ゲスト
(ka0000)
【RH】仏の皮をきた男
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/16 22:00
- 完成日
- 2018/04/22 21:22
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
※本シナリオは連動シナリオとなります。同日に出された【RH】タグの依頼との同時参加は出来ません。重複参加が認められた場合、本シナリオでの判定・描写の対象外となります。ご了承ください。
ランカスターへ展開したラズモネ・シャングリラ。
目的の男――慈恵院明法はこの街に潜んでいる。
強化人間疾走事件を握る歪虚は、一体何を企んでいるのだろうか。
「八重樫さん、周囲で異変を感じたら逐次報告するザマス」
魔導型ドミニオンで周囲を警戒する八重樫 敦(kz0056)へ、森山恭子(kz0216)はラズモネ・シャングリラから指示を出した。
コンタクトを取ってきた明法なる歪虚は、発信地点を割り出してくる事は想定内のはずだ。言い方を変えれば、待ち伏せや罠を狙っている可能性がある。
如何なる攻撃を仕掛けてくるのか。
八重樫は、いつも以上に慎重な姿勢で臨んでいた。
「分かってる。未だ謎の多い相手だ。慎重に行動すべきだ」
謎の多い相手。
それがラズモネ・シャングリラ側の抱く敵の姿だ。
一体、どうやって強化人間を連れ出したのか。
何故、ドゥーン・ヒルで戦わせたのか。
そして――連れ出して何をしようというのか。
それらの謎は、おそらく明法に出会えば鍵を得られる。
彼らは、そう信じていた。
「輝くならダイヤだけにしてくれ。あの坊主頭が輝いても女を口説けやしねぇ」
軽口を叩くジェイミー・ドリスキル(kz0231)。
相棒の戦車型CAM『ヨルズ』は、ムーンリーフ財団にて改修作業に入っている。
訓練を受けている以上、他のCAMでも操縦は可能なはずだが……。
「ドリスキルさんが臨めば、連合宙軍に掛け合って一機回してもらったザマスのに」
「へっ。CAMに乗るぐらいなら馬にでも乗ってるさ。白馬の王子様になって坊主を迎えに行ってやる」
ドリスキルはCAMの操縦を拒んでいた。
本人はCAM嫌いを理由にしているが、統一地球連合宙軍からCAMを配備するよう掛け合えば、一部上層部から良い顔をされない事は分かっていた。戦力集中を避ける為に、様々な嫌がらせが考えられる。
ドリスキルも軍に身を置く存在だ。
あまり波風を立てない方が良いと考えたのだろう。
「ラズモネで砲撃支援をさせてもらうさ。それより八重樫、異変は本当にねぇのか?」
「……ん?」
ふいに八重樫の視界に入った異物。
ランカスター城付近に視線を送れば――金色に輝く何かが目を惹いた。
あれは、仏像なのか。
●
「来たか。戦に狂いし、修羅の群れ」
明法は城の石垣から遠くを見通す。
あれはドゥーン・ヒルで目撃した敵の母艦。
誘き出されている事は分かっていたにも関わらず、正面から挑むとは――。
「余程の自信か、それとも愚者か。
いずれでも構わぬか。ここで滅ぶなら、その程度の小鬼だっただけの事」
明法は、手にしていた錫杖を高く掲げた。
それを合図に石垣の下にいた強化人間は何処かへと通信を入れ始める。
「小鬼か、悪鬼羅刹か。
確かめねばなるまい。我と『如意輪観音』で」
明法は振り返る。
そこには金色に輝く巨大な仏像が、城門に腰掛けていた。
●
「敵襲です。左翼から無数のVOIDです」
ラズモネ・シャングリラのオペレーターがブリッジで声を上げる。
九時方向から飛来するのは、浮遊型の小型狂気や中型狂気。まるで風に乗って漂いながら、ラズモネ・シャングリラに向かって飛来する。
「見張りは何をしていたザマスっ!?
