ゲスト
(ka0000)
【反影】エンド・オブ・ザ・ユニオン
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/03/26 19:00
- 完成日
- 2018/04/01 01:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●マゴイの決断
α・M・8658236・ステーツマンがこの新しいユニオンを認めてくれたら、ステーツマンとして一緒に仕事をしてくれたら、どんなによかっただろう。
だけどそれはもう不可能なことなのだ。
負のマテリアルによって構成され直した存在は破壊目的に向かってしか動くことが出来ない。この新しいユニオンも彼にとっては、何の興味も持てないものでしかないのだろう。
彼は既にこのユニゾン島の位置を知っている。
もしまたここに現れたなら――市民にとっての脅威である。
●もう一人の英霊
ペリニョン村の英霊ぴょこは、驚いていた。マゴイが自ら自分を訪ねて来るというのも珍しいが、その上に頼み事をしてくるのはもっと珍しい。と彼女には思えた。
マゴイとは、あれをああしなさい、これをこうしなさいと言い付けてくるものであるという先入観を持っているもので。
『……あなたにユニオンへの同行を……お願いしたい……』
『んー、ユニオンにはステーツマンがおるんじゃろ? わし、苦手じゃ。会いとうない。また色々命令されそうじゃで』
『……大丈夫、会わなくていい……ユニオンの結界の中へ入る際、一緒にいてくれればそれで……その後は異界の外へあなたを転送するから……』
『なんでわしが必要なのじゃ? おぬしは確か結界を破るすべを知っているはずじゃが』
『……マテリアルを節約したいの……α・ステーツマンに接触するまでは……だからユニオンの市民を驚かさないように……合法的に入りたいのよ……結界の中へ……』
ぴょこは短い手を顎に当てた。垂れ耳をゆらゆらさせて考え、ようやく心を定める。
『わし、すぐ外に戻してほしいのじゃ。約束じゃぞ。約束するのじゃぞ?』
『……約束するわ』
●インサイド・ユニオン
前々回の調査によりユニオンのどこに何があるのか、どんな住人がいるのか、どういうサイクルを繰り返しているのか、といった詳細が知れた。
前回の戦闘においてステーツマンはダメージを受けた。恐らくそこから、まだ完全に回復してはいないに違いない。
倒すなら今だ。放置しておくという選択肢はない。
異界は前来たときと全く変わらない姿であった。ひび割れた大地、巻き上がる土埃、光を失った太陽。
崩落が始まる音がいずこよりか聞こえてきた。巻き戻しの世界は、終末に向け着々と動いている。
結界の側まで来ると、前と全く同じ調子で男女一組のマゴイが出てきた。
しかし今回はハンターたちに、門前払いを食わせることはない。何故なら、自分たちと同じマゴイが同行していたからだ。その上ソルジャーも。
「……μ・F・92756471・マゴイ?」
「……戻ってきたのか」
『ええ……μ・F・54327482・マゴイ……μ・M・25749893・マゴイ……私は戻ってきたのよ』
顔も服装も瓜二つなのにお互いどう見分けをつけているのか。ハンターにはいまいち分からないが、とにかく彼らは彼ら同士を正確に認識している。
「……あなたが戻ってきてくれてまことによかった。見てのとおり今ユニオンは憂慮すべき事態になっているのよ」
「……すぐ会議に参加してくれないか。重要議題が山積している上に、ステーツマンの決済が滞り続けていて何も進まないので……ところで、そこの市民ではない人々は何者なのだい?」
『……彼らはユニオンに……保護を求めて来た外部者よ……』
その説明にマゴイたちはすんなり納得した。
かくしてハンターたちは、無駄に待たされる事なく結界に守られたユニオンの中へ入る。
普段通り町を闊歩していたワーカーたちは、マゴイとソルジャーが連れてきているのなら危険人間ではないのだろうと思って、通り過ぎていく。
言うまでもないがステーツマンを除くこの世界の住人すべてが、前にハンターたちが現れた時のことを記憶に止めていない。
そこに赤服の一団――ソルジャーの市街見回り部隊がやって来た。
こちらもハンターだけで乗り込んだときとは、反応が違った。
隊のリーダーである女が自分と瓜二つの容姿をしたぴょこを見て目を丸くし、ついで懐かしげに呼びかけてくる。
「お前、θ・F・92438・ソルジャーではないか! なんだ、生きていたのか! 行方不明になったと聞かされていたが!」
それを聞いたぴょこは、泣くような笑うような表情になった。
『……んむ、そうじゃ。わし、生きておったのじゃ』
「インカムはどうした?」
『それが無くしてしまっての、これから新しいの貰いにタワーへ行くところなのじゃ』
「そうか。戻ってきたら隊に加わってくれ」
『……うむ、そうするでの。また後での』
一同はそのまま、何の妨害もなくタワーへ向かった。
マゴイはその途中で、約束通りぴょこを異界の外へ転送した。
●lawness
ステーツマンは部外者がタワー内の領域に入ってきたのを感じた。
億劫そうに起き上がり、目を鋭くさせる。
回復がまだ終わっていない今戦うのは、不利である。少しでも時間稼ぎをする必要がある。
彼は壁に備え付けてあるウォッチャーを通じ命令を発した。
