マグノリアクッキーの白い日

マスター:佐倉眸

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2018/03/21 12:00
完成日
2018/03/30 00:48

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 チョコの日のお返しをする日らしい。
 どうもそのお返しは、答えを菓子に込めて贈るらしい。
 飴がYES、それとも、クッキーがYESだったかしら。

「…………そうね、全部混ぜてみましょうか」
 思い付いた支店長は、ぽんと手を打ってキッチンに籠もる。
 しゃりっと軽い食感の鮮やかで色取り取りのカラーシュガー、ざくざくと焼いて割ったチョコチップクッキー、ナッツと一緒に砂糖とメレンゲ、ヌガーに混ぜ込んで。冷やし固めて一口大にカット。
「今月のクッキー、……ヌガー完成!……どうかしら、アリシア」

 いつもの店員は小さく囓って溜息を吐いた。
「美味しいんですけどね……」

「……はいも、いいえも、好きも嫌いも、混ぜてしまったら、どうしていいか分からないでしょう!」
 分からない方が良い返事かも知れませんけれど。こほん、店員は咳払いを。
 斯くして、マグノリアクッキージェオルジ支店の白の日は、チョコの日のお返し特製ヌガーを添えて始まった。


 そして、そこそこの盛況はいつもと変わらず。
 日が暮れて、そろそろ店を閉めようかという頃合い。
「そう落ち込まないで下さいよ。味も見た目も好評だったじゃないですか。折角ですから通常メニューにしてしまっては如何です? さ、動いて下さい、片付きませんよ」
 レジカウンターで項垂れる支店長の背を叩いて急かす。
 確かに好評だったけれど、それはヌガーとしてでしょう。
 少し寂しそうな支店長に、店員は目を逸らして笑う。

 きっと、恋をしたら分かります。

 いつまでも落ち込んでいるわけにはいかないわね。
 折角気に入って貰えたなら、そうしてみるのも良いかも知れないわね。
 自分に言い聞かせるように、支店長は残ったヌガーと包装紙を掴んで誰もいない喫茶スペースへ。
 天板に広げて、包装の飾りのリボンを解いて包み直す。
 いつものように微笑んでいるが、丸めた背が少し寂しそうに見えた。
「リボンだけでも印象は随分変わるものですね。……コーヒーでも煎れましょうか?」
「ありがとう、ついでに、看板もお願いね」
 はい、と答えて店員はケトルを焜炉に置いて店の外へ。
 いつものウェルカムボードと白の日の看板を畳み、ふと通りへ目を遣る。仕事帰りか、或いは。そんな様子で通り掛かる人を見かけた。

 お疲れさま、コーヒーでもいかが。
 少し狭いけれど。

リプレイ本文


 ここの店。と、気が付いてイルミナ(ka5759)の足が止まった。
 先月、恋人とチョコレート満載のティータイムを過ごして以来、通り掛かる度に気になっている。
 今日はその返礼の日、店を出てきた男性客の手にはファンシーな包装の菓子が抱えられていた。
 関係ないと思いながら、つい目が追っていき。その気配の覗えない隣の恋人を思いつつ、土を躙る爪先が拗ねた様に丸を幾つも重ねて描く。
 イルミナの様子にコウ(ka3233)が隣から一歩進み出て、入り口の方へと促した。
「お前、この店好きだなあ」
 気になるなら寄って行けば良い。
 どうして、と戸惑い赤い瞳が泳ぐ。
 いいから。腕を捉まえて押しきるように。
 コウに双眸がじっとイルミナを捉えた。
 その男性客が去って暫く、カジュアルな装いに深い色のコートを羽織った鞍馬 真(ka5819)が通り掛かった。
 漂う甘い香りに惹かれて店に近付くと、店員が丁度ドアを開けた。
 今日は看板、コーヒーくらいしか出せないけれど、返礼の菓子も少し残っているから、もし良かったら。
 コウとイルミナも、店員がドアを開けて待っている。
 誘ってくれているのだろうか。どこか強引なコウの仕草にイルミナは首を傾げながら、二人は店の中へ。
 示された入り口際の席で向かい合って座る。
 そちらのハンサムな方も。
 ドアを閉める間際、零れた菓子の甘い香に足を止めた玄武坂 光(ka4537)に店員が手をひらりと揺らして誘う。
 相席でよろしければ、温かなコーヒーはいかが、と。

