ゲスト
(ka0000)
【RH】ひよこの死んだ話・B
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/03/28 12:00
- 完成日
- 2018/04/01 00:25
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ドゥーン・ヒルの戦いの後、強化人間達の動きはピタリと止まった。
戦場から離脱した強化人間達の行方は知れず、保護された強化人間達の容態も未だに昏睡状態。
現在、統一地球連合宙軍やムーンリーフ財団による事件究明が進められているが、事件に関わる情報は入手できていない。
――あの戦い。
そう呼ぶには、まだ時間はそれ程経過していない。
人々の心には、あの熱も、あの空気も、あの光景も、脳裏にしっかり残っている。
目を閉じれば、今もあの時間へ戻る事ができる。
――あの時間。
無情で、無残で、無慈悲な時間。
心を殺して戦わなければならなかった。
すべては、最善を尽くした結果だ。
それは、間違いない。
だからこそ、しっかりと見つめ直さなければならない。
――あの光景の、意味を。
「ピクニックか、婆さん。花束一つでやってくるなんざ、山をちょっと舐めているんじゃないか?」
「婆さんじゃないザマス。還暦前ザマス」
ラズモネ・シャングリラが軍の施設でメンテナンスに入っている頃、ジェイミー・ドリスキル(kz0231)は偶然、森山恭子(kz0216)と出会った。
それは、とても奇妙な場所で――。
「あなたこそ、どうして『ドゥーン・ヒル』へ? 一人でピクニックとは寂しい人ザマスね」
「そんなんじゃねぇ」
二人が出会ったのは、小高い丘の上。
先日、ここで強化人間達と対峙した場所だ。ラズモネ・シャングリラを攻撃せんとする強化人間達を必死に食い止めたハンター達であったが、一部戦域では強化人間側に死亡者を出す事態に発展した。
恭子としては、出したくはなかった犠牲だった。
ハンターも依頼を受け、止むに止まれず『汚れ仕事』を請け負ったに過ぎない。
責めるべくは、運命と見通しの甘かった自分――恭子はそう考えていた。
「あなたも……あたくしが軍人として失格と思っているんザマショね?」
草の匂いが風に舞上げられる中、恭子はポツリと呟いた。
今も丘の周辺では強化人間が使っていた新型CAM『コンフェッサー カスタム』の回収作業が続いている。
地面を駆けた鋼鉄の巨人も、今や動く事無く地面へその体を横たえている。
戦場へ出る軍人である以上、相手と命のやり取りをする覚悟ができているべきだ。
そこで倒した相手に感傷的な感情を抱く時点で、その者は戦場に立つ資格がない。
そういう声が軍内部で出ているのも事実だ。
――だが。
そのセリフを口にした統一地球連合宙軍は、このドゥーン・ヒルに来て同じセリフを言えるのか。
軍人もまた人間だ。
傷付く事はある――心も、体も。
「軍人の覚悟なんてもんを俺に聞かれてもなぁ。俺が知っているのは、初めてのバーで調子に乗って高い酒を頼むなっていう忠告ぐらいだ」
「あなたらしいザマスね」
恭子が手にしていた花束が、風で大きく揺れる。
ドリスキルの言う通り、話を聞き流す事もできる。
だが、この地で子供達が死亡した事実は変わらない。
失われた命は、もう還って来ない。
「この事件で、あたしたちは……まだあの子達と戦わないといけないんザマショか?」
「さぁな。運命の女神とやらを口説き落とせたら、聞いておいてやるよ」
恭子の問いに、ドリスキルはただそう答えた。
戦場から離脱した強化人間達の行方は知れず、保護された強化人間達の容態も未だに昏睡状態。
現在、統一地球連合宙軍やムーンリーフ財団による事件究明が進められているが、事件に関わる情報は入手できていない。
――あの戦い。
そう呼ぶには、まだ時間はそれ程経過していない。
人々の心には、あの熱も、あの空気も、あの光景も、脳裏にしっかり残っている。
目を閉じれば、今もあの時間へ戻る事ができる。
――あの時間。
無情で、無残で、無慈悲な時間。
心を殺して戦わなければならなかった。
すべては、最善を尽くした結果だ。
それは、間違いない。
だからこそ、しっかりと見つめ直さなければならない。
――あの光景の、意味を。
「ピクニックか、婆さん。花束一つでやってくるなんざ、山をちょっと舐めているんじゃないか?」
「婆さんじゃないザマス。還暦前ザマス」
ラズモネ・シャングリラが軍の施設でメンテナンスに入っている頃、ジェイミー・ドリスキル(kz0231)は偶然、森山恭子(kz0216)と出会った。
