ゲスト
(ka0000)
芋でつかむチャンス
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/14 19:00
- 完成日
- 2014/12/22 08:05
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●アネリブーベ
帝国第十師団の管轄都市「アネリブーベ」。
囚人街を持つこの都市の周囲には、囚人を逃がさない為の高い壁と、幾つもの支柱と銅線が張り巡らされている。
都市の中央には剣を天に伸ばしたような塔があり、アネリの塔が第十師団「マスケンヴァル」の本拠地になっていた。
ここはそのアネリの塔の地下――
「おやっさん、この芋はどこに置くッスか!」
ランプの灯りが煌々と照る地下で、肩までの金髪を揺らす少女が叫ぶ。
両手には重そうな鎖、首には囚人の首輪、足首には鉄の重りが着いた彼女は、見た通り第十師団に管理される囚人だ。
「おう、こっちの脇に置いてくれ。それが終わったら別の芋を籠に入れて持って来てくれよ」
少女の声にコック帽とエプロンを着けた厳つい親父が叫ぶ。その声に笑顔で手を振って、少女は芋が大量に入った籠を置いた。
「これで5個目ッスね。いつもよりかなり芋の量が多いッス」
彼女が居るアネリの塔の地下には、戦闘には向いていないと判断された囚人が住む。とは言え、ただ住んでいる訳ではない。
各々の能力に合った仕事を熟し、その上で刑期が終えるのを待っているのだ。
「おやっさん。こんなに大量の芋、どうするんッスか?」
「ああ、なんでも陛下に献上する料理を用意するとかで、ゼナイド様が取り寄せたそうだぞ」
「陛下に献上する料理?」
頭にはてなマークを浮かべて芋を見る少女に、親父とは違う凛とした声が彼女の疑問に答えた。
「祭事を利用して贈り物をするらしい。毎年の事だけれど、陛下は食べ物は食べ物と思っておられるから、あまり効果はないのだよ」
「シロ!」
声に振り返った瞬間、少女の目がパアッと輝く。そこに居たのは白銀の髪を膝まで伸ばした美少女で、首には少女と同じく囚人の首輪が嵌められていた。
「やあ、こんにちはだよ。ジュリ」
シロと呼ばれた美少女は、自らがジュリと呼んだ少女に近付くと、にこやかに彼女の手元を覗き込んだ。
「良質な芋が揃っているね。あとはもう少し量があると良いのだけれど」
「まだ足りないッスか!? こんなに芋ばっか食うんスね、陛下は?!」
決してそう言う訳ではないのだろうが、ゼナイド(kz0052)の中では「陛下=芋」と言う図式が成り立ってるらしい。
それを知ってか知らずか、ジュリの言葉に肩を竦めたシロは、芋の籠を流し見る流れで彼女を見た。
「ところでジュリは参加しないのかい?」
「ほへ? 参加って何にッスか?」
「陛下の献上品だけれど、今回は公募を行うらしいのだよ。入賞者にはゼナイド様からご褒美が貰えるらしい」
シロの話によると、陛下へ献上する食べ物は、いつも決まった物ばかりで、しかも陛下はそれを味わう事無く食べきってしまうらしい。
勿論、美味しいとは言うらしいが「蒸かした芋に勝る物はない」と言うのが陛下のお考えだ。
「つまり、ゼナイド様は蒸かし芋以上の芋料理をご所望なのだよ。私もマスケンヴァルの料理番として何か出さなければならないのだけれど料理が苦手でね。もし参加しないのなら私を手伝って欲しいのだよ」
シロはジュリが地下の低階層に配属が決められて以降、時折顔を覗かせるマスケンヴァルの料理番だ。
主にゼナイドに出す料理に毒が入っていないかを確認する役目と言うのを、配属直後に彼女から聞いている。
「シロも大変ッスね。でも低階層のあっしじゃ出場は難しいんじゃないッスかね」
地下に送られた囚人は、刑期を終えるまで外に出る事は出来ない。つまり献上品を決めるコンテストらしき物に出場する事は出来ないのだ。
「大丈夫だよ。ジュリが低階層に落されたのは、不必要な失言が原因だからね。君には戦闘能力があり、帝国は少しでも実戦に耐え得る人材が欲しい。よってジュリは4階層に戻れる可能性があるのだよ。そして今回の事はきっと君の階層を上げるチャンスになる」
ジュリが低階層に落されたのはシロの言うように不必要な失言が元だ。
彼女がアネリブーベに来たのは数か月前の事。タングラムに扮して義賊の真似事をしていた彼女を、ハンターが捕まえたのが切っ掛けだ。
そしてアネリブーベに送られた彼女は、囚人刑期と兵役制度の確認を行う際、その場を訪れたゼナイドに向かって「ばばあ」と言った。
結果、着任直後と言う異例の速さで、囚人兵にも満たない低階層へと落とされてしまったと言う訳だ。
「身から出た錆とは言うけれど、ジュリのはまさしくその類だろうね」
クスリと笑ったシロに、ジュリの首が傾げられる。
「えっと、あっしが上に行ける可能性がある事はわかったッス……でも、それと参加の繋がりがわからないッスよ」
