• 陶曲

【陶曲】ルモーレの動く城

マスター:深夜真世

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/04/03 22:00
完成日
2018/05/03 02:01

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「残念ながら駐屯陸軍はむしろヴァリオスに増援として向かった状況。こちらに呼び戻すことすら難しい」
「もともと数は少ないしな……相手は大型だから対人の警備組織を動かしても有効な手にはならないし」
 蒸気工業都市「フマーレ」の一角でそんな会話が交わされている。

 先日、郊外の草原に突如として現れた一夜城が堕落者「ルモーレ」率いるチェスピースゴーレムであることがハンターたちの偵察で判明した。現在、敵は自らの持つ超長射程対空砲の射程よりも遠い位置に城を構えているが、少し前に出ればフマーレを攻撃できる状況にある。何より城自体がチェスの駒を模した大型移動兵器でできているので大戦力が集結していることになる。
 その前に、極彩色の街「ヴァリオス」でも歪虚の大規模な侵攻の危機にさらされていた。念のための増援を差し向けたためこちらは手薄になっている。
 結果、官民共同の「一夜城対策本部」が設置されることになった。
 ハンターも雇われ、サーカス団の公演を偽装し大型ユニットなどを運用。偵察用の物見櫓に見せ掛けたユニット待機櫓を多数設置し、一夜城方面に決戦型防衛ラインを形成した。
 この作業と同時に、城とその周辺の偵察も敢行。
 城主が堕落者「ルモーレ」であることが判明した。
 敵の目的はいまだはっきりしないが、フマーレに武力侵攻を加える体制であることは間違いのない事実。ただし、不意打ちすることもなくこともあろうかフマーレにサーカスを見に来たりもした。
 こちらの迎撃態勢が整った半面、うかつに手出しできない状況に陥っている。手出しして戦況が悪化し、こちらに被害が出れば責任の所在が問われるからだ。
 状況は膠着していた。

 対策本部の官民の担当者らの会議は続く。
「ハンターのユニットは待機櫓に隠してあるのか?」
「その辺はもうばっちり。幻獣はサーカステントに控えさせていれば疑われまい」
「しかし、大勢は雇えないんだろう?」
「戦力配備では敵に先手を取られて隠密にこちらも整備したんだ。派手に防御を固める動きを見せると敵の動きを速める可能性がある」
 多くのハンターを動員できない理由である。
「民間からの協力は?」
「どっかの事業所の十三夜(ギボス・ムーン)ってところが開発を進めている【可変魔導トラック「BM‐X」】が陸軍への採用を目指してたんじゃなかったのか?」
「知りませんな」
 企業側の誰かが思い出した言葉を、陸軍関係者が即座に一刀両断した。
 その話題に触れるな、という雰囲気。かなり冷たいところを見ると陸軍側としては乗り気の話ではないようで。
「まあまあ。噂だけだし、完成していたとしてもいきなり実践投入はできんだろ」
 別の企業側の人物がとりなした。
「ああ、そう言えばアマリリス商会ってところから【可変魔導アーマー「ビルドムーバー」】3台の部隊をよこすって話があったな」
 なお、先の【BM‐X】の正式名称は「ビルドムーバーX」。工事用だった可変魔導アーマー「ビルドムーバー」をベースに戦闘特化して再開発したものらしい。変形がよりスムーズになったことから「可変魔導トラック」の扱いになっている。
「それ以外にスポーツ用品の「テラボ」という商人集団からは【テニヌ四天王】とかいう魔導アーマー使いの4人が到着している」
「たった7台か? 先の偵察ではチェスの黒駒のフルセット、16体がいる可能性があるということだったではないか!」
「偵察時と同じく9人のハンターを雇えば彼我の戦力差はあるまい」
「増員、した方がいいんじゃないのか?」
「増員してこれだ。まさか敵の城が動いてそのまま戦力になると誰が予想できる?」
「ハンター側もヴァリオスの戦闘には多数動員していると聴く。これで行くしかない」
 居並ぶ人々はここでため息をついた。
 これ以上、案はないのだ。現地の作業が残っており、急がなければならないという事情もある。
 とにかく、敵の侵攻への備えを進めることになる。


