ゲスト
(ka0000)
【AP】ノッキン・オン・“ヘヴンズドア”
マスター:のどか

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~4人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/08 07:30
- 完成日
- 2018/04/20 02:53
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
長い長い階段を抜けると、そこは地下の天国だった。
地区一番の広さを持つこの“ハコ”の中は逃げ場のない熱気でぎゅうぎゅう詰めであり、蒸発した汗で自然と巻き起こったスチームの中でステージ上の少女達が魂の叫びを歌う。
が、中央でマイクスタンドに齧りついた青いゴシパン衣装のボーカルが、会場入りした君たちの姿を見つけると、甲高いギターの音を響かせてピタリと演奏を止めた。
そのまま汗に濡れるショートカットから覗いた鋭い眼光で見つめると、不敵な笑みを浮かべてマイクを掴む。
「こんなトコまでよく来たな、てめぇら……」
その言葉に、会場の視線が一斉にキミ達の方へと向いた。
その一体感、そして完全あるアウェー感に思わずゴクリと息を飲む。
「ウチらのハコに楽器背負って足を踏み入れたってことは――どういう意味か分かってるんだろうなぁ?」
ステージ正面のスピーカーにドンと足を乗せて、食い気味に尋ねる少女。
彼女こそ、この街の下層地区のライブハウス一帯を手中に収めるファンシーパンクバンド「ヘヴンズドア」のリーダー――カナデであった。
――説明しよう!
多くの若者たちが集うここリゼリオシティでは、まさにバンド戦国時代。
沢山の音楽家達がメンバーを募ってチームを組んでは、街中に数多存在するライブハウス――ハコでの公演権を争って激しい火花を散らしているぞ!
演奏できるハコの数が、すなわちそのバンドの人気――栄光へと繋がる。
誰もが欲しい、TOPの称号さ。
ただ、この街のバンドバトルは一味違う……真のパッションを持ったチーム同士の戦いでは、チームごとの演奏によってほとばしる“エモさ”が目に見える姿・形となって、文字通りに観客の目の前で戦いを繰り広げるのだ。
それは神々しい天使の姿であったり、荒々しい猛獣の姿であったり、バンドによっても曲によっても様々だ!
1つだけ共通するのは、どんなに強そうな見た目をしていても――エモい方が勝利する!
この力の悪用を危惧した街を管理する上部組織“ソサエティ”は、バンドバトルを条例によって明確なルール化を行うと同時に、若者たちのガス抜きの方法として推進してるのさ。
ルールは簡単!
すでに固定のバンドがついているハコへ別のバンドが立ち入った時、両者の合意の下でバトルが勃発!
3曲vs3曲を2両者同時に演奏し、より多く勝利した――エモいチームがそのハコの新たな支配者になるというわけだ。
毎朝毎夜、街中で行われている激闘に、市民たちは常に関心を向けているぞ!
集え、若者よ!
リゼリオシティは、キミ達の熱いパッションを歓迎する!
彼女の圧に動じることなく頷いた君たちを、カナデはハンと鼻先で笑うとステージ中央へと戻っていく。
「それで、あんた達はいくつハコを持ってるのかな?」
入れ違いに、赤い和風ゴスの少女――キーボードのルミが挑戦的に首をかしげる。
君たちが静かに首を横に振ると、小柄なベースの少女――フブキがキャラキャラとキャンディのような笑い声をあげた。
「だ、大丈夫ですか? そんなんで、この地区TOPのハコ数を誇るこの“ヘヴンズドア”に……あはは、おっかしい!」
「……あんまり笑うものじゃないよ、フブキ」
そんな彼女を嗜めるように口にして、ベースのスレンダーな少女――アリスが、クールな表情でキミ達を見やる。
「戦う以上はこっちも本気だ。悪いけど、2曲で終わらせるよ」
その言葉を受けて、持ち場に戻ったカナデがダンッと靴底でステージを打ち鳴らす。
すると自分たちと観客を挟んで対岸――キミ達のすぐ横に燦々とスポットライトが灯り、挑戦者用のステージが照らし出された。
それからカナデはもう一度嘗め回すように挑戦者を見渡して、八重歯を見せて闘志むき出しの笑みを浮かべる。
――てめぇら……雁首揃えて今日はとことん、あの世の先の先まで付き合って貰うぜッ!
地区一番の広さを持つこの“ハコ”の中は逃げ場のない熱気でぎゅうぎゅう詰めであり、蒸発した汗で自然と巻き起こったスチームの中でステージ上の少女達が魂の叫びを歌う。
が、中央でマイクスタンドに齧りついた青いゴシパン衣装のボーカルが、会場入りした君たちの姿を見つけると、甲高いギターの音を響かせてピタリと演奏を止めた。
そのまま汗に濡れるショートカットから覗いた鋭い眼光で見つめると、不敵な笑みを浮かべてマイクを掴む。
「こんなトコまでよく来たな、てめぇら……」
その言葉に、会場の視線が一斉にキミ達の方へと向いた。
その一体感、そして完全あるアウェー感に思わずゴクリと息を飲む。
「ウチらのハコに楽器背負って足を踏み入れたってことは――どういう意味か分かってるんだろうなぁ?」
ステージ正面のスピーカーにドンと足を乗せて、食い気味に尋ねる少女。
彼女こそ、この街の下層地区のライブハウス一帯を手中に収めるファンシーパンクバンド「ヘヴンズドア」のリーダー――カナデであった。
――説明しよう!