「参加方法は簡単さ。君は私とペアで出場するのだよ。そうすれば料理を会場に持って行けるからね。料理作成に際して、君だけで心許ないと言うのであれば協力者も用意するよ」
どうする? そう言って笑った彼女に、ジュリは少し考えた後に「やるッス!」と頷きを返した。
帝国第十師団の管轄都市「アネリブーベ」。
囚人街を持つこの都市の周囲には、囚人を逃がさない為の高い壁と、幾つもの支柱と銅線が張り巡らされている。
都市の中央には剣を天に伸ばしたような塔があり、アネリの塔が第十師団「マスケンヴァル」の本拠地になっていた。
ここはそのアネリの塔の地下――
「おやっさん、この芋はどこに置くッスか!」
ランプの灯りが煌々と照る地下で、肩までの金髪を揺らす少女が叫ぶ。
両手には重そうな鎖、首には囚人の首輪、足首には鉄の重りが着いた彼女は、見た通り第十師団に管理される囚人だ。
「おう、こっちの脇に置いてくれ。それが終わったら別の芋を籠に入れて持って来てくれよ」
少女の声にコック帽とエプロンを着けた厳つい親父が叫ぶ。その声に笑顔で手を振って、少女は芋が大量に入った籠を置いた。
「これで5個目ッスね。いつもよりかなり芋の量が多いッス」
彼女が居るアネリの塔の地下には、戦闘には向いていないと判断された囚人が住む。とは言え、ただ住んでいる訳ではない。
各々の能力に合った仕事を熟し、その上で刑期が終えるのを待っているのだ。
「おやっさん。こんなに大量の芋、どうするんッスか?」
「ああ、なんでも陛下に献上する料理を用意するとかで、ゼナイド様が取り寄せたそうだぞ」
「陛下に献上する料理?」
頭にはてなマークを浮かべて芋を見る少女に、親父とは違う凛とした声が彼女の疑問に答えた。
「祭事を利用して贈り物をするらしい。毎年の事だけれど、陛下は食べ物は食べ物と思っておられるから、あまり効果はないのだよ」
「シロ!」
声に振り返った瞬間、少女の目がパアッと輝く。そこに居たのは白銀の髪を膝まで伸ばした美少女で、首には少女と同じく囚人の首輪が嵌められていた。
「やあ、こんにちはだよ。ジュリ」
シロと呼ばれた美少女は、自らがジュリと呼んだ少女に近付くと、にこやかに彼女の手元を覗き込んだ。
「良質な芋が揃っているね。あとはもう少し量があると良いのだけれど」
「まだ足りないッスか!? こんなに芋ばっか食うんスね、陛下は?!」
決してそう言う訳ではないのだろうが、ゼナイド(kz0052)の中では「陛下=芋」と言う図式が成り立ってるらしい。
それを知ってか知らずか、ジュリの言葉に肩を竦めたシロは、芋の籠を流し見る流れで彼女を見た。
「ところでジュリは参加しないのかい?」
「ほへ? 参加って何にッスか?」
「陛下の献上品だけれど、今回は公募を行うらしいのだよ。入賞者にはゼナイド様からご褒美が貰えるらしい」
シロの話によると、陛下へ献上する食べ物は、いつも決まった物ばかりで、しかも陛下はそれを味わう事無く食べきってしまうらしい。
勿論、美味しいとは言うらしいが「蒸かした芋に勝る物はない」と言うのが陛下のお考えだ。
「つまり、ゼナイド様は蒸かし芋以上の芋料理をご所望なのだよ。私もマスケンヴァルの料理番として何か出さなければならないのだけれど料理が苦手でね。もし参加しないのなら私を手伝って欲しいのだよ」
シロはジュリが地下の低階層に配属が決められて以降、時折顔を覗かせるマスケンヴァルの料理番だ。
主にゼナイドに出す料理に毒が入っていないかを確認する役目と言うのを、配属直後に彼女から聞いている。
「シロも大変ッスね。でも低階層のあっしじゃ出場は難しいんじゃないッスかね」
地下に送られた囚人は、刑期を終えるまで外に出る事は出来ない。つまり献上品を決めるコンテストらしき物に出場する事は出来ないのだ。
「大丈夫だよ。ジュリが低階層に落されたのは、不必要な失言が原因だからね。君には戦闘能力があり、帝国は少しでも実戦に耐え得る人材が欲しい。よってジュリは4階層に戻れる可能性があるのだよ。そして今回の事はきっと君の階層を上げるチャンスになる」
ジュリが低階層に落されたのはシロの言うように不必要な失言が元だ。
彼女がアネリブーベに来たのは数か月前の事。タングラムに扮して義賊の真似事をしていた彼女を、ハンターが捕まえたのが切っ掛けだ。
そしてアネリブーベに送られた彼女は、囚人刑期と兵役制度の確認を行う際、その場を訪れたゼナイドに向かって「ばばあ」と言った。
結果、着任直後と言う異例の速さで、囚人兵にも満たない低階層へと落とされてしまったと言う訳だ。
「身から出た錆とは言うけれど、ジュリのはまさしくその類だろうね」
クスリと笑ったシロに、ジュリの首が傾げられる。
「えっと、あっしが上に行ける可能性がある事はわかったッス……でも、それと参加の繋がりがわからないッスよ」
「参加方法は簡単さ。君は私とペアで出場するのだよ。そうすれば料理を会場に持って行けるからね。料理作成に際して、君だけで心許ないと言うのであれば協力者も用意するよ」