 そして後日の朝、ついに!
「あっ!」
 偽装櫓の物見から双眼鏡を持った偵察員が叫ぶ。
「城が無くなって……」
 朝焼けに染まる草原には、元の城はない。
「あれは……」
 ほかの偵察員も振り返る声を思わず絞り出す。
 そこには、二列横隊で整然と並ぶ十六体の柱が朝日の斜光に長く影を伸ばしていた。
 いや、柱ではない。
 その頭部は丸かったり馬の形だったりしている。
「巨大な……チェスの駒?」
 そう。
 ルモーレのチェスピースゴーレムである。
「て、敵襲ーーーーっ!」
 見張り、思いっきり非常用の鐘を鳴らすのだった。

 フラ・キャンディ(kz0121)とともに出撃する人、求ム。

リプレイ本文


 黒いチェスの駒はそれぞれ変形し人型や馬型に変形しゆるゆると進軍していた。
「カカカッ。サーカスが幻獣戦力の偽装集積所ってのは分かってんだ。とっとと出てきやがれよ。このキングの対空槍砲で片っ端から撃ち落としてやらぁ」
 敵軍最後方に控えるパルテノン神殿のような歩行要塞、キングの二階部分で遠くフマーレを眺める堕落者、ルモーレが楽しそうに口の端を歪めている。
「せっかく俺様自慢の可変戦力を見せてやったんだ。驚き慌ててとっとと出てきやがれってんだ」
 ルモーレ、生前に率いていた盗賊団「ラパーチェ・ラーロ」の時からそうであるが、世の中をあっと言わせることが大好きである。
 わざわざ城を構えてじっくり待ってから攻めている理由である。
 ところが、そんな彼が驚いた。
「ん……何だ?」
 フマーレでの変化を見て感心した。嬉しそうだ。
「そういうことかッ! てっきり仕掛けはサーカスだけかと思ったがやるじゃねえかよ、あいつら!」

 時は若干遡り、フマーレにて。
「なあおい、まだか。こっちゃ真っ暗でなにも見えねぇんだ」
 淡い光のみの暗闇の中、シートに収まるトリプルJ(ka6653)が誰にいうでもなく不満の声を上げる。
 そこにグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)からの連絡。
「仕方ないだろ。何せ連結偽装櫓の中だ」
 そう。
 Jは自機、コンフェッサー(ka6653unit005)のコクピットに収まり布で隠された櫓の中に待機している。グリムバルドは同じく魔導アーマーヘイムダル「ヴェルガンド」(ka4409unit001)の中である。
「二人一緒でいいのう、ワシなぞ一人で話し相手もおらんのじゃ」
 ディヤー・A・バトロス(ka5743)の連絡も入る。
 なおディヤー、R7エクスシア「ジャウハラ」(ka5743unit001)に乗って連結してない櫓の中に一人隠れている。
「こん中で二人で話しながら茶を飲んでるわけじゃねぇがな!」
「……連絡して話せばいいだろうに」
 陽気なJと唇を尖らせるグリムバルドの反応である。
「まだですよぅ。サーカステントに待機してる人の準備もありますのでぇ」
 「まだか」の理由についてはダインスレイブ(ka4679unit003)のコクピットに収まっている弓月・小太(ka4679)の通信の通りである。
「一応私が敵の様子を見てタイミング計ってるんだけどねぇ」
 ぽそりと通信して来たキーリ(ka4642)のユニットは、刻令ゴーレム「Volcanius」の「ラムルタフル」(ka4642unit002)。搭乗する必要がないのでユニットを隠した上の櫓で敵を観察していた。
「フラさん、わたしがとっちゃってごめんなさいねぇ」
 そこにメルクーア(ka4005)からの通信。うふふふ、と含み笑いはフラ・キャンディ(kz0121)の恋人である小太に向けて。
「そ、そんなことはぁ……」
「魔導アーマー「プラヴァー」は小さな連結櫓でいいからねぇ。あー、やっぱ一人で入ってるのと違って楽しいわ~。ねー、フラさん」
 小太のおろおろした反応にさらにうふふなメルクーア。完全に弄りモードに入っている。
「な、なんじゃと? 二人できゃっきゃうふふしておるじゃと!」
 これにディヤーが過剰に反応。なおメルクーア、すでに自機のプラヴァー「ギムレット」(ka4005unit002)に収まっているのでそんなわけはない。
「それより敵はどうなんだ?」
「んー…魔術師相手に密集した陣形組むなんて危険よね。それを知らないルモーレじゃないでしょうに、随分余裕じゃない」
 なんだかんだ楽しそうなディヤーそっちのけで聞いたグリムバルドにキーリの独り言交じりの連絡。
「ま、チェスを気取ってんなら仕方ねぇんじゃねぇか?」
「ルモーレ、キングとかに乗って現れるのでしょうかねぇ。出来れば此処で決着付けたい所ですがぁ」
 これを聞いたJと小太の呟き。
 そこに、フラからの通信。
「遅くなってゴメン。サーカスの方も準備良しだって! 後はキーリさんの合図待ちだよ!」
 どうやらギムレットの横に配置したプラヴァー「ロリポップ」に搭乗したようで。
「良いわ、そんなにチェスが好きなら付き合ってあげるわよ……全軍、出撃!」
 ――ばさっ、ばさー!
 キーリの号令とともに、偽装櫓の周囲を覆っていたサーカス告知の描かれた布が一斉外された。
 グリムのヴェルガンドが、小太のダインスレイブが、ディヤーのジャウハラが姿を現す。
「ラムルタフル、景気付けに炸裂弾よ、炸裂弾!」
 キーリは櫓から下りつつ中から姿を現したラムルタフルに指示を出す。
 間髪入れずどーんと24ポンドゴーレム砲が火を噴いた。放物線を描いて敵の進撃する前に炸裂。まず射程内に入る前に牽制した。というか、ご挨拶であろう。
「さー、距離詰めるわよ~」
「うんっ。ボクも負けないよ!」
 メルクーアのギムレットとフラのロリポップのプラヴァー2機は足のローラーを唸らせダッシュで敵へと急ぐ。
「行っくぜ、コンフェッサー!」
 Jも吶喊だ。
 フマーレの戦いの火ぶたが切って落とされた。