【ソルジャー、ソルジャー、総員タワーに集合せよ。日常任務を中断せよ。繰り返す。ソルジャー、日常任務を中断せよ、総員タワーに集合せよ。市民でないものを破壊せよ】
命令は至る所に仕掛けられたウォッチャーを通じ、タワーの内外へ放送される。
それを聞いたマゴイたちは驚いた。ステーツマンが会議も経ずこんな重大な決定を下すなど、してはならないことだからだ。
こぞってステーツマンの部屋へ殺到していく。
「ステーツマン! 一体何事ですか!」
「今の広報を取り消してください! ソルジャーの日常任務を中断させるなど、ワーカーの安全を鑑みるに……」
扉が開いた。
場に集まっていた大勢のマゴイたちが、ばたばた倒れた。ステーツマンが発した猛烈な汚染に五感を奪われ息を詰まらせ、あっけなく死んだ。
どうせこいつらは明日になればまた平気な顔をして動き回っているのだ。
そう思いながらステーツマンは、彼らの死体を踏み越える。ウテルスへ向かう。マゴイは必ずそこへ来るはずだと予想して。
後10秒、9、8、7……いつも通りウテルスが悲鳴を上げ始める。予定された終焉を迎えるために。
●終焉の場
以前来たときと同じように、ウテルスには血相を変えたマゴイたちが終結していた。どうしたことか、明らかにこの前よりも数が少ない。
『ウテルス……!』
マゴイは手当をしてやりたい衝動を懸命に押さえ、周囲に結界を張る。
そこに黒い染みが現れ、ステーツマンの形をとる。彼は両手を広げて言った。
「どうしたんだい、μ・マゴイ。何故ウテルスの救護をしないんだね」
直後ウテルスの表面が見る見る爛れ落ちていく。明らかに汚染の影響だ。
それを見たマゴイは真っ青になった。
「早くしないと死んでしまうよ?」
α・M・8658236・ステーツマンがこの新しいユニオンを認めてくれたら、ステーツマンとして一緒に仕事をしてくれたら、どんなによかっただろう。
だけどそれはもう不可能なことなのだ。
負のマテリアルによって構成され直した存在は破壊目的に向かってしか動くことが出来ない。この新しいユニオンも彼にとっては、何の興味も持てないものでしかないのだろう。
彼は既にこのユニゾン島の位置を知っている。
もしまたここに現れたなら――市民にとっての脅威である。
●もう一人の英霊
ペリニョン村の英霊ぴょこは、驚いていた。マゴイが自ら自分を訪ねて来るというのも珍しいが、その上に頼み事をしてくるのはもっと珍しい。と彼女には思えた。
マゴイとは、あれをああしなさい、これをこうしなさいと言い付けてくるものであるという先入観を持っているもので。
『……あなたにユニオンへの同行を……お願いしたい……』
『んー、ユニオンにはステーツマンがおるんじゃろ? わし、苦手じゃ。会いとうない。また色々命令されそうじゃで』
『……大丈夫、会わなくていい……ユニオンの結界の中へ入る際、一緒にいてくれればそれで……その後は異界の外へあなたを転送するから……』
『なんでわしが必要なのじゃ? おぬしは確か結界を破るすべを知っているはずじゃが』
『……マテリアルを節約したいの……α・ステーツマンに接触するまでは……だからユニオンの市民を驚かさないように……合法的に入りたいのよ……結界の中へ……』
ぴょこは短い手を顎に当てた。垂れ耳をゆらゆらさせて考え、ようやく心を定める。
『わし、すぐ外に戻してほしいのじゃ。約束じゃぞ。約束するのじゃぞ?』
『……約束するわ』
●インサイド・ユニオン
前々回の調査によりユニオンのどこに何があるのか、どんな住人がいるのか、どういうサイクルを繰り返しているのか、といった詳細が知れた。
前回の戦闘においてステーツマンはダメージを受けた。恐らくそこから、まだ完全に回復してはいないに違いない。
倒すなら今だ。放置しておくという選択肢はない。
異界は前来たときと全く変わらない姿であった。ひび割れた大地、巻き上がる土埃、光を失った太陽。
崩落が始まる音がいずこよりか聞こえてきた。巻き戻しの世界は、終末に向け着々と動いている。
結界の側まで来ると、前と全く同じ調子で男女一組のマゴイが出てきた。
しかし今回はハンターたちに、門前払いを食わせることはない。何故なら、自分たちと同じマゴイが同行していたからだ。その上ソルジャーも。
「……μ・F・92756471・マゴイ?」
「……戻ってきたのか」
『ええ……μ・F・54327482・マゴイ……μ・M・25749893・マゴイ……私は戻ってきたのよ』
顔も服装も瓜二つなのにお互いどう見分けをつけているのか。ハンターにはいまいち分からないが、とにかく彼らは彼ら同士を正確に認識している。
「……あなたが戻ってきてくれてまことによかった。見てのとおり今ユニオンは憂慮すべき事態になっているのよ」
「……すぐ会議に参加してくれないか。重要議題が山積している上に、ステーツマンの決済が滞り続けていて何も進まないので……ところで、そこの市民ではない人々は何者なのだい?」
『……彼らはユニオンに……保護を求めて来た外部者よ……』
その説明にマゴイたちはすんなり納得した。
かくしてハンターたちは、無駄に待たされる事なく結界に守られたユニオンの中へ入る。
普段通り町を闊歩していたワーカーたちは、マゴイとソルジャーが連れてきているのなら危険人間ではないのだろうと思って、通り過ぎていく。
言うまでもないがステーツマンを除くこの世界の住人すべてが、前にハンターたちが現れた時のことを記憶に止めていない。