多くの若者たちが集うここリゼリオシティでは、まさにバンド戦国時代。
沢山の音楽家達がメンバーを募ってチームを組んでは、街中に数多存在するライブハウス――ハコでの公演権を争って激しい火花を散らしているぞ!
演奏できるハコの数が、すなわちそのバンドの人気――栄光へと繋がる。
誰もが欲しい、TOPの称号さ。
ただ、この街のバンドバトルは一味違う……真のパッションを持ったチーム同士の戦いでは、チームごとの演奏によってほとばしる“エモさ”が目に見える姿・形となって、文字通りに観客の目の前で戦いを繰り広げるのだ。
それは神々しい天使の姿であったり、荒々しい猛獣の姿であったり、バンドによっても曲によっても様々だ!
1つだけ共通するのは、どんなに強そうな見た目をしていても――エモい方が勝利する!
この力の悪用を危惧した街を管理する上部組織“ソサエティ”は、バンドバトルを条例によって明確なルール化を行うと同時に、若者たちのガス抜きの方法として推進してるのさ。
ルールは簡単!
すでに固定のバンドがついているハコへ別のバンドが立ち入った時、両者の合意の下でバトルが勃発!
3曲vs3曲を2両者同時に演奏し、より多く勝利した――エモいチームがそのハコの新たな支配者になるというわけだ。
毎朝毎夜、街中で行われている激闘に、市民たちは常に関心を向けているぞ!
集え、若者よ!
リゼリオシティは、キミ達の熱いパッションを歓迎する!
彼女の圧に動じることなく頷いた君たちを、カナデはハンと鼻先で笑うとステージ中央へと戻っていく。
「それで、あんた達はいくつハコを持ってるのかな?」
入れ違いに、赤い和風ゴスの少女――キーボードのルミが挑戦的に首をかしげる。
君たちが静かに首を横に振ると、小柄なベースの少女――フブキがキャラキャラとキャンディのような笑い声をあげた。
「だ、大丈夫ですか? そんなんで、この地区TOPのハコ数を誇るこの“ヘヴンズドア”に……あはは、おっかしい!」
「……あんまり笑うものじゃないよ、フブキ」
そんな彼女を嗜めるように口にして、ベースのスレンダーな少女――アリスが、クールな表情でキミ達を見やる。
「戦う以上はこっちも本気だ。悪いけど、2曲で終わらせるよ」
その言葉を受けて、持ち場に戻ったカナデがダンッと靴底でステージを打ち鳴らす。
すると自分たちと観客を挟んで対岸――キミ達のすぐ横に燦々とスポットライトが灯り、挑戦者用のステージが照らし出された。
それからカナデはもう一度嘗め回すように挑戦者を見渡して、八重歯を見せて闘志むき出しの笑みを浮かべる。
――てめぇら……雁首揃えて今日はとことん、あの世の先の先まで付き合って貰うぜッ!
リプレイ本文
●
静寂はすなわちファンファーレ。
息を飲む観客たちを挟み込むようにして、そう広くはない会場の両端に立ったバンドがにらみ合う。
ハコの中を漂うのはつい今しがたまでの演奏で高まったバイブス。
深く息を吸い込むと少しツンとした熱気が鼻孔をくすぐって、それと同時に意識がカチリと切り替わるのを感じていた。
「初めからクライマックスでいくぜ……!!」
地の底まで響くような重低音が鼓膜から丹田までを激しくノックする。
お馴染みのナンバーなのか天井をビリビリと震わせる歓声と共に客のボルテージが一気に上り詰めると、まだ幻影が姿を現していないにも関わらず激しい衝撃が対岸のメンバーの足元をすくった。
「くっ……これほどか!」
思わず身を屈めるようにして耐えながら、キヅカ・リク(ka0038)は仲間達と顔を見合わせ、頷き合う。
「1――2――3――4!!」
ドラムセットの前で腕を組み、声だけを張り上げたジャック・J・グリーヴ(ka1305)のテンポに合わせて滑らかなギターメロディが張り合うようにスピーカーを震わせる。
「そう言えば、名前を聞いてなかったな挑戦者」
お互いの前奏のぶつかり合いの中で、不敵な笑みを浮かべながらカナデが問う。
「私たちは“ヘルズゲート”――地獄の底から、這いあがりに来たわ!」
ショルダーキーボードを携えた天王寺茜(ka4080)が真っすぐな瞳でそう答えると、カナデは鋭い犬歯を覗かせて派手に笑い声を上げてピックを持つ右手で前髪をかき上げる。
「獄門、いいねえ。なら、うってつけのナンバーだ。ぶっ壊してやるぜ――『ヘルダイバー』ッ!!」
激しいギターのリードと共に、カナデの絶叫がスピーカーを突き破らん勢いで会場へと響いた。
同時に叫びは天井付近に発生した「熱気雲」と混ざり合い、渦巻き、嵐となってやがて強靭な黒い四肢を生み出す。
四つ足がどっかりと宙の地面を踏みしめると、自ら発生させた嵐をも吹き飛ばして、獰猛な黒犬の姿がそこに現れていた。
「リーダー、こっちもぶちかましてやろうぜっ!」
ツインでギターを担うリュー・グランフェスト(ka2419)が叫ぶ。
