ゲスト
(ka0000)
【CF】芋料理コンテスト 審査員を倒せ
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/12 07:30
- 完成日
- 2014/12/19 10:58
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
12月、リアルブルーでは多くの街がどこもかしこもクリスマスに染まるこの時期、クリムゾンウェストでもまた同じようにクリスマスムードに包まれる。
それはここ、崖上都市「ピースホライズン」でも変わらない。
むしろどこもかしこも華やかに、賑やかにクリスマス準備が進められていて。
リアルブルーの街に輝くという電飾の代わりに、ピースホライズンを彩るのは魔導仕掛けのクリスマス・イルミネーション。
立ち並ぶ家や街の飾りつけも、あちらこちらが少しずつクリスマスの色に染まっていく。
特に今年は、去年の秋に漂着したサルヴァトーレ・ロッソによって今までになく大量に訪れたリアルブルーからの転移者たちが、落ち着いて迎えられる初めてのクリスマス。
ハンターとして活躍している者も多い彼らを目当てにしてるのか、少しばかり変わった趣向を凝らす人々もいるようで。
果たして今年はどんなクリスマスになるのか、楽しみにしている人々も多いようだった。
●
ミネアは発行されたばかりのイベント開催許可証書を胸にして喜びをかみしめていた。
「やった♪ これでハロウィンの時にちゃんとできなかった創作芋料理コンテストができるっ」
ハロウィンの時に、ピースホライズンを中心に食品商として商売をし始めることになったミネアが心残りになっていたのは、企画に上がっていた芋料理コンテスト見届けられなかったことだった。クリスマスを間近に控えたこの時季に、そのコンテストを今度は自分の手で開催できるというのは、自分の頑張りが形になったという証でもあり、同時に商人への足がかりを作ってくれた人々への恩返しができると考えていたからであった。
「さて、早速呼び込みしなきゃね」
もう既にビラは準備済み。
主婦にはクリスマス用の新しい料理を作る機会にして家族と共に楽しんでもらい、観客には審査として味を楽しんでもらう。
芋が売れれば今まで関わってくれた農家の人達みんなが潤う。そしてみんなの笑顔を作る手伝いができたら自分も幸せだ。一石二鳥どころか、三鳥、四鳥を狙える。もうミネアは希望で体のウズウズが止まらないほどだった。
「今度、芋料理コンテストをやりまーす。参加者お待ちしております~! 今度はクリスマス用のお料理、作ってみませんか? 審査として来ていただいた皆さんにも食べていただきます!!」
ハロウィンで一度形にはしているのでノウハウはある。周知もしているから前回は間に合わなかった人も今回は参加して賑わってくれる。
はずだった。
「いや、やめときます……」
「あー、うん。考えとくわ」
何故だろう。観に来るという人はそれなりにいたが、コンテスト参加者が集まらない。料理好きな主婦たちはビラを見ると、途端に顔を曇らせるのだ。ビラの中身に問題があるのか、何度も見直したが取り立てて悪いところがあるようには見えない。
夕暮れになっても、参加者がほとんど集まらず、ミネアは途方に暮れながら歩いていた。少し泣きたくなったが、ここで挫けたらイベント開催を許可してくれたピースホライズンの市長さん、期待をもっていい芋をたくさんくれた農家さん、会場設営などに協力してくれると約束してくれた商会さんにも迷惑がかかる。負けるわけにはいかない。でも、笑顔を作るのが少し辛くなっているのは事実だった。
主婦がダメなら、コックさんとかにもお願いしてみよう。忙しいんだろうけど。一人くらいはお店の宣伝を兼ねて参加してくれるかも。
藁にもすがる気持ちで、ミネアは料理店に入ってお願いしてみることにした。
「……本気でやるの?」
その店のコックは、ビラをまじまじと見つめた後、そう言った。
「あの、何か、悪いこと書いてます? その、私、さっぱりわからなくて……ごめんなさい」
「あ、いやぁ。企画はいいと思うけどね。前回の芋料理コンテストの時に審査荒らしが出たんだよ。あれはもうひどくて、みんなもう二度とやるかっ、ってなったんだよ」
審査荒らし?
そういえば、自分は企画を売り出した後は農村を回っていたので詳しい話は知らなかった。後援してくれたピースホライズンの商会からは盛大に開催されたという報告を聞いていたが、参加者たちはそう思っていないようであった。何のことかわからないという顔のミネアにコックは教えてくれた。
「審査をした観客の中にね、ひどいのが2人いたんだよ。
一人は『悪食のエウリィ』。とにかくものすごい大食漢でね。一人で料理を食べまくるんだ。食いっぷりはいいんだけど食べ方は汚いし、しかも極端な味音痴で、ジョークで作ったゲテモノでも平気に食べて美味しいというものだから、他の観客から彼の食べた種々の料理にも偏見が及ぶしね。ゲテモノと同じ扱いをされて憤慨する参加者が続出したんだ。
もう一人の『微食家のシャーナ』はエウリィの真逆で、美食家と自称して、とにかくケチをつけまくってさ。一口だけ食べてイヤミ満載の酷評をした後、目の前で料理を捨てるんだよ。傷ついた人は多いと思うよ。少ししか食わないし、評価も微妙だからみんな微食家って呼んでるよ。この二人のせいで料理を出す側の大半はもうやらないってさ。素材がありふれた芋料理って限定しているから、いくら食べてもいいだろうし、ケチのつけようもいくらでもある、って目を付けられたんだと思うけどね。他の料理コンテストならそうならなかったんだろうけど」
