ゲスト
(ka0000)
【羽冠】根骸の扉が開く時
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/06 07:30
- 完成日
- 2018/04/16 03:40
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●???
その男は王国南東部の小さい所領を持つ貴族だった。
貴族同士の政争はこの国では珍しいものではない。
そして、争いである以上、勝者と敗者はいる訳で……。
「……100年余続いた家系は私の代で終わりか」
領地経営が上手く進まない中、隣接する幾つかの貴族と領地を巡る境界争いとなった。
紆余曲折の末、彼の所領は大きく削られる事となった。
もはや、残った集落だけでは維持できない――そうなると、残された道は他貴族との併合だ。
「歪虚との戦いよりも、まさか、人間同士の争いに負けるとは……」
この後、自身がどうなるか想像したくはなかった。下手をすれば貴族の地位はなくなる。
あるいは、年若くして引退を迫られ、憐れみを向けられながら、目立たないように生きていくか。
「……そんな人生に何の意味があるというのだ」
これならイスルダ島で戦死した方が、まだ、マシだっただろうか。
隣の貴族領に向かう足取りが重い。
「いっその事、全てなくなってしまえばいいのに……」
そう呟いた時だった。
どこからともなく声が響いた。
「その願い、叶えてあげられるよぉ♪」
少女の声だった。
男は周囲を見渡すが、どこにも少女は居なかった。鳥や虫の鳴き声すら静まり、街道は不気味な静けさに包まれる。
「だ、誰だ!?」
「貴様の願いを叶える者だ。言ったではないか。『全て無くなってしまえばいいのに』と」
街道脇から歪虚が姿を現した。
直立している甲虫の歪虚だった。背には少女が乗っていた。
「う、うわぁぁぁ! ば、化け物ぉぉぉ!」
あまりの恐ろしさに腰を抜かす男。
「怖がる事はない。我らは貴様の願いを叶える為に現れたのだからな」
「そうそう、ミュールはね、こう見えて、優しい“人”なんだよぉ~」
そして、歪虚は告げた。
男の願いを叶える手段を。
●根骸の扉が開く
豪華な装飾で彩られた大きなホール。
王国南東部のある中貴族が催したものだ。この祝いの席は表向きは主催者とその傘下の貴族達の団結を願うものではあるが、実質的には所領が増えた事の祝いの席であった。
「我らが後ろで繋がっていたとは知らず、愚かな男でした」
「いや、全くその通りだ。証拠とした古地図も、巧妙に作らせた偽物だったのにな」
「馬鹿では貴族はやってられませんから」
嘲る笑い声が響いた。
今日は酒が美味しい。貴族達はワインを掲げ、幾度となく乾杯をとる。
「あの男の残された村や集落はどうしますかね」
「さぁな。どの道、長くはないだろう」
没落貴族となって野に下るだけだ。
そして、それは決して珍しい事ではない。政争とは、そういうものだ。
「私の所に来られても困りますな。男一人といっても無駄に養うぐらいなら、愛人を増やしたい」
「これは、誰が面倒を見るかという事で、また争いが起きそうですな!」
再び、笑い声が響いた。
その時だった。慌てた様子で一人の執事が主催者の耳元で告げる。
「旦那様、大変です。例の弱小貴族が乗り込んできました」
「なんと! ……まぁ、慌てるな。何をするか興味があるからな。そのままにしておけ」
その命令が実行されるまでもなく、領地を奪われた男がホールへと入ってきた。
肩には何か立札のようなものを持っていた。
「これはこれは、ようこそ、私の祝いの席に。本日は如何なる要件ですか?」
余裕の表情で両手を広げる主催者。
弱小貴族の男は虚ろな目で周囲を見渡した。誰からも憐れみの視線を感じる。
「……全て、全て、無くなってしまえばいい! お前らも!」
唐突に叫ぶと、男は肩に担いでいた立札を床に突き立てた――。
●あるオフィスにて
「血相変えて、どうしたのですか?」
紡伎 希(kz0174)が慌てた様子で部屋に入ってきた先輩でもある受付嬢に尋ねた。
全力で走ってきたのだろうか、肩を激しく上下させている。
「ったく、あの馬車、途中で車輪が外れたりするから……って、そうじゃなくて、ノゾミちゃん! コレ!」
ドンっとテーブルの上に置かれた資料。
それらは依頼に関するものだった。
「緊急の依頼ですか」
「たまたま、私の所に回ってきたのだけど、ちょっと、確認してみて」
先輩にそう言われれば従うしかない。
希は資料を手にした。
「……場所は王国南東部。ある貴族の館……」
祝いの席で突如として歪虚が出現したという。
乱入してきた男が『これが私の願いだ!』と叫んだ直後に数体の歪虚が現れ、居合わせた大勢の人々が無残に殺されたのだ。
貴族の親族がなんとか、館から脱出。緊急の依頼を出してきた。
「これは酷い状態ですね。生存者が残っているか分かりませんが、すぐにハンターを呼びましょう」
「そうなんだけど、違うの、ノゾミちゃん」
先輩の言葉に思わず首を傾げる希。
「どういう事でしょうか?」
「……似ていると思わない? 緑髪の少女の事件に」
先輩受付嬢は、希の“正体”を知る数少ない人物だ。
それ故に、今回の緊急依頼。まさかとは思って希に会いにきたのだろう。
“緑髪の少女”は王国各地で雑魔に絡んだ事件を引き起こしていた事件となっている。その事件には共通点があった。それは、『絶望した人の願いを死を持って叶えさせる』という事だ。
結局、少女は捕らえられ、王都への移送中に、夜盗か歪虚によって惨殺され、事件は終結したとされていたが……。
「……私、行ってきます。何か、分かるかもしれませんし」
「既にハンターも数名呼んでいるから、現地で合流してね」
