• 幻兆

【幻兆】Hello Pilgrims

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/03/22 19:00
完成日
2018/04/02 20:24

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●青龍の騎士
「ちったァ落ち着け」
「ダルマさんは何とも思わないのかい!?」
 龍園ハンターオフィスの会議室。
 龍騎士隊隊長・シャンカラ(kz0226)と、年長龍騎士・ダルマ(kz0251)が珍しく言い合っていた。
 シャンカラは見た目こそ20代半ばの青年だが、実年齢は18歳。穏やかな気質だが、時に歳相応に感情を昂ぶらせ、そのまま行動しようとする事がある。年長者のダルマはそういう際の抑えになるよう努めているのだが。
「腹立てたってしょうがねェだろ。ほれ、菓子でも食うか?」
「子供扱いは止してくれないかな!」
 今日はことごとく宥めるのに失敗していた。
 無理もない。先日ハンター達と探索にあたった異界は、龍を信仰する彼らにとって少なからず衝撃的な世界だった。ダルマでさえそれなりに衝撃を受けたのだから、シャンカラが心乱されるのも無理からぬ事だった。
 その時控えめに戸が叩かれ、少女龍騎士・リブが顔を覗かせる。
「あのぅ隊長、お客様がお見えですが」
「僕にですか?」
 シャンカラは咄嗟に笑顔で応じたものの、言い合う声を聞いていたリブはびくびくと肩を震わせる。
「へ、辺境の、ば、バタルトゥ・オイマト(kz0023)さんと仰る方でっ」
 その名を聞くや、シャンカラはさぁっと青ざめた。たちどころに怒気は消え、おろおろと暦を確認しだす。
「今日何日でしたっけ!? ……そうだ、僕の方から案内を申し出たのに何てこと! すぐ行きます、今行きますっ! あっ、マズい! ダルマさん、僕がバタルトゥさんの所へ行っている間に、出かける支度をお願いします!」
「出かけるってどこへだよ?」
 首を捻るダルマに、シャンカラはますます青くなる。
「僕、言ってませんでしたっけ……白龍のヘレさんを助ける手がかりを求め、辺境から白龍の巫女様方が使節団としていらっしゃるんです」
「それは前に聞いた」
「高位の巫女様方は巡礼路を辿っておいでになるので、お迎えに上がろうっていう話は……」
「それは聞いてねぇ」
「ですよね、した覚えないです」
「…………」
 シャンカラ、異界に気を取られるあまり、予定がすっかり頭から飛んでいた。ダルマは呆れつつ顎髭を擦る。
「案内もあンだろ? 代わりに誰か遣いに出したらどうだ?」
「んー……」


●白龍の巫女
 白と青ばかりの厳しい氷原の眺めに、巫女達は白い息を零す。
「辺境も寒い土地ですが、北方は更に、ですねぇ」
 白龍信仰の聖地から、青龍を奉る神殿都市・龍園へ繋がる古の巡礼路。今回の事象をあまさず記録し、後世へ残すため、高位の巫女数人は転移門を使わずあえて巡礼路を辿っていた。北の地から更に北を目指す旅。道行きは過酷なものだったが、それにもようやく終わりが見えてきた。
 護衛として雇われたハンターのひとりが、地図に目を落として言う。
「この調子で進めば、日暮れまでには龍園に着けそうですよ」
「まあ」
「近くまで行けば、龍騎士達が向かえに来てくれるはず……あ、あれかな」
 ハンターは遠くから駆けてくる2頭の馬を指した。大きく手を振ると、馬上のふたりは速度を上げてやってくる。龍騎士達は一行の馬車の前まで来ると、馬を降りて一礼した。北方の騎士らしく、羽織った厚手のマントが翻る。
「使節団の方々ですね? ここからは我々がご案内いたします」
 弓を背負った若者が言うと、長髪の青年は無言で馬に戻り、さっさと馬首を巡らせた。
「行くぞ。早くしないと日が暮れる」
 一行は随分無愛想な龍騎士だと感じたが、龍騎士にも色んな人間がいるのだろう。実際、ここで挨拶に時間をかけては、日没までに着けないかもしれない。一行は青年の後に続き、馬車や馬を進めた。

