Tear drop

マスター:楠々蛙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2018/03/31 09:00
完成日
2018/04/13 02:46

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 そこは、森中を横断するように走る街道から、脇に外れたところにある開けた場所だった。木々を切り倒して作られたらしいその場所は、この街道を通る隊商が宿泊地として利用しているらしい。柱と屋根だけの粗末な代物だが、厩も隊商の手によって建てられている。その隊商は今の時期別の土地で商いをしているとの事で、旅人が野宿をするのにお誂え向きだと、少し前に立ち寄った町の者が言っていた。
 正午──まだ野宿を考えるには早い時間だからだろうか、他に人影のないその宿泊地で、ラウラ=フアネーレはただ一人、近くの小川から汲んで来た桶の水を、黒馬と白馬──ブケファラスとスレイプニルの前に置いた。
 額の汗を手で拭う。小柄な身体にとって、馬の世話は中々に骨の折れる作業だが、二頭の馬車馬の疲労に比べれば、どうという事もないだろう。
 飼葉を食むよりも真っ先に音を立てて桶の水を飲む馬の背中を撫でると、毛皮の奥に熱が籠っているのが伝わった。
 無理もない。ここのところ、休む暇とてなく馬車を牽き通しなのだから。以前なら、大きな町に着いては二、三日滞在していたが、今は食料や水、弾薬などを補充してすぐに発つという事もざらだった。
 思わず、ため息を零す。
 俯く顔を上げて、ラウラは周りの木々や、その根本に群生している草花を見渡した。どれも良く見知った種類だ。そう、幼い頃から良く知っている花や木々が、彼女の周りを囲っている。──中には、ラウラの生まれ育った地方でしか繁殖していない種もあった。
 あの花は、根をすり潰して塗ると打ち身に良く効く。あれは、煎じて服用すると解熱作用のある種だ。どれもこれも、薬師だった父や母から教わったモノばかり。それは、懐かしい想い出のはずだったが、それが今近くにあるという事が何を意味しているのかを思えば、心が重くなるだけだった。
 きっかけは、あの死を奉じる祭りの日だったように思う。祭りから宿に帰った矢先、偶然に出“遭った”終始ニコニコと目尻を細める青年から渡されたミサンガを手にするラウラを眼にするや、あの二人──キャロル=クルックシャンクとバリー=ランズダウンは、まず、眼にも明らかに硬直した。そして次の瞬間、掴み掛からんばかりの勢いでキャロルが詰め寄って来たのだ。身の竦む思いがしたのをはっきりと憶えている。眼に険に近いモノすら籠めるキャロルの肩へ手を掛けて制したバリーの眼にすら、凍える眼光があった。
 たぶん、あの時だ。何かの歯車がずれたのは。
 いや──もしかすると、それまで噛み合っていなかった歯車がピタリと嵌ったのかもしれない。ああ、きっとそうなのだろう。
 これまでが、何かの間違いだった。元々、何ラウラが二人と行動を共にしていたのは、生まれ故郷に帰るため、それを考えればそう思う方が、自然だ。
 そうやって納得しようとして──
「そんなのって……、そんなのって──ない」
 そんな、ふざけた理屈があってたまるものかと思う。これまでの事を嘘にして、辻褄を合わせるために清算しましょうだなんて、そんな理不尽はないだろう。
 けれど、あの二人はそう考えているのではないかと、そう思うのだ。
 勝手な理屈だ。こっちの気持ちも考えないで、ともすれば裏切られた気さえする。でも同時に──そもそも裏切ったり、裏切られたりできるような関係だったのかとも思う。
 何も知らない。そう、何も知らないのだ。二人の旅の目的も。二人の過去も。二人があの日、何故ああまで眼の色を変えて、ミサンガの出自を問い質したのかすらも──何も、知らない。
 以前、ある人が三人の関係を指して、家族のようだと表した事があった。その時は、こそばゆさを伴う暖かな心地になったが、今改めて振り返れば──これで? と思わずには居られない。こんなふとした拍子に崩れてしまうような関係を、家族と呼べるのか。
 わからない、わからない。