「ありがとうございます」
希は胸元で手を合わせた。
これは、自分が犯した罪の償いなのか、それとも、報いなのか。あるいは、もっと別の何かなのか――。
その男は王国南東部の小さい所領を持つ貴族だった。
貴族同士の政争はこの国では珍しいものではない。
そして、争いである以上、勝者と敗者はいる訳で……。
「……100年余続いた家系は私の代で終わりか」
領地経営が上手く進まない中、隣接する幾つかの貴族と領地を巡る境界争いとなった。
紆余曲折の末、彼の所領は大きく削られる事となった。
もはや、残った集落だけでは維持できない――そうなると、残された道は他貴族との併合だ。
「歪虚との戦いよりも、まさか、人間同士の争いに負けるとは……」
この後、自身がどうなるか想像したくはなかった。下手をすれば貴族の地位はなくなる。
あるいは、年若くして引退を迫られ、憐れみを向けられながら、目立たないように生きていくか。
「……そんな人生に何の意味があるというのだ」
これならイスルダ島で戦死した方が、まだ、マシだっただろうか。
隣の貴族領に向かう足取りが重い。
「いっその事、全てなくなってしまえばいいのに……」
そう呟いた時だった。
どこからともなく声が響いた。
「その願い、叶えてあげられるよぉ♪」
少女の声だった。
男は周囲を見渡すが、どこにも少女は居なかった。鳥や虫の鳴き声すら静まり、街道は不気味な静けさに包まれる。
「だ、誰だ!?」
「貴様の願いを叶える者だ。言ったではないか。『全て無くなってしまえばいいのに』と」
街道脇から歪虚が姿を現した。
直立している甲虫の歪虚だった。背には少女が乗っていた。
「う、うわぁぁぁ! ば、化け物ぉぉぉ!」
あまりの恐ろしさに腰を抜かす男。
「怖がる事はない。我らは貴様の願いを叶える為に現れたのだからな」
「そうそう、ミュールはね、こう見えて、優しい“人”なんだよぉ~」
そして、歪虚は告げた。
男の願いを叶える手段を。
●根骸の扉が開く
豪華な装飾で彩られた大きなホール。
王国南東部のある中貴族が催したものだ。この祝いの席は表向きは主催者とその傘下の貴族達の団結を願うものではあるが、実質的には所領が増えた事の祝いの席であった。
「我らが後ろで繋がっていたとは知らず、愚かな男でした」
「いや、全くその通りだ。証拠とした古地図も、巧妙に作らせた偽物だったのにな」
「馬鹿では貴族はやってられませんから」
嘲る笑い声が響いた。
今日は酒が美味しい。貴族達はワインを掲げ、幾度となく乾杯をとる。
「あの男の残された村や集落はどうしますかね」
「さぁな。どの道、長くはないだろう」
没落貴族となって野に下るだけだ。
そして、それは決して珍しい事ではない。政争とは、そういうものだ。
「私の所に来られても困りますな。男一人といっても無駄に養うぐらいなら、愛人を増やしたい」
「これは、誰が面倒を見るかという事で、また争いが起きそうですな!」
再び、笑い声が響いた。
その時だった。慌てた様子で一人の執事が主催者の耳元で告げる。
「旦那様、大変です。例の弱小貴族が乗り込んできました」
「なんと! ……まぁ、慌てるな。何をするか興味があるからな。そのままにしておけ」
その命令が実行されるまでもなく、領地を奪われた男がホールへと入ってきた。
肩には何か立札のようなものを持っていた。
「これはこれは、ようこそ、私の祝いの席に。本日は如何なる要件ですか?」
余裕の表情で両手を広げる主催者。
弱小貴族の男は虚ろな目で周囲を見渡した。誰からも憐れみの視線を感じる。
「……全て、全て、無くなってしまえばいい! お前らも!」
唐突に叫ぶと、男は肩に担いでいた立札を床に突き立てた――。
●あるオフィスにて
「血相変えて、どうしたのですか?」
紡伎 希(kz0174)が慌てた様子で部屋に入ってきた先輩でもある受付嬢に尋ねた。
全力で走ってきたのだろうか、肩を激しく上下させている。
「ったく、あの馬車、途中で車輪が外れたりするから……って、そうじゃなくて、ノゾミちゃん! コレ!」
ドンっとテーブルの上に置かれた資料。
それらは依頼に関するものだった。
「緊急の依頼ですか」
「たまたま、私の所に回ってきたのだけど、ちょっと、確認してみて」
先輩にそう言われれば従うしかない。
希は資料を手にした。
「……場所は王国南東部。ある貴族の館……」
祝いの席で突如として歪虚が出現したという。
乱入してきた男が『これが私の願いだ!』と叫んだ直後に数体の歪虚が現れ、居合わせた大勢の人々が無残に殺されたのだ。
貴族の親族がなんとか、館から脱出。緊急の依頼を出してきた。
「これは酷い状態ですね。生存者が残っているか分かりませんが、すぐにハンターを呼びましょう」
「そうなんだけど、違うの、ノゾミちゃん」
先輩の言葉に思わず首を傾げる希。
「どういう事でしょうか?」
「……似ていると思わない? 緑髪の少女の事件に」
先輩受付嬢は、希の“正体”を知る数少ない人物だ。
それ故に、今回の緊急依頼。まさかとは思って希に会いにきたのだろう。
“緑髪の少女”は王国各地で雑魔に絡んだ事件を引き起こしていた事件となっている。その事件には共通点があった。それは、『絶望した人の願いを死を持って叶えさせる』という事だ。
結局、少女は捕らえられ、王都への移送中に、夜盗か歪虚によって惨殺され、事件は終結したとされていたが……。
「……私、行ってきます。何か、分かるかもしれませんし」
「既にハンターも数名呼んでいるから、現地で合流してね」
「ありがとうございます」
希は胸元で手を合わせた。
これは、自分が犯した罪の償いなのか、それとも、報いなのか。あるいは、もっと別の何かなのか――。
リプレイ本文
●緑髪の少女事件の再来?