 けれど、程なくして氷の渓谷に差し掛かったところで、巫女のひとりが異変に気付いた。馬車の幌から顔を出し、先を行く龍騎士へ声をかける。
「もし……失礼ですが、巡礼路から外れてはおりませんか?」
「え?」
 その声に、ハンター達も龍騎士達の背を見やるが、ふたりは聞こえぬふりで振り向きもしない。
「もし、龍騎士殿」
「…………」
「もし、」
「喧しい婆さんだな」
 長髪の龍騎士が吐き捨てるのと、ハンター達が両脇の崖上に敵の気配を察知したのは同時だった。
 氷の崖を滑り降り、武装した男達が数名、馬車の退路を塞ぐように布陣する。まだ崖上には数名射手が待機し、番えた矢の先を一行へひたりと据えていた。
「何だ!?」
「巫女様たちは馬車から出ないでください!」
 ハンター達もすぐに武器をとり、迎撃体制を整える。そんな一行をあざ笑うかのように、長髪の龍騎士は槍の穂鞘を払った。
「あなた達、龍園から来た龍騎士じゃないの?」
 問いかけには答えず、彼は鋭利な穂先を迷わずハンターへ向ける。
「貴様らに恨みはないが……青龍様の御許へ、どこの馬の骨ともわからん龍を奉ずる巫女どもを行かせるわけにはいかない。命が惜しくば退け。護ると言うなら共に散れ」
 その言葉が終わると同時、男達は一斉に攻撃を開始した。



 その頃。バタルトゥの案内を終えたシャンカラは、ダルマと共に飛龍を駆り、巡礼路を遡っていた。
「そろそろ会えてもいいはずなんだけど。予定より遅れてるのかな」
「出遅れたのは間違いなく俺らだけどなァ」
「だって、高位の巫女様をお迎えするんだよ? 隊長が出ないなんて申し訳ないじゃないか」
 結局シャンカラは遣いを出さず、遅れるのを承知で自ら出迎えに来ていた。だが、行けども行けども巫女達の姿は見当たらない。いよいよおかしいと思い始めたその時だ。微かに耳に届いたのは剣戟の音。
「まさか……」
 ふたりは顔を見合わせると、音のする方へ飛龍を急がせた。

リプレイ本文


 北方の大自然を行く道行きは、ハンター達の心配りで巫女達にとっては安寧なものだった。馬車の幌から顔を出せば、ディーナ・フェルミ(ka5843)がエクウスに揺られながらうっとり呟いている。
「巡礼路を辿る旅……美味しいものは少なかったけど憧れてたの。いつか全巡礼路踏破してみたいの」
「素敵な目標ですね」
「わわっ!?」
 照れて俯く異教徒であるディーナを、巫女は微笑まし気に見つめる。ディーナはエクラ教徒だ。けれど白龍信仰に興味を持ち、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる彼女を、年長の巫女達はとても可愛がった。
 辺境の小氏族・グリム族出身のファリン(ka6844)もまた、巫女達に対し恭しく接していた。
「辺境の者にとって、巫女様は大切な存在ですもの」
 様々な部族が暮らす辺境の者だからこそ、中立を貫く巫女達の大切さを知っているのかもしれない。
 そして今回の目的地である龍園出身・青龍信仰者のニーロートパラ(ka6990)も。
「何かお困りの事はありませんか?」
 積極的に巫女達の補助を申し出ていた。そんな彼の懐には『辺境巫女礼儀作法集』。見つけた巫女に問われると、
「故郷の客人であれば、尚更不快な思いはさせたくありませんから」
 はにかんで答えるのだった。
 馬車の周囲で目を光らせているのは、ブリジット(ka4843)、ノエル・ウォースパイト(ka6291)、クラン・クィールス(ka6605)。皆龍園で活躍した経験を持つ者ばかり。龍騎士や神官と面識を持つ彼らが同行してくれるのだ、着いた後の事もスムーズに行くだろう。そう巫女達は信じて疑わなかった。

