ゲスト
(ka0000)
下水道掃除をしよう!
マスター:きりん

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 8~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/03/23 19:00
- 完成日
- 2018/03/26 03:58
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ある錬金術士の失敗
どこかで誰かが機導術を学び、錬金術師が生まれる。
どこかで誰かが機導術を研究していると、マテリアルを消費する。
どこかで誰かが機導術を使うたび、マテリアルを消費する。
覚醒者の機導士は、今日もどこかで機導術を用いて依頼を解決している。
これらは当然の理屈で仕方のないことだが、マテリアルが消費された状態というのは魔法公害を引き起こす原因の一つとなり得る。
そしてその魔法公害が起こる確率は、いつだって零というわけにはいかないのだ。
事件はとある街の錬金術士が原因で起こった。
機導術を研究していたその錬金術士は、研究の過程で出た大量のゴミをうっかり下水道に流してしまった。しかも、長い間そのことに気付かなかった。
覚醒者でもなく、けれど研究を始めて少し日が経ち、余裕が出てきていたその錬金術士は、気が緩んだところで見事にとんでもない失敗をしたといえるだろう。
些細な失敗のように見えるかもしれない。だが、ゴミが流れたことで下水道で何が起こったか、もし知ることができたならそんなことはいえなくなる。
まず、ゴミは下水道の水を汚染した。
ただちに人体に影響が出るほどではなかったが、次に下水道のゴキブリたちが汚染された。
そして、最後にネズミも汚染された。ゴキブリもネズミも繁殖力が強いので、汚染されても転化して雑魔になるまでの間に元気に数を増やした。増えた個体は正常だったが、回りが汚染されていたのでやっぱりすぐに汚染された。
とどめには汚染された水の一部が蠢いて、軟体動物のように分離し下水道を彷徨い始めた。
こうして、下水道は上で暮らす人間たちの知らぬ間に、雑魔が蠢く魔窟と化していったのである。
●下水道作業員の不幸
街の住人から異臭がすると苦情が殺到し、急きょ下水道の点検が行われることになった。
本来その日は休日だったが、件数が多かったので、作業員たちは休日出勤を命じられた。
現場に赴いた作業員たちは、ぶつぶつ文句をいいながらもてきぱきと準備を始める。
マンホールを開けた作業員が立ち上ってくる臭いに顔をしかめた。
「これは凄いな。腐乱臭がする。水そのものが腐ってるのか?」
「さすがにそれはないだろう。虫とかネズミとかの死骸がどこかに引っかかって溜まってるんじゃないのか?」
作業員たちは酷い臭いに辟易しつつ、下水道に降りていく。
「……何だこりゃ」
降りた作業員たちは、下水道の惨状にあんぐりと口を開けた。水路は虫やネズミの死骸が浮いていて、一部が詰まって澱み、作業用の狭い歩道を普通よりも大きく丸々と育ったゴキブリやネズミが走り回っている。
歩道はぬめぬめとして濡れていて、何だか水滴が蠢いているような気さえする。
いや、気のせいではない。実際に床に広がった水溜りがもぞもぞと移動している。スライムだ。
「戻った方がいいんじゃないか?」
「いや、何もせずに戻ったらまた休日出勤くらうかもしれない」
「と、とにかく、点検だけでもやらねえと。行くぞお前ら」
戻ることが許されるならすぐさま戻りたい作業員たちだったが、本能が警鐘を鳴らすのを無視して点検作業を始めてしまう。
すると回りにいたゴキブリやネズミ、スライムたちが一斉に近寄ってきて、作業員たちは襲われる前にほうほうの体で地上に逃げ帰った。
「まるでダンジョンだな。俺たちじゃどうにもならん」
「こりゃ無理だ。ハンターに頼もう」
「同感だ。命が惜しい」
道具を纏めると、作業員たちはマンホールを元の状態に戻してそそくさとその場を後にする。
こうして作業員たちは命拾いをしたのだった。
●ハンターたちも臭いのは嫌らしい
下水道掃除の依頼はしばらく放置された。
理由は当然、物凄い悪臭が立ち込めているのが分かっているからである。
いくら超人揃いのハンターといえども、わざわざ辟易するのが分かり切っている下水道に踏み込むのは嫌なようだ。
依頼を選ぶ余裕があるハンターたちは、迷わずそちらを優先した。
他の依頼を受けたからと見なかったことにする方法も使えず、かといっていまいち下水道掃除をする気にもなれないハンターたちが、今日もハンターズソサエティでくだを巻いている。
「いつまで放置しているんですか。これ、先週発表した依頼ですよ」
ついに、受付嬢が最後通牒を突きつけにやってきてしまった。
「自発的にやる気になってくださるのならそれが一番いいと思い静観していましたが、もう待てません。このままでは下水道作業員が点検を行えないので、速やかに下水道内の雑魔を退治してください。確認されているのはスライム、ゴキブリ、ネズミの三種です」
受付嬢が目についたハンターたちに依頼の受諾を迫っていく。
目をつけられなかったハンターはホッと胸を撫で下ろし、逆に目をつけられたハンターは表情を引き攣らせた。