彼は目の前の禍々しい獣を前に物怖じせず、むしろ好奇に満ちた瞳でそれを一心に見つめていた。
リクは苦い表情で頷くと、目の前のスタンドに備えられたマイクへ口を開く。
「『証明』――僕らは迷わない」
迷える背中を支え、共に一歩を踏み出す青春歌。
が――口ずさむメロディーは、「音」として響いてもその「形」を成すことがなかった。
「リク……!?」
茜が驚いたようにその表情を伺うが、リクは構わずに曲を紡ぎ続ける。
「あらあら、どうしたの? もしかして『力』も持たずに舞台に上がったっていうの? ねぇ??」
どこか見下したような目線で邪気に満ちた笑みを浮かべるヘブンズドアのベーシスト・フブキ。
その後ろで、汗の雫を光らせながらドラムを叩くアリスがどこか不審な視線をヘルズゲートのステージへと向けていた。
(あのドラム……何をするつもりなんやろう?)
ドラマーのジャックは無言でドラムの前で腕組をしたままである。
だがスピーカーから確かに刻んだビートが聞こえている……つまり、これは録音音源?
悪寒に眉を潜めたアリスを他所に、カナデは挑戦的にフロントスピーカーをどっかりと踏みつけた。
「ソノ気がねぇなら喰らってやるぜ! 蹂躙だッ!!」
黒犬が駆けた。
客のうねりがウェーブとなって、サイリウムの輝きと共にそれを送り出す。
「来るぜ、リーダー!」
「分かってる……!」
流石に焦りを滲ませるリューに、落ち着きながらも頬に汗を滲ませるリク。
狂犬の禍々しく開いた口が、牙が、その眼前に迫る。
だが、それから身を護る手段すらなかった『ヘルズゲート』の面々は――全身を鞭打つような衝撃に、思わず吹き飛ばされてしまっていた。
●
演奏が止んで、会場を狂犬のメロディが支配する。
『ヘヴンズドア』コールに包まれる中で、ヘルズゲートの4人はよろめきながらも浅い息と共に立ち上がった。
不安の色を見せるメンバーに、リクは「これでいい」と首を横に振る。
「……上等だ。この俺様がホンモノのエモさってヤツを刻み込んでやるぜ!」
ただ1人『演奏』をしていないジャックのパートは、相変わらずスピーカーから「音源」として流れ続けている。
その中で彼は燦々と降り注ぐスポットライトを浴びながら美しいダブルバイセップスを決めると――その身に纏った服が、轟音と共にはじけ飛んだ。
何事かと、咄嗟に観客の視線が後方、ヘルズゲートのステージへと向く。
その一瞬を逃しはしない――ささっと足元の電板で音源を次の楽曲へと切り替えると、堤太鼓の古風な音がハコの空気に異彩を放った。
「やられっぱなしってわけにはよ……!」
リューがギターを傍らのスタンドに立てかけると、代わりにディスプレイだと思われていた三味線に手を掛ける。
そしてピンと張り詰めた弦を「バチ」で軽やかに弾くと、そのまま軽快なリズムを刻み始める。
「2ndステージか。いいぜ、付き合ってやる!」
「カナデ、交代っ!」
ルミの掛け声にカナデがハイタッチで答えて、センターが入れ替わる。
「和ロックとか、あたしと被ってるのよ!」
彼女のキーボードから響く神々しいばかりの和音に、スポットライトが虹色の光を放つ。
それに導かれるようにして、美しい蓮の花が会場に咲き乱れた。
「ここはあたしたちのステージ――『ノッキン・オン・ヘヴンズドア』!」
花弁の中から現れたのは巨大な金色の観音像。
慈悲深い笑みが曲に合わせて会場を見下ろす。
一方、堤の音に合わせてジャックの頭上でどこからともなく現れた屏風絵がばらばらと砕けていく。
その先に、堂々とした姿で腰かける男の姿に、観客たちは思わず息を飲んだ。
第六天魔王――NOBUNAGA ODA。
彼は、ぬらりとした視線でガンを付けるように観音の姿を見上げると、目の前に現れた香炉の灰をむんずと掴み取って、勢いよくその微笑みへと投げつけた。
「『人間五十年』――下剋上だッ!」
激しいオリエンタルミュージックに、ジャックの肉体が宙を舞う。
そのままステージ中央に着地すると、ビシリとポーズを決めてみせた。
「おおぅ……さすがイケムーディスト・ジャック様(自称)よねえ」
茜はどこか引きつった笑みを浮かべながらも、キーボードの電子音を和琴にチューンして跳ねるようにキーを叩く。
一方、灰を投げつけらえた観音はそれでも笑みを絶やさず、しかしながらどこか怒気を滲ませると額の白毫が虹色の光に包まれた。
「極楽観音を侮辱するなんて許さない――仏ビーム!!」
どこか気の抜けたルミの掛け声に、白毫の輝きが一筋の光となって会場を縦横無尽に駆け巡る。
仏ビームを受けた観客たちは、どこか恍惚とした表情で金色の輝きに手を合わせていった。
「させるかよ……っ!」
いつの間に持ち込んだのか、ジャックは大ぶりの本マグロを自慢の胸板と腕筋の圧で真っ二つにへし折って見せると、幻影のNOBUNAGAがゆらりとその腰を上げた。
