ゲスト
(ka0000)
水ノ檻
マスター:須崎なう

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/05 12:00
- 完成日
- 2018/04/14 06:30
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
夜。雲一つない夜空に輝く星々が大地を淡く照らしていた。
小さな池の畔。安物の酒を煽りながら、赤ら顔の旅人二人が焚火を囲んで雑談をしている。
それは噂話だ。水を集めるおかしな歪虚がいるのだとか。
「ばっか、んな歪虚がいるわけねーだろ! だいたい人を襲ってなんぼの歪虚じゃねーのかよ! なんで水を集めるんだあ?」
「俺に聞くんじゃねえ。噂話つっただろうが。大体テメェは飲み過ぎだっての! 水でも飲んどけ、水を」
「水なら飲んでるだろお、美味しい美味しい水をよお……」
「いいから、水を飲め。絡まれる俺の身にもなれってんだ」
手のひらサイズのボトルを取り出す。中身は先程採ったばかりの池の水だ。元々綺麗だった水を沸騰させて消毒し、更にろ過しているため、飲料用としては問題ないだろう。
そのボトルのキャップを取る。
すると、何故か。
ボトルから水が浮き上がった。
「な、なんだこれは……」
その水は星の光を瞬かせながら、ふわふわと宙を漂い悪酔いしている話し相手の方へ……。
そして、
どっぷん、と。底の深い水場に落ちたかのような重い音が空気を揺らした。
ボトルを手にしたまま旅人が顔を上げると、そこには黒い壁があった。
壁を隔てた向こう側では、もう相方の旅人が苦しそうにもがいている。助けを求めるように突き出した右腕が黒い壁から飛沫を上げて突き出た。そこでようやく気付く。それは黒い壁ではなく、壁状に固まった大量の水だったのだ。
その証拠に、突き出た右腕が揺れるたびに小さな波紋を壁に生んでいる。
「――――ッ! ――――――ッ!!」
「ちょ、ちょっと待ってろすぐに助け…………っ」
その背筋に激しい悪寒が走る。しかしそれを気にしているほどの猶予はなかった。空気を求めてもがき苦しむ相方を一刻も早く助けたい。
旅人は水壁から突き出た右腕を掴み、全体重をかけて引っ張る。
その右腕は、不思議なほど呆気なく水壁から救出できた。旅人は大きなしりもちをつく。
しかしその救出した腕からは人間のもつ重みを感じない。まるで水面から生えた片腕だけを引っこ抜いたような感覚だった。
そして、それは比喩ではなかった。
文字通り、助けたはずの相方は目の前におらず、右腕肩関節から先の部位はない。喰い千切られたかのような断面からは血が流れ、腕を滴り、助けようとした旅人の手に絡みつく。
「ひいぃぃぃ!!」
旅人は右腕を払いのけるように捨て、尻もちをついた体勢のまま後ずさる。この水は危険だと、遅すぎる警鐘が旅人のなかで駆け巡る。
その日は雲一つない夜空だった。
星と焚火。二つの光源に照らされた水壁の中では、相方のものと思われる血の塊が揺らめいている。
胴は見当たらない。
その更に先。
絶望が、水中を泳いでいた。
旅人が逃げ出そうと立ち上がる。しかし恐怖に蝕まれた身体は思うように動かない。
しかしどれだけ旅人が機敏に動けたとしても、結果は変わらなかっただろう。彼はあくまで一般人で、ハンターではない。たかが旅人の身体能力でこの状況を脱せるほど世界は甘くなかった。
旅人を浮遊感が包みこむ。
水壁に飲まれたのだと、混乱した彼の脳は察知できなかった。
――がぼっ、ごぼぼぼ!
そのまま空気を求めた結果呼吸器官に水が浸入し、旅人は窒息の苦しみにもがいた。
焚火は既に水に飲まれたため、光源は星のものしかない。
明かりの乏しい環境で、水は闇夜を映すのみ。その奥。闇夜の黒よりも深い漆黒の絶望が、旅人を獲物として捕らえた。
事は、一瞬だった。
旅人が認識できたのは、眼前に迫った凶器のような乱杭歯。その開かれた顎は旅人を丸のみしてもまだ余裕があるほどに巨大だった。
旅人を襲ったのは刹那の痛み。そして無。
噛み千切られるようにして下半身と片腕を失い、意識は激痛によって切り裂かれ、その儚い命は闇に散った。
●
カタカタカタと、双眼鏡を持つ両手が震える。
ちょうど今、二人目の旅人がソレに喰われたところだった。
巨大な立方体状の水を悠々と泳ぐソレ。おそらくは、歪虚。夜の闇ではっきりと姿を捉えられたわけではないが、その形状は以前、何かの図鑑で見たことがあった。
シャチ。
オルカとも呼ばれ、黒と白の特徴的な外見を持つ海の捕食者。海の恐怖といえばサメをイメージしがちなのだが、実際に海洋系食物連鎖の頂点に君臨するのはシャチだ。
そのシャチが陸に出現した。
それも、歪虚として。
一介の猟師である彼がこの光景を目撃したのはただの偶然でしかない。狩りの収獲が芳しくなく、今日は日暮れギリギリまで粘った。その帰りに、異常な水の塊を目撃したのが経緯だった。
焚火を囲む旅人二人が喰われる光景を双眼鏡で眺め続け、今に至る。
(どうする?)