「雑魔が発生した原因は、錬金術のゴミが大量に下水道に流れてしまったからのようです。これは最近になってそのことに気付いた錬金術師本人からの報告で発覚しました。下水道は点検作業用の通路が両側にあり、中央に水路が通った作りになっています。マンホールは数多くありますが、報告を受けて全てすぐに封鎖しましたので雑魔が地上に出てくる心配をする必要はありません。封鎖より前に地上に出た雑魔がいる可能性までは否定できませんが、現段階では確認できておりません」
続いて資料を配り終えた受付嬢は、空手になった両手をぽんぽんと叩き、ハンターたちの注目を集める。
「とにかく、下水道に蔓延った雑魔たちを全て始末してください。一匹でも残っていると下水道作業員が点検を行えないので、駆除作業は念入りに、くれぐれも討ち漏らしがないよう注意してください。可能なら原因となったゴミの回収と、水の浄化もお願いします」
最後に受付嬢は、資料を受け取ったハンターたち一人一人に近寄って目を合わせ、笑顔で凄んで去っていく。
「詳細はお渡しした資料に記載してあります。ハンターの皆様は速やかに任務に従事するように。よろしいですね?」
残されたハンターたちは、受付嬢の額に青筋が浮かんでいたのを見てしまい、己が貧乏くじを引いたことを悟ったのだった。
どこかで誰かが機導術を学び、錬金術師が生まれる。
どこかで誰かが機導術を研究していると、マテリアルを消費する。
どこかで誰かが機導術を使うたび、マテリアルを消費する。
覚醒者の機導士は、今日もどこかで機導術を用いて依頼を解決している。
これらは当然の理屈で仕方のないことだが、マテリアルが消費された状態というのは魔法公害を引き起こす原因の一つとなり得る。
そしてその魔法公害が起こる確率は、いつだって零というわけにはいかないのだ。
事件はとある街の錬金術士が原因で起こった。
機導術を研究していたその錬金術士は、研究の過程で出た大量のゴミをうっかり下水道に流してしまった。しかも、長い間そのことに気付かなかった。
覚醒者でもなく、けれど研究を始めて少し日が経ち、余裕が出てきていたその錬金術士は、気が緩んだところで見事にとんでもない失敗をしたといえるだろう。
些細な失敗のように見えるかもしれない。だが、ゴミが流れたことで下水道で何が起こったか、もし知ることができたならそんなことはいえなくなる。
まず、ゴミは下水道の水を汚染した。
ただちに人体に影響が出るほどではなかったが、次に下水道のゴキブリたちが汚染された。
そして、最後にネズミも汚染された。ゴキブリもネズミも繁殖力が強いので、汚染されても転化して雑魔になるまでの間に元気に数を増やした。増えた個体は正常だったが、回りが汚染されていたのでやっぱりすぐに汚染された。
とどめには汚染された水の一部が蠢いて、軟体動物のように分離し下水道を彷徨い始めた。
こうして、下水道は上で暮らす人間たちの知らぬ間に、雑魔が蠢く魔窟と化していったのである。
●下水道作業員の不幸
街の住人から異臭がすると苦情が殺到し、急きょ下水道の点検が行われることになった。
本来その日は休日だったが、件数が多かったので、作業員たちは休日出勤を命じられた。
現場に赴いた作業員たちは、ぶつぶつ文句をいいながらもてきぱきと準備を始める。
マンホールを開けた作業員が立ち上ってくる臭いに顔をしかめた。
「これは凄いな。腐乱臭がする。水そのものが腐ってるのか?」
「さすがにそれはないだろう。虫とかネズミとかの死骸がどこかに引っかかって溜まってるんじゃないのか?」
作業員たちは酷い臭いに辟易しつつ、下水道に降りていく。
「……何だこりゃ」
降りた作業員たちは、下水道の惨状にあんぐりと口を開けた。水路は虫やネズミの死骸が浮いていて、一部が詰まって澱み、作業用の狭い歩道を普通よりも大きく丸々と育ったゴキブリやネズミが走り回っている。
歩道はぬめぬめとして濡れていて、何だか水滴が蠢いているような気さえする。
いや、気のせいではない。実際に床に広がった水溜りがもぞもぞと移動している。スライムだ。
「戻った方がいいんじゃないか?」
「いや、何もせずに戻ったらまた休日出勤くらうかもしれない」
「と、とにかく、点検だけでもやらねえと。行くぞお前ら」
戻ることが許されるならすぐさま戻りたい作業員たちだったが、本能が警鐘を鳴らすのを無視して点検作業を始めてしまう。
すると回りにいたゴキブリやネズミ、スライムたちが一斉に近寄ってきて、作業員たちは襲われる前にほうほうの体で地上に逃げ帰った。
「まるでダンジョンだな。俺たちじゃどうにもならん」
「こりゃ無理だ。ハンターに頼もう」
「同感だ。命が惜しい」
道具を纏めると、作業員たちはマンホールを元の状態に戻してそそくさとその場を後にする。
こうして作業員たちは命拾いをしたのだった。
●ハンターたちも臭いのは嫌らしい
下水道掃除の依頼はしばらく放置された。
理由は当然、物凄い悪臭が立ち込めているのが分かっているからである。
いくら超人揃いのハンターといえども、わざわざ辟易するのが分かり切っている下水道に踏み込むのは嫌なようだ。
依頼を選ぶ余裕があるハンターたちは、迷わずそちらを優先した。