 十数分後、出迎えの龍騎士達に刃を向けられるまでは。



 槍を携えた長髪の男と、弓を背負った若者。ふたりの龍騎士に導かれた先は、巡礼路から外れた氷の渓谷。凍てつく崖に挟まれたこの場で事態は一転した。
 前方には進路を塞ぐ龍騎士達。後方には12人の賊風情。更には両側の崖上で弓を構えた影が4つ。
「これは一体どういうつもりですか!」
 ブリジットは龍騎士達から馬車を庇うよう、即座に前方へ駆ける。後方ではノエルが落ち着き払って賊を見回す。瞳の動きに合わせ、翡翠色の軌跡が揺れた。
「まあ……どこの馬の骨、とはご挨拶ですね。こちらは正式な使節だというのに」
「そんなに失礼な事でしたでしょうか……北方の皆様の事はまだまだ知らない事がいっぱいですね」
 どこかのんびりと言うのは、ノエルと並び立つファリン。しかし銀糸髪は鮮やかな桃色へ変化しており、手には十文字槍。臨戦態勢だ。馬車側面で崖上を警戒するクランは「いや」と首を振る。
「龍園にはよく行くが、礼を欠くような事は……少なくとも、シャンカラやダルマの指示とは思えない」
 隣でニーロが頷いた。
「ええ、龍騎士を騙っているとしか」
「あの誇り高い方々がこの様な騙し討ちじみた事をするとは考えられません。やはりニセモノ……!」
 前方へ進み出たブリジットは若者が矢を番えたのを見、そのままの勢いで駆ける。鯉口を切れば、開戦を告げる澄んだ金属音が響いた。

 それまで黙っていたディーナは、男の言葉に震えていた。恐れからではない。激しすぎる怒りのあまりに。
 彼女の手が強く手綱を捌くと、エクウスの頑強な蹄が大地を蹴る。先に飛び出したブリジットを追うと、ブリジットはひらりと身を翻し進路を開けた。するとディーナの眼前に、ブリジットの急な方向転換に驚く若者が。
「宗教の真価を高めるのも貶めるのも信者次第……」
 インクイジターで武力を上げたディーナは、エクウスの機動力に物言わせ一気に若者との距離を詰めると、すれ違いざま鞍から身を躍らせる。そして、
「お前たちは青龍さまを貶めたの、邪信者!」
 何と手にしたメイスではなく、ブーツの爪先を若者の鳩尾にめり込ませた! 予想だにしなかった飛び蹴りに、若者は堪らず落馬する。そんな彼を、藤色の瞳が睨み据えた。
 殴るよりも癒やす事を好み、ヒーラーになりたいというディーナ。そんな彼女が武器すら用いず直に蹴りつけたのだ、彼女の怒りの程が窺える。
「私も信仰については色々悩んだの、自分が異端よりかもってこともわかってるの……でもね? 宗派を理由に他者を害するのは邪信者なの許さないのっ、滅せよ邪信者!」
 信仰の敵を葬り去るというメイスを掲げた彼女に、若者も矢を番え直す。
「オレ達こそ真の龍騎士だ!」
 互いの主張、叫び声、そして矢と光の波動が真っ向から激突した。