そういう事か。ミネアはようやく主婦たちが敬遠をしていた理由がわかった。
それと同時に、怒りがふつふつと沸いた。ミネアは商売を始める前までは料理店で働いていたのだ。料理を台無しにされた人の気持ちはよくわかる。ましてや芋料理だからって、多少の無茶は許されると思っている考えが許せない。
「というわけで、同じ形式ならみんなやらないんじゃないかな」
「……わかりました。ありがとうございます」
ミネアは怒りで顔を真っ赤にしていたが、コックにひとまずお辞儀して出て行った後、ぼそりと呟いた。
「芋料理の奥深さを思い知らせてやる……!」
●
「それでね。コンテストを2回に分けたの。最初の審査員はその二人を特別ご招待して、本番である後の料理コンテストに迷惑かけさせないように、仕留めるの!」
ハンターオフィスの受付にて。ミネアの息巻く様子に受付員は若干対応に困っていた。
「芋はベーシックな素材だけど、その分バリエーションが豊富なの。胃が破裂するくらいの種類で勝負すればきっと勝てる。その為にもっと手数が必要なんです。私も料理を作るんだけど、ハンターさんにも手伝ってもらいたいんです」
普通に美味しい料理を考えてくれ、という依頼なら時々受け付けるが、人を倒すのに料理を使うって。
「本当は『料理ってこんなに心温まるいいものなんだ』って思わせたいけどね。今回はまず……ぶっ倒す。人々のクリスマスの為に!!」
それはここ、崖上都市「ピースホライズン」でも変わらない。
むしろどこもかしこも華やかに、賑やかにクリスマス準備が進められていて。
リアルブルーの街に輝くという電飾の代わりに、ピースホライズンを彩るのは魔導仕掛けのクリスマス・イルミネーション。
立ち並ぶ家や街の飾りつけも、あちらこちらが少しずつクリスマスの色に染まっていく。
特に今年は、去年の秋に漂着したサルヴァトーレ・ロッソによって今までになく大量に訪れたリアルブルーからの転移者たちが、落ち着いて迎えられる初めてのクリスマス。
ハンターとして活躍している者も多い彼らを目当てにしてるのか、少しばかり変わった趣向を凝らす人々もいるようで。
果たして今年はどんなクリスマスになるのか、楽しみにしている人々も多いようだった。
●
ミネアは発行されたばかりのイベント開催許可証書を胸にして喜びをかみしめていた。
「やった♪ これでハロウィンの時にちゃんとできなかった創作芋料理コンテストができるっ」
ハロウィンの時に、ピースホライズンを中心に食品商として商売をし始めることになったミネアが心残りになっていたのは、企画に上がっていた芋料理コンテスト見届けられなかったことだった。クリスマスを間近に控えたこの時季に、そのコンテストを今度は自分の手で開催できるというのは、自分の頑張りが形になったという証でもあり、同時に商人への足がかりを作ってくれた人々への恩返しができると考えていたからであった。
「さて、早速呼び込みしなきゃね」
もう既にビラは準備済み。
主婦にはクリスマス用の新しい料理を作る機会にして家族と共に楽しんでもらい、観客には審査として味を楽しんでもらう。
芋が売れれば今まで関わってくれた農家の人達みんなが潤う。そしてみんなの笑顔を作る手伝いができたら自分も幸せだ。一石二鳥どころか、三鳥、四鳥を狙える。もうミネアは希望で体のウズウズが止まらないほどだった。
「今度、芋料理コンテストをやりまーす。参加者お待ちしております~! 今度はクリスマス用のお料理、作ってみませんか? 審査として来ていただいた皆さんにも食べていただきます!!」
ハロウィンで一度形にはしているのでノウハウはある。周知もしているから前回は間に合わなかった人も今回は参加して賑わってくれる。
はずだった。
「いや、やめときます……」
「あー、うん。考えとくわ」
何故だろう。観に来るという人はそれなりにいたが、コンテスト参加者が集まらない。料理好きな主婦たちはビラを見ると、途端に顔を曇らせるのだ。ビラの中身に問題があるのか、何度も見直したが取り立てて悪いところがあるようには見えない。
夕暮れになっても、参加者がほとんど集まらず、ミネアは途方に暮れながら歩いていた。少し泣きたくなったが、ここで挫けたらイベント開催を許可してくれたピースホライズンの市長さん、期待をもっていい芋をたくさんくれた農家さん、会場設営などに協力してくれると約束してくれた商会さんにも迷惑がかかる。負けるわけにはいかない。でも、笑顔を作るのが少し辛くなっているのは事実だった。
主婦がダメなら、コックさんとかにもお願いしてみよう。忙しいんだろうけど。一人くらいはお店の宣伝を兼ねて参加してくれるかも。
藁にもすがる気持ちで、ミネアは料理店に入ってお願いしてみることにした。
「……本気でやるの?」
その店のコックは、ビラをまじまじと見つめた後、そう言った。
「あの、何か、悪いこと書いてます? その、私、さっぱりわからなくて……ごめんなさい」
「あ、いやぁ。企画はいいと思うけどね。前回の芋料理コンテストの時に審査荒らしが出たんだよ。あれはもうひどくて、みんなもう二度とやるかっ、ってなったんだよ」
審査荒らし?
