ゲスト
(ka0000)
街道の治安調査
マスター:きりん

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 8~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/06 07:30
- 完成日
- 2018/04/10 03:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●嘘か真か一
元々男は運が悪い人間だった。
故郷の街を出発してからも、男は災難続きだった。
一日目にして財布を落としたことに気付き、慌てて探し回って全ての予定を狂わせた。
結局財布は見つからず、その日は焚き火を点して夜を明かしたが、朝になった時点で水を飲もうとして革袋の口を開いたところで手が滑り、水が入った革袋を落として貴重な水を地面にぶちまけた。
がっくりとうなだれたところで、背後でがさがさという不審音を聞いた。
「ああもう、何なんだよ!」
毒づいた男が振り返った時は、自らの身長を余裕で超える大きなクマが、置きっ放しにしていた自分の荷物に足を掛けて、鼻先を突っ込んで旅の食料を貪っているところだった。
「う、うわあああああああああ!」
食料を奪われたこともそうだが、こんな目と鼻の先でクマと出会ってしまったことの方が男には衝撃的で、男は知識として知っていたはずのクマと遭遇時の対処法などすっかり忘れ去り、その場を逃げ出した。
当然クマは本能で男を追い、散々追い回して飽きたところで漁っていた食料のことを思い出し、男を放って戻っていった。
あとに残されたのは、恐怖を味わい、ぼろぼろになった男だけだった。
●嘘か真か二
命辛々逃げ延びた男は、ぼさぼさになった頭をかきむしった。
「な、なんであんなところにクマがいるんだ……」
財布を落としたことから始まり、男の格好は服は長時間の追いかけっこでほつれて泥だらけ、荷物は食料ごとクマに取られ、水はこぼしてなくなるという散々な有様で、街に辿り着かなければ冗談ではなく死ぬかもしれない状態だった。
そして、悪い出来事というのは時に連鎖するものである。
男の前に、人相の悪い男たちが七人立ち塞がる。
「な、なんだお前たちは!」
「死にたくなかったら、有り金置いてきな! 服も全部だ!」
本当なら恐怖で震え上がる場面だったが、男は散々クマに追いかけられる恐怖を味わったことで、恐怖心が麻痺していた。
「私がどんな状態か見えないのか!? 服はボロボロ、荷物も金も水も食料もなく、放っておけば野垂れ地ぬ状態だぞ! むしろ私が欲しいくらいだ!」
訴えられた山賊たちは、改めて男を観察した。
確かに、旅の途中だからこその旅装の汚れだと思っていた服は、よく見たら何か鋭い爪に引っ掛けられたように破けた箇所が複数あり、男も重傷こそ負っていないものの、その表情には深い疲れが見える。
旅人にしては手ぶらで歩いているのも妙だし、盗賊の一人が男が腰に下げた革袋を逆さにしても、何も出てこない。
「お頭! こいつ本当に文無しですぜ!」
「だから、さっきからそういっているだろう! 早く通してくれ! 先を急ぎたいんだ!」
男の懇願を聞いた盗賊たちは、げらげらと笑い出した。
「悪いがそれはできねえな! 出せるものがねえなら身体で払ってもらおうか! 奴隷として売り飛ばしてやる!」
こうして、男は今度は盗賊たちに捕まり、通り掛かった奴隷商に売り飛ばされてしまったのだった。
●嘘か真か三
荷台の代わりに檻が設置された馬車の中で、男は膝を抱えていた。
「何でこんなタイミングで奴隷商がいるんだよ……」
まさに出待ちしていたような酷いタイミングだった。
盗賊とグルだったか、それとも男の不運の面目躍如とでもいうべき代物か。
檻には男と同じ境遇の奴隷となった人間たちが詰め込まれており、皆が男と同じように疲労しきった暗い顔をしている。
「運がなかったなぁ、あんた」
奴隷たちのうち、比較的元気がある奴隷が歯の抜けた顔で男を笑う。
「ほっといてくれ……街に着く前に、絶対逃げ出してやる」
「そんなの、余程のことがない限りないと思うがなぁ」
あり得ないと奴隷が笑った。
しかし、男はある種の確信を抱いていた。
今日はあまりにも、あり得ない出来事が連続して起こりすぎている。
元々運が悪いのだ。これで終わるはずがないと直感に近いものを感じていた。
人は、それらを合わせてフラグという。
●嘘か真か四
まるで図ったかのように、奴隷商の馬車が狼の雑魔五体の襲撃を受けた。
男の口から、乾いた笑い声が漏れる。
「ここまで不運だと、かえって都合がいいな。いや、この場合は悪運というべきか」
護衛の傭兵がやられると奴隷商は奴隷の檻を開け放って真っ先に逃げ出し、回りでは奴隷たちが逃げ惑っている。
雑魔は一体ではないようだ。
「と、とにかく今がチャンスだ……!」
決死の思いで男は走った。
男に気付いた雑魔が一体追ってきたが、逃げ惑う奴隷が雑魔の視界を横切り、男から注意を逸らした。
当然どちらも狙ってやった行動ではない。完全に偶然である。
しかしその行動によって雑魔は男ではなくその奴隷を追い始め、男は安全に逃げ出すことができた。
「や、やっと着いた……」
こうして男は目的地、リゼリオに辿り着いたのだ。
リゼリオに入ると、男は真っ直ぐハンターズソサエティに怒鳴り込んだ。
