ゲスト
(ka0000)
要塞都市で聞きたい辺境の話
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/12 12:00
- 完成日
- 2014/12/17 18:55
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「ふーむ……」
此処は要塞都市、ノアーラ・クンタウ。
この場所は比較的平穏な日常を送ることができるが、外の世界はどうかと言えばそんなことはあるわけもなく。
そもそも要塞都市という環境で平穏を求めるのもおかしな話ではあるのだが、不穏であるよりも平穏である方がむろん良いに決まっているわけで。
その中で、無造作に金色の髪を束ねた女性が一人。
なにやら考え事をしているのだった。
彼女の名前はゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)、帝国軍属の軍医である。
辺境に憧れを抱いてやってきた彼女であるが、帝国と辺境の関係が決して良好ではないのは誰もが知っての通り。
そこで彼女は何をしているかというと、ぶっちゃけた話暇をもてあましているのである。
(リアルブルーの機械が辺境に運ばれてくるって言うけれど、それもあまり縁のない話だし……ねぇ)
リアルブルーよりも辺境。
彼女はそんな確固たる信念のようなものを持っていた。
さて。
そんなゲルタであるが、辺境の状況はハンターズソサエティ経由で注意深く耳に入れるようにしている。
と言っても政治的な話より文化的な話。
そして今、彼女の注目はと言うと、先日行われたというとある部族の収穫祭――のようなものに集中していた。
キジャン族の「鹿送り」。
彼女のような人物なら、喜んで飛びつく案件である。
●
「とはいえなかなか情報は手に入らないのよね」
噂ではかの部族は親スコール。要塞都市でもあまり噂の聞かぬ部族であり、もともとはかなり閉鎖的なのかも知れない。
――でも知りたい。
むろんその行事だけではない。
辺境の部族が静かに過ごすとき、どんな年中行事をしているか――それを細かに調べた書物はほとんどないに等しいのだ。
リアルブルーで言う【フォークロア】という種類の学問があまり発達していないのかも知れない。しかし、部族単位の行事や習慣というのはひとたび興味を抱いてしまえば好奇心の尽き果てぬ題材である。
「ゲルタ様、それなら良い手があります。それこそハンターには辺境出身者も多いとのこと、そう言う方ならあるいはお話ししてくれるのではないですか?」
側仕えのハンナが言えば、
「それよ!」
ゲルタはすっかりその気になって早速ハンターオフィス宛てになにやら書き始めたのであった――
……あれもしかしてハンナの方が賢いんじゃね? という疑問を胸に抱きつつ。
「ふーむ……」
此処は要塞都市、ノアーラ・クンタウ。
この場所は比較的平穏な日常を送ることができるが、外の世界はどうかと言えばそんなことはあるわけもなく。
そもそも要塞都市という環境で平穏を求めるのもおかしな話ではあるのだが、不穏であるよりも平穏である方がむろん良いに決まっているわけで。
その中で、無造作に金色の髪を束ねた女性が一人。
なにやら考え事をしているのだった。
彼女の名前はゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)、帝国軍属の軍医である。
辺境に憧れを抱いてやってきた彼女であるが、帝国と辺境の関係が決して良好ではないのは誰もが知っての通り。
そこで彼女は何をしているかというと、ぶっちゃけた話暇をもてあましているのである。
(リアルブルーの機械が辺境に運ばれてくるって言うけれど、それもあまり縁のない話だし……ねぇ)
リアルブルーよりも辺境。
彼女はそんな確固たる信念のようなものを持っていた。
さて。
そんなゲルタであるが、辺境の状況はハンターズソサエティ経由で注意深く耳に入れるようにしている。
と言っても政治的な話より文化的な話。
そして今、彼女の注目はと言うと、先日行われたというとある部族の収穫祭――のようなものに集中していた。
キジャン族の「鹿送り」。
彼女のような人物なら、喜んで飛びつく案件である。
●
「とはいえなかなか情報は手に入らないのよね」
