• 陶曲

【陶曲】トパーズの愁い

マスター:大林さゆる

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/03/27 07:30
完成日
2018/03/31 01:09

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 地の精霊は、友好的な存在が多いようにも思えたが、それぞれ性格が異なっていた。
 トパーズの精霊は、ここ最近、機嫌が悪かった。


 自由都市同盟、ヴァリオス近郊。
 トパーズ鉱山にて、何やら騒ぎが起きていた。
『てめーらのせいで、半年前からアメンスィ様と交信できなくなっちまったぜ。どう落とし前、つけてくれるんだ!』
 ちょいワル風の青年の姿をした精霊が、工夫たちに突っかかってきた。
「なんだ、いきなり。おまえ、精霊なのか?」
 工夫の一人が尋ねると、青年の精霊は「見て分からねーのかっ」と啖呵を切った。
『全く、俺様の身体も、白い仮面の男に持っていかれるしよー。俺様の身体も、ズタズタだぜ。まあ、俺様よりも、アメンスィ様の方がダメージが大きいんだよ。どうしてくれるんだ?』
 精霊が、工夫たちを睨みつける。その鋭さは尋常ではない。殺気に近いものがあった。
「まさか、私たちを……殺す気か?」
 恐怖で震えながら工夫が言うと、精霊は勇み立ちながら、さらに睨みを利かせる。
『ああ?! なんで、俺様がヒトを殺す必要があるんだ。白い仮面の男と一緒にするんじゃねーよ。てめーら、俺様のことを、ただの金のなる石くらいにしか思ってねェだろっ?!』
 ギクリとする工夫たち……図星だったのか、精霊を宥めようと懸命に話しかけた。
「そりゃ、私たちにも生活がありますから、家族を食わせていくためには、仕事が必要ですし」
「俺たちは物理的に食べ物を摂取する必要がありますし、子供たちにはできるだけ美味しい食べ物を与えてやりたいのです」
「そうですよ。ヒトというのは、精霊と違って、寿命は限られてますし、そのためにも生きていく上では、どうしても金は必要であって……そのために、私たちは鉱石を掘る仕事をしているのです」
 工夫たちがそれぞれ自分の意思を告げるが、精霊の怒りは治まらなかった。
『てめーらの理屈なんぞ、どうでもいいわっ。お前らが生きていけるのは、どうしてか、考えたことあるんか? もうちっとマシな答えがあると思ってたが、期待してた俺様が馬鹿だったぜ。いいか、てめーらには、この鉱山で仕事することは、俺様が許さねーからな。さっさと出ていきやがれっ!』
 精霊に追い出された工夫たちは、トパーズ鉱山に入ることができなくなった。



 魔術師協会広報室にて。
「鉱山に、トパーズの精霊が現れて、工夫さんたちが仕事を続けることができなくなったの?」
 ラキ(kz0002)は、魔術師スコットに呼び出されて、事の経緯を聞いていた。
「どうやら、鉱山に入れないのは、元々、そこで作業していた工夫たちだけで、ハンターたちは内部に入れるようだ」
 スコットの言葉に、ラキは「なーんだ」と言いながら微笑んだ。
「だったら、工夫さんたちが仕事を再開できるように、精霊さんを説得してみれば良いんじゃないかな?」
「それなんだが……まずは俺が説得しに行ったんだが、どうにも精霊が納得してくれなくてさ」
 溜息をつくスコット。
「何が気にいらないのかな?」
 ラキが首を傾げた。
 スコットは、しばらく考え込んだ後、こう告げた。
「単なる俺の推測だが、トパーズの精霊は……人間不信かもしれない。『ヒトの考え』には期待していないようだ」
「え? じゃあ、あたしたちがハンターでも、ヒトである限り、トパーズの精霊は信頼してくれないってこと? エルフやドワーフ、鬼、ドラグーン、オートマトンだったら、話を聞いてくれるのかな?」
 ラキは人間だったが、他の種族たちの可能性を信じていた。
 それには、スコットも同感だった。
「トパーズの精霊からすると、人間だけでなく、エルフやドワーフも『ヒト』と同じだと思っているようだ。俺が説得に失敗したから、エルフの魔術師に頼んで精霊を説得してもらったんだが、『エルフ』も『ヒト』と同じだ……と言われたそうで、どうにも精霊は納得していないようだ」
「あたしからすると、人間とエルフは別の種族だけどね。その精霊からしたら『同じヒト』ってこと? なんだか、厄介なことになってきたね。他の地精霊は友好的な子が多い印象があるんだけど」
 ラキが、珍しく眉間に皺をよせた。
 スコットは椅子に座り、今まで話し合った内容を書類に纏めていた。
「説得するハンターが人間でもエルフでも、トパーズの精霊が納得できる話だったら、受け入れてくれる可能性はあるな。人間不信だからこそ、人間と話し合うことで、道が切り開けるかもしれないしな。できれば、他のハンターたちにも説得の依頼を頼んでみたい」
「あ、それは良いかもね。別の視点から話し合えば、精霊さんにも『ヒトの想い』が伝わるかもしれないしね」
 ラキは、あくまでも前向きだった。
 こうして、トパーズの精霊を説得する依頼が本部に張り出された。
「トパーズの精霊さんか。機会があったら、会ってみたいな」
 オートマトンの少年、ディエス(kz0248)は依頼の内容を見て、いまいち意味が理解できなかったが、精霊という存在に興味を持ち始めていた。

