ゲスト
(ka0000)
投げろ! トマト戦争(祭り)
マスター:一要・香織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 8~15人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/08 15:00
- 完成日
- 2018/04/12 22:55
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
むかーし、昔。
王国の片隅にある広い平野にグランツと名が付き、いくつもの村に人々が住み、幸せな生活を送るようになった頃―――。
エスエと言う東の村の村長ガイと、ヴェストと言う西の村の村長ロイは、それぞれ自分たちの村で採れた真っ赤なトマトを木箱いっぱいに詰めて、領主の元を訪れようとしていた。
今年最初にとれた、真っ赤なトマト―――。
それはとても甘く、ぜひ領主に食べてもらいたい……そう思い2人は街道を歩いていた。
東と西、それぞれの村から領主の屋敷に続く道はある地点で合流する。
何という偶然だろうか―――――。
その合流地点で、ガイとロイはばったりと出会った。
「おお、久しぶりだな」
「本当だな、元気だったか」
そう言葉を交わすけれど、2人の視線は互いが抱える木箱のトマトに……。
ピクリ……眉尻が僅かに動くが、2人は無言で歩き出した。
暫らく歩いて丘の上まで来た時、お互いの目的地が領主の屋敷だと漸く気付き、ガイが先に口を開いた。
「領主様にトマトを届ける気か?」
「お前こそ」
ガイとロイは眉間に皺を寄せる。
「俺のトマトの方が甘くて美味い。だからロイはそれを持って帰んな」
見下すような言葉と視線に、ロイは食って掛かった。
「なんだと、俺のトマトの方が美味いに決まってるだろう。お前こそ帰れ!」
ガイとロイは今にも掴みかかりそうな勢いで言い争いを始めた。
「そんなに言うなら、このトマトを食ってみろ!」
ロイは怒りながらガイの顔の前にトマトを差し出した―――。
――――――差し出したはずだった。
トマトの活きが良すぎたのか――?
いや、差しだす勢いが良過ぎたのだ……。
ベチャッ――――――。
トマトはガイの顔に飛び込み、当たって弾け、ガイの顔はトマトの汁で染まった。
(あっ!)
そう心の中で思うものの、あれだけ威勢よく言ったので謝罪など出来ない。
「どうだ! 美味いだろ!」
ロイはニヤリと口角を上げた。
「やりやがったな!」
ガイは眉を吊り上げ、自分が抱える木箱の中のトマトをロイの顔目掛けて投げつけた。
それは見事にロイの顔に当たり、ガイ同様ロイの顔もトマトの汁が滴る。
「っ……!」
怒りでワナワナと肩は震え、ロイは木箱を地面に置くと中のトマトを鷲掴み次々とガイへ投げつけた。
ガイも木箱を降ろすとトマトを掴み、ロイに投げつける。
ベチャ、ビチャ!
互いに当たったトマトは小気味いい音を立てながら次々弾け、ガイとロイは全身ドロドロの状態になった。
しかし、高まった熱が冷めることは無い!
木箱が空になると、それぞれは急いで村に帰り、ありったけのトマトを荷車に乗せ先ほどの場所まで戻った。
今度は村人達を引き連れて……。
東西に分かれ、大人数でのトマトの投げ合いが始まったのだ―――。
投げ合う理由はただ一つ。
どっちのトマトが美味いか――。
領民がトマトを投げ合っている! その知らせを聞き領主が駆け付けた。
エスエの村の人々も、ヴェストの村の人々も、頭のてっぺんからつま先までトマトの汁まみれだ。
眉を顰める領主を前に、ガイとロイは肩をすくめる。
いったいどんなお咎めがあるのだろう……そう考えた直後、
「ハッハッハッハッハッハッーーーーーー!!」
大きな笑い声が辺りに響いた。
その笑い声に2人は勢いよく顔を上げる。
見れば領主がお腹を抱え大笑いしていたのだ。
2人はポカンと口を開け、――只々呆然とその様子を眺めた。
ガイとロイを見て、可笑しくて涙を流す領主に釣られるように2人も小さく笑う。
その笑いは伝染するようにその場に居た者達に広がった。
「ああ、なんて酷い恰好なんだ。クックッ……、ガイ、ロイ、何をしていたんだい?」
笑いを堪えながら領主は尋ねた。
訳を話すと領主は更に笑った。
「そんなもの。どちらも美味いに決まっている! この豊かな大地で育ったのだからな」
領主はそう言って眼前に広がる平野を見据えた。
ガイとロイは改めてこのグランツと言う豊かな領地と、それを治めるおおらか領主に感謝し2人は握手を交わした。
それを見届けた領主は、
「ハッハッハッ。いや、いいな! このような祭り事も悪くない」
―――そう呟いた。
それは領主の気まぐれか、はたまたこの事件以来、収穫の量が増えた事がきっかけか……。