「おい、街道でクマと盗賊と奴隷商と雑魔に襲われたぞ! どうなってるんだ!」
男は見栄っ張りで話を大きくしたがるホラ吹きな人間でもあった。
その証言の全てが信用できるとは限らない。
確かなのは、常日頃から不運な男がクマに襲われ、盗賊に尻の毛まで毟られ、奴隷商と遭遇し、雑魔を見た。以上がハンターズソサエティで男が語った内容の全てであるということだ。
●ハンターズソサエティは真偽に悩む
今日もまた、受付嬢がハンターたちに依頼を持ってきた。
「街道で盗賊が出たという話はこの一件だけで他に聞きません。街道近くに奴隷商が奴隷を仕入れられるような村落もありません。かといってリゼリオはもちろん依頼人の故郷の街からも奴隷商の噂は入ってきておりませんし、どうにも依頼人の態度や話に不可解な点が多いですね。真実かどうか疑わしいですが、ここまで街道の状況が悪くなっているという報告があった以上捨て置くわけにもいかないでしょう」
普段はうさんくさい営業スマイルが眩しい受付嬢は、自分の笑顔よりもうさんくさい依頼を前に、どこか腑に落ちなさそうな顔をしている。
「リゼリオから依頼人の故郷である街までの街道を往復し、街道の治安状況を確かめてください。街道はほぼ直線で、障害物も何もない眺めのいい場所です。距離が長いので、馬などの交通手段を用意しておくといいかもしれませんね。依頼人が嘘をついていない、または特別運が悪いのでなければ、往復しているうちに必ず敵に遭遇することができるでしょう。長旅になりますが、よろしくお願いします」
気を取り直した受付嬢は最後にいつもの営業スマイルを浮かべ、深く頭を下げて話を締め括った。
元々男は運が悪い人間だった。
故郷の街を出発してからも、男は災難続きだった。
一日目にして財布を落としたことに気付き、慌てて探し回って全ての予定を狂わせた。
結局財布は見つからず、その日は焚き火を点して夜を明かしたが、朝になった時点で水を飲もうとして革袋の口を開いたところで手が滑り、水が入った革袋を落として貴重な水を地面にぶちまけた。
がっくりとうなだれたところで、背後でがさがさという不審音を聞いた。
「ああもう、何なんだよ!」
毒づいた男が振り返った時は、自らの身長を余裕で超える大きなクマが、置きっ放しにしていた自分の荷物に足を掛けて、鼻先を突っ込んで旅の食料を貪っているところだった。
「う、うわあああああああああ!」
食料を奪われたこともそうだが、こんな目と鼻の先でクマと出会ってしまったことの方が男には衝撃的で、男は知識として知っていたはずのクマと遭遇時の対処法などすっかり忘れ去り、その場を逃げ出した。
当然クマは本能で男を追い、散々追い回して飽きたところで漁っていた食料のことを思い出し、男を放って戻っていった。
あとに残されたのは、恐怖を味わい、ぼろぼろになった男だけだった。
●嘘か真か二
命辛々逃げ延びた男は、ぼさぼさになった頭をかきむしった。
「な、なんであんなところにクマがいるんだ……」
財布を落としたことから始まり、男の格好は服は長時間の追いかけっこでほつれて泥だらけ、荷物は食料ごとクマに取られ、水はこぼしてなくなるという散々な有様で、街に辿り着かなければ冗談ではなく死ぬかもしれない状態だった。
そして、悪い出来事というのは時に連鎖するものである。
男の前に、人相の悪い男たちが七人立ち塞がる。
「な、なんだお前たちは!」
「死にたくなかったら、有り金置いてきな! 服も全部だ!」
本当なら恐怖で震え上がる場面だったが、男は散々クマに追いかけられる恐怖を味わったことで、恐怖心が麻痺していた。
「私がどんな状態か見えないのか!? 服はボロボロ、荷物も金も水も食料もなく、放っておけば野垂れ地ぬ状態だぞ! むしろ私が欲しいくらいだ!」
訴えられた山賊たちは、改めて男を観察した。
確かに、旅の途中だからこその旅装の汚れだと思っていた服は、よく見たら何か鋭い爪に引っ掛けられたように破けた箇所が複数あり、男も重傷こそ負っていないものの、その表情には深い疲れが見える。
旅人にしては手ぶらで歩いているのも妙だし、盗賊の一人が男が腰に下げた革袋を逆さにしても、何も出てこない。
「お頭! こいつ本当に文無しですぜ!」
「だから、さっきからそういっているだろう! 早く通してくれ! 先を急ぎたいんだ!」
男の懇願を聞いた盗賊たちは、げらげらと笑い出した。
「悪いがそれはできねえな! 出せるものがねえなら身体で払ってもらおうか! 奴隷として売り飛ばしてやる!」
こうして、男は今度は盗賊たちに捕まり、通り掛かった奴隷商に売り飛ばされてしまったのだった。
●嘘か真か三
荷台の代わりに檻が設置された馬車の中で、男は膝を抱えていた。
「何でこんなタイミングで奴隷商がいるんだよ……」
まさに出待ちしていたような酷いタイミングだった。
盗賊とグルだったか、それとも男の不運の面目躍如とでもいうべき代物か。
檻には男と同じ境遇の奴隷となった人間たちが詰め込まれており、皆が男と同じように疲労しきった暗い顔をしている。
「運がなかったなぁ、あんた」
奴隷たちのうち、比較的元気がある奴隷が歯の抜けた顔で男を笑う。
「ほっといてくれ……街に着く前に、絶対逃げ出してやる」
「そんなの、余程のことがない限りないと思うがなぁ」
あり得ないと奴隷が笑った。
しかし、男はある種の確信を抱いていた。
今日はあまりにも、あり得ない出来事が連続して起こりすぎている。