リプレイ本文

 ヴァリオス近郊にある鉱山。
 この奥に、人間不信のトパーズ精霊が籠っていた。
 坑道の灯を頼りに進んでいくハンターたちであったが、キヅカ・リク(ka0038)が聖機剣「マグダレーネ」を発動体とした『機導浄化術・白虹』を発動させる。
 範囲内の汚染は浄化できたが、しばらく経つと、他に原因があるのか、少しずつ空間が汚染されていくことが判明した。
「微力な汚染だから、僕たちには害はないけど、工夫たちが鉱山内部にずっといたら、気絶してたかもしれないな」
 リクの言葉に、同行していたディエス(kz0248)は、ある疑問が浮かんだ。
「もしかしたら、トパーズの精霊さんは、工夫さんたちを助けるために、わざと追い出したのかな?」
「あー、そういう可能性もあったね。人間不信とは言っても、目の前にヒトが倒れていくのは見たくなかったのかもしれない」
 リクは、今回の依頼をきっかけに、ヒトと精霊が互いに向き合って話し合うことができればと思っていた。その過程をディエスに示すことによって、自分なりの生きる道筋を見つけて欲しいと願っていた。
 ハンターたちが、さらに奥に向かって歩いて行くと、採掘途中の岩盤に辿り着いた。
 そこには、気分が悪そうな青年がいた。
 彼は、トパーズの精霊だった。その姿は、今にも消えそうなほどだ。
 フィロ(ka6966)はすぐさま駆け寄り、精霊に声をかけた。
「初めまして、精霊さま。私はフィロと申します。精霊さまのお話を伺い、知己を得たいと思い参りました。お名前を伺っても宜しいですか」
『……俺様の名は、ない』
 息も絶え絶えの精霊。言葉使いが荒く、威勢の良い性格とは聞いていたが、どうにもそうは思えなかった。
「では、精霊さまに、名を贈りたいと思います。インペリアルトパーズは、とても貴重な宝石……カイゼル、というお名前はいかがでしょう」
 フィロが呼びかけると、トパーズの精霊は少しずつ落ち着いてきたようだ。
『俺様が、インペリアルトパーズだと、よく分かったな。カイゼルか。いいぜ。そう呼ぶと良い』
 インペリアルとは、皇帝という意味だ。
「カイゼルさま、お見せしたいものがあります」
 フィロは懐からインペリアルトパーズのブローチを差し出した。
「これは、宝石職人からお借りしてきたものです。同盟の地でも、滅多に出回らない宝石と聞きました」
『おお、これは俺様の魂に最も近い場所にあった黄玉石……これがあったおかげで、俺様は消滅しなかったのか。見つけてくれて、ありがとよ』
 カイゼルはうれしそうに、フィロに対して笑顔を見せた。
 フィロが借りてきた黄玉石は、カイゼルの身体の一部。
「貴方の身体を取り戻すことができたのですね。カイゼルさま、仮面の男を倒して、貴方と真に友誼を結びたいと考えます」
『カッツォは一人では倒せないぜ。何か対策を考えねぇとな』
 その様子を見た後、アリア・セリウス(ka6424)はヒトの流儀として、精霊カイゼルに一礼する。
「初めまして、私はアリア・セリウス。未だ不義理と力不足の者にでも、こうして『灯』と共に『対話』を残してくれたことに感謝を」
『不義理? どういうことだ?』
 睨み据えるカイゼルだが、アリアは毅然とした姿勢で謝罪した。
「貴方たち精霊の恩恵を受けながら、ヒトは争っては大地を穢し、削り取ってきた……そして『白い仮面の男』との戦いに巻き込み、守れなかったことに謝罪を」
『いや、むしろ俺らの戦いに、ヒトを巻き込むことになっちまって、申し訳ないのは、俺様の方だぜ。ホント、すまねぇ』
 ぎこちない態度で、頭を下げるカイゼル。
「どうして……?」