詳しい資料は存在しないが、このトマト投げは恒例となりグランツ領を代表する祭りとなったのだ。
そのお祭りの資料を見ながら、若きグランツの領主、レイナ・エルト・グランツ(ka0253)は大きな溜息を吐いた。
「如何されましたか?」
幼少の頃からレイナの世話をしている執事のジルは、主の大きな溜息に苦笑を漏らした。
「今年はエスエの村長が参加すると言って下さらないの……。このままではお祭りは中止になってしまうわ」
憂いを帯びた声色でレイナは呟いた。
突然の先代領主の死により跡を受け継いだレイナは、幼少の頃からの気弱な姿が領民の記憶にあるために、頼りなく思われている。
レイナを心良く思わない者も少なからずいる様だ。
「しかし、参加すると言わないのは村長だけです。村人はとても楽しみにしているようですよ」
励ますようにジルが言うと、
「うん……でも……」
レイナは小さな呟きは、再びの溜息と共に静かな部屋の空気に溶けた。
「レイナ様のご心配はトマトの運搬ですね? 毎年エスエからトマトを運ぶのは村長の所持する馬……。村長が貸して下さらないと肝心のトマトが運べません」
ジルの静かな言葉にレイナは頷いた。
「はい……。お祭りまでに説得してみるつもりですが、もし出来なかったら……」
レイナの言葉は最後まで語られずに止まってしまう。
己の力不足を悔しがりギュッと手を握るレイナの様子を目にし、ジルは優しく微笑んだ。
「では、運搬に協力してくださる方を探されては如何ですか?」
「え?」
呆けた顔でこちらを見るレイナに、ジルは笑みを深めて口を開いた。
「たとえば……ほかに馬をお持ちの方を探すとか、人力で運べる力自慢を探すとか……」
そう言い終えるとジルはニヤリと笑った。
「……っ! ハンター!」
その画策するような笑みの意味に気付き、レイナは声を上げた。
領主に就任してから度々力を貸してくれているハンターに、レイナが好意的な感情を持っている事を知っているジルはその声にコクリと頷いた。
「そうです。協力を仰いでみては?」
「は、はい! ぜひお祭りにも参加して頂きたいわ」
勢いよく立ち上がったレイナは、資料を手にいそいそと部屋を後にした。
数刻後、ハンターオフィスの片隅には、お祭りの詳細とトマト運搬の手伝いのお願いが書かれたポスターが張り出されていた。
王国の片隅にある広い平野にグランツと名が付き、いくつもの村に人々が住み、幸せな生活を送るようになった頃―――。
エスエと言う東の村の村長ガイと、ヴェストと言う西の村の村長ロイは、それぞれ自分たちの村で採れた真っ赤なトマトを木箱いっぱいに詰めて、領主の元を訪れようとしていた。
今年最初にとれた、真っ赤なトマト―――。
それはとても甘く、ぜひ領主に食べてもらいたい……そう思い2人は街道を歩いていた。
東と西、それぞれの村から領主の屋敷に続く道はある地点で合流する。
何という偶然だろうか―――――。
その合流地点で、ガイとロイはばったりと出会った。
「おお、久しぶりだな」
「本当だな、元気だったか」
そう言葉を交わすけれど、2人の視線は互いが抱える木箱のトマトに……。
ピクリ……眉尻が僅かに動くが、2人は無言で歩き出した。
暫らく歩いて丘の上まで来た時、お互いの目的地が領主の屋敷だと漸く気付き、ガイが先に口を開いた。
「領主様にトマトを届ける気か?」
「お前こそ」
ガイとロイは眉間に皺を寄せる。
「俺のトマトの方が甘くて美味い。だからロイはそれを持って帰んな」
見下すような言葉と視線に、ロイは食って掛かった。
「なんだと、俺のトマトの方が美味いに決まってるだろう。お前こそ帰れ!」
ガイとロイは今にも掴みかかりそうな勢いで言い争いを始めた。
「そんなに言うなら、このトマトを食ってみろ!」
ロイは怒りながらガイの顔の前にトマトを差し出した―――。
――――――差し出したはずだった。
トマトの活きが良すぎたのか――?
いや、差しだす勢いが良過ぎたのだ……。
ベチャッ――――――。
トマトはガイの顔に飛び込み、当たって弾け、ガイの顔はトマトの汁で染まった。
(あっ!)
そう心の中で思うものの、あれだけ威勢よく言ったので謝罪など出来ない。
「どうだ! 美味いだろ!」
ロイはニヤリと口角を上げた。
「やりやがったな!」
ガイは眉を吊り上げ、自分が抱える木箱の中のトマトをロイの顔目掛けて投げつけた。
それは見事にロイの顔に当たり、ガイ同様ロイの顔もトマトの汁が滴る。
「っ……!」
怒りでワナワナと肩は震え、ロイは木箱を地面に置くと中のトマトを鷲掴み次々とガイへ投げつけた。
ガイも木箱を降ろすとトマトを掴み、ロイに投げつける。
ベチャ、ビチャ!
互いに当たったトマトは小気味いい音を立てながら次々弾け、ガイとロイは全身ドロドロの状態になった。
しかし、高まった熱が冷めることは無い!