噂ではかの部族は親スコール。要塞都市でもあまり噂の聞かぬ部族であり、もともとはかなり閉鎖的なのかも知れない。
――でも知りたい。
むろんその行事だけではない。
辺境の部族が静かに過ごすとき、どんな年中行事をしているか――それを細かに調べた書物はほとんどないに等しいのだ。
リアルブルーで言う【フォークロア】という種類の学問があまり発達していないのかも知れない。しかし、部族単位の行事や習慣というのはひとたび興味を抱いてしまえば好奇心の尽き果てぬ題材である。
「ゲルタ様、それなら良い手があります。それこそハンターには辺境出身者も多いとのこと、そう言う方ならあるいはお話ししてくれるのではないですか?」
側仕えのハンナが言えば、
「それよ!」
ゲルタはすっかりその気になって早速ハンターオフィス宛てになにやら書き始めたのであった――
……あれもしかしてハンナの方が賢いんじゃね? という疑問を胸に抱きつつ。
リプレイ本文
●
「――そんなわけで集まってくれてありがとう」
談話室にしつらえられた机で、ゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)はしごく真面目な表情でそう言った。……頭に赤い三角帽を据えられた、微妙にしまりのない状態だったが。
「って、ハンナ。なんでわざわざこんなものを」
じろっとゲルタがハンナの顔をにらむが、クレバーな侍女はどこ吹く風。
「ピースホライズンではこの時季クリスマスですし。折角ですので、今回のお菓子はそちらから取り寄せました」
そう微笑みながら、ハンターたちのカップに熱い紅茶を注いでいく。確かに中央には、可愛らしい人形の形を模したジンジャークッキーや、マジパン細工の可愛らしい人形が飾られている。ゲルタはもう一度ハンナをにらんだ。……威厳のかけらもないけれど。
「でも、辺境の風習ですか……確かに所変われば、色々と変わるものですしね」
頷きながら紅茶をすするのは、顔に大きなやけどの跡を持ちながらもその美しさがはっきりとわかる銀髪碧眼の女性上泉 澪(ka0518)。東の民の末裔……らしいのだが、その表現にクリムゾンウェストという場所のおおらかさが感じられる。
「私側からしてみても、帝国や王国はかなり違いますし」
澪がティカップを置く。
「へーっ、そうなんだ? 辺境なんてろくに行ったことがねえから、その辺よくわからないんだよね」
小柄なドワーフの少女ルリ・エンフィールド(ka1680)が首を小さくかしげる。それを見て、ヴァイス(ka0364)の赤毛がおかしそうに揺れた。
「何言ってるんだ、ここがそもそも辺境の入り口だろうが」
言われてみればそうだった。ここは要塞都市ノアーラ・クンタウ。一歩外に踏み出せばそこはもう辺境の地。
「あ、そうだっけ。とりあえずお菓子がたくさん食える茶会やるって聞いてきたんだけどさ」
言いながらけろりと笑うルリ。自他共に認める大食らいというのは伊達ではない。
「ゲルタさん、はじめまして。エルバッハ・リオン(ka2434)です、よろしければエルと呼んでください。今日はよろしくお願いします」
そう優雅に微笑むのは銀髪エルフの少女。あどけない顔立ちながら、平均以上のスタイルを露出度高めの服装に包んでいる。
「それにしても、またここに来られてうれしいよ! 帰りにどこか工房の見物ができないかなあ……」
その一方でそんなことを言ってきょろきょろしているアシェ・ブルゲス(ka3144)は完全に興味の矛先が違う。マジパン細工にも目を輝かせている状態だ。
「あ、これお土産」
ひょいと差し出したのはよくわからない廃材アート。正直、受け取って良いものか、悩む。その表情がわかったのだろう、苦笑してそれをさっと引っ込めたところで、澪がまず口を開いた。
●
「変わったこと……と言いますと、向こうのように物流が盛んではないので、狩りなども多い感じはしますね。他の部族との交流もあれば、物々交換もあるでしょうが」
通貨というものも、ハンターが増加傾向にある昨今、使える機会が増えてきたのだという。
東にルーツを持つという彼女の語るのは、辺境というエリアの平均的な風習・風俗の傾向。
こういう『全体的な視点』も大切で、特に帝国出身のゲルタには興味深い。
「宗教ではなく、自然信仰の多さなどという文化の違いからくるものもあるでしょうし、そしてその精霊に対する部族ごとのとらえ方などと言うものも、少しずつ異なってくるものなのかも知れません」