他の依頼を受けたからと見なかったことにする方法も使えず、かといっていまいち下水道掃除をする気にもなれないハンターたちが、今日もハンターズソサエティでくだを巻いている。
「いつまで放置しているんですか。これ、先週発表した依頼ですよ」
ついに、受付嬢が最後通牒を突きつけにやってきてしまった。
「自発的にやる気になってくださるのならそれが一番いいと思い静観していましたが、もう待てません。このままでは下水道作業員が点検を行えないので、速やかに下水道内の雑魔を退治してください。確認されているのはスライム、ゴキブリ、ネズミの三種です」
受付嬢が目についたハンターたちに依頼の受諾を迫っていく。
目をつけられなかったハンターはホッと胸を撫で下ろし、逆に目をつけられたハンターは表情を引き攣らせた。
「雑魔が発生した原因は、錬金術のゴミが大量に下水道に流れてしまったからのようです。これは最近になってそのことに気付いた錬金術師本人からの報告で発覚しました。下水道は点検作業用の通路が両側にあり、中央に水路が通った作りになっています。マンホールは数多くありますが、報告を受けて全てすぐに封鎖しましたので雑魔が地上に出てくる心配をする必要はありません。封鎖より前に地上に出た雑魔がいる可能性までは否定できませんが、現段階では確認できておりません」
続いて資料を配り終えた受付嬢は、空手になった両手をぽんぽんと叩き、ハンターたちの注目を集める。
「とにかく、下水道に蔓延った雑魔たちを全て始末してください。一匹でも残っていると下水道作業員が点検を行えないので、駆除作業は念入りに、くれぐれも討ち漏らしがないよう注意してください。可能なら原因となったゴミの回収と、水の浄化もお願いします」
最後に受付嬢は、資料を受け取ったハンターたち一人一人に近寄って目を合わせ、笑顔で凄んで去っていく。
「詳細はお渡しした資料に記載してあります。ハンターの皆様は速やかに任務に従事するように。よろしいですね?」
残されたハンターたちは、受付嬢の額に青筋が浮かんでいたのを見てしまい、己が貧乏くじを引いたことを悟ったのだった。
リプレイ本文
●探索開始
物凄い臭いが立ち込めている。
対策をしてきた者は平気だが、他はそうもいかない。
一応ハンターズソサエティから汚水対策として全身を覆うタイプのレインコートを貸与されているものの、鼻腔に突き刺さるような臭いまではどうしようもなく、雑魔との戦闘ともなれば激しい動きになるので中に汚水が染み込む可能性は否定できないのだ。
八人の中で、明らかに異色な姿があった。まるで船外宇宙服姿のような物々しい格好をした男だった。
『パイロットスーツを着てきて正解でしたね。生命維持装置もついてますし』
気密性の高いヘルメットまで被り涼しい顔をしているクオン・サガラ(ka0018)を、鼻と口をハンカチで覆うネフィリア・レインフォード(ka0444)は羨ましそうに見た。
「ず、ずるいよそれ。僕も欲しい」
二人のやり取りを横目で見ながら、鍛島 霧絵(ka3074)は無言で鼻と口を押さえている。
「これは、少し辛いわ……」
じわりと生理的な涙が滲むくらいの強烈な臭気に慣れるのは、少し時間が掛かりそうだ。
「臭いは我慢できるけど、ボクは下水の中にまで入りたくないよ。生理的にイヤなの」
戦闘になればぶっきらぼうなアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)も、思わず普段の口調に戻ってしまうくらい嫌そうに、手拭いで鼻と口を覆っている。
「終わった後は愚痴でもいわないとやってられないなこれは……」
霧絵と同じく、目に涙を浮かべているのはレイア・アローネ(ka4082)だ。クールな表情があまりの臭気に引き攣っている。
エメラルド・シルフィユ(ka4678)は耐え切れず逃走を試みたが、仲間たちに阻止されてしまった。当たり前である。
「い、いや、今のは逃げようとしたわけではないぞ。ちょっと忘れ物を思い出しただけでな……!」
「仕方ないよ。こんなの誰も受けたがらないのは当然だ。やれやれ、僕たちにも拒否権はあったはずなんだけどねぇ」
皆がエメラルドにジト目を注ぐ中、ローエン・アイザック(ka5946)はエメラルドの行動を咎めることもなく、逆に同情している。そんな彼も、下水道の臭いの洗礼は免れない。
道元 ガンジ(ka6005)も顔を顰めているものの、彼は割と平気そうだった。
「放置しとくわけにゃいかねェ。さっさと片付けてメシでも食いに行こうぜ!」
それよりもまず風呂だと、ガンジ以外全員の意見が内心で一致する。
『皆様、聞こえますか?』
各々のトランシーバーやスマートフォンから、受付嬢の声が流れる。
『ハンターズソサエティの魔導通信設備で連絡をさせていただいております。まずはこの依頼をお引き受けくださいましたことを、心よりお礼申し上げます』
挨拶に続けて受付嬢が告げたのは、地上の状況が問題ないということと、ハンターズソサエティが自分たちにお詫びを兼ねた特別報酬として一泊二日の温泉旅行を準備しているということだった。
受付嬢の通信が終わると、八人はゆっくりと顔を見合わせた。
彼らの顔には一様にこう書いてあった。
温泉旅行では絶対に遊び倒してやる。
メラメラと決意を燃やした彼らは、やる気を漲らせて担当する下水道の範囲を決めて散らばっていった。