 精霊の意外な反応に、アリアは内心、驚いていたが、狼狽える様子は見せなかった。
『俺様が不甲斐ないばっかりに、カッツォに身体をほとんど持っていかれたからな。仮面野郎、俺様の身体である鉱石を機械と融合させて、ヴァリオスに攻め込んでいったろ。俺様の意思とは関係なく、機械と融合された鉱石がヒトの街を襲うと知った時は、ゾッとしたぜ』
 震えるカイゼル……だが、態度が怒りに豹変する。
『かと言って、ヒトを信頼した訳じゃねえからな。ここで採掘していた工夫たちが、黄玉石を掘り当てようと、ガリガリ適当に削っていくのには我慢ならねぇ!』
 いきり立つカイゼル。
 リクは、精霊の態度を見て、当然かなと思いつつも、話しかけることにした。
「僕は、キヅカ・リク。僕らとしての気持ちを伝えに来ただけじゃない。君が言う落とし前。この付け方を話にきたんだ」
『落とし前ねぇ。どう付けるつもりだ?』
 カイゼルが興味深そうに、リクを見据えた。
「僕らは、そのトパーズや他の宝石、鉱石……そういった『大地がくれる恵み』があるからこそ生きていける。それに対する感謝を、意識を忘れたことに問題がある。その辺りは工夫たちにはきちんと話をするし、意識してもらう。そのためにも、時間が欲しいんだ。向き合う為の時間を」
『時間ねぇ。そいじゃ、試しに何かやってくれるのか?』
 カイゼルは一歩下がり、ハンターたちと距離を取っていた。
 ジャック・エルギン(ka1522)が、ワイン「レ・リリカ」を取り出した。
 それを見たカイゼルは、生き生きとした顔つきになっていた。
『おい、そりゃ、ずいぶん大事に作られたワインじゃねぇかよ』
 やはり釘付けになったかと思いつつ、ジャックはワイン「レ・リリカ」を掲げた。
「俺はジャック・エルギンだ。アメジストやサファイアの精霊とは、前に会ってる。だから是非、アンタとも会って友誼を結びたいってな」
 そう言いながら、ジャックはワイン「レ・リリカ」をグラスに注ぎ、カイゼルの前に立った。
「どうだ? お近づきの印と言っちゃなんだが、カイゼルもワイン、飲むか? ん? 精霊は、酒、飲めたっけか?」
『それなら、心配御無用。フィロが持ってきた黄玉石があるから、今の俺様は実体化している。すなわち、ワインが飲めるぜ!』
 カイゼルはグラスを手に取ると、ワインを飲み干した。
『くー。生き返るぜ。つか、実際、俺様の生命力、少し回復した感じがする~』
 酔い気味のカイゼル。
「それは良かったぜ。カッツォに力を奪われたなら、見舞いしたいと思ってな」
 ジャックの気遣いに、カイゼルは感動していた。
「カイゼルさま、貴方にチャクラヒールを掛けても宜しいでしょうか? 痛みが残るままではお辛いと思うのです。出来ることは少なくとも、出来ることから始めたいと思うのです」
 フィロが、精霊に名を贈ったこともあり、カイゼルの信頼を得ることができ、承諾してくれた。
 ジャックもまた、この鉱山で採掘されたトパーズの宝飾品を職人から借りて、持ってきていた。
「カイゼル、工夫たちが精霊の恩恵への理解が足りなかったのは詫びたい。ただ俺らは恩恵を、ただ金のためだけに使ってる訳じゃねえんだ」
 そう言いながら、トパーズの宝飾品をカイゼルに見せるジャック。
「俺の実家は鍛冶屋だ。職人ってのは美術や技術の担い手であって、その技を知識の証として後世に残すために使ってるんだ。親から子へ、子から孫へとな」
『トパーズを大事にしてくれたヒトがいたから、俺様は命拾いしたってことか。ヒトを避けてきた俺様が、ヒトに救われていたとはな』
 カイゼルは、感慨深く頷いていた。



