ゲスト
(ka0000)
鱗粉症(仮)
マスター:まれのぞみ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/03/24 12:00
- 完成日
- 2018/04/02 03:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
どこかのことである。
いつとも知れぬ、漆黒の時間の中に、ひとつの繭があった。
薄らぼんやりと青白い光を灯し、無の空間にひとつ。
ただ、ある。
まるで木にかかった蝶のさなぎのように斜めに――その場に、縦横という空間の概念があるのならばの話だが――なっている。
どれほどの時が刻まれ、流れたかわからない。
いつしか、繭がひび割れ、ついに、それが姿を見せた。
巨大な羽をもった蝶か、蛾か。
知らぬ。
ただ、それもまた己をわからなかったのかもしれない。
ただ、本能の従って羽をふるわせる。
水晶の響きにも似たなにかを奏で、やがて巨大な羽をはばたかせ歪虚は空へと向かった。
●
はじめは、ささいな日常――
はっくしょん!?
まだ薄雪の布団をかぶり、惰眠をむさぼる土地に鍬を入れ、起きろ、起きろと怒鳴るように土おこしをしていた男の手が止まり、小さく顔が上下に揺れたかと思うと、大きくくしゃみをひとつ。
寒暖の差の激しいこの時期、季節柄、よくあること。
別に何も思うことなく、男は再び、鍬をふりあげ――くしょん。
手伝いをしていた子供が思わず笑い出したが、その子も笑いながら、くしょん。
そのうち、目もしばしばしてきて、哀しくもないのに涙がぽろぽろ。くしゃみも止まらない。
いつしか、周囲の畑からも、あちらで、くしょ、こちらで、はっくしょん。
くしゃみの楽団のできあがりだ。
春の珍事のせいで、誰も気がつかなかったが、との時、薄暗い雲間を、ゆったりと舞う巨大な蛾に似た姿があった。
鱗粉が空から降っていた。
●
驚異はやがて白日にさらされる。
数日の内に、空を飛ぶヴォイドの姿が確認された。
至急、ハンターズソサエティからハンターたちが駆けつける。
まずは教科書どおり、遠距離からの魔法や弓矢。
「はじいた?」
「強力な魔法障壁のようなものでしょうか?」
まるで通用はしない。
「近接戦しか、ねーのかよ」
ならばと、捨て身で近づき、低空をゆったりと飛ぶ巨大な蛾に向けて一撃!
「やはり、通るな!」
だが、あたりにまった鱗粉にかれらは気がつかない。
いや、季節柄、周囲に吹き出した風に舞う土埃に紛れて、気づけるわけがないのだ。
そして、それは毒のように体をむしばみ――いつしかハンターたちの攻撃はやんでいた。
敵を倒したのではない。
力が入らないのだ。
いや、力を入れようとすればはいるだろうし、敵が襲ってくるのならば迎撃は可能なはずだ。だが、ヴォイドはまるで人を相手にしない。
だから、いつしか始まったくしゃみと目のかゆみでハンターたちの戦いの手がゆるむ。
歪虚は相手にしない。
くしゃみがつづく。
ヴォイドは、ゆったりと空を飛んでいく。
ひとからの攻撃など、風雨と同じものとでも思っているのか、敵を無力化し、ヴォイドはなおも悠々と空を行く。
それの行き着く先には、ひとつの街が見えた。
いつとも知れぬ、漆黒の時間の中に、ひとつの繭があった。
薄らぼんやりと青白い光を灯し、無の空間にひとつ。
ただ、ある。
まるで木にかかった蝶のさなぎのように斜めに――その場に、縦横という空間の概念があるのならばの話だが――なっている。
どれほどの時が刻まれ、流れたかわからない。
いつしか、繭がひび割れ、ついに、それが姿を見せた。
巨大な羽をもった蝶か、蛾か。
知らぬ。
ただ、それもまた己をわからなかったのかもしれない。
ただ、本能の従って羽をふるわせる。
水晶の響きにも似たなにかを奏で、やがて巨大な羽をはばたかせ歪虚は空へと向かった。
●
はじめは、ささいな日常――
はっくしょん!?