それは、とても奇妙な場所で――。
「あなたこそ、どうして『ドゥーン・ヒル』へ? 一人でピクニックとは寂しい人ザマスね」
「そんなんじゃねぇ」
二人が出会ったのは、小高い丘の上。
先日、ここで強化人間達と対峙した場所だ。ラズモネ・シャングリラを攻撃せんとする強化人間達を必死に食い止めたハンター達であったが、一部戦域では強化人間側に死亡者を出す事態に発展した。
恭子としては、出したくはなかった犠牲だった。
ハンターも依頼を受け、止むに止まれず『汚れ仕事』を請け負ったに過ぎない。
責めるべくは、運命と見通しの甘かった自分――恭子はそう考えていた。
「あなたも……あたくしが軍人として失格と思っているんザマショね?」
草の匂いが風に舞上げられる中、恭子はポツリと呟いた。
今も丘の周辺では強化人間が使っていた新型CAM『コンフェッサー カスタム』の回収作業が続いている。
地面を駆けた鋼鉄の巨人も、今や動く事無く地面へその体を横たえている。
戦場へ出る軍人である以上、相手と命のやり取りをする覚悟ができているべきだ。
そこで倒した相手に感傷的な感情を抱く時点で、その者は戦場に立つ資格がない。
そういう声が軍内部で出ているのも事実だ。
――だが。
そのセリフを口にした統一地球連合宙軍は、このドゥーン・ヒルに来て同じセリフを言えるのか。
軍人もまた人間だ。
傷付く事はある――心も、体も。
「軍人の覚悟なんてもんを俺に聞かれてもなぁ。俺が知っているのは、初めてのバーで調子に乗って高い酒を頼むなっていう忠告ぐらいだ」
「あなたらしいザマスね」
恭子が手にしていた花束が、風で大きく揺れる。
ドリスキルの言う通り、話を聞き流す事もできる。
だが、この地で子供達が死亡した事実は変わらない。
失われた命は、もう還って来ない。
「この事件で、あたしたちは……まだあの子達と戦わないといけないんザマショか?」
「さぁな。運命の女神とやらを口説き落とせたら、聞いておいてやるよ」
恭子の問いに、ドリスキルはただそう答えた。
リプレイ本文
「何言ってもあたしは別に気にしないよ。正直、心が痛むとか以前の付き合いだし」
ウーナ(ka1439)は、率直な思いをラズモネ・シャングリラ艦長の森山恭子(kz0216)へ告げた。
先日、ドゥーン・ヒルで戦闘となった事はウーナも記憶している。
恭子達の声に反応する事無く、攻撃を仕掛けてきた強化人間達。
ウーナは彼らの行動を黙って見守る事はできなかった。
「マルコスだっけ? 名前すら、あのリーダーの子しか聞いてないし、何が好きで、どういう性格とか全然。
あたしはそういう子を相手に戦った。それがハンターとして成すべき事だったし、戦った事に後悔はない」
ウーナは、恭子が言葉を発する前に言葉を続けた。
悪気がある訳ではない。
ただ、恭子のように失踪していた強化人間の子供達を知らないのだ。
「あたくしも……」
ウーナの言葉に耳を傾けていた恭子は、ようやく口を開いた。
その言葉が微妙に揺れている事は、すぐに分かった。
「それ程、深い間じゃないザマス。
でも、アスガルドを訪れた時、あの子達はあたくし達を歓迎してくれたザマス。手作りの歓迎。そこにはVOIDの手から守ってきた命があったザマス」
恭子の言う通り、強化人間研究施設『アスガルド』にいた子供達との接点はなかった。
ムーンリーフ財団総帥トモネ・ムーンリーフからの招待を受け、ハンターと共に足を踏み入れた施設
そこには、施設の外でも当たり前にある、子供達の温もりと笑顔だった。
「マルコスという子は、まっすぐな子ザマス。仲間を遊びに誘う時、あの子は必ず自分から提案してたザマス。
元気いっぱいに、ボールを庭で蹴って……。
でも、独りぼっちの子がいれば、一緒に遊びに誘う優しい子だったと思うザマス」
短い時間ではあったが、マルコスについて知っている事を恭子は話し始めた。
「そっか。あたしとの戦いではそんな素振りは見えなかったな。
あのさ。マルコスは生きてはいる、よね?」
「ええ」
ウーナの問いに、恭子は答えた。
マルコスは身柄を確保されたものの、意識を失ってしまった。
アスガルドへ運ばれたのだが、今もベットで昏睡状態が続いている。
「なら良かった。けど、家へ帰れなかった子もいるんだよね」
ウーナは、跪くと手にしていた花束を地面に置いた。
そして、線香にそっと火を灯した。
この戦いで、この地で亡くなった子が、せめて迷わないようにという配慮だ。
「あの子達は、アスガルドには帰れなかったけど……せめて天国には迷わず逝けるといいザマス」
「一つ、聞いていいかな。強化人間って何?
