はもんのはて

マスター:鷹羽柊架

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/04/12 07:30
完成日
2018/04/19 06:27

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 即疾隊一番隊長である壬生和彦がその任を解かれた話は瞬く間に広まった。
 瓦版が号外を飛ばし、読売が往来で声高に叫ぶ。
「即疾隊一番隊長が隊長職の任を解かれたそうだ!」
 その言葉に足を止める者は多く、誰もがその耳に聞き入れる。
「先日、亀田診療所に押し入った輩を追うためだって! 美人女医を守る美形剣士! 号外だよ!」
 読売が叫ぶと、「まじかよ」「おくれよ」と往来の人々が瓦版を買っていく。

 当の和彦は人目を避けるように若峰の外れにある古い剣道場……葦原の実家に身を隠していた。
 時折戻っていたものの、家は人がいなければ痛むのが早いというのが分かるが、今は雨風を凌ぐことが出来ればそれでいい。
 雨戸を締め、そっと明かりを点す。壁に寄りかかると、勝手口から物音が聞こえる。
「私、摩耶」
 勝手口へ向かうと、即疾隊世話役の秋吉摩耶の姿があった。
「よくわかりましたね」
 呆れる和彦に摩耶は「ふふふん」と笑って、差し入れの弁当を渡す。
「人気者は大変よねー」
「……局長と副局長の采配には助かりましたが……」
 前回、初名の身を案じてハンターより刀匠白賀時光の刀を和彦が決着をつけろと意見があった。
 和彦は即疾隊の立場、番屋との兼ね合いを鑑みて表向き事件には関われず、ハンターに依頼をしていたが、その時に出た和彦に対しての意見に副局長の前澤が和彦の隊長職を一時解き、一般人として番屋と共に動けるようにしてくれた。
「あのままだと、即疾隊辞めるって言いそうだったし」
 摩耶の指摘を受けた和彦は返さず、蓮根のきんぴらを口の中に放り込む。
 隊長職を持つ和彦は表立って動くことはできない。彼の性格を鑑みれば摩耶の言葉通りに動くと思い、前澤が先手を打った。
「初名先生は?」
 屯所を出てから和彦は一度も初名とは会っていない。
「今は別の診療所の手伝いをしてる。局長が読売使って上手いことやってくれたから、隊士達も元気でてるし、番屋連中とも積極的に情報交換してる。一番隊長は君しかいないって」
 隊士達も不安がっていたが、上の考えを知り、和彦が動きやすいようにしてくれているのを知るのと、番屋とうまくいっているのは嬉しいものだ。
「やっぱり、あの歪虚は刀が狙いね。以来、一度も亀田診療所に出入りしてないし、初名先生も狙われていない」
「偏った思考の歪虚でしたが……こちらもまだ一度も会ってません」
 隊長職を解かれた後、和彦は番屋連中と共に行動していた。
 今は一般人だが、即疾隊と番屋が手を組むという状態に市民も安心していた。
 以前まで、蛇の歪虚……清がいたのは繁華街であり、その辺りも捜索していたが、彼女の姿を見た話は聞かない。
 親分達は和彦を連れ歩いて飲みに行くことがあった。目的は和彦を餌にして飲み屋の綺麗なお姉さんとお話ししたいから。
 滅多に飲みに来ない即疾隊一番隊長が来ているのだから、和彦はお姉さん達にひっぱりだこ。
 飲みは懲り懲りと和彦は夕方から夜だけ実家に戻るようにしていた。
 酒は嫌いではないが、女性経験の乏しい和彦にはそういったお店はまだ早かったようだ。
「いっそ、喧嘩しかけたら?」
「言いたいことは分かりますけどね。この刀、覚醒中に握ると興奮作用があるようです。一気に気分が高揚します」
「抵抗力が低ければそのまま取り込まれて好戦的になる。今までの話を鑑みると、あの歪虚は人間を操る能力があるわね」
 摩耶の推察に和彦も同意だ。
「精神操作の術に抵抗できなければそのまま刀に付与された術のなすままと思います。で、郊外の動きはどうですか?」
 和彦は竹筒の茶を飲み干して摩耶に問う。
「お察しの通り、若峰周辺の宿場町にいた浪人が行方をくらましているって」
 若峰の繁華街にいなければ、そちらの方へと流れたのだと和彦は察知していた。
「奴はどこかで様子を見ていると思います。強い剣士が刀を持ち、人を殺す所が見たいだけ」
「でも、なんで刀で斬り殺すことに執着するんだろう」
 摩耶は「うーん」と、首を傾げる。
「初名先生の話だと、一度目の盗難時、歪虚は一度片方の頭を斬られてます。そして、歪虚の消滅を待たずに退避したと」
「実際はその歪虚が生きていて、刀に魅入った……いえ、もう祟りね」
「嫌な話ですが」
 二人でため息をつく。
「どうにしろ、決着は付けますよ。けど、どうにもハンターの助力は借りないとならない」
 和彦は静かに呟いた。
「そうね……」
 和彦の技量ならば、摩耶が想像している人数が彼に襲おうとも斬り殺し、生き残ることはできる。ただ、加減をする場合はどんな剣士でも難しいだろう。
「あと、頼まれていた赤い羽根の首飾りの件、情報は引っ掛かりはなかった。東行が言ってた通り、西方から流れてきた奴だと思う」
「今は関係ないと俺は思ってます。ありがとうございました」
 和彦が礼を言うと、摩耶は「いえいえ」と返す。
「そろそろ番屋行きます。飲み屋も終わりだろうし」
「先にお暇するわ」
 さっさと勝手口へ歩き出す摩耶へ和彦が呼び止めた。
「弁当ごちそうさまでした」
「温かいご飯を食べに戻って来なさいよ」
 じゃぁねと、摩耶は先に出て行った。