まだ薄雪の布団をかぶり、惰眠をむさぼる土地に鍬を入れ、起きろ、起きろと怒鳴るように土おこしをしていた男の手が止まり、小さく顔が上下に揺れたかと思うと、大きくくしゃみをひとつ。
寒暖の差の激しいこの時期、季節柄、よくあること。
別に何も思うことなく、男は再び、鍬をふりあげ――くしょん。
手伝いをしていた子供が思わず笑い出したが、その子も笑いながら、くしょん。
そのうち、目もしばしばしてきて、哀しくもないのに涙がぽろぽろ。くしゃみも止まらない。
いつしか、周囲の畑からも、あちらで、くしょ、こちらで、はっくしょん。
くしゃみの楽団のできあがりだ。
春の珍事のせいで、誰も気がつかなかったが、との時、薄暗い雲間を、ゆったりと舞う巨大な蛾に似た姿があった。
鱗粉が空から降っていた。
●
驚異はやがて白日にさらされる。
数日の内に、空を飛ぶヴォイドの姿が確認された。
至急、ハンターズソサエティからハンターたちが駆けつける。
まずは教科書どおり、遠距離からの魔法や弓矢。
「はじいた?」
「強力な魔法障壁のようなものでしょうか?」
まるで通用はしない。
「近接戦しか、ねーのかよ」
ならばと、捨て身で近づき、低空をゆったりと飛ぶ巨大な蛾に向けて一撃!
「やはり、通るな!」
だが、あたりにまった鱗粉にかれらは気がつかない。
いや、季節柄、周囲に吹き出した風に舞う土埃に紛れて、気づけるわけがないのだ。
そして、それは毒のように体をむしばみ――いつしかハンターたちの攻撃はやんでいた。
敵を倒したのではない。
力が入らないのだ。
いや、力を入れようとすればはいるだろうし、敵が襲ってくるのならば迎撃は可能なはずだ。だが、ヴォイドはまるで人を相手にしない。
だから、いつしか始まったくしゃみと目のかゆみでハンターたちの戦いの手がゆるむ。
歪虚は相手にしない。
くしゃみがつづく。
ヴォイドは、ゆったりと空を飛んでいく。
ひとからの攻撃など、風雨と同じものとでも思っているのか、敵を無力化し、ヴォイドはなおも悠々と空を行く。
それの行き着く先には、ひとつの街が見えた。
リプレイ本文
「うっへえ……こりゃあまた色んな意味でハタ迷惑な歪虚が現れたもんだねえ……」
ギルドの担当から説明を聞き終えて、リアルブルー生まれの久延毘 羽々姫(ka6474)は、故郷での言葉にするもおぞましい年中行事のようなものを思い出さずにはいられなかった。
どうやら、その悪名はクリムゾンウェストにも伝わっているらしい。
「敵の症状だけ聞くと、うわさに聞く花粉症のような症状を引き起こすのか」
生真面目な態度でうむとうなずく女騎士――アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、それがいかなるものかわかっていないようであった。
「これは正直結構厄介だな。幸い私はまだ花粉症にはなってないので伝聞でしかないのだが。たしかくしゃみと涙が止まらなくなるんだったか?」
うんうんと羽々姫はうなずく。
幸い地球にいた頃は、アレルギー性の病気とは縁のなかった健康少女だが、女子高生時代は親しかった友人が、春も近づくとティッシュが手放せないと、くしゃみを連発しながら、目を真っ赤にして訴えていたこと思い出す。
「――それが、戦闘中に起きるとなると、まともな戦いをするのがとんでもなく大変なことになる」
姫騎士は格闘士の追憶には気がつかない様子だったが、龍崎・カズマ(ka0178)が、なにやらしている様子には目がいった。
「どうしたのだ?」
「一応露出を控える衣服に切り替えておくのさ」
異世界からの来訪者は、さらりと言ってのける。
「気密を重視しておけば物理的には侵入されにくい訳だし。逆に、これでさえ無意味ならもう魔法的なものなんだろうなって事で抵抗重視に出来る」
そして、肩をすぼめて、にやりと笑った。
「その場合はやるだけやってやれ、な感じかな」
「なるほどな。気休めになるが、一応手ぬぐいで鼻と口を覆っておこうか。あと、念のためゴーグルのほうに装備を変えておこうかな」
●
「歪虚は……姿みえないわね。よしっ!」
フィリテ・ノート(ka0810)の鋭敏な視野でも、その姿はまだ確認できてはいない。
ギルドの依頼により街へと向かったが、幸いヴォイドの襲来よりも前にたどり着くことができた。むろん、敵が近づいているという証言や情報は入ってきているので時間の問題だろうが、事前の準備ができるだけの暇はあるようだ。
とりあえずは、間に合ったようだ。
ヴォイドの駆除の前準備――作戦会議といこうか。
「歪虚の姿を確認した後にウィンドガストを全員にかけるわ。なぜって顔をしていわね。術の効力じゃなくて、風の結界で花粉を防げるんじゃないかな、って考えが理由よ」
