き散らす。
「ブレス来たぞ!! 避けろ!」
「わぁっ!! イケロス上昇!!」
「よしきた! カウンタマジック……ってあっぢ!! あぢぢぢぢぢ!! ジャウハラの装甲が焼けたらどうするんじゃバカモノーーー!!」
一撃入れようとするも咄嗟に距離を取る零次とまよい。
ディヤーがカウンターマジックを試みるも、炎のブレスは消える様子はなく――白いR7エクスシアの装甲から焦げた匂いを放つ。
「ディヤーさん、大丈夫!? 今回復するから!」
「おお、助かる! じゃがこれでハッキリしたぞ! このブレスは魔法由来ではない!」
「了解! 俺の隠し玉が効くって訳だな! 奏音さん、もう1回マーキスソングお願い!」
「承りました!」
精霊に祈りを捧げて傷を癒すイスフェリア。
身体を張ってブレスの性質を証明したディヤーに感謝しつつ叫ぶ研司。
その通信に頷いた奏音は、再び力強い歌を紡ぐ。
「さーて! ダメージ与えながら行動阻害行っちゃうよ☆ あ、零次。また竜のヘイト買ったら嫌だから、盾役宜しくね!」
「了解。あいつが落ちるまで俺が出来ることはそんくらいだからな。思いっきり打ち込んでやれ!」
「かしこまりィ☆」
にっこりと笑うまよい。零次の背中越しに見える火竜。
そこ目掛けて氷の矢を放つ。
それに合わせるように、研司が矢を番える。
「制空権は俺達のものだ!! 絶対、空に逃がさん!!!」
「狙いは右翼じゃ! 総員撃てェーー!!」
戦場に響くディヤーの声。同時に放たれる砲撃。
聞こえるのは凍り付いた音。そして鱗を突き破る音――。
翼を封じられた火竜は鈍い音を立てて地面へ墜落した。
「皆さん、ここからが本番ですよ! 私が黒曜封印符を使いますから……」
言いかけた奏音。固まる彼女に、イスフェリアが首を傾げる。
「奏音さん、どうかした?」
「……黒曜封印符を活性化してくるのを忘れたようです」
「えええええ! 奏音に動き封じてもらってボコボコにする予定だったのにー!!」
「まあ、何にせよやることは変わらないな。ひたすら殴るっきゃねえ」
ガビーンとショックを受けるまよいに汗をぬぐいながら言う零次。
それに研司とディヤーも頷く。
「そうだね。引き続き脚を狙おう。走って逃げられたらたまらないからね」
「うむ。引き続きチクチクと狙撃してくれようぞ! 行くぞ!」
――火竜との戦闘は長い時間を要した。
水と氷属性に弱い性質。既に翼は破壊した。
竜の弱点は明らかだし、空へと逃げる手段は封じたし、後はひたすらダメージを与えるだけなのだが何しろ身体が大きい。
しかも、初盤からハンター優位で進んでいた為か、竜の怒りは最高潮で……怒り狂い、暴れる巨体を抑え込むのはなかなか骨が折れる作業だった。
氷の嵐を遮るように炎のブレスが吐かれ、その隙間を縫うように拳と砲弾が行き交う。
「くっそ。硬ぇな……!」
「零次さん、そのナックル火属性じゃないの? それで殴るなんて無謀だよ……!」
「この拳がどこまで通じるか試したいんだよ!」
「そんなこと言って、もうボロボロじゃない! 髪の毛も焦げてるし!」
「ブレスが思いの外火力強いんだよ! 仕方ないだろ!」
火竜の前に飛び出しては、直接拳で殴りかかる零次に何度目かの回復をかけるイスフェリア。
零次は火竜が地上に降りてからはワイバーンから降り、真っ向勝負を挑んでいた。
いくら地上に降りたとはいえ、身一つで戦うには荷が重い相手だ。
火竜の物理攻撃は研司が放つ妨害射撃『EEE』が大分回数を減らしてくれているが、それでも防ぎきれるものではない。
幾度となくブレスで焼かれ、強靭な尻尾で薙ぎ払われて……それでも何とか立っているのは零次の気合ゆえだろうか。
焼け焦げた彼の装備と髪を見て、まよいがため息をつく。
「零次ー。そろそろ下がったら? 次の攻撃耐えられないでしょ」
「うっせ!! 次こそあの尻尾捕まえてやる!」
「強がっちゃってもー! 髪の毛全部燃えてハゲても知らないからねー!」
悪戯っぽく言うまよい。続く短い詠唱。
何度目かの氷の矢が火竜の硬い鱗を穿つ。
その様子を見ながら、奏音は考えていた。
――私がきちんと黒曜封印符を活性化してきていれば、きっとここまで戦闘が長引かずに済んだ。
それでも。今この状況で、私に出来る精一杯を……!
声を張り上げて歌う彼女。こうなれば声が枯れても、血を吐いても。
この竜を滅ぼすまではこの歌を歌い続ける……!!