 番屋の方へ顔を出した和彦は見回りに行きますと声をかける。
 居眠り中の不寝番の下っ引きは「どうぞ」とだけ言って、うつらうつらと眠そうにしていた。
 月も傾き、大半の飲み屋は店じまいを始めている。
 一昨年の頃を思い出しながら和彦は町中を歩く。
 あの時は辻斬りを追い、身を隠しながら千石原の乱後の若峰を毎夜歩いていた。
 常に焦りと、張り詰める緊張が和彦を襲い、また辻斬りが犯行をするのではと眠れない時もあった。
 今回も焦りはあるが、落ち着いているのは即疾隊として動いてきた経験だろう。
「早く、討伐しないと」
 息をつく和彦は曲道に入ると、ふいに足を止める。
 薄く月光が差し込む道の真ん中で女が一人佇んでいた。
「また会えたね」
 艶やかな声音に和彦は警戒し、柄に手をかける。
「初名先生から俺へ興味を変えてくれて助かる」
「あの子は剣士じゃないからねぇ。お前にその刀を早く持ってほしいんだけど」
 くつくつと笑う女……清は目を細めて白い刀へ目を向けていた。
「お前を倒し、浄化できたら持ってやろう。それに、駒を集めているんだろう?」
「よくわかるねぇ」
 呆れる清に和彦は提案を口にする。
「もっと暴れられる場所で決着をつけよう」
 提案を聞いた清は顔を歪ませた。
「今永町より更に奥に戦えるだけの広い荒れ地がある」
「足元が悪いじゃないか」
「町中で暴れるよりマシだ。お前の本性に足元の悪さは関係ないだろうしな」
 和彦の提案に清は目を眇める。
「七日後、駒を若峰に連れてこい。俺以外に仕向けるな。剣士として強い俺にこの刀を持たせたいだろう」
 二人は暫し無言のまま睨み合い、清が先に表情を変えた。
「楽しみにしてるよ」
 そう言って清は闇に紛れていった。