幼い見た目とは異なり、小柄な魔術師はしっかりとした考えを持っている。
「ゴーグルで目を護れればいいんだけど……そーなると、何にも見えないのよね……。あた……!?」
ため息をつきかけたメガネっ娘が声をつまらせた。
それに対して、
「いやはや、優雅なもんだね――」
セレス・フュラー(ka6276)が、ほぉとため息をついた。
青い空に、小さな点が見えたかと思うと、しだいに姿が見えてくる。
ギルドからの情報にあった通りの姿でヴォイドが飛翔する。
「あたしも、あんな風にゆったり空を飛んでみたいもんだよ」
セレスは感嘆し、やがて表情をハンターのものにした。
「……まあそんなことは置いといて」
腰につけていた飛び道具を手にすると勢いをつけて「コウモリ」を投擲。
時を同じくして、フィリテが氷の矢を放つ。
すでにギルドの情報から歪虚が結界かなにかで守護されていることはわかっている。問題は、どれほどの強度かだ。
羽を狙った、道具と魔法の矢は、ともにそれに達する前に、なにかにはじかれた。
「それならば!」
もう一発の魔法の矢を腹へ放つ。
しかし、これもまるで鎧にぶつかったようにはじかれる。
なにかが引っかかる
「レイアさん!?」
「わかった」
レイア・アローネ(ka4082)がマテリアルを込めた剣を振り抜くと、それが衝撃の波となって強大な蛾を襲う。
しかし、効かない。
やはり、なにかが衝撃波の邪魔をする。
だが、その衝撃で四方に散った輝きをフィリテの目は逃さなかった。
まるで水面に拡がる波のように、空に三次元の波紋がきらきらと輝きながら拡がっていく。
「なに?」
何かが圧倒的な密度でヴォイドを包み、ある種の防御壁となっているのだ。
蝶……蛾……羽……――鱗粉!?
はっとして、思い当たった。
「どういうこと?」
「あの大きなヴォイドが放つ、蛾の鱗粉のようなものが周囲を囲んでいる……そうね小さな盾が周囲を囲んでいるのようなものよ」
「やはり遠距離での攻撃はムダになりそうね」
「逆にいえば、鎧の中に入ってしまえば、まだ勝機があるということか」
地球にいた時代にニュースで見た杉の花粉が飛び出るニュース映像を思い出しながら、カズマはやれやれと肩をすぼませた。
その苦しみを知らないレイアの言葉は、もっとシンプルだ
「空を飛ぶのは厄介と思ったが、剣の届く程度の低空なら問題あるまい。鱗粉? 猛毒なら厄介だがくしゃみが出る程度だろう?」
彼女、曰く「アレ」にはかかった事がない人間のいうことは勇ましい。
こほんと咳がした。
「ゴーグル準備」
誰であったろうか、そんな声をする。
全員がゴーグルをする。
(さて、タチの悪い事にあの歪虚には矢や魔法みたいな遠距離攻撃を遮断する障壁があるみたいだけど……。あたしの技はどうなんだろ……まあ、効くか効かないかはともかく気を引いたりは出来るかな)
渋々という態度で、羽々姫が型をかまえる。
●
(うーわ、近づきたくねえが……近づかなきゃならねえんだろうなあ)
花粉症の苦しみを理解しているカズマは、いかにも粉を振りまきそうな巨大な蛾を前に、躊躇を覚えていた。
まだ、なってもいないのに鼻がむずつく気さえする。
だが、ここまでくれば覚悟を決めるまで。
「有効かどうかわからなくても、気休めでもやってみて損はないからな。
生命への賛歌を唄う。
レクイエム――死奏錠手だ。
ヴォイドの飛ぶ速度や高度が下げられないか試したのだ。
「お、うまくいったか。あまり離れていたら他の仲間の攻撃も届かせづらいしな」
そこへ一番槍とばかり、レイアが飛びかかる。
疾駆して、それをそのまま上段からの渾身の一撃に載せるつもりだ。
まずはチャージングと渾身撃で外から詰めて一撃。
「そのまま接近して斬り倒……へくち!!」
かわいらしい、くしゃみがひとつ。
こ、これは……!
鼻がむずむずとする。
ちっ――
敵の羽に撃ち込まれた一撃は、期待したほどのものではない。
違和感のせいで、動きに戸惑いが生まれたのだ。
しかたもない。
生まれて初めての体験だ。
想像もしたこともないところにかゆみを覚える。
「ここまでとは……だが近付かねば倒せん……!」
狼狽しかける己。
透明の鼻水が、鼻からしたたる。
さっそく犠牲者が出ているな――正直、あんな特性を持ってる歪虚にはあんまり近づきたくは無なんだけど……
羽々姫もまた、敵を前にすこし躊躇していた。
(……と言っても、あたしにゃ敵への対処法は拳しか持ってないからね、考えても仕方ないしガンガン殴っていくよ)
ええぃ、ままよ。
駆けだして、敵の懐に突っ込む。
目に関しては鱗粉が入らないようにゴーグルをキツめに掛けておくようにするけど……効果がでれば――でなかった!?