ひらひらと木の葉のように舞いながらビームを躱して間合いを詰めた彼は、一瞬の閃きと共に愛刀「圧切」を抜き放つ。
直後――虹色の白毫が直毛となってはらりと宙を舞った。
「なっ……にしてくれるのッ!」
「お仕置きよ! タコ殴りよ!」
フブキが叫びながら超絶技巧のベースソロに突入すると、観音の背中がわなわなと震え出して数多の「腕」が一斉に噴き出した。
「目にもの見せてやりなさい!」
現れた998本の腕――元の2本と併せて計1000本の拳が、NOBUNAGAの頭上に迫る。
彼は目に見えぬ速さの刃でそれを1つ1ついなして見せるも、1対1000の戦いには無理がある。
フレキシブルな肉体で魅せる筋肉チアダンスで音頭を取るジャックの額にも、大粒の汗が噴き出していた。
「させるか……っ!」
リクのギターがリューら和楽器のノスタルジックな旋律に乗る。
同時に、熱気雲の中から足を踏み出す数多の足軽たちの影が隊列を組んで視界いっぱいに現れた。
「踊れ、足軽ダンサーズ!!」
大勢の足軽の幻影が、一斉にジャックのダンスを完コピして踊り始める。
1人1人の迫力は無いが、それでも俺たちの武器は雑草ばりの数だ!
とでも言わんばかりにキレッキレのダンスを魅せる彼らは、そのままにじり寄るように進軍していった。
「ぶちのめしてやるわっ!」
高笑いするフブキに、1000本の腕が足軽たちへと迫る。
振るわれた黄金の拳は1つ1つが一騎当千。
当然、雑兵達では太刀打ちできるはずがない。
だが、彼らは自らの身体を打ち、骨を砕いたその拳へと――歯を食いしばり、命からがらしがみ付く。
数多の足軽が数多の腕を抑え込み、圧しとどめ、命がけで殿の花道を作り出すのだ。
「魅せてやるよ……俺たちがどれだけエモいのかをな!」
NOBUNABAの刃が奇跡を描く。
鋭く鈍ることのない切っ先が、黄金観音の左胸部を深々と貫いていた。
●
下層地区とは言え、クイーンの陥落に観客たちは困惑の色を示していた。
それは王者たる本人たちも同じことで、消えていく黄金の輝きを前に思わず息を飲む。
「どうやら……ナメて掛かる余裕はないみてぇだな」
伝った汗を拭いながら、カナデは目の前のマイクスタンドを蹴とばす。
こんなモノに頼っていたら本当のパッションは、声は届けられない。
かつてこの地区の前王者を蹴散らした時、彼女が見せた最大のファイティングポーズであった。
「この波に乗って行こう、茜!」
「OKっ! 観客の皆、盛り上がってるぅー!? Yeahh!!」
息を吐く間を置かず、ステージ前へと踏み出した茜が拳を振り上げる。
「Yeahh!!」
「Yeahh!!」
狼狽えていた観客たちも、繰り返された彼女のコールに声を合わせて叫び始めた。
「2曲なんかじゃ終わらせない。今度はコッチから行くわよ――『恋桜前線』!!」
曲の宣言に応じて、小刻みなポップビートが会場を包む。
「恋の季節は春……そして春は、私たちの季節よ!」
茜の快活な歌声に乗って、会場を淡い桜吹雪が包み込む。
桃色の旋風の中で現れるのは可愛らしい花の妖精たち。
彼女らは演奏する茜とじゃれ合うようにステージ上を飛び回っていた。
「どうカナデ。私たち、貴方たちを熱くさせてる?」
挑戦的な茜の言葉に、カナデはどこか含みのある笑で口角を吊り上げる。
「……アレで行く」
「アレ……って、まだ練習中――」
詰め寄ったルミを制して、カナデはバックのフブキとアリスを深みのある色の瞳で見渡した。
彼女らは肩を竦めてみせると、フブキのスティックが物言わずにテンポを取る。
次いでバスドラムとベースが刻んだのは、ゆったりとしたBPMの低いリズム。
キーボードはピアノ音源、ギターもいつもの爆発的なパッションがない。
「この曲調って……バラード?」
リューが目を丸くして、対岸のステージを見張る。
バンドのイメージに似つかわしくない曲に、あからさまな戸惑いが見える。
拳を突き合わせて、互いに意思を疎通するカナデとルミ。
スポットライトの下で2人の口は同時に開いた。
「――『Dear』」
世界が虹色のフィルムに包まれると、淡い輝きが客席の頭上で形を成す。
産声と共に現れたのは――巻貝のベッドで眠る、健やかな赤ん坊の幻影であった。
「へっ、ここに来て路線変更たぁな……」
曲の盛り上がりに合わせて、ぬら光りする身体で右へ左へとポーズを取るジャック。
もはやエアドラムではなく、ドラムセットに座る1人のエンターテイナー。
妖精たちも様子を伺うように、貝のベッドに近づいてはその周りをクルクルと踊る。
そんな中で赤ん坊が鳴いた。
まるでダダを捏ねるような一声だったが、それによって生まれた光の波動が周囲の妖精たちを弾き飛ばす。
「こ、これは……!」
ステージまで届いた波動に耐えながら、リクは険しい表情で幻影を見つめる。
ヘヴンズドアが型破りのバラードで歌うのは――愛?