あの子達は何で強化人間にされているの? ちょっと訓練を積んだ子供に最新鋭のCAMを玩具みたいに渡してさ。軍事機密だか何だか知らないけど、子供達の命を踏みにじってまでやらないといけないものなの?」
ウーナは、自らの胸の内にある言葉を口にした。
――強化人間。
リアルブルーにおいてハンターのようにVOIDと戦う貴重な存在だ。
だが、同時に財団や統一地球連合宙軍は強化人間の大半が幼い少年少女だという事実を忘れてはいけない。大人達はその事実に目を瞑り、戦場へと送り出している。
「それはあたくしにも分からないザマス。ただ、あたくしの不甲斐なさがあの子達を生み出した。そんな気がするザマス」
恭子からの回答。予想はしていたが、強化人間に対して詳細な情報は持っていなかった。
だが、統一地球連合宙軍がVOIDを相手に劣勢を強いられた事が、強化人間の登場に繋がった。それは軍人である恭子にとっても見過ごせない事実である。
「いつまでも秘密秘密じゃ、息が詰まっちゃうよ」
ウーナの足下で、線香の煙が風に流されながら空へと登っていった。
●
「聞いたよ。あのがきんちょ達の話」
ジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉の傍らで、玄武坂 光(ka4537)は背中合わせに声をかけた。
ドリスキルと光は、アスガルドで行われたある軍事訓練に参加していた。
訓練自体は下らない物で、お遊びと言っても良いだろう。
だが、その訓練の時に見たマルコスとランディの笑顔。
それは本当に無邪気で屈託の無い物だった。
「なんか、あいつらと大暴れしたのが随分昔のような……そんな気がしてきちまうな」
「…………」
光の言葉に、ドリスキルは黙って耳を傾ける。
火が灯る葉巻から溢れる灰。風に流され、気付けば見えなくなっていた。
「保護されたんだろ? あいつら」
「ああ」
「それ聞いてホッとしたんだが……素直に喜べねぇ」
光は見知った少年達が生きて帰った事を報告書で知っていた。
中には死亡した少年達もいたと聞いて、内心不安を抱えていたのだ。
だが、少年達が生きていても素直に喜ぶ事ができなかった。
――後味の悪さ。
胸糞悪く、心に渦巻く刺々しい空気を光は感じていた。
「なんでこうなったんだ?」
光の声には、明らかな怒気が混じっている。
「俺はあんまり頭が良くねぇ。だから大した事は言えねぇが……やっぱおかしい。絶対に誰かの差し金だ。誰だ、こんな事をしやがったのは!」
光の手にあった花束が、強く握り締められる。
この事件は、明らかにおかしい。
強化人間の子供達が失踪。ドゥーン・ヒルへ現れたと思えば、ハンター達と戦闘。保護しても昏睡状態で目を覚ます気配もない。
あまりにも不明点が多すぎる。
「死んじまった奴の無念……絶対にこのままじゃ終わらせねぇ。こんな事しやがった奴を、必ず俺が突き止めて償わせてやる」
「随分と興奮しているな」
「そういうあんたは冷静なのか? 葉巻の吸い口を、あり得ないぐらい噛み締めておいてよ」
ドリスキルの言葉に対して、光は冷静に言葉を返す。
ドリスキルは、先程から何本も葉巻に火を灯している。葉巻の吸い口を噛み切るかのように噛んでいるのが原因だ。そのせいで、葉巻が無駄になっている。
ドリスキルも怒りを抱えている証拠だ。
「復讐か?」
「そんなガラじゃねぇ。だが、俺の知っているがきっちょどもは元気で純真で、未来があった。その芽を摘んだ奴がいるなら、許せねぇだけだ」
光は、今まで依頼主から受けた依頼を忠実に遂行してきた。
それはハンターとして、傭兵として当然の務めだ。
言い換えれば、光には追いかけるものがなかったのだ。
だが、今は違う。
「俺は、俺のできる事しか出来ねぇが、それでも追いかけてやる。
散っていた命やアスガルドで眠るがきんちょ達の分まで、背負って戦い抜いてやる」
光は、自ら戦いを望んだ。
依頼をされ、誰かに促されたものじゃない。
戦うべき指針を見出し、戦うべき存在に向けて動き出す。
背負うべき思いを背負い、光は事件を追い始める。
「そうだな。このままじゃ、終わらせられねぇよな」
ドリスキルは、葉巻を吐き捨てた。
●
「一つ聞きたい事があって。子供達と会話って結局できたのかなって思って」
フューリト・クローバー(ka7146)は、ドリスキルへ問いかけた。
報告書を確認していたフューリトは、ある疑問が浮かんできた。
その疑問を解決する鍵として、ドゥーン・ヒルまで赴いたという訳だ。
「疑問か。なんだ?」
「子供達と会話にならなかったって話だけど、その子達の目にはジェイミーのおじさん達はどう映ったのかなって。あ、精神的な意味じゃなくて、実際の意味で」