木箱が空になると、それぞれは急いで村に帰り、ありったけのトマトを荷車に乗せ先ほどの場所まで戻った。
今度は村人達を引き連れて……。
東西に分かれ、大人数でのトマトの投げ合いが始まったのだ―――。
投げ合う理由はただ一つ。
どっちのトマトが美味いか――。
領民がトマトを投げ合っている! その知らせを聞き領主が駆け付けた。
エスエの村の人々も、ヴェストの村の人々も、頭のてっぺんからつま先までトマトの汁まみれだ。
眉を顰める領主を前に、ガイとロイは肩をすくめる。
いったいどんなお咎めがあるのだろう……そう考えた直後、
「ハッハッハッハッハッハッーーーーーー!!」
大きな笑い声が辺りに響いた。
その笑い声に2人は勢いよく顔を上げる。
見れば領主がお腹を抱え大笑いしていたのだ。
2人はポカンと口を開け、――只々呆然とその様子を眺めた。
ガイとロイを見て、可笑しくて涙を流す領主に釣られるように2人も小さく笑う。
その笑いは伝染するようにその場に居た者達に広がった。
「ああ、なんて酷い恰好なんだ。クックッ……、ガイ、ロイ、何をしていたんだい?」
笑いを堪えながら領主は尋ねた。
訳を話すと領主は更に笑った。
「そんなもの。どちらも美味いに決まっている! この豊かな大地で育ったのだからな」
領主はそう言って眼前に広がる平野を見据えた。
ガイとロイは改めてこのグランツと言う豊かな領地と、それを治めるおおらか領主に感謝し2人は握手を交わした。
それを見届けた領主は、
「ハッハッハッ。いや、いいな! このような祭り事も悪くない」
―――そう呟いた。
それは領主の気まぐれか、はたまたこの事件以来、収穫の量が増えた事がきっかけか……。
詳しい資料は存在しないが、このトマト投げは恒例となりグランツ領を代表する祭りとなったのだ。
そのお祭りの資料を見ながら、若きグランツの領主、レイナ・エルト・グランツ(ka0253)は大きな溜息を吐いた。
「如何されましたか?」
幼少の頃からレイナの世話をしている執事のジルは、主の大きな溜息に苦笑を漏らした。
「今年はエスエの村長が参加すると言って下さらないの……。このままではお祭りは中止になってしまうわ」
憂いを帯びた声色でレイナは呟いた。
突然の先代領主の死により跡を受け継いだレイナは、幼少の頃からの気弱な姿が領民の記憶にあるために、頼りなく思われている。
レイナを心良く思わない者も少なからずいる様だ。
「しかし、参加すると言わないのは村長だけです。村人はとても楽しみにしているようですよ」
励ますようにジルが言うと、
「うん……でも……」
レイナは小さな呟きは、再びの溜息と共に静かな部屋の空気に溶けた。
「レイナ様のご心配はトマトの運搬ですね? 毎年エスエからトマトを運ぶのは村長の所持する馬……。村長が貸して下さらないと肝心のトマトが運べません」
ジルの静かな言葉にレイナは頷いた。
「はい……。お祭りまでに説得してみるつもりですが、もし出来なかったら……」
レイナの言葉は最後まで語られずに止まってしまう。
己の力不足を悔しがりギュッと手を握るレイナの様子を目にし、ジルは優しく微笑んだ。
「では、運搬に協力してくださる方を探されては如何ですか?」
「え?」
呆けた顔でこちらを見るレイナに、ジルは笑みを深めて口を開いた。
「たとえば……ほかに馬をお持ちの方を探すとか、人力で運べる力自慢を探すとか……」
そう言い終えるとジルはニヤリと笑った。
「……っ! ハンター!」
その画策するような笑みの意味に気付き、レイナは声を上げた。
領主に就任してから度々力を貸してくれているハンターに、レイナが好意的な感情を持っている事を知っているジルはその声にコクリと頷いた。
「そうです。協力を仰いでみては?」
「は、はい! ぜひお祭りにも参加して頂きたいわ」
勢いよく立ち上がったレイナは、資料を手にいそいそと部屋を後にした。
数刻後、ハンターオフィスの片隅には、お祭りの詳細とトマト運搬の手伝いのお願いが書かれたポスターが張り出されていた。
リプレイ本文
エスエ村にやってきたハンター達は村の入り口で佇むレイナの姿に気が付いた。
レイナの目の前にはトマトの入った木箱が積まれた荷車が並んでいる。
難しい顔をして考え込むところを見ると、村長の説得が上手くいかなかったようだ。
「レイナさん、手伝いに来たよ」
そう声を掛けた鞍馬 真(ka5819)は微笑みながら歩み寄った。
慌てて振り向いたレイナは、目を瞬く……。
軽装で眼鏡姿の真が一瞬誰だか分らなかったようだ。
「っ! 真さん!」
途端、レイナの口元が綻ぶ。
「こんにちは、レイナさん」
「元気そうだな」
カティス・フィルム(ka2486)とレイア・アローネ(ka4082)も歩み寄ると、レイナの顔には更に大きな笑みが浮かんだ。
「カティスさん、レイアさん。来て下さったのですね。ありがとうございます」
嬉しそうに、ホッとしたように微笑み、レイナは深く頭を下げた。
「リューは確かレイナとは初めてだったと思うから紹介しておこう」
レイアは隣に立ったリュー・グランフェスト(ka2419)の背中を軽く押す。
「俺は、リュー。リュー・グランフェストだ。よろしくな」
快活な話し方が青空の様に爽やかで、レイナも釣られるようにハキハキと挨拶を返す。
「トマトを投げる祭りって、こっちにもあったんだな。前からやってみたいと思ってたんだ!」
荷車に積まれたトマトを見ながら岩井崎 旭(ka0234)は楽しそうに口を開いた。
真っ青に澄んだ青空に映える艶々の真っ赤なトマト。