リュー・グランフェスト(ka2419)が戦闘準備に余念がない仲間達の所へ戻ってきた。
依頼主に惨劇の時の情報を聞きに行っていたのだ。
「貴族屋敷に突然歪虚、ね。きなっぽい臭いしかしねえなぁ」
「なにか分かったの?」
刀の柄を確認していたアルラウネ(ka4841)が顔をあげて尋ねる。
「依頼人の話によると、立札を持って入ってきたその男は、政争に負けた弱小貴族らしい。その男がホールに入ってきて、立札を床に突き刺して叫んだそうだ」
その後、唐突に歪虚が出現したという。
漆黒の人型歪虚が数体。そして、ケンタウルスのような人馬の歪虚が1体。
一方的な虐殺が始まり、宴に集まっていた貴族達は全員が殺された。立札を持ってきた男も死んだらしい。
「……確かに似ているな。絶望した者が歪虚絡みの事件を起こすのは」
ヴァイス(ka0364)が険しい表情で呟く。
今から2~3年前になるだろうか。王国各地で“緑髪の少女”が、歪虚絡みの事件に深く関わっていた。
それらの事件には共通点があった。一つは、事件は生きる事に絶望した人が引き起こした事。もう一つが、歪虚が出現していた事だ。
人間が歪虚を利用して事件を起こす事は稀だ。簡単に扱えるものではないのだから。
パンパンとドレスの裾を軽くはたきながら立ち上がったUisca Amhran(ka0754)がヴァイスに向かって尋ねる。
「誰かが、意図的に“緑髪の少女”の事件を真似ている……のでしょうか?」
「可能性は十分にあり得るな。傲慢の歪虚が絡んでいる可能性が高いだろう」
即答するヴァイスにUiscaは頷いた。
この事件が偶然とは思えない。
「ノゾミちゃん。今回の事件は子イケ君が関わっているか確認したかな?」
「いえ。ですが、オキナからは何の連絡もありませんし。関わっているとは思えないです」
Uiscaの疑問に紡伎 希(kz0174)は応える。
子イケ君ことネル・ベル(kz0082)は、もはや、体を維持する事が出来ず、現在は同族である傲慢歪虚に力を喰われない為、武器の姿となって、王国内で潜伏している。
希が依頼や仕事で居ない時は、オキナが面倒を見る事になっており、そのオキナから連絡が無いという事は、他の歪虚と接触しているとは考えにくいのだ。
「めんどくさい事になってるわね」
深いため息をついたアルラウネ。
現状、ネル・ベルが関わっているかどうか分からないが、思った以上に、今回の事件は奥が深そうだ。
仲間達の悩む姿を順に眺め、クリスティア・オルトワール(ka0131)が首を傾げる。
「過去に似たような事件があったのですね。しかし、当時の首謀者は……」
何気ない質問であるが、一同の表情は強張ったままだった。
それもそうだ。“緑髪の少女”は、今、クリスティアの目の前にいる訳で、彼女は知らないのだ。
止まった空気を動かすように、咳払いをするテノール(ka5676)。
「緑髪の少女の事件に似ている……か。『天使にも似た悪魔ほど、人を迷わすものはない』。そう言ったのはリアルブルーの劇作家だったかな?」
鍛え上げられた筋肉が逞しい彼ではあるが、知的な側面を見せる。
「詐欺師は笑顔を魅せるとも言いますね」
「そういえば、メフィストはもろに天使とかやってたらしいしな……」
キュっと拳を握るテノール。
なんにせよ、出現した歪虚は倒さなければいけない。事件の追及はそれからでもいいだろう。
希も魔導剣弓を手にしながら立ち上がる。だが、色々と考えを巡らせていたのか、思わずバランスを崩す。
すぐに支えたのは隣に居たヴァイスだった。
「集中力が散漫だぞ、希……まだ何も分かっていない。まずは目の前の敵に集中しよう」
緑色の髪を揺らして少女は力強く頷いた。
●VS傲慢歪虚
ホールに入る扉が開く。それも正面だけではなく、ホールの左右も同時にだ。
「傲慢歪虚の可能性が高い。特殊能力に気をつけるんだ!」
叫びながら歪虚へと突撃するヴァイス。
精神を集中し抵抗力を高めた時だった。ホールの中央で待ち構える歪虚――馬に騎士鎧を纏った人型――が槍を掲げた。
「下等な人間共はこの場で自害しろ!」
一気に広がる負のマテリアルの圧力。
傲慢歪虚が持つ特殊能力の一つ【強制】だ。
抵抗に失敗した者に命令した内容を行動させる。使い方次第では一瞬で戦線が崩壊する事も珍しくない。
「全ての事象を司る力よ。今こそその力の全てを解き消して!」
【強制】が効力を発揮するよりも早く、クリスティアが魔法を唱えた。
魔法の成就を妨害する対抗魔法だ。特殊能力が魔法扱いになるかどうかは個体差によるものだろうが、少なくとも、この人馬が放つ【強制】は魔法扱いなのだろう。