 これを見たルモーレ。
「機械兵器を隠した決戦都市ってか? カッコいいじゃねぇか!」
 フマーレの物見櫓から出て来たユニットの軍団にすっかり感心していた。
「それにしてもこないだの空飛ぶ奴らが来ねぇじゃねぇか……まあいい、潜伏部隊には関係ないだろ。敵の動きを合図にうまくやれよ」
 おっと、何かつぶやいた。
 それが何を意味しているかは後の話となる。

 この時、戦況。
――どうん、どうん……。
「とにかく前進しながら砲撃。射程の内側に潜り込まれるまで炸裂弾と火炎弾よ! できるだけ当て……」
 キーリがラムルタフルに指示して赤いマントを派手になびかせながら走り……あ、何か少し考えたぞ?
「……とにかく目立てばいいわ。当たらなくてもいいから派手に撃つこと」
 多すぎる指示はどうせ実行できないと判断。派手で単調な攻撃なら味方も避けやすいとの判断のある。
「街は近いし、格好良く勝てば宣伝せずとも有名人よ。私たち」
 訂正。
 キーリ、にやり。中央の空間を潰す作戦だ。
 もちろん敵も味方もこの砲撃を避けて戦闘することになるのだが。

 もちろん、大型ユニットも走っている。
「おっと、こんなとこまで敵の攻撃が届くのか?」
 Jのコンフェッサー、頭上から降り掛かる槍に一瞬止まる。
 敵陣後方からキングの対空砲が放物線を描きここまで到達しているのだ。
 この時、ビルドムーバー隊に動きがあった。

「左だ、左に回せ!」
「何でだ、キアン」
「純粋に対面する敵の面積に対してこちらの戦力面積と火力が違うというところでしょう」
 ビルドムーバー隊の元盗賊・キアンと一般人だったモータル、そして石工の立場で城塞防衛の心得のあるメイスンの通信が激しく飛び交う。
「右手に射撃武器があるなら体が開いて精度が落ちる!」
 とにかく機動力を生かして左翼に開いた。
 これを見た魔導アーマーのタケゾー。
「あいつら、勝手なことお~」
 これを援護すべくタケゾーらテニヌ四天王アーマー小隊が釣られて左に動く。

