ゲスト
(ka0000)
【AP】東南の空に彗星が墜ちる
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/05 22:00
- 完成日
- 2018/04/08 22:25
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「ハロー、シチズン。こちらはエンドレスです。これより、ヴァルハラはホーチミン上空へ到達します」
統一地球連合宙軍所属最新鋭艦ヴァルハラ。
AI『エンドレス』に制御されたこの艦は、オーストラリアから新型CAM「ヴァルキリー」を載せてホーチミンへと向かっていた。
大気圏突入用のロケットエンジンを推進力に、ヴァルハラはインドシナ半島へと急接近していく。
「エンドレス、確か『太陽会戦』へ参加するって言ってたよね? どういう作戦なの?」
パイロットの一人が、エンドレスへ問いかけた。
既に簡単な整備を終えたCAMに乗り込んだパイロット達は、作戦に向けて発進用のドックでスタンバイしていた。
「極東支部が立案した『太陽会戦』は、アジア極東地域を賭けた戦いになります」
エンドレスは作戦の概要を解説し始めた。
アジア極東地域は現在中国を中心に歪虚へ徹底抗戦を挑んでいるが、劣勢を強いられている。
これは、ロシア、インドシナ半島、中東方面が包囲されている事が大きい。制海権も南シナ海が奪われた事が被害を拡大させていった。巨大な中国の大地ではあるが、海路を封鎖された事で戦いは徐々に劣勢へと追いやられていった。
これに対して統一地球連合宙軍が立案したのが『太陽会戦』である。
極東支部の戦力をベトナム北部、ラオス付近へ集中させる事で敵主力を惹き付ける。
この隙に敵の拠点であるホーチミンをオセアニアからの精鋭部隊が急襲して奪還するというものである。
本作戦はホーチミンを奪還する事で、「インドシナ半島の歪虚を挟撃する」と共に「南シナ海の制海権奪還の橋頭堡とする事」が狙いとなっている。
「現在、ホーチミンに向けて高度一万メートルで航行中です。これから、皆さんには一万メートルから降下してホーチミンの敵拠点を急襲します」
「ちょっと待て。今はインドシナ半島は敵の勢力下にあるんだよな?」
「はい、そうです」
「という事は、敵のど真ん中に降下しろって事?」
「その通りです。理解は早くて助かります。本作戦はヴァルハラ以外にも友軍機が同時刻に投下を開始します。友軍機はヴァルキリーではありませんが、熟練パイロットも多数参加しています。言い換えれば、この作戦に失敗すれば後がありません。
皆さんも無事に地上へ降り立てれば良いですね」
AIらしく脳天気に答えるエンドレス。
敵から反撃されない為に高高度で飛行するエンドレスから、CAMに乗って降下。
地表ギリギリまで惹き付けてからパラシュートを開いて着地。このままホーチミンにある歪虚の拠点を陥落させるというものだ。
一言で説明すれば、簡単に終わる。
だが、それを成し遂げるには、かなりのリスクを背負う必要がある。
「敵も馬鹿じゃないよね? 対空兵器も準備されているわよね」
「敵地の真ん中だからな。地上へ到達できても、敵に包囲される可能性だってあるぞ」
敵に捕捉されない為に、地上ギリギリでパラシュートを開いたとしても敵の対空攻撃でダメージを負う可能性もある。さらに敵の真ん中へ落下すれば、その時点で袋だたきに遭う事も考えられる。後方支援は得られるはずもない。
今から上空へ放り出されるパイロット達も不安しかない。
「敵の詳細な情報は?」
「不明です。降下後、都心部を北上して下さい。タンソンニャット国際空港にあるホーチミンクラスタへ突入して核を破壊すればミッションクリアです」
ホーチミンクラスタ。
それが最終目標なのだが、敵の詳細情報すら提供されない時点でパイロットの生存率は低い。
だが、統一地球連合宙軍には勝算もあった。
「心配ありません。ヴァルキリーには『DAS』があります。機体性能を引き出せばきっと大丈夫です」
新型CAM『ヴァルキリー』。
通常のCAMよりも数段性能を向上させた機体であるが、特徴はそれだけではない。
ヴァルキリーに搭載されたシステム『DAS』――『Deadry Alliance System』。
詳細な構造や原理は極秘だが、CAMパイロットの思考を読み取り、性能を飛躍的に向上させる機能を持つ。だが、先の戦いではパイロットの思考に合わせて想定以上のスペックを引き出した事が確認されている。
未だ謎の多いシステムであり、開発者にして行方不明中のマドゥラ・フォレスト博士は『暴走』を危惧していた。
「エンドレス、一つ聞かせて。DASはどうすれば想定以上のスペックを引き出せるの?」
「現時点では不明です。開発データは軍事極秘情報である上に、一部データは地球統一連合軍CAM研究所が破壊されて失われています」
DASは未だに謎が多いシステムである。
何が鍵となっているかは未だに不明だ。おそらく戦いの中にヒントがあるのかもしれない。
「降下まで残り三分です。パイロットの皆さんは降下準備をお願いします」
統一地球連合宙軍所属最新鋭艦ヴァルハラ。
AI『エンドレス』に制御されたこの艦は、オーストラリアから新型CAM「ヴァルキリー」を載せてホーチミンへと向かっていた。
大気圏突入用のロケットエンジンを推進力に、ヴァルハラはインドシナ半島へと急接近していく。
「エンドレス、確か『太陽会戦』へ参加するって言ってたよね? どういう作戦なの?」
パイロットの一人が、エンドレスへ問いかけた。
既に簡単な整備を終えたCAMに乗り込んだパイロット達は、作戦に向けて発進用のドックでスタンバイしていた。
「極東支部が立案した『太陽会戦』は、アジア極東地域を賭けた戦いになります」
エンドレスは作戦の概要を解説し始めた。
アジア極東地域は現在中国を中心に歪虚へ徹底抗戦を挑んでいるが、劣勢を強いられている。
これは、ロシア、インドシナ半島、中東方面が包囲されている事が大きい。制海権も南シナ海が奪われた事が被害を拡大させていった。巨大な中国の大地ではあるが、海路を封鎖された事で戦いは徐々に劣勢へと追いやられていった。
これに対して統一地球連合宙軍が立案したのが『太陽会戦』である。
極東支部の戦力をベトナム北部、ラオス付近へ集中させる事で敵主力を惹き付ける。