不可思議な音がホールに響くと同時に圧力が消え去った。
「【変容】の能力で、物に姿を変え潜んでいる可能性もあります。皆様、お気を付けて下さい!」
続けて、別の魔法を放つ為、意識を集中しながら彼女は呼びかける。
無機物にも【変容】できるのなら、例えば、照明や家具、絨毯なども気を付ける必要があるだろう。
クリスティアの魔法が完成し、傲慢騎士が光の杭で貫かれる。
だが、何事も無かったように杭は砕け散った。
少なくとも、雑魚ではなさそうなのは確実だ。
「近づいてぶん殴る、これだけだな」
有言実行で突入していったのは左側の扉から姿を現したテノールだった。
後ろに続くUiscaと希を守るように矢面に立つ事も兼ねての突撃だ。
突入前に支援魔法を掛けたUiscaは相手が傲慢歪虚という事で、奏唱士としての力を行使する。
穏やかで静かな歌と可憐なステップが彼女のマテリアルを広げる。それは、抵抗力を高める特別な力だ。
「効果範囲に気を付けて下さいね」
強力な援護魔法ではあるが、効果範囲内に居なければ意味はない。
希は返事をしつつ、魔導剣弓を構えた。直後、光り輝く三角形が宙に出現すると、光の筋が迸り、傲慢兵士に直撃する。
リューとアルラウネも右側の扉から武器を構えて斬りかかった。
「相手の手の内も分からないから警戒はいるな。それと、転移する可能性もあるか」
炎のようなマテリアルを剣に宿しながら、彼は立ち塞がる傲慢兵士に重鞘で殴りかかる。
傲慢兵士はそれを諸に受けると反撃のつもりか、モゴモゴと呪詛のようなものを発する。
「【懲罰】か!」
その能力をリューは良く知っている。
いや、何かと縁がある能力というべきだろうか。相手のダメージを反射する傲慢歪虚の能力だ。こちらも使い方によっては、極めて凶悪で厄介なものとなる。
リューは傲慢兵士から射出された【懲罰】のマテリアルを冷静に重鞘で受け止めた。
その反動と過重移動でクルッと体を回転させながら、剣でカウンターアタックを繰り出す。余程の規格外の個体でもない限り、連続して【懲罰】は使えない。
強力な彼の一撃で、傲慢兵士は崩れ去った。
「もしかして、フルフェイスの人型はあまり強くない?」
自身の身長よりも長い大太刀を巧みに操り、連撃を叩き込むアルラウネ。
やはり、【懲罰】は発生するが、上手く避ける事ができた。
「戦力的に考えれば、わたしは自分が倒れないように立ち回るのが一番足を引っ張らない気がしていたけど……これなら、なんとかなるかな」
苦笑を浮かべながらアルラウネは言った。
仲間達の中には歴戦の強者が揃っていたので、少し気にしていたのだが、傲慢兵士がこのレベルなら十分、自分も戦力として数える事ができるはず。
力量的にいえば、駆け出しのハンターでもいい勝負が出来るのではないだろうか。
それでも、覚醒者自体が一般人と比べれば大きな差があるので、私兵を投入せず、ハンターを呼んだ依頼主の判断は正しかっただろう。
「よし、【懲罰】に気をつけながら、一気に押すぞ」
戦況を見極めながら武器を振るっていたヴァイスが宣言する。
敵は逃げる気配もみせず、ハンター達に攻撃を仕掛けてくるだけなので、戦況が有利なのは勝負をつける好機といえよう。
蒼き炎で包まれた愛槍を構えなおし、突撃してきた傲慢兵士の突きを弾きつつ反撃。直後、後方に向かって放たれた敵の魔法を身体を張って受け止める。
「気にせず、撃つんだ!」
「ありがとうございます、ヴァイス様」
意識を集中させるクリスティア。彼女の周囲に風が舞う。
ドレスのスカートが捲れないかとも頭の隅でそんな事を思いつつ……
「……風よ、大空を貫く稲妻となり、我らに仇を成す者に天罰を!」
錬金杖から放たれたのは雷撃の魔法。
傷ついていた傲慢兵士を複数体を貫いた。相手の【懲罰】は回数切れのようだ。
「それなら、遠慮なく……せーのっ!」
呼吸を整え、アルラウネが大太刀を振り上げる。
マテリアルが体内を駆け回る。そのイメージのままに、アルラウネは残った傲慢兵士の中に斬りこんだ。
テノールもまだ無傷の傲慢兵士に拳を繰り出す。
「気絶してても使えるか試させてもらおうか?」
マテリアルを練って放った拳には格闘士の技だ。
この一撃を受けると意識を刈り取られ、行動不能となる。
「懲罰は面倒だが、意識的に使う技だからな」
彼の推測通り、技を受け、行動不能となった傲慢兵士は【懲罰】で反撃して来なかった。
これは、敵を倒した後に【懲罰】が発動しない事と同じだ。
そして、テノールの攻撃がそれで終わるはずはない。
続けざまに拳を叩き込み、傲慢兵士を文字通り粉砕させたのだった。
傲慢兵士は全て倒された。残ったのは、馬に騎士鎧を纏った人型の歪虚だ。