 道を譲ったブリジットは槍の男へ肉薄する。先に射程の長い槍が繰り出されたが、舞の足捌きで軽やかに躱した。
「白の舞手、ブリジット・サヴィン。参ります――」
 そして主に呼応し虎徹が鞘走ったかのごとく、目にも留まらぬ抜刀術で斬りつける!
「東方の剣技か」
 そのまま流れるように再び刃を鞘に納める彼女と、槍の柄についた刀傷とを、男は物珍しそうに眺めた。反撃はない。東方で発展した舞刀士の術を前に、勝手が分からず観察しようと言うのか。ならばと槍使いが苦手とする懐に飛び込むブリジット。しかし居合によって行動阻害しているにも関わらず、男は余程手練らしく躱されてしまう。
「では、これはいかがです?」
 鞘から抜き放つと同時に更に踏み込み、電光石火の一刀を見舞う! 退路を断つ瞬速の太刀筋は、さながら戦場に閃く白雷。流石に避けられず、威力を増した斬撃に男は目を瞠る。
「無駄に一刀ごとに刃を納めている訳ではありませんよ。何か訳がおありですか? あなた方の事情をお聞きしたく」
 だが問いかけに対し、男からの返答は鋭い突きだった。


「来るぞ!」
 クランとニーロは、射手達は崖上で弓を引く射手達を見据えた。
 右手の崖にはふたり。片方の射手がまず狙ったのは馬車だった。威嚇射撃で念入りに馬車を移動不能に陥れる。もうひとりの射手は、大口径魔導銃を構えるクランを射た。だがクラン、今回の得物は銃だが闘狩人である。怯まず鎧受けで矢を受け止めると、
「何処の輩なのかは分からないが。襲ってくるのなら、こちらも仕事を果たさせてもらう……!」
 弾丸へマテリアルを流し込み、轟音と共にぶっ放す! 同時にニーロも白銀の魔導銃で遠射を放った。立て続けに肩と腕に被弾した射手が転がり落ちてくる。クランは素早く屈み込み生死を確認。黒く染まった前髪がさらりと揺れる。射手は既に事切れていた。
「まあいい……別の者が生き残れば、そいつから話を聞くまでだ」
 片やニーロはもうひとりの射手を探した。崖上に身を伏せ隠れてしまったのだ。地の利は向こうにある。敵が身を隠すには、数歩下がるか伏せるだけで良いのだ。
(襲撃者……妨害者の方々には、正直に言って、腹が立っていますが……感情に任せて動くわけにはいきません。冷静に、落ち着いて、戦いましょう)
 己に言い聞かせ気配を探る。向こうも覚醒者、気配を消して移動する事も十分考えられる。距離を取られても対応できるよう、魔導銃からライフルへ持ち替えた。固唾を飲んで待つ事しばし。随分離れた崖上に光る物を見つけた――鏃だ。明らかにクランの方を向いている。
「クランさん!」
「!」
 鋭敏視覚持ちで射法の心得があるふたりは、威嚇射撃の構えだと気付いた。クランは受けず横っ飛びに回避。同時にニーロは『ブラック・ペイン』に予め充填していた弾丸を、全弾惜しみなく連射した! 鉛弾の雨を注ぐと悲鳴が聞こえ、それきり射手の気配が消える。フォールシュートは威力を半減する技だが、強運のニーロは敵の急所を撃ち抜いたのだった。