●ガンジとエメラルド
前を歩くガンジの様子を窺いながら足を止めたエメラルドは、おもむろに来た道を引き返そうとした。
「おい、そっちはマンホールに戻るだけだぞ?」
「べ、別にこっそり逃げようなんて思ってないからな!?」
ただ単に道が違うことを指摘しただけのガンジと、あわよくば逃げ出そうと思ったことを悟られたと感じて墓穴を掘ったエメラルドは、お互いにぽかんとした表情で見つめ合う。
「とりあえず、一度戻ってマンホール周辺を探ってみるか。受付嬢はああいってたが、一応確認して損はねェだろ」
「う、うむ! 私もそれでいいと思う!」
根が単純で純粋な思考回路を持つガンジはエメラルドの真意に気付いておらず、エメラルドは全力で己の行動を誤魔化した。
マンホールのはしごの壁に、小さなスライムが付着していたので二人で倒し、改めてマッピングを行いながら先に進む。
やがて、一面の壁に何かが蠢く場所に出た。
「すげェ。壁一面にゴキブリがたかってやがる」
「ひいいいいいいいいいいいいいい!?」
面白そうに笑うガンジとは違い、エメラルドは背を丸め半泣きだ。無理もない。
「うおっ!?」
一斉にゴキブリたちが飛び立ってガンジとエメラルドを巻き込んだので、さすがのガンジも驚きの声をあげた。
しかしそれ以上に驚いたのがエメラルドである。
「いやああああああ!?」
悲鳴を上げるエメラルドは咄嗟に侵入を防ぐ結界を張り身を護った。
ただのゴキブリが生じた圧力によって逃げ出していく。しかしゴキブリたちの中に妙に強気なゴキブリが混じっているようで、それらが結界の付近でカサカサと這っている。
それらは雑魔になって仲間を蘇生させる能力を得たゴキブリだった。
しかし、所詮は雑魔といえどもゴキブリ。涙目のエメラルドに追い回され最後にはガンジによってきっちり止めを刺されたのだった。
●レイアと霧絵
己の選択が正しかったことを、レイアは実感していた。
「事前に真水を用意しておいてもらって良かったな」
「……そうね」
口数こそ少ないが、霧絵は深く同意する。
汚水は歩道をも濡らしていて、それが歩くと跳ねるし、湿気が酷く下水道は上にも通っているから、汚水が水滴となって天井を伝って落ちてくるのだ。
油断しているとたまに目に入りそうになる。
精神的にも、衛生的にも頂けないので、都度レイアと霧絵は水で洗浄を行った。
歩道が狭いので、レイアが前衛を歩き、霧絵はいつでも壁に飛び移れるようにしながら後衛についている。
「敵! ……なんだ、ゴキブリか」
一瞬身構えたレイアの横の床をゴキブリが駆け抜けていく。雑魔ではない、ただのゴキブリである。
ゴキブリだけではなく、普通のネズミも多く下水道のあちこちをうろついているようだ。
恐らくはあれらも汚染されつつあるのだろうが、まだ転化はしていないらしい。
「……倒さないの?」
「雑魔以外を倒してもきりがない。しかも潰れればたぶん飛び出すぞ、中身が」
二人してその様を想像して青くなった。
「遠慮したいわね」
嫌過ぎる。
今度はネズミが数匹走ってくる。
「今度こそ雑魔だ! 行くぞ!」
「分かったわ!」
壁歩きで壁を足場にする霧絵を横目に、レイアは炎のようなオーラを纏い雑魔たちの注意を引き付ける。
そこへ霧絵が的確に連続射撃を行って雨あられと弾丸を浴びせ、レイアと協力して仕留めた。
●アルトとローエン
ローエンは己の前交渉がハンターズソサエティ側の思わぬ譲歩を引き出したことに満足していた。
「いやあ、言ってみるものだね」
「受付嬢も上の指示だったろうに、ちょっと可哀想だったかも」
対するアルトは苦笑気味だ。
ただの骨折り損で終わりそうだった依頼が、温泉旅行に化けたのだ。その代金はどこから出たのだろうと少し邪推してしまう。
ハンターズソサエティの資金からか、それとも受付嬢の個人的なポケットマネーか、はたまた原因となった錬金術師から罰金のような形で徴収したのか。
歩道を走る何かがアルトとすれ違った瞬間真っ二つに斬り裂かれた。
用意してもらっていた下水道の地図を見ていたローエンが、アルトに訪ねる。
「……それ、雑魔だったのかい?」
「ああ」
雑魔ネズミを絶命せしめたのは、アルトが振り抜いた刀の一撃だった。
何気ない動作であるが、前提がお互いに高速で走りながらである。
「さすがだね。いつ斬ったのか分からなかったよ」
「慣れればこれくらい、誰だってできるようになるさ」
何でもないことのように、高難度の戦いをこなすのがアルトである。彼女にとってはまさに児戯に等しいのだろう。
「なら、あのスライムは僕の獲物だね」
歩道の床を這うスライムを見つけ、ローエンは鎮魂歌を歌い上げてその動きを止めた。
スライムはふるふると震えると、二つに分裂する。
続いて魔法で追撃しようとすると、その一つが即座に両断されて形を無くし、元の汚水へと戻る。
遅れてもう一匹を倒したローエンが自分を見つめているのに気付き、アルトは不思議そうに首を傾げる。
「……何、その顔」
物理が効き難いとかもはや関係ない強さに、全部アルト一人いればいいんじゃないかと一瞬思ったのを、ローエンは秘密にしておくことにした。
●クオンとネフィリア
二人は空を飛べることを生かし、歩道に囚われずひたすら奥へと向かっていた。