先ほどの観音のように、暴力的な、一方的な博愛ではない。
寄り添い、支え合うような……言うなれば“親愛”だ。
「“恋”と“愛”、どちらがみんなの心に響くのか……決着をつけましょう!」
茜が楽し気に笑みを浮かべると、妖精たちは一度赤ん坊から距離を取って、四方八方から一気に傍へと迫った。
その度に、波動が1体ずつ彼女らを弾く。
輪唱を重ねるカナデとルミの歌声が、抜群のコンビネーションで四方の敵に的確に対応をしているのだ。
「これは、攻めるための歌じゃない。護るための歌……護っているのはこのハコか?」
ヘヴンズドアの楽曲はこれまで何度も聞いてきた。
耳コピもし、まだまだ練習中だけれどカナデの激しいパフォーマンスにも憧れて、そういう“歌唱”も練習していた。
全ては自分も同じようにステージに立つため。
だからこそ、研究し尽くして来たからこそリューには分かる。
この新曲は――このステージを護るための曲なのだと。
「それはきっと……観客のため、なのか」
挑戦者を撥ね退ける赤ん坊の波動に、リクは思わず視線を落とした。
音楽界が“力ある者”と“ない者”とに二分され、無価値に涙を流した者たちがいた。
彼らの代弁者になりたい――そう思って始めたバンド。
それは、メンバーにも語っていない彼の信念。
だが、目の前には自分とは別の方法で――それを眼前の曲から感じ取って、彼もまた覚悟を決めた。
「まだ行けるね、みんな」
「もちろんだ! 最高にエキサイティングなショーを魅せてやろうぜッ!」
ボルテージの高まったジャックは、もはやドラムではなく己の肉を打ち鳴らす。
それが客の笑いを誘いつつも、とにかく楽しめというエネルギッシュなエールが迸っていた。
「だから……と・ど・い・てぇぇぇぇ!!」
汗だくで、それでも茜は叫び続ける。
届け――それこそが恋の全てだ。
隣にいて良いのかも分からない。
五里霧中――だからこそ、届け。
何度アタックしても撥ね退けられる妖精たち。
だが諦めず、何度も何度も、その想いはやがて……赤ん坊の頬に、小さな手の平がそっと触れた。
光がハコの中に溢れた。
世界を包み込んでいた虹のフィルムが、雪のように天井から降り注いでいた。
ヘヴンズドアのメンバーは呆然としてそれを見つめながら、どっかりとステージ上に腰を下ろす。
そしてぎゅっと瞳を閉じながら天を仰ぐと、思わず噴き出したように笑みを湛えていた。
「――あーあ、負けちゃった」
歓声が上がって、観客の拳が一斉にステージへと突き上がる。
その声援の先には、ガッツポーズを掲げながら手を振って応えるヘルズゲートのメンバーの姿が燦々と輝いて見えた。
静寂はすなわちファンファーレ。
息を飲む観客たちを挟み込むようにして、そう広くはない会場の両端に立ったバンドがにらみ合う。
ハコの中を漂うのはつい今しがたまでの演奏で高まったバイブス。
深く息を吸い込むと少しツンとした熱気が鼻孔をくすぐって、それと同時に意識がカチリと切り替わるのを感じていた。
「初めからクライマックスでいくぜ……!!」
地の底まで響くような重低音が鼓膜から丹田までを激しくノックする。
お馴染みのナンバーなのか天井をビリビリと震わせる歓声と共に客のボルテージが一気に上り詰めると、まだ幻影が姿を現していないにも関わらず激しい衝撃が対岸のメンバーの足元をすくった。
「くっ……これほどか!」
思わず身を屈めるようにして耐えながら、キヅカ・リク(ka0038)は仲間達と顔を見合わせ、頷き合う。
「1――2――3――4!!」
ドラムセットの前で腕を組み、声だけを張り上げたジャック・J・グリーヴ(ka1305)のテンポに合わせて滑らかなギターメロディが張り合うようにスピーカーを震わせる。
「そう言えば、名前を聞いてなかったな挑戦者」
お互いの前奏のぶつかり合いの中で、不敵な笑みを浮かべながらカナデが問う。
「私たちは“ヘルズゲート”――地獄の底から、這いあがりに来たわ!」
ショルダーキーボードを携えた天王寺茜(ka4080)が真っすぐな瞳でそう答えると、カナデは鋭い犬歯を覗かせて派手に笑い声を上げてピックを持つ右手で前髪をかき上げる。
「獄門、いいねえ。なら、うってつけのナンバーだ。ぶっ壊してやるぜ――『ヘルダイバー』ッ!!」
激しいギターのリードと共に、カナデの絶叫がスピーカーを突き破らん勢いで会場へと響いた。
