白銀のおとぎ話・3 祭祀編

マスター:樹シロカ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/03/23 12:00
完成日
2018/04/05 23:40

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 静かな部屋に、燃える薪がはぜる音が響いた。
 同盟の農耕推進地域ジェオルジでは、例年ならそろそろ春の気配ただよう頃だ。
 それなのに、今年は昼間でも暖炉が必要な寒さである。
 この家の現在の主でもある、若き領主セスト・ジェオルジ(kz0034)の表情が今一つさえないのも無理はない。
 ……とはいえ、にこにこ愛敬をふりまくタイプでもないので、これは見る方の思いこみかもしれないが。
「アニタさん一家はひとまず、こちらで預かりましょう。元々僕の仕事をお願いしていたのですし、春郷祭の会場になる別館の掃除を手伝ってもらう、というのは不自然ではないでしょう」
 淡々と告げられた言葉に、テーブルをはさんで対しているサイモン・小川(kz0211)は深く頭を下げた。
「助かります。領主様にはいつもご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いえ、人手が欲しいのは本当ですから。それに……」
 いつも冷静なセストが、さすがに言い淀む。
 常に陽気で飄々としているように見えるサイモンすら、唇を引き締めたままで、言葉が出てこない。

 つい数日前のこと。
 ジェオルジ内にあるバチャーレ村とその周辺で、ちょっとした事件が起きた。
 村に住むアニタという女性の子供・ビアンカがたったひとりで雪山に入りこみ、断崖で歪虚に襲われていたのだ。
 たまたま別の用件の依頼を受けたハンター達と、村の代表であるサイモンが遭遇し、ビアンカを救助したのだが、その帰り道でにわかには信じがたい証言が飛び出した。
『おねえちゃんたちは……本当に母ちゃんのところに連れてってくれるの?』
 人見知りで怖がりの7歳の女の子は、自分を救ってくれたハンターにそう尋ねた。
 続きを促されて、つかえつかえ語った内容は……
『あのね。母ちゃんがよんでるって、マリナねえちゃんがね。畑のほうに歩いてたんだけど、どうしてかあそこにいたの』
 マリナはバチャーレ村に移住した、元サルヴァトーレ・ロッソの乗員で、サイモンの信頼する同僚でもある。
『そのときね、ねえちゃんに手をひっぱられたらね、すごく冷たかったの……』


 サイモンは事の次第をセストに全て報告した。
「僕としては信じがたいことですが、ビアンカが嘘をついているとはとても思えません」
 アニタもバチャーレ村で落ち着いていられるはずもない。ひとまずは距離を置いた方がお互いのためになるというのが、サイモンとセストが出した結論だった。
「それで、マリナさんには?」
「まだ何も。ここのところ伏せっていましたので……」
 サイモンは眉間に深い皺を刻む。

 マリナのほうも今回の事件の少し前、歪虚に遭遇したところを救出されたばかりだ。
 それ以来、自分の住居に引きこもることが多くなっていた。危うく殺されるところだったのだから、心身ともに疲労しているのは間違いない。毎日村の女性が様子を見に行っていたが、顔色が悪い以外は特に変わったところは見られなかったという。
 なので、サイモンとしては信頼する同僚でもあるマリナが、ビアンカを騙して連れ出し、冬山に放置したということが信じがたいのである。

 セストは考え込むように目を伏せていたが、やがて視線を上げた。
「実はその件については、僕あてに妙な報告が届いています」
「妙、ですか」
「ええ。実はマリナさんはときどき村を抜け出し、どこかへ行くことがあったようです」
「……初耳ですね」
「察してあげてください。オガワ代表を信じているからこそでしょうから」
 サイモンは複雑な表情で頷く。
 バチャーレ村の誰かにせよ、近隣の村人にせよ、仲間の「明らかに異常な」行動をしばらく見守ろうという気遣いはあったのだろう。それが結果的に、事態を悪化させたとしても。
「ですが僕としても、このままにはできません。マリナを尋問します」
 サイモンのその言葉は、元軍属らしい表現だった。
 セストはそこに、遠い宇宙へ乗り出す者達独特のコミュニティの在り方を感じとる。
「……証拠がありません。それよりも僕に考えがあります。ご協力いただけますか」