そういえば、自分は企画を売り出した後は農村を回っていたので詳しい話は知らなかった。後援してくれたピースホライズンの商会からは盛大に開催されたという報告を聞いていたが、参加者たちはそう思っていないようであった。何のことかわからないという顔のミネアにコックは教えてくれた。
「審査をした観客の中にね、ひどいのが2人いたんだよ。
一人は『悪食のエウリィ』。とにかくものすごい大食漢でね。一人で料理を食べまくるんだ。食いっぷりはいいんだけど食べ方は汚いし、しかも極端な味音痴で、ジョークで作ったゲテモノでも平気に食べて美味しいというものだから、他の観客から彼の食べた種々の料理にも偏見が及ぶしね。ゲテモノと同じ扱いをされて憤慨する参加者が続出したんだ。
もう一人の『微食家のシャーナ』はエウリィの真逆で、美食家と自称して、とにかくケチをつけまくってさ。一口だけ食べてイヤミ満載の酷評をした後、目の前で料理を捨てるんだよ。傷ついた人は多いと思うよ。少ししか食わないし、評価も微妙だからみんな微食家って呼んでるよ。この二人のせいで料理を出す側の大半はもうやらないってさ。素材がありふれた芋料理って限定しているから、いくら食べてもいいだろうし、ケチのつけようもいくらでもある、って目を付けられたんだと思うけどね。他の料理コンテストならそうならなかったんだろうけど」
そういう事か。ミネアはようやく主婦たちが敬遠をしていた理由がわかった。
それと同時に、怒りがふつふつと沸いた。ミネアは商売を始める前までは料理店で働いていたのだ。料理を台無しにされた人の気持ちはよくわかる。ましてや芋料理だからって、多少の無茶は許されると思っている考えが許せない。
「というわけで、同じ形式ならみんなやらないんじゃないかな」
「……わかりました。ありがとうございます」
ミネアは怒りで顔を真っ赤にしていたが、コックにひとまずお辞儀して出て行った後、ぼそりと呟いた。
「芋料理の奥深さを思い知らせてやる……!」
●
「それでね。コンテストを2回に分けたの。最初の審査員はその二人を特別ご招待して、本番である後の料理コンテストに迷惑かけさせないように、仕留めるの!」
ハンターオフィスの受付にて。ミネアの息巻く様子に受付員は若干対応に困っていた。
「芋はベーシックな素材だけど、その分バリエーションが豊富なの。胃が破裂するくらいの種類で勝負すればきっと勝てる。その為にもっと手数が必要なんです。私も料理を作るんだけど、ハンターさんにも手伝ってもらいたいんです」
普通に美味しい料理を考えてくれ、という依頼なら時々受け付けるが、人を倒すのに料理を使うって。
「本当は『料理ってこんなに心温まるいいものなんだ』って思わせたいけどね。今回はまず……ぶっ倒す。人々のクリスマスの為に!!」
リプレイ本文
ハンターとそして依頼人のミネアはそれぞれエプロンやコックコート(コック用の白い服)及びその他を身に纏い、円陣を組んでいた。「ぜーったいに本番審査に迷惑かけさせないようにするからね!」
ミネアの言葉に皆、頷いた。
「もいおを粗末になんかさせないっすよ!」
狛(ka2456)の言葉に堂島 龍哉(ka3390)も続く。
「全くだ。食材を粗末にするなど本来ならば海に沈めてやるところだ」
「まあ、下ごしらえも十分にやってきたんだ。何とかしてやるさ。研ちゃんキッチンの主としてな」
藤堂研司(ka0569)はニッコリと笑ってそう言った。そして一同を見渡し……一人に一瞬目が釘づけになるがあえて無視した。
「何か?」
ミリア・コーネリウス(ka1287)はそのぎこちなさに、いたく真面目な声で返答した。ツッコミを許さないその空気に答えたのはメイ=ロザリンド(ka3394)の筆談用スケッチブックだった。
『料理、しにくくないですか?』
「任せてください。包丁さばきは自信があるんです」
堂々と胸を張るまるごと着ぐるみ姿のミリア。その姿と言葉に料理人の誇りを重んじる堂島が呆れた顔をした。
「衛生上問題があるとは思わんのか、このハゲタカ」
「何を言いますか。これはイヌワシです!!」
もこもこの翼を広げポーズを取るミリア。だが論点はそこじゃない。淡い殺意すら芽生える堂島とミリアを他のメンバーが引きはがした後、ミネアは叫んだ。
「と、とりあえずやるぞーーー!!」
殺るぞ? と思った人は少なからずいた。
さて、コンテストはこれから始まる。
●vsシャーナ
「食前酒の代わりとして、特別なお水をお持ちしました」
ミオことミオレスカ(ka3496)はそう言うと、お猪口に満たされた水を差し出した。その恭しい様子から、何があるのかとシャーナは訝しんで水を見つめる。
「何よ、ただの水じゃない」
「これは、この季節だけ、早朝に取れた本当においしいジャガイモを収穫したその場で切った時に、一滴だけ取れる滴を集めたものです。残念ながら、一般人ではわかりませんが、真の美食家にとっては、これが究極の味だと聞いています」
ミオレスカの言葉に、シャーナの目つきが変わった。厳しい食通の眼力が、というより、どう表現しようって真剣に悩む焦りの顔だ。そんな顔でシャーナはその特別な水をくい、と飲み干した。お猪口いっぱいしかないので、そもそも捨てる量もない。
「ま、まあまあ、美味しいわ? その特別な一滴をよくこれだけ集めたものね。でも、この味が分からないと言いながら出してみようって、美味しいって聞いてるけど味わかんないのよね、まー食べてみて? って客にする態度なワケ?」
さすがシャーナ。とりあえず相手を罵倒する口実を見つける目ざとさに溢れているようだ。そのトゲトゲしいセリフにミオはきょとんとした顔をしていた。
「でも美味しいんですよね?」
「いや、そりゃうん。至高の一滴なわけだし。いや、そういう話じゃなくって」
全くイヤミを気にしない純朴なミオの様子にシャーナは攻め口を失って言葉を失う。その間にリリア・ノヴィドール(ka3056)がフライドポテトを盛った皿を差し出した。
「こちらはピースホライズンの有名料理店のシェフ、コラウマ・イーナさんが特別に提供してくれたフライドポテトなの。究極料理の神髄をご覧あれ、なのね」