確かに、自然の動植物を祖霊とする部族もあれば、実在の人物を祖と崇める部族も存在する。
どちらが良い、どちらが悪い――そんなものはない。
彼らは彼らの信ずるものを、ただ信じているのだから。信仰に正解なんてものは存在しない、それはどこでも共通することだ。
「そういえば大人として認められるのに一人で狩りを……というのもありましたか。まあ、よくやるものとは思います。覚醒しても一撃もらえばただではすまないのに」
その言葉にどんな感情があったのか、それは、わからない。
●
続けるようにして、語るのはアシェ。
「僕の出身はありがちなエルフの集落。それも超ド田舎。年季だけはあってねー」
ちなみに一番若いらしい。もっとも彼はその集落を出ているためにカウントされるのかは怪しいが。
「で、文化習俗ね。僕のところは、何をするにしても歌を歌うんだ」
「歌? 食うんじゃないのか」
首をかしげるのはルリ。アシェはこっくり頷く。
「うん、歌。葬式も、祖霊をお迎えするときも、狩猟や採集の成功を祈る歌とか、仕事の時、成功を祈る時、失敗を慰める時……もちろん結婚や祭りも。言い伝えも歌だよ。歌詞とかもずっと伝えられててー」
そこで彼は聞き覚えのない歌を口ずさみ始めた。中性的で伸びやかな声が、祈るように願うように、優しい旋律をたどる。軽く歌ってから、「まだ沢山あるけど」と小さく笑った。
「でも、なんで歌なんでしょう?」
そう尋ねたのは静かに歌を聴いていた眼鏡の女性、静刃=II(ka2921)だ。
「え、なんで? さー、なんでだろう。いろいろ覚えやすかったり、悲しいのが和らいだり、そういうのがあるんじゃないかなー。本来の意味なんて忘れちゃってるかも知れないしね」
そうひとしきり笑って、彼は付け加える。
「あそこはとてもとても閉鎖的で、凄く凄く窮屈だったと思ってるけど、この慣習だけは好きだったんだなぁって今でも思うよ。逆に言えばそれくらいしかないんだけどね!」
一瞬だけ彼の表情が懐かしそうな顔に見えたのは、気のせいだろうか。
●
「……そうですね、これは師匠から聞いた話、なのですが」
静刃は言いながら、そっと男物の眼鏡に手を当てる。それはかつての想い人の形見、懐かしそうに目を細めて。
「辺境ではサムライというものが住む部族がある、と言うことです」
曰く、師匠がその部族の生まれだったため、語尾がたまに「ござる」というリアルブルーの時代劇めいたものになっていたのだそうだ。
「元々はリアルブルーにかつていた職業か何かだったらしいのですが、このような『刀』を佩いた騎士のごとき集団であったとか」
そこで静刃も、腰に下げている刀を見せる。
と、澪が驚いたように声を上げる。
「奇遇ですね。私も実は刀を得物としております」
「まあ、それは本当に奇遇ですね。サムライ、と、やはり縁があるのでしょうか?」
数奇な縁で出会った刀使いの女ハンター二人は小さく微笑む。
「私の聞いたサムライは、武芸に優れ、茶を愛し、礼儀を重んじた戦闘民族で、特に刀の業は優美にして極めれば断てぬものはなかったとか。風習としては髪を結わき、他の部分は剃っていたと言うことです」
リアルブルーのサムライそのものの姿だが、生憎この場にリアルブルー出身者はいない。もっとも、髪型については静刃の師匠の代には廃れていた風習らしいが。まあ、静刃自身も該当する部族の出身者を他に見たこともないので、実際のところはわからない。
「なるほど……その師匠殿は?」
澪が尋ねると、静刃は小さく首を横に振る。
「……師は既に亡く、かの部族に伝わるサムライの業を学び受け継いだのは少なくとも知る限り、私一人――となります」
口伝や書簡は引き継いでいるので、いつかは道を極めて師のようにサムライを伝えていきたい――静刃はそう締めくくった。目尻がわずかに熱い。久しく触れなかった師匠の思い出が胸にこみ上げてくる。しかしそれをこらえてこそ、きっとサムライなのだ。
●
「わたしのむらはね、えるふだけどへんきょーだよ!」
そう無邪気に笑うのはベリージャムのクッキーを持参したキルシッカ・レヴォントゥリ(ka1300)。辺境にエルフ、意外に多い。
「ちかくのむらのいちばんえらいひとは、むかしはみえないひとだったんだって! およめさんになりたい人は、みえないひとがどんなかあてて、あたったらおよめさんになったんだって!」