 居間でハンター達を待っていたのは、領主のセストだった。
「寒い中、依頼を受けていただき有難うございます」
 丁寧に礼を述べると、早速依頼の内容について説明する。
「この冬の寒さに、キアーラ川流域では人々が不安を感じています。そこで精霊を元気づける祭を執り行います」
 地域の人にその名を知られた地精霊マニュス・ウィリディスは、現在行方不明だ。
 実際に戻るかどうかはわからないにせよ、とにかく不穏な空気をはらうのが目的である。
 祭そのものは、近隣の3村合同で行うことになった。
 食べ物や飲み物を用意して精霊に供え、祠の傍での大宴会。歌や踊りで賑やかに騒げば、嫌な気分も吹き飛ぶだろうというわけだ。
「そこで皆様に、なにか精霊……と、村の人達が喜んでくれそうなアイデアをいただきたいのです。お願いできますか?」
 そう尋ねるセストの声は穏やかだが、ハンター達を見つめるまなざしはどこか緊迫したものを感じさせた。

リプレイ本文


 周囲に見える山は、みんなで白い布団を被っているようだった。
 バチャーレ村の辺りではさすがに雪はほとんど消えていたが、川の流れが運んでくる風は身を切るように冷たい。
 川ぞいに連なるトナリー村とムコー村の人々が、バチャーレ村の広場で賑やかに言葉を交わす。
「こっちは干し肉と、塩漬けの魚。それにキャベツの酢漬けよ」
「ヤギの乳とバター、それにチーズだ。美味いぞ!」
 互いの村の自慢の品を持ち込み、どんなごちそうを作るのか相談中なのだ。
 穂積 智里(ka6819)はそこに混ざって、材料をチェックしている。
「こういうお祭のときに作る、特別なお料理はありますか?」
「本当はイノシシでも狩りに行きたいんだけどねえ。この雪じゃ大変だから、干し肉で代用して野菜と煮込むのよ」
「味付けはどんなふうに? トマトですか? クリーム煮ですか?」
 智里はメモを取りながら、熱心に質問する。

 別の村人とは、エルバッハ・リオン(ka2434)が話し込んでいた。
「野外で大人数ですから、バーベキューや大鍋料理などがいいでしょうね。準備も面倒がありませんし」
「もう少し暖かくなったら肉も手に入り易いんだけどなあ……この気候じゃニワトリや牛を潰すのもちょっと気が引けるんだ」
 トナリー村の男が不意に顔を曇らせる。
 冬の厳しい寒さは、確かに辛い。
 だが自然の中で生きるものにとって、もっと恐ろしいのはこの寒さが「いつまで」「どのぐらい」影響するかということだ。
 ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)は傍で話を聞きながら、腕組みする。
(精霊さんが行方不明なあ……そら心配になるわ)
 地精霊が姿を消した理由はわからない。
 歪虚を追い散らしたことで力を使いすぎたのか、あるいはまた何か拗ねているのか。
 ラィルはパッと明るい表情になると、トナリー村の男の肩をたたく。
「ま、どんな理由にせよ、みんなが精霊さんのことを思ってるんや。元気にならはるように賑やかにしよな!」
「そうですとも。それに冬の寒さが厳しければ厳しい程、春を迎えた時の喜びはまた格別なものですぞ」
 アルヴィース・シマヅ(ka2830)がにこにこと笑っている。
「地精霊様も力を蓄えられて、今年のジェオルジは大豊作になるかもしれません。楽しみですな!」
 こういう言葉を年寄りが言うと、ずいぶんと説得力が増す。
 それもそうだ、という雰囲気になり、皆はまた祭の準備に戻った。

「さて、では祠の掃除に参りましょうか」
 アルヴィースが振り向くと、そっくりの顔をしたふたりの少年、ルーキフェル・ハーツ(ka1064)とウェスペル・ハーツ(ka1065)がびしっと居住まいを正す。
「うーと一緒にがんばりますお!!」
「るーとがんばって、ぴっかぴかにしますなの!!」
 柄のついたブラシや丸めた藁を手に、力強く宣言する。
 ラィルは双子の頭をくしゃくしゃと撫でて笑った。
「頼りにしてるで! ああ、そうや。酒のことなんやけど」
 村人たちが一斉にラィルを見る。
「お供え物だけやのうて、宴会には酒は必要やと思うで!」
 満面の笑みにつられるように、村人たちも相好を崩した。
「羽目を外しすぎるのは良くないですが、まだ夜は冷えますから温まるものは必要ですよね。……羽目を外さなければ」
 エルバッハはそう言って微笑んだ。が、心なしか目つきが険しい。
 智里はなだめに入るように付け足す。
「お祭りでお酒が全くないのも寂しいんじゃないかと思います。ちょっとくらいなら、羽目を外すのもありなんじゃないでしょうか」
「ま、子供もおるしな。大人たちには、精霊の前ってことは忘れんようにはしてもらわんとやが。羽目を外しすぎたら、おしおきやで?」
 どういうわけか、一同の中でアルヴィースが一番ほっとしているようにも見えた。