やることなら決まっている。ハンターズオフィスに行き、事の詳細を説明し討伐を要請するのだ。
だが……、
(まだ何か、嫌な予感がするな)
すると突如、歪虚の纏う水の塊に変化が起きた。一回り近くその体積が肥大化したのだ。なにが起きたのかと双眼鏡で確かめると、すぐに原因がわかった。
池の水だ。池の水を吸収したのだ。
おそらくあの水の塊は歪虚にとってのテリトリーなのだ。そのテリトリーを増やすためにあの池に近づいたのではないのか?
(だとすると……ちとマズいな)
猟師の男は自身の記憶から地図を思い浮かべる。山を二つ越えた地域には湖があったはずだ。その湖の近くには確か、それなりに栄えている街もあった。
もしも水が目的で、湖に向かうとしたら……。
ゴクリ
猟師は息を呑んだ。
静かに双眼鏡を仕舞うと、男は急いでハンターズオフィスへと向かった。
夜。雲一つない夜空に輝く星々が大地を淡く照らしていた。
小さな池の畔。安物の酒を煽りながら、赤ら顔の旅人二人が焚火を囲んで雑談をしている。
それは噂話だ。水を集めるおかしな歪虚がいるのだとか。
「ばっか、んな歪虚がいるわけねーだろ! だいたい人を襲ってなんぼの歪虚じゃねーのかよ! なんで水を集めるんだあ?」
「俺に聞くんじゃねえ。噂話つっただろうが。大体テメェは飲み過ぎだっての! 水でも飲んどけ、水を」
「水なら飲んでるだろお、美味しい美味しい水をよお……」
「いいから、水を飲め。絡まれる俺の身にもなれってんだ」
手のひらサイズのボトルを取り出す。中身は先程採ったばかりの池の水だ。元々綺麗だった水を沸騰させて消毒し、更にろ過しているため、飲料用としては問題ないだろう。
そのボトルのキャップを取る。
すると、何故か。
ボトルから水が浮き上がった。
「な、なんだこれは……」
その水は星の光を瞬かせながら、ふわふわと宙を漂い悪酔いしている話し相手の方へ……。
そして、
どっぷん、と。底の深い水場に落ちたかのような重い音が空気を揺らした。
ボトルを手にしたまま旅人が顔を上げると、そこには黒い壁があった。
壁を隔てた向こう側では、もう相方の旅人が苦しそうにもがいている。助けを求めるように突き出した右腕が黒い壁から飛沫を上げて突き出た。そこでようやく気付く。それは黒い壁ではなく、壁状に固まった大量の水だったのだ。
その証拠に、突き出た右腕が揺れるたびに小さな波紋を壁に生んでいる。
「――――ッ! ――――――ッ!!」
「ちょ、ちょっと待ってろすぐに助け…………っ」
その背筋に激しい悪寒が走る。しかしそれを気にしているほどの猶予はなかった。空気を求めてもがき苦しむ相方を一刻も早く助けたい。
旅人は水壁から突き出た右腕を掴み、全体重をかけて引っ張る。
その右腕は、不思議なほど呆気なく水壁から救出できた。旅人は大きなしりもちをつく。
しかしその救出した腕からは人間のもつ重みを感じない。まるで水面から生えた片腕だけを引っこ抜いたような感覚だった。
そして、それは比喩ではなかった。
文字通り、助けたはずの相方は目の前におらず、右腕肩関節から先の部位はない。喰い千切られたかのような断面からは血が流れ、腕を滴り、助けようとした旅人の手に絡みつく。
「ひいぃぃぃ!!」
旅人は右腕を払いのけるように捨て、尻もちをついた体勢のまま後ずさる。この水は危険だと、遅すぎる警鐘が旅人のなかで駆け巡る。
その日は雲一つない夜空だった。
星と焚火。二つの光源に照らされた水壁の中では、相方のものと思われる血の塊が揺らめいている。
胴は見当たらない。
その更に先。
絶望が、水中を泳いでいた。
旅人が逃げ出そうと立ち上がる。しかし恐怖に蝕まれた身体は思うように動かない。
しかしどれだけ旅人が機敏に動けたとしても、結果は変わらなかっただろう。彼はあくまで一般人で、ハンターではない。たかが旅人の身体能力でこの状況を脱せるほど世界は甘くなかった。
旅人を浮遊感が包みこむ。
水壁に飲まれたのだと、混乱した彼の脳は察知できなかった。
――がぼっ、ごぼぼぼ!