砲撃の雨を降らせていたディヤーは操縦桿を握ったまま矢を放ち続けている研司に声をかける。
「のう、研司殿。そろそろ弾切れのお時間じゃ。仕上げに入るとしようかの?」
「俺もそろそろスキルが尽きそうだ。イスフェリアさんは?」
「私も回復、あと数回が限度かな」
「私もそろそろ弾切れだよー! あと奏音がそろそろ血吐きそうー!」
イスフェリアとまよいの返答に、そろそろ仲間達の限界が近いことを悟って、研司は意を決して大地に蠢く火竜を見つめる。
――翼をもがれ、足を潰され、それでも怒りに任せて暴れ続けている。
この哀れな竜を、一刻も早く眠らせてやらなくては……。
「よし。とっておきお見舞いするか! 零次さん、尻尾捕まえるなら最後のチャンスだよ!」
「……了解! 任せとけ!!」
聞こえた2人の声。再び火竜の前に踊り出る零次。
ディヤーの蜂のように素早い連撃。それが面倒に感じたのか。彼女を薙ぎ払うべく大きな尻尾を振り回して――。
跳躍で尻尾を避けた彼女の代わりに滑り込んだ零次。
尻尾の勢いと自らの動きを合わせ、力をいなし……そのまま尻尾を掴んで抑え込む。
「ぬおおおっ!!」
気合を入れる零次。通常の敵であれば余裕で抑え込める筈だが、さすがに竜本体をなぎ倒すまでには至らない。
だが、尻尾くらいなら――!!
「研司! ディヤー! 今だ! 全弾ぶちこめ!!」
「了解!」
「任せておくのじゃ!」
2人に反応する火竜。
――弓に矢を番える研司を特に警戒する。
幾度となく水の魔矢を撃ち込まれている。今回もそうだろうと踏んでいたが――。
「……!?」
「残念じゃったの! 研司殿は囮じゃ!!」
いつまでも飛来せぬ矢。
火竜が異変に気付き、炎で薙ぎ払おうと口を開けたその場所へ、ディヤーの砲撃が叩き込まれる。
「……今だ、竜葵! 光に消えろ、竜の骸!!」
主の命に嘶く蒼いワイバーン。
その身から光が溢れ――無数の光線が放出し、火竜へと降り注ぐ――!
――オオオオオォ!
響き渡る火竜の咆哮。大地を震わせるその声は怒りに満ちて――。
歪虚となっても痛みは感じるのだろうか? 分からないが……強欲に支配されたその身は開放されるはずだ。
「……助けにくるのが遅くなってごめんな。ゆっくり休んでくれ」
研司の呟きは届いただろうか――。
それからまもなく火竜は塵となって、跡形もなく消え……荒野に、静けさが戻った。
火竜を倒した報告をすべく戻って来たハンター達。それを出迎えたのはアズラエルだった。
「……へえ。ちゃんとあの火竜退治してきてくれたんだ。君達結構律儀なんだね」
「アズラエルがそう言ったからでしょ! 見てよ! 零次なんて焦げ焦げなんだからね!」
「そうじゃそうじゃ! 禿げたらどうしてくれるんじゃ!」
「俺のことはいいんだよ!! つーか禿げないっての!!」
言い募るまよいとディヤーに慌てる零次。
奏音はこほんと咳払いをすると、神官長を見つめる。
「……私達は約束を果たしました。アズラエルさんも約束を果たして戴けますか?」
「勿論。約束には約束で応えるべきだ。僕達青龍配下の神官は、白龍、及び白龍の巫女、部族会議の面々を歓迎するよ」
「それじゃあ……」
「ああ、大手を振って青龍様に会うといい」
「やったーーーー!!」
思わず万歳をする研司の横でバタルトゥが頭を下げる。
「……神官長の配慮に感謝する」
「こちらこそ。試すようなことをして悪かったね。さぞ腹黒い神官長だと思っただろう?」
「うん。正直……」
「大分……。ナディアの紹介状だって渡したのに」
ぼそりと本音を吐露する研司とまよい。アズラエルはクククと笑いを漏らす。
「君達は本当正直だね。……長きに渡る龍の支配で生きて来たこの地の人間達は思いの他頭が固くてね。ナディアを裏切り者だと言うものが少なからずいる。こうして貰うのが一番スムーズだったんだよ」
青龍の支配の元で暮らして来た人間達。
いずれナディアが育てた援軍を連れて戻って来ると信じていたのだろう。
――その間に世界の守護者であるはずの龍は次々と消え、青龍の存在は忘れ去られた。
青龍を絶対と信じているからこそ、同じヒトへの失望は深かったのかもしれない。
「過去の蟠りは捨てるべきだと皆気づくだろう。青龍様はもう人の子もナディアもお赦しになられている。その上で、君達は力と誠意を示したんだからね」
「……それより、これからどうするか、だな。……この先は、新たな関係を築けると良いのだが」
「勿論、そうしたいところだね」
差し出されたバタルトゥの手を握り返すアズラエル。
――これから、青龍と幼き白龍が出会う。
手を取り合う部族会議の大首長と青龍の神官長の姿が、何だか心地よい。
「龍の成長かあ……。ヘレ、目を覚ましたら、どんな風に変わるんだろう」
「いきなり大きくなったりするのかなあ。ちょっと楽しみだよね」
「辺境の民としても白龍様の成長に立ち会えるのは幸運なことなのじゃ」
「健やかに育ってくれるといいですね」
微笑み合うイスフェリアとまよい。白龍の可能性にディヤーと奏音は目を細めて――それを聞いていた研司と零次がへなへなと座り込んだ。
「あぁ……気が抜けたら急に身体痛い……」
「そう言われてみれば俺もだ……」
「おや。随分とお疲れのようだね。良かったらお茶でも飲んでいくかい?」
「いいの!?」
「ああ、傷の手当ても必要だろう。今手配するよ」
「……急に優しくされると何かくすぐったいね」
「別に君達が望むならこれまで通りの対応にしても構わないが?」
「そんなこと言ってないでしょ! アズラエルのいじわる!!」
「これは失礼。元々こういう性格なのでね」
まよいとアズラエルのやりとりに笑う仲間達。
新たな始まりの予感。
白龍の成長に、ハンター達の胸は期待に高鳴るのだった。
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火竜討伐相談卓! 藤堂研司(ka0569) 人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/03/22 12:59:16 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/03/18 20:46:57 |