その疑問は、実際に強化人間と対峙した者でなければ分からない。
報告書にあった『笛吹き男』という第三者の存在。仮にその存在が実在するのであれば、その着眼点はある意味が生まれてくる。
だが、その事にドリスキルはすぐに気付かない。
「あん? どういう事だ?」
「物理的っていうのかなぁ。笛吹きさんが笛吹いて、その子達の目にハンターが化物の姿で、がうがうという吠え声にしか聞こえなくなってたら、恐ろしくて攻撃するんじゃないかな? でも、ジェイミーのおじさん達が相手にした子ってそういう感じじゃなかったんでしょ?」
フューリトの疑問は、強化人間の子供達が取っていた反応だ。
笛吹き男が強化人間を操っていると考えた場合、ハンターやドリスキル達は強化人間の子から見てどのように映っていたのか。たとえば、ハンターを恐ろしい怪物だとすれば怖がりながらも、手にした武器で抵抗するだろう。事実、そのように戦っていた強化人間達も確認されている。
だが、ドリスキルが対峙したランディにそのような反応があったという情報は報告書になかった。
「いや、確かに明確な敵として認識してたはずだ。恐れならもっと行動は臆病になってた。少なくとも、何が隠れているか分からない森へ足を踏み入れるはずがないな」
「そう。笛吹きさんが頭良くて、君達以外はあいつらに殺された、君達が戦うんだって思い込ませてたら、ぴゅあに信じちゃうかなって」
実際はフューリトの挙げたように、ハンター達を明確な敵として攻撃を仕掛けてきた。
この戦場によって生まれた差異は何なのか。
報告書から見ても分からなかった疑問を、ドリスキルへぶつけてみたのだ。
ドリスキルは訓練で相手の子供と接点があった。もし、子供達に明確な意志があったなら、別のアプローチが可能かもしれない。
だが、実際はそう簡単な話でも無いようだ。
「会話にならなかったっていう話は、状況によって異なってたみたいだな。ビビってこちらの話を聞かないってケースもあれば、頭から敵と見なして聞く耳を持たなかった奴もいたらしい。その差は俺にも分からん、悪いがな」
ドリスキルは小さく頭を振った。
子供達は様々なケースでハンター達とのコミュニケーションを否定していた。
それが何を意味するのか。
それは笛吹き男に聞く他無いだろう。
「そっか。ジェイミーのおじさん、ありがとう」
「おい、おじさんじゃねぇ。ダンディなお兄さんだ。そこを間違えるな」
ドリスキルの訂正を無視するフューリトは、手を合わせながら空を見上げる。
そこには燦々と輝く太陽が浮かんでいた。
「亡くなったひよこさんに会ったら、怖い事は何もないからゆっくり昼寝していいよ、大丈夫、よく頑張ったねって頭撫でてあげてほしーなー」
フューリトの願い。
それは、ここで散ってしまった子供達の安らかな眠りであった。
もう、笛吹き男に自由を奪われる事もない。
ただ、お日様の下でゆっくりと眠って欲しい。
その願いを聞いていたドリスキルは、思わずフューリトの頭を撫でた。
「そうだな。ゆっくり眠れるといいな」
冷たい風は止み、いつしか暖かい日差しがドゥーン・ヒルへと降り注いでいた。
●
「おねぇさまぁ、新作差し上げますのでお元気になって下さいぃ」
恭子を『貴腐人』と知っていた星野 ハナ(ka5852)は、恭子を励ます為に『とある本』を持参していた。
48ページで構成され、コピー機の機能をフル活用された『薄い本』である。
「こっ……これは!?」
「どうです? 部族会議で支え合いながらも、その裏ではリバな下克上。本当はもっと踏み込みたかったんですけどぉ、バレたら絶好じゃ済まないと思ったのでファンタジーで押し通せるギリギリを狙いましたぁ」
ハナが仕上げてきたその本には、恭子も知っている某帝国軍人と某部族会議大首長に似た人物が描かれていた。異なるのは、そのシチュエーションだ。『仮に』二人が実在していたとすれば、考えられないシーンが48ページにギッシリと描かれている。
どのようなシーンが描かれているか。
それはここで解説する事はできない。唯一報告できる事は『お子様の手に届かない、高い高い雲の上の方で保管して下さい』という注意書きだけだ。
「まさか、この展開が……テッパンでありながらも、リバもしっかり入れられているザマス」
既に恭子の鼻息は荒く、視線は薄い本に釘付けだ。
「森山おねぇさまには、今萌えが足りないと思いますぅ。お腹が減ったり、睡眠不足だったり、萌え不足だったりするとぉ、落ち込むばっかりで名案も発想の転換もできなくなるじゃないですかぁ」
ハナは、恭子が落ち込む原因は萌えが足りないからだと断言していた。
萌え欠乏は貴腐人にとっては栄養失調どこから、呼吸困難にも等しい。
人間は宇宙空間でも空気なしで生活できるのか?