 ホント──わかんないことばかり。

「あ、れ?」
 滴がひとつ、頬を伝うのに気付いたのは、その時だった。
 泣くつもりなんてなかった。──いや、本当にそうだろうか。あの二人を強引に狩りに追い立てて、黒猫のルーナすら無理矢理追い払ったのは、堰が切れそうになっているのを半ば自覚していたからなのかもしれない。
 ともかく、頬を伝う涙の感触は、本当の事だった。
 慌てて手で拭おうとするも、時既に遅く、顎まで伝い落ちた涙滴は、肌から離れて桶の中へと吸い込まれてゆく。
 馬は意にも介さずに、ラウラの涙が落ちた水を飲んでいる。
 そういえば、昔誰かに聞いた事がある。
 涙は、流れた由縁によって味が変わるのだと。悔し涙は塩辛くて、哀しい涙は甘い味がするらしい。
「あまい? しょっぱい?」
 しゃがみ込み、桶に顔を突っ込む馬に視線を合わせながら訊いてみるも、ただ水を飲むばかりで応えはない。
「そっか。わかんない、か」
 下草に座り込み、膝を抱え込んで、片頬を埋めるようにして顔を乗せる。
 自分の心さえ、ぐちゃぐちゃで。本当に、わからない事だらけだ。

 何を視るでもなく、ただ宙を漂わせる視界の中へ不意に人影が入り込んで来たのは、また涙が込み上げそうになった時だった。

リプレイ本文

「しばらく振りかと思ったら、泣きっ面拝むのは初めてだ」
 聞き覚えのあるその声には、普段とは異なる響きがあった。へらりとした軟派な調子とは違う、髪を梳くような柔らかさが。
「カッツ……」
 目の前に立つカッツ・ランツクネヒト(ka5177)を、ぼうっと見上げる。呟くような声で名を呼ばれたカッツは、「よ、奇遇だねえ」と手を掲げてみせた。
 平素通りの軽薄な物腰──ふと我に返り、我が身の状況を思い出したラウラは、乱暴に目許を拭った。
「っと、おいおいおいおい」と、カッツは咄嗟にラウラの腕を取る。
「そんなにこするやつがあるかよ、まったく」
 苦笑を浮かべつつ彼女の前に膝を付き、手を伸ばして、目許に滲む滴を親指で掬うと、「どうしたい」と囁き掛けた。
「なにか溜め込んでるんなら、胸貸すぜ。それとも俺じゃ、頼りねえかい?」
 へらっと笑んでみせると、ラウラは無言でこくり──と頷く。
「あらら、相変わらず手厳しい」
 すげなく頼りないと首肯されたにも関わらず、カッツはへらりと笑むばかり。いや、浮薄を装う笑みを貼り付けているのは口許だけで、彼の瞳は柔らかな微笑を宿していた。
「ま、こんなんでも、そこらの立ち木に話すよりかはマシだ。騙されたと思って、吐き出してみな」
 な? と重ねて笑むカッツ。
 やがてまた、こくり──と、ラウラが小さく頷いた。



 キャロル=クルックシャンクと、バリー=ランズダウンの二人は、森中でライフルを携えながら近付いて来る人影に気付きはしたが、取り立てて警戒するような事はしなかった。
 その人影が彼らの正面から姿を現した上、更に馴染の顔でもあったからだ。
「よゥ、お二人サン。しばらく振りか?」
 J・D(ka3351)である。
「そいつは一体なんの真似だ」
 挨拶へ応じるよりも先に、キャロルはJDの右手を視線で差した。正確には、彼が右手に提げた、ガンベルトを。
「いやなに、こいつを腰に巻いてたら、今のおめえさんがたは落ち着かねえんじゃねえかとな」
 その台詞は、ともすれば皮肉めいてはいたが、JDの語り口は寧ろ諭すような調を含んでいた。
 だがその言葉に、キャロルは視線に険を籠めて応じる。
「トーシロじゃねぇんだ。要らねえ気ぃ回してんじゃねぇよ」
「そうは思えねえが。見てみねえ、辺り構わねえで殺気撒くから、獣が一匹も寄ってきやしねえ」
 彼の言う通り、三人が立つ周囲一帯では、鳥の羽ばたき一つ聞こえなかった。

 BAA……AANG
 故に、その時何処からか発せられた一発の銃声は、はっきりと響き渡った。

 キャロルとバリーの反応は顕著だった。
「──言い忘れてたが」
 臨戦の気配すら纏う二人をよそに、JDはゆっくりとガンベルトを腰に巻き直しながら言った。
「もう一人、銃で狩りしてるのが居てな。おめえさんがたにも伝えといてくれと言伝頼まれてたんだった。今、しかと伝えたぜ」