リプレイ本文

 ハンター達が呼ばれたのは今永町の昇太がいる番屋。
「連携が上手く取れているようでなによりです」
 エステル・クレティエ(ka3783)が昇太に声をかけると、彼は照れ笑いをする。
 和やかな雰囲気の中、勢いよく開けてきたのは昇太の部下の下っ引。
「親分! 清って女の姿を見たって奴が出てきました! 見慣れない浪人を何人か引き付けているようです」
 走ってきた下っ引は引きつったように声を張り上げる。
「壬生の旦那……!」
 昇太が和彦へ声をかけると、彼は頷く。
「今回の下調べでは、鬼哭組の浪士がいる可能性があります」
 和彦はハンター達の方へ向き、告げた。それに反応したのはマリィア・バルデス(ka5848)だ。
「私は鬼哭組に興味があるのよね。この件で何か情報を引き出したいと思うわ」
 松永が倒され、縛についた者、死んだ者もいるが、逃亡した者も多くいるのは事実だ。掲げる頭が消えた現在も動きは見えてない。
「例え助けても、鬼哭組なら待っているのは厳罰でしょう?」
 そう口を開くのはハンス・ラインフェルト(ka6750)。
「政を倒すという夢を抱えている内に倒してやる方が、彼らにとっても幸せかもしれませんよ?」
 そう告げるハンスに和彦はそっと息を吐く。
「現在の私には浪士を斬り捨てても良いと判断する権限はありません。マリィア殿の意見に賛成です」
 低くしっかりと声を響かせる和彦の言葉にエステルがそっと安堵の吐息をもらす。
「以前、鬼哭組を生かして捕えることが出来た。失わなくて良い命であるなら、繋いでゆくべきだ」
 更に推すアーク・フォーサイス(ka6568)は生かして捕えたいという意志がある。
「政を倒すという夢を抱いている内に倒してやる方が、彼らにとっても幸せかもしれませんよ?」
 鬼哭組の目立った動きは見えていない。動くために力をためているのか、このまま散るのかは定かではない。
「それを決めるのはこの街を護り、罪を裁く人の仕事よ。今は捕縛に努め、歪虚を倒すのが先決」
 マリィアの言葉に和彦は「はい」と笑顔で頷いた。

 移動する中、和彦は木綿花(ka6927)の様子に気づく。
 彼女は顔を俯かせ、何処か思いつめた表情に見えたからだ。
「木綿花さん……」
「私は、彼女が歪虚だと気づきませんでした……初名様と共にいて、人だと……」
 木綿花は初名が旅をしていた頃から今回の件に携わっていたハンター。
 彼女の記憶上、清は誰かに危害を加えるようなところは見当たらなかったが、それは偶然だったのかは分からなかった。
 初めて清に会った清は刀の奪還を考えていた可能性があるが何より優先していたのは簪。
「あの簪は、削がれた頭の……」
「……歪虚には様々な個体があると聞きます」
 木綿花の思考を遮ったのはエルバッハ・リオン(ka2434)の言葉だった。
「人と見ればすぐに傷つけようとする歪虚、戦意を持たず人の街に紛れる歪虚……何にせよ私達は歪虚を成敗し、今回で終わらせましょう」
 エルバッハは彼女なりにこの事件の幕引きを現実とする為に参加した。優雅な物腰であるが、その声音は凛としていた。
「初名先生の心労を少しでも断ちましょう」
 穏やかに声をかけるエステルに木綿花はようやく顔を上げて頷く。
 ハンター達を先に約束の場所へ向かわせた和彦だが、彼に付き添うのはアークだった。
「清……だっけ? 彼女に自分以外の人間を巻き込むなって宣言したんだよね」
「はい。アーク殿も……」
 和彦は清が精神操作をした人間を使って街中でも襲うのではないかと考えていた。アークに無用の危険が及ぶのではないかと心配したが、彼は大丈夫と返す。
「気遣いは無用だよ。生かして捕えたいし」
 逃げて呼び寄せるつもりの和彦だったが、アークはそれに対して首を振る。
「助かります」
「行こうか」
 アークの気遣いを素直に受けた和彦は今永町を歩いていく。
「約束の場所はどうしたんだい?」
 前から聞こえる女の声は清のもの。
「おまえこそ、約束の約束の場所へ向かっていないだろ」
 くつりと口元を歪ませるアークの金の瞳は瞳孔が縦長となり、獣を思わせるものへと変化していた。
 後ろに浪人姿の男が二人が立っている。
「こっちの下調べではあと三人いるはずだ」
 和彦が言えば、清は目を眇めて鼻白む。
「自分で確かめなよ」
「約束を果たせるならな」
 アークと和彦は視線を交わして一気に約束の荒れ地へと駆け抜けていき、清は二人を追う。