否、貴腐人にとって萌えは空気。萌えの摂取は呼吸も同然。
恭子に充分な萌えを補給する事で、元気を取り戻させようというのだ。
栄養過多で恭子の鼻から鼻血が垂れている気もするが、細かい事を気にしてはいけない。
「おねぇさまが寂しげな顔をしてらっしゃると私達も悲しいですぅ。会える機会は、救える機会。おねぇさまにも元気になっていただきたくてぇ」
「ハナさん」
48ページを堪能しきった恭子は、そっと薄い本を閉じた。
その顔は菩薩のような表情を浮かべている。
「結構な萌えザマス。これはあたくしの創作意欲も湧き上がってきたザマス」
「おねぇさま!」
ハナのおかげで恭子は元気を取り戻したようだ。
子供達の事は悲しいが、それと創作活動は別とでも考えているのだろうか。
「そういえば、この間の作品は会心だったザマス」
「え。おねぇさま、それはどのような作品でしょう?」
ハナの問いに、恭子はそっと耳打ちする。
次第にハナの心に大きな期待がわき上がる。
「え。そんなスミスさんとクリストファーさんが!? いやだって、スミスさんは……本当ですか! さすが、おねぇさま……」
「何を騒いでやがるんだ?」
「とぅ!」
そこへやってきたのはドリスキルであった。
ドリスキルの姿を視認した瞬間、ハナは駆け寄り大きくジャンプ。
両足から放たれるドロップキックがドリスキルに炸裂する。
「ぐはっ! ……な、なんなんだ?」
「オイコラおっさん、おねぇさまが哀しそうにしていらっしゃるのに慰めもしないとは何事ですぅ!? それでジェントル気取ってんじゃねぇぞ、あぁん」
地面に尻餅をついたドリスキルを上から睨み付けるハナ。
一応、これでも元気づけようとしているつもりなのだろう。
「たくっ。エラい目にあったな」
「……あ、連絡ザマス」
立ち上がるドリスキルの横で、恭子はスマートフォンで連絡を受けた。
その顔に、驚きと歓喜の感情が見られる。
「皆様。子供達の失踪に関わる情報が入ったザマス」
「本当ですか、おねぇさま!」
「ええ。アスガルドで何か呪術の形跡が見つかったザマス。やはり、何者かがいるのは間違いないザマス」
電話はアスガルドからだった。
アスガルドで調査しているハンター達が、何か術式を行った形跡を発見していた。
強化人間の失踪に関わりがあるとすれば、第三者――笛吹き男は存在していると見て良いだろう。
「決まったな。俺達は、そいつを探し出す。そして……必ず、ケジメをつけてやる」
光は、強く拳を握り締めた。
ウーナ(ka1439)は、率直な思いをラズモネ・シャングリラ艦長の森山恭子(kz0216)へ告げた。
先日、ドゥーン・ヒルで戦闘となった事はウーナも記憶している。
恭子達の声に反応する事無く、攻撃を仕掛けてきた強化人間達。
ウーナは彼らの行動を黙って見守る事はできなかった。
「マルコスだっけ? 名前すら、あのリーダーの子しか聞いてないし、何が好きで、どういう性格とか全然。
あたしはそういう子を相手に戦った。それがハンターとして成すべき事だったし、戦った事に後悔はない」
ウーナは、恭子が言葉を発する前に言葉を続けた。
悪気がある訳ではない。
ただ、恭子のように失踪していた強化人間の子供達を知らないのだ。
「あたくしも……」
ウーナの言葉に耳を傾けていた恭子は、ようやく口を開いた。
その言葉が微妙に揺れている事は、すぐに分かった。
「それ程、深い間じゃないザマス。
でも、アスガルドを訪れた時、あの子達はあたくし達を歓迎してくれたザマス。手作りの歓迎。そこにはVOIDの手から守ってきた命があったザマス」
恭子の言う通り、強化人間研究施設『アスガルド』にいた子供達との接点はなかった。
ムーンリーフ財団総帥トモネ・ムーンリーフからの招待を受け、ハンターと共に足を踏み入れた施設
そこには、施設の外でも当たり前にある、子供達の温もりと笑顔だった。
「マルコスという子は、まっすぐな子ザマス。仲間を遊びに誘う時、あの子は必ず自分から提案してたザマス。
元気いっぱいに、ボールを庭で蹴って……。
でも、独りぼっちの子がいれば、一緒に遊びに誘う優しい子だったと思うザマス」
短い時間ではあったが、マルコスについて知っている事を恭子は話し始めた。
「そっか。あたしとの戦いではそんな素振りは見えなかったな。