浮かんでくる涙に、目がぼんやりとしてきた。
ちっ――
拳の動きがにぶった。
外すにしては、あまりにも大きすぎる的だ。
攻撃を外すことない。
だが、踏み込みが甘い!
攻撃の肝のひとつである、目が殺されたのだ。
あるいは気配だけで戦えるという伝説のレベルの達人ならば、この障害する気にもしないのかもしれないが、残念ながら彼女はまだそこまで成長しきってはいない。
慣れるまで決定的なダメージが打ち込めないとわかると、次策をとる。
ならば――
(……まあ、効くか効かないかはともかく気を引いたりは出来るかな。ま、兎にも角にも、基本的にはこの拳で殴りに行くのが……――)
はっくしょん!?
大きく、くしゃみをひとつ。
くしゃみは、つぎつぎとお友達をつれてくる。
くしょん、くしょん。
「うあ、あああやばい鼻と喉がやばい……思った以上にやば、ば、は、はーっくしょいッちくしょいッ!!」
かつての健康優良児も、これには苦戦。
「今までアレルギーに掛かった事無かったけど……こんなにヤバい症状だったのか……うう……」
いまさらながら、友人の苦労に思い至ったたわけである。
●
「っしゅッ! ……あ~。もぅ、くしゃみが!」
眼鏡の下の目を真っ赤にして、フィリテも苦戦中である。
「ぅぁ! 目かゆいッ! もぉー!!」
ハンカチで口抑えたり涙拭ったり、もぉぉ! 涙で歪虚がよく見えないし! むぐぅ! 眼鏡が邪魔、ってお風呂の時も思うけど、こーゆー時も邪魔だって思うのね。もぉ!」
アルトは息を呑んだ。
(こんな個体が大量に発生したら、いろんな意味でこう、ほんとにヤバイな――)
仲間たちの惨状に、さすがのアルトも戸惑っている。
聞くと見るとでは、大違いとはよくいったものだ。
このような惨劇が、毎年、春になるとループするリアルブルーとは、どのような地獄なのだろうかと思わずにはいられなかった。
(繁殖……は歪虚だからしないか、けどなんか増やされても困るし、全力を持って仕留めさせてもらおう)
だが、剣先は迷っている。
せっかく陣形を組んだのだが、これでは戦場にガスをばらまかれたような状況だ。
目には見えない進軍に対抗するには、どうするべきか。
幼い頃から、戦いの手ほどきを親から授けられ、成長した後には青い星からもたらされた異種の戦いの知恵もまた、彼女を成長させる糧となったが、その中にあった知識がなにごとかささやこうとしている。
(ならば、どうする?)
凜々しい横顔は、まさに姫騎士と呼んでよいものである。
もっとも、鼻から、つーと流れ落ちる体液には気がつかない様子であったが……
(やれやれ、あんな様子をいるかどうかしらんが恋人にでも見られたら、千年の恋すら一瞬で霧散だな)
カズマも十分に敵に接近した。
近接戦闘に移る。
ルーンソードを構えて、影渡を利用しての投擲で、敵ヴォイドを狙う。
セレスが風を纏う。
これならば、すこしは鱗粉に被害を減らすことができるだろうか。
「くっ――」
しかし、目にきた。
双眸からこぼれた涙の粒が風にのって散る。
鱗粉もそよいでいる。
「風!? そうか!?」
アルトは、武器の射程をいかした戦い方を選択した。そして、セレスとリアルブルーの戦史から学ぶこととした。ガスの攻撃の対応と同様に、風下に立たないようにするのだ。
狩人の知恵を駆使して、注意しながら位置取りをする。
そして、ヴォイドに向かった飛花と踏鳴後に散華、そして即座にその場を離れる。
「その手があったか!」
なんとか気力をこらして戦いに集中していたレイアも、仲間の考えを読み取った。
ならば、同じ手でいこう。
状態的に、ぐずぐずできる状況ではない。
くっしょん!