彼女の話をかみ砕いてみると、かつて部族の長の嫁になりたい女たちは、長の格好を当てる必要があったらしい。
「いまはそのひともみえる人だけど、その人をまもってるどーぶつがふしぎだから、およめさんになりたい人はやっぱりあてるんだって。でもあたるひとはひとりしかないって、ふしぎだね!」
今は祖霊の姿を当てる必要があるらしい。適正の問題だろうか。ちなみにリアルブルーにも似た伝承があるのは、今の彼らの知るところではない。
「へぇ、それも珍しいね。なんだか神秘的だ」
ゲルタが言えば、キルシッカも楽しそうににぱっと笑った。
●
そう言えば、とルリも思い出しながら語る。
「ボクのいたキャラバンにも辺境出身のやつも多かったぜ。自称帝国貴族と部族長の娘の子なんてやつもいたけど、実際はどうだか」
双方の仲が険悪なのは知っての通りだし、実際にはあり得ないと考えるべきだろう。
「まあ、そいつは盗賊でも獣でも仲間でも、死んじまった奴には祈りを捧げてたって言うから、あながち嘘でもねえかもだけど。何でも、死んだ魂は祖霊の所に行く、特に悪しき魂は祖霊の元で浄化されるってことだから、盗賊とかには特に熱心だったな」
「他には、自己暗示をかけることで一種のトランス状態になって痛みを無視するような奴もいたな、こいつは戦闘終わってもトランスが続いてて止める方も大変だったから滅多に使ってなかったけどよ」
思い出をたどりながら、そう話すルリ。それぞれの信仰などが生み出した習慣なのだろうが、彼女の話す二つの例はまったく異なるように見えてその実近しいところにあるというのは、ゲルタも知らない。
「あとは冬が厳しいから、食べ物を保存する工夫をそれぞれしてたみたいだね」
食い意地の張った少女はそんなことを思い出しながらクッキーをつまんだ。
●
メンター・ハート(ka1966)もまた、食欲旺盛ドワーフ娘。邪教の伝道者でもある。
「一口に辺境と言っても広いから、とても纏めて表現はできないが……その中の一つ、聖なるイートインの話をしようと思うんだぞ」
その響きだけで腹が空くようなタームだが、メンターは言葉を続ける。
「その男は飢えていた。辺境は厳しい場所も多い、荒野を彷徨う彼は何日もものを口にしておらず、このままでは大地の糧になるのも時間の問題だったんだぞ」
ゴクリと唾を飲むルリ。想像して腹が空いたのかも知れない。
「そこで神は恵みを与えた。一粒の小さな、殻に覆われた実を。しかし歯で噛み砕くことも、錆びた剣で打ち砕くこともできず。最後にとっていた火種で炙ったところ、殻に遂にヒビが入り、中から現れた瑞々しく滋養にあふれた胚を食して彼は荒野を抜けることができた。彼は思った。食べることはすべてに勝る正義だと、そして焼けば食えると……と言うことで、開祖イートインが布教を初めて幾年月、その教義の素晴らしさを……っ」
しかしそこまで勿体ぶって話していたせいか(実際はここに記した三倍以上時間をかけて話している)、時間切れで布教は失敗した、らしい。メンターは一つ咳払いして冷静を取り戻し、
「辺境は端の地、他では思ってもいないような伝説が幾つもある場所なんだぞ」
うまく纏めたつもりらしい……が、実はルリがずいぶん興味深く聞いていたことには、気づいていないメンターであった。
●
エルバッハ――いや、エルは思い出しながら話をする。
「そうですね……私の部族は一定以上の年齢になるとほとんど裸に近い格好で過ごしていました」
なかなか第一声がきわどかった。
「理由は諸説ありますが、羞恥心の鈍化で集団行動をスムーズにさせたり、戦闘時に隙を作ったりすることのないため、と言われています」
理由も結構きわどかった。
「私はハンターになりたかったためか、両親は私が幼い頃からそういう格好をさせていましたね」
そして本人はそれ以上にきわどかった。一同もさすがに言葉を入れづらい。
ちなみに予想通りというか、周囲は止めていたらしい。それでも孤立することはなかったというあたり、おおらかな部族だったのだろうし、周囲もそれをフォローしてくれていたのだろう。
「で、その格好……って訳か?」
目のやり場に困ったように顔を動かしながら、ヴァイスが問う。
「私自身はその習俗を始める年齢になる前に部族を出ましたが、両親の……影響もあって、こういう格好でも平気です」
エルの服装は露出度高め、ぎりぎり衛兵の厄介にならないという程度。
(寒くないかなと思うんだけど……)
誰もがそう、思ったのだという。