この隙に敵の拠点であるホーチミンをオセアニアからの精鋭部隊が急襲して奪還するというものである。
本作戦はホーチミンを奪還する事で、「インドシナ半島の歪虚を挟撃する」と共に「南シナ海の制海権奪還の橋頭堡とする事」が狙いとなっている。
「現在、ホーチミンに向けて高度一万メートルで航行中です。これから、皆さんには一万メートルから降下してホーチミンの敵拠点を急襲します」
「ちょっと待て。今はインドシナ半島は敵の勢力下にあるんだよな?」
「はい、そうです」
「という事は、敵のど真ん中に降下しろって事?」
「その通りです。理解は早くて助かります。本作戦はヴァルハラ以外にも友軍機が同時刻に投下を開始します。友軍機はヴァルキリーではありませんが、熟練パイロットも多数参加しています。言い換えれば、この作戦に失敗すれば後がありません。
皆さんも無事に地上へ降り立てれば良いですね」
AIらしく脳天気に答えるエンドレス。
敵から反撃されない為に高高度で飛行するエンドレスから、CAMに乗って降下。
地表ギリギリまで惹き付けてからパラシュートを開いて着地。このままホーチミンにある歪虚の拠点を陥落させるというものだ。
一言で説明すれば、簡単に終わる。
だが、それを成し遂げるには、かなりのリスクを背負う必要がある。
「敵も馬鹿じゃないよね? 対空兵器も準備されているわよね」
「敵地の真ん中だからな。地上へ到達できても、敵に包囲される可能性だってあるぞ」
敵に捕捉されない為に、地上ギリギリでパラシュートを開いたとしても敵の対空攻撃でダメージを負う可能性もある。さらに敵の真ん中へ落下すれば、その時点で袋だたきに遭う事も考えられる。後方支援は得られるはずもない。
今から上空へ放り出されるパイロット達も不安しかない。
「敵の詳細な情報は?」
「不明です。降下後、都心部を北上して下さい。タンソンニャット国際空港にあるホーチミンクラスタへ突入して核を破壊すればミッションクリアです」
ホーチミンクラスタ。
それが最終目標なのだが、敵の詳細情報すら提供されない時点でパイロットの生存率は低い。
だが、統一地球連合宙軍には勝算もあった。
「心配ありません。ヴァルキリーには『DAS』があります。機体性能を引き出せばきっと大丈夫です」
新型CAM『ヴァルキリー』。
通常のCAMよりも数段性能を向上させた機体であるが、特徴はそれだけではない。
ヴァルキリーに搭載されたシステム『DAS』――『Deadry Alliance System』。
詳細な構造や原理は極秘だが、CAMパイロットの思考を読み取り、性能を飛躍的に向上させる機能を持つ。だが、先の戦いではパイロットの思考に合わせて想定以上のスペックを引き出した事が確認されている。
未だ謎の多いシステムであり、開発者にして行方不明中のマドゥラ・フォレスト博士は『暴走』を危惧していた。
「エンドレス、一つ聞かせて。DASはどうすれば想定以上のスペックを引き出せるの?」
「現時点では不明です。開発データは軍事極秘情報である上に、一部データは地球統一連合軍CAM研究所が破壊されて失われています」
DASは未だに謎が多いシステムである。
何が鍵となっているかは未だに不明だ。おそらく戦いの中にヒントがあるのかもしれない。
「降下まで残り三分です。パイロットの皆さんは降下準備をお願いします」
リプレイ本文
「何か最近あんまり眠れないのよ。
私が私であることが、間違っているような気がして。精神安定剤は処方されたけど……自分でも良くない傾向だと分かってるわ」
マリィア・バルデス(ka5848)が乗るR7エクスシアの前で、出撃用のハッチが開く。
統一地球連合軍揚陸艦『エンドレス』は、既に高度一万メートル。足下に広がる雲。更に下にはインドシナ半島がある。
マリィアは、作戦前でありながら敢えてそう呟いた。
戦争の中で希薄となる日常。無い物を追い求める自分を見つめる事で、自分を維持しようとしているのだろうか。
そう言っている間に、戦争と日常の境となっていた出撃用のハッチは完全に開いた。
ここからは非日常――狂気と死が入り交じるクソッタレな世界が横たわっている。
「ハロー、シチズン。私はエンドレスです。
『太陽会戦』開始時間です。皆さんは、降下した後に北へ進軍。ホーチミンクラスタを破壊して下さい」
統一地球連合宙軍極東支部がぶち上げたアジア地域奪還作戦。
ラオス、ベトナム北部に戦力を集中している隙にオーストラリアからの友軍が奇襲作戦を決行。ホーチミンにあるクラスタを破壊して南シナ海の制海権奪還を狙うのが今回の作戦だ。
オーストラリアから脱出したばかりのエンドレスも、この太陽会戦に駆り出されていた。
「よく分からねぇが、敵をぶっ倒せばいいんだろ。さっさと行ってぶっ壊してくるぜ」
ヴァルキリー複座改造実験機『ブリュンヒルデ』。
それに搭乗するアッシュ――岩井崎 旭(ka0234)の気合いはかなり高かった。
DASは搭載してされているものの暴走の危険のあるDASの負担を軽減する為に複座という別角度からのアプローチが成されている。二対四本の腕を携え、ホーチミンの空を舞う。
そして、後部座席に乗り込むのは年齢不詳、仮面を被った補充パイロットだ。
「はい! やってやるです! アサヒ君と一緒なら大丈夫です」
素性や年齢は不明で、この危険な太陽会戦の参加に自ら挙手した補充員なのだが、実は旭の追っかけである岩井崎 メル(ka0520)であった。
複座という対処法はCAMの体表を考えれば無理があった。この為、通常よりも狭い操縦席なのだが、メルにとってはその方が良かった。どんな危険な場所であろうとも、『ダーリン』と一緒ならば乗り越えられる自信があったからだ。
「……あれ? 自己紹介したっけ? 何で名前知っているんだ?」
旭からの唐突な質問に、メルは慌てた。
わざわざ正体を隠してまで旭の傍にきたというのに、つまらないボロを出す訳にもいかない。
「……え、あ……資料に載ってて……」
「そっか。ならいいか。よろしくな」
そう言った旭は複座の前席で最終チェックに戻る。
静かにメルはそっと胸を撫で下ろすのであった。
「エンドレス、一つ教えて。DASにリンクすれば独自でリミッターを外せるの?」
ヴァルキリー『ラーズグリーズ』に乗るユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は、出撃前にどうしても聞いておきたかった。