レイアは巨大な蛾に切りつけ、そのまま後方に跳ぶ。
ヒットアンドアウェイで距離を取ってみるつもりなのだ。
(おっ――)
敵と距離をとると、くしゃみはやむ。
ならば、この策は有効か。
だが、まだ鼻の奥がかゆい。
あるいは長い時間、あそこにいると病状が悪化するのかもしれない。
攻めの構えで短期決戦だ。
「行こう―――覚悟は出来ている―――」
喉がひりひりするのはくしゃみをしすぎたせいか。
「勝算は見えてきたな」
セレスの勘が告げる。
もとより、防御と特殊スキルに能力を全ふりしたような敵など攻略方法を見いだしてしまえばシンプルな作業である。
あとは空へ逃げても追跡できるように空渡を準備する。
ヴォイドは、すでに虫の息か。
逃げようと羽をばたつかせるが、大空へ戻る力はもはやない――いや、最後の力をふりしぼる。火事場のバカ力だ。
ふわり――
巨体が空へと返る。
「ちっ!」
背中に載って、いままさに剣を突き刺そうとしていたカズマがバランスを崩して落下する。
「逃がさない!」
アルトの手裏剣がその眼前を狙う。
化け物の頭が動いて、それを避けた。
だが、それが隙となった。
「もらった!」
死角から、顔中をすっかりぬらした、赤い目をした女が突っ込んでくる。
ジャンプをして、拳に力を載せる。
マテリアルが集中する。
「これで、どうだ!」
ぼこり!?
殴る音とともにヴォイドの向かい先が変わり。すさまじい音ととも巨体が地上に激突した。
土煙と、鱗粉が空へ舞い上がる。
苦しそうに化け物をなおも空を求める。
空をみる――だが、ついに、羽ばたくこともかなわず蛾の姿をしたヴォイドは空を見上げながら――逝った。
●
巨大なヴォイドを屠ったというのに、そこにあるには戦いに勝ったという高揚感よりも、なんとも言えぬ疲労感であった。
倒しはしたが――という感じでカズマはぐずつく鼻を袖でふいた。
どうせ戦いをすれば土や埃で汚れるし、なによりも今回の敵では汚染の可能性もあるのだ。戦いの後には衣服類を全部、洗浄させるつもりでいる。
というか、最後の一撃がきいた。
あたりに舞い散った鱗粉は一気にあたりに拡がり、範囲外にいたはずの仲間たちまで被害を受けてしまった。
最後の最後に、とんでもないプレゼントを残していった。
すっかり全員、仲良く、くしょん、くしょんとなりながら涙目。
羽々姫は、昔の友人の行動を思い出しながら、
(……何が効くか分からないけど、依頼終わったらアレルギー用の薬飲んでおこっと)
と考え、
レイアはくしゃみを連発しながら、
(……これからはくしゃみしてる相手に出来るだけ優しく接しよう)
と考えていた。
アルトやセレスは、体のだるさを覚えている。
くしゃみの連発で喉がやられ、すこし炎症を起こしているようだ。
「風邪か?」
といぶかしがるのも、その病状を理解しえぬ者たちだったらこそであり、未知の体験であったろうから辛いことであった。
最後に、さまざまな体液で顔をぬらしたフィリテが泣き声をあげていた。
「すぐ帰ってお風呂入りたい……目かゆいし鼻がムズムズするし……」
その夜、ギルドが近くに温泉つきの宿を一晩、とってくれたとのことであった。
ギルドの担当から説明を聞き終えて、リアルブルー生まれの久延毘 羽々姫(ka6474)は、故郷での言葉にするもおぞましい年中行事のようなものを思い出さずにはいられなかった。
どうやら、その悪名はクリムゾンウェストにも伝わっているらしい。
「敵の症状だけ聞くと、うわさに聞く花粉症のような症状を引き起こすのか」
生真面目な態度でうむとうなずく女騎士――アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、それがいかなるものかわかっていないようであった。
「これは正直結構厄介だな。幸い私はまだ花粉症にはなってないので伝聞でしかないのだが。たしかくしゃみと涙が止まらなくなるんだったか?」
うんうんと羽々姫はうなずく。
幸い地球にいた頃は、アレルギー性の病気とは縁のなかった健康少女だが、女子高生時代は親しかった友人が、春も近づくとティッシュが手放せないと、くしゃみを連発しながら、目を真っ赤にして訴えていたこと思い出す。
「――それが、戦闘中に起きるとなると、まともな戦いをするのがとんでもなく大変なことになる」
姫騎士は格闘士の追憶には気がつかない様子だったが、龍崎・カズマ(ka0178)が、なにやらしている様子には目がいった。
「どうしたのだ?」
「一応露出を控える衣服に切り替えておくのさ」
異世界からの来訪者は、さらりと言ってのける。
「気密を重視しておけば物理的には侵入されにくい訳だし。逆に、これでさえ無意味ならもう魔法的なものなんだろうなって事で抵抗重視に出来る」