そのまま空気を求めた結果呼吸器官に水が浸入し、旅人は窒息の苦しみにもがいた。
焚火は既に水に飲まれたため、光源は星のものしかない。
明かりの乏しい環境で、水は闇夜を映すのみ。その奥。闇夜の黒よりも深い漆黒の絶望が、旅人を獲物として捕らえた。
事は、一瞬だった。
旅人が認識できたのは、眼前に迫った凶器のような乱杭歯。その開かれた顎は旅人を丸のみしてもまだ余裕があるほどに巨大だった。
旅人を襲ったのは刹那の痛み。そして無。
噛み千切られるようにして下半身と片腕を失い、意識は激痛によって切り裂かれ、その儚い命は闇に散った。
●
カタカタカタと、双眼鏡を持つ両手が震える。
ちょうど今、二人目の旅人がソレに喰われたところだった。
巨大な立方体状の水を悠々と泳ぐソレ。おそらくは、歪虚。夜の闇ではっきりと姿を捉えられたわけではないが、その形状は以前、何かの図鑑で見たことがあった。
シャチ。
オルカとも呼ばれ、黒と白の特徴的な外見を持つ海の捕食者。海の恐怖といえばサメをイメージしがちなのだが、実際に海洋系食物連鎖の頂点に君臨するのはシャチだ。
そのシャチが陸に出現した。
それも、歪虚として。
一介の猟師である彼がこの光景を目撃したのはただの偶然でしかない。狩りの収獲が芳しくなく、今日は日暮れギリギリまで粘った。その帰りに、異常な水の塊を目撃したのが経緯だった。
焚火を囲む旅人二人が喰われる光景を双眼鏡で眺め続け、今に至る。
(どうする?)
やることなら決まっている。ハンターズオフィスに行き、事の詳細を説明し討伐を要請するのだ。
だが……、
(まだ何か、嫌な予感がするな)
すると突如、歪虚の纏う水の塊に変化が起きた。一回り近くその体積が肥大化したのだ。なにが起きたのかと双眼鏡で確かめると、すぐに原因がわかった。
池の水だ。池の水を吸収したのだ。
おそらくあの水の塊は歪虚にとってのテリトリーなのだ。そのテリトリーを増やすためにあの池に近づいたのではないのか?
(だとすると……ちとマズいな)
猟師の男は自身の記憶から地図を思い浮かべる。山を二つ越えた地域には湖があったはずだ。その湖の近くには確か、それなりに栄えている街もあった。
もしも水が目的で、湖に向かうとしたら……。
ゴクリ
猟師は息を呑んだ。
静かに双眼鏡を仕舞うと、男は急いでハンターズオフィスへと向かった。
リプレイ本文
●
六頭の馬が大地を蹴り、高速で移動していた。それぞれ馬の背に騎乗するのはハンターたち……。
その中の一人、コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)がそれを視界に捉えた。
「見えたな。距離はまだあるが、あれが歪虚のテリトリーで間違いないだろう」
細めた視線の先、対象歪虚のものと思われる水の塊があった。
水の塊に近づくにつれ、遠目では米粒程度だったテリトリーが存在感を増していった。ただの水とはいえ一辺200mにもなる巨大な水だ。八原 篝(ka3104)はテリトリーを見上げ、興味深そうに声を漏らした。
「……まるで映画のワンシーンみたいね。ヴォイドが作ったんじゃなければ感動の一つもできそうな光景なんだけど」
ある程度馬で接近すると馬から降り、馬には水害に巻き込まれない安全地まで引き返してもらう。そこからは走った。
ハンターたちは目前に迫るシャチ歪虚のテリトリーを睨む。
木々の残骸が沈む濁った水だった。やや上方、水の奥にはシャチ歪虚が悠々と水中を泳いでいる。100m以上の距離があるというのに、そのシルエットは異様なほどに大きかった。
「空を飛んでいる……と言っていいのか、これは? 奇妙な歪虚が出たものだ……」
レイア・アローネ(ka4082)はシャチ歪虚を遠目で確認してそう呟くと、持ってきていたロープを自らの腰に結び始める。夜桜 奏音(ka5754)もそれを手伝い、結び目に緩みがないか見て問題ないと判断すると、
「レイアさん、テリトリーに入る前にこちらを付けておいてください」
『ワイルドカード』と『加護符』。二種類の護符を取り出してレイアに貼り付けた。
「それでは私とロニさんで、このロープを引きましょう。こういう力仕事は男性のほうが向いてますからね」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)がレイアに結ばれたロープの反対側の先を手に取ると、少し離れた場所にいたロニ・カルディス(ka0551)に話しかける。ロニも「ああ。無論、そのつもりだ」と頷いて返した。
ロニはゆっくりと迫る水壁を眺める。
「まさか、自分のいる水ごと移動してくるとはな……。このまま陸の王者に転向される前に、この場で仕留めてしまおう」
そして、作戦が始まる。
●
――思ったよりも水の流れが強い。
水中を移動しながら、ふとレイアはそんなことを考える。そこら中に漂い、水流で移動する樹木の残骸を避けながら歪虚に接近していく。
尾を引いているようにレイアの背後にはロープが走っていた。シャチ歪虚の注意を引いた際は、テリトリーの外でハンスとロニが引っ張る手はずだ。引くタイミングを間違わないために、篝も『直感視』を発動させて見守っていることだろう。
50m。40m。30m――。
シャチ歪虚との距離が狭まっていく。シャチ特有のつぶらな瞳が、接近するレイアを捉えていた。すぐに襲ってこないのは、無防備に接近するカモを待っているからなのか、それともレイアを警戒しているのか……。
しかしどちらでも構わない。
『ソウルトーチ』や、ほか攻撃系のスキルが届く範囲まで、距離はあと僅か。
そして、
「――――っ」
『ソウルトーチ』の発動。同時に、スキルの注目効果が及んだシャチ歪虚がレイアに襲い掛かってくる。
KYUGEEEEEEeeeeee――!!