 奥のテーブルでは支店長が黙々と手を進めている。今日の日付をあしらった包装を解かれた小さな白い菓子が、新しい淡い色に包まれていく。
 店員は4人にコーヒーと、シュガーポットとミルクピッチャーを出す。その傍らの小皿には小さな菓子が乗っている。いつものクッキーが一枚と柔らかそうな白い菓子。
 もう閉めるところでケーキも売り切れ、だからこれはサービス。ゆっくりしていって。
「何だこれ、ヌガーっていうのか」
 早速摘まんで齧り、玄武坂が目を瞠る。
 結構いけるじゃねぇか、と、その顔はすぐ綻んだ。
 ミルクを多めに味を調えてカップを傾け、鞍馬はキッチンへ戻る間際の店員を呼び止めた。
「お疲れさま、ありがとう。今日は忙しかったんじゃないかな?」
 ええとても、席が空いたら私たちもご一緒しようかしら。悪戯っぽく笑って、まだ作業の続きそうなテーブルを見る。忙しかったと言いながら、その顔はどことなく楽しそうだ。
 甘めのコーヒーを傾け、ヌガーの甘さを味わいながら瞼を伏せる。
 忙しくて失念していたけれど。
 その甘さは一ヶ月前に受け取ったチョコレートの香りも呼び起こす。
 次の休みにはちゃんとお返しを渡さないとね。呟く様に思考を巡らせ、鞍馬はカップを茶托に置いた。


 手許のコーヒーにほっと安堵の息を吐くイルミナはそのまま一口啜って、ほんの僅かに表情を緩ませた。
「…………めずらしいわね、……あなたから、こんなとこ……」
 ぽつ、と零す声にコウは、そうか、と横を向いて頭を掻いた。
 反対側の手が無意識に懐を撫でる。
 チョコレートを貰った先月、貰ってばかりは決まりが悪く、何か礼をと考えていた頃。
 この店で出会って親しくなった年上の友人に相談して用意したのは、チョコレート。
 友人に勧められたマシュマロを詰めた手作りのそれを、気恥ずかしさから渡しそびれて、今日こそはと機を覗っている。
 しかし、彼のあの笑みは何だったのだろう。
 どこか含みのあるそれを思って首を捻る。
 見れば、イルミナはコーヒーを飲んで心なしか寛いでいるように見える。
 さっきまで落ち付かないように見えたけれど、やはりこの店が好きなのか、それとも甘いものが食べたかったのか。
「あー……こないだチョコ貰ったろ?」
 切り出す言葉を探して、イルミナのことを言えないくらいそわそわと身動いでから、よし、と気合を入れるように居住まいを整えて切り出した。
 去年も今頃貰っただろう。そう続ければイルミナの赤い瞳が見開かれて、ぱたりと大きく瞬いた。
 何を驚いているのか、どこか訝しむ様な表情。少し寄った眉はすぐにハの字に垂れて小さな溜息。
「怒れないじゃない……」
 力の抜けた肩、カップを両手で包んで背を丸めている。
 懐から包みを取り出して天板の中央へ置く。ずい、とイルミナに差し出すと、白い両手は大切にそれを受け取った。

 見返りは求めていないけれど、何も無いのは何だか気に入らない。
 去年は何も無かったのに、今年は誘ってくるなんて。
 イルミナがコウの言葉に、もしかして、と考える。この日のことは自分自身、最近知ったばかり。
 コウも知らないのかしら。
 受け取った包みをそっと解く。
 包みにも傷を付けないように丁寧に剥がして。
 現れたのはチョコレートのウサギだった。
 丸い顔と長い耳の可愛らしいフォルム、円らな目と目が合うとどうして良いか分からずに、手にしたまま黙り込む。
 ウサギと見つめ合いながら、言葉を躊躇う唇が震えた。
「――ありがとな。美味かったし、まあ礼だ」
 コウの言葉にはっとして顔を上げた。
「……あ、……ありがとう……」
 ウサギを持ったまま告げると、コウは心底嬉しそうに笑った。
 手の中のウサギ、チョコレート、贈り物。
 コウが少し照れた様に、味見もして変な出来ではないし、形には拘ったと言っている声が聞こえる。
 食べた方が良いのだろうか。けれど、もう少し。
 きっと、美味しく食べよう。手の熱が溶かしきって仕舞わない内に。