そして、肩をすぼめて、にやりと笑った。
「その場合はやるだけやってやれ、な感じかな」
「なるほどな。気休めになるが、一応手ぬぐいで鼻と口を覆っておこうか。あと、念のためゴーグルのほうに装備を変えておこうかな」
●
「歪虚は……姿みえないわね。よしっ!」
フィリテ・ノート(ka0810)の鋭敏な視野でも、その姿はまだ確認できてはいない。
ギルドの依頼により街へと向かったが、幸いヴォイドの襲来よりも前にたどり着くことができた。むろん、敵が近づいているという証言や情報は入ってきているので時間の問題だろうが、事前の準備ができるだけの暇はあるようだ。
とりあえずは、間に合ったようだ。
ヴォイドの駆除の前準備――作戦会議といこうか。
「歪虚の姿を確認した後にウィンドガストを全員にかけるわ。なぜって顔をしていわね。術の効力じゃなくて、風の結界で花粉を防げるんじゃないかな、って考えが理由よ」
幼い見た目とは異なり、小柄な魔術師はしっかりとした考えを持っている。
「ゴーグルで目を護れればいいんだけど……そーなると、何にも見えないのよね……。あた……!?」
ため息をつきかけたメガネっ娘が声をつまらせた。
それに対して、
「いやはや、優雅なもんだね――」
セレス・フュラー(ka6276)が、ほぉとため息をついた。
青い空に、小さな点が見えたかと思うと、しだいに姿が見えてくる。
ギルドからの情報にあった通りの姿でヴォイドが飛翔する。
「あたしも、あんな風にゆったり空を飛んでみたいもんだよ」
セレスは感嘆し、やがて表情をハンターのものにした。
「……まあそんなことは置いといて」
腰につけていた飛び道具を手にすると勢いをつけて「コウモリ」を投擲。
時を同じくして、フィリテが氷の矢を放つ。
すでにギルドの情報から歪虚が結界かなにかで守護されていることはわかっている。問題は、どれほどの強度かだ。
羽を狙った、道具と魔法の矢は、ともにそれに達する前に、なにかにはじかれた。
「それならば!」
もう一発の魔法の矢を腹へ放つ。
しかし、これもまるで鎧にぶつかったようにはじかれる。
なにかが引っかかる
「レイアさん!?」
「わかった」
レイア・アローネ(ka4082)がマテリアルを込めた剣を振り抜くと、それが衝撃の波となって強大な蛾を襲う。
しかし、効かない。
やはり、なにかが衝撃波の邪魔をする。
だが、その衝撃で四方に散った輝きをフィリテの目は逃さなかった。
まるで水面に拡がる波のように、空に三次元の波紋がきらきらと輝きながら拡がっていく。
「なに?」
何かが圧倒的な密度でヴォイドを包み、ある種の防御壁となっているのだ。
蝶……蛾……羽……――鱗粉!?
はっとして、思い当たった。
「どういうこと?」
「あの大きなヴォイドが放つ、蛾の鱗粉のようなものが周囲を囲んでいる……そうね小さな盾が周囲を囲んでいるのようなものよ」
「やはり遠距離での攻撃はムダになりそうね」
「逆にいえば、鎧の中に入ってしまえば、まだ勝機があるということか」
地球にいた時代にニュースで見た杉の花粉が飛び出るニュース映像を思い出しながら、カズマはやれやれと肩をすぼませた。
その苦しみを知らないレイアの言葉は、もっとシンプルだ
「空を飛ぶのは厄介と思ったが、剣の届く程度の低空なら問題あるまい。鱗粉? 猛毒なら厄介だがくしゃみが出る程度だろう?」
彼女、曰く「アレ」にはかかった事がない人間のいうことは勇ましい。
こほんと咳がした。
「ゴーグル準備」
誰であったろうか、そんな声をする。
全員がゴーグルをする。
(さて、タチの悪い事にあの歪虚には矢や魔法みたいな遠距離攻撃を遮断する障壁があるみたいだけど……。あたしの技はどうなんだろ……まあ、効くか効かないかはともかく気を引いたりは出来るかな)
渋々という態度で、羽々姫が型をかまえる。
●
(うーわ、近づきたくねえが……近づかなきゃならねえんだろうなあ)
花粉症の苦しみを理解しているカズマは、いかにも粉を振りまきそうな巨大な蛾を前に、躊躇を覚えていた。
まだ、なってもいないのに鼻がむずつく気さえする。
だが、ここまでくれば覚悟を決めるまで。
「有効かどうかわからなくても、気休めでもやってみて損はないからな。
生命への賛歌を唄う。
レクイエム――死奏錠手だ。
ヴォイドの飛ぶ速度や高度が下げられないか試したのだ。
「お、うまくいったか。あまり離れていたら他の仲間の攻撃も届かせづらいしな」
そこへ一番槍とばかり、レイアが飛びかかる。
疾駆して、それをそのまま上段からの渾身の一撃に載せるつもりだ。
まずはチャージングと渾身撃で外から詰めて一撃。
「そのまま接近して斬り倒……へくち!!」
かわいらしい、くしゃみがひとつ。
こ、これは……!