「なぜ、こんな事をするのですか。貴方達を呼んだのは、力を与えたのは誰ですか?」
その傲慢騎士に呼びかけたのはUiscaだった。
敵から情報を得られるかと思っての事だ。もはや、戦いの趨勢は決まっている。相手も戦い続ける意味も無い……はず。
「下等で愚かな人間共よ、全てはミュール様、そして、イヴ様の為。貴様らはここで滅びろ!」
傲慢騎士は槍を薙ぎ払う。
鎧も槍も漆黒に染まっており、Uiscaが注意深く見ても紋章の類は見えなかった。
ただ、分かるのは相手が傲慢に属する歪虚という事だけだ。
「滅びるのは、そっちだ!」
リューが重鞘から剣を抜きつつマテリアルを集わせる。
それは強大な力となって巨大な輝きを放った。
「紋章剣『天槍』!」
突き出した剣先から放たれるマテリアルの塊。
傲慢騎士を貫き――残ったは塵となって崩れさっていくのであった。
●根骸の立札
「……あった。これか?」
戦闘後、散乱するホールの中でリューが見つけ出したのは、負のマテリアルを発する木片のような何かだった。
どんな立札だったのか依頼主に教えて貰った情報を元に探していたのだ。
「負のマテリアルを感じますね」
Uiscaの言葉通り、木片からは明らかに負のマテリアルを感じる。
そして、木片はサラサラと崩れ始めていた。
「ようやく見つけ出したのに、これかよ」
「でも、木片に『ピヤーダ』『アスブ』と、文字が書いてありましたね」
「何かの手掛かりにはなるか」
苦笑を浮かべるリュー。
一方のUiscaは首を傾げていた。その文字はどこかで聞いた事があるような気がしたからだ。
消え去っていく立札の木片を眺めながら、クリスティアは思いついた言葉を口にした。
「……気になるのは、過去の依頼との類似点が偶然なのかどうか、ですね」
「そういえば、今回は敵の数が鬱陶しいほどだったけど……て言うか多くない? どう呼んだのよこれ」
パッと頭に浮かんだ事を返事に応えながらアルラウネがある疑問に辿り着いた。
“緑髪の少女”が起こした事件の場合、大抵は雑魔だった。それも単体であり、個体数という事で見れば、明らかに違う。
「……転移は仕掛けて来なかったから、飛んできた訳ではなさそうかな」
「さすがに、壺には入らないと思います」
Uiscaと希が目を合わせながら言った。
戦闘中、傲慢兵士も傲慢騎士も転移攻撃をして来なかった。そして、何か入れ物に入れて運べるサイズでも無いのは明らかだ。
幾らなんでも壺には入らないだろし。
「出現した数だけは違うけど、他の条件は……やっぱり、似ていたし……真似たのかな?」
「模倣犯かあるいは……死んだと記されてましたが、首謀者の少女が生きていたのでしょうか?」
クリスティアの台詞に希が答えた。
「その少女は死んだと聞いています。そして、きっと、罪を償う為に、生まれ変わっていると……私は思います」
「……もし、そうなら、それで良いのでしょうね。となると、後は模倣犯が居るという事になりますし」
二人の会話に、心の中でホッと一息をついたヴァイスが咳払いを一つしてから告げる。
「これだけ状況が酷似していると、ただの偶然で済ます訳にはいかないよな」
政争に負けて絶望した弱小貴族が歪虚を利用して事件を起こし、本人も含め関わった貴族が全員死んだ。
違う点があるとすれば、敵の数だが、それ以外は酷似しているのだ。偶然で済ませないだろう。
それに、木片に記してあった文字や傲慢騎士が口にした人名も気になる所だ。
「希……ネル・ベルと連絡とれるだろうか?」
「はい。すぐという訳にはいきませんが」
ネル・ベルは傲慢の歪虚であるのだ。
何か知っているかもしれない……教えてくれるかどうか分からないが。
「この手のものは後手後手に回りやすいよね」
天井を見上げてぼやくアルラウネ。
事件を未然に防ぐのは極めて困難だ。立札を持った人を、この広い世界で監視できる訳がないのだから。
「傲慢の奴ら、再び何かし始めるつもりか」
木片があった場所を確かめながらテノールが呟く。
王国は今、王家派と貴族派に分かれて政争が活発化しているのだ。
「ヒトを迷わせ惑わし、再びこの国に騒乱を持ち込むつもりか?」
それが傲慢のやり方だとしたら……今回のような事件がこれだけで終わるはずがない。
必ず、次なる事件が、王国のどこかで起きるのではないか……そんな予感をテノールは感じずにはいられなかった。
ハンター達は貴族のホールを占拠していた傲慢歪虚と対峙。
傲慢歪虚特有の能力に対処しつつ、敵を殲滅させた。
また、“緑髪の少女”の事件との類似点あるいは相違点を把握する事ができたのであった。
おしまい
●???