どうする? そう言って笑った彼女に、ジュリは少し考えた後に「やるッス!」と頷きを返した。
リプレイ本文
アネリブーベ・アネリの塔。その地下奥に用意された厨房で、ジュリは言われた通りに芋の皮を剥いていた。
「ザッとこんなものッス!」
手早く、そして薄く皮を剥かれた芋を見せる彼女にエハウィイ・スゥ(ka0006)が「へぇ」と声を上げる。
「普通に上手だね。口調が体育会系後輩キャラか……オイシイね」
萌える。そう零す彼女の横からドミノ・ウィル(ka0208)が覗き込む。その視線はジュリ――と言うよりも、彼女の隣で皮を剥くシロに向いていた。
「これは……壊滅的だな」
ボソッと零した声にエハウィイの目も向かう。そうして「アカン」と呟くと、シロが小さく肩を竦めた。
「芋の皮を剥く必要など後にも先にもないのだよ」
「いや原形留めてないから! 芋かもわからないから! てか何で料理番とか名乗ってんの!!」
「毒見が出来れば問題ないからね」
粉々になった芋を見詰めるシロに「ああ」と声が漏れる。
「まあ、俺……私も料理の腕はそれなりなんで、下準備的な手伝いはできると思う……思います」
ドミノは場所柄を考えて敬語にしようとしたが、咄嗟に本当の言葉が出てしまう。その事に小さく唸りながら、彼女は側にある籠を指差した。
「とりあえず料理は良いので荷物運びを手伝って下さい」
「荷物運びか……それなら――あ」
へちょんっ。
籠を持ち上げた途端に座り込んだシロにエハウィイが叫ぶ。
「ポンコツか、ポンコツキャラか。ポンコツ美少女とかお前……アリやん……萌え萌えやん!」
「萌えでご飯は作れないと思いますよ」
「これがラノベならもう圧勝ですよ!」
ラノベって何。そう目を瞬くシロだったが、彼女はこの後調理場立ち入り禁止の命が下された。
一方その頃。
「ジャガイモ料理とは……ドイツ人である私の出番ですね。きっと陛下を驚かしてみせますよ」
そう言いながら包丁を握り締めるシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)の趣味はお菓子作りと楽器演奏。つまり今回の依頼は趣味と実益を兼ねるのに十分な物だ。
「とは言え、あの方の驚く所想像出来ないですが……というよりもどんな芋料理でも分け隔てなく食べそうです……」
献上先の人物を思い描いて零す。その声に、同じく準備を進めていたBridget・B(ka3117)が振り返った。
「陛下は味の分からない方なのですか?」
「どうでしょう……嫌いな物はなさそうですが……ま、やる前に諦めてはいけません。頑張りましょう」
コクリと頷くシルヴィアの表情はわからない。それでも覚悟を決めた事だけは伝わって来た。
その姿にBridgetも覚悟を決める。
「持ち込みを却下された以上、私の方も全力で挑まなければなりません」
本来は一晩煮込んでおいた方が良い料理なのだが、場所柄の問題で作り置きの食材持ち込みが許可されなかった。
そのため急いで準備をする必要がある。
「頑張りましょう」
Bridgetはそう零すと、1秒でも惜しいと手を動かし始めた。
そして他の参加者はと言うと……
「またお芋ぉぉ……こ、これはもう、帝国・イコール・お芋なのですわ!」
頭にパルムを乗せた状態で拳を握り締めるチョココ(ka2449)は、目の前に置かれた芋の山に驚愕していた。
久しぶりにゼナイドに会えるので挨拶を、と思っていただけに出迎えた芋のインパクトは大きい。けれど芋と向き合わなければ今回の依頼に勝つことは出来ない。
「と、とにかく、料理は楽しく、食べるのも楽しくですの!」
お芋に屈してはいけませんの! そう声を上げる彼女の隣ではミュオ(ka1308)がソワソワと辺りを見回していた。
「ゼナイドさんがいない……」
勇気を出して踏み入ったアネリの塔。沢山いる囚人は少し怖かったけど、ゼナイドのご褒美があるのなら――と頑張って来た。
「なのに――」
「ゼナイド様なら最終審査に顔を出すのだよ。試食するのはあの方だからね」
「えっ、と?」
「シロと呼ばれているのだよ。頑張りたまえ、少年」
何をしに来たのか。シロはそう言うとミュオの傍から去って行った。
残された彼はと言うと、近くにあった芋に手を伸ばして決意する。
「うん、なんだかやる気があふれてきました。やるぞー! おー!」
ミュオは握り締めた芋を掲げると、大きく声を上げて鍋に向き直った。
●
「ぱるぱるぱ~る♪ お塩を入れるのですわ~♪」
頭にパルムを乗せたチョココは、踊りながら鍋に芋を投げ込み、鼻歌交じりにお塩を少々。
手際も良く実に楽しそうだ。当然、彼女と一緒に居るパルムも楽しそうに揺れている。
それを横で見ていたミュオは、意を決したように鍋に向き合った。
「僕だって!」
料理は得意ではないが、頑張ればゼナイドのご褒美が貰える。
ミュオは手にしていた芋を鍋に投げ込むと、チョココと同じように塩を――