今にも弾けそうな程に熟れたトマトは、ほんのりと甘い香りを漂わせていた。
「トマト祭りとは、幸せな響きです」
旭と同じようにトマトを見据えながら、ミオレスカ(ka3496)も呟いた。
「私の部族ではこの果実はなかったですね…………。あまり甘くないです……」
多由羅(ka6167)はトマトを手に取り頬張ると、ポツリと呟いた。
「トマトは果実ではなく、野菜の一種です。暑い季節を迎えると、もっともっと甘くなりますよ」
レイナは多由羅の反応を微笑ましそうに見つめ口を開いた。
「トマト祭り楽しみだね。トマト料理もそうだけど、トマト投げも!」
お祭りを想像して楽しげな声で呟いた狐中・小鳥(ka5484)は大きな笑みを浮かべる。
「ここにあるトマトを運べばいいんだよね?」
ズラリと並んだ荷車を見据え鳳凰院ひりょ(ka3744)が尋ねると、レイナは、はい、と頷いた。
「ふむ……。レイナの馬は出払ってしまっていると聞いたが、俺達の馬で運ぶから安心して」
優しく微笑みひりょがそう言うと、
「皆さん、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」
レイナは再び深く頭を下げた。
ハンター達が乗ってきた馬、そしてペットのロバに荷車を繋ぎ、なだらかな道を進む。
柔らかく暖かな日差しも、頬を撫でる風も、時折聞こえる鳥の囀りも耳に優しく、のんびりとした時間だった。
そう、そののんびりは、トマトを潰さないようゆっくりと進んでいるからなのだ。
馬に荷車を取り付けた際、カティスは毛布を木箱の隙間に詰め木箱が揺れないようにすると、それをみたひりょも、防寒用として持って来ていた毛布を同じように木箱の隙間に詰めた。
旭は鋭敏視覚を利用し道の窪みや飛び出した石などを確認し、取り除けそうな場合はリューが石をどかす。
「せっかくだし綺麗なまま運んでいけるといいよね! なるべく揺らさないようにしていけるといいんだけどもっ」
小鳥の言葉通り、荷車はガタガタと揺れることもほとんどなく、街道を進んでいる。
「しかしトマト投げとは……、また変わった風習だな」
レイアはレイナを振り返り口を開いた。
「はい、少し珍しいと思います。このお祭りは、豊作を祈願する為に行われているのです」
笑顔を浮かべるレイナは嬉しそうにトマトを見やった。
「それにしてもすごい量だ……」
多由羅は自分の馬が引く荷車の中を見て、視線を後方に移す。
自分に後ろに列成す馬が引く荷車の中も、赤で埋め尽くされているその光景に目を細めた。
「これで半分の量です。ヴェスト村からも同じ量のトマトが運ばれてきますよ」
毎年の事で慣れっこのレイナは楽しそうに笑うが、ハンター達は呆気にとれたように、眉を上げた。
「そんな大量のトマトが飛び交うんだから、グランツ領を代表する祭りにもなる訳だね」
そう言って真は楽しそうに唇の端を持ち上げた。
「皆さんが楽しみにしているお祭り、中止にならないで良かったのです」
無事祭りが開催できることにカティスもホッと息を吐く。
「はい。皆さんのお陰です」
「今回の事もだが、まだお前を認めていない者も少なからずいるだろう。だからと言って焦る必要もないし、父上を意識する必要もない。お前はお前らしい領主を目指せばいい」
レイアの激励に目を潤ませたレイナは、皆の温かい視線に気付く。
今日手伝いに来てくれたハンター達は、皆、若い領主を応援してくれているようだ。
「はい。私なりに頑張って参ります」
照れるように微笑んだレイナを、皆微笑ましく見つめた。
会場となる領主の館近くの平原に着くと、ハンター達は荷車から木箱を降ろし、ゆっくりと地面に置いていく。
お祭りの最中は木箱からトマトを取って投げる為、近すぎず、遠すぎずの距離で。
全ての木箱を降ろすと、参加者はトマトを手に祭りの開始を待った。
前に進み出たレイナが、第一投を投げる―――――――。
それを合図に、次々と赤い物体が空を飛んだ。
無礼講の今日に、投げないなんてもったいない!!
徐々に会場は熱気に包まれていく。
飛び交うトマトを静かに見つめていたひりょは、トマトを片手に考え始めた。
(いくら無礼講とはいえ女性陣にぶん投げるのもどうか……)
そう思った矢先、ひりょに向かってトマトが飛ぶ!
視界の隅にトマトの影が映ると、反射的に携帯した短剣を突き出した。
(あっ! 戦闘中ではなかった。つい条件反射で……)
慌てて短剣をしまった瞬間―――――、ベチャ!!
ひりょの顔面にトマトが直撃した。
「…………。ふっ……っはは!」
遠慮していたのが急に馬鹿らしくなり、ひりょは笑みを溢すと手に持ったトマトを近くの村人目掛け投げつけた。
チーム分けがないと聞いたレイアは目の前に立ったリューを鋭く見据えた。
「……リュー、勝負といくか……」
「望むところだ!」
真っ向からの勝負を受けたリューはニヤリと唇の端を持ち上げる。
「これで準備万端なのです」
ブーツからサンダルに履き替えたカティスもトマトを手にレイアの横に並んだ。
「行くぞカティス! リューをトマトまみれにしてやろう」
「はい! トマトなので容赦はしないのです」
目配せした2人は挟み込むように左右に駆け出す。
「あっ! 汚いぞ、2対1なんて」
リューはそう言うものの、少しも悔しがっていない。
手首のスナップを確認すると、勢いよくトマトを投げつけた。
勝負の判定も分からぬままに、投げ合いが始まった―――。
小鳥はその小さな身体を活かし、人と人の間を軽快にすり抜け色んな人にトマトを投げつけていた。
(とりあえず一杯ぶつけた人が勝ちかな?)