同時に叫びは天井付近に発生した「熱気雲」と混ざり合い、渦巻き、嵐となってやがて強靭な黒い四肢を生み出す。
四つ足がどっかりと宙の地面を踏みしめると、自ら発生させた嵐をも吹き飛ばして、獰猛な黒犬の姿がそこに現れていた。
「リーダー、こっちもぶちかましてやろうぜっ!」
ツインでギターを担うリュー・グランフェスト(ka2419)が叫ぶ。
彼は目の前の禍々しい獣を前に物怖じせず、むしろ好奇に満ちた瞳でそれを一心に見つめていた。
リクは苦い表情で頷くと、目の前のスタンドに備えられたマイクへ口を開く。
「『証明』――僕らは迷わない」
迷える背中を支え、共に一歩を踏み出す青春歌。
が――口ずさむメロディーは、「音」として響いてもその「形」を成すことがなかった。
「リク……!?」
茜が驚いたようにその表情を伺うが、リクは構わずに曲を紡ぎ続ける。
「あらあら、どうしたの? もしかして『力』も持たずに舞台に上がったっていうの? ねぇ??」
どこか見下したような目線で邪気に満ちた笑みを浮かべるヘブンズドアのベーシスト・フブキ。
その後ろで、汗の雫を光らせながらドラムを叩くアリスがどこか不審な視線をヘルズゲートのステージへと向けていた。
(あのドラム……何をするつもりなんやろう?)
ドラマーのジャックは無言でドラムの前で腕組をしたままである。
だがスピーカーから確かに刻んだビートが聞こえている……つまり、これは録音音源?
悪寒に眉を潜めたアリスを他所に、カナデは挑戦的にフロントスピーカーをどっかりと踏みつけた。
「ソノ気がねぇなら喰らってやるぜ! 蹂躙だッ!!」
黒犬が駆けた。
客のうねりがウェーブとなって、サイリウムの輝きと共にそれを送り出す。
「来るぜ、リーダー!」
「分かってる……!」
流石に焦りを滲ませるリューに、落ち着きながらも頬に汗を滲ませるリク。
狂犬の禍々しく開いた口が、牙が、その眼前に迫る。
だが、それから身を護る手段すらなかった『ヘルズゲート』の面々は――全身を鞭打つような衝撃に、思わず吹き飛ばされてしまっていた。
●
演奏が止んで、会場を狂犬のメロディが支配する。
『ヘヴンズドア』コールに包まれる中で、ヘルズゲートの4人はよろめきながらも浅い息と共に立ち上がった。
不安の色を見せるメンバーに、リクは「これでいい」と首を横に振る。
「……上等だ。この俺様がホンモノのエモさってヤツを刻み込んでやるぜ!」
ただ1人『演奏』をしていないジャックのパートは、相変わらずスピーカーから「音源」として流れ続けている。
その中で彼は燦々と降り注ぐスポットライトを浴びながら美しいダブルバイセップスを決めると――その身に纏った服が、轟音と共にはじけ飛んだ。
何事かと、咄嗟に観客の視線が後方、ヘルズゲートのステージへと向く。
その一瞬を逃しはしない――ささっと足元の電板で音源を次の楽曲へと切り替えると、堤太鼓の古風な音がハコの空気に異彩を放った。
「やられっぱなしってわけにはよ……!」
リューがギターを傍らのスタンドに立てかけると、代わりにディスプレイだと思われていた三味線に手を掛ける。
そしてピンと張り詰めた弦を「バチ」で軽やかに弾くと、そのまま軽快なリズムを刻み始める。
「2ndステージか。いいぜ、付き合ってやる!」
「カナデ、交代っ!」
ルミの掛け声にカナデがハイタッチで答えて、センターが入れ替わる。
「和ロックとか、あたしと被ってるのよ!」
彼女のキーボードから響く神々しいばかりの和音に、スポットライトが虹色の光を放つ。
それに導かれるようにして、美しい蓮の花が会場に咲き乱れた。
「ここはあたしたちのステージ――『ノッキン・オン・ヘヴンズドア』!」
花弁の中から現れたのは巨大な金色の観音像。
慈悲深い笑みが曲に合わせて会場を見下ろす。
一方、堤の音に合わせてジャックの頭上でどこからともなく現れた屏風絵がばらばらと砕けていく。
その先に、堂々とした姿で腰かける男の姿に、観客たちは思わず息を飲んだ。
第六天魔王――NOBUNAGA ODA。
彼は、ぬらりとした視線でガンを付けるように観音の姿を見上げると、目の前に現れた香炉の灰をむんずと掴み取って、勢いよくその微笑みへと投げつけた。
「『人間五十年』――下剋上だッ!」
激しいオリエンタルミュージックに、ジャックの肉体が宙を舞う。