そこに赤服の一団――ソルジャーの市街見回り部隊がやって来た。
こちらもハンターだけで乗り込んだときとは、反応が違った。
隊のリーダーである女が自分と瓜二つの容姿をしたぴょこを見て目を丸くし、ついで懐かしげに呼びかけてくる。
「お前、θ・F・92438・ソルジャーではないか! なんだ、生きていたのか! 行方不明になったと聞かされていたが!」
それを聞いたぴょこは、泣くような笑うような表情になった。
『……んむ、そうじゃ。わし、生きておったのじゃ』
「インカムはどうした?」
『それが無くしてしまっての、これから新しいの貰いにタワーへ行くところなのじゃ』
「そうか。戻ってきたら隊に加わってくれ」
『……うむ、そうするでの。また後での』
一同はそのまま、何の妨害もなくタワーへ向かった。
マゴイはその途中で、約束通りぴょこを異界の外へ転送した。
●lawness
ステーツマンは部外者がタワー内の領域に入ってきたのを感じた。
億劫そうに起き上がり、目を鋭くさせる。
回復がまだ終わっていない今戦うのは、不利である。少しでも時間稼ぎをする必要がある。
彼は壁に備え付けてあるウォッチャーを通じ命令を発した。
【ソルジャー、ソルジャー、総員タワーに集合せよ。日常任務を中断せよ。繰り返す。ソルジャー、日常任務を中断せよ、総員タワーに集合せよ。市民でないものを破壊せよ】
命令は至る所に仕掛けられたウォッチャーを通じ、タワーの内外へ放送される。
それを聞いたマゴイたちは驚いた。ステーツマンが会議も経ずこんな重大な決定を下すなど、してはならないことだからだ。
こぞってステーツマンの部屋へ殺到していく。
「ステーツマン! 一体何事ですか!」
「今の広報を取り消してください! ソルジャーの日常任務を中断させるなど、ワーカーの安全を鑑みるに……」
扉が開いた。
場に集まっていた大勢のマゴイたちが、ばたばた倒れた。ステーツマンが発した猛烈な汚染に五感を奪われ息を詰まらせ、あっけなく死んだ。
どうせこいつらは明日になればまた平気な顔をして動き回っているのだ。
そう思いながらステーツマンは、彼らの死体を踏み越える。ウテルスへ向かう。マゴイは必ずそこへ来るはずだと予想して。
後10秒、9、8、7……いつも通りウテルスが悲鳴を上げ始める。予定された終焉を迎えるために。
●終焉の場
以前来たときと同じように、ウテルスには血相を変えたマゴイたちが終結していた。どうしたことか、明らかにこの前よりも数が少ない。
『ウテルス……!』
マゴイは手当をしてやりたい衝動を懸命に押さえ、周囲に結界を張る。
そこに黒い染みが現れ、ステーツマンの形をとる。彼は両手を広げて言った。
「どうしたんだい、μ・マゴイ。何故ウテルスの救護をしないんだね」
直後ウテルスの表面が見る見る爛れ落ちていく。明らかに汚染の影響だ。
それを見たマゴイは真っ青になった。
「早くしないと死んでしまうよ?」
リプレイ本文
●管理者出現の少し前
ウテルスに入った天竜寺 詩(ka0396)は、魔道カメラを懐にしまう。ここへ来る途中ワーカーたちを撮影してきたのだ。いつかスペットの顔を戻すとき、参考データになれば、と。
目の前にあるのは死にかけているウテルス。その回復のため半狂乱に動き回っているマゴイ『たち』。マゴイたちの数が妙に少ないことを除き、前回と全く一緒の展開だ。
マゴイはウテルスを凝視している。堅く握りこんだ手が震えている。ウテルスの治癒が出来ないということが、相当な心理的負担となっているらしい。
ルベーノ・バルバライン(ka6752)が彼女の耳元に口を近づけ何か言い、髪の毛を掬い上げキスをした。
マゴイは握り締めていた手の力を抜き、周囲に結界を張る。
そこに――ステーツマンが現れた。
●管理者出現
マゴイの動揺を屁とも感じていない調子で、ステーツマンが言う。
「ウテルスの治療をしたまえμ・マゴイ。君はマゴイなのだから、マゴイとしての責務を果たさなければならないだろう?」
すでにマゴイ『たち』はステーツマンに言われるまでもなく、盲目的な介抱を始めている。
詩はまず仲間たちに、茨の祈りをかけた。続けて彼らの武器にホーリーセイバーをかけた。
「マゴイ、忘れないで! ここは過去の出来事を繰り返すだけの世界。例え仮に今ウテルスを治療出来たとしても明日にはまた死んじゃうんだよ!」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)はウテルスに向け、ピュリファイケーションを発動する。
「疑え、反抗の時だμ・マゴイ! 奴はステーツマンの姿形をしただけの″悪″だ! ユニオンの法も教育も関係ねェ! 自我に目覚めろμ・マゴイ!」
エーミ・エーテルクラフト(ka2225)は結界術を発動する。続けて修祓陣も。ウテルスを守護せんとするマゴイたちを守るために。
ウテルスの周囲を光が取り囲んだ。その側にマルカ・アニチキン(ka2542)が陣取った。全身をカヴァーチャ・カルナで鎧った彼女もまた光の塊となっている。サングラスをかけた顔以外は。
「私はユニゾンの名前を提案して、マゴイさんと島の縁を強くした貢献者の一人、マルカ・アニチキンですっ! いざ尋常に勝負!」
ステーツマンはさも疎ましそうにそれを眺めた。咆哮が放たれる。
マルカは魔法強力洗浄で応じたが、汚染の方が僅差で勝つ。完全には打ち消し切れない。