「ほ、本当にあの有名シェフさんの料理なの? ……謀ってんじゃないでしょうね?」
「本当よ。美食家の名の通りなら、判ると思うのね」
笑顔でのリリアの挑発に、シャーナはむっとした顔をしてフライドポテトを一つつまみ、食べる前にじぃっとそれを見つめた。
「はっ、これが有名シェフの料理? 油が回って食べられたものじゃないわね。どーせ自分で作ったダメ料理を食べてもらうために騙ったんでしょ」
「流石。ちゃんと食通しているのね。さっきの水は気づかなかったから、いけると思ったんだけど」
素直にリリアが称賛すると、シャーナは眼を見開いて、フライドポテトと先ほど飲み干した後のお猪口を見たあと、激怒してそれらを床にひっくり返そうとした。
「な、なによ、またそうやって馬鹿にして! どうせ本当は何もわかってない馬鹿女って思っているんでしょ! 不愉快っ、不愉快だわっ」
「『また』なんだね」
巽・レガレクス(ka3318)はシャーナの手をそっと抑えてそう言った。
「踊り子として成功するのは大変だったと聞いたよ。売れ出した理由は単に金持ちとのコネができたから。自分は何も変わっていない。なのに今まで邪険にしてきた人は突然手の平を返すように踊りをもてはやし出した。人は自分や踊りを見てくれているわけじゃないって気づいたんだよね。その悲しさをどこかで表現したかった」
巽が今日までに聞いてまわり、そして推測から行き着いた結論にシャーナの顔色がさっと変わった。巽の一言で、いったいいくらするんだろうと思うような色とりどりの服も、どことなく浮いているように見えた。
「ごめんなさい。嘘つくようなことをして。でもそうでもしないと、私たちの想いを伝えられないと思ったんです」
ミオは素直に頭を下げてそう言う一方、リリアは少し呆れた顔をしていた。
「だからといって審査員として人にケチつけまくるのはコンテストの意義を間違えているのよ。というか、人として」
その言葉にシャーナは真っ赤になった。
「な、なによ。何よ!! あんた達なんかに何が解るっていうの!!」
「まあ、他人だから完全に理解する、なんてことはできないね。だけど、それなりの努力はさせてもらうよ」
藤堂はそう言うと、準備していたミネストローネをすっと差し出した。ミネストローネ、とは言っても具は煮詰めすぎていて、色は淀んで見える。具はできの悪い切れ端ばかりで見た目には美味しそうにはとてもみえない品だった。
こりゃまたコンテストに出る品とは思えないひどい一品に、周りはざわついた。こんなの絶対にひっくり返されるぞ、と。
「そんな中でもずっと変わらず君を支えてくれた料理があったらしいね。かつて定宿にしていたところの女将さんのまかない料理だ。といっても客に出した後の残り野菜をぶち込んだだけの簡単なスープだけど」
藤堂の言葉にシャーナは驚いて、一同の顔と料理を何度も交互に見た。そんな呆気にとられる彼女を藤堂は、さぁ召し上がれ。と促した。震える手つきでミネストローネを口にしたシャーナはその一口だけで十分だったようだ。涙が溢れてくる。
「萎れた野菜と煮込みすぎたスープの味を調えるって結構難しいもんだね。下手に美味しいものを作るより難しかったね。でもそれを再現するのが研ちゃんキッチンさ」
その言葉にシャーナは何度もうなずいた。心に染み入る一品だったようだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「ふん、その程度で折れてもらったは困る。本当の料理というものを知ってもらわなければならないからな」
真っ赤にした目に何度もハンカチを当てるシャーナに堂島が差し出したのは肉じゃがだった。ジャガイモは煮汁で色が染まっておらず、緑も鮮やか。肉も適度に煮込んで油分を失っていないのがよくわかる。それは誰もが見ただけで完璧、と思える料理であった。
「料理はその時の天候でも煮る時間や火加減も少しずつ変わる。場所や食べるまでの時間、食べる人の状態をも見極めねばならない。それを丁寧に、完璧にこなすのが最高の料理だ」
その言葉に打ち震えながら、シャーナは一口、そのジャガイモを口にした。
「なんて程よい食感! ほどける口どけ感と噛みごたえが両立しているなんて! 味付けも素敵だわ。濃すぎて食材の味を殺すなんてこともせず薄味すぎることもない。……おいしいって、こういうことを言うのね!!」
滂沱の涙をこぼすシャーナは一口と言わず、何度もそれを口にし、ミネストローネと合わせて本当の美味しさ、そして喜びに浸っていた。
「涙流して食べる人って本当にいるんだね」
その光景に巽は驚きは隠せなかったが、とりあえず喜んでくれたのは間違いない。もう彼女は人につらく当たったり、料理を無下にすることはないだろう。
「それじゃ、本格的な料理コンテストといこうか。これからが本番だからね!」
●vsエウリィ
「芋のサラダ! 芋の煮つけ!! 甘露煮!! コロッケ!!!」
ミネアは次々と料理を投入していくが、圧倒的にエウリィの有意だった。
「いっただきます~♪」
一品ごとにちゃんと手を合わせて笑顔でそう言ったかと思うと、器に顔を突っ込んでひどい音ですすりだし、これでもかと盛り付けていた料理の皿はあっという間に真っ新に戻っていた。皿についたソースすら綺麗になくなる始末だ。
「ううう、もう準備した分がないぃぃ」
昨日から準備していた食材があっという間に消化されていき、ミネアは半泣きになっていた。
「食べられるときに食べているんだろうけど、あれは異常だね」
シャーナ向けの料理を作っていた巽もさすがにエウリィの様子には唖然としていた。
「説得する方法、見つけた?」
天竜寺 詩(ka0396)の問いかけに巽は残念そうに首を振った。路上生活者の彼に気を留める者は少なく、今は野良犬猫と戯れているという話程度だった。
「じゃあ、最後の手段に出るしかないね」
詩は見て楽しめる料理を目の前で作って、料理自体に興味を持たせようと考えていたが、多分あのままでは話半分にしか聞いてもらえない。ドワーフ認定美少女料理人は、一度食べ出したらその化学作用で『止められない、止まらない』状態にする禁忌の料理に手を付けるために岩塩をそっと握った。