オーストラリア脱出時に確認されたヴァルキリー独自のシステム『DAS』――『Deadry Alliance System』。
詳細な構造や原理は機密だが、CAMパイロットの思考を読み取り、性能を飛躍的に向上させる機能を持つ。現に先の戦いでは通常以上の戦果を発揮していた。だが、未だに謎の多いシステムでもある。
「リミッターが外れる、という表現が正しいかも分かりません」
「どういう事?」
「オーストラリアから脱出する際の戦闘データを見れば、パイロットの意思でリミッターが外れた訳ではありません。窮地の中、パイロットの意志に呼応する形でDASは通常以上の性能を発揮しています」
エンドレスが前回の戦闘データから分析する。
どうやら、パイロット自身がDASのリミッターを外した訳ではないようだ。パイロットの危機を察してDASが自らリミッターを外した。そう考えるのが自然のようだ。
(という事は、リミッターを外すには何かしらの『鍵』があるという事ね)
ユーリは、思案する。
この戦いで鍵を見つけられれば良いのだが……。
「降下開始まで残り40秒。急いでチェックをお願いします」
「もう済んでいます」
アルターA――クオン・サガラ(ka0018)の心は、既に戦場にあった。
試験用の誤射で大破した『オリオン』にヴァルキリーの中枢とDASを移植した制圧仕様の大型CAM。
それがアルターAの相棒である新生『オリオン』であった。
高強度、重装甲・高出力を兼ね備えた機体であり、アクティブスラスターとジェットエンジンによる推進を可能にした反面、重量が通常CAMよりも重い。ホバー移動が主である為に小回りは効きにくく、反応速度もやや劣る。
それでもアルターAにとっては、オリオンの意志を継ぐこの機体に愛着を持ち始めている。
「エンドレス、カタパルトから出撃すれば目標までどこまで近付けますか?」
「通常降下よりも300メートルは降下地点よりズレる事になります。ですが、後続の機体から離れる為、注意が必要です」
「構いません。やって下さい」
「なら、こっちは先に行かせてもわうね。早く行って降下地点の制圧をやらないとね」
ヴァルキリーで誰よりも早々に降下したのは、ウーナ(ka1439)であった。
両肩にシールド、機関砲とマークスマンライフルの変装二挺銃。
この標準的な装備でありながら、ウーナは敢えて先行して降下する。危険なのは降下して着地するまでの瞬間だ。敵の迎撃も相応に激しいだろう。一機でも多く地上へ到達する為には、降下予定地点の対空砲を一つでも多く沈黙させる事にある。
「じゃあ、いくよ」
ウーナのヴァルキリーは、真っ先に飛び出した。
支えていた地面が消え、機体は一気に重力に引かれる。
高度一万メートルからのダイブ――それは、まさに決死行であった。
●
エンドレスからの降下に呼応するように、友軍機からもCAM部隊が降下を開始する。
もし、これで作戦が失敗するようであれば責任問題どころの騒ぎではない。ベトナム北部では敵の主力と交戦するのだ。被害はかなり大きい物となるだろう。それだけ、このホーチミン奇襲に賭けなければならない程、追い詰められているのだ。
だが、主力が不在であってもホーチミンの防衛は薄くは無かった。
「……お、降りられるのかよっ! う、うわああああ!」
各機の通信機から漏れ聞こえた男の声。
その声の後に響く爆発音。
おそらく、敵の対空砲に直撃したのだろう。
無理もない、モニターに映し出される対空砲火の雨を見れば分かる。この弾丸の中を、各機は掻い潜って降下しなければならないのだから。
「行きますよ、オリオン。味方の進む道を切り拓きます」
アルターAは、パラシュートを開く前の降下中で早くも行動を開始する。
バックパックに増設されたスラスターと共に追加されたコンテナが開き、サーモバリック弾頭の多連装ロケット弾が顔を見せる。
上空からの爆撃を行う事で対空砲を黙らせるつもりなのだ。
「直撃しなくても構いません。一機でも多く仲間を救えれるなら!」
放たれる多連装ロケット弾。
上空で様々な軌道を描きながら、地表へ次々と突き刺さっていく。
地面で幾つも開く大きな爆発。
降下地点は一時的に空白地点となる。
だが、敵は対空砲ばかりではない。
「降りた途端に攻撃しようって魂胆。見え見えだよ」
急降下する中でも、ウーナは機関砲を中型狂気に向ける。
仮に対空砲の砲火を掻い潜ったとしても、着陸直後に中型狂気や歪虚CAMが友軍を襲う事は十分考えられる。
作戦成功の要は、友軍機が如何に無傷のまま降下に成功できるかにあるのだ。
「『軌道上のサロメ』に似てる? 他人のそら似だよ……そう。似ているだけ、だから」
目標を照準に収めた瞬間、ウーナはトリガーを引いた。
機関砲が派手な音を立てながら、地面を穿つ。そして、射線上にいた中型狂気の体に何発も風穴を開ける。
「……いけるか? いや、やるしかないか」
マリィアのロングレンジライフル「ルギートゥスD5」を構える。
体勢が安定しない上空からの長距離狙撃。
慣れていない機体では死にに行くようなものと、いつものR7エクスシアで出撃したのは有事における即応が容易からだ。
慣れた機体なら、多少の無理も聞いてくれる。
「無茶を押し通さないといけない時もあるの。今がそうだから」
対空砲に狙いを定め、マリィアは引き金を引いた。
次の瞬間、対空砲の体表を貫き――爆発。どうやら、対空砲の防御力は想定よりも高くはないようだ。
「へっへー。一番のり!」
最初に降下したウーナは、早々に降下地点周辺の敵掃討を開始。
友軍を引き入れる準備を始める。
「ようやく降下成功ね。遅れは許されないわ。行くわよ、ラーズグリーズ」
ユーリのラーズグリーズも地上へと到達した。
ラーズグリーズは加速装置『リープテイル』が搭載された高機動性のCAMだ。だが、ユーリはさらに高機動を実現する為に、余分な装甲を排除。
リープテイル以外の武装はユーリの意志により斬艦刀とクロータイプマテリアルフィスト。接近戦を重視した機体だが、機動性を上げる為に装甲を大幅に薄くしていた。
当たれば――アウト。
だが、それがユーリの選んだ戦い方だ。
「私自身が自ら死へ踏み込み、そのまま突き進む。大丈夫よ、だから私は……『死なない』」
レーダーが後方からの歪虚CA配を察知。
ユーリは機体を反転させる事無く、リープテイルで右へ移動。敵の銃撃を躱しながら、旋回。一気に敵との間合いを詰める。
そして、斬撃。