元々運が悪いのだ。これで終わるはずがないと直感に近いものを感じていた。
人は、それらを合わせてフラグという。
●嘘か真か四
まるで図ったかのように、奴隷商の馬車が狼の雑魔五体の襲撃を受けた。
男の口から、乾いた笑い声が漏れる。
「ここまで不運だと、かえって都合がいいな。いや、この場合は悪運というべきか」
護衛の傭兵がやられると奴隷商は奴隷の檻を開け放って真っ先に逃げ出し、回りでは奴隷たちが逃げ惑っている。
雑魔は一体ではないようだ。
「と、とにかく今がチャンスだ……!」
決死の思いで男は走った。
男に気付いた雑魔が一体追ってきたが、逃げ惑う奴隷が雑魔の視界を横切り、男から注意を逸らした。
当然どちらも狙ってやった行動ではない。完全に偶然である。
しかしその行動によって雑魔は男ではなくその奴隷を追い始め、男は安全に逃げ出すことができた。
「や、やっと着いた……」
こうして男は目的地、リゼリオに辿り着いたのだ。
リゼリオに入ると、男は真っ直ぐハンターズソサエティに怒鳴り込んだ。
「おい、街道でクマと盗賊と奴隷商と雑魔に襲われたぞ! どうなってるんだ!」
男は見栄っ張りで話を大きくしたがるホラ吹きな人間でもあった。
その証言の全てが信用できるとは限らない。
確かなのは、常日頃から不運な男がクマに襲われ、盗賊に尻の毛まで毟られ、奴隷商と遭遇し、雑魔を見た。以上がハンターズソサエティで男が語った内容の全てであるということだ。
●ハンターズソサエティは真偽に悩む
今日もまた、受付嬢がハンターたちに依頼を持ってきた。
「街道で盗賊が出たという話はこの一件だけで他に聞きません。街道近くに奴隷商が奴隷を仕入れられるような村落もありません。かといってリゼリオはもちろん依頼人の故郷の街からも奴隷商の噂は入ってきておりませんし、どうにも依頼人の態度や話に不可解な点が多いですね。真実かどうか疑わしいですが、ここまで街道の状況が悪くなっているという報告があった以上捨て置くわけにもいかないでしょう」
普段はうさんくさい営業スマイルが眩しい受付嬢は、自分の笑顔よりもうさんくさい依頼を前に、どこか腑に落ちなさそうな顔をしている。
「リゼリオから依頼人の故郷である街までの街道を往復し、街道の治安状況を確かめてください。街道はほぼ直線で、障害物も何もない眺めのいい場所です。距離が長いので、馬などの交通手段を用意しておくといいかもしれませんね。依頼人が嘘をついていない、または特別運が悪いのでなければ、往復しているうちに必ず敵に遭遇することができるでしょう。長旅になりますが、よろしくお願いします」
気を取り直した受付嬢は最後にいつもの営業スマイルを浮かべ、深く頭を下げて話を締め括った。
リプレイ本文
●出発前
集まったハンターたちは、効率よく調査を行うためにまず班決めを行った。
「わたくしたちがこうして同じ依頼で再会できたのも何かの縁でやがるです。一緒に参りましょうサクラ。光は我らを導きたまう。ええ、ええ、『偽り無く』成し遂げてさしあげます」
「さて、何処まで本当で何処まで嘘かはわかりませんが、全てが本当だと考えて動いておいたほうがいいですかね……。ところで何やっているのですかあなた」
一組目はシレークス(ka0752)とサクラ・エルフリード(ka2598)のペアだ。
おもむろに木の実を取り出して握り潰すシレークスは腹黒く、サクラは純真と、正反対な性格のデコボココンビだが、案外気が合うらしい。
ハンターたちは横の繋がりが強く、同じ依頼に複数の友人知人が絡むことも少なくない。フェリア(ka2870)、七夜・真夕(ka3977)、レイア・アローネ(ka4082)の三人もそうだ。
「一週間ありますので、まずは手分けして街道を調べてみましょう。レイアは真夕と行くでしょうし、私はエメラルドと一緒に行きましょうか」
物腰が柔らかいフェリアの態度には品がある。口調も丁寧で育ちの良さをを窺わせる。それも当然で、彼女は帝国の名家出身なのだ。
「フェリアの提案通り、私はレイアと組むわ。何もないのが一番だけどそれはそれで退屈だし、集中力も切れてくるだろうからそういう時に襲撃されないよう気をつけなきゃね」
今回のメンバーでは唯一リアルブルー出身なのが七夜・真夕(ka3977)だ。明るく負けず嫌いな性格に加え、少し抜けている一面もチャームポイントである。
山奥の部族出身の女戦士であるレイアは、証言について直接街道に赴く前に、まず依頼人を当たって調べることにしたようだった。
「皆は先に行っててくれ。私たちはもう一度依頼人に会って証言の詳細を聞き出してから行く。話の真贋を見極めるためにはそうした方がいいだろう。情報は適宜伝える」
顔が広いフェリアの知人は彼女らだけではない。
エメラルド・シルフィユ(ka4678)もまたフェリアの友人なので、彼女も含めれば四人もの繋がりがこの場にあることになる。
「私たちは雑魔を探す。……近場にいるだろうから、楽できそうなどとは思っていないぞ! 本当だぞ! ……フェリア、その生暖かい目は何だ?」
仲間内ではエメラルドは愛すべき弄られキャラのような立ち位置であり、シリアスの中にも笑いの風を吹き込んでくれる清涼剤のような存在だ。
東方出身の蓬仙 霞(ka6140)は同じ東方出身の鬼である多由羅(ka6167)と組むことになった。
「なら、ボクは多由羅さんと組めばいいのかな? ……まあ、もういないんだけどね。物凄く輝かんばかりの笑顔で出ていっちゃったよ! 追いかけなきゃ!」