 うっすらとガンスモークを吐く、ライフル。その射手は、すぐさま銃身のボルトを操作して、排莢、薬室装填をこなすと、アイアンサイトの奥に初弾を撃ち込んだ獲物を覗いた。
 首筋を撃たれ、河原に倒れ込んだ若い雌鹿は、四肢を動かして懸命に立ち上がろうとしていたが、悉く失敗している。行動不能と判断した射手は銃を傍らの木に立て掛け、銃架代わりに木の幹に刺していたダガーを引き抜いた。
 そして、身体の輪郭を景色に溶け込ませる為に頭から被っておいたマントを外し、肩に掛け直す。
 メスティーソ風の面貌を露にした射手──フォークス(ka0570)は、銃のスリングを肩に掛けて、ダガーを片手に雌鹿の許へと近付いた。
 苦痛にもがく雌鹿。
 フォークスは、雌鹿を踏み付けて動きを封じた。精確に、一刺しで心臓を捉える為だ。余計な苦痛は、肉の味を悪くさせる。
 刃先を心臓の上にあてがい、肋の隙間を縫うようにして一息に押し込むと、雌鹿は一声断末魔を上げた切り、動かなくなった。
 トドメを差し終えると、解体作業に取り掛かった。腹を裂いて内蔵を掻き出し、一度肉を水で冷やしつつ洗い、毛皮を剥ぐ。バラし終えた肉の内、食べ切れない分は塩漬けにして保存する。肉と脂を削ぎ落した毛皮もだ。こうすれば、町で売り払うまで腐らせずに済む。
 手際良く作業を済ませたフォークスは、額に滲んだ汗を拭うと、紙巻煙草を咥えて火を点ける。
 一度肺胞を満たした紫煙を、長く吐く。
 そういえば──と、少し前に野宿場で見かけた少女の事を思い出す。何度か面識のある相手だ。
 声もなく、涙を零す少女。その時偶然居合わせていたJDは、少女の傍に居る青年に気付くと、フォークスを促してその場を後にした。
 涙──。ふと、指先で目許を撫でる。頬をなぞり、顎先へと指先をゆっくり走らせてみる。
 自分が最後に涙したのは、いつの事か。無意識に記憶を辿ろうとして──
「……Stupid」
 馬鹿々々しいと、顎先から離した指先で煙草を摘まんでヤニと一緒に吐く。
 最初に零した滴の色が透き通っていたか、それとも紅く染まっていたか、そんな事すら曖昧な過去なんて、そうしてしまうのがイイに決まっている。



「──結局、肝心なのは、ラウラ嬢がどうしたいかってことだ」
「どう、したい……?」
「ああ。人間なんて、どいつもこいつもてめえの都合で生きてんだ。ねだってばかりじゃ始まらねえさ。だから選ばないとなんねえ。お嬢がどうなりたいのか。あの旦那がたの、なにになるのか、選ぶのはお嬢だ」
 口を閉ざし、聞き入る少女にカッツは続ける。
「選ばねえってこともできる。なにも選ばねえで、流れるがままにしておくこともな。けど、そいつはおすすめでできねえよ。
 そうすりゃきっと、俺みたいになっちまう」
 取り繕うようなうわべの笑みとも違う、消え入りそうな微笑。
「お嬢は、こんな風になりたかねえだろ? ……いや、違えな。おまえには、こうなってほしくない」
 これは、俺の都合だ──と、ラウラの頭を軽く撫でてから、カッツは立ち上がった。
「行っちゃうの?」
「ここにゃ、ちょいと立ち寄っただけでね。仕事を待たせてあんのさ」
「ふぅん、そっか」
 気のない声を作って、呟くラウラ。撫でられた髪に触れながら。名残惜しそうなその手付きに、苦笑する。──苦味といっても、キャラメルのような、甘い苦味。
「心配せずとも、お嬢は一人じゃねえさ。俺なんかよりよっぽど頼りになるトモダチが、ちゃんと付いてる」
 そう言いつつ、ラウラの頭に手を置く。優しくぽんと叩くように。
「無理だけはしないでくれよ、ラウラ。──これはたぶん、俺だけの都合じゃねえだろうぜ」