心身両面にすさまじい圧力がかかり、身動きが取れなくなる。
キャリコ・ビューイ(ka5044)は咆哮を止めるべく、魔導銃を掲げた。高い天井に向けて その際ちらとウテルスを横目にする。
報告書によればこの世界では全ての人間があれから生まれてくるそうだ。幸福な共同体社会を作るのだという理念に基づいて。
「まるで此処は……リアルブルーの物語の”ディストピア”その物だな……とても、俺の様な者には生きられない世界だ……」
マテリアルを纏った弾丸が光の雨となり、ステーツマンの動きを阻害した。
そこにルベーノ・バルバライン(ka6752)が飛び込んで行く。シガレットからウォーターアーマーを受けて。
光の加護を受けた拳が、ステーツマンの腹に入る。
顔を歪めたステーツマンは彼の腕を掴んだ。おもちゃを振り回すようにして床に叩きつける。
魔法で飛躍的に防御力が増しているとはいえ、それでもかなりのダメージを受ける。
後衛で機をうかがっていた仙道・宙(ka2134)はセレスティア(ka2691)に目配せしてからアイスボルトを撃った。
ステーツマンはそれを回避する。
そこに間髪入れずセレスティアが、盾をかざして回り込んだ。
「あなたの相手は、止めるのは私たちです!」
2人の息を合わせた攻撃でステーツマンに隙が生まれた。
機を逃さずルベーノは鎧通しを食わせ、掴んだ腕を外させる。距離を取る。
血の滲む口から荒い息を吐き、さも哀れがっているような視線を向けた。未開人と見なす相手から罵倒されるより憐れまれる方が矜持を傷つけるだろうと睨んで。
「お前も結局はウテルスと共に死に続ける定めだ。それから逃れたくて歪虚の甘言に乗ったのだろう? ユニオンのトップだったはずの男が……哀れだな、ステーツマン。過去に死んだお前もウテルスも、等しく俺達が眠らせよう」
ついでに以下の言葉も付け加えた。
「それにしてもμが心底愛想を尽かしていることすら分からんとは……実に哀れな知能の減退ぶりだな。他人事ながら泣けてくるぞ」
ステーツマンの目が銀から赤に変わった。
音としても表現も認識も出来ないような段違いの咆哮が、ステーツマンの口からほとばしり出る。
それを真正面から受けたルベーノは広い空間の壁ぎわまで吹き飛んだ。比喩ではなく骨が砕けるほどの強い衝撃だ。ぐしゃりと床に崩れ落ちる。
そこで詩が白竜の翼を発動した。虹色の翼が彼女の背から広がる。
ステーツマンは奇妙な表情をし動きを止めた。
だが、ほんの一瞬だけのこと。すぐ思考の空白から立ち直る。詩が用意していた問いを発するいとまもなく。
「悪党のいいようにはさせないぜェ!」
間合いを詰め魔杖で殴り掛かってくるシガレットを回避し、咆哮を発する。
しかし発した攻撃はすべて彼自身に跳ね返った。
「――!?」
壁までは吹き飛ばされなかったもののダメージは確実に来た。腹を折り口から黒い体液を吐き出す。
回復と浄化を終えたルベーノが、再び挑発に入った。
「お前は怠惰ではなく嫉妬の歪虚のようだな、ステーツマン。お前が過去にμを引き摺りこもうとしても、俺達がμと共に未来を目指す。お前にはμもμの未来も決して渡さん」
●ウテルスの守護者
ハンターたちが繰り出す浄化魔法によって空間全体の汚染度が軽減していく。
それに伴いマゴイたちも、幾分落ち着いてきた。そして周囲で何が起きているかを理解し始めた。
脅えと警戒を滲ませボソボソ囁きかわす。
「……ステーツマンが……ウテルスを攻撃した……」
「……部外者がウテルスで暴れている……」
エーミは彼らに話しかける。マゴイの口添えを得て。
「心配しないで、私たちは敵ではないわ」
『……この人たちは大丈夫……ユニオンに理解者がある外部者だから……ウテルスに害を及ぼしたりしない……』
マゴイたちは顔を見合わせた。
聞く態勢は出来たらしいと見て、エーミが続ける。
「そういえば、席を外れ不規則発言を行ってはならないというルールは、この場で話すことも禁じるの?」
「……いいえ、それは会議に適用されるルールであって、この場には当てはまらない」
「そう、じゃあ……」
とエーミは、ウテルスを指さした。
「器官への部外者の手助けは許されるかしら?」
「……それは禁止……ユニオン法に明記されている……」
「………部外者では扱いが分からず傷めてしまう……」
「会議データの集積所はどこにあるの?」
「……会議室だけど……」
ステーツマンの苛立った声が飛んできた。
「お前達、何を無駄話している! さっさと外部者をウテルスの外に転移しろ!」
しかしマゴイたちは言われた通りに動かなかった。
宙は意外さを感じた。この世界で最高の地位にあるであろう存在の言葉を彼らが無視したことに。
もしやシガレットの言葉のように、反抗をし始めたのだろうかと考える。
しかしそうではなかった。
「……あなたはどうもステーツマンではないように思える……」
「……ステーツマンならウテルスを傷つけたりしないはず……」
「……あなたのしたことはユニオン法に反する……全ての市民はユニオン法の手続きに従い行動しなくてはならない……」
頑迷なまでに教条主義を貫いているだけの話だった。
ステーツマンの口元が引きつる。
エーミは静かに彼を問いただした。
「あなたはこの間、自分は神様みたいなものだと言ったわね。でも、本当はそうじゃないことに、自分でも気づいているんじゃないの? 配置されただけの管理者だと。神はほかにいるのだ、と。でなければ、こんなふうにはならないものね? 皆あなたの思い通りに動いてくれて、結末を変えられるはずだものね?」