音波によって水中に放たれる高音の咆哮。
レイアは怯むことなく『攻めの構え』『ソウルエッジ』とスキルを使って攻撃を加える。『渾身撃』を放とうとした所でシャチ歪虚が目前まで迫ってきた。
腰に巻かれたロープに力が加えられ、レイアは後方へと移動した。シャチは水流を操作してその移動を阻もうとするが、ハンター二人分の運動量はそれを上回った。
シャチ歪虚がレイアを追う――――。
●
「今よ! ロープを引いて!」
篝が指示を出し、ハンスとロニが全力で声を張り上げた。
「おおおおぉぉ!」
「はあああぁぁ!」
膨張した二人の筋肉によってロープは勢いよく引かれ、シャチ歪虚のテリトリーから引き出されていく。
十数秒後、水の壁からレイアの身体が飛び出した。
レイアは衣服の所々が破れ、少なからずダメージも入っているようだった。シャチ歪虚の水流操作による樹木の残骸の接触が原因だろう。
追ってシャチ歪虚も水の壁から現れる。しかし水面から外に出たのは一瞬だけだ。シャチ歪虚を包むようにテリトリーの一部が変形し、シャチ歪虚はすぐ水中に身を沈めてしまう。
しかし、テリトリーの奥へと引き返すことは無い。
シャチ歪虚は視界に移る六人の人影を敵として認識したようだ。
「今のうちだ。テリトリーの奥に引き返す前に攻め落とそう」
ロニがヴァイザースタッフを構え、支援効果のあるスキルを準備・発動させていく。
ハンターたちがそれぞれの行動に移った。
水流操作によりテリトリーから噴出される樹木の残骸を避けながら、奏音は符術を発動させる。
「まずは行動阻害ですね」
『ワイルドカード』『五色光符陣』
放たれた地属性の護符が水中で結界を張り、シャチ歪虚に光によるダメージを与えた。
繰り出される敵の攻撃を、奏音は舞いながらかわす。懐から呪符「皐月」を取り出して掲げ、
「水棲生物のシャチの歪虚ですし、とりあえず地属性で攻撃してみますか」
『五行相剋符』
効果の増幅された一撃がシャチ歪虚に炸裂した。ダメージを受けたシャチ歪虚が痛みに身を捩じらせる。
「――っ」
一際大きな残骸が複数、テリトリーから噴出される。そのすべては奏音をターゲットにしていた。そのすべてを避けきることは難しいかったが――
『ホーリーヴェール』
その残骸のいくつかをロニがスキルで防ぐことで、回避に成功する。
ロニはこの戦闘において、主に支援を担当していた。『ホーリーヴェール』で見方を攻撃から守り、『集中』を併用した『レクイエム』によってシャチ歪虚の注意を引く。
「俺が守りにいる限り、仲間へのダメージは通らないものと思ってもらおうか」
ロニの支援の恩恵を一番受けているのはレイアだろう。
レイアは一度水中から飛び出したものの、継続して囮役を続けていた。シャチ歪虚と同じステージで戦っている分、危険度はもっとも高いため、ロニの支援が生命線といっても過言ではない。
シャチ歪虚が大きくその顎を開きレイアを襲う。が、割り込む形で放たれた一本の矢によってその攻撃はレイアから逸れた。
「させねえっての!」
吐き捨てるような、荒々しい篝の声が木霊する。
一本二本と、篝によって放たれた矢がシャチ歪虚へと飛来し、シャチ歪虚はその衝撃で巨大な体躯を揺らす。
『攻性強化』によって威力を高め、『はやて』でリロード動作の高速化。加えて『二つ番え』による準備動作の効率化。複数のスキルで補助され放たれた矢の数は、一般の常識で考えられる投射数を超える。
降り注ぐ矢。
そこにコーネリアの銃撃も重なった。
『キラースティンガー』『フォールシュート』
高濃度のマテリアルを纏った弾丸の雨が、篝の矢の弾幕と一緒になってシャチ歪虚にダメージを与える。
「水棲生物のくせに陸に上がろうなど身の程知らずな……」
コーネリアがシャチ歪虚を鼻で嗤う。
「まさか水が無きゃ満足に戦えない訳ではなかろうな?」
再び銃器が火を噴き、雨のように弾丸を降らせた。
この戦況において、ハンターたちの方針はおおよそひとつの方向性に固まっている。
テリトリーの奥には行かせない。
速攻でシャチ歪虚を撃破する。
だからこその攻撃重視。防御動作はロニが一手に担い、ロニ以外のハンターは注目スキルを併用して撤退の芽を可能な限り摘み、己の攻撃を全力で叩き込む。
そしてそれはハンスも同じだった。
「はああッ!」
『次元斬』
シャチ歪虚のわき腹付近。その空間が僅かに歪んだと思うと、次の瞬間には斬撃が発生して表面に大きな裂傷を生じさせる。
『マッスルトーチ』の光がテリトリー内で煌き、シャチ歪虚の意識をハンスに向けさせる。
この注目スキル。実はレイアの『ソウルトーチ』と重なることによって思わぬ副産物を発生させていた。シャチ歪虚は二箇所に常に意識を割くことになり、攻撃の勢いが落ち、また回避性能も僅かながら低下していた。