 リクとジャックは、工夫たちと話し合うため、一旦、鉱山の外へと出ることにした。
 その間、アリアたちは鉱山内部に残り、カイゼルの説得を続けていた。
「はじめまして。ボクはディエスです」
 ディエスが精霊に挨拶すると、隣にいたアリアはカイゼルに会釈する。
「この子は、オートマトンの少年……カッツォがエバーグリーンから連れ去ってきたらしいの。ディエスは、約束を守ると言ってくれたわ」
「仲間を守れ……室長の最後の願いでもあった。異界で助けてくれたのは、アリアさんたちだったけど、実際の世界では、室長がボクを救ってくれたんだ」
「私は、誰かの喪われる明日を護りたい。明日、共に歩く可能性を繋ぎ続けたい……私だけでは足りないのは知っているから」
 もう一度立ち上がらせてくれたこの同盟の地が、アリアは好きだった。
 喪われる可能性をこそ、消す為に。
 誰かが為に、己が成すことを誇りとして。
 ディエス達と出逢い、明日という未来へと進んでいく。
 そうした想いが、アリアという存在を突き動かしているのだろう。
 カイゼルは、アリアの言葉の裏に隠されていた想いに、心が揺れ動いていた。
『……アリアは、そのディエスとか言うオートマトンとは縁があるようだな。俺様が言うのも何だか、大事にしてやってくれ』
「ええ、もろちん、そのつもりよ。それが貴方の願いでもあるなら、改めて誓うわ。私は、これからも、ディエスの支えになることを」
 アリアの純粋な返答に、カイゼルは微笑んでいた。
 神代 誠一(ka2086)は、皆の話を見届けた後、精霊カイゼルとの対話を始めた。
「俺は、神代 誠一と言います。カイゼルさん、これを見てください」
 誠一の掌には、小さな星石が置かれていた。
 以前、『あの領域』に入り、迷い込んだことがあった。
 答えのない迷宮の中、自分を導いてくれたのは、仲間たちが奏でていた音楽。
 想いは見えないが、調べのように心へと届く。
 あの時のことを思い出すと、今でも誠一の心は熱くなった。
 なればこそ、精霊の想いもまた一つの義であると信じていた。
『神代と白仮面男の因縁は、俺様も知ってるぜ。リアルブルーから来た覚醒者が、カッツォを倒す意義は何だ? ジャックとアリアの動機は明確だ。この俺様にも理解できる。神代にとって、カッツォを倒すことで、何が得られる?』
 カイゼルの問いかけに、誠一は迷うことなく温和で朗らかな声で答えた。
「与えられるばかりだとヒトは当然だと思い、奪うばかりでも、そこには何も生まれない。受けた恵みは流しだすもの、俺はそう考える……これはその為に、生み出された結晶ですよね」
 小さな星石を見つめるカイゼル。
『森羅万象、ヒトの解釈によって、いろいろと変わる。だからこそ、そいつの本質が見えてくることもある。「受けた恵みが流しだすもの」と考えるなら、それは神代の信念だな。俺様は、そう感じた』
「俺の……信念」
 自問自答するように呟く誠一。そして、カイゼルと向き合い、笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、カイゼルさん。そう言って頂けると、なんだかうれしいです」
 誠一は、カイゼルの痛みと悲しみを癒すように、その想いと祈りを込めて、小さな星石に触れていた。
『そんなことしたからと言って、すぐに俺様の身体が癒されることはないが、気持ちだけは受け取っておいてやるぜ』
 カイゼルは、顔を背けて、ふくれっ面をしていたが、それが照れ隠しであることは誠一にも分かっていた。
「はい、カイゼルさん。ですが、俺は信じてますよ。ヒトと精霊が分かり合えることを。カッツォは俺にとっても宿怨の敵、必ず力になりましょう」