 先に荒れ地に到着していたエステル達は光源の固定をしている。
 相手は狡猾な歪虚ともあり、清がきちんと誘導されているかはわからないが、今は二人を信じるしかない。
 顔を上げ、今永町がある方向を向いたマリィアは三つの人影を直感視で確認した。
「先行して来たみたいね」
「やはり、和彦さんの目測どおりですね」
 エルバッハが口を開くと、彼女の胸元に薔薇の花を模した赤色の紋様が浮かび上がる。紋様を起点にし、棘を模した同色の紋様が六本伸びていった。
 青の瞳を閉じると、両腕と両脚の先まで紋様が伸びていく。更に彼女の白磁の両頬まで伸び、彼女の身体に巻きついているかのように浮かび上がる。
 覚醒したエルバッハは符を取り出し、こちらへ向かってくる人影へ注意を払う。
 和彦は清を信用しておらず、ハンターへの生命の保証はできないとしていた。
「今までの状況を察するに、もう形振り構わないという状況でしょうか」
 星剣を構えた木綿花は厳しい表情で呟く。
 人影は抜刀をしていた。構えて進むという状態よりは、刀を持ってすぐに振り上げられるようにしているという印象を思えた。
「どこまでの知能や、知恵があるかわかりませんが、あの刀は清さんを倒してから浄化するという考えでよかった気がします」
 エルバッハと共に後衛に立つエステルは人影が来る方向とは違う道を見ていた。
「まだ人影が……!」
 はっとなったエステルが声をかける。
「刃向かうのであれば、刃で返すのみです」
 ハンスも片刃刀に手をかけ、様子をみていた。
 後からきた人影より光が発せられる。灯火の水晶球の効果と判断したエステルはアークと和彦であると判別した。
 マリィアは先に来た三人の浪人へトリガーを容赦なく引いた。
 威嚇射撃を行うマリィアが放った銃弾に浪人だろう剣士は足止めをくらってしまう。
「こっちです!」
 エステルが和彦達に声をかけると、アークが和彦を守るように走り、先行組と合流する。
「誘導について来たようですね」
 凛とした声音で呟くエルバッハが見据えるのは人影二つと大きなな大蛇が姿を現していた。
 足場の悪い道に胴を擦り付け、ぬるぬる動く。蛇が進む度に尻尾の先端が揺らいでいる。
「あれなのかしら……愉しそうね」
 少ない月明かりでも分かる異形の姿にマリィアは尻尾を見て、恐れることなく不敵に笑む。
「援護するわね。ここは刀の国、メインディッシュはそちらでどうぞ」
 マリィアの穏やかな声音に反するように彼女はこちらへと進軍する浪人達へ再び威嚇射撃を行った。
 先行して現れた浪人達へ意識を向けるのはエルバッハとエステルだ。
 二人は浪人達の動きを見ていた。術の間合いに入った瞬間、先に行使したのはエルバッハのスリープクラウド。
 三人の浪人達の周囲に青白いガスが一瞬だけ広がった。
 倒れたのは一人だけ。残りの二人はまだ動いていたが、もう一人は頭を揺らし、足元がおぼつかない様子だ。
「近づけさせません」
 エステルの愛らしい声音が紡ぐ言葉は厳しさを感じさせるが、余計な怪我をさせないための優しさが込められている。
 自分達と操られてしまい、敵となった浪人も。
 この行動が事件を引き起こす原因となった初名を守る事にもなる。
 更にエステルが発動したスリープクラウドでは弱った浪士が膝をついた。
 術の抵抗に成功した浪人は更に進んできており、対応で前に出たのは木綿花だ。剣を構えても、浪人に戦意があるのかも窺い知れず、睨み合いのような状態となる。
 先に動いたのは浪人だ。
 刀を振り上げ、木綿花へ斬り付けようとしていた。盾を掲げて攻撃を防いだが、その攻撃は重く、木綿花は衝撃に顔を顰めてしまう。
 衝撃に耐えていたほんの少しの隙を狙い、浪人は雷撃を受けていたが、脇差を抜いており、木綿花の腹を斬る。
「……うっ!」
 刺された痛みで木綿花は体勢を崩してしまい、すぐさま蹴られて倒れてしまう。
「木綿花さん!」
 浪士を昏倒させた和彦が助けようと駆けだそうとするが、その行動は清に止められてしまった。
「お前の相手はこっちだよ」
 清は尻尾を鞭のように撓らせて、和彦へ飛ばす。寸でのところで受け流した和彦は後ろへ飛び退る。
 木綿花へ振り下ろされる刀に気づいたマリィアは黄金で作られたデリンジャーを構えた。マテリアルを弾丸に込めて彼女はトリガーを引く。
 冷気を帯びた弾丸は木綿花を狙う刀を持つ浪人の手へ命中した。
 動きが鈍くなった浪人の懐から間合いをとった木綿花は柄を返して浪人の腹を突く。柄とはいえ、腹部のダメージがあったようで、浪人はよろめいてしまう。
「離れてください!」
 エルバッハの指示に従い、木綿花はその場を離れ、駆け出す。
 後ろを振り向きながら木綿花が見たのは紫色の光……エステルが発動させたグラビティフォールが浪人の周囲へ広がる。
 重力波と冷気による行動阻害に浪人は動けずにいた。
「大丈夫ですか……っ」
 エルバッハが後退する木綿花を抱きとめると、彼女は小さく頷き、ポーションを飲んだ。