鼻がむずむずとする。
ちっ――
敵の羽に撃ち込まれた一撃は、期待したほどのものではない。
違和感のせいで、動きに戸惑いが生まれたのだ。
しかたもない。
生まれて初めての体験だ。
想像もしたこともないところにかゆみを覚える。
「ここまでとは……だが近付かねば倒せん……!」
狼狽しかける己。
透明の鼻水が、鼻からしたたる。
さっそく犠牲者が出ているな――正直、あんな特性を持ってる歪虚にはあんまり近づきたくは無なんだけど……
羽々姫もまた、敵を前にすこし躊躇していた。
(……と言っても、あたしにゃ敵への対処法は拳しか持ってないからね、考えても仕方ないしガンガン殴っていくよ)
ええぃ、ままよ。
駆けだして、敵の懐に突っ込む。
目に関しては鱗粉が入らないようにゴーグルをキツめに掛けておくようにするけど……効果がでれば――でなかった!?
浮かんでくる涙に、目がぼんやりとしてきた。
ちっ――
拳の動きがにぶった。
外すにしては、あまりにも大きすぎる的だ。
攻撃を外すことない。
だが、踏み込みが甘い!
攻撃の肝のひとつである、目が殺されたのだ。
あるいは気配だけで戦えるという伝説のレベルの達人ならば、この障害する気にもしないのかもしれないが、残念ながら彼女はまだそこまで成長しきってはいない。
慣れるまで決定的なダメージが打ち込めないとわかると、次策をとる。
ならば――
(……まあ、効くか効かないかはともかく気を引いたりは出来るかな。ま、兎にも角にも、基本的にはこの拳で殴りに行くのが……――)
はっくしょん!?
大きく、くしゃみをひとつ。
くしゃみは、つぎつぎとお友達をつれてくる。
くしょん、くしょん。
「うあ、あああやばい鼻と喉がやばい……思った以上にやば、ば、は、はーっくしょいッちくしょいッ!!」
かつての健康優良児も、これには苦戦。
「今までアレルギーに掛かった事無かったけど……こんなにヤバい症状だったのか……うう……」
いまさらながら、友人の苦労に思い至ったたわけである。
●
「っしゅッ! ……あ~。もぅ、くしゃみが!」
眼鏡の下の目を真っ赤にして、フィリテも苦戦中である。
「ぅぁ! 目かゆいッ! もぉー!!」
ハンカチで口抑えたり涙拭ったり、もぉぉ! 涙で歪虚がよく見えないし! むぐぅ! 眼鏡が邪魔、ってお風呂の時も思うけど、こーゆー時も邪魔だって思うのね。もぉ!」
アルトは息を呑んだ。
(こんな個体が大量に発生したら、いろんな意味でこう、ほんとにヤバイな――)
仲間たちの惨状に、さすがのアルトも戸惑っている。
聞くと見るとでは、大違いとはよくいったものだ。
このような惨劇が、毎年、春になるとループするリアルブルーとは、どのような地獄なのだろうかと思わずにはいられなかった。
(繁殖……は歪虚だからしないか、けどなんか増やされても困るし、全力を持って仕留めさせてもらおう)
だが、剣先は迷っている。
せっかく陣形を組んだのだが、これでは戦場にガスをばらまかれたような状況だ。
目には見えない進軍に対抗するには、どうするべきか。
幼い頃から、戦いの手ほどきを親から授けられ、成長した後には青い星からもたらされた異種の戦いの知恵もまた、彼女を成長させる糧となったが、その中にあった知識がなにごとかささやこうとしている。
(ならば、どうする?)