そんな事を考えながら、まだ服に白い部分が残っている人を見つけては、服を赤く染めていった。
「当たっても痛くないのはいいねー! よっし、まだまだぶつけていくんだよ!」
木箱から新しいトマトを取りだすと、ブンブンと腕を回し、
「仲間でも、領主様でも遠慮はしないんだよー!」
見覚えのある後姿を見つけ走り出した。
赤い果実……改め赤い野菜、トマトを手にした多由羅は飛び交うトマトを目で追った。
「競技は真剣に……。これの成績で料理が決まるのでしょうか? ならば負けてはいられません」
金色の瞳をギラリと光らせ多由羅は勢いよくトマトを投げた。
風を切って飛んだトマトは、少し先の体躯の良い男に当たり見事に弾けた。
その男は衝撃に驚き辺りを見回した後、お返し! とばかりに多由羅目掛けトマトを投げる。
しかし多由羅は、当たったら負け……と勘違いしているため、身体を捻ってトマトを回避する。
木箱まで駆け寄るとトマトを掴み、次々と脱落者? ……を生み出していった。
ミオレスカはトマトに自ら当たりに行き、汁まみれになっていた。
「私の装備が赤いのは、トマトの果汁を浴び続けたからかもしれないな」
そんな風に呟きながら、猟撃士のスキルを活かしクイックリロードで間断なく連投をする。
一発も当たっていない人を見つけると、唇に弧を描きながらトマトの汁で染めていった。
「これが民間に伝わるいざという時の戦闘訓練なのかな? ともかく楽しいのが一番だよね」
頬を伝う果汁を手で拭うと、再びトマトを掲げ全力でトマト祭りを楽しんだ。
開始の合図と共に覚醒状態となった旭は村人に対しては投げず、むしろ自分から当たりに行った。
飛び交うトマトをキャッチして齧ると、
「うん、美味い! トマト好きの……野菜好きの俺としては、すっげー嬉しい祭りだな!」
ビチャビチャと跳ねるトマトの汁を気にも留めず、全身でトマトを感じているようだ。
天駆けるもので空を飛ぶと旭は子供たちの標的にされたが、高笑いしながらトマトの弾幕を回避し、仕返しに抱えたトマトを投げ上空からトマトの雨を降らせる。
会場の一角ではヒートアップし過ぎた者達が喧嘩腰の投げ合いを始め、それを確認した旭は直ぐ様駆け寄り、アイテムスローで両者の口目掛けトマトを投げる。
怒鳴る為に開けた口にトマトが―――ベチャ!
大き過ぎたトマトは口に入りきらずに、弾け―――、種を包む緑色のゼリー状の果肉が顔中に張り付いた。
喧嘩を始めそうだった2人は、互いの酷い有様に噴き出し、顔を見て笑い出す。
「トマトで喧嘩仲裁出来んの!? マジかよ、やっぱトマトって万能じゃねーか」
旭は満足そうに笑った。
「想像以上に凄い光景だね……」
目の前で繰り広げられるトマト投げに圧倒されながら、真はポツリと呟いた。
力を加減しながら投げてみると近くの女性の背中に当たり、女性はお返しに真にトマトを投げてきた。
そのトマトをギリギリのところで避け、服にトマトが付かなかった事に小さな笑みを浮かべた瞬間、背中に僅かな衝撃が走った……。
「真さん、楽しんでいらっしゃいますか?」
振り返ると、近くにいたレイナが真の背中にトマトを投げつけたようだ。
「やったなーー!」
戯けながらそう言うと、手に持ったトマトをレイナに向け投げた。
さすがハンターと言うべきか……レイナのドジと言うべきか……。
足元のトマトに滑ったレイナの身体が僅かに傾いた、その瞬間――――ベチャ!!
レイナの顔に真の投げたトマトが命中した。
「あぁっ! ごめんレイナさん!」
直ぐに駆け寄ると、レイナは嬉しそうにニコニコしている。
見れば既にレイナは全身トマトまみれだ。
祭りに参加した領民が、激励とばかりにトマトを当てているようだ。
その中で悪意をもってレイナに投げようとする者が居ないよう、もしいたら平和的にトマトを投げて解決しようと考えながら、真は近くで彼女を見守った。
そして最後の1個が投げられると、大歓声と共にトマト投げは終了した。
地面を埋め尽くすトマトの残骸に足を滑らせたカティスは、盛大に尻もちをつく。
弾みで眼鏡が飛んでしまい、オロオロと探し始める。
「はい、ここにあるよ」
眼鏡を拾ったひりょが、タオルと一緒に手渡すと、
「はゎ……。た、タオルもありがとうなのです」
そう言ってトマトまみれの顔を拭った。
その側に佇んだ多由羅は地面を見下ろし、首を傾げる。
「このトマトはどうするのでしょう。……そう言えば聞いたことがあります。リアルブルーではこういうものは後で誰かが食べるのでしょう? そうだ、欠席の村長にもこの料理をお届けせねばなりませんね!」
多由羅はそう言うと屈んで地面のトマトを掻き集め始めた。
「待って、多由羅。違うと思う」
ミオレスカが掬い上げたトマトを掲げる多由羅を制止すると、
「そうだぜ、届けるのは投げたトマトじゃないやつだ」
旭も苦笑交じりで多由羅を止める。
そうですか……そう呟いて、多由羅は手にしていたトマトを地面に落した。
トマト料理が振る舞われると聞いたレイアは、
「なんで、俺までーー」
と、叫ぶリューを引っ張って近くの森に猪を狩りに出掛け、館でシャワーを借りたハンター達はそれぞれに料理の支度を手伝った。
カティスは厨房の女性たちと一緒にトマト料理を作りレシピを学ぶ。
帰ってきたレイアが捕りたての肉とトマトで故郷の料理を作ると、厨房の女性たちは一品増えたと歓声を上げた。
陽が傾いて来た頃、お祭りの第2部と言えるトマト料理が平原に設置された長いテーブルに並ぶ。
スープに、煮込み、パスタにパエリア、トマトを器にしたグラタン、ピザ、サラダにカプレーゼ、焼きトマトにマリネ、そしてゼリーにコンポート、スムージーにレッドアイ―――――トマト尽くしだ。
そのテーブルにズラリと並んだ料理を前に、小鳥は目を瞬きそしてポツリと呟く……。
「わぁ……真っ赤だ」
その当たり前な言葉が、妙におかしくてハンター達は噴き出した。
ひりょは定番のパスタを頬張り、その隣で小鳥は色んな料理を少しずつお皿に乗せ口に運んでいた。
「うん、美味しい……。次はあのカレーみたいなの食べよう」
「結構色んな種類があるんだね。ん、これは料理好きとしての血が騒ぐよ!」
2人はまだお皿に取ってない料理へと視線を向けていた。
「疲れた体に、トマトが沁みるぜー」
トマト投げとトマト料理を全身で楽しんだ旭は、レッドアイ片手に満足そうに笑う。