 その頃、後方では舞姫達による血風舞踏が幕を開けていた。
「辺境の者にとって巫女様は大切な存在なんです。手を出すのでしたら、命を掛けてくださいね?」
 馬車を背にしたファリン、一応そう前置きはした。けれどふたりを見た賊どもは完全に舐めきっていた。
 忠告してきたファリンは小柄なうえ、可愛らしい兎耳を揺らしているし、少し間を開けて佇むノエルは、装飾が凝らされたドレス『ブリュンヒルデ』を纏い微笑んでいる。どちらも震いつきたくなるような美女。賊どもは下卑た雄叫びをあげ殺到してきた。
 それを見たノエルが紡いだのは、大層毒のある言葉。
「粗野な連中には言葉も通じません。ええ、これは仕方のないことです。一度“首を落とされでもしなければ”――」
 言っているそばから足の速い者共が彼女の射程に入る。刹那、黒漆塗りの鞘から刃と共に血飛沫の幻影が零れた。刃が紅い軌跡を描いて幾度も閃き、今度は本物の熱い血飛沫が舞う。
「――ヒトは己の愚かさに気付けないのですから。さあ、何かご希望はありますか? 四肢でも胴でも構いません。お好きなところを綺麗に斬り離してご覧に入れます」
 一滴の返り血が彼女の白い頬を汚す。しかしその頬は、整った微笑を湛え続けているのだった。
「踊りましょう。その散り様に喝采を」
「まあ、ノエル様も舞がお好きですか? 私も本職は踊り子なんです。連れ舞と参りましょう」
 ほわんと申し出ると、ファリンは身軽なステップで迫る男達へ身を差し出す。が、その手が求めたのは抱擁ではなく肉の手応え。十文字槍の重さを利用し、全周囲を薙ぎ払う! 賊共は為す術なく斬り裂かれ、あるいは骨を叩き折られ、彼女を中心に朱色の嵐が吹き荒れた。後続の賊共は思わず後退る。だが。
「勿論ノエル様は巻き込まぬようにしますが、皆様方は特に気にしません。命があっても無くても、それは天命でしょう。といいますか巫女様を狙った時点で手加減無用です。生きてたらお話を聞きましょう」
 半身に構えたファリン、手加減する気なし。そしてノエルも。
「まさかとは思いますが、殺される覚悟も無いのに殺意を抱くような愚行を犯していませんよね?」
 逃がす気すらなし。
「それとも……いよいよ私を殺してくださるのかしら。私の最期の言葉、どうか聞き逃さないでくださいね」
「ラストダンスにはまだ早いですよ」
 舞姫達が再び朱紅の旋風を巻き起こそうとした時だ。
「!」
 踏み出そうとしたノエルの足元へ矢が突き刺さる。動きを封じられたノエルが矢の来た方を振り仰げば、左崖の射手達がふたりを狙っていたのだった。


「ちっ、そっちに行かれたか!」
 クランとニーロが右崖の射手を相手取っている間、左崖の射手達はフリーだった。彼らは飛び道具を持つふたりを狙わず、いちどきに多くの仲間を地に転がしたノエルとファリンを狙ったのだ。
 こうなれば馬車を迂回している間が惜しい。ニーロは再びライフルを構える。長い射程のライフルならばそのまま狙える距離。その上、射手達は後方を狙うため崖から身を乗り出している。この好機を逃さず撃つ! クランも防御を捨て、遠射に高加速射撃を重ねがけ、伸ばした射程で強引に届かせる!
「くそっ!」
 負傷した射手達はふたりの射撃の腕を悟ると、ならばせめてと馬車に射掛ける。車輪のひとつが割れ、馬車が大きく傾いた。
「巫女様!」
 ファリンが声をあげたが、中で巫女達が身を寄せ合い重量のバランスをとったお蔭で、馬車の転倒は防げた。
「……もう、許しません」
 一層強く蓮の香を漂わせたニーロが呟く。
「青龍様のためという言葉を建前にしないで下さい。青龍様がそのようなことを望まれたのですか? 貴方達の自尊心や自己満足に、青龍様の名前を利用しないで下さい。龍騎士を騙らないで下さい!」
 仰ぐ龍神を、故郷の騎士達を汚された怒りを込め引き金を引く。ヘッドショットが決まり、撃たれた射手の手から弓矢が零れた。そしてクランが放った弾丸も、もうひとりの喉元へ吸い込まれていった。