凜々しい横顔は、まさに姫騎士と呼んでよいものである。
もっとも、鼻から、つーと流れ落ちる体液には気がつかない様子であったが……
(やれやれ、あんな様子をいるかどうかしらんが恋人にでも見られたら、千年の恋すら一瞬で霧散だな)
カズマも十分に敵に接近した。
近接戦闘に移る。
ルーンソードを構えて、影渡を利用しての投擲で、敵ヴォイドを狙う。
セレスが風を纏う。
これならば、すこしは鱗粉に被害を減らすことができるだろうか。
「くっ――」
しかし、目にきた。
双眸からこぼれた涙の粒が風にのって散る。
鱗粉もそよいでいる。
「風!? そうか!?」
アルトは、武器の射程をいかした戦い方を選択した。そして、セレスとリアルブルーの戦史から学ぶこととした。ガスの攻撃の対応と同様に、風下に立たないようにするのだ。
狩人の知恵を駆使して、注意しながら位置取りをする。
そして、ヴォイドに向かった飛花と踏鳴後に散華、そして即座にその場を離れる。
「その手があったか!」
なんとか気力をこらして戦いに集中していたレイアも、仲間の考えを読み取った。
ならば、同じ手でいこう。
状態的に、ぐずぐずできる状況ではない。
くっしょん!
レイアは巨大な蛾に切りつけ、そのまま後方に跳ぶ。
ヒットアンドアウェイで距離を取ってみるつもりなのだ。
(おっ――)
敵と距離をとると、くしゃみはやむ。
ならば、この策は有効か。
だが、まだ鼻の奥がかゆい。
あるいは長い時間、あそこにいると病状が悪化するのかもしれない。
攻めの構えで短期決戦だ。
「行こう―――覚悟は出来ている―――」
喉がひりひりするのはくしゃみをしすぎたせいか。
「勝算は見えてきたな」
セレスの勘が告げる。
もとより、防御と特殊スキルに能力を全ふりしたような敵など攻略方法を見いだしてしまえばシンプルな作業である。
あとは空へ逃げても追跡できるように空渡を準備する。
ヴォイドは、すでに虫の息か。
逃げようと羽をばたつかせるが、大空へ戻る力はもはやない――いや、最後の力をふりしぼる。火事場のバカ力だ。
ふわり――
巨体が空へと返る。
「ちっ!」
背中に載って、いままさに剣を突き刺そうとしていたカズマがバランスを崩して落下する。
「逃がさない!」
アルトの手裏剣がその眼前を狙う。
化け物の頭が動いて、それを避けた。
だが、それが隙となった。
「もらった!」
死角から、顔中をすっかりぬらした、赤い目をした女が突っ込んでくる。
ジャンプをして、拳に力を載せる。
マテリアルが集中する。
「これで、どうだ!」
ぼこり!?
殴る音とともにヴォイドの向かい先が変わり。すさまじい音ととも巨体が地上に激突した。
土煙と、鱗粉が空へ舞い上がる。
苦しそうに化け物をなおも空を求める。
空をみる――だが、ついに、羽ばたくこともかなわず蛾の姿をしたヴォイドは空を見上げながら――逝った。
●
巨大なヴォイドを屠ったというのに、そこにあるには戦いに勝ったという高揚感よりも、なんとも言えぬ疲労感であった。
倒しはしたが――という感じでカズマはぐずつく鼻を袖でふいた。
どうせ戦いをすれば土や埃で汚れるし、なによりも今回の敵では汚染の可能性もあるのだ。戦いの後には衣服類を全部、洗浄させるつもりでいる。
というか、最後の一撃がきいた。
あたりに舞い散った鱗粉は一気にあたりに拡がり、範囲外にいたはずの仲間たちまで被害を受けてしまった。
最後の最後に、とんでもないプレゼントを残していった。
すっかり全員、仲良く、くしょん、くしょんとなりながら涙目。
羽々姫は、昔の友人の行動を思い出しながら、
(……何が効くか分からないけど、依頼終わったらアレルギー用の薬飲んでおこっと)
と考え、
レイアはくしゃみを連発しながら、
(……これからはくしゃみしてる相手に出来るだけ優しく接しよう)
と考えていた。
アルトやセレスは、体のだるさを覚えている。
くしゃみの連発で喉がやられ、すこし炎症を起こしているようだ。
「風邪か?」
といぶかしがるのも、その病状を理解しえぬ者たちだったらこそであり、未知の体験であったろうから辛いことであった。
最後に、さまざまな体液で顔をぬらしたフィリテが泣き声をあげていた。
「すぐ帰ってお風呂入りたい……目かゆいし鼻がムズムズするし……」
その夜、ギルドが近くに温泉つきの宿を一晩、とってくれたとのことであった。
依頼結果
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相談 フィリテ・ノート(ka0810) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/03/24 11:11:33 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/03/24 09:02:26 |