 ちょうど長射程のキーリの砲撃とキングの対空砲が放物線を描いている時だ。これらの射線は左翼への動きに釣られない。代わりに敵右翼が右に開く。
 一方、機動力を生かして一直線に射線の下をくぐり敵左翼に急ぐ者もいる。
「まずは敵左翼の足を止めて左右の連携を乱すわよ~!」
 ぎゃーん、とローラー全開でメルクーアのギムレットが右手へと急ぐ。
「ねえ、メルクーアさん。キーリさん、有名になりたいんだって!」
 ローラー全開のロリポップで続くフラが通信を気にしながらそんなことを。
「んじゃ、派手に行きましょうかねぇ」
 にやっと笑みを浮かべたメルクーア、ミサイルランチャーを構えるとあいさつ代わりに撃ち込み爆発させる。
 これで敵左翼、隊列全体の右への動きについて行けず間が空くことになる。



 この動きに後方の小太が連動した。
「ええと、まずは出来る限り数を減らしますよぉ。徹甲榴弾装填…連続発射なのですぅ!」
 ダインスレイブの両肩部大口径滑腔砲二門が火を噴く。どうん、どうんと反動に耐えると手にしたロングレンジライフル「ルギートゥスD5」を構えて射撃しながら左に流れる。敵左翼に突っ込む二人を援護。命中しない距離からでも派手に撃っているのは……。
「ゆ、有名になるんでしたよねぇ。街を守って」