斬艦刀が円を描き、刃が歪虚CAMの体を捉えていた。
歪虚CAMに反撃の隙を与えぬラーズグリーズの接近戦。
しかし、それは同時にユーリの体にもダメージが蓄積する。
「くっ……リープテイルか」
加速装置として優秀なリープテイルではあるが、その加速がユーリの体に負担を掛ける。
あまり連発して良い装備ではないのだ。
それでもユーリは後方へ下がる気配を見せない。
猟犬の如く、眼前の敵へと果敢に向かっていく。
●
友軍機が数機犠牲になったものの、ここで足を止める訳にはいかない。
着陸したCAM部隊は、一路北上を開始。
一気にホーチミンクラスタを目指す。
「今日の俺は、超絶に絶好調だぜ!」
ブリュンヒルデは一気に幹線道路を北上する。
元々部品取りに解体されようとしていた『誰かのお古』を利用した機体ではあるが、複座となった機体はDASの負荷軽減の為だけではない。
DASの他にブリュンヒルデの頭脳が複数ある事に、この機体の真髄がある。
「1時方向と9時方向から中型狂気が接近です!」
「挟めば止められると思ったのか? ブリュンヒルデを止めたかったら、もっと増援を呼んで来いっ!」
仮面の少女――メルからの状況報告。
それに対して乗っている旭は、敵撃破へと動き出す。二対四本の腕に装備された各装備を巧みに動かして迎撃する。
「おらよっ!」
ブリュンヒルデから放たれたミサイルランチャーが前方の中型狂気に命中。後方へと押し戻される。
その間に側面から来る中型狂気が至近距離までに迫ってくる。
「させません!」
メルはいざという時に準備していた隠し腕を起動。
中型狂気の脇腹へ突き刺さるクロー。瞬間、中型狂気の体が横へずれる。突き刺さったままのクローを、メールは振り抜き中型狂気を前方へと弾き飛ばした。
前方へ投げ出される形となった中型狂気。
そこへ旭がブリュンヒルデの全力射撃を叩き込む。
「複座は伊達じゃねぇんだよ!」
旭の叫び。
同時に放たれるは、二対四本の腕に装備されたミサイルランチャー、アサルトライフル、ガトリング砲。
弾丸の暴風が中型狂気二体を襲う。
旭は今まで、様々な物を失ってきた。
火星では死亡扱いされ、大気圏では最愛の人を失った。
だが、その過去があったとしても、今はこうして『誰か』を背に感じながら戦っている。
「こんなもんじゃ『俺達』は止められねぇんだよ!」
倒れた中型狂気を弾き飛ばしながら、ブリュンヒルデは更に北上を続けた。
●
「こちらアルターA。クラスターを見つけました」
アルターAのオリオンは、友軍機よりも少し先行した場所に着陸していた。
これは機動力に難があるとされていたオリオンをエンドレスのカタパルトで射出した事が大きな要因だ。
単独による先行。
場合によっては周囲を囲まれて袋だたきに遭う可能性もあった。
しかし、オリオンは通常のCAMではない。
「オリオン、まだ余裕はありますね? 友軍機が到着するには後5分ですか」
アルターAは友軍機の到着を待ってはいたが、同じ場所に留まり続ける事も危険と判断。北上を続けながら、友軍機との合流タイミングを推し量っていた。
間もなく友軍機は到着する。
なら、早々に敵を撃破してクラスタへの突入路を作っておけば、友軍の被害は少ない。「クラスタ内部の情報は不明。少しでも味方のダメージを減らしておくべきですか。
オリオン、ここからが本番です。太陽をこの手に」
アルターAはオリオンのホバーを起動。
機体を建物の影から表へと晒した。
気配を察してオリオンの前へ出る歪虚CAM。
「エンドレス、クラスタ周辺の敵はどの程度ですか?」
「現時点では5機程度ですが、周辺から敵が集まりつつあります」
「でしたら、味方が到着するまでに片付ければ無傷で突入できますね」
アルターAはリープテイルでオリオンを歪虚CAMへ急接近させる。
重圧に耐えながら、左手はフロントにある幾つかのボタンを押していく。
「『スクルド』、わたしに未来を見せて下さい」
起動する『DAS』。
オリオンのDASには、補助システムが存在している。この補助システムを利用して戦術予測システムとしてカスタマイズされたDAS『スクルド』は、擬似的な未来予知が可能になったとされている。
あくまでも確率の問題で完全的中する訳ではないが、アルターAはオリオンに信頼を寄せていた。
「正面の敵は銃撃。左右から来る歪虚CAMはヒートソードで接近戦、ですか。では、こちらも相応にお相手するとしましょう」
急加速のまま、左にいた歪虚CAMへマテリアル・アクス「アリアンロッドII」の一撃。
歪虚CAMを吹き飛ばす事に成功したが、背後から正面にいた歪虚CAMが銃口を向ける。
だが、それも『未来予測』済みだ。
アルターAは両肩のアクティブシールドを展開。
銃弾を防ぎながらリープテイルで右側の歪虚CAMへ肉薄。
勢いに乗ったまま、アリアンロッドIIを敵の腹部へと食い込ませた。
「良い調子です。これなら味方が到着する前に片付きそうです」
刃を引き抜かれて力を失った歪虚CAMを尻目に、オリオンは残る一機へ向き直った。
●
「こちらmercenario。クラスタへ突入、核を捜索中」
マリィアのmercenarioは、クラスタへ突入して目標の核を探し求めていた。
今回は敵の殲滅ではなく、クラスタの破壊が優先。となれば、会敵した段階で味方が敵を押さえ、その隙に他の機体が捜索に当たる方法を取っていた。
既にクラスタ内へ突入した味方が敵と交戦を続けている。
「ヴァルキリーではない機体だけど、ダメージはそれ程負っていない。これならいける」
mercenarioはカタパルト射出はしていなかったものの、降下中に対空砲破壊に注力していた。
ロングレンジライフル「ルギートゥスD5」で上空から狙撃。さらにフーファイターを使いながら、地点へ敵に銃撃を浴びせ続けた。味方も爆撃や銃撃を繰り返してくれたおかげで、mercenarioもダメージらしいダメージは負っていない。
「10時方向に歪虚CAM!」
マリィアは敵の気配を察して即座に反応。
敵が物陰から顔を出す前にmercenarioの試作型スラスターライフルを連射。敵をその場へと釘付けにする。
その間にmercenarioの後方からウーナのヴァルキリーが先行する。
「悪いね。こっちは一人じゃないんだ」
mercenarioの銃撃から逃れるように物陰に隠れていた歪虚CAMであったが、その場で止められていたが為にウーナの行動を押さえる事ができない。