 一方、清は愉しそうに巨体を器用にさばき、自分からの攻撃は和彦だけを狙っていた。
「さぁさぁ、刀の出番じゃないのかい?」
 和彦を煽る清は尋常ではない速さで突進し、長く尖った爪で和彦の左腕を斬り裂いていく。
「はっ!」
 清に対し、半身の姿勢となったアークが疾風剣を繰り出して和彦と清の間に入り、清の腕を斬りつける。
 反撃は行っており、アークの死角より尻尾を地に這わせて彼に足払いをして転ばせると、アークの足へ容赦なく尻尾を叩きつけた。
 声に出す余裕もないほどの衝撃にアークは浅く息を吸う。
「お前はどうなるんだろうね」
 くつりと笑う清はアークをじっと見やる。
 歪虚と目を合わせてしまったアークは本能が警鐘を鳴らしていたが、最悪の事態は免れた。
「アークさん!」
 和彦がアークを引っ張り、後退させる。清は周囲に視線を巡らせてある一点に気づき、目を細める。
 その方向にいたのはエルバッハ。
 カウンターマジックを発動し、清の精神操作を阻害していた。
 エスバッハを見た清は忌々しそうに彼女を睨みつける。
 蛇の歪虚、清の動きを見ていたハンスは着火の指輪で紙巻煙草の先端に火をつけた。
 ふかした紫煙を吐き、ハンスが清の前に出る。
「私のいたところで、ある話がありました」
 自身の腰に下げる片刃刀の柄に手をかけ、もう片方の手には紙巻煙草を指で挟んでいるハンスの様子に清は目を細め、様子を伺う。
「こちらの世界でも通用すれば……御の字ですがね」
 自身の間合いに入り、にやりと笑みを浮かべるハンスは紙巻煙草を咥えて抜刀する。
 過ぎたばかりの桜が押しつぶされるような桜吹雪となり、鋭い刃が円を描くように歪虚を斬り割いていく。
 清は首を前に出し、ハンスの懐に飛び込み爪で彼の肩を裂く。
 その行動はハンスにとって好機だ。
「さぁ、知的好奇心に付き合ってください」
 強引に清の口を開けたハンスは咥えていた紙巻煙草を指で抓み、清の舌の付け根へ零れそうな灰ごと押し付けた。
 熱さに顔を顰めた清だが、尻尾を引き寄せてハンスの頭上目掛けて振り下ろす。
「ぐ……っ」
「熱いじゃないの」
 押し付けられた煙草で焼けた舌の粘膜が黒くどろりと溶けても清は平気な様子を見せ、彼を抱きとめるかのように指が食い込み内臓を圧迫する。
 清の手に光線が突き抜け、反動でハンスを手放した。
「そこまでです……」
 デルタレイを発動した木綿花が前に出る。胴を捩らせて進む清は木綿花を狙いつけ、上半身を屈めようとした瞬間、重力波に襲われてしまう。
 エステルが再びグラビティーフォールを発動し、清の動きを阻害する。
「ネタは割れているわ」
 そう呟いたのはマリィアだ。レイターコールドショットを清の左目を狙って弾丸を撃ち込んだ。
 先ほど、アークが清と目を合わせた時に、彼女の目を見た時に操作が行われると彼は告げていた。
「く……っ」
「私達が出来ることは、この若峰に住まう人達をこれ以上苦しめない事です」
 エルバッハは清へ指をさすと、燃え盛る炎が矢を模る。彼女の術が発動し、炎の矢はマリィアの弾丸を受けた左目へと命中した。
「うぅううう……」
 呻く清へ前に出たのはアークと和彦だ。
 清の胴体は戦闘前は硬くつるんとした鱗だったが、今は攻撃を受け、ところどころがボロボロとなっている。
「終わらそうか……」
「はい」
 二人がそれぞれ剣を構えると、清は雄たけびを上げながら、力を振り絞って前衛にいる二人目がけて間合いを詰める。
「アーク様!」
 歪虚が尻尾を振ってアークを襲おうとした所を木綿花が叫ぶ。彼女の警告を聞いたアークは疾風剣で尻尾を斬り落とす。
 尻尾が斬られても胴は生きており、和彦は容赦なく斬り裂いた。
 和彦とアークが後退すると、エルバッハと木綿花が風雷陣とデルタレイを発動させる。
 最期の瞬間、清は和彦が携えていた自身の片方の首を斬り落としたあの刀を口惜しそうに見ていた。