「ほう、有名になるとな!」
 きゅぴーん、と反応したのはディヤー。
「ならばこれしか無かろうのぅ」
 前進中のジャウハラが一瞬止まる。
 次の瞬間、マントが広がりアクティブスラスターオン。白磁と金で装飾されたような色合いの機体が空へ飛翔する。
「フーファイターのマニューバを見るのじゃ~っ!」
 浮いた直後に気付いて狙ってくる槍の雨をひらっとかわすが射線はしつこい。マテリアルバリアも展開しこれを防ぐ。
 その下、地上では。
「……チェスかぁ。俺、1度も勝ったことが無ぇな。戦術とかよく分からん」
 グリムバルドのヴェルガンドが最前線へ急いでいる。
「とにかく撃ちまくっときゃいいんじゃねぇか? 有名になるんならよぉ」
 隣をコンフェッサーで走るJが吠える。
「そう言う割に乗機はソレか?」
「いやほら格闘が出来る新型なんだぜ? やっぱ乗るだろ?」
 そんな会話の内に、敵中央ちょい右翼寄りの敵に接近するッ!
「ま、いい。まずは目の前のポーンから粉砕するぜ」
 グリムのヴェルガンド、右手のアーマードリル「轟旋」を武骨に構える。ぎゅいぃん、と回転するが敵は遠いぞ?
「スキルトレース!」
 その先から機導砲、どーん!
「いよっしゃあ!」
 ここでJのコンフェッサーが前に出る。振り上げた超々重斧「グランド・クラッシャー・マキシマム」が黒光りして振り下ろされ……。
 おっと、機導砲を食らったポーンの横にいた別のポーンが斜行してきた。
 ――どかっ!
「おわっ!」
 横合いから石の長剣で振り上げた武器を弾かれた。態勢崩れるコンフェ。
「縦一列になったんなら話は早いな……」
「危ない、ビショップが狙っておるのじゃ!」
 ポーンの立て並びを好機と見てドリル突撃しようとしたグリムだが、斜め前方から双剣で回転しつつビショップが乱入して来た。ガガガッと連撃を食らうが上空のジャウハラがMライフル「イースクラW」の非実態弾をばらまきながらガシンと着地。
「敵も連動しておるの」
 ディヤー、これで対応できたと思った瞬間だった!
 ――ぴかっ、バリバリッ!
「な、何だぁ?」
「雷雲……か?」
「こんなのもおったのか?」
 J、グリム、ディヤーが食らって叫びをあげた。
 さらにポーンが来ているぞ!
「これを待ってた!」
 ここで巨大な影が後方から飛び出してきた。
 しなやかな体躯はイェジドだ。
「シグレ、地上を駆け回るよ」
 霧雨 悠月(ka4130)である。フマーレの中のサーカステントからのスタートからただいま到着。騎乗のイェジド「シグレ」(ka4130unit001)とともに前衛の影から飛び出し三体目のポーンに襲い掛かった!
 ――ぴかっ、バリッ!
 そこへクイーンの四つ目の雷雲が。くっ、と耐える悠月。
「この時を待っておりました……」
 さらに友軍三列目!
 後方から一気に前の四人を追い抜いてリーリー「瑞那月」(ka6167unit001)が上がって来たぞッ!
「さあ、瑞那月! 再戦の時です!」
 次元斬で最初のポーンを追撃しつつ叫んだのは、瑞那月騎乗の多由羅(ka6167)。
 嬉しそうだ。
 楽しそうだッ!
 ぬうっと斬魔刀「祢々切丸」を構え直す。金色の瞳が鋭く前を睨む。リーリーの二足疾走に長い髪が揺れる。
 ここで悠月!
「もう好きにはさせないよ! ……くじけそうになった時、響く歌声・満ちる闘志、戦友たちの闘志が満ちる♪」
 歌った。
 腹の底からの歌声は戦いの中にあっても凛と響く。悠月を乗せたシグレの方は次元斬が止めとなったポーンの核に殺到し爪を立てる。
「ラッシュなら負けねぇぜ!」
 こちら、立ち上がったJのコンフェッサー。超々重斧にマテリアルフィストを纏わせワイルドラッシュで二刀流ビショップと連撃勝負!
 ――ガキン、ガキン……。
 手数のビショップにあの重い斧がしっかり対応。というか今のは敵の攻撃をわざと被害最少で食らったぞ?
 何かやる気だ!
「こんなこともできるんだぜ?」
 ばすん、とバルーンでデコイを造る。
 これに釣られた敵の背後に回り込んで刃をめり込ませた。
 そしてグリム。
「砕く勝負なら負けないさ。……そして、来ると思った!」
 こちらはダメージ上等の力勝負。ドリルでポーンの身体を砕く。次は核を、というところで馬型ナイトの乱入!
 ――がしっ!
 盾でしっかり反応。さらにマテリアルドリルを高々と天に掲げた。
「食らうといい、スペルランチャー『天華』を」
 上空に打ち上げ無数の火炎の矢を降り注がせる。これには高速移動のナイトもかわすどころかむしろ自分から多く当たっていく形に。
「よしっ!」
 すぐに距離を詰めてアーマードリル。ヒヒンと暴れて体が砕ける。姿を現すコア。ただ、次の手は?
 急がないとナイトは逃げるぞッ!
「奥の手はちゃんと用意してるさ!」
 盾が……マテリアル光でドリルとなった!
 これでナイトの核を潰すことに成功する。
 もう一人、ディヤー。
「ええい、コアを潰すのじゃ!」
 ディヤーは連携して戦うポーンをひとまとめにファイアーボール。その後に次々と核を潰すという細かい作業に専念する。

 でもって、クイーン。
「お前の攻撃はわかっています!」
 多由羅、雷撃を食らいつつもものすごい迫力でクイーンに詰めた。
 ――がき……ん。
「……久しいですね、覚えていますか私の事を?」
 斬魔刀はクイーンのトーチに止められたが合わせた刃でぐいぐい押しつつ睨みにやり。
「このクイーンはあのクイーンとは別物。ええ、それはわかっています」
 払う敵の動きに合わせ離れた。
 とにかく雷撃を食らうのを覚悟の上で接近したことでさらなる雷撃を封じに成功していた。これで味方が戦いやすくなる。
 いや。クイーン、雷撃で再び多由羅を狙った!
「それでもこうして対峙すればその言葉を口にせずにはいられません!」
 瑞那月、ダッシュ。一気に踏み込み再び斬撃を見舞う。もちろん雷撃は食っているが。
「まずは一つ……」
 突撃をいなされた多由羅だが、振り返る顔は充実していた。
 流れる黒い前髪。その奥の金の瞳。
 狙い通り、クイーンのペンダントの宝玉は砕けていた。これで雷雲一つが消えた。
「あと三つ!」
 再び振りかぶり踏み込む多由羅。次はティアラか右手のトーチか、左の本か。
 もちろん雷撃を受ける覚悟があるッ!