「……ミハイル=フェルメール」
 JDがその名を口にした時の二人の反応は、火を見るよりも明らかだった。
「そうかィ。あの兄サンとは、やっぱりそういう因縁かィ」
「……どこでその名を聞きやがった」
「いつだかの祭り事で、あのお姫サンに絡んでやがった優男がそう名乗ったのさ。とっぽいナリはしちゃいたが、どうにも喰えねえ顔をしてやがった」
 険を滲ますキャロルの問いに、そう応じてやると「ああ、あんたもその場に居合わせたんだったな」とバリーが頷く。
 僅かに、場の空気が緩む。だが、次の瞬間、更に二人の険が膨れ上がった。
「ギャレット=コルトハート──その名に関係してんだな?」
 以前、生け捕りにしたゴロツキを尋問した際に、キャロルが口にした名前だ。
 JDは突き刺さる険にも動じず、また肩を竦める。
「安心しねえ。これ以上、おめえさんがたの事情に土足で踏み入る気はありャせんさ。
 だが、一つだけ訊かせな。おめえさんら、あのお姫サンを捨ててく腹かィ」
 ラウラの故郷については、彼女自身から世間話程度には聞いていた。
「巻き込むまいとすんのは、まァ、わかる。だが──」
「あんた、たぶん勘違いしてるぜ」
 JDの言葉を、キャロルが遮る。──それまでの険が消え去った、この男のモノとも思えない、漂白した声。
 キャロルは、ガンベルトのホルスターからリボルバーを抜いてみせた。
「忘れたか? 俺らの生業はコイツだ。頭ん中にあんのんは、撃たれるかどうかじゃねぇ。俺らはいつだって、殺せるかどうか──それだけしか考えられねぇのさ。」
 そう言い捨て、キャロル、そしてバリーもまた、背を向けてその場を後にする。
 一人残ったJDは、我知らず呟く。
「なるほど──」
 これが、“奪っていった者”を知る者と、そうでない者との差か。
「──随分と、デケェ違(ちげ)えだ」



 釣り糸を垂らして、あとは竿が引くのを待つばかり。
 ルーエル・ゼクシディア(ka2473)は、川のせせらぎに耳を傾けながら、釣りに興じていた。顔見知りが居るのを幸いと、寝床を決めた身だ。道具の持ち合わせはなく、使っているのは借り物の、竿と糸と浮きと針という粗末な代物である。餌も、川辺の石の裏に潜んでいたゴカイやらミミズやらだ。道具を抜かりなく揃えたとて、釣れない時は釣れないものとは、誰の台詞だったか。
 どうやら、今は釣れない時だとみえる。
「釣れないねえ……」
 口から出た呟きは、独り言ではなく、傍らに居る黒猫に向けたものだ。名前は確か、ルーナだったか。竿を振り始めてから、いつの間にやら隣で丸くなっていたのだ。
「釣れないなあ……」
 いつまで経ってもピクリとしない浮きを眺めるのにも飽きが差し、物思いに耽る。
 例えば、竿を借りたバリーの様子。元より暗色の碧眼はなお昏く、まるで深海を覗き込んでいるような錯覚に囚われた。
 そして、ラウラ。快活な少女だったにも関わらず、今日は元の気質が鳴りを潜めているようだった。
 今、彼女は二人の少女に連れられて、食材探しに森へ入っている。一人は、パトリシア=K=ポラリス(ka5996)。こちらは既知。もう一人は、宵待 サクラ(ka5561)。先程、愉快奔放な自己紹介を受けたばかりだ。
「君は一緒に行かなくてもよかったの?」
 黒猫に向けてそう訊いてみると、ジロリと睨まれた。
「ご、ごめんなさい」流し目一つにも関わらず、あまりのその圧に、つい謝罪を口にする。すると黒猫は視線を切って、また気儘な風に丸くなる。
 溜息一つ零して、針を引き上げてみると、餌が掏られていた。
「釣れないねえ……」



「さテ、お料理をはじめましょ」
 意気込み勇んで、袖を捲りながらそう宣言したのはパティだ。目の前には、本日の収穫物が積まれている。キノコや山菜。たんぱく源に関しては、収穫があったのがフォークスだけらしく、弾薬やら煙草やらと交換に、鹿の肉がまな板の上に鎮座している。
「うん。じゃあわたしは、こっちをやるから」
 隣で山の幸の下ごしらえに取り掛かるラウラ。やっぱり、その表情には、陰りがある。  
 だが、少しだけ安心できたのは、それを取り繕おうとする気配が薄いからだ。この年下の友人は、何か思い詰めるような事があっても気丈に振る舞おうとするタチだが、今はその頑なさが和らいでいる。
 少し前に、カッツに逢ったと言っていた。あの青年が何かしたのだろうか。やっぱりカッツには敵わないなと思うと共に、ちょっぴり妬いてしまう。自分にも、支えになれる事があるだろうか。
 だってこの子が独りで泣いているのだとしたら、そんな悲しい事はないから。──独りじゃないと、涙も零さないような子だと知っているだけ、なおさらに。
 手を動かしながら考えよう。きっと、何かできる事があるはずだ。