●
「辺境でもハンターと接点のある部族は多いだろうが、今回はマフォジョ族の文化を話すことにするか」
にやりと笑うのはヴァイスだ。
「かの部族はオイマト族と親しいらしく、『困っている人がいたら助けるのですよ』という言葉を大切にしている。そして何より……彼らを語る上で一番必要なのは、彼らの正装である……」
そこでヴァイスは荷物の中からとりだした。フリルたっぷりのゴシックドレスを。
「フリフリの、ドレスだ」
きっぱりと言い放つ。一瞬場が凍り付くが、彼はそんなことに気づかないらしい。
「彼らはこのようなドレスを、正装……つまり戦闘服として戦っている。似たような服装の文化は、『リアルブルーの男性アイドル』かな」
この場にリアルブルー出身者がいなくて良かった。いたらきっと色んな意味で悲しみが溢れただろう。ここにはそういうことに疎い面々しかいないせいか、違和感を感じつつも話を聞くことに集中している。
「ちなみに、その服は?」
静刃が尋ねる。キルシッカも、
「かわいいー、アイドル?」
なんて尋ねてくる。
「ああ、これは俺のアイドル活動時のものだ。実際、アイドル活動もしているぞ」
ヴァイスは『アイドルは性別問わずフリフリドレス』という勘違いをしているが、それに突っ込むような者もいない。むしろ、
「こんどみせてー!」
「なんか面白そーだね-、歌なら負けないよー?」
なんて煽る始末。
フリフリドレスは罪な存在だった。
●
「気づけば日も傾いてしまったぞ……」
メンターが外を見て、ため息をつく。ちなみに用意されていた菓子は主にメンターとルリの腹の中に収まっていた。マジパン細工だけはアシェが死守したが。
「うん、色々面白い話を聞くことができて、私もうれしいよ」
ゲルタが満足そうに笑う。話を聞いている間はできる限りペンを動かしていたのだから、なかなかしっかりしている。
「地域での文化というのは本当に違うんだなあ、聞いていて凄く面白かった。今回は感謝しないといけないな。私は医者だから、こう言うことにはあまり明るくない。また、機会があったら教えてもらえると嬉しいな」
「いえ、私たちにも多くの実りがありました」
澪は微笑んで、皆の意見を代弁した。
世界は広い。
それを感じる、依頼だった。
「――そんなわけで集まってくれてありがとう」
談話室にしつらえられた机で、ゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)はしごく真面目な表情でそう言った。……頭に赤い三角帽を据えられた、微妙にしまりのない状態だったが。
「って、ハンナ。なんでわざわざこんなものを」
じろっとゲルタがハンナの顔をにらむが、クレバーな侍女はどこ吹く風。
「ピースホライズンではこの時季クリスマスですし。折角ですので、今回のお菓子はそちらから取り寄せました」
そう微笑みながら、ハンターたちのカップに熱い紅茶を注いでいく。確かに中央には、可愛らしい人形の形を模したジンジャークッキーや、マジパン細工の可愛らしい人形が飾られている。ゲルタはもう一度ハンナをにらんだ。……威厳のかけらもないけれど。
「でも、辺境の風習ですか……確かに所変われば、色々と変わるものですしね」
頷きながら紅茶をすするのは、顔に大きなやけどの跡を持ちながらもその美しさがはっきりとわかる銀髪碧眼の女性上泉 澪(ka0518)。東の民の末裔……らしいのだが、その表現にクリムゾンウェストという場所のおおらかさが感じられる。
「私側からしてみても、帝国や王国はかなり違いますし」
澪がティカップを置く。
「へーっ、そうなんだ? 辺境なんてろくに行ったことがねえから、その辺よくわからないんだよね」
小柄なドワーフの少女ルリ・エンフィールド(ka1680)が首を小さくかしげる。それを見て、ヴァイス(ka0364)の赤毛がおかしそうに揺れた。
「何言ってるんだ、ここがそもそも辺境の入り口だろうが」
言われてみればそうだった。ここは要塞都市ノアーラ・クンタウ。一歩外に踏み出せばそこはもう辺境の地。
「あ、そうだっけ。とりあえずお菓子がたくさん食える茶会やるって聞いてきたんだけどさ」
言いながらけろりと笑うルリ。自他共に認める大食らいというのは伊達ではない。
「ゲルタさん、はじめまして。エルバッハ・リオン(ka2434)です、よろしければエルと呼んでください。今日はよろしくお願いします」