「あ! ど、どうしよう……こんなにっ」
ザァアッ、と流れ込んだ塩に固まる。
そうして震えながら手を伸ばした所でお玉が伸びて来た。目を向けた先に居たのはチョココだ。
「急いで取り出しますの!」
彼女は鍋の中にお玉を入れると、湯の中で広がる塩をすくい上げた。それを何度か繰り返して今度は水を足してゆく。
「茹で加減が難しそうですけど、お塩はこれで大丈夫だと思いますの♪」
「あ、ありがとう、ございます!」
ミュオは勢い良く頭を下げると鍋のお湯をすくって舐めてみた。
「……大丈夫、だ……」
すごい。そんな声を漏らしてもう一度頭を下げる。そうして鍋に向き直ると、芋に加える味付けの準備に入った。
その様子を確認したチョココは、先程の様に楽しげに料理を再開する。
「パルパル、こっちもそろそろですの♪」
グツグツと煮える湯の中では、芋が楽しげに踊っているのが見える。彼女は器用に鍋から芋を取り出すと、手早く皮を剥き始めた。
「あっつあっつのぱるぱるぱ~る♪」
つるん、と皮の剥けた芋を潰して、あぶったお肉と混ぜるて塩コショウとバターを溶かす。そしてそこにコーンを混ぜれば完成だ。
「良い匂いですの~♪」
満足そうに息を吸い込んだ彼女の隣では、ミュオも完成間近の芋に白い塩のような物をまぶしているのが見えた。
「うん。僕の方も、こんな感じかな……」
そう言って笑った彼に、チョココは笑顔を向けると、残り時間を確認して茹でていない芋に向き直った。
その頃、調理場の一角では若干ハイレベルな闘いが始まっていた。
「強力なライバルがいますね」
そう冷静に分析するシルヴィアの視線の先にはBridgetがいる。彼女の傍にはタマネギとニンニク、羊の挽肉を炒め、コーンフラワーとハーブを混ぜた煮込み物がある。
この短時間でここまでを完成させるとは只者ではない。そう判断したシルヴィアの表情が引き締まる。
「……焦ってはいけません。自分のペースで確実に進む事が大切です」
自分に言い聞かせるように呟きながら食べやすい大きさにカットした芋とタマネギ、それにベーコンを炒めるだけの料理を完成させる。
勿論、作る料理はこれだけではない。それに加えて作るのはポテトグラタンだ。
「オーブンの焼き加減も大事ですが、ここで大事なのは隠し味です」
芋を敷いた皿にホワイトソースを流し込み、その上にチーズを乗せる。勿論、先程口にした隠し味も差し込んである。
「さて、焼けるまでの間にもう1品――」
「これは美味しいッス!」
突如聞こえて来た声に、シルヴィアと芋を潰し終えたBridgetの目が向かった。
「あれは……あまり見た事の無い食べ物のようですね。砂糖を煮込んでいるようですが……」
リアルブルーのイギリス出身の彼女には馴染みがないのだろう。砂糖と水を煮詰めて作った蜜に低温で揚げた芋を絡めた料理。俗称・大学芋を頬張ったジュリのなんと美味しそうなことか。
「……気にはなりますが、今は自分の料理に集中しましょう」
そう零すと、彼女はパイ皿の上に羊肉を敷いて潰した芋とバター、それに牛乳を加えたマッシュポテトを並べて、薪で温めて置いたオーブンに入れる。そうして火の番に徹するのだがこの間、先ほど声をあげたジュリ達の料理も順調に進んでいた。
それと言うのも、エハウィイに言われて笑顔担当で何もしていないシロがいるお蔭だ。
「うんうん、応援係を置いて正解だったな」
満面の笑顔で頷くエハウィイの手には、茹でたばかりの里芋がある。彼女はそれを皿に盛ると味見と称して口に運んだ。
「あふっ! あふふ……っ、……美味しい♪」
アツアツの里芋の外はシャキシャキ、中はホクホクで実に美味しい。けれどその姿を見ていたシロが言った。
「それは料理と呼べるのかい? 私には手抜きに見えるのだけれど」
「バカを言っちゃぁいけないっ! これには深い訳があるんだよ! うん、あるんだ!」
「深い訳……あるとは思えないのだよ」
やれやれ。そう視線を逸らしたシロに、信じろと言い放つエハウィイ。そして傍らでは、最後の仕上げに入るドミノとジュリがいる。
「あまりに普通で献上するのに則さない、そうお思いでしょうが、一見普通のレシピも工夫すれば最高になる」
言いながら先程作った大学芋モドキをサイコロだったり星形だったりと色々な形に整えてゆく。
「ああ、それともう1つ大事なことがある」
「大事なことッスか?」
何? 首を傾げたジュリに顔を寄せると、ドミノは密かに料理の極意を話し始めた。
●
料理の審査会場はアネリブーベの広場に用意された特設ステージだ。
ステージ上には参加者と参加者の作った料理、そして審査員であるゼナイドの姿がある。
「それでは献上する料理の審査に入での。まずはミュオ殿、前へ」
「ゼナイドさん! あの、あの、今日はよろしくお願いします!」
頭を下げて差出した皿の上には蒸かし芋と、それに塩麹をまぶした物、そして煮汁で蒸かした芋の3種類がある。