(妙です)
 槍の男を相手取るブリジットは確実に押していた。だがどうにもおかしい。男は回避できそうな一太刀をわざわざ受けたり、時に太刀筋を見ずに彼女の足許――舞手である彼女の滑るような足捌きに目を落としたり。手数では間違いなく彼女が圧倒しているし、傷も男の方が深いのに、勝っている実感に欠ける。
「どうしました、何か話す気になったのであれば聞き――」
 そう申し出かけた時だ。骨の砕ける鈍い音が谷間に響いた。
 膝頭を割られた若者が地に伏すと、すかさずディーナはその口に布を突っ込む。
「私聖導士なの、この意味分かる? 首謀者から目的から、全部話すまで何度でも倒して回復してあげるの」
 囁いた彼女の言葉が、若者の心を完全にへし折った。全身ががたがたと震え、自害を試みるも矢は手から離れ、布に邪魔され舌を噛む事もできない。ディーナは胸倉を掴んで引き起こすと、
「さあ、全部話すの」
 間近な瞳を見据えた。だが次の瞬間、若者の左胸から槍が生え、彼女の脇腹を鋭利な穂先が掠めた。
「……え?」
「なんて事を!」
 ブリジットが声を荒げる。男が持っていた槍を投擲し、仲間であるはずの若者を屠ったのだ。
 ハンター達に一瞬の動揺が走った隙に、男は幾本もの発煙手榴弾をぶちまける。谷間風に乗った煙はたちまち渓谷に充満。次いで駆け去る蹄の足音。
「待ちなさい!」
 ブリジットは追おうとしたが馬には追いつけず、ディーナも馬から下りたままだ。
「口封じに仲間を殺すなんて」
 伸ばした手の先すら霞むような煙の中、ディーナはぬるまっていく若者の骸をただ受け止めるしかなかった。



「何だこの煙!?」
「どなたかいますか?」
 数分後、煙の向こうからシャンカラ(kz0226)とダルマ(kz0251)が現れた。ふたりは現場の惨状を見、唖然となる。一行から経緯を聞くと低く唸った。
「一体誰が」
 考え込む隊長の傍らでダルマは屈み込み、事切れた若者の顔を覗き込む。
「こいつは……なァ、この槍を持ってた男はどんな奴だった?」
 龍騎士の特徴を覚えておこうと、観察していたクランが答える。
「背は丁度俺と同じ位……白くて長い髪を、腰のあたりで束ねていた」
 それを聞きダルマの顔が一層険しくなる。シャンカラの方はピンときていないようだ。
「心当たりがあるんですか?」
「……元龍騎士。過激な思想から、先代隊長の時分に龍園を追われた野郎どもだ。こいつもな」
「元龍騎士……」
 意外な事実に顔を見合わせる一同へ、事情を察したシャンカラが深々と頭を下げる。
「身内の不祥事で、皆さんにご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません……巫女様方も怖い思いをされたでしょう。皆さんの傷も龍園で手当させてください」
「すまねェ、馬車の代わりはすぐ呼ぶからよ」

 そうして一行は、今度こそ本物の龍騎士の案内で龍園へ。ハンター達は手当の間、それぞれ元龍騎士について尋ねたが、元身内のこと故か彼らの口は重かった。龍騎士達も追放した彼らが今頃になってこんな蛮行に及ぶとは思ってなかったのだろう。隊で情報を精査し、話せる時が来たら話す、そういう事になった。

 6人は神殿へ入っていく巫女達の背を見送ると、小さく息を吐き帰路についた。


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  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミka5843

重体一覧

参加者一覧

  • 咲き初めし白花
    ブリジット(ka4843
    人間(紅)|16才|女性|舞刀士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 紅風舞踏
    ノエル・ウォースパイト(ka6291
    人間(紅)|20才|女性|舞刀士
  • 望む未来の為に
    クラン・クィールス(ka6605
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 淡雪の舞姫
    ファリン(ka6844
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • 碧蓮の狙撃手
    ニーロートパラ(ka6990
    ドラグーン|19才|男性|猟撃士

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ニーロートパラ(ka6990
ドラグーン|19才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2018/03/22 06:26:13
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/03/18 14:25:29