 場面は再び敵左翼。
「メルさん、ありがとっ!」
「ポーンは予想通り横一列で戦線を押し上げて来たけど、これならね。って、ついにその呼び名で呼ばれたか~」
 ぎゃん、とメルクーアの作り出したスペルウォールを右に回り込むフラ。ポーンの左腕からの射撃を回避する必要があったのだ。
「左を狙いますから右に回ってくださいよぉ」
 後方からは小太がライフルでフラとは反対側にいるポーンを狙撃する。ウォール自体は横に長いわけではないが正面からの射撃の疎外と敵の分断にとても効果的だった。
「核があるからそういうわけにはいかないかもねぇ」
 メル、魔導銃で小太の狙撃で倒れた敵から出たコアを撃ち抜く。
 そこへフラからの通信。
「小太さん、撃ち方止めて。すぐにそっちからボクが出るから、追ってきた敵をお願い!」
「り、了解ですよぉ、フラさん」
 すぐにウォールの背後を回ってフラがギャーンと出て来た。ポーンも追って出てくる。
「フラさん、ストーカー被害ですぅ」
「……射撃制度が上がってそうねぇ」
 小太、メルクーアの連携射撃でこれを撃破。
 その瞬間だった。
 ――がががっ、がしん!
 突然、フラと二人を分断する城壁が伸びて来たのである。その上から泥人形兵士の弓や攻撃。
「ルーク!」
「あ、キングの場所は?」
 フラの叫びに、キャスリングがあったら不味いとキングの位置を確認するメル。
 ちょうど、ここが戦いの分岐点となった!



 その頃、最後方。
「これってどういうこと?」
 ラムルタフルを自動射撃にしたキーリは戦場を単独で駆けあがっていた。冷静に全体を見ることのできる唯一の存在ともいえた。
 そのキーリ、左右に分かれた敵の隊列の奥からキングが一定の速度で単調な射撃をしながら上がっていることを確認した。
「まるで私のラムルタフルみたいじゃない……あっ!」
 この時、後方から何か魔導車両がものすごい勢いでキーリのすぐ横を駆け抜けた。

 この少し前、フマーレの一角にある十三夜(ギボス・ムーン)工房。
「誰だ……うわっ!」
 マントで身を包んだ誰かが手にした刃で作業員を次々と斬り付けたのだ。
「あっ! それは【可変魔導トラック「BM‐X」】……」
 ――ばたん。どががががっ!
「うわあああっ!」
 試運転前のBM‐Xに乗り込むとためらいもなく備え付けの機銃を乱射した。
「ど、どうした……うわっ!」
 技術長であるガリア、様子を見に来たことで襲撃に巻き込まれて、死んだ。
 ――ききっ、ブロロン……。
 同盟陸軍に売り込み予定だった可変車両「BM‐X」、フマーレの反対側の戦乱に紛れて盗み出されることになる。

 場面戻って、キーリ。
 もちろん、キーリはBM‐Xを知らない。
 ここでは見送るのみだ。
「なによあれ……フマーレの街からの援軍?」
 スタイリッシュなスポーツカーを見送るキーリ。
 それは敵にも味方にも顧みられることはなく左右に割れつつあった戦場の真ん中を悠々と……キングのいる最奥まで走っていったのだ!
 直後、敵右翼側にいたルークが変形してスポーツカーの去っていった中央を閉ざした。
 まるで、自陣へと引き入れたようにッ!
「……まるで敵みたいじゃない」
 ――がしん……。
 その横にスラスタージャンプしたジャウハラが着地した。
「キーリ殿。見てくるので例の、頼むのじゃ」
「分かった……ジャウハラちゃん、飛びなさい!」
 キーリ、差し出された魔銃「ダウロキヤ」にマジックフライト。浮いたところでスラスター全開にするディヤー。
「80秒じゃな?」
「そう。胸が躍るわね」
 どん、と加速するジャウハラ。キングの射線に地上からのポーンのハンドガンもフーファイターのマニューバで回避する。やがてルークの壁を越えつつファイヤーボールを落としたところで……。
「発見。……プロモーションじゃー!」
 鈍重なパルテノン神殿風のキングに銃槍ぶち込み着地する。思いは一つ、有名に……いやいや、街を守るために!