 鞍馬のカップが半分ほど空いた頃、微かに聞こえていた水音が止み、何かを片付ける音が暫く続くと明かりが落ちて店員が出てきてキッチンを施錠した。
 客達へ一礼し、支店長に声を掛け、空いた席に浅く掛ける。
「ローザさんとは郷祭以来ですね」
 最後の包みを終えて、どんよりと項垂れていた様子が僅かに和らいだ支店長に話し掛けた。
「何かありましたか?」
 凹んでいるように見えるけれど。尋ねて支店長の様子を見ると、困ったように肩を竦めてその視線が手許の包みを見詰めた。
 包み直していた数も、売れ残りと見るには少ないくらい。
 今、食べたばかりのヌガーは美味しかったから、これが原因では無さそうだけれど。
「なんだ? こんなに美味ぇのに」
 玄武坂も驚いている。
 店員が先月のチョコの日の返礼に今日贈る菓子に込められる意味を話す。
「んー……、なるほどな」
 玄武坂は頬杖を突き考え込む。
 目を瞑ったり、首を捻ったりと、美味く言葉にならないそれを、一言ずつゆっくりと語り始めた。
「何事も、白黒つける必要性はねぇんじゃねぇか?」
 色恋にも縁遠く、頭の回る方ではないから、意図が上手く伝わるだろうかと、赤の双眸がそっと支店長の表情を覗った。
 支店長が首を傾げると、一呼吸置いて続ける。
「だから、今は、思い悩んでいます……って、意図として使えんじゃねぇのかな……」
 隣で店員がくすりと笑う。確かにその通りだと頷いて、まだ首を傾げている支店長へも返事を促した。
「……そうね。……そう、……それなら、来年、もう一度。今度こそちゃんと白の日のお菓子にしてみせるわ」
 見覚えのある笑顔が復活した支店長に、鞍馬がほっとして声を掛けた。
「メレンゲを使ったヌガーは初めて食べますが、こんな軽い食感になるのですね」
 気の緩んだ笑顔は、甘いもので人心地付き、依頼の疲れが抜けた所為か。
 こっちも美味しいと、クッキーも摘まんで、笑顔は更に和やかに。
 気に入って貰えて嬉しいと喜んで、今更に気が付いたように、名前で呼ばれたのは久しぶりだとくすぐったそうに目を細めた。
 軽く柔らかな食感の中にごろごろと迷うばかりの返礼の菓子。
「新しいメニューを考えられるってすごいなあ」
 こくんと残りのコーヒーを干し、日の暮れきった窓を眺める。
 同じ空を眺めながら、それにいつも振り回されるんですけれど、と店員が笑っていた。

 こういう機会は確かに切欠には丁度良い。隣のテーブルの様子を見れば、それは間違いないんだろう。
 しかし、その時に結論を出すことに焦る必要も無い。
 玄武坂の言葉を聞きながら、店員が支店長にヌガーを1つ差し出した。
 試食したきり食べてなかったでしょう、と言えば、確かにそうだったと可笑しそうに笑った。
「どうですか?」
「そうね、軽い食感で、甘くて美味しい。私の好きなものがいっぱい。……でも、そうね、迷っている味がするわ」
 チョコチップもクッキーもキャンディーも。マシュマロ代わりの卵白のヌガーに包まれて、一番主張しているのは意味を込められていないナッツだから。
 二人の言う通りねとすっきりした顔で答えを出し、支店長は腰を上げる。客に礼を告げ、陳列と片付けは明日にしましょうと朗らかに。


 これは買えるのかと、販売スペースで足を止めて玄武坂が尋ねた。
 そのセットなら構わないと、支店長が答えた。伝票代わりのメモを書き残し、チューリップ形のクッキーとアイスボックスクッキーが数枚とヌガーを詰めた包みを手渡す。
 弟やクライアントに見付からないように死守だなと懐にしまい込む。
「また機会があったら立ち寄らせてもらうぜ!」
 美味いものをありがとう。今度は、普通の客として。
 鞍馬も1つ手に取ると、疲れた時の癒やしに食べようと目を細めた。
 コウにも1つ手渡して、会計を書き付けると支店長は幸せそうに笑っている。
 それを眺めて店員は小さく溜息を吐いた。

「今日はありがとう、支店長が元気になって良かったです」
 支店長、お喋りが好きなんですけれど、一番はお菓子で誰かが幸せになることなんです。
 店員は、本人には内緒ですけどね。と、客人達に囁いて、くしゃっと片目を瞑って見せた。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 誰が為の祈り
    コウ(ka3233
    人間(紅)|13才|男性|疾影士
  • 『俺達』が進む道
    玄武坂 光(ka4537
    人間(紅)|20才|男性|霊闘士
  • 無くした過去に背を向けて
    イルミナ(ka5759
    エルフ|17才|女性|猟撃士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/03/16 18:46:07