そう優雅に微笑むのは銀髪エルフの少女。あどけない顔立ちながら、平均以上のスタイルを露出度高めの服装に包んでいる。
「それにしても、またここに来られてうれしいよ! 帰りにどこか工房の見物ができないかなあ……」
その一方でそんなことを言ってきょろきょろしているアシェ・ブルゲス(ka3144)は完全に興味の矛先が違う。マジパン細工にも目を輝かせている状態だ。
「あ、これお土産」
ひょいと差し出したのはよくわからない廃材アート。正直、受け取って良いものか、悩む。その表情がわかったのだろう、苦笑してそれをさっと引っ込めたところで、澪がまず口を開いた。
●
「変わったこと……と言いますと、向こうのように物流が盛んではないので、狩りなども多い感じはしますね。他の部族との交流もあれば、物々交換もあるでしょうが」
通貨というものも、ハンターが増加傾向にある昨今、使える機会が増えてきたのだという。
東にルーツを持つという彼女の語るのは、辺境というエリアの平均的な風習・風俗の傾向。
こういう『全体的な視点』も大切で、特に帝国出身のゲルタには興味深い。
「宗教ではなく、自然信仰の多さなどという文化の違いからくるものもあるでしょうし、そしてその精霊に対する部族ごとのとらえ方などと言うものも、少しずつ異なってくるものなのかも知れません」
確かに、自然の動植物を祖霊とする部族もあれば、実在の人物を祖と崇める部族も存在する。
どちらが良い、どちらが悪い――そんなものはない。
彼らは彼らの信ずるものを、ただ信じているのだから。信仰に正解なんてものは存在しない、それはどこでも共通することだ。
「そういえば大人として認められるのに一人で狩りを……というのもありましたか。まあ、よくやるものとは思います。覚醒しても一撃もらえばただではすまないのに」
その言葉にどんな感情があったのか、それは、わからない。
●
続けるようにして、語るのはアシェ。
「僕の出身はありがちなエルフの集落。それも超ド田舎。年季だけはあってねー」
ちなみに一番若いらしい。もっとも彼はその集落を出ているためにカウントされるのかは怪しいが。
「で、文化習俗ね。僕のところは、何をするにしても歌を歌うんだ」
「歌? 食うんじゃないのか」
首をかしげるのはルリ。アシェはこっくり頷く。
「うん、歌。葬式も、祖霊をお迎えするときも、狩猟や採集の成功を祈る歌とか、仕事の時、成功を祈る時、失敗を慰める時……もちろん結婚や祭りも。言い伝えも歌だよ。歌詞とかもずっと伝えられててー」
そこで彼は聞き覚えのない歌を口ずさみ始めた。中性的で伸びやかな声が、祈るように願うように、優しい旋律をたどる。軽く歌ってから、「まだ沢山あるけど」と小さく笑った。
「でも、なんで歌なんでしょう?」
そう尋ねたのは静かに歌を聴いていた眼鏡の女性、静刃=II(ka2921)だ。
「え、なんで? さー、なんでだろう。いろいろ覚えやすかったり、悲しいのが和らいだり、そういうのがあるんじゃないかなー。本来の意味なんて忘れちゃってるかも知れないしね」
そうひとしきり笑って、彼は付け加える。
「あそこはとてもとても閉鎖的で、凄く凄く窮屈だったと思ってるけど、この慣習だけは好きだったんだなぁって今でも思うよ。逆に言えばそれくらいしかないんだけどね!」
一瞬だけ彼の表情が懐かしそうな顔に見えたのは、気のせいだろうか。
●
「……そうですね、これは師匠から聞いた話、なのですが」
静刃は言いながら、そっと男物の眼鏡に手を当てる。それはかつての想い人の形見、懐かしそうに目を細めて。
「辺境ではサムライというものが住む部族がある、と言うことです」
曰く、師匠がその部族の生まれだったため、語尾がたまに「ござる」というリアルブルーの時代劇めいたものになっていたのだそうだ。
「元々はリアルブルーにかつていた職業か何かだったらしいのですが、このような『刀』を佩いた騎士のごとき集団であったとか」
そこで静刃も、腰に下げている刀を見せる。
と、澪が驚いたように声を上げる。
「奇遇ですね。私も実は刀を得物としております」
「まあ、それは本当に奇遇ですね。サムライ、と、やはり縁があるのでしょうか?」
数奇な縁で出会った刀使いの女ハンター二人は小さく微笑む。
「私の聞いたサムライは、武芸に優れ、茶を愛し、礼儀を重んじた戦闘民族で、特に刀の業は優美にして極めれば断てぬものはなかったとか。風習としては髪を結わき、他の部分は剃っていたと言うことです」