「でもすっごいよねぇ。あたしより小さいのに、食べる量は何倍もあるんだから。どんな胃してるんだろ」
シアーシャ(ka2507)は以前に習ったリアルブルーの料理であるジャーマンポテトを大量生産すべく、包丁ではなくクレイモアをまな板の上でぶん回しながら呟いた。もう一度、あのおじいさんのように喜んでくれるかも。という勢いで作るのはいいが、今回は指導者がいないので少々作り方がざっくばらんとしている。
「よく食べる人はお腹より背中が膨れるってきいたことあるっすけどね。せめて膨れ具合がわかれば、もう少し頑張ろうとか思えるんすけどねぇ」
狛も焼き芋を作るべく石焼き窯の中で芋をコロコロと転がしつつ、エウリィの様子を見た。しかし、ぶかぶかのボロコートを纏った彼はそのシルエットからは状況が判別しづらい。
「焼き芋の良い匂いがするですね。楽しみ~♪」
狛の視線に気づいたのか、エウリィはぴょんぴょんと飛び跳ねて狛に手を振った。その様子を見てメイが少し首を傾げてスケッチブックにペンを走らせた。メイのスイートポテトは最後に出す予定なので、少々手が空いていたのもあり、エウリィにどう説得しようかと一生懸命に彼の様子から探ろうとしていたのがその僅かな動きの違いに気付いた。言葉に不自由する彼女だからこそ、より感覚が鋭かったためかもしれない。
『今、コートが変な動きしませんでしたか?』
「あ、もしかして」
詩は手にしていた塩を離すと、シアーシャのジャーマンポテトの制作のフォローに入った。不器用に一枚、一枚と切り刻んでいたベーコンをストトトトンっと切り刻むと玉ねぎと共に強火で調理していく。
「えー、低温でじっくり焼く方がおいしいって習ったよ?」
「エウリィさんにはこっちの方が多分いいはず。ミリアさん、アレ、狛さんの焼き芋と一緒に出してくれるかな?」
「任せておいてっ!」
まるごとイヌワシのままミリアは腕で大きなマルを作ってオッケーサインを出すと、バックパックから溶岩を思わせるような赤いジャムを取り出した。
「もいおを食べられないモノにするのは反対っす!!」
「何を言いますか、これはジャムです」
「まるごと唐辛子ジャムなんて劇物っすよ!」
おいも、もとい、もいお愛に溢れる狛にはそんな近づいただけで目が痛くなるような代物をもいおに合わせるなんて、それこそ食に対する冒涜だと怒った。ディップ用に小皿にいれてもらうだけだから、と詩に言われてしぶしぶとそれと共に完成した焼き芋をエウリィに出した。
「そのままでも美味しいっすけど、こ、これを付けてみて……ううう、やっぱり言えないっす~!!」
情けない声をうげる狛の視界で威嚇態勢をとるまるごとイヌワシ。
しかし、狛の悩みなど知る様子ももなくエウリィはニコニコ笑っていた。
「自然の恵みと、皆さんが一生懸命に心を込めてくれた合わさっていたら、どんなものでも幸せになれます~」
そしていただきまーす。とエウリィは焼き芋の皿に顔を突っ込んだ。
『あ、やっぱり服が動いてますよ!』
見た目に強烈な食べ方に視線を奪われて気付かなかったが、メイが指摘する通り僅かに服が不自然に動く。すする音と共に別の鼻息や甲高く鳴る声みたいなものも聞こえる。しかし、それが見えたのは一瞬。舌はヒリヒリしている様子だが、エウリィはなんと唐辛子ジャムすら平らげてしまった。
「続いてはあたしと天竜寺さんの合作のジャーマンポテトでーす」
シアーシャが両手を使わなければならないような大皿に載せたジャーマンポテトを運んでくる。それに付け加えるように詩がエウリィに言った。
「気を付けてね。玉ねぎたっぷりだから。知ってる? 犬や猫には玉ねぎは毒なのよ」
その言葉にエウリィははーいと素直に了承したが、どことなく苦笑いが含まれている様子だった。メイは確信して気づかれないようにそっとエウリィの背後に回る。
「それと同時に、実演調理するね。浮き粉、ラード、アンモニアパウダー等を混ぜて作った生地で海老や豚で作った餡を包んで油で揚げた料理で。科学的な変化でね。生地に穴ができてくるの。ジャーマンポテトは少しお預け」
「えええー!!? できたてなのにっ」
不満を上げたのはエウリィではなくてシアーシャだった。詩はそう言いながら自分の料理を手掛け始めた。待て、を食らってジャーマンポテトやら詩の料理やらに目が泳ぐエウリィ。どちらからも香ばしい匂いが立ち込め、傍で見ていたまるごとイヌワシからぐぅ。という可愛い音が聞こえてくるほどだ。通気の悪い着ぐるみは多分この良い香りが充満していることだろう。
そんな匂いにつられて体を乗り出すエウリィの背後から、彼のぶかぶかコートをメイがこっそりつまみ上げた。
すると細いエウリィの体にしがみつく犬猫。合わせて約10匹。食べきったと思われていた狛の焼き芋を咥えているではないか。
「ありゃ?」
寒風が入り込んでくることに気が付いて、ようやくエウリィは自分のコートがつまみ上げるメイの存在に気が付いたようだった。視線が合ったメイはにこりと微笑んでスケッチブックを顔の前に出した。
『犬さん猫さんにお腹いっぱい食べさせたかったんですね。そういう時は素直に言ってくださればみんな喜んで協力してくれると思いますよ?』
いくら誰でも審査ができる料理コンテストとはいえ、犬猫は対象外。いつも野良の犬猫と暮らしているエウリィは何とかして食べさせるために一計を案じたのだった。何もかもすっかりばれてしまったエウリィは恥ずかしそうに笑って頬を掻いた。
『次は私のスイートポテトです。農家さんが何年もかけ、とても苦労して改良を重ねてきたお芋を使っています。あっと言う間に食べたら残念がります』
とあらかじめ用意していた文章をエウリィに見せるとメイはその下に書きくわえた。
『感謝を形にすべく、こっそり食べるんじゃなく、みんなで美味しくいただきませんか?』
「わっわっ。嬉しいです。みんな鳴き声我慢せずに食べられますー。良い人に出会えて本当に幸せです」
エウレカはメイに抱き付いた。その体は細く軽く、ほとんど自分は何も食べていないことがメイは服越しに窺うことができた。エウリィと犬猫にもみくちゃにされながら、メイはミネアにスケッチブックを見せた。