幼い少女の声と共に、金属鎧が擦れるような音が、とある林の中に響いた。
「ランランルンルン♪ ランランルンルン♪ 願いを叶えて願いの扉」
「楽しそうだな」
立札を振り回しているのは幼い少女。
その少女を肩に載せているのは直立する甲虫の歪虚。
「だってね、ミュール。『ピヤーダ』『アスブ』も簡単に倒されたんだよ!」
「それで、次は何にしようかという事か」
「そういう事! だから、丁度良い、人間いないかなって!」
少女の表情は満面の笑みだった――。
リュー・グランフェスト(ka2419)が戦闘準備に余念がない仲間達の所へ戻ってきた。
依頼主に惨劇の時の情報を聞きに行っていたのだ。
「貴族屋敷に突然歪虚、ね。きなっぽい臭いしかしねえなぁ」
「なにか分かったの?」
刀の柄を確認していたアルラウネ(ka4841)が顔をあげて尋ねる。
「依頼人の話によると、立札を持って入ってきたその男は、政争に負けた弱小貴族らしい。その男がホールに入ってきて、立札を床に突き刺して叫んだそうだ」
その後、唐突に歪虚が出現したという。
漆黒の人型歪虚が数体。そして、ケンタウルスのような人馬の歪虚が1体。
一方的な虐殺が始まり、宴に集まっていた貴族達は全員が殺された。立札を持ってきた男も死んだらしい。
「……確かに似ているな。絶望した者が歪虚絡みの事件を起こすのは」
ヴァイス(ka0364)が険しい表情で呟く。
今から2~3年前になるだろうか。王国各地で“緑髪の少女”が、歪虚絡みの事件に深く関わっていた。
それらの事件には共通点があった。一つは、事件は生きる事に絶望した人が引き起こした事。もう一つが、歪虚が出現していた事だ。
人間が歪虚を利用して事件を起こす事は稀だ。簡単に扱えるものではないのだから。
パンパンとドレスの裾を軽くはたきながら立ち上がったUisca Amhran(ka0754)がヴァイスに向かって尋ねる。
「誰かが、意図的に“緑髪の少女”の事件を真似ている……のでしょうか?」
「可能性は十分にあり得るな。傲慢の歪虚が絡んでいる可能性が高いだろう」
即答するヴァイスにUiscaは頷いた。
この事件が偶然とは思えない。
「ノゾミちゃん。今回の事件は子イケ君が関わっているか確認したかな?」
「いえ。ですが、オキナからは何の連絡もありませんし。関わっているとは思えないです」
Uiscaの疑問に紡伎 希(kz0174)は応える。
子イケ君ことネル・ベル(kz0082)は、もはや、体を維持する事が出来ず、現在は同族である傲慢歪虚に力を喰われない為、武器の姿となって、王国内で潜伏している。
希が依頼や仕事で居ない時は、オキナが面倒を見る事になっており、そのオキナから連絡が無いという事は、他の歪虚と接触しているとは考えにくいのだ。
「めんどくさい事になってるわね」
深いため息をついたアルラウネ。
現状、ネル・ベルが関わっているかどうか分からないが、思った以上に、今回の事件は奥が深そうだ。
仲間達の悩む姿を順に眺め、クリスティア・オルトワール(ka0131)が首を傾げる。
「過去に似たような事件があったのですね。しかし、当時の首謀者は……」
何気ない質問であるが、一同の表情は強張ったままだった。
それもそうだ。“緑髪の少女”は、今、クリスティアの目の前にいる訳で、彼女は知らないのだ。
止まった空気を動かすように、咳払いをするテノール(ka5676)。
「緑髪の少女の事件に似ている……か。『天使にも似た悪魔ほど、人を迷わすものはない』。そう言ったのはリアルブルーの劇作家だったかな?」
鍛え上げられた筋肉が逞しい彼ではあるが、知的な側面を見せる。
「詐欺師は笑顔を魅せるとも言いますね」
「そういえば、メフィストはもろに天使とかやってたらしいしな……」
キュっと拳を握るテノール。
なんにせよ、出現した歪虚は倒さなければいけない。事件の追及はそれからでもいいだろう。
希も魔導剣弓を手にしながら立ち上がる。だが、色々と考えを巡らせていたのか、思わずバランスを崩す。
すぐに支えたのは隣に居たヴァイスだった。
「集中力が散漫だぞ、希……まだ何も分かっていない。まずは目の前の敵に集中しよう」
緑色の髪を揺らして少女は力強く頷いた。
●VS傲慢歪虚
ホールに入る扉が開く。それも正面だけではなく、ホールの左右も同時にだ。
「傲慢歪虚の可能性が高い。特殊能力に気をつけるんだ!」
叫びながら歪虚へと突撃するヴァイス。
精神を集中し抵抗力を高めた時だった。ホールの中央で待ち構える歪虚――馬に騎士鎧を纏った人型――が槍を掲げた。
「下等な人間共はこの場で自害しろ!」
一気に広がる負のマテリアルの圧力。
傲慢歪虚が持つ特殊能力の一つ【強制】だ。
抵抗に失敗した者に命令した内容を行動させる。使い方次第では一瞬で戦線が崩壊する事も珍しくない。
「全ての事象を司る力よ。今こそその力の全てを解き消して!」
【強制】が効力を発揮するよりも早く、クリスティアが魔法を唱えた。
魔法の成就を妨害する対抗魔法だ。特殊能力が魔法扱いになるかどうかは個体差によるものだろうが、少なくとも、この人馬が放つ【強制】は魔法扱いなのだろう。
不可思議な音がホールに響くと同時に圧力が消え去った。