ミオレスカは本格的な石窯のピザに手を伸ばし、とろとろチーズと酸味の効いたソースに、
「美味しいー! やっぱり食べる時が一番幸せです」
と感激した。
料理を手伝っていたカティスとリューは、レイアが作った郷土料理に目を見張った。
「レイアさん美味しいです」
「ああ、ホントに美味いな」
少し照れたようにはにかんだレイアは、僅かに頬を赤くした。
「トマトを使うとこんなに色々な料理が作れるのか……凄いな」
多由羅は圧倒されたように並んだ料理を眺め、真は好物の煮込みを頬張っていた。
「豊かな大地だからこそ、こんな贅沢なトマトの使い方が出来るんだね」
真がそう呟くと、皆が見つめる中レイナは少し誇らしそうに―――微笑んだ。
祭りが終わるとレイナからお土産にトマトジュースが渡された。
生のトマトではなく保存が利くトマトジュースなのは、『暫らくトマトはいいかな……』と、ハンター達がそう思う事を見越した、レイナの気遣いなのかも―――しれない。
レイナの目の前にはトマトの入った木箱が積まれた荷車が並んでいる。
難しい顔をして考え込むところを見ると、村長の説得が上手くいかなかったようだ。
「レイナさん、手伝いに来たよ」
そう声を掛けた鞍馬 真(ka5819)は微笑みながら歩み寄った。
慌てて振り向いたレイナは、目を瞬く……。
軽装で眼鏡姿の真が一瞬誰だか分らなかったようだ。
「っ! 真さん!」
途端、レイナの口元が綻ぶ。
「こんにちは、レイナさん」
「元気そうだな」
カティス・フィルム(ka2486)とレイア・アローネ(ka4082)も歩み寄ると、レイナの顔には更に大きな笑みが浮かんだ。
「カティスさん、レイアさん。来て下さったのですね。ありがとうございます」
嬉しそうに、ホッとしたように微笑み、レイナは深く頭を下げた。
「リューは確かレイナとは初めてだったと思うから紹介しておこう」
レイアは隣に立ったリュー・グランフェスト(ka2419)の背中を軽く押す。
「俺は、リュー。リュー・グランフェストだ。よろしくな」
快活な話し方が青空の様に爽やかで、レイナも釣られるようにハキハキと挨拶を返す。
「トマトを投げる祭りって、こっちにもあったんだな。前からやってみたいと思ってたんだ!」
荷車に積まれたトマトを見ながら岩井崎 旭(ka0234)は楽しそうに口を開いた。
真っ青に澄んだ青空に映える艶々の真っ赤なトマト。
今にも弾けそうな程に熟れたトマトは、ほんのりと甘い香りを漂わせていた。
「トマト祭りとは、幸せな響きです」
旭と同じようにトマトを見据えながら、ミオレスカ(ka3496)も呟いた。
「私の部族ではこの果実はなかったですね…………。あまり甘くないです……」
多由羅(ka6167)はトマトを手に取り頬張ると、ポツリと呟いた。
「トマトは果実ではなく、野菜の一種です。暑い季節を迎えると、もっともっと甘くなりますよ」
レイナは多由羅の反応を微笑ましそうに見つめ口を開いた。
「トマト祭り楽しみだね。トマト料理もそうだけど、トマト投げも!」
お祭りを想像して楽しげな声で呟いた狐中・小鳥(ka5484)は大きな笑みを浮かべる。
「ここにあるトマトを運べばいいんだよね?」
ズラリと並んだ荷車を見据え鳳凰院ひりょ(ka3744)が尋ねると、レイナは、はい、と頷いた。
「ふむ……。レイナの馬は出払ってしまっていると聞いたが、俺達の馬で運ぶから安心して」
優しく微笑みひりょがそう言うと、
「皆さん、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」
レイナは再び深く頭を下げた。
ハンター達が乗ってきた馬、そしてペットのロバに荷車を繋ぎ、なだらかな道を進む。
柔らかく暖かな日差しも、頬を撫でる風も、時折聞こえる鳥の囀りも耳に優しく、のんびりとした時間だった。
そう、そののんびりは、トマトを潰さないようゆっくりと進んでいるからなのだ。
馬に荷車を取り付けた際、カティスは毛布を木箱の隙間に詰め木箱が揺れないようにすると、それをみたひりょも、防寒用として持って来ていた毛布を同じように木箱の隙間に詰めた。
旭は鋭敏視覚を利用し道の窪みや飛び出した石などを確認し、取り除けそうな場合はリューが石をどかす。
「せっかくだし綺麗なまま運んでいけるといいよね! なるべく揺らさないようにしていけるといいんだけどもっ」
小鳥の言葉通り、荷車はガタガタと揺れることもほとんどなく、街道を進んでいる。
「しかしトマト投げとは……、また変わった風習だな」
レイアはレイナを振り返り口を開いた。
「はい、少し珍しいと思います。このお祭りは、豊作を祈願する為に行われているのです」
笑顔を浮かべるレイナは嬉しそうにトマトを見やった。
「それにしてもすごい量だ……」
多由羅は自分の馬が引く荷車の中を見て、視線を後方に移す。
自分に後ろに列成す馬が引く荷車の中も、赤で埋め尽くされているその光景に目を細めた。
「これで半分の量です。ヴェスト村からも同じ量のトマトが運ばれてきますよ」
毎年の事で慣れっこのレイナは楽しそうに笑うが、ハンター達は呆気にとれたように、眉を上げた。
「そんな大量のトマトが飛び交うんだから、グランツ領を代表する祭りにもなる訳だね」
そう言って真は楽しそうに唇の端を持ち上げた。
「皆さんが楽しみにしているお祭り、中止にならないで良かったのです」
無事祭りが開催できることにカティスもホッと息を吐く。
「はい。皆さんのお陰です」
「今回の事もだが、まだお前を認めていない者も少なからずいるだろう。だからと言って焦る必要もないし、父上を意識する必要もない。お前はお前らしい領主を目指せばいい」
レイアの激励に目を潤ませたレイナは、皆の温かい視線に気付く。
今日手伝いに来てくれたハンター達は、皆、若い領主を応援してくれているようだ。
「はい。私なりに頑張って参ります」
照れるように微笑んだレイナを、皆微笑ましく見つめた。
会場となる領主の館近くの平原に着くと、ハンター達は荷車から木箱を降ろし、ゆっくりと地面に置いていく。
お祭りの最中は木箱からトマトを取って投げる為、近すぎず、遠すぎずの距離で。
全ての木箱を降ろすと、参加者はトマトを手に祭りの開始を待った。
前に進み出たレイナが、第一投を投げる―――――――。
それを合図に、次々と赤い物体が空を飛んだ。
無礼講の今日に、投げないなんてもったいない!!