「黙れ」
汚染の波動が来た。
マルカは魔法強力洗浄を放つ。
汚染が打ち消された。
間を置かずエーミが桜幕符を仕掛けた。セレスティアの合図に応じて。
続けてセレスティアが魔導剣を抜いた。
「あなたの相手は、止めるのは私達です!」
二重になった桜吹雪の幻影が視界を塞ぐ。
光と闇の属性を受けた刃がステーツマンの喉元を掠めた。
後方からシガレットが打ちかかる。
双方の攻撃を躱したステーツマンに宙のブリザードが襲いかかった。氷結がつかの間彼の動きを鈍らせた。
そこへルベーノが挑みかかる。
ステーツマンは至近距離の咆哮で返す。
意識が飛ぶ寸前ルベーノは自己治癒を施す。間を置かず攻撃を再開する。
「貴様、いい加減に――この原人が!」
前衛が引き付けを行っている間、キャリコはステーツマンの死角に入る。
隠の徒を使って気配を殺し、誰に聞かせるでもなく1人ごちる。
「何故、お前はこんな事をするんだ? 理性的に考えて……無意味ではないのか? これでは合理的な社会とはとても言えんな」
弾はステーツマンの腰を抉った。
怒り狂った、人のものならぬ咆哮が襲ってくる。
盾の後ろに身を隠し耐える。
セレスティアが声をかけた。
「お見事、命中ですよ!」
しかし返事がない。
彼の聴覚まで汚染が進行しているのを悟り、ピュリファイケーションを施す。
宙はアイスボルトで倦むことなく、的確な後方支援を続けている。それはステーツマンの力を少しずつ、確実にそいでいく。
押されて行くステーツマンは、視線をウテルスに向けた。
●終焉の終わり。
エーミは首筋の毛が逆立つのを覚える。
(来る!)
確信に満ちた予感を受け、カウンターマジックを放つ。
空間が激しく歪む。正と負が猛烈にぶつかりせめぎあう――正がかろうじて勝ちを得た。
ステーツマンが続けての行動を起こす前に詩が、白竜の息吹を発動した。
マルカが星剣を抜き放った。
「集いし星の輝きが、新たな奇跡を照らし出す! 光さす道となれ!」
光の剣から光弾が発され、ステーツマンに向かう。
当たった。
ステーツマンの周囲に黒い霧のようなものがまといつき始めた。内側から負のマテリアルが漏れ出しているのだ。
直後、これまでで最大級の汚染と咆哮が同時に発される。
詩は最後の白竜の響きを発動した――これは、うまく効果を発揮しなかった。
エーミの作った結界が破壊される。汚染が一気に広がった。
一度は治まっていたウテルスの糜爛が加速度的に進行して行く。表面がただれ落ち血が噴き出す。
マゴイたちは悲鳴を上げ前後の見境もなくマテリアルを注ぎ始めた。
セレスティアとシガレットは残ったピュリファイケーションを、大急ぎで仲間にかけ回る。
その時ウテルスの入り口から、興奮した声が聞こえてきた。
「なんだ、開かないぞ!」
「叩きこわせ!」
ソルジャーたちだ。
マルカはそちらに顔を向けた。万一結界が破られたら、アースウォールを立ち上げようと。
マゴイたちがマゴイに言う。
「μ・F・92756471・マゴイ、手伝ってちょうだい……!」
「ウテルスが死んでしまう……!」
それに対しマゴイは、明らかに動揺していた。ウテルス全体を覆う彼女の結界が古ぼけた蛍光灯のように点滅し始める。
浄化の祈りを使い尽くした詩は、必死で彼女に呼びかけた。
「ウテルスが悲鳴をあげてるとしたらそれは死ぬ事に対してじゃない。永遠に死に続けなくちゃいけない事に対してだと私は思う。ステーツマンを倒してもこの世界は消えないかもしれないけど、可能性があるのなら――」
そこでキャリコがトリガーエンドを放った。絶対命中を運命づけられた弾丸は、たとえ狙撃主の視覚が塞がれていようとも違わず急所に食い込む。
ステーツマンの心臓に穴が空いた。そこから真っ黒な染みが広がって行く。彼自身の体を溶かし食い尽くそうとするかのように。
彼はマゴイに向かって吠える。
「μ、君は私が消えてしまってもいいというのか!」
マゴイは絞り出すような声でステーツマンに言った。
『……消えて欲しくない……あなたがもとのあなたのままだったら……でも……α・ステーツマン……あなたは……もう………』
ルベーノがステーツマンに鎧通しを放った。金剛不壊によって増した威力を乗せて。
「……お前はしてはならんところで大きく誤ったのだ、ステーツマン。最後の最後で生き汚く個を求めた。ユニオンのトップがユニオンの理念では幸せな最期を迎えられないと証明してしまった。新生ユニオンは今までとは変わる。俺もお前のようにはならん。お前の妄執を絶ちきってやろう」
ステーツマンの輪郭が崩れた。黒い染みは彼の人としての形を食い尽くしていく。
『α……』
マゴイはそれに歩み寄りかけたが、シガレットが遮る。相手が最後の足掻きを起こすかもしれないと危惧したのだ。
ああこれで最後なんだなとエーミは思った。だから聞いた。
「あなたはいったい何になりたかったの?」
「――私は――ただ1人の――1人だけの私に――1人だけのαに――」
マルカも問いを発しようとしたが、その前に染みが消えた。
周囲に満ち満ちていた汚染も引いて行く。
ウテルスから爛れが消えた。騒いでいたソルジャーたちも静まった。キツネにつままれたような顔で。
「私たちは何をしにここへ来たんだったかな?」
「さあ?」
マゴイは仲間たちに言った。