「【変容】の能力で、物に姿を変え潜んでいる可能性もあります。皆様、お気を付けて下さい!」
続けて、別の魔法を放つ為、意識を集中しながら彼女は呼びかける。
無機物にも【変容】できるのなら、例えば、照明や家具、絨毯なども気を付ける必要があるだろう。
クリスティアの魔法が完成し、傲慢騎士が光の杭で貫かれる。
だが、何事も無かったように杭は砕け散った。
少なくとも、雑魚ではなさそうなのは確実だ。
「近づいてぶん殴る、これだけだな」
有言実行で突入していったのは左側の扉から姿を現したテノールだった。
後ろに続くUiscaと希を守るように矢面に立つ事も兼ねての突撃だ。
突入前に支援魔法を掛けたUiscaは相手が傲慢歪虚という事で、奏唱士としての力を行使する。
穏やかで静かな歌と可憐なステップが彼女のマテリアルを広げる。それは、抵抗力を高める特別な力だ。
「効果範囲に気を付けて下さいね」
強力な援護魔法ではあるが、効果範囲内に居なければ意味はない。
希は返事をしつつ、魔導剣弓を構えた。直後、光り輝く三角形が宙に出現すると、光の筋が迸り、傲慢兵士に直撃する。
リューとアルラウネも右側の扉から武器を構えて斬りかかった。
「相手の手の内も分からないから警戒はいるな。それと、転移する可能性もあるか」
炎のようなマテリアルを剣に宿しながら、彼は立ち塞がる傲慢兵士に重鞘で殴りかかる。
傲慢兵士はそれを諸に受けると反撃のつもりか、モゴモゴと呪詛のようなものを発する。
「【懲罰】か!」
その能力をリューは良く知っている。
いや、何かと縁がある能力というべきだろうか。相手のダメージを反射する傲慢歪虚の能力だ。こちらも使い方によっては、極めて凶悪で厄介なものとなる。
リューは傲慢兵士から射出された【懲罰】のマテリアルを冷静に重鞘で受け止めた。
その反動と過重移動でクルッと体を回転させながら、剣でカウンターアタックを繰り出す。余程の規格外の個体でもない限り、連続して【懲罰】は使えない。
強力な彼の一撃で、傲慢兵士は崩れ去った。
「もしかして、フルフェイスの人型はあまり強くない?」
自身の身長よりも長い大太刀を巧みに操り、連撃を叩き込むアルラウネ。
やはり、【懲罰】は発生するが、上手く避ける事ができた。
「戦力的に考えれば、わたしは自分が倒れないように立ち回るのが一番足を引っ張らない気がしていたけど……これなら、なんとかなるかな」
苦笑を浮かべながらアルラウネは言った。
仲間達の中には歴戦の強者が揃っていたので、少し気にしていたのだが、傲慢兵士がこのレベルなら十分、自分も戦力として数える事ができるはず。
力量的にいえば、駆け出しのハンターでもいい勝負が出来るのではないだろうか。
それでも、覚醒者自体が一般人と比べれば大きな差があるので、私兵を投入せず、ハンターを呼んだ依頼主の判断は正しかっただろう。
「よし、【懲罰】に気をつけながら、一気に押すぞ」
戦況を見極めながら武器を振るっていたヴァイスが宣言する。
敵は逃げる気配もみせず、ハンター達に攻撃を仕掛けてくるだけなので、戦況が有利なのは勝負をつける好機といえよう。
蒼き炎で包まれた愛槍を構えなおし、突撃してきた傲慢兵士の突きを弾きつつ反撃。直後、後方に向かって放たれた敵の魔法を身体を張って受け止める。
「気にせず、撃つんだ!」
「ありがとうございます、ヴァイス様」
意識を集中させるクリスティア。彼女の周囲に風が舞う。
ドレスのスカートが捲れないかとも頭の隅でそんな事を思いつつ……
「……風よ、大空を貫く稲妻となり、我らに仇を成す者に天罰を!」
錬金杖から放たれたのは雷撃の魔法。
傷ついていた傲慢兵士を複数体を貫いた。相手の【懲罰】は回数切れのようだ。
「それなら、遠慮なく……せーのっ!」
呼吸を整え、アルラウネが大太刀を振り上げる。
マテリアルが体内を駆け回る。そのイメージのままに、アルラウネは残った傲慢兵士の中に斬りこんだ。
テノールもまだ無傷の傲慢兵士に拳を繰り出す。
「気絶してても使えるか試させてもらおうか?」
マテリアルを練って放った拳には格闘士の技だ。
この一撃を受けると意識を刈り取られ、行動不能となる。
「懲罰は面倒だが、意識的に使う技だからな」
彼の推測通り、技を受け、行動不能となった傲慢兵士は【懲罰】で反撃して来なかった。
これは、敵を倒した後に【懲罰】が発動しない事と同じだ。
そして、テノールの攻撃がそれで終わるはずはない。
続けざまに拳を叩き込み、傲慢兵士を文字通り粉砕させたのだった。
傲慢兵士は全て倒された。残ったのは、馬に騎士鎧を纏った人型の歪虚だ。
「なぜ、こんな事をするのですか。貴方達を呼んだのは、力を与えたのは誰ですか?」
その傲慢騎士に呼びかけたのはUiscaだった。
敵から情報を得られるかと思っての事だ。もはや、戦いの趨勢は決まっている。相手も戦い続ける意味も無い……はず。
「下等で愚かな人間共よ、全てはミュール様、そして、イヴ様の為。貴様らはここで滅びろ!」
傲慢騎士は槍を薙ぎ払う。
鎧も槍も漆黒に染まっており、Uiscaが注意深く見ても紋章の類は見えなかった。
ただ、分かるのは相手が傲慢に属する歪虚という事だけだ。
「滅びるのは、そっちだ!」