「僕が作ったのは、ふかし芋です。皇帝陛下が大好きらしいので、あえて攻めてみました。陛下は毎日毎日食べてらっしゃるでしょうから、凡百のふかし芋を超えるふかし芋を作ることができれば、きっと目に留まるはず、です!」
そう言葉を切ったミュオを見詰め、ゼナイドは3種類の芋に手を伸ばした。
「この白いのは甘いのね……お酒、のような味がしますけど?」
「は、はい! 塩味かと思いきやとっても甘いんだそうです。理由はわかりませんが……」
神霊樹のライブラリで調べたと言う彼の言葉にゼナイドがもうひと口、芋を口に運ぶ。
「……ど、どうでしょうか? あの、えと、僕はお料理に慣れていないので、上手な人が作ればもっとおいしくなる、と、思い、ます……」
歯切れ悪い言葉に頷き、一言「美味しいですわ」と言葉を返してミュオに微笑み掛けた。
それを合図に司会のマンゴルトが声を上げる。
「次――チョココ殿」
「ゼナお姉さまはお久しぶりなのですっっ」
元気良く進み出たチョココが見せた料理はマッシュポテトだ。
「わたくしの一番好きな芋料理ですのー♪」
見た目はふんわり、優しい香りを運んでくるマッシュポテトにゼナイドの手が伸びると「これも美味しいですわ」と声が零れた。
そこに一枚の紙が差し出される。
「これは?」
「芋判ですの♪」
硬くて食べれない芋を掘って完成させた判子。そこに掘られているのはゼナイドと陛下の似顔絵だ。
「これは喜びそうですわね」
一瞬、陛下のお褒めの言葉が頭を過ってほくそ笑む。しかし直ぐに表情を引き締めると、彼女はチョココに微笑み掛けた。
「ありがとうですわ、可愛らしい子」
ふふ。と笑うのを切っ掛けに、マンゴルトが咳払いをする。そうして次なる参加者が呼ばれた。
「次、ライゼンシュタイン殿」
「私の作った芋料理はこちらです」
ドンッと置かれた皿に目を向けると、まずはと熱々の湯気が立つ皿が差し出された。
「始めに前菜です。これはポテトグラタンで隠し味が入っています」
一口食べてみてわかる。
口の中で広がる後を引く味はニンニクだ。次から次へ食べたくなる衝動を抑えて、次に出された料理に手を伸ばす。
「これはポテト料理を作るなら押さえておきたい料理の1つです」
「コショウが良く効いていますわね。味もしつこくありませんし美味しいですわ。で、これは何ですの?」
ここまでは実に良かった。けれど次に出された皿にゼナイドの目が細められた。
「最後にジャガイモの串焼きです。この上にチーズを乗せて独特の香ばしさを味わって頂きます」
「チーズ……っ、これは!」
焼けた芋の上で蕩けたチーズが実に美味しそうだ。思わず被り付きたくなる衝動を抑えてひと口齧る。
「美味しいですわ」
ほう、っと息を吐き、満足の様子で串を置く。この姿に誰もがシルヴィアの勝利を予感した。だが参加者はまだいる。
「次、バンフィールド殿」
「こちらが私の用意した料理です」
差し出されたのはパイだ。彼女はナイフを入れて、湯気と共に香り立つ肉の匂いを披露する。
「オーソドックスなコッテージパイですが、焼き加減、味共に保証いたします」
彼女の言う通り、味は勿論だが薪を使ったオーブンの火加減が絶妙だった。
焦げさえも料理の味に含まれているかのような出来にゼナイドも唸る。
「これは甲乙つけがたいですわね。ですが勝者は決めねばなりません。勝者は――」
「ちょっとちょっと! 私たちの番が終わってないんだけど!」
「ゼナイド様、全ての料理を食べずに勝者を決めるのは容認しかねるのだよ」
「あなたは……」
進み出たエハウィイとドミノ、そしてシロとジュリにゼナイドの表情が険しくなる。
「まあ、まずは食べてみて下さい」
ワイングラスに盛られた見た目の可愛らしい大学芋にゼナイドの目が見開かれる。そして惹かれるままに手を伸ばすとひと口頬張った。
「……素朴な美味しさですわね。甘く、優しい味がしますわ」
「それは愛情の仕業ッス!」
「愛情?」
叫んだジュリにゼナイドが目を瞬く。
「師匠の教えに『どんな料理も少しの工夫、そして愛情でうまくなる』と言う言葉があります。愛情こそ最高の隠し味です」
ドミノがジュリに教えた料理の極意とは『愛情』だ。そしてそれを実践したのがこの料理だと言う。
「愛情……愛情こそが料理の……ならば美味しい料理と愛情を重ねれば……っ」
ゼナイドは小さく震えると、全てを見回すように全体を見、今回の勝者を発表した。
「優勝できなかったッス」
コンテスト終了後、アネリの塔の地下に戻ったジュリは今回の優勝者であるBridgetの料理を思い出していた。
「でも『愛情』を料理に、と言う言葉にゼナイド様は反応されていたのだよ」
きっと大丈夫。
ゼナイドは献上する料理に『愛情』を付加するはず。それがどんな愛情かはさて置き、それを採用したと言うことが大きな意味を成す。
そして後日、シロの言葉通りジュリは4階層への移動命令が下るのだった。
「ザッとこんなものッス!」
手早く、そして薄く皮を剥かれた芋を見せる彼女にエハウィイ・スゥ(ka0006)が「へぇ」と声を上げる。