雑魔ではないネズミやゴキブリたちが歩道を走り回っている。
今はまだ転化していないそれらも、放っておけばそう遠くない未来には雑魔になっているだろう。
だが原因さえ取り除いてしまえば、未来に雑魔化する可能性は排除できるはずだ。
前もってガンジが浮き輪でゴミの位置を探ってくれているし、アルトも機械指輪で有害物の探知を試みてくれている。
『そのためにも、まずはしっかりと雑魔を片付けなくてはなりませんね』
「害獣害虫の類とはいえ、雑魔じゃない動物を倒すのは気が引けるなぁ」
肉声であるネフィリアに比べ、パイロットスーツを着用したクオンの声は聞こえ辛いので、通信機を使用していた。
『しっかり殴り倒してナックルを拭く人の台詞じゃありませんよ』
「それはそれ、これはこれ」
軽口を叩き合いながらも二人の連携は中々だ。時々混じっている雑魔を危なげなく退治している。
特にクオンの判断は的確で、火炎放射などその手段も容赦ない。
ある程度進むと、水が落ちる音が聞こえてくる。
『下水道の合流部ですね。覗いてみます?』
「やってみる!」
ネフィリアが表情を好奇心で輝かせてはしごに登って覗き込み、クオンの下へ戻ってくる。
「スライムがいた。でも、ちょっと入るには狭いかな」
『なら、わたしがはしごに登って対処しましょう』
はしごに登ったクオンがスライムを凍らせて処理をする。時折射出してくる酸にさえ気をつければ手傷を負うような相手ではない。
さらに先に進んだ二人は、水の流れが淀んだ水路に見覚えのあるガンジの浮き輪が浮いているのを見つけた。
別の場所にいたアルトからも、有害物質を検知したとの連絡が入った。
●皆で浄化とゴミの回収
下水道の雑魔を掃討し終えたところで通信が途切れがちになってしまったので、一同は一度集まって外に出ることにした。
同時に、打ち合わせ通り電波状況を監視していたハンターズソサエティの受付嬢から魔導通信が入る。トランシーバーやスマートフォンより強力な通信設備を使っているのだろう。繋がりにくい今でもちゃんと繋がっている。
雑魔を全滅させたことを報告すると、受付嬢も朗報を告げた。
何でも件の錬金術師から新たな情報を入手したのだという。
それによると、彼が下水に流した錬金術の廃棄物が水路の金網に引っかかって下水道の流れをせき止め、それが悪臭と環境悪化の原因となっている可能性が高いようだ。回収用の道具が地上に用意されているらしい。
地上の空気は美味かった。
『さて、行きますか』
「はううう、また中に行かなきゃいけないんだよね」
平然としているクオンとは対照的に、ネフィリアは嫌そうな顔だ。
「ボクも気が進まないけど、やらなきゃ終わらないから」
「後もう少しで、温泉が待ってるよ」
温泉効果か、アルトとローエンは割と前向きだった。
「……楽しみね」
言葉少なでも、穏やかに綻んだ表情が霧絵の内心を物語っている。しかしその表情も、マンホールを再び開けたとたんに曇ってしまったが。
「やはり、愚痴をいわねば収まらんぞこれは……」
レイアも顔を顰めながらマンホールの下に現れたはしごを睨む。
「行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない」
「諦めろよ。それより温泉旅行で食うメシのことでも考えようぜ!」
蹲って再突入を拒否するエメラルドは陽気に笑うガンジに連行された。
こうして、一行は回収道具を手に再び下水道に潜るのだった。
再び散らばり、皆で水路に入って金網の廃棄物を回収する。
金網といってもあちこちにあり、溜まっている廃棄物の量も場所によって違う。
特に酷い場所はパイロットスーツを着たクオンが行い、回収用のドラム缶に詰められ厳重に密閉されたそれをネフィリアが地上へと運び出していく。
廃棄物はヘドロ状になっており、もはや元の形が分からない。その癖量だけはあるので、悪臭の中の回収はそれだけでそれなりの労力が必要だった。
「……パイロットスーツを着てきた自分の判断を本気で褒めたいですねぇ」
「僕も君が着てるみたいなの、用意しておけばよかった」
飄々としながら浄化と回収を手際よく行うクオンを、嫉妬に塗れた目でネフィリアが睨む。
ネフィリアもハンターズソサエティに貸与されたレインコートを着込んでいるとはいえ、既に汚水で汚れており、むしろ真水で洗っても洗った側から汚れるのでもはや放置している状態だ。
別の場所では、アルトとローエンが金網から廃棄物を回収していた。
しかし、水路に入っているのはローエンだけであった。
「あの、アルトちゃんは水路に入らないのかい」
「イヤだ。断固拒否する」
アルトはローエンが回収した廃棄物をテキパキとドラム缶に詰める作業を行いながら、ばっさりとローエンの訴えを斬って捨てた。
その様子を遠目に見たレイアは、己の横で同じく水路の中でネズミやゴキブリの死骸をかき分けながら作業を行う霧絵を見て、困ったように眉根を寄せる。
「おまえも、そこまですることはないんだぞ?」
「……そうはいかないわ。引き受けた仕事だもの」
汚れながらも黙々とすべきことを嫌な顔一つせずに行う霧絵の姿を見て、レイアはかすかに微笑みを浮かべた。
彼女のような人間となら、こんな文字通りの汚れ仕事も楽しくやれそうだと感じたのだ。