リアルブルーのサムライそのものの姿だが、生憎この場にリアルブルー出身者はいない。もっとも、髪型については静刃の師匠の代には廃れていた風習らしいが。まあ、静刃自身も該当する部族の出身者を他に見たこともないので、実際のところはわからない。
「なるほど……その師匠殿は?」
澪が尋ねると、静刃は小さく首を横に振る。
「……師は既に亡く、かの部族に伝わるサムライの業を学び受け継いだのは少なくとも知る限り、私一人――となります」
口伝や書簡は引き継いでいるので、いつかは道を極めて師のようにサムライを伝えていきたい――静刃はそう締めくくった。目尻がわずかに熱い。久しく触れなかった師匠の思い出が胸にこみ上げてくる。しかしそれをこらえてこそ、きっとサムライなのだ。
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「わたしのむらはね、えるふだけどへんきょーだよ!」
そう無邪気に笑うのはベリージャムのクッキーを持参したキルシッカ・レヴォントゥリ(ka1300)。辺境にエルフ、意外に多い。
「ちかくのむらのいちばんえらいひとは、むかしはみえないひとだったんだって! およめさんになりたい人は、みえないひとがどんなかあてて、あたったらおよめさんになったんだって!」
彼女の話をかみ砕いてみると、かつて部族の長の嫁になりたい女たちは、長の格好を当てる必要があったらしい。
「いまはそのひともみえる人だけど、その人をまもってるどーぶつがふしぎだから、およめさんになりたい人はやっぱりあてるんだって。でもあたるひとはひとりしかないって、ふしぎだね!」
今は祖霊の姿を当てる必要があるらしい。適正の問題だろうか。ちなみにリアルブルーにも似た伝承があるのは、今の彼らの知るところではない。
「へぇ、それも珍しいね。なんだか神秘的だ」
ゲルタが言えば、キルシッカも楽しそうににぱっと笑った。
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そう言えば、とルリも思い出しながら語る。
「ボクのいたキャラバンにも辺境出身のやつも多かったぜ。自称帝国貴族と部族長の娘の子なんてやつもいたけど、実際はどうだか」
双方の仲が険悪なのは知っての通りだし、実際にはあり得ないと考えるべきだろう。
「まあ、そいつは盗賊でも獣でも仲間でも、死んじまった奴には祈りを捧げてたって言うから、あながち嘘でもねえかもだけど。何でも、死んだ魂は祖霊の所に行く、特に悪しき魂は祖霊の元で浄化されるってことだから、盗賊とかには特に熱心だったな」
「他には、自己暗示をかけることで一種のトランス状態になって痛みを無視するような奴もいたな、こいつは戦闘終わってもトランスが続いてて止める方も大変だったから滅多に使ってなかったけどよ」
思い出をたどりながら、そう話すルリ。それぞれの信仰などが生み出した習慣なのだろうが、彼女の話す二つの例はまったく異なるように見えてその実近しいところにあるというのは、ゲルタも知らない。
「あとは冬が厳しいから、食べ物を保存する工夫をそれぞれしてたみたいだね」
食い意地の張った少女はそんなことを思い出しながらクッキーをつまんだ。
●
メンター・ハート(ka1966)もまた、食欲旺盛ドワーフ娘。邪教の伝道者でもある。
「一口に辺境と言っても広いから、とても纏めて表現はできないが……その中の一つ、聖なるイートインの話をしようと思うんだぞ」
その響きだけで腹が空くようなタームだが、メンターは言葉を続ける。
「その男は飢えていた。辺境は厳しい場所も多い、荒野を彷徨う彼は何日もものを口にしておらず、このままでは大地の糧になるのも時間の問題だったんだぞ」
ゴクリと唾を飲むルリ。想像して腹が空いたのかも知れない。
「そこで神は恵みを与えた。一粒の小さな、殻に覆われた実を。しかし歯で噛み砕くことも、錆びた剣で打ち砕くこともできず。最後にとっていた火種で炙ったところ、殻に遂にヒビが入り、中から現れた瑞々しく滋養にあふれた胚を食して彼は荒野を抜けることができた。彼は思った。食べることはすべてに勝る正義だと、そして焼けば食えると……と言うことで、開祖イートインが布教を初めて幾年月、その教義の素晴らしさを……っ」