徐々に会場は熱気に包まれていく。
飛び交うトマトを静かに見つめていたひりょは、トマトを片手に考え始めた。
(いくら無礼講とはいえ女性陣にぶん投げるのもどうか……)
そう思った矢先、ひりょに向かってトマトが飛ぶ!
視界の隅にトマトの影が映ると、反射的に携帯した短剣を突き出した。
(あっ! 戦闘中ではなかった。つい条件反射で……)
慌てて短剣をしまった瞬間―――――、ベチャ!!
ひりょの顔面にトマトが直撃した。
「…………。ふっ……っはは!」
遠慮していたのが急に馬鹿らしくなり、ひりょは笑みを溢すと手に持ったトマトを近くの村人目掛け投げつけた。
チーム分けがないと聞いたレイアは目の前に立ったリューを鋭く見据えた。
「……リュー、勝負といくか……」
「望むところだ!」
真っ向からの勝負を受けたリューはニヤリと唇の端を持ち上げる。
「これで準備万端なのです」
ブーツからサンダルに履き替えたカティスもトマトを手にレイアの横に並んだ。
「行くぞカティス! リューをトマトまみれにしてやろう」
「はい! トマトなので容赦はしないのです」
目配せした2人は挟み込むように左右に駆け出す。
「あっ! 汚いぞ、2対1なんて」
リューはそう言うものの、少しも悔しがっていない。
手首のスナップを確認すると、勢いよくトマトを投げつけた。
勝負の判定も分からぬままに、投げ合いが始まった―――。
小鳥はその小さな身体を活かし、人と人の間を軽快にすり抜け色んな人にトマトを投げつけていた。
(とりあえず一杯ぶつけた人が勝ちかな?)
そんな事を考えながら、まだ服に白い部分が残っている人を見つけては、服を赤く染めていった。
「当たっても痛くないのはいいねー! よっし、まだまだぶつけていくんだよ!」
木箱から新しいトマトを取りだすと、ブンブンと腕を回し、
「仲間でも、領主様でも遠慮はしないんだよー!」
見覚えのある後姿を見つけ走り出した。
赤い果実……改め赤い野菜、トマトを手にした多由羅は飛び交うトマトを目で追った。
「競技は真剣に……。これの成績で料理が決まるのでしょうか? ならば負けてはいられません」
金色の瞳をギラリと光らせ多由羅は勢いよくトマトを投げた。
風を切って飛んだトマトは、少し先の体躯の良い男に当たり見事に弾けた。
その男は衝撃に驚き辺りを見回した後、お返し! とばかりに多由羅目掛けトマトを投げる。
しかし多由羅は、当たったら負け……と勘違いしているため、身体を捻ってトマトを回避する。
木箱まで駆け寄るとトマトを掴み、次々と脱落者? ……を生み出していった。
ミオレスカはトマトに自ら当たりに行き、汁まみれになっていた。
「私の装備が赤いのは、トマトの果汁を浴び続けたからかもしれないな」
そんな風に呟きながら、猟撃士のスキルを活かしクイックリロードで間断なく連投をする。
一発も当たっていない人を見つけると、唇に弧を描きながらトマトの汁で染めていった。
「これが民間に伝わるいざという時の戦闘訓練なのかな? ともかく楽しいのが一番だよね」
頬を伝う果汁を手で拭うと、再びトマトを掲げ全力でトマト祭りを楽しんだ。
開始の合図と共に覚醒状態となった旭は村人に対しては投げず、むしろ自分から当たりに行った。
飛び交うトマトをキャッチして齧ると、
「うん、美味い! トマト好きの……野菜好きの俺としては、すっげー嬉しい祭りだな!」
ビチャビチャと跳ねるトマトの汁を気にも留めず、全身でトマトを感じているようだ。
天駆けるもので空を飛ぶと旭は子供たちの標的にされたが、高笑いしながらトマトの弾幕を回避し、仕返しに抱えたトマトを投げ上空からトマトの雨を降らせる。
会場の一角ではヒートアップし過ぎた者達が喧嘩腰の投げ合いを始め、それを確認した旭は直ぐ様駆け寄り、アイテムスローで両者の口目掛けトマトを投げる。
怒鳴る為に開けた口にトマトが―――ベチャ!