しかし、往生際が悪い人間もこの中にはいた。
「ほらほら、いい加減に覚悟を決めようぜ! 俺は浄化で手一杯だから、回収の方よろしく頼むな!」
「い、いや、違うんだ! 嫌なわけではなくてだな! 水の中に入るのだから、やはり準備体操は必要だろう!? あ、止めろ、手を引っ張るな! ひゃあああああ!?」
どぼんと水音とともに、エメラルドがガンジに手を引かれ水路に落ちた。
こうして数々の嘆きと笑いを生み出した下水道の雑魔退治は、八人のハンターたちの努力によって無事終わりを告げた。
辛いことが済めば、後は楽しいことが待っている。
外に出て、身体を綺麗にして一息ついて温泉旅行の始まりだ。それがこの場で語られることはないが、いつかまた別の機会があるかもしれない。
ひとまずはここで終幕である。
物凄い臭いが立ち込めている。
対策をしてきた者は平気だが、他はそうもいかない。
一応ハンターズソサエティから汚水対策として全身を覆うタイプのレインコートを貸与されているものの、鼻腔に突き刺さるような臭いまではどうしようもなく、雑魔との戦闘ともなれば激しい動きになるので中に汚水が染み込む可能性は否定できないのだ。
八人の中で、明らかに異色な姿があった。まるで船外宇宙服姿のような物々しい格好をした男だった。
『パイロットスーツを着てきて正解でしたね。生命維持装置もついてますし』
気密性の高いヘルメットまで被り涼しい顔をしているクオン・サガラ(ka0018)を、鼻と口をハンカチで覆うネフィリア・レインフォード(ka0444)は羨ましそうに見た。
「ず、ずるいよそれ。僕も欲しい」
二人のやり取りを横目で見ながら、鍛島 霧絵(ka3074)は無言で鼻と口を押さえている。
「これは、少し辛いわ……」
じわりと生理的な涙が滲むくらいの強烈な臭気に慣れるのは、少し時間が掛かりそうだ。
「臭いは我慢できるけど、ボクは下水の中にまで入りたくないよ。生理的にイヤなの」
戦闘になればぶっきらぼうなアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)も、思わず普段の口調に戻ってしまうくらい嫌そうに、手拭いで鼻と口を覆っている。
「終わった後は愚痴でもいわないとやってられないなこれは……」
霧絵と同じく、目に涙を浮かべているのはレイア・アローネ(ka4082)だ。クールな表情があまりの臭気に引き攣っている。
エメラルド・シルフィユ(ka4678)は耐え切れず逃走を試みたが、仲間たちに阻止されてしまった。当たり前である。
「い、いや、今のは逃げようとしたわけではないぞ。ちょっと忘れ物を思い出しただけでな……!」
「仕方ないよ。こんなの誰も受けたがらないのは当然だ。やれやれ、僕たちにも拒否権はあったはずなんだけどねぇ」
皆がエメラルドにジト目を注ぐ中、ローエン・アイザック(ka5946)はエメラルドの行動を咎めることもなく、逆に同情している。そんな彼も、下水道の臭いの洗礼は免れない。
道元 ガンジ(ka6005)も顔を顰めているものの、彼は割と平気そうだった。
「放置しとくわけにゃいかねェ。さっさと片付けてメシでも食いに行こうぜ!」
それよりもまず風呂だと、ガンジ以外全員の意見が内心で一致する。
『皆様、聞こえますか?』
各々のトランシーバーやスマートフォンから、受付嬢の声が流れる。
『ハンターズソサエティの魔導通信設備で連絡をさせていただいております。まずはこの依頼をお引き受けくださいましたことを、心よりお礼申し上げます』
挨拶に続けて受付嬢が告げたのは、地上の状況が問題ないということと、ハンターズソサエティが自分たちにお詫びを兼ねた特別報酬として一泊二日の温泉旅行を準備しているということだった。
受付嬢の通信が終わると、八人はゆっくりと顔を見合わせた。
彼らの顔には一様にこう書いてあった。
温泉旅行では絶対に遊び倒してやる。
メラメラと決意を燃やした彼らは、やる気を漲らせて担当する下水道の範囲を決めて散らばっていった。
●ガンジとエメラルド
前を歩くガンジの様子を窺いながら足を止めたエメラルドは、おもむろに来た道を引き返そうとした。
「おい、そっちはマンホールに戻るだけだぞ?」
「べ、別にこっそり逃げようなんて思ってないからな!?」
ただ単に道が違うことを指摘しただけのガンジと、あわよくば逃げ出そうと思ったことを悟られたと感じて墓穴を掘ったエメラルドは、お互いにぽかんとした表情で見つめ合う。
「とりあえず、一度戻ってマンホール周辺を探ってみるか。受付嬢はああいってたが、一応確認して損はねェだろ」
「う、うむ! 私もそれでいいと思う!」
根が単純で純粋な思考回路を持つガンジはエメラルドの真意に気付いておらず、エメラルドは全力で己の行動を誤魔化した。
マンホールのはしごの壁に、小さなスライムが付着していたので二人で倒し、改めてマッピングを行いながら先に進む。
やがて、一面の壁に何かが蠢く場所に出た。
「すげェ。壁一面にゴキブリがたかってやがる」
「ひいいいいいいいいいいいいいい!?」
面白そうに笑うガンジとは違い、エメラルドは背を丸め半泣きだ。無理もない。
「うおっ!?」
一斉にゴキブリたちが飛び立ってガンジとエメラルドを巻き込んだので、さすがのガンジも驚きの声をあげた。