ハンターたちの攻撃が続く。
シャチ歪虚の水流操作によって放たれていた残骸による攻撃も、その数を段々と減らしていった。だが残骸はまだまだテリトリー内に残留している。むしろ、シャチ歪虚の周辺に集まっているように見える。
シャチ歪虚の体力が限界なのだろうか。
気付けばシャチ歪虚の巨躯は既に裂傷、弾痕によって痛んでいる。
戦闘当初、瞳に宿していた闘争心も薄れているように見えた。
勝ち目が無い。そう考え始めた生物が思考の果てに辿りつく答えは何か……。
逃走。
戦士であれば生き恥を嫌うだろうが、あくまでシャチ歪虚は生を望む。思考方向は野生動物のそれに近い。
だがハンターたちはその逃走を許さない。
『プルガトリオ』
『ワイルドカード』『五色光符陣』『五行相剋符』
ロニ、奏音の高威力攻撃を始め、ハンターたちの攻撃が一点に集中した。
――――だが。
その攻撃がシャチ歪虚を仕留める決定打にはならない。
何故か。
それはシャチ歪虚が全力で回避行動を取ったからに他ならなかった。
まず水流の操作によってハンターたちの攻撃を分散させることで威力を弱めた。
そして、残骸を寄せ集めて巨大な盾を形成した。おそらく後半、シャチ歪虚が残骸の投射数を減らし、自らの周囲に残骸を集めていたのはこのためだったのだろう。
その防御行動によって一番威力を落とされたのはロニの『プルガトリオ』だ。誰よりも早く攻撃行動に移ったから、残骸の盾に最初に接触したのはロニの攻撃となる。六人のハンターの中でもっとも戦闘経験の多い彼だからこそ高い反射速度。それが今回は仇となったのだ。
『プルガトリオ』の特性は移動阻害にある。誰よりも先に繰り出されたその一撃は残骸の盾を貫いたが、しかし特性によって残骸は弾け飛ぶことなく残留し、後に続くハンターたちの攻撃を減衰させた。
シャチ歪虚にとってもっとも厄介な攻撃はロニの『プルガトリオ』だった。移動阻害によって逃走が出来なくなるからだ。
しかし威力の弱まった『プルガトリオ』ではシャチ歪虚を縫い止めるには至らない。続くハンターたちの攻撃も、威力が減衰しているため致命打とはならなかった。
シャチ歪虚がテリトリーの奥へと後退する。
それを追うのは囮として動いていたレイア。そしてテリトリー内での戦闘を事前に想定していたコーネリアとハンスだ。
シャチ歪虚を追う三人にロニ、篝、奏音が支援スキルを乗せた。
最後の戦闘は水中戦へと移行する。
●
シャチ歪虚は瀕死の状態だった。
あと一撃でも攻撃を受けたら意識を手放してしまいそうなほど、精神は磨耗し体力も限界だった。
耐えて逃げ切れるものではない。やがて体力も尽きるだろう。
相手は間違いなく追ってくる。しかしフィールドはシャチ歪虚に利がある水中。おまけに樹木の残骸もまだ残されている。
逆転の可能性はゼロではない。
やがて二人のハンターが接近してきた。コーネリアとレイアだ。
二人がスキルで攻撃するも、シャチ歪虚の防御は固かった。海洋系生物を相手に水中戦では不利。その事実は揺るがない。
攻撃スキルで攻め込み、シャチ歪虚の攻撃は避ける。しかし水中においてその難易度は桁違いだ。ロニの掛けた『ホーリーヴェール』がなければ、重傷を負っていただろう。
水中戦は静かに進行する。
水中では音が伝わりにくいからだ。これによりハンター同士のコミュニケーションも身振りやアイサインに頼ったものとなる。
やがて掛けられた支援スキルの効果がすべて消える。
その様子を見てシャチ歪虚は好機と踏み、ハンターとの距離を一気に詰めた。
残骸を周囲に待機させたままハンターとの距離を縮めていく。たとえ射程の広い攻撃があっても、その流れ、つまり『射線』さえ判断できれば対応は可能。
しかしその突撃によってシャチ歪虚は死線を越えてしまう。
直後。
シャチ歪虚の頭部に斬撃が迸った。
『次元斬』
コーネリアとレイアよりも更に後ろ。流れる残骸の後ろを泳いで隠れていたハンスの一撃だった。
標的の位置。つまるところ座標を定めて繰り出される『次元斬』にはその特性上『射線』が存在しない。
加えてシャチ歪虚から姿を隠していたこともプラスに働いている。少なくともシャチ歪虚は『次元斬』を直前の戦闘で何度か受けている。警戒されると躱される恐れがあったからだ。
これは三人が水中を移動している最中に即興で組み立てた作戦だった。二人が囮として動き、ハンスは更に距離を開けて身を隠す。シャチ歪虚が接近し『次元斬』の射程まで接近したら止めの一撃を食らわせる。
水泳と『次元斬』のスキルを持つハンスだからこそ実現可能な作戦だった。