『もうこれで審査を困らせることはないと思います』
ミネアもハンターも、周りにいた観客も。みんなそれを見て、笑顔になった。
●
狛の焼き芋をたらふく食べた後、狛はそんな犬や猫と広場を走り回って遊んでいた。すっかり狛のことが気に入った様子である。
「料理コンテストなわけなので、ここで結果発表を……」
すっかり改心したシャーナはいたく真面目にそう言って講評を始めた。
「やっぱりあの肉じゃが。いや、ミネストローネは格別だったし、一口スプーン御膳も捨てがたい……」
「ワン1号は焼き芋が言ってて、ニャン3号はネギ抜きジャーマンポテトが良かったって。それでー」
えんえんと論評する二人の姿をみて、ミネアは嬉しいような早く決めてほしいような。思わず口元の笑顔が引きつりそうになった。そして最後に。
「ということで結果発表。優勝はっ」
「みんなおいで~」
シャーナと合図にあわせてエウリィは友達の犬猫を呼び寄せると、踊りに使っていた色とりどりに染めた長いケープでシャーナが巻き取った。そして遠心力を使って振り回して天高くジャンプさせた。
「全員優勝! ハンターに幸あれ、メリークリスマス!!!」
紙ふぶきの代わりにお腹いっぱいで幸せな笑顔に満ちた犬と猫が一同を祝福した。
ミネアの言葉に皆、頷いた。
「もいおを粗末になんかさせないっすよ!」
狛(ka2456)の言葉に堂島 龍哉(ka3390)も続く。
「全くだ。食材を粗末にするなど本来ならば海に沈めてやるところだ」
「まあ、下ごしらえも十分にやってきたんだ。何とかしてやるさ。研ちゃんキッチンの主としてな」
藤堂研司(ka0569)はニッコリと笑ってそう言った。そして一同を見渡し……一人に一瞬目が釘づけになるがあえて無視した。
「何か?」
ミリア・コーネリウス(ka1287)はそのぎこちなさに、いたく真面目な声で返答した。ツッコミを許さないその空気に答えたのはメイ=ロザリンド(ka3394)の筆談用スケッチブックだった。
『料理、しにくくないですか?』
「任せてください。包丁さばきは自信があるんです」
堂々と胸を張るまるごと着ぐるみ姿のミリア。その姿と言葉に料理人の誇りを重んじる堂島が呆れた顔をした。
「衛生上問題があるとは思わんのか、このハゲタカ」
「何を言いますか。これはイヌワシです!!」
もこもこの翼を広げポーズを取るミリア。だが論点はそこじゃない。淡い殺意すら芽生える堂島とミリアを他のメンバーが引きはがした後、ミネアは叫んだ。
「と、とりあえずやるぞーーー!!」
殺るぞ? と思った人は少なからずいた。
さて、コンテストはこれから始まる。
●vsシャーナ
「食前酒の代わりとして、特別なお水をお持ちしました」
ミオことミオレスカ(ka3496)はそう言うと、お猪口に満たされた水を差し出した。その恭しい様子から、何があるのかとシャーナは訝しんで水を見つめる。
「何よ、ただの水じゃない」
「これは、この季節だけ、早朝に取れた本当においしいジャガイモを収穫したその場で切った時に、一滴だけ取れる滴を集めたものです。残念ながら、一般人ではわかりませんが、真の美食家にとっては、これが究極の味だと聞いています」
ミオレスカの言葉に、シャーナの目つきが変わった。厳しい食通の眼力が、というより、どう表現しようって真剣に悩む焦りの顔だ。そんな顔でシャーナはその特別な水をくい、と飲み干した。お猪口いっぱいしかないので、そもそも捨てる量もない。
「ま、まあまあ、美味しいわ? その特別な一滴をよくこれだけ集めたものね。でも、この味が分からないと言いながら出してみようって、美味しいって聞いてるけど味わかんないのよね、まー食べてみて? って客にする態度なワケ?」
さすがシャーナ。とりあえず相手を罵倒する口実を見つける目ざとさに溢れているようだ。そのトゲトゲしいセリフにミオはきょとんとした顔をしていた。
「でも美味しいんですよね?」
「いや、そりゃうん。至高の一滴なわけだし。いや、そういう話じゃなくって」
全くイヤミを気にしない純朴なミオの様子にシャーナは攻め口を失って言葉を失う。その間にリリア・ノヴィドール(ka3056)がフライドポテトを盛った皿を差し出した。
「こちらはピースホライズンの有名料理店のシェフ、コラウマ・イーナさんが特別に提供してくれたフライドポテトなの。究極料理の神髄をご覧あれ、なのね」
「ほ、本当にあの有名シェフさんの料理なの? ……謀ってんじゃないでしょうね?」
「本当よ。美食家の名の通りなら、判ると思うのね」
笑顔でのリリアの挑発に、シャーナはむっとした顔をしてフライドポテトを一つつまみ、食べる前にじぃっとそれを見つめた。
「はっ、これが有名シェフの料理? 油が回って食べられたものじゃないわね。どーせ自分で作ったダメ料理を食べてもらうために騙ったんでしょ」
「流石。ちゃんと食通しているのね。さっきの水は気づかなかったから、いけると思ったんだけど」
素直にリリアが称賛すると、シャーナは眼を見開いて、フライドポテトと先ほど飲み干した後のお猪口を見たあと、激怒してそれらを床にひっくり返そうとした。
「な、なによ、またそうやって馬鹿にして! どうせ本当は何もわかってない馬鹿女って思っているんでしょ! 不愉快っ、不愉快だわっ」
「『また』なんだね」
巽・レガレクス(ka3318)はシャーナの手をそっと抑えてそう言った。
「踊り子として成功するのは大変だったと聞いたよ。売れ出した理由は単に金持ちとのコネができたから。自分は何も変わっていない。なのに今まで邪険にしてきた人は突然手の平を返すように踊りをもてはやし出した。人は自分や踊りを見てくれているわけじゃないって気づいたんだよね。その悲しさをどこかで表現したかった」
巽が今日までに聞いてまわり、そして推測から行き着いた結論にシャーナの顔色がさっと変わった。巽の一言で、いったいいくらするんだろうと思うような色とりどりの服も、どことなく浮いているように見えた。
「ごめんなさい。嘘つくようなことをして。でもそうでもしないと、私たちの想いを伝えられないと思ったんです」
ミオは素直に頭を下げてそう言う一方、リリアは少し呆れた顔をしていた。