 が、ディヤーはキングで手いっぱい。
 BM‐Xは……。
「カカカッ。手に入ったか! お前はこれから俺のもんだ。マイナスマテリアルに染まるといい」
 何と、キングの付近に潜伏していたルモーレが乗り込んだ。ばらっ、と小石が扉から捨てられると車両全体がマイナスマテリアルに包まれた。部下を解体したマイナスマテリアルも利用し、動力・操作系を自分の系列に組み代えたのだ。
「よし、それじゃお手並み拝見と行くか!」
 ――ブロン、キキキッ!
 ターンして戦うキングを尻目に最前線へと走らせる。

 この時、ルークの壁の外。
「シグレ。あれ、越えられる?」
 悠月が一連の動きに気付いて反応していたッ!
 イェジドのシグレは少し頷くように身を低くした。速度に乗ってルークの城壁に向かっている。いま、ディヤーのファイアーボールが炸裂。城壁上の泥人形が吹っ飛んだところだ。
「よし、一緒に行こう!」
 主人の声にひと吠えしたシグレ、ジャンプして前肢で城壁上辺に取りつく。勢いで矢を射ていた泥人形どもがたたらを踏む。そこへシグレの背中から飛び移った悠月がひらりと着地。片膝を付く。
 そしてきっ、と見据える赤い瞳。口の端から覗く犬歯。
 刹那、斬魔刀「祢々切丸」を構えて突進した。右に左に薙ぎつつ突進し振り向きざまコアも潰す。
「果たしてあの王様は歌は好むのか、な?」
 城壁奥を見据えるとルモーレが車に乗り込んでいた。
 この時、背後でシグレが前肢だけで取り付いていた状態から後肢をけっけっとかしつつようやく城壁テラスに登頂完了。
 で、ぶろんとルモーレが発進。
「行こう、シグレ」
 再び背に乗って城壁を下りる。
 その後、ルークの城壁は。
「わりぃわりぃ。ちぃと視野が狭まってた」
「すまんね。適任だと思ったんで」
 謝るJに誘ったグリム。何をするかというと……。
 ――ドリドリッ、ドゴッ!
 ヴェルガンドのドリルでルークを攻撃し、崩れた城壁から出て来た核をコンフェッサーが斧でつぶしたのだ。

 もう一つの城壁。
「うー、ルークはやはり邪魔ですねぇ。コアの位置、変わってなければいいのですけどぉ…! 貫通徹甲弾、使って見るのですよぉ」
「ちょっと待って。ルモーレが来たわよ!」
 どごぉん、と砲撃が命中しフラがコアを潰したのと同時に、ここでの戦闘が上の空になっていたメルクーアから声が飛んだ。
「わ、何か車が……え? 変形した?」
 フラの言う通り、猛スピードで突っ込んで来た車がその速度を生かしてジャンプするようにして一瞬で変形した。どどど、と手にしたライフルから砲撃。フラの機体の膝ががくんと砕けた。
「フラさん?!」
「そっち行ったわよ!」
 フラを援護したメルの射撃で車は再変形。方向転換して小太の方に向かった。
「ルモーレ、これ以上は放置しておくわけにはいかないのですよぉ」
 小太は奥の手のガトリングに換装。弾をばらまくとルモーレの車はきききと方向転換して逃げた。

 再び場面は中央やや左寄り。
「残った泥人形は転落展覧会(ハンプティ・ダンプティ)でひれ伏しなさい。……特別に持ってきたんだからね!」
 キーリが城壁からの生き残り泥弓兵に重力波。逃げ散るところを止めた。
「仕方ない」
「ま、ライフルもあるけどよ」
 そこへグリムの機導砲とJのプラズマライフル斉射。
 いや、何か突っ込んで来たぞ!
「ひゃっ、はー! カカカッ、楽しいねぇ!」
 ぶろん、とルモーレの車が横切った。勢いのまま変形して敵味方関係なく銃を乱射し再び一瞬で変形すると戦場を横切る。
「ちっきしょう!」
「無事か?」
「あんたら狙ったんで助かったわ」
 Jの歯ぎしりにキーリを気遣うグリムの声。