シャチ歪虚は撃破され、その姿は黒い霞となって消える。
主を失ったテリトリーが崩壊する。
残骸が濁流と共に襲い掛かってくる――――。
●
篝以外、全員ずぶ濡れだった。
戦闘直後に崩壊した水の塊。ロニが事前に打ち込んでいた杭を利用することで流されることはなかったものの、これだけはしょうがない。ちなみに篝が濡れていないのは『I.F.O』ですぐに回避したからだ。
服の端々が汚れているのは、流れの勢いで衝突した残骸に接触したのが原因だった。服が汚れているのはレイアも同じだったが、予め気をつけていたこともあり、テリトリー崩壊によるダメージはしっかりと回避できている。
「皆、休憩してないで早く周囲の被害確認と救助活動をするよ」
篝が『I.F.O』に乗ったまま他のハンターを急かした。
依頼にあった湖近くの街とは、十分な距離がある。
しかしこの周囲に人間が一人もいないとは限らない。戦闘後はどうしても確認作業が必要だった。
かくして依頼は達成。
周囲の環境がテリトリーの崩壊で少なくはない被害を出したが、生き残った動物もハンターたちの手によって別の地域まで安全に移動。自然への被害も、汚染された訳ではないため時間と共に戻っていくことだろう。
END
六頭の馬が大地を蹴り、高速で移動していた。それぞれ馬の背に騎乗するのはハンターたち……。
その中の一人、コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)がそれを視界に捉えた。
「見えたな。距離はまだあるが、あれが歪虚のテリトリーで間違いないだろう」
細めた視線の先、対象歪虚のものと思われる水の塊があった。
水の塊に近づくにつれ、遠目では米粒程度だったテリトリーが存在感を増していった。ただの水とはいえ一辺200mにもなる巨大な水だ。八原 篝(ka3104)はテリトリーを見上げ、興味深そうに声を漏らした。
「……まるで映画のワンシーンみたいね。ヴォイドが作ったんじゃなければ感動の一つもできそうな光景なんだけど」
ある程度馬で接近すると馬から降り、馬には水害に巻き込まれない安全地まで引き返してもらう。そこからは走った。
ハンターたちは目前に迫るシャチ歪虚のテリトリーを睨む。
木々の残骸が沈む濁った水だった。やや上方、水の奥にはシャチ歪虚が悠々と水中を泳いでいる。100m以上の距離があるというのに、そのシルエットは異様なほどに大きかった。
「空を飛んでいる……と言っていいのか、これは? 奇妙な歪虚が出たものだ……」
レイア・アローネ(ka4082)はシャチ歪虚を遠目で確認してそう呟くと、持ってきていたロープを自らの腰に結び始める。夜桜 奏音(ka5754)もそれを手伝い、結び目に緩みがないか見て問題ないと判断すると、
「レイアさん、テリトリーに入る前にこちらを付けておいてください」
『ワイルドカード』と『加護符』。二種類の護符を取り出してレイアに貼り付けた。
「それでは私とロニさんで、このロープを引きましょう。こういう力仕事は男性のほうが向いてますからね」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)がレイアに結ばれたロープの反対側の先を手に取ると、少し離れた場所にいたロニ・カルディス(ka0551)に話しかける。ロニも「ああ。無論、そのつもりだ」と頷いて返した。
ロニはゆっくりと迫る水壁を眺める。
「まさか、自分のいる水ごと移動してくるとはな……。このまま陸の王者に転向される前に、この場で仕留めてしまおう」
そして、作戦が始まる。
●
――思ったよりも水の流れが強い。
水中を移動しながら、ふとレイアはそんなことを考える。そこら中に漂い、水流で移動する樹木の残骸を避けながら歪虚に接近していく。
尾を引いているようにレイアの背後にはロープが走っていた。シャチ歪虚の注意を引いた際は、テリトリーの外でハンスとロニが引っ張る手はずだ。引くタイミングを間違わないために、篝も『直感視』を発動させて見守っていることだろう。
50m。40m。30m――。
シャチ歪虚との距離が狭まっていく。シャチ特有のつぶらな瞳が、接近するレイアを捉えていた。すぐに襲ってこないのは、無防備に接近するカモを待っているからなのか、それともレイアを警戒しているのか……。
しかしどちらでも構わない。
『ソウルトーチ』や、ほか攻撃系のスキルが届く範囲まで、距離はあと僅か。
そして、
「――――っ」
『ソウルトーチ』の発動。同時に、スキルの注目効果が及んだシャチ歪虚がレイアに襲い掛かってくる。
KYUGEEEEEEeeeeee――!!