『……会議室との回線を開きましょう……今起きたことを記録しておかないと……』
「……そうだね……ユニオン始まって以来のことだ……」
「……ちゃんと残しておかないと……明日はその資料を元に会議を……」
マゴイたちは天井に両手を差し述べた。
方形の文様が現れた。そこから緑の箱が、ゆっくり降りてくる。
マゴイは首にかけていたネックレスをその箱にかざした。
そうしている間にも全てが遠ざかり消えていく。夢から覚めるときのように。
残ったのは荒地とハンターと、マゴイだけ。
●明日へ
詩は鎮魂歌を歌った。消えた世界に生きていた人々の魂が安らぐように。
エーミはマゴイが両手に握り締めている(実際は手元に浮かせているだけだが)ネックレスを見て、言った。
「データはとれた?」
『……ええ……幾らかは……』
言いながらマゴイはルベーノに顔を向ける。
『……今回も、あなたが一番ひどく傷を負ったわね……』
「何、気にするな」
と答える彼にキスをした。
『……お返しがないのはどうかと思うから……実体が無いから何も感じられないでしょうけれど……』
詩が、鎮魂歌を終えた。
「ユニゾン島の皆が待ってるよ。さ、帰ろう?」
マゴイはハンターたちと共に歩き出した。何かを振り切るように。
ウテルスに入った天竜寺 詩(ka0396)は、魔道カメラを懐にしまう。ここへ来る途中ワーカーたちを撮影してきたのだ。いつかスペットの顔を戻すとき、参考データになれば、と。
目の前にあるのは死にかけているウテルス。その回復のため半狂乱に動き回っているマゴイ『たち』。マゴイたちの数が妙に少ないことを除き、前回と全く一緒の展開だ。
マゴイはウテルスを凝視している。堅く握りこんだ手が震えている。ウテルスの治癒が出来ないということが、相当な心理的負担となっているらしい。
ルベーノ・バルバライン(ka6752)が彼女の耳元に口を近づけ何か言い、髪の毛を掬い上げキスをした。
マゴイは握り締めていた手の力を抜き、周囲に結界を張る。
そこに――ステーツマンが現れた。
●管理者出現
マゴイの動揺を屁とも感じていない調子で、ステーツマンが言う。
「ウテルスの治療をしたまえμ・マゴイ。君はマゴイなのだから、マゴイとしての責務を果たさなければならないだろう?」
すでにマゴイ『たち』はステーツマンに言われるまでもなく、盲目的な介抱を始めている。
詩はまず仲間たちに、茨の祈りをかけた。続けて彼らの武器にホーリーセイバーをかけた。
「マゴイ、忘れないで! ここは過去の出来事を繰り返すだけの世界。例え仮に今ウテルスを治療出来たとしても明日にはまた死んじゃうんだよ!」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)はウテルスに向け、ピュリファイケーションを発動する。
「疑え、反抗の時だμ・マゴイ! 奴はステーツマンの姿形をしただけの″悪″だ! ユニオンの法も教育も関係ねェ! 自我に目覚めろμ・マゴイ!」
エーミ・エーテルクラフト(ka2225)は結界術を発動する。続けて修祓陣も。ウテルスを守護せんとするマゴイたちを守るために。
ウテルスの周囲を光が取り囲んだ。その側にマルカ・アニチキン(ka2542)が陣取った。全身をカヴァーチャ・カルナで鎧った彼女もまた光の塊となっている。サングラスをかけた顔以外は。
「私はユニゾンの名前を提案して、マゴイさんと島の縁を強くした貢献者の一人、マルカ・アニチキンですっ! いざ尋常に勝負!」
ステーツマンはさも疎ましそうにそれを眺めた。咆哮が放たれる。
マルカは魔法強力洗浄で応じたが、汚染の方が僅差で勝つ。完全には打ち消し切れない。
心身両面にすさまじい圧力がかかり、身動きが取れなくなる。
キャリコ・ビューイ(ka5044)は咆哮を止めるべく、魔導銃を掲げた。高い天井に向けて その際ちらとウテルスを横目にする。
報告書によればこの世界では全ての人間があれから生まれてくるそうだ。幸福な共同体社会を作るのだという理念に基づいて。
「まるで此処は……リアルブルーの物語の”ディストピア”その物だな……とても、俺の様な者には生きられない世界だ……」
マテリアルを纏った弾丸が光の雨となり、ステーツマンの動きを阻害した。
そこにルベーノ・バルバライン(ka6752)が飛び込んで行く。シガレットからウォーターアーマーを受けて。
光の加護を受けた拳が、ステーツマンの腹に入る。
顔を歪めたステーツマンは彼の腕を掴んだ。おもちゃを振り回すようにして床に叩きつける。
魔法で飛躍的に防御力が増しているとはいえ、それでもかなりのダメージを受ける。
後衛で機をうかがっていた仙道・宙(ka2134)はセレスティア(ka2691)に目配せしてからアイスボルトを撃った。
ステーツマンはそれを回避する。
そこに間髪入れずセレスティアが、盾をかざして回り込んだ。
「あなたの相手は、止めるのは私たちです!」
2人の息を合わせた攻撃でステーツマンに隙が生まれた。
機を逃さずルベーノは鎧通しを食わせ、掴んだ腕を外させる。距離を取る。
血の滲む口から荒い息を吐き、さも哀れがっているような視線を向けた。未開人と見なす相手から罵倒されるより憐れまれる方が矜持を傷つけるだろうと睨んで。
「お前も結局はウテルスと共に死に続ける定めだ。それから逃れたくて歪虚の甘言に乗ったのだろう? ユニオンのトップだったはずの男が……哀れだな、ステーツマン。過去に死んだお前もウテルスも、等しく俺達が眠らせよう」