 こちら、多由羅。
「どうしました? 先日の強さはないですね……よもや、こちらが劣化版とは言いませんよ……ねっ!」
 クイーンの雷雲をコントロールする四つの宝玉を潰した後、対峙している。
 もはや敵に武器はトーチのみ。
 多由羅もボロボロであるが闘志、衰えず。
「いざ!」
 最後の激突。
 瞬間。
「ひゃっはー!」
 ドドド、と銃乱射しながらルモーレの車が乱入。
 クイーンを切った多由羅は避けられず瑞那月ごと体当たりで吹っ飛ばされる。

「楽しいねぇ……ん?」
「追い付いた」
 気分よく走るルモーレの横に、悠月が追い付いた。
「ね、ルモーレ。先日は視察のつもりだったのかい?」
「バカいえ。サーカスだぞ? 楽しまなくてどうする!」
 運転席から答えるルモーレ。
「御来訪いただきどうもありがとう、楽しんでいただけたよう……でっ!」
 悠月、シグレとともに車の上に乗った。取り押さえるつもりだ。
「くそっ。変形だ!」
 ルモーレ、変形でこれを振りほどいた。で振り向きざま銃を撃つ。
「……今日のところは負けとくぜ。新しいおもちゃが手に入ったからなーっ!」
 それだけ言い残し、一直線に戦場を後にした。
 戦場では、ディヤーがキングを倒し大勢を決していた。



 こうしてフマーレは守られた。
 フラは無事。出撃した偽装櫓付近に帰投し、集まっている。
 テニヌ四天王のアーマー小隊はビルドムーバー隊を守ったが、操縦者四人の性格もありナイトやビショップとほぼ相打ち状態。手柄だと喜んでいるのでむしろ良いのだろう。
「まあ、こっちも手柄で有名だけど……」
「釈然としないよね」
 ご機嫌斜めのキーリに取り逃がしたルモーレを惜しむ悠月。
「予想できなかった戦力だしな」
「チェスの次は変形自動車ね……」
 やれやれなグリムにため息のメルクーア。
「フラさんが無事でよかったですよぉ」
「遠くで小太さんが守ってくれてたからあれだけで済んだんだよ、きっと」
 小太はフラの身体を心配中。
「新たに因縁をつけられてしまいしたかね……ふふふ」
「そういえば一人足りんようじゃが?」
 多由羅は武者震い中。ディヤーはきょろきょろ。
 J、どこ行った?
「やっべ、思ったより良い機体だぜコンフェッサー……こりゃ本気で操縦士目指すしかないかぁ?」
 戦闘後のチェックでコクピット内に収まっていたJ、戦いの余韻に浸るのだった。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 7
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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • Pクレープ店員
    メルクーア(ka4005
    ドワーフ|10才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ギムレット
    ギムレット(ka4005unit002
    ユニット|魔導アーマー
  • 感謝のうた
    霧雨 悠月(ka4130
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    シグレ
    シグレ(ka4130unit001
    ユニット|幻獣
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヴェルガンド
    ヴェルガンド(ka4409unit001
    ユニット|魔導アーマー
  • メテオクイーン
    キーリ(ka4642
    エルフ|13才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ラムルタフル
    ラムルタフル(ka4642unit002
    ユニット|ゴーレム
  • 百年目の運命の人
    弓月・小太(ka4679
    人間(紅)|10才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ダインスレイブ
    ダインスレイブ(ka4679unit003
    ユニット|CAM
  • 鉄壁の機兵操者
    ディヤー・A・バトロス(ka5743
    人間(紅)|11才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ジャウハラ
    ジャウハラ(ka5743unit001
    ユニット|CAM
  • 秘剣──瞬──
    多由羅(ka6167
    鬼|21才|女性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    ミナヅキ
    瑞那月(ka6167unit001
    ユニット|幻獣
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    コンフェッサー
    コンフェッサー(ka6653unit005
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
メルクーア(ka4005
ドワーフ|10才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/04/01 00:33:33
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/03/31 20:36:20
アイコン 灰雲!ふまれ城(相談卓)
多由羅(ka6167
鬼|21才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2018/04/03 21:54:45