結果、ヴァルキリーのマークスマンライフルが歪虚CAMに直撃する。
攻撃を受けた歪虚CAMは後方に飛ばされて地面に横たわると、動かなくなった。
「敵の出現頻度が高くなってるわね」
「そうね。こういう時ってそろそろ目標近くだったり……あ、あれじゃない?」
ウーナが指し示す先には三角錐の形をした青い結晶だった。
どす黒い雰囲気を放つそれが核だと直感で分かった。
「随分と簡単に到達できたわね」
「じゃあ、早速」
ウーナは結晶に向けてマークスマンライフルを撃った。
だが、銃弾は弾かれる事になる。
「あれ?」
「随分硬いようね。これを壊すとなると相当に銃弾を叩き込まないとダメなようね」
マリィアも結晶から距離を置いて狙撃をしてみたが、一撃では破壊する事ができない。
攻撃をし続けて結晶を何とか破壊する他無い。
しかし、敵もただその様子を見守っているはずがない。
「七時方向に敵の反応!」
「ちょっと、増援?」
マリィアの声を聞いたウーナは振り返った。
そこに居たのは一機の歪虚CAM。だが、雰囲気は明らかに普通じゃない。
「それは……壊させない……」
「喋った!」
「契約者、か。できれば出会いたくはなかったわね」
ウーナが驚く横で、マリィアは呟いた。
これだけ歪虚が侵攻した世界だ。歪虚側についた者や歪虚に命乞いをした者がいてもおかしくはない。そうした者を契約者として手駒に使うのは、マリィアでなくとも容易に想像はついた。
ヴァルキリーとmercenarioにアサルトライフルを向ける歪虚CAM。
二人がかりなら倒せるだろうが、その分結晶を破壊する時間を奪われる。敵の増援が来れば厄介な事になる。
――だが。
「私が相手をします! 二人は核の破壊をっ!」
歪虚CAMの横から割り込んできたのはユーリのラーズグリーズだ。
既に何度も敵と交戦していたのだろう。軽装甲のラーズグリーズはかなりのダメージを負っている。
「だ、大丈夫? その機体……」
「こちらの心配は無用です。その暇があるなら核を早く」
心配するウーナに返答するユーリ。
心配されるのも無理はない。既にラーズグリーズの体からは電気のスパークが見られる。操縦系にも何らかのダメージがあるのだろう。
それでも核破壊までユーリは敵を押さえなければならない。
「さぁここからよ……私の全部をあげる。だから、あなたの持っている物を全部、私に寄越しなさい」
ユーリはここでDASを起動させる。
だが、DASに反応らしい物は感じられない。
「え?」
驚くユーリ。
その間に斬艦刀をアサルトライフルで受け止めていた歪虚CAMは、ラーズグリーズに蹴り。
間合いを取る事でアサルトライフルへの銃撃を浴びせるつもりだ。
「反応なさい、DAS! ここであなたの力をお見せなさい。私は……私達はここで終わって良いはずがないでしょう。生きなければ、生き続けなければならないの!」
ユーリが叫ぶ。
次の瞬間、ラーズグリーズの体から噴き出す金色の粒子。
ダメージを負っていたラーズグリーズの周囲に粒子が漂う。
「これなら、いけます」
歪虚CAMが放つ前に、ラーズグリーズはリープテイル。
今までのリープテイルとは違う、段違いなスピード。
流れるように斬艦刀の一刀。
下段から跳ね上げられた刃は、歪虚CAMの操縦席を捉えて一撃の下に斬り落とす。
同時に、結晶の方も破壊の音が響いていた。
「……終わりよ」
mercenarioによるルギートゥスD5の一撃。
弾丸は結晶を貫き――破壊。
これがホーチミンクラスタの最後であった。
●
作戦の成功。
太陽会戦全体で見れば、小さな勝利ではある。だが、この勝利は地球規模で見ればかなり大きい勝利だ。この勝利は欧州や中南米の奪還作戦に影響を及ぼすだろう。
だが、パイロット達の興味は別の所にあった。
「生への執着。生きようとする力。それはDAS覚醒の鍵ですわ」
エンドレスへ戻ったユーリは、自身の考えを述べた。
危機的状況の中で生き抜こうとする力が、DASを覚醒させる鍵だと考えた。
言葉では簡単だが、実現するのは簡単ではない。
「エンドレス、教えて。ヴァルキリーのパイロットが最愛の人をみんな失っているのは何故? 失っていない人はパイロットになれないの?」
「パイロット自身は気付いていなくとも、パイロットを愛した人はいます。皆さんは、誰かを失っています」
「……それは、何かDASと関係があるの?」
話を聞いていたマリィアの一言。
だが、エンドレスから帰ってきた返答はDASの闇を感じさせる物であった。
「質問内容は軍事機密保全第23項に抵触する為、回答できません」
私が私であることが、間違っているような気がして。精神安定剤は処方されたけど……自分でも良くない傾向だと分かってるわ」
マリィア・バルデス(ka5848)が乗るR7エクスシアの前で、出撃用のハッチが開く。
統一地球連合軍揚陸艦『エンドレス』は、既に高度一万メートル。足下に広がる雲。更に下にはインドシナ半島がある。
マリィアは、作戦前でありながら敢えてそう呟いた。
戦争の中で希薄となる日常。無い物を追い求める自分を見つめる事で、自分を維持しようとしているのだろうか。
そう言っている間に、戦争と日常の境となっていた出撃用のハッチは完全に開いた。
ここからは非日常――狂気と死が入り交じるクソッタレな世界が横たわっている。
「ハロー、シチズン。私はエンドレスです。
『太陽会戦』開始時間です。皆さんは、降下した後に北へ進軍。ホーチミンクラスタを破壊して下さい」
統一地球連合宙軍極東支部がぶち上げたアジア地域奪還作戦。
ラオス、ベトナム北部に戦力を集中している隙にオーストラリアからの友軍が奇襲作戦を決行。ホーチミンにあるクラスタを破壊して南シナ海の制海権奪還を狙うのが今回の作戦だ。
オーストラリアから脱出したばかりのエンドレスも、この太陽会戦に駆り出されていた。
「よく分からねぇが、敵をぶっ倒せばいいんだろ。さっさと行ってぶっ壊してくるぜ」
ヴァルキリー複座改造実験機『ブリュンヒルデ』。
それに搭乗するアッシュ――岩井崎 旭(ka0234)の気合いはかなり高かった。
DASは搭載してされているものの暴走の危険のあるDASの負担を軽減する為に複座という別角度からのアプローチが成されている。二対四本の腕を携え、ホーチミンの空を舞う。
そして、後部座席に乗り込むのは年齢不詳、仮面を被った補充パイロットだ。
「はい! やってやるです! アサヒ君と一緒なら大丈夫です」