一人先行する多由羅は静かな佇まいを崩さず、ただ殺し合いの機会が訪れることを期待する。
「証言の信憑性など敵を全部斬れば分かります。クマに盗賊に奴隷商に雑魔まで斬っていいだなんて。良い依頼に潜り込めたものですね」
街道の治安調査の始まりだ。
●一日目~三日目
初日の調査が終わり、一度集まって本格的に情報のすり合わせを行う。
「まさか、何も出ないで終わりやがるとは……。別の意味で予想外です」
「気長にいきましょう。まだ始まったばかりですし」
空振りに終わったことを残念がるシレークスを、サクラが慰めた。
「今日調べた限りでは、それらしい轍の跡はありませんでしたね。明日以降に見つかるでしょうか?」
「次々厄介事が降りかかるよりかは、今日みたいな平和な一日の方がいいな、うん」
情報を統合して纏めるフェリアの横で、エメラルドは暢気そうにしている。
「一日に一回は集まらなくちゃいけないのが案外手間ね」
「魔導短伝話は一キロが伝達範囲の限界だからな。仕方ないさ」
ぼやく真夕にレイアが苦笑した。
「いきなり置いていかれるとか……。しかもこの人言動がちょっと怖いよ」
「一匹も出会えないとは残念。ああ、早く斬りたいものですね」
不満げな霞だったが、常に戦意が滲み出ている多由羅に若干引き気味だった。
何事もなく二日目も調査が終了し、再び一行は集合する。
「実は、依頼人が全部出鱈目いってるなんてこと、ありやがりますか? ぶっとばしてぇ」
「押さえて押さえて。地が出てます。まだ二日目ですし、信じてあげましょうよ」
目が据わっているシレークスに対し、コンビを組むサクラは依頼人に好意的だ。
再び空振りに終わってもフェリアは冷静で、エメラルドも相変わらず機嫌が良さそうだ。
「まあ、街道とはいっても広いですし、最初はこんなものでしょう」
「いやー、平和が一番だな! このまま終わってくれても私は一向に構わないぞ!」
逆に若干嫌そうな表情を浮かべているのが、真夕とレイアのコンビだった。
「これ、もしかしたら夜も街道で野宿したりして見張らなきゃ駄目なんじゃない?」
「……あり得るな。盗賊や奴隷商なら人目につかない夜に行動する可能性はありそうだ」
そして東方出身コンビの霞と多由羅は、今日も霞が多由羅に振り回されている。
「あの……多由羅さんが笑顔でぶつぶつ何かいってるんだけど」
「ふふふ……今回の敵は随分と焦らすのが得意なようですね。ああ、滾ります」
三日目のシレークスとサクラは集合した時からやたらとテンションが高かった。
「やった! 通りすがりの旅芸人からクマの目撃情報が聞けやがりましたです!」
「一歩進展ですよ皆さん!」
どうやら旅芸人に出会い、有力な情報を得られたらしい。
しかし、二人を迎えるフェリアとエメラルドの視線は同情と憐憫に満ちていた。
「さすがに少し可哀想になりました」
「う、うむ。まあ、元気出せ! きっと明日はいいことあるぞ!」
彼女たちの手には椀があり、中身がほかほかと湯気を立てている。
物凄く気まずそうな顔で、真夕とレイアが説明する。
「ごめん。今日の晩御飯、クマ鍋なのよ……」
「死骸を調べたが、依頼人から聞いた特徴と一致した。霞と多由羅が仕留めてきてな……」
つまり、空振りに終わったフェリア、エメラルド組と真夕、レイア組に対し、霞、多由羅組はクマに遭遇することができたのだ。
この場合は幸運にもと表現するべきだろうか。
常人ならば恐れるべき獣も、ハンターならばこの通りである。
一気に間合いを詰めた霞の斬撃がクマの前足を斬り飛ばし、怯んだところを満を持した多由羅が地面を擦り上げるように斬りつけて、発火を伴った一撃で豪快に焼き斬って仕留めた。
「クマ鍋、ボクが作ってみたんだ。美味しくできているといいけど」
「敗者が勝者の糧となるのは自然の摂理です。美味美味」
はにかむ霞の横で、多由羅が舌鼓を打った。
●四日目~六日目
もはやシレークスはやさぐれている。そんな彼女を慰めるサクラの対応も手馴れたものだ。
「そして一日がまた無駄に終わると……。いい加減にしやがれです」
「あ、明日こそはきっと何かありますよ!」
今回はフェリアとエメラルド組にヒットがあったようだが、二人の表情は晴れない。
「旅人に出会えたんですけど、目撃情報はありませんでした」
「根掘り葉掘り聞いたが、全部外れだ」
真夕とレイアの組にも若干精神的な疲労が見えてきていた。
敵が夜に行動する可能性も考えて交代で警戒しているせいだ。
「見つけるのは簡単だけど、いないことを確かめるって難しいわね……」
「ただ目撃しなかっただけという可能性もあるからな」
疲れ気味のメンバーが多い中、多由羅だけは元気で霞を戸惑わせている。
「ねえ、あの人笑顔で刀研いでて何だか怖いんだけど」
「私を待ちぼうけさせるとは、まだまだ焦らすおつもりなのですね。明日こそは……」
シレークスの機嫌が悪く、五日目はサクラが身体を張って雰囲気を盛り上げる羽目になった。
「依頼人を締め上げてどれが嘘でどれが本当か吐かせた方が早い気がしやがりました」
「暴力はいけません! 穏便、穏便にいきましょう!」
フェリアはため息をつく回数が多くなり、エメラルドが浮かべる表情も憂鬱だ。
「クマにこそ出会えましたが、未だに盗賊にも奴隷商にも雑魔にも出会えず、目撃情報もなしですか」
「運が悪いだけとは言い切れないかもしれないぞ。……いや、本当に運が悪いだけか?」