 宵待は、宵入りに浮かぶ焚き火の火を見詰めているラウラの隣に腰を下ろした。
 食後からそう間も空いていないというのに、宵待の手には包みを剥がした板チョコレートが納まっている。
「ラウラちゃんも食べる?」とチョコを差し出し、ラウラが受け取ると、すかさずスナック菓子の袋を開けた。
「もしかして、ゴハン、美味しくなかった?」
 ポテトチップスを口に頬張った矢先にそう訊かれた宵待は、慌てて飲み込んでから「そ、そういうわけじゃっ、ないんだけど……」と口ごもる。
 あんな葬式と葬式と葬式が一度に来たかのような空気の中では、何を食べたところで味がするわけもなく。
「甘いモノは、別カロリーだよ!」咄嗟に、そう口走る。
「それ、甘いの?」
「……ううん、うす塩味だけど」
「しょっぱいんだ。じゃあ、はい」
 ラウラが板チョコを一口大に割り、差し出して来たので、思わず頬張る。
「甘じょっぱくなった。これはこれで……」
 趣深い味わいに感心したところで、ハッとする。ラウラを励まそうと、菓子を伴にして馳せ参じたというのに、餌付けされるとは何事か。
 ぐぬぬと唸る宵待に「ねえ、サクラ」と、ラウラが呟き掛ける。
「サクラは、前にわたしたちの事を、家族って言ったよね」
 唐突な問い。だが、思い至るところはあった。
 わたしたち──ラウラとキャロルとバリー、あのおっかない魔女猫も含めて。だから、頷く。
「うん、言ったよ。今でも、そう思ってる」
「家族って、どんな感じなのかな」
 胸元で隣合うように提げられた、二つの指輪。以前、些細な好奇心から発した問いで、指輪の由縁は知っていた。──両親の形見。それを握り締めながら問う少女に、応える。
 自分でも酷い言い草だと自覚しつつ、それでもその言葉を舌から離す。
「縋るようなモノじゃないと思う。家族って、きっと支え合うモノだから」
 傷ついたような素振りはなかった。寧ろラウラは、何処か腑に落ちたような表情を浮かべて,指輪から手を離す。
 そして、チップスを一枚摘まんで、噛む。やがて「そっか」と呟いた。
「少し、しょっぱいね」



 夜も深くなり、空を星が覆う。
 薪が減り、小さくなった火の傍に、まだラウラは独り座し、灯りが暗くなり、よりくっきりと見える星明りを見上げていた。
 その小さな肩を夜気から庇うようにして、ブランケットを掛ける。
「パティ?」
 寄り添うように同じブランケットに潜り込んだパティへ、ラウラが振り返る。
 にこりと微笑み返して、それからパティも星空を見上げる。
「お星サマ、今日もキレイだネ」
 あの日見た、星空と同じように。
「うん。そうね」
 ラウラもまた視線を空に戻して、頷く。だが、それと共に「けど」と呟いた。
「ずっと見上げてたら吸い込まれそうで、少し怖いわ」
 その声にハッと──いや、ぞっとして、満天の星から視線を切り、ラウラを見遣る。一瞬、濃い濃い夜の帳が、少女の輪郭を曖昧にしているように見えて、思わずその身体を抱き寄せる。
「パティ?」
「──大丈夫ダヨ」
 ラウラの頭を肩に寄せて、背中を撫でてあげながら、囁く。
「大丈夫ダカラ、ね?」
 安心させるように──祈るように。
「うん──アリガト」
 その声は震えていて、やがて肩がじんわりと暖かく濡れるのを感じた。
 パティは、しきりに小さな背中を撫で続けた。不安が解けて見えなくなるまで。──少女と、そして自分自身の。

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参加者一覧

  • SUPERBIA
    フォークス(ka0570
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 交渉人
    J・D(ka3351
    エルフ|26才|男性|猟撃士
  • この手で救えるものの為に
    カッツ・ランツクネヒト(ka5177
    人間(紅)|17才|男性|疾影士
  • イコニアの騎士
    宵待 サクラ(ka5561
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 金色のもふもふ
    パトリシア=K=ポラリス(ka5996
    人間(蒼)|19才|女性|符術師

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/03/31 03:04:01
アイコン お外でお泊り♪
パトリシア=K=ポラリス(ka5996
人間(リアルブルー)|19才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2018/03/31 03:05:16