リューが重鞘から剣を抜きつつマテリアルを集わせる。
それは強大な力となって巨大な輝きを放った。
「紋章剣『天槍』!」
突き出した剣先から放たれるマテリアルの塊。
傲慢騎士を貫き――残ったは塵となって崩れさっていくのであった。
●根骸の立札
「……あった。これか?」
戦闘後、散乱するホールの中でリューが見つけ出したのは、負のマテリアルを発する木片のような何かだった。
どんな立札だったのか依頼主に教えて貰った情報を元に探していたのだ。
「負のマテリアルを感じますね」
Uiscaの言葉通り、木片からは明らかに負のマテリアルを感じる。
そして、木片はサラサラと崩れ始めていた。
「ようやく見つけ出したのに、これかよ」
「でも、木片に『ピヤーダ』『アスブ』と、文字が書いてありましたね」
「何かの手掛かりにはなるか」
苦笑を浮かべるリュー。
一方のUiscaは首を傾げていた。その文字はどこかで聞いた事があるような気がしたからだ。
消え去っていく立札の木片を眺めながら、クリスティアは思いついた言葉を口にした。
「……気になるのは、過去の依頼との類似点が偶然なのかどうか、ですね」
「そういえば、今回は敵の数が鬱陶しいほどだったけど……て言うか多くない? どう呼んだのよこれ」
パッと頭に浮かんだ事を返事に応えながらアルラウネがある疑問に辿り着いた。
“緑髪の少女”が起こした事件の場合、大抵は雑魔だった。それも単体であり、個体数という事で見れば、明らかに違う。
「……転移は仕掛けて来なかったから、飛んできた訳ではなさそうかな」
「さすがに、壺には入らないと思います」
Uiscaと希が目を合わせながら言った。
戦闘中、傲慢兵士も傲慢騎士も転移攻撃をして来なかった。そして、何か入れ物に入れて運べるサイズでも無いのは明らかだ。
幾らなんでも壺には入らないだろし。
「出現した数だけは違うけど、他の条件は……やっぱり、似ていたし……真似たのかな?」
「模倣犯かあるいは……死んだと記されてましたが、首謀者の少女が生きていたのでしょうか?」
クリスティアの台詞に希が答えた。
「その少女は死んだと聞いています。そして、きっと、罪を償う為に、生まれ変わっていると……私は思います」
「……もし、そうなら、それで良いのでしょうね。となると、後は模倣犯が居るという事になりますし」
二人の会話に、心の中でホッと一息をついたヴァイスが咳払いを一つしてから告げる。
「これだけ状況が酷似していると、ただの偶然で済ます訳にはいかないよな」
政争に負けて絶望した弱小貴族が歪虚を利用して事件を起こし、本人も含め関わった貴族が全員死んだ。
違う点があるとすれば、敵の数だが、それ以外は酷似しているのだ。偶然で済ませないだろう。
それに、木片に記してあった文字や傲慢騎士が口にした人名も気になる所だ。
「希……ネル・ベルと連絡とれるだろうか?」
「はい。すぐという訳にはいきませんが」
ネル・ベルは傲慢の歪虚であるのだ。
何か知っているかもしれない……教えてくれるかどうか分からないが。
「この手のものは後手後手に回りやすいよね」
天井を見上げてぼやくアルラウネ。
事件を未然に防ぐのは極めて困難だ。立札を持った人を、この広い世界で監視できる訳がないのだから。
「傲慢の奴ら、再び何かし始めるつもりか」
木片があった場所を確かめながらテノールが呟く。
王国は今、王家派と貴族派に分かれて政争が活発化しているのだ。
「ヒトを迷わせ惑わし、再びこの国に騒乱を持ち込むつもりか?」
それが傲慢のやり方だとしたら……今回のような事件がこれだけで終わるはずがない。
必ず、次なる事件が、王国のどこかで起きるのではないか……そんな予感をテノールは感じずにはいられなかった。
ハンター達は貴族のホールを占拠していた傲慢歪虚と対峙。
傲慢歪虚特有の能力に対処しつつ、敵を殲滅させた。
また、“緑髪の少女”の事件との類似点あるいは相違点を把握する事ができたのであった。
おしまい
●???
幼い少女の声と共に、金属鎧が擦れるような音が、とある林の中に響いた。
「ランランルンルン♪ ランランルンルン♪ 願いを叶えて願いの扉」
「楽しそうだな」
立札を振り回しているのは幼い少女。
その少女を肩に載せているのは直立する甲虫の歪虚。
「だってね、ミュール。『ピヤーダ』『アスブ』も簡単に倒されたんだよ!」
「それで、次は何にしようかという事か」
「そういう事! だから、丁度良い、人間いないかなって!」
少女の表情は満面の笑みだった――。
依頼結果
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質問卓 ヴァイス・エリダヌス(ka0364) 人間(クリムゾンウェスト)|31才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/04/04 07:06:21 |
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【相談卓】緑髪の少女事件再来? Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/04/06 00:57:53 |