大き過ぎたトマトは口に入りきらずに、弾け―――、種を包む緑色のゼリー状の果肉が顔中に張り付いた。
喧嘩を始めそうだった2人は、互いの酷い有様に噴き出し、顔を見て笑い出す。
「トマトで喧嘩仲裁出来んの!? マジかよ、やっぱトマトって万能じゃねーか」
旭は満足そうに笑った。
「想像以上に凄い光景だね……」
目の前で繰り広げられるトマト投げに圧倒されながら、真はポツリと呟いた。
力を加減しながら投げてみると近くの女性の背中に当たり、女性はお返しに真にトマトを投げてきた。
そのトマトをギリギリのところで避け、服にトマトが付かなかった事に小さな笑みを浮かべた瞬間、背中に僅かな衝撃が走った……。
「真さん、楽しんでいらっしゃいますか?」
振り返ると、近くにいたレイナが真の背中にトマトを投げつけたようだ。
「やったなーー!」
戯けながらそう言うと、手に持ったトマトをレイナに向け投げた。
さすがハンターと言うべきか……レイナのドジと言うべきか……。
足元のトマトに滑ったレイナの身体が僅かに傾いた、その瞬間――――ベチャ!!
レイナの顔に真の投げたトマトが命中した。
「あぁっ! ごめんレイナさん!」
直ぐに駆け寄ると、レイナは嬉しそうにニコニコしている。
見れば既にレイナは全身トマトまみれだ。
祭りに参加した領民が、激励とばかりにトマトを当てているようだ。
その中で悪意をもってレイナに投げようとする者が居ないよう、もしいたら平和的にトマトを投げて解決しようと考えながら、真は近くで彼女を見守った。
そして最後の1個が投げられると、大歓声と共にトマト投げは終了した。
地面を埋め尽くすトマトの残骸に足を滑らせたカティスは、盛大に尻もちをつく。
弾みで眼鏡が飛んでしまい、オロオロと探し始める。
「はい、ここにあるよ」
眼鏡を拾ったひりょが、タオルと一緒に手渡すと、
「はゎ……。た、タオルもありがとうなのです」
そう言ってトマトまみれの顔を拭った。
その側に佇んだ多由羅は地面を見下ろし、首を傾げる。
「このトマトはどうするのでしょう。……そう言えば聞いたことがあります。リアルブルーではこういうものは後で誰かが食べるのでしょう? そうだ、欠席の村長にもこの料理をお届けせねばなりませんね!」
多由羅はそう言うと屈んで地面のトマトを掻き集め始めた。
「待って、多由羅。違うと思う」
ミオレスカが掬い上げたトマトを掲げる多由羅を制止すると、
「そうだぜ、届けるのは投げたトマトじゃないやつだ」
旭も苦笑交じりで多由羅を止める。
そうですか……そう呟いて、多由羅は手にしていたトマトを地面に落した。
トマト料理が振る舞われると聞いたレイアは、
「なんで、俺までーー」
と、叫ぶリューを引っ張って近くの森に猪を狩りに出掛け、館でシャワーを借りたハンター達はそれぞれに料理の支度を手伝った。
カティスは厨房の女性たちと一緒にトマト料理を作りレシピを学ぶ。
帰ってきたレイアが捕りたての肉とトマトで故郷の料理を作ると、厨房の女性たちは一品増えたと歓声を上げた。
陽が傾いて来た頃、お祭りの第2部と言えるトマト料理が平原に設置された長いテーブルに並ぶ。
スープに、煮込み、パスタにパエリア、トマトを器にしたグラタン、ピザ、サラダにカプレーゼ、焼きトマトにマリネ、そしてゼリーにコンポート、スムージーにレッドアイ―――――トマト尽くしだ。
そのテーブルにズラリと並んだ料理を前に、小鳥は目を瞬きそしてポツリと呟く……。
「わぁ……真っ赤だ」
その当たり前な言葉が、妙におかしくてハンター達は噴き出した。
ひりょは定番のパスタを頬張り、その隣で小鳥は色んな料理を少しずつお皿に乗せ口に運んでいた。
「うん、美味しい……。次はあのカレーみたいなの食べよう」
「結構色んな種類があるんだね。ん、これは料理好きとしての血が騒ぐよ!」
2人はまだお皿に取ってない料理へと視線を向けていた。
「疲れた体に、トマトが沁みるぜー」
トマト投げとトマト料理を全身で楽しんだ旭は、レッドアイ片手に満足そうに笑う。
ミオレスカは本格的な石窯のピザに手を伸ばし、とろとろチーズと酸味の効いたソースに、
「美味しいー! やっぱり食べる時が一番幸せです」
と感激した。
料理を手伝っていたカティスとリューは、レイアが作った郷土料理に目を見張った。
「レイアさん美味しいです」
「ああ、ホントに美味いな」
少し照れたようにはにかんだレイアは、僅かに頬を赤くした。
「トマトを使うとこんなに色々な料理が作れるのか……凄いな」
多由羅は圧倒されたように並んだ料理を眺め、真は好物の煮込みを頬張っていた。
「豊かな大地だからこそ、こんな贅沢なトマトの使い方が出来るんだね」
真がそう呟くと、皆が見つめる中レイナは少し誇らしそうに―――微笑んだ。
祭りが終わるとレイナからお土産にトマトジュースが渡された。
生のトマトではなく保存が利くトマトジュースなのは、『暫らくトマトはいいかな……』と、ハンター達がそう思う事を見越した、レイナの気遣いなのかも―――しれない。
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パーティー会場控え室 レイア・アローネ(ka4082) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/04/08 12:42:30 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/08 05:34:19 |