あのさ。マルコスは生きてはいる、よね?」
「ええ」
ウーナの問いに、恭子は答えた。
マルコスは身柄を確保されたものの、意識を失ってしまった。
アスガルドへ運ばれたのだが、今もベットで昏睡状態が続いている。
「なら良かった。けど、家へ帰れなかった子もいるんだよね」
ウーナは、跪くと手にしていた花束を地面に置いた。
そして、線香にそっと火を灯した。
この戦いで、この地で亡くなった子が、せめて迷わないようにという配慮だ。
「あの子達は、アスガルドには帰れなかったけど……せめて天国には迷わず逝けるといいザマス」
「一つ、聞いていいかな。強化人間って何?
あの子達は何で強化人間にされているの? ちょっと訓練を積んだ子供に最新鋭のCAMを玩具みたいに渡してさ。軍事機密だか何だか知らないけど、子供達の命を踏みにじってまでやらないといけないものなの?」
ウーナは、自らの胸の内にある言葉を口にした。
――強化人間。
リアルブルーにおいてハンターのようにVOIDと戦う貴重な存在だ。
だが、同時に財団や統一地球連合宙軍は強化人間の大半が幼い少年少女だという事実を忘れてはいけない。大人達はその事実に目を瞑り、戦場へと送り出している。
「それはあたくしにも分からないザマス。ただ、あたくしの不甲斐なさがあの子達を生み出した。そんな気がするザマス」
恭子からの回答。予想はしていたが、強化人間に対して詳細な情報は持っていなかった。
だが、統一地球連合宙軍がVOIDを相手に劣勢を強いられた事が、強化人間の登場に繋がった。それは軍人である恭子にとっても見過ごせない事実である。
「いつまでも秘密秘密じゃ、息が詰まっちゃうよ」
ウーナの足下で、線香の煙が風に流されながら空へと登っていった。
●
「聞いたよ。あのがきんちょ達の話」
ジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉の傍らで、玄武坂 光(ka4537)は背中合わせに声をかけた。
ドリスキルと光は、アスガルドで行われたある軍事訓練に参加していた。
訓練自体は下らない物で、お遊びと言っても良いだろう。
だが、その訓練の時に見たマルコスとランディの笑顔。
それは本当に無邪気で屈託の無い物だった。
「なんか、あいつらと大暴れしたのが随分昔のような……そんな気がしてきちまうな」
「…………」
光の言葉に、ドリスキルは黙って耳を傾ける。
火が灯る葉巻から溢れる灰。風に流され、気付けば見えなくなっていた。
「保護されたんだろ? あいつら」
「ああ」
「それ聞いてホッとしたんだが……素直に喜べねぇ」
光は見知った少年達が生きて帰った事を報告書で知っていた。
中には死亡した少年達もいたと聞いて、内心不安を抱えていたのだ。
だが、少年達が生きていても素直に喜ぶ事ができなかった。
――後味の悪さ。
胸糞悪く、心に渦巻く刺々しい空気を光は感じていた。
「なんでこうなったんだ?」
光の声には、明らかな怒気が混じっている。
「俺はあんまり頭が良くねぇ。だから大した事は言えねぇが……やっぱおかしい。絶対に誰かの差し金だ。誰だ、こんな事をしやがったのは!」
光の手にあった花束が、強く握り締められる。
この事件は、明らかにおかしい。
強化人間の子供達が失踪。ドゥーン・ヒルへ現れたと思えば、ハンター達と戦闘。保護しても昏睡状態で目を覚ます気配もない。
あまりにも不明点が多すぎる。
「死んじまった奴の無念……絶対にこのままじゃ終わらせねぇ。こんな事しやがった奴を、必ず俺が突き止めて償わせてやる」
「随分と興奮しているな」
「そういうあんたは冷静なのか? 葉巻の吸い口を、あり得ないぐらい噛み締めておいてよ」
ドリスキルの言葉に対して、光は冷静に言葉を返す。
ドリスキルは、先程から何本も葉巻に火を灯している。葉巻の吸い口を噛み切るかのように噛んでいるのが原因だ。そのせいで、葉巻が無駄になっている。
ドリスキルも怒りを抱えている証拠だ。
「復讐か?」
「そんなガラじゃねぇ。だが、俺の知っているがきっちょどもは元気で純真で、未来があった。その芽を摘んだ奴がいるなら、許せねぇだけだ」
光は、今まで依頼主から受けた依頼を忠実に遂行してきた。