ついでに以下の言葉も付け加えた。
「それにしてもμが心底愛想を尽かしていることすら分からんとは……実に哀れな知能の減退ぶりだな。他人事ながら泣けてくるぞ」
ステーツマンの目が銀から赤に変わった。
音としても表現も認識も出来ないような段違いの咆哮が、ステーツマンの口からほとばしり出る。
それを真正面から受けたルベーノは広い空間の壁ぎわまで吹き飛んだ。比喩ではなく骨が砕けるほどの強い衝撃だ。ぐしゃりと床に崩れ落ちる。
そこで詩が白竜の翼を発動した。虹色の翼が彼女の背から広がる。
ステーツマンは奇妙な表情をし動きを止めた。
だが、ほんの一瞬だけのこと。すぐ思考の空白から立ち直る。詩が用意していた問いを発するいとまもなく。
「悪党のいいようにはさせないぜェ!」
間合いを詰め魔杖で殴り掛かってくるシガレットを回避し、咆哮を発する。
しかし発した攻撃はすべて彼自身に跳ね返った。
「――!?」
壁までは吹き飛ばされなかったもののダメージは確実に来た。腹を折り口から黒い体液を吐き出す。
回復と浄化を終えたルベーノが、再び挑発に入った。
「お前は怠惰ではなく嫉妬の歪虚のようだな、ステーツマン。お前が過去にμを引き摺りこもうとしても、俺達がμと共に未来を目指す。お前にはμもμの未来も決して渡さん」
●ウテルスの守護者
ハンターたちが繰り出す浄化魔法によって空間全体の汚染度が軽減していく。
それに伴いマゴイたちも、幾分落ち着いてきた。そして周囲で何が起きているかを理解し始めた。
脅えと警戒を滲ませボソボソ囁きかわす。
「……ステーツマンが……ウテルスを攻撃した……」
「……部外者がウテルスで暴れている……」
エーミは彼らに話しかける。マゴイの口添えを得て。
「心配しないで、私たちは敵ではないわ」
『……この人たちは大丈夫……ユニオンに理解者がある外部者だから……ウテルスに害を及ぼしたりしない……』
マゴイたちは顔を見合わせた。
聞く態勢は出来たらしいと見て、エーミが続ける。
「そういえば、席を外れ不規則発言を行ってはならないというルールは、この場で話すことも禁じるの?」
「……いいえ、それは会議に適用されるルールであって、この場には当てはまらない」
「そう、じゃあ……」
とエーミは、ウテルスを指さした。
「器官への部外者の手助けは許されるかしら?」
「……それは禁止……ユニオン法に明記されている……」
「………部外者では扱いが分からず傷めてしまう……」
「会議データの集積所はどこにあるの?」
「……会議室だけど……」
ステーツマンの苛立った声が飛んできた。
「お前達、何を無駄話している! さっさと外部者をウテルスの外に転移しろ!」
しかしマゴイたちは言われた通りに動かなかった。
宙は意外さを感じた。この世界で最高の地位にあるであろう存在の言葉を彼らが無視したことに。
もしやシガレットの言葉のように、反抗をし始めたのだろうかと考える。
しかしそうではなかった。
「……あなたはどうもステーツマンではないように思える……」
「……ステーツマンならウテルスを傷つけたりしないはず……」
「……あなたのしたことはユニオン法に反する……全ての市民はユニオン法の手続きに従い行動しなくてはならない……」
頑迷なまでに教条主義を貫いているだけの話だった。
ステーツマンの口元が引きつる。
エーミは静かに彼を問いただした。
「あなたはこの間、自分は神様みたいなものだと言ったわね。でも、本当はそうじゃないことに、自分でも気づいているんじゃないの? 配置されただけの管理者だと。神はほかにいるのだ、と。でなければ、こんなふうにはならないものね? 皆あなたの思い通りに動いてくれて、結末を変えられるはずだものね?」
「黙れ」
汚染の波動が来た。
マルカは魔法強力洗浄を放つ。
汚染が打ち消された。
間を置かずエーミが桜幕符を仕掛けた。セレスティアの合図に応じて。
続けてセレスティアが魔導剣を抜いた。
「あなたの相手は、止めるのは私達です!」
二重になった桜吹雪の幻影が視界を塞ぐ。
光と闇の属性を受けた刃がステーツマンの喉元を掠めた。
後方からシガレットが打ちかかる。
双方の攻撃を躱したステーツマンに宙のブリザードが襲いかかった。氷結がつかの間彼の動きを鈍らせた。
そこへルベーノが挑みかかる。
ステーツマンは至近距離の咆哮で返す。
意識が飛ぶ寸前ルベーノは自己治癒を施す。間を置かず攻撃を再開する。
「貴様、いい加減に――この原人が!」
前衛が引き付けを行っている間、キャリコはステーツマンの死角に入る。
隠の徒を使って気配を殺し、誰に聞かせるでもなく1人ごちる。
「何故、お前はこんな事をするんだ? 理性的に考えて……無意味ではないのか? これでは合理的な社会とはとても言えんな」
弾はステーツマンの腰を抉った。
怒り狂った、人のものならぬ咆哮が襲ってくる。
盾の後ろに身を隠し耐える。
セレスティアが声をかけた。
「お見事、命中ですよ!」
しかし返事がない。
彼の聴覚まで汚染が進行しているのを悟り、ピュリファイケーションを施す。
宙はアイスボルトで倦むことなく、的確な後方支援を続けている。それはステーツマンの力を少しずつ、確実にそいでいく。
押されて行くステーツマンは、視線をウテルスに向けた。
●終焉の終わり。
エーミは首筋の毛が逆立つのを覚える。
(来る!)