大きく伸びをして、真夕が凝り固まった身体を解す横で、レイアは静かに泰然としている。
「さすがに気持ちがだれてくるわね。せめて痕跡くらいでもあればいいんだけど」
「断定できたのはクマのものだけだな。クマ鍋は美味かったが、それを成果とするわけにもいくまい」
若干霞の頬に冷や汗が浮いている。穏やかな笑顔で殺気を撒き散らし始めた多由羅のせいである。
「ボクはずっと緊張してるんだけど……ううん、何でもない」
「敵はどこですか? 私も我慢の限界というものがあるのですよ?」
六日目が過ぎ、集合時間になる。
「今日も収穫なし。明日も何もなかったら、依頼人をぶちのめしやがるです」
「まだ後一日ありますから、落ち着いて!」
静かにシレークスがブチ切れ、サクラが慰める。もはや様式美である。
「ですが、真夕とレイアの組が証言を得られたようですよ」
「明日で最後だし、気を引き締めてかかろう! ……フェリア、何故私を見るんだ?」
そんな二人をフェリアが慰め、エメラルドも続こうとして、微笑むフェリアに首を傾げた。
真夕とレイアの組は収穫があったようで、二人とも表情が明るい。
「旅商人に出会ったんだけど、雑魔を目撃したらしいわ。幸い気付かれなかったようね」
「私たちも確かに獣とは違う雑魔らしき足跡を複数見つけた。明日も引き続き探してみるつもりだ」
そんな二人をじっと多由羅が見つめ、霞が呆れた声を上げた。
「……駄目だよ? そんなもの欲しそうな目で真夕ちゃんとレイアさんを見つめても」
「羨ましい。私のところにも来ていただけないものでしょうか」
切なげなため息が漏れた。
●七日目と事の真相
最終日にして雑魔が現れたとの連絡が、真夕とレイアの組から入った。
情報はバケツリレーのように次々と伝わり全員が事態を把握する。
「ついにきやがりました。今までの鬱憤を雑魔にぶつけやがるです」
「あははは……。やり過ぎないようにしてくださいね」
表情を輝かせて現場へ急行するシレークスの後を、サクラは苦笑しながら追う。
報告を受けてさらに伝達をしたフェリアとエメラルドも、少なからずテンションが上がっている。
「結局盗賊と奴隷商については証言もなく痕跡も見つからず……。後はあの雑魔たち次第ですか」
「私たちも早く向かうぞ! ほとんど何もなかったせいで、不謹慎にも心が躍ってしまうな!」
発見した真夕とレイアの組は、ハンターが一人雑魔の群れに襲われているのを見て、即座に加勢を決めた。
「数は五匹、依頼人の証言通り狼型の雑魔ね。皆が到着するまで保たせるわよ」
「同業者が襲われているな。急ぐぞ、ついて来い!」
連絡を受けた霞が気付いた時には一人きりになっていた。多由羅の姿は既に豆粒で今にも消えそうだ。
「あれっ!? さっきまで側にいた多由羅さんがもういない!? ま、待ってよー!」
「ふふふふふ、五匹もいるんです。私がご相伴に預かっても、問題ありませんよね?」
たった五匹の雑魔など、大勢のハンターが揃えば路傍の石と同じ。
シレークスのマテリアル浸透打撃で背中に光のシンボルを刻み込まれ、苦し紛れの反撃は的確にサクラが発生させた光の防御壁に防がれる。
フェリアの無慈悲な冷気の嵐に巻き込まれた雑魔は氷像となり、エメラルドが発した聖なる波動に打ち据えられて砕け散る。
真夕の放った一直線の雷撃に貫かれて黒焦げにされ、辛くも逃れて真夕を狙おうとする個体は的確にレイアに斬り捨てられた。
これらに霞と多由羅まで参戦して暴れまわるのだから、もはやオーバーキルもいいところである。
助けられたハンターが逆に驚いていたくらいだった。
結局雑魔を倒した後は盗賊も奴隷商も見つからずじまいで、助けたハンターからも有力な情報は得られなかった。
調査を終了させた一行はいないという判断を下してリゼリオに戻り、ハンターズソサエティに保護されていた依頼人を問い詰める。
「一週間も費やした調査の結果、クマと雑魔以外は痕跡すら影も形もなし。いったいこれはどういうことですかねぇ。何か言うことはありやがりますか?」
「いないならそれはそれでいい事ですけどね……。街道はとても安全になったということが確認出来たわけですし……。ですが、あなたには少しお説教が必要かもですよ……」
笑顔を浮かべるシレークスの額には青筋が浮いており、サクラも依頼人にじっとりとした視線を送っている。
「あなた、私たちが報告した時露骨に安堵しましたね。盗賊と奴隷商は見つからなかったにも関わらず。どういうことなのか、きっちり説明してもらいましょうか」
「まったく、ずるいぞ! いや違った、詐欺は良くないぞ! 私たちが調査に出ている間、依頼人としてハンターズソサエティのお金で優雅に飲食していたそうじゃないか!」
静かに理詰めで迫るフェリアとは対照的に、エメラルドは感情的になって私情塗れなのが隠せていない。
今までの苦労の元を取るかのように真夕は依頼人を問い詰め、レイアも調査結果を盾に依頼人へ説明を迫る。
「空を飛んだりして調べても見たけど、盗賊と奴隷商については痕跡自体なかったわ。ねえ、本当にあなた、盗賊と奴隷商に襲われたの?」
「雑魔を倒した後で糞便を見つけて調べたが、不審なものは見受けられなかった。本当に奴隷を襲ったのなら、髪の毛くらい混じっていてもおかしくないと思うのだがな」
その横では期待していた敵に出会えず落胆させられて殺意全開の多由羅を、霞が引き攣った表情で必死になって止めていた。