音波によって水中に放たれる高音の咆哮。
レイアは怯むことなく『攻めの構え』『ソウルエッジ』とスキルを使って攻撃を加える。『渾身撃』を放とうとした所でシャチ歪虚が目前まで迫ってきた。
腰に巻かれたロープに力が加えられ、レイアは後方へと移動した。シャチは水流を操作してその移動を阻もうとするが、ハンター二人分の運動量はそれを上回った。
シャチ歪虚がレイアを追う――――。
●
「今よ! ロープを引いて!」
篝が指示を出し、ハンスとロニが全力で声を張り上げた。
「おおおおぉぉ!」
「はあああぁぁ!」
膨張した二人の筋肉によってロープは勢いよく引かれ、シャチ歪虚のテリトリーから引き出されていく。
十数秒後、水の壁からレイアの身体が飛び出した。
レイアは衣服の所々が破れ、少なからずダメージも入っているようだった。シャチ歪虚の水流操作による樹木の残骸の接触が原因だろう。
追ってシャチ歪虚も水の壁から現れる。しかし水面から外に出たのは一瞬だけだ。シャチ歪虚を包むようにテリトリーの一部が変形し、シャチ歪虚はすぐ水中に身を沈めてしまう。
しかし、テリトリーの奥へと引き返すことは無い。
シャチ歪虚は視界に移る六人の人影を敵として認識したようだ。
「今のうちだ。テリトリーの奥に引き返す前に攻め落とそう」
ロニがヴァイザースタッフを構え、支援効果のあるスキルを準備・発動させていく。
ハンターたちがそれぞれの行動に移った。
水流操作によりテリトリーから噴出される樹木の残骸を避けながら、奏音は符術を発動させる。
「まずは行動阻害ですね」
『ワイルドカード』『五色光符陣』
放たれた地属性の護符が水中で結界を張り、シャチ歪虚に光によるダメージを与えた。
繰り出される敵の攻撃を、奏音は舞いながらかわす。懐から呪符「皐月」を取り出して掲げ、
「水棲生物のシャチの歪虚ですし、とりあえず地属性で攻撃してみますか」
『五行相剋符』
効果の増幅された一撃がシャチ歪虚に炸裂した。ダメージを受けたシャチ歪虚が痛みに身を捩じらせる。
「――っ」
一際大きな残骸が複数、テリトリーから噴出される。そのすべては奏音をターゲットにしていた。そのすべてを避けきることは難しいかったが――
『ホーリーヴェール』
その残骸のいくつかをロニがスキルで防ぐことで、回避に成功する。
ロニはこの戦闘において、主に支援を担当していた。『ホーリーヴェール』で見方を攻撃から守り、『集中』を併用した『レクイエム』によってシャチ歪虚の注意を引く。
「俺が守りにいる限り、仲間へのダメージは通らないものと思ってもらおうか」
ロニの支援の恩恵を一番受けているのはレイアだろう。
レイアは一度水中から飛び出したものの、継続して囮役を続けていた。シャチ歪虚と同じステージで戦っている分、危険度はもっとも高いため、ロニの支援が生命線といっても過言ではない。
シャチ歪虚が大きくその顎を開きレイアを襲う。が、割り込む形で放たれた一本の矢によってその攻撃はレイアから逸れた。
「させねえっての!」
吐き捨てるような、荒々しい篝の声が木霊する。
一本二本と、篝によって放たれた矢がシャチ歪虚へと飛来し、シャチ歪虚はその衝撃で巨大な体躯を揺らす。
『攻性強化』によって威力を高め、『はやて』でリロード動作の高速化。加えて『二つ番え』による準備動作の効率化。複数のスキルで補助され放たれた矢の数は、一般の常識で考えられる投射数を超える。
降り注ぐ矢。
そこにコーネリアの銃撃も重なった。
『キラースティンガー』『フォールシュート』
高濃度のマテリアルを纏った弾丸の雨が、篝の矢の弾幕と一緒になってシャチ歪虚にダメージを与える。
「水棲生物のくせに陸に上がろうなど身の程知らずな……」
コーネリアがシャチ歪虚を鼻で嗤う。
「まさか水が無きゃ満足に戦えない訳ではなかろうな?」
再び銃器が火を噴き、雨のように弾丸を降らせた。
この戦況において、ハンターたちの方針はおおよそひとつの方向性に固まっている。
テリトリーの奥には行かせない。
速攻でシャチ歪虚を撃破する。
だからこその攻撃重視。防御動作はロニが一手に担い、ロニ以外のハンターは注目スキルを併用して撤退の芽を可能な限り摘み、己の攻撃を全力で叩き込む。
そしてそれはハンスも同じだった。
「はああッ!」
『次元斬』
シャチ歪虚のわき腹付近。その空間が僅かに歪んだと思うと、次の瞬間には斬撃が発生して表面に大きな裂傷を生じさせる。
『マッスルトーチ』の光がテリトリー内で煌き、シャチ歪虚の意識をハンスに向けさせる。
この注目スキル。実はレイアの『ソウルトーチ』と重なることによって思わぬ副産物を発生させていた。シャチ歪虚は二箇所に常に意識を割くことになり、攻撃の勢いが落ち、また回避性能も僅かながら低下していた。
ハンターたちの攻撃が続く。
シャチ歪虚の水流操作によって放たれていた残骸による攻撃も、その数を段々と減らしていった。だが残骸はまだまだテリトリー内に残留している。むしろ、シャチ歪虚の周辺に集まっているように見える。
シャチ歪虚の体力が限界なのだろうか。
気付けばシャチ歪虚の巨躯は既に裂傷、弾痕によって痛んでいる。
戦闘当初、瞳に宿していた闘争心も薄れているように見えた。
勝ち目が無い。そう考え始めた生物が思考の果てに辿りつく答えは何か……。
逃走。
戦士であれば生き恥を嫌うだろうが、あくまでシャチ歪虚は生を望む。思考方向は野生動物のそれに近い。