「普通に上手だね。口調が体育会系後輩キャラか……オイシイね」
萌える。そう零す彼女の横からドミノ・ウィル(ka0208)が覗き込む。その視線はジュリ――と言うよりも、彼女の隣で皮を剥くシロに向いていた。
「これは……壊滅的だな」
ボソッと零した声にエハウィイの目も向かう。そうして「アカン」と呟くと、シロが小さく肩を竦めた。
「芋の皮を剥く必要など後にも先にもないのだよ」
「いや原形留めてないから! 芋かもわからないから! てか何で料理番とか名乗ってんの!!」
「毒見が出来れば問題ないからね」
粉々になった芋を見詰めるシロに「ああ」と声が漏れる。
「まあ、俺……私も料理の腕はそれなりなんで、下準備的な手伝いはできると思う……思います」
ドミノは場所柄を考えて敬語にしようとしたが、咄嗟に本当の言葉が出てしまう。その事に小さく唸りながら、彼女は側にある籠を指差した。
「とりあえず料理は良いので荷物運びを手伝って下さい」
「荷物運びか……それなら――あ」
へちょんっ。
籠を持ち上げた途端に座り込んだシロにエハウィイが叫ぶ。
「ポンコツか、ポンコツキャラか。ポンコツ美少女とかお前……アリやん……萌え萌えやん!」
「萌えでご飯は作れないと思いますよ」
「これがラノベならもう圧勝ですよ!」
ラノベって何。そう目を瞬くシロだったが、彼女はこの後調理場立ち入り禁止の命が下された。
一方その頃。
「ジャガイモ料理とは……ドイツ人である私の出番ですね。きっと陛下を驚かしてみせますよ」
そう言いながら包丁を握り締めるシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)の趣味はお菓子作りと楽器演奏。つまり今回の依頼は趣味と実益を兼ねるのに十分な物だ。
「とは言え、あの方の驚く所想像出来ないですが……というよりもどんな芋料理でも分け隔てなく食べそうです……」
献上先の人物を思い描いて零す。その声に、同じく準備を進めていたBridget・B(ka3117)が振り返った。
「陛下は味の分からない方なのですか?」
「どうでしょう……嫌いな物はなさそうですが……ま、やる前に諦めてはいけません。頑張りましょう」
コクリと頷くシルヴィアの表情はわからない。それでも覚悟を決めた事だけは伝わって来た。
その姿にBridgetも覚悟を決める。
「持ち込みを却下された以上、私の方も全力で挑まなければなりません」
本来は一晩煮込んでおいた方が良い料理なのだが、場所柄の問題で作り置きの食材持ち込みが許可されなかった。
そのため急いで準備をする必要がある。
「頑張りましょう」
Bridgetはそう零すと、1秒でも惜しいと手を動かし始めた。
そして他の参加者はと言うと……
「またお芋ぉぉ……こ、これはもう、帝国・イコール・お芋なのですわ!」
頭にパルムを乗せた状態で拳を握り締めるチョココ(ka2449)は、目の前に置かれた芋の山に驚愕していた。
久しぶりにゼナイドに会えるので挨拶を、と思っていただけに出迎えた芋のインパクトは大きい。けれど芋と向き合わなければ今回の依頼に勝つことは出来ない。
「と、とにかく、料理は楽しく、食べるのも楽しくですの!」
お芋に屈してはいけませんの! そう声を上げる彼女の隣ではミュオ(ka1308)がソワソワと辺りを見回していた。
「ゼナイドさんがいない……」
勇気を出して踏み入ったアネリの塔。沢山いる囚人は少し怖かったけど、ゼナイドのご褒美があるのなら――と頑張って来た。
「なのに――」
「ゼナイド様なら最終審査に顔を出すのだよ。試食するのはあの方だからね」
「えっ、と?」
「シロと呼ばれているのだよ。頑張りたまえ、少年」
何をしに来たのか。シロはそう言うとミュオの傍から去って行った。
残された彼はと言うと、近くにあった芋に手を伸ばして決意する。
「うん、なんだかやる気があふれてきました。やるぞー! おー!」
ミュオは握り締めた芋を掲げると、大きく声を上げて鍋に向き直った。
●
「ぱるぱるぱ~る♪ お塩を入れるのですわ~♪」
頭にパルムを乗せたチョココは、踊りながら鍋に芋を投げ込み、鼻歌交じりにお塩を少々。
手際も良く実に楽しそうだ。当然、彼女と一緒に居るパルムも楽しそうに揺れている。
それを横で見ていたミュオは、意を決したように鍋に向き合った。
「僕だって!」
料理は得意ではないが、頑張ればゼナイドのご褒美が貰える。
ミュオは手にしていた芋を鍋に投げ込むと、チョココと同じように塩を――
「あ! ど、どうしよう……こんなにっ」
ザァアッ、と流れ込んだ塩に固まる。
そうして震えながら手を伸ばした所でお玉が伸びて来た。目を向けた先に居たのはチョココだ。
「急いで取り出しますの!」
彼女は鍋の中にお玉を入れると、湯の中で広がる塩をすくい上げた。それを何度か繰り返して今度は水を足してゆく。