素性や年齢は不明で、この危険な太陽会戦の参加に自ら挙手した補充員なのだが、実は旭の追っかけである岩井崎 メル(ka0520)であった。
複座という対処法はCAMの体表を考えれば無理があった。この為、通常よりも狭い操縦席なのだが、メルにとってはその方が良かった。どんな危険な場所であろうとも、『ダーリン』と一緒ならば乗り越えられる自信があったからだ。
「……あれ? 自己紹介したっけ? 何で名前知っているんだ?」
旭からの唐突な質問に、メルは慌てた。
わざわざ正体を隠してまで旭の傍にきたというのに、つまらないボロを出す訳にもいかない。
「……え、あ……資料に載ってて……」
「そっか。ならいいか。よろしくな」
そう言った旭は複座の前席で最終チェックに戻る。
静かにメルはそっと胸を撫で下ろすのであった。
「エンドレス、一つ教えて。DASにリンクすれば独自でリミッターを外せるの?」
ヴァルキリー『ラーズグリーズ』に乗るユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は、出撃前にどうしても聞いておきたかった。
オーストラリア脱出時に確認されたヴァルキリー独自のシステム『DAS』――『Deadry Alliance System』。
詳細な構造や原理は機密だが、CAMパイロットの思考を読み取り、性能を飛躍的に向上させる機能を持つ。現に先の戦いでは通常以上の戦果を発揮していた。だが、未だに謎の多いシステムでもある。
「リミッターが外れる、という表現が正しいかも分かりません」
「どういう事?」
「オーストラリアから脱出する際の戦闘データを見れば、パイロットの意思でリミッターが外れた訳ではありません。窮地の中、パイロットの意志に呼応する形でDASは通常以上の性能を発揮しています」
エンドレスが前回の戦闘データから分析する。
どうやら、パイロット自身がDASのリミッターを外した訳ではないようだ。パイロットの危機を察してDASが自らリミッターを外した。そう考えるのが自然のようだ。
(という事は、リミッターを外すには何かしらの『鍵』があるという事ね)
ユーリは、思案する。
この戦いで鍵を見つけられれば良いのだが……。
「降下開始まで残り40秒。急いでチェックをお願いします」
「もう済んでいます」
アルターA――クオン・サガラ(ka0018)の心は、既に戦場にあった。
試験用の誤射で大破した『オリオン』にヴァルキリーの中枢とDASを移植した制圧仕様の大型CAM。
それがアルターAの相棒である新生『オリオン』であった。
高強度、重装甲・高出力を兼ね備えた機体であり、アクティブスラスターとジェットエンジンによる推進を可能にした反面、重量が通常CAMよりも重い。ホバー移動が主である為に小回りは効きにくく、反応速度もやや劣る。
それでもアルターAにとっては、オリオンの意志を継ぐこの機体に愛着を持ち始めている。
「エンドレス、カタパルトから出撃すれば目標までどこまで近付けますか?」
「通常降下よりも300メートルは降下地点よりズレる事になります。ですが、後続の機体から離れる為、注意が必要です」
「構いません。やって下さい」
「なら、こっちは先に行かせてもわうね。早く行って降下地点の制圧をやらないとね」
ヴァルキリーで誰よりも早々に降下したのは、ウーナ(ka1439)であった。
両肩にシールド、機関砲とマークスマンライフルの変装二挺銃。
この標準的な装備でありながら、ウーナは敢えて先行して降下する。危険なのは降下して着地するまでの瞬間だ。敵の迎撃も相応に激しいだろう。一機でも多く地上へ到達する為には、降下予定地点の対空砲を一つでも多く沈黙させる事にある。
「じゃあ、いくよ」
ウーナのヴァルキリーは、真っ先に飛び出した。
支えていた地面が消え、機体は一気に重力に引かれる。
高度一万メートルからのダイブ――それは、まさに決死行であった。
●
エンドレスからの降下に呼応するように、友軍機からもCAM部隊が降下を開始する。
もし、これで作戦が失敗するようであれば責任問題どころの騒ぎではない。ベトナム北部では敵の主力と交戦するのだ。被害はかなり大きい物となるだろう。それだけ、このホーチミン奇襲に賭けなければならない程、追い詰められているのだ。
だが、主力が不在であってもホーチミンの防衛は薄くは無かった。
「……お、降りられるのかよっ! う、うわああああ!」
各機の通信機から漏れ聞こえた男の声。
その声の後に響く爆発音。
おそらく、敵の対空砲に直撃したのだろう。
無理もない、モニターに映し出される対空砲火の雨を見れば分かる。この弾丸の中を、各機は掻い潜って降下しなければならないのだから。
「行きますよ、オリオン。味方の進む道を切り拓きます」
アルターAは、パラシュートを開く前の降下中で早くも行動を開始する。
バックパックに増設されたスラスターと共に追加されたコンテナが開き、サーモバリック弾頭の多連装ロケット弾が顔を見せる。
上空からの爆撃を行う事で対空砲を黙らせるつもりなのだ。
「直撃しなくても構いません。一機でも多く仲間を救えれるなら!」
放たれる多連装ロケット弾。
上空で様々な軌道を描きながら、地表へ次々と突き刺さっていく。
地面で幾つも開く大きな爆発。
降下地点は一時的に空白地点となる。
だが、敵は対空砲ばかりではない。
「降りた途端に攻撃しようって魂胆。見え見えだよ」
急降下する中でも、ウーナは機関砲を中型狂気に向ける。
仮に対空砲の砲火を掻い潜ったとしても、着陸直後に中型狂気や歪虚CAMが友軍を襲う事は十分考えられる。
作戦成功の要は、友軍機が如何に無傷のまま降下に成功できるかにあるのだ。
「『軌道上のサロメ』に似てる? 他人のそら似だよ……そう。似ているだけ、だから」
目標を照準に収めた瞬間、ウーナはトリガーを引いた。
機関砲が派手な音を立てながら、地面を穿つ。そして、射線上にいた中型狂気の体に何発も風穴を開ける。
「……いけるか? いや、やるしかないか」
マリィアのロングレンジライフル「ルギートゥスD5」を構える。
体勢が安定しない上空からの長距離狙撃。
慣れていない機体では死にに行くようなものと、いつものR7エクスシアで出撃したのは有事における即応が容易からだ。
慣れた機体なら、多少の無理も聞いてくれる。
「無茶を押し通さないといけない時もあるの。今がそうだから」