それはハンターとして、傭兵として当然の務めだ。
言い換えれば、光には追いかけるものがなかったのだ。
だが、今は違う。
「俺は、俺のできる事しか出来ねぇが、それでも追いかけてやる。
散っていた命やアスガルドで眠るがきんちょ達の分まで、背負って戦い抜いてやる」
光は、自ら戦いを望んだ。
依頼をされ、誰かに促されたものじゃない。
戦うべき指針を見出し、戦うべき存在に向けて動き出す。
背負うべき思いを背負い、光は事件を追い始める。
「そうだな。このままじゃ、終わらせられねぇよな」
ドリスキルは、葉巻を吐き捨てた。
●
「一つ聞きたい事があって。子供達と会話って結局できたのかなって思って」
フューリト・クローバー(ka7146)は、ドリスキルへ問いかけた。
報告書を確認していたフューリトは、ある疑問が浮かんできた。
その疑問を解決する鍵として、ドゥーン・ヒルまで赴いたという訳だ。
「疑問か。なんだ?」
「子供達と会話にならなかったって話だけど、その子達の目にはジェイミーのおじさん達はどう映ったのかなって。あ、精神的な意味じゃなくて、実際の意味で」
その疑問は、実際に強化人間と対峙した者でなければ分からない。
報告書にあった『笛吹き男』という第三者の存在。仮にその存在が実在するのであれば、その着眼点はある意味が生まれてくる。
だが、その事にドリスキルはすぐに気付かない。
「あん? どういう事だ?」
「物理的っていうのかなぁ。笛吹きさんが笛吹いて、その子達の目にハンターが化物の姿で、がうがうという吠え声にしか聞こえなくなってたら、恐ろしくて攻撃するんじゃないかな? でも、ジェイミーのおじさん達が相手にした子ってそういう感じじゃなかったんでしょ?」
フューリトの疑問は、強化人間の子供達が取っていた反応だ。
笛吹き男が強化人間を操っていると考えた場合、ハンターやドリスキル達は強化人間の子から見てどのように映っていたのか。たとえば、ハンターを恐ろしい怪物だとすれば怖がりながらも、手にした武器で抵抗するだろう。事実、そのように戦っていた強化人間達も確認されている。
だが、ドリスキルが対峙したランディにそのような反応があったという情報は報告書になかった。
「いや、確かに明確な敵として認識してたはずだ。恐れならもっと行動は臆病になってた。少なくとも、何が隠れているか分からない森へ足を踏み入れるはずがないな」
「そう。笛吹きさんが頭良くて、君達以外はあいつらに殺された、君達が戦うんだって思い込ませてたら、ぴゅあに信じちゃうかなって」
実際はフューリトの挙げたように、ハンター達を明確な敵として攻撃を仕掛けてきた。
この戦場によって生まれた差異は何なのか。
報告書から見ても分からなかった疑問を、ドリスキルへぶつけてみたのだ。
ドリスキルは訓練で相手の子供と接点があった。もし、子供達に明確な意志があったなら、別のアプローチが可能かもしれない。
だが、実際はそう簡単な話でも無いようだ。
「会話にならなかったっていう話は、状況によって異なってたみたいだな。ビビってこちらの話を聞かないってケースもあれば、頭から敵と見なして聞く耳を持たなかった奴もいたらしい。その差は俺にも分からん、悪いがな」
ドリスキルは小さく頭を振った。
子供達は様々なケースでハンター達とのコミュニケーションを否定していた。
それが何を意味するのか。
それは笛吹き男に聞く他無いだろう。
「そっか。ジェイミーのおじさん、ありがとう」
「おい、おじさんじゃねぇ。ダンディなお兄さんだ。そこを間違えるな」
ドリスキルの訂正を無視するフューリトは、手を合わせながら空を見上げる。
そこには燦々と輝く太陽が浮かんでいた。
「亡くなったひよこさんに会ったら、怖い事は何もないからゆっくり昼寝していいよ、大丈夫、よく頑張ったねって頭撫でてあげてほしーなー」
フューリトの願い。
それは、ここで散ってしまった子供達の安らかな眠りであった。
もう、笛吹き男に自由を奪われる事もない。
ただ、お日様の下でゆっくりと眠って欲しい。
その願いを聞いていたドリスキルは、思わずフューリトの頭を撫でた。
「そうだな。ゆっくり眠れるといいな」
冷たい風は止み、いつしか暖かい日差しがドゥーン・ヒルへと降り注いでいた。
●