「ボクはいいんだ。うん。信じていたのはボクの勝手だし。だけど、ボクの隣のお姉さんはそうじゃないみたいだから、早めに謝ることをお勧めするよ。切実に」
「どういうことなのですか? 盗賊と奴隷商が見つからなかったのですけれど。代わりにあなたを斬ってもいいですか? いいですよね?」
「す、すまない! むしゃくしゃしてつい話を盛ってしまったんだ! 許してくれ!」
ついに自白した依頼人だったが、当然許されなかった。
一行が依頼を受けている間、依頼人はずっとハンターズソサエティで衣食住を提供されていたのだから、立派な詐欺であり、偽証罪まで成立する。
うさんくさい笑顔で受付嬢が通報し、やってきた衛兵に依頼人は連行されていった。
最後に受付嬢が告げる。
「皆様お疲れ様でした。報酬はきちんとハンターズソサエティから支払われますのでご安心くださいませ」
むしろそうでないと困ると、全員が思った。
集まったハンターたちは、効率よく調査を行うためにまず班決めを行った。
「わたくしたちがこうして同じ依頼で再会できたのも何かの縁でやがるです。一緒に参りましょうサクラ。光は我らを導きたまう。ええ、ええ、『偽り無く』成し遂げてさしあげます」
「さて、何処まで本当で何処まで嘘かはわかりませんが、全てが本当だと考えて動いておいたほうがいいですかね……。ところで何やっているのですかあなた」
一組目はシレークス(ka0752)とサクラ・エルフリード(ka2598)のペアだ。
おもむろに木の実を取り出して握り潰すシレークスは腹黒く、サクラは純真と、正反対な性格のデコボココンビだが、案外気が合うらしい。
ハンターたちは横の繋がりが強く、同じ依頼に複数の友人知人が絡むことも少なくない。フェリア(ka2870)、七夜・真夕(ka3977)、レイア・アローネ(ka4082)の三人もそうだ。
「一週間ありますので、まずは手分けして街道を調べてみましょう。レイアは真夕と行くでしょうし、私はエメラルドと一緒に行きましょうか」
物腰が柔らかいフェリアの態度には品がある。口調も丁寧で育ちの良さをを窺わせる。それも当然で、彼女は帝国の名家出身なのだ。
「フェリアの提案通り、私はレイアと組むわ。何もないのが一番だけどそれはそれで退屈だし、集中力も切れてくるだろうからそういう時に襲撃されないよう気をつけなきゃね」
今回のメンバーでは唯一リアルブルー出身なのが七夜・真夕(ka3977)だ。明るく負けず嫌いな性格に加え、少し抜けている一面もチャームポイントである。
山奥の部族出身の女戦士であるレイアは、証言について直接街道に赴く前に、まず依頼人を当たって調べることにしたようだった。
「皆は先に行っててくれ。私たちはもう一度依頼人に会って証言の詳細を聞き出してから行く。話の真贋を見極めるためにはそうした方がいいだろう。情報は適宜伝える」
顔が広いフェリアの知人は彼女らだけではない。
エメラルド・シルフィユ(ka4678)もまたフェリアの友人なので、彼女も含めれば四人もの繋がりがこの場にあることになる。
「私たちは雑魔を探す。……近場にいるだろうから、楽できそうなどとは思っていないぞ! 本当だぞ! ……フェリア、その生暖かい目は何だ?」
仲間内ではエメラルドは愛すべき弄られキャラのような立ち位置であり、シリアスの中にも笑いの風を吹き込んでくれる清涼剤のような存在だ。
東方出身の蓬仙 霞(ka6140)は同じ東方出身の鬼である多由羅(ka6167)と組むことになった。
「なら、ボクは多由羅さんと組めばいいのかな? ……まあ、もういないんだけどね。物凄く輝かんばかりの笑顔で出ていっちゃったよ! 追いかけなきゃ!」
一人先行する多由羅は静かな佇まいを崩さず、ただ殺し合いの機会が訪れることを期待する。
「証言の信憑性など敵を全部斬れば分かります。クマに盗賊に奴隷商に雑魔まで斬っていいだなんて。良い依頼に潜り込めたものですね」
街道の治安調査の始まりだ。
●一日目~三日目
初日の調査が終わり、一度集まって本格的に情報のすり合わせを行う。
「まさか、何も出ないで終わりやがるとは……。別の意味で予想外です」
「気長にいきましょう。まだ始まったばかりですし」
空振りに終わったことを残念がるシレークスを、サクラが慰めた。
「今日調べた限りでは、それらしい轍の跡はありませんでしたね。明日以降に見つかるでしょうか?」
「次々厄介事が降りかかるよりかは、今日みたいな平和な一日の方がいいな、うん」
情報を統合して纏めるフェリアの横で、エメラルドは暢気そうにしている。
「一日に一回は集まらなくちゃいけないのが案外手間ね」
「魔導短伝話は一キロが伝達範囲の限界だからな。仕方ないさ」
ぼやく真夕にレイアが苦笑した。
「いきなり置いていかれるとか……。しかもこの人言動がちょっと怖いよ」
「一匹も出会えないとは残念。ああ、早く斬りたいものですね」
不満げな霞だったが、常に戦意が滲み出ている多由羅に若干引き気味だった。
何事もなく二日目も調査が終了し、再び一行は集合する。
「実は、依頼人が全部出鱈目いってるなんてこと、ありやがりますか? ぶっとばしてぇ」
「押さえて押さえて。地が出てます。まだ二日目ですし、信じてあげましょうよ」
目が据わっているシレークスに対し、コンビを組むサクラは依頼人に好意的だ。
再び空振りに終わってもフェリアは冷静で、エメラルドも相変わらず機嫌が良さそうだ。