そのままステージ中央に着地すると、ビシリとポーズを決めてみせた。
「おおぅ……さすがイケムーディスト・ジャック様(自称)よねえ」
茜はどこか引きつった笑みを浮かべながらも、キーボードの電子音を和琴にチューンして跳ねるようにキーを叩く。
一方、灰を投げつけらえた観音はそれでも笑みを絶やさず、しかしながらどこか怒気を滲ませると額の白毫が虹色の光に包まれた。
「極楽観音を侮辱するなんて許さない――仏ビーム!!」
どこか気の抜けたルミの掛け声に、白毫の輝きが一筋の光となって会場を縦横無尽に駆け巡る。
仏ビームを受けた観客たちは、どこか恍惚とした表情で金色の輝きに手を合わせていった。
「させるかよ……っ!」
いつの間に持ち込んだのか、ジャックは大ぶりの本マグロを自慢の胸板と腕筋の圧で真っ二つにへし折って見せると、幻影のNOBUNAGAがゆらりとその腰を上げた。
ひらひらと木の葉のように舞いながらビームを躱して間合いを詰めた彼は、一瞬の閃きと共に愛刀「圧切」を抜き放つ。
直後――虹色の白毫が直毛となってはらりと宙を舞った。
「なっ……にしてくれるのッ!」
「お仕置きよ! タコ殴りよ!」
フブキが叫びながら超絶技巧のベースソロに突入すると、観音の背中がわなわなと震え出して数多の「腕」が一斉に噴き出した。
「目にもの見せてやりなさい!」
現れた998本の腕――元の2本と併せて計1000本の拳が、NOBUNAGAの頭上に迫る。
彼は目に見えぬ速さの刃でそれを1つ1ついなして見せるも、1対1000の戦いには無理がある。
フレキシブルな肉体で魅せる筋肉チアダンスで音頭を取るジャックの額にも、大粒の汗が噴き出していた。
「させるか……っ!」
リクのギターがリューら和楽器のノスタルジックな旋律に乗る。
同時に、熱気雲の中から足を踏み出す数多の足軽たちの影が隊列を組んで視界いっぱいに現れた。
「踊れ、足軽ダンサーズ!!」
大勢の足軽の幻影が、一斉にジャックのダンスを完コピして踊り始める。
1人1人の迫力は無いが、それでも俺たちの武器は雑草ばりの数だ!
とでも言わんばかりにキレッキレのダンスを魅せる彼らは、そのままにじり寄るように進軍していった。
「ぶちのめしてやるわっ!」
高笑いするフブキに、1000本の腕が足軽たちへと迫る。
振るわれた黄金の拳は1つ1つが一騎当千。
当然、雑兵達では太刀打ちできるはずがない。
だが、彼らは自らの身体を打ち、骨を砕いたその拳へと――歯を食いしばり、命からがらしがみ付く。
数多の足軽が数多の腕を抑え込み、圧しとどめ、命がけで殿の花道を作り出すのだ。
「魅せてやるよ……俺たちがどれだけエモいのかをな!」
NOBUNABAの刃が奇跡を描く。
鋭く鈍ることのない切っ先が、黄金観音の左胸部を深々と貫いていた。
●
下層地区とは言え、クイーンの陥落に観客たちは困惑の色を示していた。
それは王者たる本人たちも同じことで、消えていく黄金の輝きを前に思わず息を飲む。
「どうやら……ナメて掛かる余裕はないみてぇだな」
伝った汗を拭いながら、カナデは目の前のマイクスタンドを蹴とばす。
こんなモノに頼っていたら本当のパッションは、声は届けられない。
かつてこの地区の前王者を蹴散らした時、彼女が見せた最大のファイティングポーズであった。
「この波に乗って行こう、茜!」
「OKっ! 観客の皆、盛り上がってるぅー!? Yeahh!!」
息を吐く間を置かず、ステージ前へと踏み出した茜が拳を振り上げる。
「Yeahh!!」
「Yeahh!!」
狼狽えていた観客たちも、繰り返された彼女のコールに声を合わせて叫び始めた。
「2曲なんかじゃ終わらせない。今度はコッチから行くわよ――『恋桜前線』!!」
曲の宣言に応じて、小刻みなポップビートが会場を包む。
「恋の季節は春……そして春は、私たちの季節よ!」
茜の快活な歌声に乗って、会場を淡い桜吹雪が包み込む。
桃色の旋風の中で現れるのは可愛らしい花の妖精たち。
彼女らは演奏する茜とじゃれ合うようにステージ上を飛び回っていた。
「どうカナデ。私たち、貴方たちを熱くさせてる?」
挑戦的な茜の言葉に、カナデはどこか含みのある笑で口角を吊り上げる。
「……アレで行く」
「アレ……って、まだ練習中――」
詰め寄ったルミを制して、カナデはバックのフブキとアリスを深みのある色の瞳で見渡した。