対空砲に狙いを定め、マリィアは引き金を引いた。
次の瞬間、対空砲の体表を貫き――爆発。どうやら、対空砲の防御力は想定よりも高くはないようだ。
「へっへー。一番のり!」
最初に降下したウーナは、早々に降下地点周辺の敵掃討を開始。
友軍を引き入れる準備を始める。
「ようやく降下成功ね。遅れは許されないわ。行くわよ、ラーズグリーズ」
ユーリのラーズグリーズも地上へと到達した。
ラーズグリーズは加速装置『リープテイル』が搭載された高機動性のCAMだ。だが、ユーリはさらに高機動を実現する為に、余分な装甲を排除。
リープテイル以外の武装はユーリの意志により斬艦刀とクロータイプマテリアルフィスト。接近戦を重視した機体だが、機動性を上げる為に装甲を大幅に薄くしていた。
当たれば――アウト。
だが、それがユーリの選んだ戦い方だ。
「私自身が自ら死へ踏み込み、そのまま突き進む。大丈夫よ、だから私は……『死なない』」
レーダーが後方からの歪虚CA配を察知。
ユーリは機体を反転させる事無く、リープテイルで右へ移動。敵の銃撃を躱しながら、旋回。一気に敵との間合いを詰める。
そして、斬撃。
斬艦刀が円を描き、刃が歪虚CAMの体を捉えていた。
歪虚CAMに反撃の隙を与えぬラーズグリーズの接近戦。
しかし、それは同時にユーリの体にもダメージが蓄積する。
「くっ……リープテイルか」
加速装置として優秀なリープテイルではあるが、その加速がユーリの体に負担を掛ける。
あまり連発して良い装備ではないのだ。
それでもユーリは後方へ下がる気配を見せない。
猟犬の如く、眼前の敵へと果敢に向かっていく。
●
友軍機が数機犠牲になったものの、ここで足を止める訳にはいかない。
着陸したCAM部隊は、一路北上を開始。
一気にホーチミンクラスタを目指す。
「今日の俺は、超絶に絶好調だぜ!」
ブリュンヒルデは一気に幹線道路を北上する。
元々部品取りに解体されようとしていた『誰かのお古』を利用した機体ではあるが、複座となった機体はDASの負荷軽減の為だけではない。
DASの他にブリュンヒルデの頭脳が複数ある事に、この機体の真髄がある。
「1時方向と9時方向から中型狂気が接近です!」
「挟めば止められると思ったのか? ブリュンヒルデを止めたかったら、もっと増援を呼んで来いっ!」
仮面の少女――メルからの状況報告。
それに対して乗っている旭は、敵撃破へと動き出す。二対四本の腕に装備された各装備を巧みに動かして迎撃する。
「おらよっ!」
ブリュンヒルデから放たれたミサイルランチャーが前方の中型狂気に命中。後方へと押し戻される。
その間に側面から来る中型狂気が至近距離までに迫ってくる。
「させません!」
メルはいざという時に準備していた隠し腕を起動。
中型狂気の脇腹へ突き刺さるクロー。瞬間、中型狂気の体が横へずれる。突き刺さったままのクローを、メールは振り抜き中型狂気を前方へと弾き飛ばした。
前方へ投げ出される形となった中型狂気。
そこへ旭がブリュンヒルデの全力射撃を叩き込む。
「複座は伊達じゃねぇんだよ!」
旭の叫び。
同時に放たれるは、二対四本の腕に装備されたミサイルランチャー、アサルトライフル、ガトリング砲。
弾丸の暴風が中型狂気二体を襲う。
旭は今まで、様々な物を失ってきた。
火星では死亡扱いされ、大気圏では最愛の人を失った。
だが、その過去があったとしても、今はこうして『誰か』を背に感じながら戦っている。
「こんなもんじゃ『俺達』は止められねぇんだよ!」
倒れた中型狂気を弾き飛ばしながら、ブリュンヒルデは更に北上を続けた。
●
「こちらアルターA。クラスターを見つけました」
アルターAのオリオンは、友軍機よりも少し先行した場所に着陸していた。
これは機動力に難があるとされていたオリオンをエンドレスのカタパルトで射出した事が大きな要因だ。
単独による先行。
場合によっては周囲を囲まれて袋だたきに遭う可能性もあった。
しかし、オリオンは通常のCAMではない。
「オリオン、まだ余裕はありますね? 友軍機が到着するには後5分ですか」
アルターAは友軍機の到着を待ってはいたが、同じ場所に留まり続ける事も危険と判断。北上を続けながら、友軍機との合流タイミングを推し量っていた。
間もなく友軍機は到着する。
なら、早々に敵を撃破してクラスタへの突入路を作っておけば、友軍の被害は少ない。「クラスタ内部の情報は不明。少しでも味方のダメージを減らしておくべきですか。
オリオン、ここからが本番です。太陽をこの手に」
アルターAはオリオンのホバーを起動。
機体を建物の影から表へと晒した。
気配を察してオリオンの前へ出る歪虚CAM。
「エンドレス、クラスタ周辺の敵はどの程度ですか?」
「現時点では5機程度ですが、周辺から敵が集まりつつあります」
「でしたら、味方が到着するまでに片付ければ無傷で突入できますね」
アルターAはリープテイルでオリオンを歪虚CAMへ急接近させる。
重圧に耐えながら、左手はフロントにある幾つかのボタンを押していく。
「『スクルド』、わたしに未来を見せて下さい」
起動する『DAS』。
オリオンのDASには、補助システムが存在している。この補助システムを利用して戦術予測システムとしてカスタマイズされたDAS『スクルド』は、擬似的な未来予知が可能になったとされている。
あくまでも確率の問題で完全的中する訳ではないが、アルターAはオリオンに信頼を寄せていた。
「正面の敵は銃撃。左右から来る歪虚CAMはヒートソードで接近戦、ですか。では、こちらも相応にお相手するとしましょう」
急加速のまま、左にいた歪虚CAMへマテリアル・アクス「アリアンロッドII」の一撃。
歪虚CAMを吹き飛ばす事に成功したが、背後から正面にいた歪虚CAMが銃口を向ける。
だが、それも『未来予測』済みだ。
アルターAは両肩のアクティブシールドを展開。
銃弾を防ぎながらリープテイルで右側の歪虚CAMへ肉薄。
勢いに乗ったまま、アリアンロッドIIを敵の腹部へと食い込ませた。
「良い調子です。これなら味方が到着する前に片付きそうです」
刃を引き抜かれて力を失った歪虚CAMを尻目に、オリオンは残る一機へ向き直った。
●
「こちらmercenario。クラスタへ突入、核を捜索中」
マリィアのmercenarioは、クラスタへ突入して目標の核を探し求めていた。