しかしそこまで勿体ぶって話していたせいか(実際はここに記した三倍以上時間をかけて話している)、時間切れで布教は失敗した、らしい。メンターは一つ咳払いして冷静を取り戻し、
「辺境は端の地、他では思ってもいないような伝説が幾つもある場所なんだぞ」
うまく纏めたつもりらしい……が、実はルリがずいぶん興味深く聞いていたことには、気づいていないメンターであった。
●
エルバッハ――いや、エルは思い出しながら話をする。
「そうですね……私の部族は一定以上の年齢になるとほとんど裸に近い格好で過ごしていました」
なかなか第一声がきわどかった。
「理由は諸説ありますが、羞恥心の鈍化で集団行動をスムーズにさせたり、戦闘時に隙を作ったりすることのないため、と言われています」
理由も結構きわどかった。
「私はハンターになりたかったためか、両親は私が幼い頃からそういう格好をさせていましたね」
そして本人はそれ以上にきわどかった。一同もさすがに言葉を入れづらい。
ちなみに予想通りというか、周囲は止めていたらしい。それでも孤立することはなかったというあたり、おおらかな部族だったのだろうし、周囲もそれをフォローしてくれていたのだろう。
「で、その格好……って訳か?」
目のやり場に困ったように顔を動かしながら、ヴァイスが問う。
「私自身はその習俗を始める年齢になる前に部族を出ましたが、両親の……影響もあって、こういう格好でも平気です」
エルの服装は露出度高め、ぎりぎり衛兵の厄介にならないという程度。
(寒くないかなと思うんだけど……)
誰もがそう、思ったのだという。
●
「辺境でもハンターと接点のある部族は多いだろうが、今回はマフォジョ族の文化を話すことにするか」
にやりと笑うのはヴァイスだ。
「かの部族はオイマト族と親しいらしく、『困っている人がいたら助けるのですよ』という言葉を大切にしている。そして何より……彼らを語る上で一番必要なのは、彼らの正装である……」
そこでヴァイスは荷物の中からとりだした。フリルたっぷりのゴシックドレスを。
「フリフリの、ドレスだ」
きっぱりと言い放つ。一瞬場が凍り付くが、彼はそんなことに気づかないらしい。
「彼らはこのようなドレスを、正装……つまり戦闘服として戦っている。似たような服装の文化は、『リアルブルーの男性アイドル』かな」
この場にリアルブルー出身者がいなくて良かった。いたらきっと色んな意味で悲しみが溢れただろう。ここにはそういうことに疎い面々しかいないせいか、違和感を感じつつも話を聞くことに集中している。
「ちなみに、その服は?」
静刃が尋ねる。キルシッカも、
「かわいいー、アイドル?」
なんて尋ねてくる。
「ああ、これは俺のアイドル活動時のものだ。実際、アイドル活動もしているぞ」
ヴァイスは『アイドルは性別問わずフリフリドレス』という勘違いをしているが、それに突っ込むような者もいない。むしろ、
「こんどみせてー!」
「なんか面白そーだね-、歌なら負けないよー?」
なんて煽る始末。
フリフリドレスは罪な存在だった。
●
「気づけば日も傾いてしまったぞ……」
メンターが外を見て、ため息をつく。ちなみに用意されていた菓子は主にメンターとルリの腹の中に収まっていた。マジパン細工だけはアシェが死守したが。
「うん、色々面白い話を聞くことができて、私もうれしいよ」
ゲルタが満足そうに笑う。話を聞いている間はできる限りペンを動かしていたのだから、なかなかしっかりしている。
「地域での文化というのは本当に違うんだなあ、聞いていて凄く面白かった。今回は感謝しないといけないな。私は医者だから、こう言うことにはあまり明るくない。また、機会があったら教えてもらえると嬉しいな」
「いえ、私たちにも多くの実りがありました」
澪は微笑んで、皆の意見を代弁した。
世界は広い。
それを感じる、依頼だった。
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相談卓 ヴァイス・エリダヌス(ka0364) 人間(クリムゾンウェスト)|31才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/12/10 21:20:13 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/08 18:40:49 |