「兄さ……」

 首に傷を持つ蛇歪虚は消滅した。


 灰となった歪虚を見つめていた和彦の表情はよくわからなかった。
「壬生君、君はこれからまだまだやることがあるでしょ」
 マリィアの言葉に和彦は呼子笛で周囲にいるだろう番屋の者達を呼ぶ。
「……今回の件、祖父が知らなくて良かったと思います。私も知りたくないですから、早く終わらせたかった」
 ぽつりと、和彦が呟いた。
「あら」
 目を瞬くエステルが見たのは、向かってきたのが即疾隊の隊士達。
「早く行ってくださいませ」
「え?」
 エルバッハが声をかけると、和彦は目を瞬かせる。
「早く報告に行きなさいよ。浪人達は私達が連れて行くから」
「せめて、引継ぎをしてから……」
 真面目な和彦の言葉にハンター達はつい微笑んでしまう。

 和彦が無事に即疾隊一番隊長へ復帰したのは読売を通じて若峰に知れ渡る。
 清が操っていた鬼哭組の浪士は詰問した結果、何も知らない新人だった。


 件の原因となった白賀時光の刀は浄化された後、折られた。
 和彦と初名が話し合いの結果、初名が一人前になった時に溶かして医療器具にすることになった。
 怖い目に遭ったのにと騒動が起こるが、それはまた別な話。

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MVP一覧

  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオンka2434
  • 虹彩の奏者
    木綿花ka6927

重体一覧

参加者一覧

  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 決意は刃と共に
    アーク・フォーサイス(ka6568
    人間(紅)|17才|男性|舞刀士
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • 虹彩の奏者
    木綿花(ka6927
    ドラグーン|21才|女性|機導師

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
エルバッハ・リオン(ka2434
エルフ|12才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/04/11 21:03:34
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/04/11 07:57:04