しかしそれ以上に驚いたのがエメラルドである。
「いやああああああ!?」
悲鳴を上げるエメラルドは咄嗟に侵入を防ぐ結界を張り身を護った。
ただのゴキブリが生じた圧力によって逃げ出していく。しかしゴキブリたちの中に妙に強気なゴキブリが混じっているようで、それらが結界の付近でカサカサと這っている。
それらは雑魔になって仲間を蘇生させる能力を得たゴキブリだった。
しかし、所詮は雑魔といえどもゴキブリ。涙目のエメラルドに追い回され最後にはガンジによってきっちり止めを刺されたのだった。
●レイアと霧絵
己の選択が正しかったことを、レイアは実感していた。
「事前に真水を用意しておいてもらって良かったな」
「……そうね」
口数こそ少ないが、霧絵は深く同意する。
汚水は歩道をも濡らしていて、それが歩くと跳ねるし、湿気が酷く下水道は上にも通っているから、汚水が水滴となって天井を伝って落ちてくるのだ。
油断しているとたまに目に入りそうになる。
精神的にも、衛生的にも頂けないので、都度レイアと霧絵は水で洗浄を行った。
歩道が狭いので、レイアが前衛を歩き、霧絵はいつでも壁に飛び移れるようにしながら後衛についている。
「敵! ……なんだ、ゴキブリか」
一瞬身構えたレイアの横の床をゴキブリが駆け抜けていく。雑魔ではない、ただのゴキブリである。
ゴキブリだけではなく、普通のネズミも多く下水道のあちこちをうろついているようだ。
恐らくはあれらも汚染されつつあるのだろうが、まだ転化はしていないらしい。
「……倒さないの?」
「雑魔以外を倒してもきりがない。しかも潰れればたぶん飛び出すぞ、中身が」
二人してその様を想像して青くなった。
「遠慮したいわね」
嫌過ぎる。
今度はネズミが数匹走ってくる。
「今度こそ雑魔だ! 行くぞ!」
「分かったわ!」
壁歩きで壁を足場にする霧絵を横目に、レイアは炎のようなオーラを纏い雑魔たちの注意を引き付ける。
そこへ霧絵が的確に連続射撃を行って雨あられと弾丸を浴びせ、レイアと協力して仕留めた。
●アルトとローエン
ローエンは己の前交渉がハンターズソサエティ側の思わぬ譲歩を引き出したことに満足していた。
「いやあ、言ってみるものだね」
「受付嬢も上の指示だったろうに、ちょっと可哀想だったかも」
対するアルトは苦笑気味だ。
ただの骨折り損で終わりそうだった依頼が、温泉旅行に化けたのだ。その代金はどこから出たのだろうと少し邪推してしまう。
ハンターズソサエティの資金からか、それとも受付嬢の個人的なポケットマネーか、はたまた原因となった錬金術師から罰金のような形で徴収したのか。
歩道を走る何かがアルトとすれ違った瞬間真っ二つに斬り裂かれた。
用意してもらっていた下水道の地図を見ていたローエンが、アルトに訪ねる。
「……それ、雑魔だったのかい?」
「ああ」
雑魔ネズミを絶命せしめたのは、アルトが振り抜いた刀の一撃だった。
何気ない動作であるが、前提がお互いに高速で走りながらである。
「さすがだね。いつ斬ったのか分からなかったよ」
「慣れればこれくらい、誰だってできるようになるさ」
何でもないことのように、高難度の戦いをこなすのがアルトである。彼女にとってはまさに児戯に等しいのだろう。
「なら、あのスライムは僕の獲物だね」
歩道の床を這うスライムを見つけ、ローエンは鎮魂歌を歌い上げてその動きを止めた。
スライムはふるふると震えると、二つに分裂する。
続いて魔法で追撃しようとすると、その一つが即座に両断されて形を無くし、元の汚水へと戻る。
遅れてもう一匹を倒したローエンが自分を見つめているのに気付き、アルトは不思議そうに首を傾げる。
「……何、その顔」
物理が効き難いとかもはや関係ない強さに、全部アルト一人いればいいんじゃないかと一瞬思ったのを、ローエンは秘密にしておくことにした。
●クオンとネフィリア
二人は空を飛べることを生かし、歩道に囚われずひたすら奥へと向かっていた。
雑魔ではないネズミやゴキブリたちが歩道を走り回っている。
今はまだ転化していないそれらも、放っておけばそう遠くない未来には雑魔になっているだろう。
だが原因さえ取り除いてしまえば、未来に雑魔化する可能性は排除できるはずだ。
前もってガンジが浮き輪でゴミの位置を探ってくれているし、アルトも機械指輪で有害物の探知を試みてくれている。
『そのためにも、まずはしっかりと雑魔を片付けなくてはなりませんね』
「害獣害虫の類とはいえ、雑魔じゃない動物を倒すのは気が引けるなぁ」
肉声であるネフィリアに比べ、パイロットスーツを着用したクオンの声は聞こえ辛いので、通信機を使用していた。
『しっかり殴り倒してナックルを拭く人の台詞じゃありませんよ』
「それはそれ、これはこれ」
軽口を叩き合いながらも二人の連携は中々だ。時々混じっている雑魔を危なげなく退治している。
特にクオンの判断は的確で、火炎放射などその手段も容赦ない。
ある程度進むと、水が落ちる音が聞こえてくる。
『下水道の合流部ですね。覗いてみます?』
「やってみる!」
ネフィリアが表情を好奇心で輝かせてはしごに登って覗き込み、クオンの下へ戻ってくる。
「スライムがいた。でも、ちょっと入るには狭いかな」
『なら、わたしがはしごに登って対処しましょう』