「おねぇさまぁ、新作差し上げますのでお元気になって下さいぃ」
恭子を『貴腐人』と知っていた星野 ハナ(ka5852)は、恭子を励ます為に『とある本』を持参していた。
48ページで構成され、コピー機の機能をフル活用された『薄い本』である。
「こっ……これは!?」
「どうです? 部族会議で支え合いながらも、その裏ではリバな下克上。本当はもっと踏み込みたかったんですけどぉ、バレたら絶好じゃ済まないと思ったのでファンタジーで押し通せるギリギリを狙いましたぁ」
ハナが仕上げてきたその本には、恭子も知っている某帝国軍人と某部族会議大首長に似た人物が描かれていた。異なるのは、そのシチュエーションだ。『仮に』二人が実在していたとすれば、考えられないシーンが48ページにギッシリと描かれている。
どのようなシーンが描かれているか。
それはここで解説する事はできない。唯一報告できる事は『お子様の手に届かない、高い高い雲の上の方で保管して下さい』という注意書きだけだ。
「まさか、この展開が……テッパンでありながらも、リバもしっかり入れられているザマス」
既に恭子の鼻息は荒く、視線は薄い本に釘付けだ。
「森山おねぇさまには、今萌えが足りないと思いますぅ。お腹が減ったり、睡眠不足だったり、萌え不足だったりするとぉ、落ち込むばっかりで名案も発想の転換もできなくなるじゃないですかぁ」
ハナは、恭子が落ち込む原因は萌えが足りないからだと断言していた。
萌え欠乏は貴腐人にとっては栄養失調どこから、呼吸困難にも等しい。
人間は宇宙空間でも空気なしで生活できるのか?
否、貴腐人にとって萌えは空気。萌えの摂取は呼吸も同然。
恭子に充分な萌えを補給する事で、元気を取り戻させようというのだ。
栄養過多で恭子の鼻から鼻血が垂れている気もするが、細かい事を気にしてはいけない。
「おねぇさまが寂しげな顔をしてらっしゃると私達も悲しいですぅ。会える機会は、救える機会。おねぇさまにも元気になっていただきたくてぇ」
「ハナさん」
48ページを堪能しきった恭子は、そっと薄い本を閉じた。
その顔は菩薩のような表情を浮かべている。
「結構な萌えザマス。これはあたくしの創作意欲も湧き上がってきたザマス」
「おねぇさま!」
ハナのおかげで恭子は元気を取り戻したようだ。
子供達の事は悲しいが、それと創作活動は別とでも考えているのだろうか。
「そういえば、この間の作品は会心だったザマス」
「え。おねぇさま、それはどのような作品でしょう?」
ハナの問いに、恭子はそっと耳打ちする。
次第にハナの心に大きな期待がわき上がる。
「え。そんなスミスさんとクリストファーさんが!? いやだって、スミスさんは……本当ですか! さすが、おねぇさま……」
「何を騒いでやがるんだ?」
「とぅ!」
そこへやってきたのはドリスキルであった。
ドリスキルの姿を視認した瞬間、ハナは駆け寄り大きくジャンプ。
両足から放たれるドロップキックがドリスキルに炸裂する。
「ぐはっ! ……な、なんなんだ?」
「オイコラおっさん、おねぇさまが哀しそうにしていらっしゃるのに慰めもしないとは何事ですぅ!? それでジェントル気取ってんじゃねぇぞ、あぁん」
地面に尻餅をついたドリスキルを上から睨み付けるハナ。
一応、これでも元気づけようとしているつもりなのだろう。
「たくっ。エラい目にあったな」
「……あ、連絡ザマス」
立ち上がるドリスキルの横で、恭子はスマートフォンで連絡を受けた。
その顔に、驚きと歓喜の感情が見られる。
「皆様。子供達の失踪に関わる情報が入ったザマス」
「本当ですか、おねぇさま!」
「ええ。アスガルドで何か呪術の形跡が見つかったザマス。やはり、何者かがいるのは間違いないザマス」
電話はアスガルドからだった。
アスガルドで調査しているハンター達が、何か術式を行った形跡を発見していた。
強化人間の失踪に関わりがあるとすれば、第三者――笛吹き男は存在していると見て良いだろう。
「決まったな。俺達は、そいつを探し出す。そして……必ず、ケジメをつけてやる」
光は、強く拳を握り締めた。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/03/25 00:07:25 |