「茹で加減が難しそうですけど、お塩はこれで大丈夫だと思いますの♪」
「あ、ありがとう、ございます!」
ミュオは勢い良く頭を下げると鍋のお湯をすくって舐めてみた。
「……大丈夫、だ……」
すごい。そんな声を漏らしてもう一度頭を下げる。そうして鍋に向き直ると、芋に加える味付けの準備に入った。
その様子を確認したチョココは、先程の様に楽しげに料理を再開する。
「パルパル、こっちもそろそろですの♪」
グツグツと煮える湯の中では、芋が楽しげに踊っているのが見える。彼女は器用に鍋から芋を取り出すと、手早く皮を剥き始めた。
「あっつあっつのぱるぱるぱ~る♪」
つるん、と皮の剥けた芋を潰して、あぶったお肉と混ぜるて塩コショウとバターを溶かす。そしてそこにコーンを混ぜれば完成だ。
「良い匂いですの~♪」
満足そうに息を吸い込んだ彼女の隣では、ミュオも完成間近の芋に白い塩のような物をまぶしているのが見えた。
「うん。僕の方も、こんな感じかな……」
そう言って笑った彼に、チョココは笑顔を向けると、残り時間を確認して茹でていない芋に向き直った。
その頃、調理場の一角では若干ハイレベルな闘いが始まっていた。
「強力なライバルがいますね」
そう冷静に分析するシルヴィアの視線の先にはBridgetがいる。彼女の傍にはタマネギとニンニク、羊の挽肉を炒め、コーンフラワーとハーブを混ぜた煮込み物がある。
この短時間でここまでを完成させるとは只者ではない。そう判断したシルヴィアの表情が引き締まる。
「……焦ってはいけません。自分のペースで確実に進む事が大切です」
自分に言い聞かせるように呟きながら食べやすい大きさにカットした芋とタマネギ、それにベーコンを炒めるだけの料理を完成させる。
勿論、作る料理はこれだけではない。それに加えて作るのはポテトグラタンだ。
「オーブンの焼き加減も大事ですが、ここで大事なのは隠し味です」
芋を敷いた皿にホワイトソースを流し込み、その上にチーズを乗せる。勿論、先程口にした隠し味も差し込んである。
「さて、焼けるまでの間にもう1品――」
「これは美味しいッス!」
突如聞こえて来た声に、シルヴィアと芋を潰し終えたBridgetの目が向かった。
「あれは……あまり見た事の無い食べ物のようですね。砂糖を煮込んでいるようですが……」
リアルブルーのイギリス出身の彼女には馴染みがないのだろう。砂糖と水を煮詰めて作った蜜に低温で揚げた芋を絡めた料理。俗称・大学芋を頬張ったジュリのなんと美味しそうなことか。
「……気にはなりますが、今は自分の料理に集中しましょう」
そう零すと、彼女はパイ皿の上に羊肉を敷いて潰した芋とバター、それに牛乳を加えたマッシュポテトを並べて、薪で温めて置いたオーブンに入れる。そうして火の番に徹するのだがこの間、先ほど声をあげたジュリ達の料理も順調に進んでいた。
それと言うのも、エハウィイに言われて笑顔担当で何もしていないシロがいるお蔭だ。
「うんうん、応援係を置いて正解だったな」
満面の笑顔で頷くエハウィイの手には、茹でたばかりの里芋がある。彼女はそれを皿に盛ると味見と称して口に運んだ。
「あふっ! あふふ……っ、……美味しい♪」
アツアツの里芋の外はシャキシャキ、中はホクホクで実に美味しい。けれどその姿を見ていたシロが言った。
「それは料理と呼べるのかい? 私には手抜きに見えるのだけれど」
「バカを言っちゃぁいけないっ! これには深い訳があるんだよ! うん、あるんだ!」
「深い訳……あるとは思えないのだよ」
やれやれ。そう視線を逸らしたシロに、信じろと言い放つエハウィイ。そして傍らでは、最後の仕上げに入るドミノとジュリがいる。
「あまりに普通で献上するのに則さない、そうお思いでしょうが、一見普通のレシピも工夫すれば最高になる」
言いながら先程作った大学芋モドキをサイコロだったり星形だったりと色々な形に整えてゆく。
「ああ、それともう1つ大事なことがある」
「大事なことッスか?」
何? 首を傾げたジュリに顔を寄せると、ドミノは密かに料理の極意を話し始めた。
●
料理の審査会場はアネリブーベの広場に用意された特設ステージだ。
ステージ上には参加者と参加者の作った料理、そして審査員であるゼナイドの姿がある。
「それでは献上する料理の審査に入での。まずはミュオ殿、前へ」
「ゼナイドさん! あの、あの、今日はよろしくお願いします!」
頭を下げて差出した皿の上には蒸かし芋と、それに塩麹をまぶした物、そして煮汁で蒸かした芋の3種類がある。
「僕が作ったのは、ふかし芋です。皇帝陛下が大好きらしいので、あえて攻めてみました。陛下は毎日毎日食べてらっしゃるでしょうから、凡百のふかし芋を超えるふかし芋を作ることができれば、きっと目に留まるはず、です!」
そう言葉を切ったミュオを見詰め、ゼナイドは3種類の芋に手を伸ばした。
「この白いのは甘いのね……お酒、のような味がしますけど?」