今回は敵の殲滅ではなく、クラスタの破壊が優先。となれば、会敵した段階で味方が敵を押さえ、その隙に他の機体が捜索に当たる方法を取っていた。
既にクラスタ内へ突入した味方が敵と交戦を続けている。
「ヴァルキリーではない機体だけど、ダメージはそれ程負っていない。これならいける」
mercenarioはカタパルト射出はしていなかったものの、降下中に対空砲破壊に注力していた。
ロングレンジライフル「ルギートゥスD5」で上空から狙撃。さらにフーファイターを使いながら、地点へ敵に銃撃を浴びせ続けた。味方も爆撃や銃撃を繰り返してくれたおかげで、mercenarioもダメージらしいダメージは負っていない。
「10時方向に歪虚CAM!」
マリィアは敵の気配を察して即座に反応。
敵が物陰から顔を出す前にmercenarioの試作型スラスターライフルを連射。敵をその場へと釘付けにする。
その間にmercenarioの後方からウーナのヴァルキリーが先行する。
「悪いね。こっちは一人じゃないんだ」
mercenarioの銃撃から逃れるように物陰に隠れていた歪虚CAMであったが、その場で止められていたが為にウーナの行動を押さえる事ができない。
結果、ヴァルキリーのマークスマンライフルが歪虚CAMに直撃する。
攻撃を受けた歪虚CAMは後方に飛ばされて地面に横たわると、動かなくなった。
「敵の出現頻度が高くなってるわね」
「そうね。こういう時ってそろそろ目標近くだったり……あ、あれじゃない?」
ウーナが指し示す先には三角錐の形をした青い結晶だった。
どす黒い雰囲気を放つそれが核だと直感で分かった。
「随分と簡単に到達できたわね」
「じゃあ、早速」
ウーナは結晶に向けてマークスマンライフルを撃った。
だが、銃弾は弾かれる事になる。
「あれ?」
「随分硬いようね。これを壊すとなると相当に銃弾を叩き込まないとダメなようね」
マリィアも結晶から距離を置いて狙撃をしてみたが、一撃では破壊する事ができない。
攻撃をし続けて結晶を何とか破壊する他無い。
しかし、敵もただその様子を見守っているはずがない。
「七時方向に敵の反応!」
「ちょっと、増援?」
マリィアの声を聞いたウーナは振り返った。
そこに居たのは一機の歪虚CAM。だが、雰囲気は明らかに普通じゃない。
「それは……壊させない……」
「喋った!」
「契約者、か。できれば出会いたくはなかったわね」
ウーナが驚く横で、マリィアは呟いた。
これだけ歪虚が侵攻した世界だ。歪虚側についた者や歪虚に命乞いをした者がいてもおかしくはない。そうした者を契約者として手駒に使うのは、マリィアでなくとも容易に想像はついた。
ヴァルキリーとmercenarioにアサルトライフルを向ける歪虚CAM。
二人がかりなら倒せるだろうが、その分結晶を破壊する時間を奪われる。敵の増援が来れば厄介な事になる。
――だが。
「私が相手をします! 二人は核の破壊をっ!」
歪虚CAMの横から割り込んできたのはユーリのラーズグリーズだ。
既に何度も敵と交戦していたのだろう。軽装甲のラーズグリーズはかなりのダメージを負っている。
「だ、大丈夫? その機体……」
「こちらの心配は無用です。その暇があるなら核を早く」
心配するウーナに返答するユーリ。
心配されるのも無理はない。既にラーズグリーズの体からは電気のスパークが見られる。操縦系にも何らかのダメージがあるのだろう。
それでも核破壊までユーリは敵を押さえなければならない。
「さぁここからよ……私の全部をあげる。だから、あなたの持っている物を全部、私に寄越しなさい」
ユーリはここでDASを起動させる。
だが、DASに反応らしい物は感じられない。
「え?」
驚くユーリ。
その間に斬艦刀をアサルトライフルで受け止めていた歪虚CAMは、ラーズグリーズに蹴り。
間合いを取る事でアサルトライフルへの銃撃を浴びせるつもりだ。
「反応なさい、DAS! ここであなたの力をお見せなさい。私は……私達はここで終わって良いはずがないでしょう。生きなければ、生き続けなければならないの!」
ユーリが叫ぶ。
次の瞬間、ラーズグリーズの体から噴き出す金色の粒子。
ダメージを負っていたラーズグリーズの周囲に粒子が漂う。
「これなら、いけます」
歪虚CAMが放つ前に、ラーズグリーズはリープテイル。
今までのリープテイルとは違う、段違いなスピード。
流れるように斬艦刀の一刀。
下段から跳ね上げられた刃は、歪虚CAMの操縦席を捉えて一撃の下に斬り落とす。
同時に、結晶の方も破壊の音が響いていた。
「……終わりよ」
mercenarioによるルギートゥスD5の一撃。
弾丸は結晶を貫き――破壊。
これがホーチミンクラスタの最後であった。
●
作戦の成功。
太陽会戦全体で見れば、小さな勝利ではある。だが、この勝利は地球規模で見ればかなり大きい勝利だ。この勝利は欧州や中南米の奪還作戦に影響を及ぼすだろう。
だが、パイロット達の興味は別の所にあった。
「生への執着。生きようとする力。それはDAS覚醒の鍵ですわ」
エンドレスへ戻ったユーリは、自身の考えを述べた。
危機的状況の中で生き抜こうとする力が、DASを覚醒させる鍵だと考えた。
言葉では簡単だが、実現するのは簡単ではない。
「エンドレス、教えて。ヴァルキリーのパイロットが最愛の人をみんな失っているのは何故? 失っていない人はパイロットになれないの?」
「パイロット自身は気付いていなくとも、パイロットを愛した人はいます。皆さんは、誰かを失っています」
「……それは、何かDASと関係があるの?」
話を聞いていたマリィアの一言。
だが、エンドレスから帰ってきた返答はDASの闇を感じさせる物であった。
「質問内容は軍事機密保全第23項に抵触する為、回答できません」
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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ブリーフィングルーム 岩井崎 メル(ka0520) 人間(リアルブルー)|17才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/04/05 00:00:32 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/04 23:58:03 |