 途中の山道にはまだ雪が残っていたが、祠の周囲は地面が見えている。
 多くの村人が雪かきを頑張ったおかげだった。
 自然の岩を組み上げた精霊の祠はどこか寒そうに立っていた。
 祠を磨きながら、アルヴィースはルーキフェルとウェスペルのおしゃべりに耳を傾けていた。
「うんとね、マニュス様すおいちっちゃかったお! こんぐらいだお! そんでね、ピカピカ、きらきらできれいだったお……」
 ルーキフェルは手で精霊の大きさを示しながら、うっとりした表情になる。
「ほほう、精霊様は小さくて、そんなにもお美しいのですな」
「そうなの、とってもきれいでぴかぴかしてるの! そしておいしいお酒やお料理とか、マニュス様に会いたい、マニュス様が大切って思う気持ちとかを力にするそうなの」
 ウェスペルがそう言って、気難しげに眉を寄せる。
「それでやっとみんなに会えたのに、村の人を守って疲れちゃったなの」
「るー難しいことわからないけど、ありがとうって伝えて、今度はみんなでマニュス様を守ればいいんだお!」
「そうなの! それで、みんなが会えるって信じるのが大事なの!」
「そうですな、爺も信じますぞ。お酒がお好きならば、きっと話も弾みますぞ」
 アルヴィースはにこにこ笑いながら、祠の高い場所を綺麗に拭きあげた。

 そして3人は村人たちと共に、木々の間に風避けの天幕を張り巡らし、綺麗な色紙で作った飾りをあしらう。
「ちょっとお祭りっぽいですお! マニュス祭りだお!」
 雪と枯れ木の光景に翻る色紙は美しく、ルーキフェルは満足そうに小鼻を膨らませた。
 ひと段落ついたところで、アルヴィースが辺りを見回す。
「ふむ、雪がこれだけあるのですから、かまくらでもどうでしょうかな」
 双子がパッと顔を輝かせた。
「かまくらつくりますなの! 中にろうそくを入れたらきれいですなの!」
「ふおー、力仕事はお任せですお!!」

 大小様々なかまくらが出来上がった頃、ラィルがひょっこり顔を見せる。
「おー、すごいもん作ってくれたんやなあ。こりゃ明日が楽しみやな」
 するとウェスペルが目ざとく、ラィルの手もとに気付く。スズランに似た白い花弁に、緑の星。スノードロップの花束が握られていたのだ。
「お花なの! きれいなの!」
「お供えやからな。酒や肉の他に、花なんかもあったら華やかかもしれんなあと思ったんや。こうしてみると、春はもうすぐやで」
 雪の下で、春は確実に近付いている。
 うつむくように咲く小さな花は、そう言っているようだった。


 当日の朝も、やっぱりみんなが大騒ぎであった。
 とはいえこんな日は忙しいことも楽しく、どの顔も明るい。
 細い山道を大騒ぎして荷物を運び、大鍋を竈にかける。祠を囲んで敷物を広げ、それぞれが親しい者と一緒に腰を落ち着ける。
 綺麗に磨かれた祠にはスノードロップが飾られ、取り分けた料理や酒瓶、その他皆が持ち込んだ様々な食べ物や飲み物が供えられている。
 広場の周囲にはまだ雪が残り、大小様々のかまくらにろうそくが灯り、柔らかく辺りを照らしていた。

 そこにセストが顔を出した。
「当日だけの参加ですみません」
 そう言いながら、アンジェロに手伝ってもらって、まめしや焼き菓子、ワインの差し入れを運びこむ。
 すると乾杯の音頭取りに祭り上げられ、困ったようにグラスを手にする羽目になった。
「今日は皆さん、楽しんでください。そうすればマニュス・ウィリディス様も気になって覗きに来られるでしょうから」
 などと冗談なのか本気なのか分かりにくいことを言ってから、ふっと穏やかな微笑を浮かべる。
「スノードロップの花ことばは『希望』や『慰め』だといいます。この山にもすぐに良いことが起きるでしょう」
 大きな拍手が沸き起こり、宴会が始まった。