 リクとジャックが、カイゼルの元へと戻ってきた。
「工夫って、技術関係の仕事で、採掘するのは専門じゃないんだってさ。だから、この鉱山で採掘した時、カイゼルが痛がってた理由が分かったよ」
 リクは工夫たちの採掘方法が原因だと付きとめたのだ。
「やっぱ専門の鉱夫じゃねーと、上手く採掘できねぇみたいだな。親方と交渉して、今後は『鉱夫』、つまり鉱石を採掘する専門職を雇うように話しつけてきたぜ」
 ジャックはさらに、ヒトと精霊が感謝と恩恵を伝えやすいよう、安全祈願のための祠を用意して欲しいと親方に伝えてみたところ、正式な祠を完成させるには、少なくとも一ヶ月半はかかると言われた。
 そのことも、カイゼルに伝えた上で、改めて、ワインを差し出した。
「祠の完成は一ヶ月半後だが、その前祝いだ。今のあんたなら、飲めるんだろう」
『ジャック、気がきくな。せっかくだから、皆で飲もうぜ!』
 カイゼルは、美味しそうにワインを飲み始めた。
 その様子を見て、誠一がクスクスと楽しげに笑う。
「良い飲みっぷりですね」
『おー、神代、おまえも飲め』
 カイゼルに勧められて、グラスに入ったワインを一気に飲む干す誠一。
「ホント、美味しいですね」
「遠慮はいらねぇ。親方からもワインを追加で10本、貰ってきたからな。思う存分、飲んでくれ!」
 ジャックが音頭を取って、いつしか宴会になっていた。
「お言葉に甘えて、私も頂くわ」
 アリアはワインを飲み、ディエスは葡萄ジュースを飲んでいた。
「それじゃ、僕も」
 リクは差し入れのワインを飲んでいた。
 フィロと言えば、カイゼルが持っているグラスにワインを注いでいた。
「カイゼルさまは、ワインがお好きなのですね」
『葡萄酒は、俺様の好物だからな。お供えしてもらえるだけでも、力が湧いてくるんだが、実際に飲むと一気に生命力が回復していく気がする~』




 それから、二時間ほど過ぎた頃。

 …ヒトの子らよ。

 気が付けば、人型の上半身と結晶の下半身を持つ小さな少女のような外見をした精霊が姿を現した。
 理知的な瞳で、覚醒者たちを見つめていたのは、知恵の精霊アメンスィ。
『カイゼルがヒトから名を贈られ、祈りと願いが満ち溢れていました。私は、アメンスィ……覚醒者たちに伝えておきたいことがあります』
 それは、嫉妬王との『契約』のことだった。
『カッツォは、契約を都合の良いように解釈して、地の精霊たちを闇に落し、この大地を滅ぼそうとしています。私が下手に動けば、それこそ嫉妬王の思う壺……』
 哀しげなアメンスィ。
 ジャックは、アメンスィとの対話を試みた。
「人間は、精霊と直に相対することにまだ慣れてねえ。失敗もやらかす。だが、それも糧にして新たに考えるのが人間だ。アンタに答えは求めねえ。精霊と人間の共存の在り方、考え続けていくぜ。そのためにも、その共存の障害になる嫉妬の歪虚は、必ず倒す」
 アメンスィは、ジャックを認識すると、小さく頷き、微笑んだ。
 リクが、決意を述べる。
「アメンスィも皆が助かるのなら、カッツォも、嫉妬王という存在も討ち払って見せる、僕たちで。子供の我儘だと笑いたければ笑えばいい。だけどこの世界は教えてくれた。諦めなければ、未来は変えられるって。此処にいる精霊や皆と笑っていられる明日に出来るって」
 懸命に想いを伝えるリク。
『ヒトの子らが、自ら出した答え……覚えておきましょう』
 アメンスィはそう告げた後、姿を消した。
 ヒトと大地の精霊との関係は、始まったばかりであった。
 これから待ち受けるのは、希望か、それとも絶望か?

 世界の命運を左右する戦いが、始まろうとしていた。

依頼結果

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MVP一覧

  • ルル大学防諜部門長
    フィロka6966

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アリア・セリウス(ka6424
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/03/25 23:39:22
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/03/23 10:46:12