「だからといって審査員として人にケチつけまくるのはコンテストの意義を間違えているのよ。というか、人として」
その言葉にシャーナは真っ赤になった。
「な、なによ。何よ!! あんた達なんかに何が解るっていうの!!」
「まあ、他人だから完全に理解する、なんてことはできないね。だけど、それなりの努力はさせてもらうよ」
藤堂はそう言うと、準備していたミネストローネをすっと差し出した。ミネストローネ、とは言っても具は煮詰めすぎていて、色は淀んで見える。具はできの悪い切れ端ばかりで見た目には美味しそうにはとてもみえない品だった。
こりゃまたコンテストに出る品とは思えないひどい一品に、周りはざわついた。こんなの絶対にひっくり返されるぞ、と。
「そんな中でもずっと変わらず君を支えてくれた料理があったらしいね。かつて定宿にしていたところの女将さんのまかない料理だ。といっても客に出した後の残り野菜をぶち込んだだけの簡単なスープだけど」
藤堂の言葉にシャーナは驚いて、一同の顔と料理を何度も交互に見た。そんな呆気にとられる彼女を藤堂は、さぁ召し上がれ。と促した。震える手つきでミネストローネを口にしたシャーナはその一口だけで十分だったようだ。涙が溢れてくる。
「萎れた野菜と煮込みすぎたスープの味を調えるって結構難しいもんだね。下手に美味しいものを作るより難しかったね。でもそれを再現するのが研ちゃんキッチンさ」
その言葉にシャーナは何度もうなずいた。心に染み入る一品だったようだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「ふん、その程度で折れてもらったは困る。本当の料理というものを知ってもらわなければならないからな」
真っ赤にした目に何度もハンカチを当てるシャーナに堂島が差し出したのは肉じゃがだった。ジャガイモは煮汁で色が染まっておらず、緑も鮮やか。肉も適度に煮込んで油分を失っていないのがよくわかる。それは誰もが見ただけで完璧、と思える料理であった。
「料理はその時の天候でも煮る時間や火加減も少しずつ変わる。場所や食べるまでの時間、食べる人の状態をも見極めねばならない。それを丁寧に、完璧にこなすのが最高の料理だ」
その言葉に打ち震えながら、シャーナは一口、そのジャガイモを口にした。
「なんて程よい食感! ほどける口どけ感と噛みごたえが両立しているなんて! 味付けも素敵だわ。濃すぎて食材の味を殺すなんてこともせず薄味すぎることもない。……おいしいって、こういうことを言うのね!!」
滂沱の涙をこぼすシャーナは一口と言わず、何度もそれを口にし、ミネストローネと合わせて本当の美味しさ、そして喜びに浸っていた。
「涙流して食べる人って本当にいるんだね」
その光景に巽は驚きは隠せなかったが、とりあえず喜んでくれたのは間違いない。もう彼女は人につらく当たったり、料理を無下にすることはないだろう。
「それじゃ、本格的な料理コンテストといこうか。これからが本番だからね!」
●vsエウリィ
「芋のサラダ! 芋の煮つけ!! 甘露煮!! コロッケ!!!」
ミネアは次々と料理を投入していくが、圧倒的にエウリィの有意だった。
「いっただきます~♪」
一品ごとにちゃんと手を合わせて笑顔でそう言ったかと思うと、器に顔を突っ込んでひどい音ですすりだし、これでもかと盛り付けていた料理の皿はあっという間に真っ新に戻っていた。皿についたソースすら綺麗になくなる始末だ。
「ううう、もう準備した分がないぃぃ」
昨日から準備していた食材があっという間に消化されていき、ミネアは半泣きになっていた。
「食べられるときに食べているんだろうけど、あれは異常だね」
シャーナ向けの料理を作っていた巽もさすがにエウリィの様子には唖然としていた。
「説得する方法、見つけた?」
天竜寺 詩(ka0396)の問いかけに巽は残念そうに首を振った。路上生活者の彼に気を留める者は少なく、今は野良犬猫と戯れているという話程度だった。
「じゃあ、最後の手段に出るしかないね」
詩は見て楽しめる料理を目の前で作って、料理自体に興味を持たせようと考えていたが、多分あのままでは話半分にしか聞いてもらえない。ドワーフ認定美少女料理人は、一度食べ出したらその化学作用で『止められない、止まらない』状態にする禁忌の料理に手を付けるために岩塩をそっと握った。
「でもすっごいよねぇ。あたしより小さいのに、食べる量は何倍もあるんだから。どんな胃してるんだろ」
シアーシャ(ka2507)は以前に習ったリアルブルーの料理であるジャーマンポテトを大量生産すべく、包丁ではなくクレイモアをまな板の上でぶん回しながら呟いた。もう一度、あのおじいさんのように喜んでくれるかも。という勢いで作るのはいいが、今回は指導者がいないので少々作り方がざっくばらんとしている。
「よく食べる人はお腹より背中が膨れるってきいたことあるっすけどね。せめて膨れ具合がわかれば、もう少し頑張ろうとか思えるんすけどねぇ」
狛も焼き芋を作るべく石焼き窯の中で芋をコロコロと転がしつつ、エウリィの様子を見た。しかし、ぶかぶかのボロコートを纏った彼はそのシルエットからは状況が判別しづらい。
「焼き芋の良い匂いがするですね。楽しみ~♪」
狛の視線に気づいたのか、エウリィはぴょんぴょんと飛び跳ねて狛に手を振った。その様子を見てメイが少し首を傾げてスケッチブックにペンを走らせた。メイのスイートポテトは最後に出す予定なので、少々手が空いていたのもあり、エウリィにどう説得しようかと一生懸命に彼の様子から探ろうとしていたのがその僅かな動きの違いに気付いた。言葉に不自由する彼女だからこそ、より感覚が鋭かったためかもしれない。
『今、コートが変な動きしませんでしたか?』
「あ、もしかして」
詩は手にしていた塩を離すと、シアーシャのジャーマンポテトの制作のフォローに入った。不器用に一枚、一枚と切り刻んでいたベーコンをストトトトンっと切り刻むと玉ねぎと共に強火で調理していく。
「えー、低温でじっくり焼く方がおいしいって習ったよ?」