「まあ、街道とはいっても広いですし、最初はこんなものでしょう」
「いやー、平和が一番だな! このまま終わってくれても私は一向に構わないぞ!」
逆に若干嫌そうな表情を浮かべているのが、真夕とレイアのコンビだった。
「これ、もしかしたら夜も街道で野宿したりして見張らなきゃ駄目なんじゃない?」
「……あり得るな。盗賊や奴隷商なら人目につかない夜に行動する可能性はありそうだ」
そして東方出身コンビの霞と多由羅は、今日も霞が多由羅に振り回されている。
「あの……多由羅さんが笑顔でぶつぶつ何かいってるんだけど」
「ふふふ……今回の敵は随分と焦らすのが得意なようですね。ああ、滾ります」
三日目のシレークスとサクラは集合した時からやたらとテンションが高かった。
「やった! 通りすがりの旅芸人からクマの目撃情報が聞けやがりましたです!」
「一歩進展ですよ皆さん!」
どうやら旅芸人に出会い、有力な情報を得られたらしい。
しかし、二人を迎えるフェリアとエメラルドの視線は同情と憐憫に満ちていた。
「さすがに少し可哀想になりました」
「う、うむ。まあ、元気出せ! きっと明日はいいことあるぞ!」
彼女たちの手には椀があり、中身がほかほかと湯気を立てている。
物凄く気まずそうな顔で、真夕とレイアが説明する。
「ごめん。今日の晩御飯、クマ鍋なのよ……」
「死骸を調べたが、依頼人から聞いた特徴と一致した。霞と多由羅が仕留めてきてな……」
つまり、空振りに終わったフェリア、エメラルド組と真夕、レイア組に対し、霞、多由羅組はクマに遭遇することができたのだ。
この場合は幸運にもと表現するべきだろうか。
常人ならば恐れるべき獣も、ハンターならばこの通りである。
一気に間合いを詰めた霞の斬撃がクマの前足を斬り飛ばし、怯んだところを満を持した多由羅が地面を擦り上げるように斬りつけて、発火を伴った一撃で豪快に焼き斬って仕留めた。
「クマ鍋、ボクが作ってみたんだ。美味しくできているといいけど」
「敗者が勝者の糧となるのは自然の摂理です。美味美味」
はにかむ霞の横で、多由羅が舌鼓を打った。
●四日目~六日目
もはやシレークスはやさぐれている。そんな彼女を慰めるサクラの対応も手馴れたものだ。
「そして一日がまた無駄に終わると……。いい加減にしやがれです」
「あ、明日こそはきっと何かありますよ!」
今回はフェリアとエメラルド組にヒットがあったようだが、二人の表情は晴れない。
「旅人に出会えたんですけど、目撃情報はありませんでした」
「根掘り葉掘り聞いたが、全部外れだ」
真夕とレイアの組にも若干精神的な疲労が見えてきていた。
敵が夜に行動する可能性も考えて交代で警戒しているせいだ。
「見つけるのは簡単だけど、いないことを確かめるって難しいわね……」
「ただ目撃しなかっただけという可能性もあるからな」
疲れ気味のメンバーが多い中、多由羅だけは元気で霞を戸惑わせている。
「ねえ、あの人笑顔で刀研いでて何だか怖いんだけど」
「私を待ちぼうけさせるとは、まだまだ焦らすおつもりなのですね。明日こそは……」
シレークスの機嫌が悪く、五日目はサクラが身体を張って雰囲気を盛り上げる羽目になった。
「依頼人を締め上げてどれが嘘でどれが本当か吐かせた方が早い気がしやがりました」
「暴力はいけません! 穏便、穏便にいきましょう!」
フェリアはため息をつく回数が多くなり、エメラルドが浮かべる表情も憂鬱だ。
「クマにこそ出会えましたが、未だに盗賊にも奴隷商にも雑魔にも出会えず、目撃情報もなしですか」
「運が悪いだけとは言い切れないかもしれないぞ。……いや、本当に運が悪いだけか?」
大きく伸びをして、真夕が凝り固まった身体を解す横で、レイアは静かに泰然としている。
「さすがに気持ちがだれてくるわね。せめて痕跡くらいでもあればいいんだけど」
「断定できたのはクマのものだけだな。クマ鍋は美味かったが、それを成果とするわけにもいくまい」
若干霞の頬に冷や汗が浮いている。穏やかな笑顔で殺気を撒き散らし始めた多由羅のせいである。
「ボクはずっと緊張してるんだけど……ううん、何でもない」
「敵はどこですか? 私も我慢の限界というものがあるのですよ?」
六日目が過ぎ、集合時間になる。
「今日も収穫なし。明日も何もなかったら、依頼人をぶちのめしやがるです」
「まだ後一日ありますから、落ち着いて!」
静かにシレークスがブチ切れ、サクラが慰める。もはや様式美である。
「ですが、真夕とレイアの組が証言を得られたようですよ」
「明日で最後だし、気を引き締めてかかろう! ……フェリア、何故私を見るんだ?」
そんな二人をフェリアが慰め、エメラルドも続こうとして、微笑むフェリアに首を傾げた。
真夕とレイアの組は収穫があったようで、二人とも表情が明るい。
「旅商人に出会ったんだけど、雑魔を目撃したらしいわ。幸い気付かれなかったようね」
「私たちも確かに獣とは違う雑魔らしき足跡を複数見つけた。明日も引き続き探してみるつもりだ」
そんな二人をじっと多由羅が見つめ、霞が呆れた声を上げた。
「……駄目だよ? そんなもの欲しそうな目で真夕ちゃんとレイアさんを見つめても」
「羨ましい。私のところにも来ていただけないものでしょうか」
切なげなため息が漏れた。
●七日目と事の真相
最終日にして雑魔が現れたとの連絡が、真夕とレイアの組から入った。
情報はバケツリレーのように次々と伝わり全員が事態を把握する。