「は、はい! 塩味かと思いきやとっても甘いんだそうです。理由はわかりませんが……」
神霊樹のライブラリで調べたと言う彼の言葉にゼナイドがもうひと口、芋を口に運ぶ。
「……ど、どうでしょうか? あの、えと、僕はお料理に慣れていないので、上手な人が作ればもっとおいしくなる、と、思い、ます……」
歯切れ悪い言葉に頷き、一言「美味しいですわ」と言葉を返してミュオに微笑み掛けた。
それを合図に司会のマンゴルトが声を上げる。
「次――チョココ殿」
「ゼナお姉さまはお久しぶりなのですっっ」
元気良く進み出たチョココが見せた料理はマッシュポテトだ。
「わたくしの一番好きな芋料理ですのー♪」
見た目はふんわり、優しい香りを運んでくるマッシュポテトにゼナイドの手が伸びると「これも美味しいですわ」と声が零れた。
そこに一枚の紙が差し出される。
「これは?」
「芋判ですの♪」
硬くて食べれない芋を掘って完成させた判子。そこに掘られているのはゼナイドと陛下の似顔絵だ。
「これは喜びそうですわね」
一瞬、陛下のお褒めの言葉が頭を過ってほくそ笑む。しかし直ぐに表情を引き締めると、彼女はチョココに微笑み掛けた。
「ありがとうですわ、可愛らしい子」
ふふ。と笑うのを切っ掛けに、マンゴルトが咳払いをする。そうして次なる参加者が呼ばれた。
「次、ライゼンシュタイン殿」
「私の作った芋料理はこちらです」
ドンッと置かれた皿に目を向けると、まずはと熱々の湯気が立つ皿が差し出された。
「始めに前菜です。これはポテトグラタンで隠し味が入っています」
一口食べてみてわかる。
口の中で広がる後を引く味はニンニクだ。次から次へ食べたくなる衝動を抑えて、次に出された料理に手を伸ばす。
「これはポテト料理を作るなら押さえておきたい料理の1つです」
「コショウが良く効いていますわね。味もしつこくありませんし美味しいですわ。で、これは何ですの?」
ここまでは実に良かった。けれど次に出された皿にゼナイドの目が細められた。
「最後にジャガイモの串焼きです。この上にチーズを乗せて独特の香ばしさを味わって頂きます」
「チーズ……っ、これは!」
焼けた芋の上で蕩けたチーズが実に美味しそうだ。思わず被り付きたくなる衝動を抑えてひと口齧る。
「美味しいですわ」
ほう、っと息を吐き、満足の様子で串を置く。この姿に誰もがシルヴィアの勝利を予感した。だが参加者はまだいる。
「次、バンフィールド殿」
「こちらが私の用意した料理です」
差し出されたのはパイだ。彼女はナイフを入れて、湯気と共に香り立つ肉の匂いを披露する。
「オーソドックスなコッテージパイですが、焼き加減、味共に保証いたします」
彼女の言う通り、味は勿論だが薪を使ったオーブンの火加減が絶妙だった。
焦げさえも料理の味に含まれているかのような出来にゼナイドも唸る。
「これは甲乙つけがたいですわね。ですが勝者は決めねばなりません。勝者は――」
「ちょっとちょっと! 私たちの番が終わってないんだけど!」
「ゼナイド様、全ての料理を食べずに勝者を決めるのは容認しかねるのだよ」
「あなたは……」
進み出たエハウィイとドミノ、そしてシロとジュリにゼナイドの表情が険しくなる。
「まあ、まずは食べてみて下さい」
ワイングラスに盛られた見た目の可愛らしい大学芋にゼナイドの目が見開かれる。そして惹かれるままに手を伸ばすとひと口頬張った。
「……素朴な美味しさですわね。甘く、優しい味がしますわ」
「それは愛情の仕業ッス!」
「愛情?」
叫んだジュリにゼナイドが目を瞬く。
「師匠の教えに『どんな料理も少しの工夫、そして愛情でうまくなる』と言う言葉があります。愛情こそ最高の隠し味です」
ドミノがジュリに教えた料理の極意とは『愛情』だ。そしてそれを実践したのがこの料理だと言う。
「愛情……愛情こそが料理の……ならば美味しい料理と愛情を重ねれば……っ」
ゼナイドは小さく震えると、全てを見回すように全体を見、今回の勝者を発表した。
「優勝できなかったッス」
コンテスト終了後、アネリの塔の地下に戻ったジュリは今回の優勝者であるBridgetの料理を思い出していた。
「でも『愛情』を料理に、と言う言葉にゼナイド様は反応されていたのだよ」
きっと大丈夫。
ゼナイドは献上する料理に『愛情』を付加するはず。それがどんな愛情かはさて置き、それを採用したと言うことが大きな意味を成す。
そして後日、シロの言葉通りジュリは4階層への移動命令が下るのだった。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談用。 ドミノ・ウィル(ka0208) ドワーフ|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/12/11 07:47:18 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/11 23:45:09 |