「エウリィさんにはこっちの方が多分いいはず。ミリアさん、アレ、狛さんの焼き芋と一緒に出してくれるかな?」
「任せておいてっ!」
まるごとイヌワシのままミリアは腕で大きなマルを作ってオッケーサインを出すと、バックパックから溶岩を思わせるような赤いジャムを取り出した。
「もいおを食べられないモノにするのは反対っす!!」
「何を言いますか、これはジャムです」
「まるごと唐辛子ジャムなんて劇物っすよ!」
おいも、もとい、もいお愛に溢れる狛にはそんな近づいただけで目が痛くなるような代物をもいおに合わせるなんて、それこそ食に対する冒涜だと怒った。ディップ用に小皿にいれてもらうだけだから、と詩に言われてしぶしぶとそれと共に完成した焼き芋をエウリィに出した。
「そのままでも美味しいっすけど、こ、これを付けてみて……ううう、やっぱり言えないっす~!!」
情けない声をうげる狛の視界で威嚇態勢をとるまるごとイヌワシ。
しかし、狛の悩みなど知る様子ももなくエウリィはニコニコ笑っていた。
「自然の恵みと、皆さんが一生懸命に心を込めてくれた合わさっていたら、どんなものでも幸せになれます~」
そしていただきまーす。とエウリィは焼き芋の皿に顔を突っ込んだ。
『あ、やっぱり服が動いてますよ!』
見た目に強烈な食べ方に視線を奪われて気付かなかったが、メイが指摘する通り僅かに服が不自然に動く。すする音と共に別の鼻息や甲高く鳴る声みたいなものも聞こえる。しかし、それが見えたのは一瞬。舌はヒリヒリしている様子だが、エウリィはなんと唐辛子ジャムすら平らげてしまった。
「続いてはあたしと天竜寺さんの合作のジャーマンポテトでーす」
シアーシャが両手を使わなければならないような大皿に載せたジャーマンポテトを運んでくる。それに付け加えるように詩がエウリィに言った。
「気を付けてね。玉ねぎたっぷりだから。知ってる? 犬や猫には玉ねぎは毒なのよ」
その言葉にエウリィははーいと素直に了承したが、どことなく苦笑いが含まれている様子だった。メイは確信して気づかれないようにそっとエウリィの背後に回る。
「それと同時に、実演調理するね。浮き粉、ラード、アンモニアパウダー等を混ぜて作った生地で海老や豚で作った餡を包んで油で揚げた料理で。科学的な変化でね。生地に穴ができてくるの。ジャーマンポテトは少しお預け」
「えええー!!? できたてなのにっ」
不満を上げたのはエウリィではなくてシアーシャだった。詩はそう言いながら自分の料理を手掛け始めた。待て、を食らってジャーマンポテトやら詩の料理やらに目が泳ぐエウリィ。どちらからも香ばしい匂いが立ち込め、傍で見ていたまるごとイヌワシからぐぅ。という可愛い音が聞こえてくるほどだ。通気の悪い着ぐるみは多分この良い香りが充満していることだろう。
そんな匂いにつられて体を乗り出すエウリィの背後から、彼のぶかぶかコートをメイがこっそりつまみ上げた。
すると細いエウリィの体にしがみつく犬猫。合わせて約10匹。食べきったと思われていた狛の焼き芋を咥えているではないか。
「ありゃ?」
寒風が入り込んでくることに気が付いて、ようやくエウリィは自分のコートがつまみ上げるメイの存在に気が付いたようだった。視線が合ったメイはにこりと微笑んでスケッチブックを顔の前に出した。
『犬さん猫さんにお腹いっぱい食べさせたかったんですね。そういう時は素直に言ってくださればみんな喜んで協力してくれると思いますよ?』
いくら誰でも審査ができる料理コンテストとはいえ、犬猫は対象外。いつも野良の犬猫と暮らしているエウリィは何とかして食べさせるために一計を案じたのだった。何もかもすっかりばれてしまったエウリィは恥ずかしそうに笑って頬を掻いた。
『次は私のスイートポテトです。農家さんが何年もかけ、とても苦労して改良を重ねてきたお芋を使っています。あっと言う間に食べたら残念がります』
とあらかじめ用意していた文章をエウリィに見せるとメイはその下に書きくわえた。
『感謝を形にすべく、こっそり食べるんじゃなく、みんなで美味しくいただきませんか?』
「わっわっ。嬉しいです。みんな鳴き声我慢せずに食べられますー。良い人に出会えて本当に幸せです」
エウレカはメイに抱き付いた。その体は細く軽く、ほとんど自分は何も食べていないことがメイは服越しに窺うことができた。エウリィと犬猫にもみくちゃにされながら、メイはミネアにスケッチブックを見せた。
『もうこれで審査を困らせることはないと思います』
ミネアもハンターも、周りにいた観客も。みんなそれを見て、笑顔になった。
●
狛の焼き芋をたらふく食べた後、狛はそんな犬や猫と広場を走り回って遊んでいた。すっかり狛のことが気に入った様子である。
「料理コンテストなわけなので、ここで結果発表を……」
すっかり改心したシャーナはいたく真面目にそう言って講評を始めた。
「やっぱりあの肉じゃが。いや、ミネストローネは格別だったし、一口スプーン御膳も捨てがたい……」
「ワン1号は焼き芋が言ってて、ニャン3号はネギ抜きジャーマンポテトが良かったって。それでー」
えんえんと論評する二人の姿をみて、ミネアは嬉しいような早く決めてほしいような。思わず口元の笑顔が引きつりそうになった。そして最後に。
「ということで結果発表。優勝はっ」
「みんなおいで~」
シャーナと合図にあわせてエウリィは友達の犬猫を呼び寄せると、踊りに使っていた色とりどりに染めた長いケープでシャーナが巻き取った。そして遠心力を使って振り回して天高くジャンプさせた。
「全員優勝! ハンターに幸あれ、メリークリスマス!!!」
紙ふぶきの代わりにお腹いっぱいで幸せな笑顔に満ちた犬と猫が一同を祝福した。
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【相談卓】芋農家の朝は早い ミオレスカ(ka3496) エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/12/11 23:57:27 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/07 22:55:14 |