彼女らは肩を竦めてみせると、フブキのスティックが物言わずにテンポを取る。
次いでバスドラムとベースが刻んだのは、ゆったりとしたBPMの低いリズム。
キーボードはピアノ音源、ギターもいつもの爆発的なパッションがない。
「この曲調って……バラード?」
リューが目を丸くして、対岸のステージを見張る。
バンドのイメージに似つかわしくない曲に、あからさまな戸惑いが見える。
拳を突き合わせて、互いに意思を疎通するカナデとルミ。
スポットライトの下で2人の口は同時に開いた。
「――『Dear』」
世界が虹色のフィルムに包まれると、淡い輝きが客席の頭上で形を成す。
産声と共に現れたのは――巻貝のベッドで眠る、健やかな赤ん坊の幻影であった。
「へっ、ここに来て路線変更たぁな……」
曲の盛り上がりに合わせて、ぬら光りする身体で右へ左へとポーズを取るジャック。
もはやエアドラムではなく、ドラムセットに座る1人のエンターテイナー。
妖精たちも様子を伺うように、貝のベッドに近づいてはその周りをクルクルと踊る。
そんな中で赤ん坊が鳴いた。
まるでダダを捏ねるような一声だったが、それによって生まれた光の波動が周囲の妖精たちを弾き飛ばす。
「こ、これは……!」
ステージまで届いた波動に耐えながら、リクは険しい表情で幻影を見つめる。
ヘヴンズドアが型破りのバラードで歌うのは――愛?
先ほどの観音のように、暴力的な、一方的な博愛ではない。
寄り添い、支え合うような……言うなれば“親愛”だ。
「“恋”と“愛”、どちらがみんなの心に響くのか……決着をつけましょう!」
茜が楽し気に笑みを浮かべると、妖精たちは一度赤ん坊から距離を取って、四方八方から一気に傍へと迫った。
その度に、波動が1体ずつ彼女らを弾く。
輪唱を重ねるカナデとルミの歌声が、抜群のコンビネーションで四方の敵に的確に対応をしているのだ。
「これは、攻めるための歌じゃない。護るための歌……護っているのはこのハコか?」
ヘヴンズドアの楽曲はこれまで何度も聞いてきた。
耳コピもし、まだまだ練習中だけれどカナデの激しいパフォーマンスにも憧れて、そういう“歌唱”も練習していた。
全ては自分も同じようにステージに立つため。
だからこそ、研究し尽くして来たからこそリューには分かる。
この新曲は――このステージを護るための曲なのだと。
「それはきっと……観客のため、なのか」
挑戦者を撥ね退ける赤ん坊の波動に、リクは思わず視線を落とした。
音楽界が“力ある者”と“ない者”とに二分され、無価値に涙を流した者たちがいた。
彼らの代弁者になりたい――そう思って始めたバンド。
それは、メンバーにも語っていない彼の信念。
だが、目の前には自分とは別の方法で――それを眼前の曲から感じ取って、彼もまた覚悟を決めた。
「まだ行けるね、みんな」
「もちろんだ! 最高にエキサイティングなショーを魅せてやろうぜッ!」
ボルテージの高まったジャックは、もはやドラムではなく己の肉を打ち鳴らす。
それが客の笑いを誘いつつも、とにかく楽しめというエネルギッシュなエールが迸っていた。
「だから……と・ど・い・てぇぇぇぇ!!」
汗だくで、それでも茜は叫び続ける。
届け――それこそが恋の全てだ。
隣にいて良いのかも分からない。
五里霧中――だからこそ、届け。
何度アタックしても撥ね退けられる妖精たち。
だが諦めず、何度も何度も、その想いはやがて……赤ん坊の頬に、小さな手の平がそっと触れた。
光がハコの中に溢れた。
世界を包み込んでいた虹のフィルムが、雪のように天井から降り注いでいた。
ヘヴンズドアのメンバーは呆然としてそれを見つめながら、どっかりとステージ上に腰を下ろす。
そしてぎゅっと瞳を閉じながら天を仰ぐと、思わず噴き出したように笑みを湛えていた。
「――あーあ、負けちゃった」
歓声が上がって、観客の拳が一斉にステージへと突き上がる。
その声援の先には、ガッツポーズを掲げながら手を振って応えるヘルズゲートのメンバーの姿が燦々と輝いて見えた。
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/04/08 06:36:32 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/03 20:51:33 |