だがハンターたちはその逃走を許さない。
『プルガトリオ』
『ワイルドカード』『五色光符陣』『五行相剋符』
ロニ、奏音の高威力攻撃を始め、ハンターたちの攻撃が一点に集中した。
――――だが。
その攻撃がシャチ歪虚を仕留める決定打にはならない。
何故か。
それはシャチ歪虚が全力で回避行動を取ったからに他ならなかった。
まず水流の操作によってハンターたちの攻撃を分散させることで威力を弱めた。
そして、残骸を寄せ集めて巨大な盾を形成した。おそらく後半、シャチ歪虚が残骸の投射数を減らし、自らの周囲に残骸を集めていたのはこのためだったのだろう。
その防御行動によって一番威力を落とされたのはロニの『プルガトリオ』だ。誰よりも早く攻撃行動に移ったから、残骸の盾に最初に接触したのはロニの攻撃となる。六人のハンターの中でもっとも戦闘経験の多い彼だからこそ高い反射速度。それが今回は仇となったのだ。
『プルガトリオ』の特性は移動阻害にある。誰よりも先に繰り出されたその一撃は残骸の盾を貫いたが、しかし特性によって残骸は弾け飛ぶことなく残留し、後に続くハンターたちの攻撃を減衰させた。
シャチ歪虚にとってもっとも厄介な攻撃はロニの『プルガトリオ』だった。移動阻害によって逃走が出来なくなるからだ。
しかし威力の弱まった『プルガトリオ』ではシャチ歪虚を縫い止めるには至らない。続くハンターたちの攻撃も、威力が減衰しているため致命打とはならなかった。
シャチ歪虚がテリトリーの奥へと後退する。
それを追うのは囮として動いていたレイア。そしてテリトリー内での戦闘を事前に想定していたコーネリアとハンスだ。
シャチ歪虚を追う三人にロニ、篝、奏音が支援スキルを乗せた。
最後の戦闘は水中戦へと移行する。
●
シャチ歪虚は瀕死の状態だった。
あと一撃でも攻撃を受けたら意識を手放してしまいそうなほど、精神は磨耗し体力も限界だった。
耐えて逃げ切れるものではない。やがて体力も尽きるだろう。
相手は間違いなく追ってくる。しかしフィールドはシャチ歪虚に利がある水中。おまけに樹木の残骸もまだ残されている。
逆転の可能性はゼロではない。
やがて二人のハンターが接近してきた。コーネリアとレイアだ。
二人がスキルで攻撃するも、シャチ歪虚の防御は固かった。海洋系生物を相手に水中戦では不利。その事実は揺るがない。
攻撃スキルで攻め込み、シャチ歪虚の攻撃は避ける。しかし水中においてその難易度は桁違いだ。ロニの掛けた『ホーリーヴェール』がなければ、重傷を負っていただろう。
水中戦は静かに進行する。
水中では音が伝わりにくいからだ。これによりハンター同士のコミュニケーションも身振りやアイサインに頼ったものとなる。
やがて掛けられた支援スキルの効果がすべて消える。
その様子を見てシャチ歪虚は好機と踏み、ハンターとの距離を一気に詰めた。
残骸を周囲に待機させたままハンターとの距離を縮めていく。たとえ射程の広い攻撃があっても、その流れ、つまり『射線』さえ判断できれば対応は可能。
しかしその突撃によってシャチ歪虚は死線を越えてしまう。
直後。
シャチ歪虚の頭部に斬撃が迸った。
『次元斬』
コーネリアとレイアよりも更に後ろ。流れる残骸の後ろを泳いで隠れていたハンスの一撃だった。
標的の位置。つまるところ座標を定めて繰り出される『次元斬』にはその特性上『射線』が存在しない。
加えてシャチ歪虚から姿を隠していたこともプラスに働いている。少なくともシャチ歪虚は『次元斬』を直前の戦闘で何度か受けている。警戒されると躱される恐れがあったからだ。
これは三人が水中を移動している最中に即興で組み立てた作戦だった。二人が囮として動き、ハンスは更に距離を開けて身を隠す。シャチ歪虚が接近し『次元斬』の射程まで接近したら止めの一撃を食らわせる。
水泳と『次元斬』のスキルを持つハンスだからこそ実現可能な作戦だった。
シャチ歪虚は撃破され、その姿は黒い霞となって消える。
主を失ったテリトリーが崩壊する。
残骸が濁流と共に襲い掛かってくる――――。
●
篝以外、全員ずぶ濡れだった。
戦闘直後に崩壊した水の塊。ロニが事前に打ち込んでいた杭を利用することで流されることはなかったものの、これだけはしょうがない。ちなみに篝が濡れていないのは『I.F.O』ですぐに回避したからだ。
服の端々が汚れているのは、流れの勢いで衝突した残骸に接触したのが原因だった。服が汚れているのはレイアも同じだったが、予め気をつけていたこともあり、テリトリー崩壊によるダメージはしっかりと回避できている。
「皆、休憩してないで早く周囲の被害確認と救助活動をするよ」
篝が『I.F.O』に乗ったまま他のハンターを急かした。
依頼にあった湖近くの街とは、十分な距離がある。
しかしこの周囲に人間が一人もいないとは限らない。戦闘後はどうしても確認作業が必要だった。
かくして依頼は達成。
周囲の環境がテリトリーの崩壊で少なくはない被害を出したが、生き残った動物もハンターたちの手によって別の地域まで安全に移動。自然への被害も、汚染された訳ではないため時間と共に戻っていくことだろう。
END
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/04/05 09:20:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/04 21:32:41 |