はしごに登ったクオンがスライムを凍らせて処理をする。時折射出してくる酸にさえ気をつければ手傷を負うような相手ではない。
さらに先に進んだ二人は、水の流れが淀んだ水路に見覚えのあるガンジの浮き輪が浮いているのを見つけた。
別の場所にいたアルトからも、有害物質を検知したとの連絡が入った。
●皆で浄化とゴミの回収
下水道の雑魔を掃討し終えたところで通信が途切れがちになってしまったので、一同は一度集まって外に出ることにした。
同時に、打ち合わせ通り電波状況を監視していたハンターズソサエティの受付嬢から魔導通信が入る。トランシーバーやスマートフォンより強力な通信設備を使っているのだろう。繋がりにくい今でもちゃんと繋がっている。
雑魔を全滅させたことを報告すると、受付嬢も朗報を告げた。
何でも件の錬金術師から新たな情報を入手したのだという。
それによると、彼が下水に流した錬金術の廃棄物が水路の金網に引っかかって下水道の流れをせき止め、それが悪臭と環境悪化の原因となっている可能性が高いようだ。回収用の道具が地上に用意されているらしい。
地上の空気は美味かった。
『さて、行きますか』
「はううう、また中に行かなきゃいけないんだよね」
平然としているクオンとは対照的に、ネフィリアは嫌そうな顔だ。
「ボクも気が進まないけど、やらなきゃ終わらないから」
「後もう少しで、温泉が待ってるよ」
温泉効果か、アルトとローエンは割と前向きだった。
「……楽しみね」
言葉少なでも、穏やかに綻んだ表情が霧絵の内心を物語っている。しかしその表情も、マンホールを再び開けたとたんに曇ってしまったが。
「やはり、愚痴をいわねば収まらんぞこれは……」
レイアも顔を顰めながらマンホールの下に現れたはしごを睨む。
「行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない」
「諦めろよ。それより温泉旅行で食うメシのことでも考えようぜ!」
蹲って再突入を拒否するエメラルドは陽気に笑うガンジに連行された。
こうして、一行は回収道具を手に再び下水道に潜るのだった。
再び散らばり、皆で水路に入って金網の廃棄物を回収する。
金網といってもあちこちにあり、溜まっている廃棄物の量も場所によって違う。
特に酷い場所はパイロットスーツを着たクオンが行い、回収用のドラム缶に詰められ厳重に密閉されたそれをネフィリアが地上へと運び出していく。
廃棄物はヘドロ状になっており、もはや元の形が分からない。その癖量だけはあるので、悪臭の中の回収はそれだけでそれなりの労力が必要だった。
「……パイロットスーツを着てきた自分の判断を本気で褒めたいですねぇ」
「僕も君が着てるみたいなの、用意しておけばよかった」
飄々としながら浄化と回収を手際よく行うクオンを、嫉妬に塗れた目でネフィリアが睨む。
ネフィリアもハンターズソサエティに貸与されたレインコートを着込んでいるとはいえ、既に汚水で汚れており、むしろ真水で洗っても洗った側から汚れるのでもはや放置している状態だ。
別の場所では、アルトとローエンが金網から廃棄物を回収していた。
しかし、水路に入っているのはローエンだけであった。
「あの、アルトちゃんは水路に入らないのかい」
「イヤだ。断固拒否する」
アルトはローエンが回収した廃棄物をテキパキとドラム缶に詰める作業を行いながら、ばっさりとローエンの訴えを斬って捨てた。
その様子を遠目に見たレイアは、己の横で同じく水路の中でネズミやゴキブリの死骸をかき分けながら作業を行う霧絵を見て、困ったように眉根を寄せる。
「おまえも、そこまですることはないんだぞ?」
「……そうはいかないわ。引き受けた仕事だもの」
汚れながらも黙々とすべきことを嫌な顔一つせずに行う霧絵の姿を見て、レイアはかすかに微笑みを浮かべた。
彼女のような人間となら、こんな文字通りの汚れ仕事も楽しくやれそうだと感じたのだ。
しかし、往生際が悪い人間もこの中にはいた。
「ほらほら、いい加減に覚悟を決めようぜ! 俺は浄化で手一杯だから、回収の方よろしく頼むな!」
「い、いや、違うんだ! 嫌なわけではなくてだな! 水の中に入るのだから、やはり準備体操は必要だろう!? あ、止めろ、手を引っ張るな! ひゃあああああ!?」
どぼんと水音とともに、エメラルドがガンジに手を引かれ水路に落ちた。
こうして数々の嘆きと笑いを生み出した下水道の雑魔退治は、八人のハンターたちの努力によって無事終わりを告げた。
辛いことが済めば、後は楽しいことが待っている。
外に出て、身体を綺麗にして一息ついて温泉旅行の始まりだ。それがこの場で語られることはないが、いつかまた別の機会があるかもしれない。
ひとまずはここで終幕である。
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そうじ卓 道元 ガンジ(ka6005) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/03/23 18:02:45 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/03/22 22:05:01 |