「どうぞ。身体が温まります」
 智里が腰を落ち着けたセストに、焼き立てのイモ餅とカップに入れた飲み物を渡す。
「これはなんですか?」
「バター茶です。お茶といってもスープに近い感じですね」
 セストはその不思議な風味をゆっくりと確かめるように飲む。
 竈で焼いたイモ餅の甘みと一緒に味わうと、不思議な懐かしさだ。
「皆さんも良かったらどうぞ。元気が出ますよ」
 持参した小鍋からマグカップに移して、次々とふるまう。

 アルヴィースが張り切って酒樽の前に移動する。
「さてさて、忙しくなりますぞ」
 バチャーレ村特産のヒスイトウモロコシのウイスキーを注ぎ、お湯で割る。
 謎めいた緑色のウイスキーも、今日ばかりは春らしく目に楽しい。
「暖かい紅茶とあわせても美味ですぞ。それとその、レモンの砂糖漬けも合いますな」
 サービス精神旺盛なアルヴィースは、本当にみんなの盛り上げを頑張っている。だが一方で、自分もしっかり盃を煽っている。
 もちろん、奥方衆が喜びそうなホットサングリアや、子供向けの飲み物をすすめるのも忘れてはいない。


 こうして飲んで食べているうちに、最初は身内と固まっていた人々がばらばらになってくる。
 竈の周りに陣取った奥方たちは、それぞれの村の伝統料理を交換して味わう。
 子供たちはそれぞれの村ではやっている遊びを教え合い、一緒になって走り回る。
 ちょっとお酒が過ぎて、村自慢に熱が入った人達には、ラィルがひっそり近づいてくすぐりの刑。
「みんな仲よくするんやで!」
 それからふと思いついたように、今くすぐった男に尋ねる。
「なあ、村で歌とか歌うことってあるんか?」
「歌?」
 男たちは顔を見合わせる。
「ああ、川で漁をするときや、子供が麦の芽を踏むときには歌いながらだなあ」
「どんな歌や?」
 男たちは手拍子を取りながら、民謡を歌い始めた。

 ルーキフェルとウェスペルは、セストと並んで座ってその歌に耳を傾ける。
「なんだか故郷のみんなを思い出すお」
 ルーキフェルはホットミルクを大事に抱えながら、歌詞のわからない部分はわからないなりに、頭を振って楽しそうに歌いだした。
 ウェスペルはセストにも一緒に歌うようにせがむ。
 だが残念ながら、セストはかなりの音痴だった。当人が自覚しているので、なるべく声を出さずに口パクしている。
 次々と各村の歌が流れる。少ししんみりした歌もあれば、ひたすら陽気な歌もあった。
「マニュス様は長生きだから、懐かしい歌を聴いたら喜んでくれるかもなの」
「そうですね。どこかで聞いていてくださるといいのですが」
 祠の地精霊が聴いたことがあるとすれば、おそらく炭坑で働く鉱夫達の歌だ。
 廃坑になって長いこの辺りでは、その歌はもう残っていないだろう。
 だがひょっとすれば調子を変え歌詞を変え、長く伝わった歌もあるかもしれない。

「次はあんたたちの番だよ。珍しい歌はないかい?」
「では僭越ながら私が」
 天幕を分けて出てきたエルバッハは、白絹に金糸と紅糸の花びらが舞い散る和装に着替えていた。
 抱えているのは、黒胴に4本の弦の琵琶。
 それぞれが四大精霊を現すという、魔力を秘めた琵琶である。
 べぇん、べぇん、べぇん。
 エルバッハが弦をかき鳴らすと、森の木々も身を震わせるようだ。
 春を呼ぶ歌を高らかに歌い上げたエルバッハに、惜しみない拍手が送られる。