確信に満ちた予感を受け、カウンターマジックを放つ。
空間が激しく歪む。正と負が猛烈にぶつかりせめぎあう――正がかろうじて勝ちを得た。
ステーツマンが続けての行動を起こす前に詩が、白竜の息吹を発動した。
マルカが星剣を抜き放った。
「集いし星の輝きが、新たな奇跡を照らし出す! 光さす道となれ!」
光の剣から光弾が発され、ステーツマンに向かう。
当たった。
ステーツマンの周囲に黒い霧のようなものがまといつき始めた。内側から負のマテリアルが漏れ出しているのだ。
直後、これまでで最大級の汚染と咆哮が同時に発される。
詩は最後の白竜の響きを発動した――これは、うまく効果を発揮しなかった。
エーミの作った結界が破壊される。汚染が一気に広がった。
一度は治まっていたウテルスの糜爛が加速度的に進行して行く。表面がただれ落ち血が噴き出す。
マゴイたちは悲鳴を上げ前後の見境もなくマテリアルを注ぎ始めた。
セレスティアとシガレットは残ったピュリファイケーションを、大急ぎで仲間にかけ回る。
その時ウテルスの入り口から、興奮した声が聞こえてきた。
「なんだ、開かないぞ!」
「叩きこわせ!」
ソルジャーたちだ。
マルカはそちらに顔を向けた。万一結界が破られたら、アースウォールを立ち上げようと。
マゴイたちがマゴイに言う。
「μ・F・92756471・マゴイ、手伝ってちょうだい……!」
「ウテルスが死んでしまう……!」
それに対しマゴイは、明らかに動揺していた。ウテルス全体を覆う彼女の結界が古ぼけた蛍光灯のように点滅し始める。
浄化の祈りを使い尽くした詩は、必死で彼女に呼びかけた。
「ウテルスが悲鳴をあげてるとしたらそれは死ぬ事に対してじゃない。永遠に死に続けなくちゃいけない事に対してだと私は思う。ステーツマンを倒してもこの世界は消えないかもしれないけど、可能性があるのなら――」
そこでキャリコがトリガーエンドを放った。絶対命中を運命づけられた弾丸は、たとえ狙撃主の視覚が塞がれていようとも違わず急所に食い込む。
ステーツマンの心臓に穴が空いた。そこから真っ黒な染みが広がって行く。彼自身の体を溶かし食い尽くそうとするかのように。
彼はマゴイに向かって吠える。
「μ、君は私が消えてしまってもいいというのか!」
マゴイは絞り出すような声でステーツマンに言った。
『……消えて欲しくない……あなたがもとのあなたのままだったら……でも……α・ステーツマン……あなたは……もう………』
ルベーノがステーツマンに鎧通しを放った。金剛不壊によって増した威力を乗せて。
「……お前はしてはならんところで大きく誤ったのだ、ステーツマン。最後の最後で生き汚く個を求めた。ユニオンのトップがユニオンの理念では幸せな最期を迎えられないと証明してしまった。新生ユニオンは今までとは変わる。俺もお前のようにはならん。お前の妄執を絶ちきってやろう」
ステーツマンの輪郭が崩れた。黒い染みは彼の人としての形を食い尽くしていく。
『α……』
マゴイはそれに歩み寄りかけたが、シガレットが遮る。相手が最後の足掻きを起こすかもしれないと危惧したのだ。
ああこれで最後なんだなとエーミは思った。だから聞いた。
「あなたはいったい何になりたかったの?」
「――私は――ただ1人の――1人だけの私に――1人だけのαに――」
マルカも問いを発しようとしたが、その前に染みが消えた。
周囲に満ち満ちていた汚染も引いて行く。
ウテルスから爛れが消えた。騒いでいたソルジャーたちも静まった。キツネにつままれたような顔で。
「私たちは何をしにここへ来たんだったかな?」
「さあ?」
マゴイは仲間たちに言った。
『……会議室との回線を開きましょう……今起きたことを記録しておかないと……』
「……そうだね……ユニオン始まって以来のことだ……」
「……ちゃんと残しておかないと……明日はその資料を元に会議を……」
マゴイたちは天井に両手を差し述べた。
方形の文様が現れた。そこから緑の箱が、ゆっくり降りてくる。
マゴイは首にかけていたネックレスをその箱にかざした。
そうしている間にも全てが遠ざかり消えていく。夢から覚めるときのように。
残ったのは荒地とハンターと、マゴイだけ。
●明日へ
詩は鎮魂歌を歌った。消えた世界に生きていた人々の魂が安らぐように。
エーミはマゴイが両手に握り締めている(実際は手元に浮かせているだけだが)ネックレスを見て、言った。
「データはとれた?」
『……ええ……幾らかは……』
言いながらマゴイはルベーノに顔を向ける。
『……今回も、あなたが一番ひどく傷を負ったわね……』
「何、気にするな」
と答える彼にキスをした。
『……お返しがないのはどうかと思うから……実体が無いから何も感じられないでしょうけれど……』
詩が、鎮魂歌を終えた。
「ユニゾン島の皆が待ってるよ。さ、帰ろう?」
マゴイはハンターたちと共に歩き出した。何かを振り切るように。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/03/21 12:51:37 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/03/26 03:08:37 |