「ついにきやがりました。今までの鬱憤を雑魔にぶつけやがるです」
「あははは……。やり過ぎないようにしてくださいね」
表情を輝かせて現場へ急行するシレークスの後を、サクラは苦笑しながら追う。
報告を受けてさらに伝達をしたフェリアとエメラルドも、少なからずテンションが上がっている。
「結局盗賊と奴隷商については証言もなく痕跡も見つからず……。後はあの雑魔たち次第ですか」
「私たちも早く向かうぞ! ほとんど何もなかったせいで、不謹慎にも心が躍ってしまうな!」
発見した真夕とレイアの組は、ハンターが一人雑魔の群れに襲われているのを見て、即座に加勢を決めた。
「数は五匹、依頼人の証言通り狼型の雑魔ね。皆が到着するまで保たせるわよ」
「同業者が襲われているな。急ぐぞ、ついて来い!」
連絡を受けた霞が気付いた時には一人きりになっていた。多由羅の姿は既に豆粒で今にも消えそうだ。
「あれっ!? さっきまで側にいた多由羅さんがもういない!? ま、待ってよー!」
「ふふふふふ、五匹もいるんです。私がご相伴に預かっても、問題ありませんよね?」
たった五匹の雑魔など、大勢のハンターが揃えば路傍の石と同じ。
シレークスのマテリアル浸透打撃で背中に光のシンボルを刻み込まれ、苦し紛れの反撃は的確にサクラが発生させた光の防御壁に防がれる。
フェリアの無慈悲な冷気の嵐に巻き込まれた雑魔は氷像となり、エメラルドが発した聖なる波動に打ち据えられて砕け散る。
真夕の放った一直線の雷撃に貫かれて黒焦げにされ、辛くも逃れて真夕を狙おうとする個体は的確にレイアに斬り捨てられた。
これらに霞と多由羅まで参戦して暴れまわるのだから、もはやオーバーキルもいいところである。
助けられたハンターが逆に驚いていたくらいだった。
結局雑魔を倒した後は盗賊も奴隷商も見つからずじまいで、助けたハンターからも有力な情報は得られなかった。
調査を終了させた一行はいないという判断を下してリゼリオに戻り、ハンターズソサエティに保護されていた依頼人を問い詰める。
「一週間も費やした調査の結果、クマと雑魔以外は痕跡すら影も形もなし。いったいこれはどういうことですかねぇ。何か言うことはありやがりますか?」
「いないならそれはそれでいい事ですけどね……。街道はとても安全になったということが確認出来たわけですし……。ですが、あなたには少しお説教が必要かもですよ……」
笑顔を浮かべるシレークスの額には青筋が浮いており、サクラも依頼人にじっとりとした視線を送っている。
「あなた、私たちが報告した時露骨に安堵しましたね。盗賊と奴隷商は見つからなかったにも関わらず。どういうことなのか、きっちり説明してもらいましょうか」
「まったく、ずるいぞ! いや違った、詐欺は良くないぞ! 私たちが調査に出ている間、依頼人としてハンターズソサエティのお金で優雅に飲食していたそうじゃないか!」
静かに理詰めで迫るフェリアとは対照的に、エメラルドは感情的になって私情塗れなのが隠せていない。
今までの苦労の元を取るかのように真夕は依頼人を問い詰め、レイアも調査結果を盾に依頼人へ説明を迫る。
「空を飛んだりして調べても見たけど、盗賊と奴隷商については痕跡自体なかったわ。ねえ、本当にあなた、盗賊と奴隷商に襲われたの?」
「雑魔を倒した後で糞便を見つけて調べたが、不審なものは見受けられなかった。本当に奴隷を襲ったのなら、髪の毛くらい混じっていてもおかしくないと思うのだがな」
その横では期待していた敵に出会えず落胆させられて殺意全開の多由羅を、霞が引き攣った表情で必死になって止めていた。
「ボクはいいんだ。うん。信じていたのはボクの勝手だし。だけど、ボクの隣のお姉さんはそうじゃないみたいだから、早めに謝ることをお勧めするよ。切実に」
「どういうことなのですか? 盗賊と奴隷商が見つからなかったのですけれど。代わりにあなたを斬ってもいいですか? いいですよね?」
「す、すまない! むしゃくしゃしてつい話を盛ってしまったんだ! 許してくれ!」
ついに自白した依頼人だったが、当然許されなかった。
一行が依頼を受けている間、依頼人はずっとハンターズソサエティで衣食住を提供されていたのだから、立派な詐欺であり、偽証罪まで成立する。
うさんくさい笑顔で受付嬢が通報し、やってきた衛兵に依頼人は連行されていった。
最後に受付嬢が告げる。
「皆様お疲れ様でした。報酬はきちんとハンターズソサエティから支払われますのでご安心くださいませ」
むしろそうでないと困ると、全員が思った。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 8人 |
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ポイントがありませんので、拍手できません
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/06 06:47:25 |
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無実の証明?(相談卓) 多由羅(ka6167) 鬼|21才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2018/04/06 06:58:20 |