 宴会もひとつの山を迎え、人々はそこここで車座になっておしゃべりに興じる。
 エルバッハはまたいつもの服に着替え、子供達があまり遠くへ散らばらないよう、余興を見せていた。
「これが式符です」
 人を模して切った紙を手にして念ずる。エルバッハの白い肌に赤い薔薇の花の紋様が浮かびあがり、伸びた棘を持つ枝が皮膚を走る。
 すると式符は、風もないのに宙を飛び、意志を持つ者のようにふわふわと動き回る。
 子供たちは夢中で式符を追いかけ、糸がついていないか確かめるように前後左右に手を振っている。
「ねえねえ、ほかには?」
 エルバッハはねだられるままに術を見せ、それを覚醒者がどういう風に使っているかを説明してやる。

 ラィルは杯を手に、祠を眺めていた。
「『我は人の祈りにより名と形を持った故、祈りが絶えれば形を失う』、か……」
 アルヴィースが新しい飲み物を勧めながら、傍に腰を落ち着けた。
「精霊様のお言葉だそうですな」
「そうや。折角復活したのに、消えてしもたらもったいないと思ってなあ」
 ラィルがアルヴィースに向き直る。
「そんでやな。今後、忘れてしまわんように、村の人たちで記録や口伝、詩、歌、壁画とか作るのもええかもしれんな」
 例え下手でも構わない。
 精霊を大切に思っていること、また一緒に祭を楽しみたいこと、ずっと近くにいてほしいこと、もう忘れないこと。
「そういう思いもお供えになるってことやと思うんやけどな」
 アルヴィースは頷き、懐から布に包んだ物を取り出した。
「私もそう思って、こんなものを作ってみましたぞ」
 それは掌に乗るほどの、木彫りの女神像だった。
 ルーキフェルとウェスペルの語る印象を元に、ざっくりと形を整えてある。勿論、細かい部分は未完成だ。
「へえ。器用なもんやな」
 ラィルが感心して唸る。
「ですが、仕上げは私ではないほうがよろしいかもしれませんな」
 ここに祠を作った誰かの祈りが、精霊を呼んだ。
 ならば精霊と結びついた者たちの子孫が、これからも祠を守っていかなければならない。
 それを伝えるのはハンター達の力を借りてではなく、この付近の住人達自身がやらねばならないことだ。
 そうでなければ精霊を「忘れない」ことにはならないだろう。

 智里は祭の喧騒の中で、片付けを手伝うと同時に料理を少しずつ分けてもらっていた。
 廃坑へ向かった皆が戻って来たときに、楽しかった祭のことを伝えたかったのだ。
 空を見上げると、そろそろ太陽が傾き始めていた。
 智里はひっそりと木の陰に身を寄せ、そこから見える祠に向かって祈る。
(精霊様、どうぞ力を貸してください)

 そのとき、斜めに差す太陽の光が不意に強くなったように見えた。
「なんだ?」
 村人たちも気づいて、辺りを見回す。
 良く見れば太陽の光ではなく、祠が光っている。いや、祠の上に強い光がある。
 一同がわっと声をあげた。
 ルーキフェルとウェスペルが興奮して、アルヴィースの袖を引っ張る。
「しまー、精霊様ですお! ピカピカきれいですお!!」
「やっぱりまた会えたの! みんなのお願いを聞いてくれたなの!!」

 祠の上の光は今や、眩いほどに強くなっている。
 その光がある瞬間に地面に吸い込まれるようにして弱くなり、高さ1mほどの、光り輝く妙齢の女性の姿が残った。
「冬には力を蓄え眠る時期ゆえ、この姿になるのも一苦労じゃ」
 地精霊マニュス・ウィリディスは、やや険しい表情で廃坑を指差した。
「汝らの祈りの力を得て、敵はひとまず退けた。同胞たちを先ずは出迎えてやるがよい。あ奴についてはその後じゃ。氷雪の魔物――」

 精霊が口にしたのは、おとぎ話の魔物の名であった。
 日が陰りつつある山に、一陣の冷たい風が吹き抜けていく。

<了>

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参加者一覧

  • がんばりやさん
    ルーキフェル・ハーツ(ka1064
    エルフ|10才|男性|闘狩人
  • がんばりやさん
    ウェスペル・ハーツ(ka1065
    エルフ|10才|男性|魔術師
  • システィーナのお兄さま
    ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929
    人間(紅)|24才|男性|疾影士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • やさしい魔法をかける指
    アルヴィース・シマヅ(ka2830
    ドワーフ|50才|男性|機導師
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

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依頼相談掲示板
アイコン 祭についての準備と相談卓
アルヴィース・シマヅ(ka2830
ドワーフ|50才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/03/22 22:38:49
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/03/20 02:49:37