このままでは、激突ザマス。ドリスキルさん!」
「ああ。折角の出迎えだ。派手に歓迎してやらないと、な!」
ラズモネ・シャングリラの機銃砲座に腰掛けたドリスキルは、小型狂気へ弾丸の雨を叩き込む。
ムーンリーフ財団が覚醒者や強化人間用の機銃砲座を準備してくれていたのだが、早くも出番が巡ってきたようだ。
「続いて右翼から歪虚CAMです。強化人間のコンフェッサーも混じっています!」
「八重樫さんっ!」
「既に交戦中だ」
待ち伏せを想定していた八重樫は、恭子の声が発せられるよりも早く動き出していた。
歪虚CAM、更に失踪していたと思われる強化人間のコンフェッサーが複数。
コンフェッサーだけを相手にしていれば楽かもしれないが、歪虚CAMが混じる事で戦い難い相手となっていた。
「八重樫さん、識別信号からそのコンフェッサーの中にエース機が混じっているザマス」
「またか」
「それも間もなく軍へ配属予定だった子……タイラーって名前ザマス。とっても優秀で活躍を期待されてたザマス。
八重樫さん、この子を……」
「やってみる。だが、保証はできん」
一瞬、八重樫の視界に飛び込むコンフェッサー。
肩に緑のラインが入った機体。
おそらくあれがタイラーの機体なのだろう。
恭子はタイラーの保護を願っているようだが、この状況で強化人間を傷つけずに保護ができるのか。
それは八重樫自身にも分からない。
しかし――問題はこれだけではなかった。
「まずいザマス! こんな所をさらに攻撃されたら……マテリアル砲の準備は!?」
「もう少し、まだ時間がかかります!」
「艦長。ランカスター城に謎の機体が接近! ……モニターへ出します!」
恭子がモニターを見上げれば、座っていた黄金の仏像が立ち上がっている。
そしてまるで背中にブースターを備えているかの如く、巨大な体をラズモネ・シャングリラへ向けた。
「仏像!? あれは一体何ザマス? と、とにかくハンターさん達に応戦を要請するザマスっ!」
●
「敵を捕捉……攻撃開始」
コンフェッサー カスタムの中で、タイラーはそっと呟いた。
感情を消して戦うのは、タイラーの戦い方だ。
やる事はシミュレーターと同じ。
違うのは、仲間も敵も命があるという事。
それでも、タイラーは手を緩める気はない。
ここで倒れるなら、タイラーも居場所を失うから。
もう、居場所は失いたくない。
そうなるぐらいなら、すべての敵を倒す。
誰が来ても――構わない。
「敵を全滅させる。僕には、それしかできない。そうしなければ、帰る場所がなくなるから」
ランカスターへ展開したラズモネ・シャングリラ。
目的の男――慈恵院明法はこの街に潜んでいる。
強化人間疾走事件を握る歪虚は、一体何を企んでいるのだろうか。
「八重樫さん、周囲で異変を感じたら逐次報告するザマス」
魔導型ドミニオンで周囲を警戒する八重樫 敦(kz0056)へ、森山恭子(kz0216)はラズモネ・シャングリラから指示を出した。
コンタクトを取ってきた明法なる歪虚は、発信地点を割り出してくる事は想定内のはずだ。言い方を変えれば、待ち伏せや罠を狙っている可能性がある。
如何なる攻撃を仕掛けてくるのか。
八重樫は、いつも以上に慎重な姿勢で臨んでいた。
「分かってる。未だ謎の多い相手だ。慎重に行動すべきだ」
謎の多い相手。
それがラズモネ・シャングリラ側の抱く敵の姿だ。
一体、どうやって強化人間を連れ出したのか。
何故、ドゥーン・ヒルで戦わせたのか。
そして――連れ出して何をしようというのか。
それらの謎は、おそらく明法に出会えば鍵を得られる。
彼らは、そう信じていた。
「輝くならダイヤだけにしてくれ。あの坊主頭が輝いても女を口説けやしねぇ」
軽口を叩くジェイミー・ドリスキル(kz0231)。
相棒の戦車型CAM『ヨルズ』は、ムーンリーフ財団にて改修作業に入っている。
訓練を受けている以上、他のCAMでも操縦は可能なはずだが……。
「ドリスキルさんが臨めば、連合宙軍に掛け合って一機回してもらったザマスのに」
「へっ。CAMに乗るぐらいなら馬にでも乗ってるさ。白馬の王子様になって坊主を迎えに行ってやる」
ドリスキルはCAMの操縦を拒んでいた。
本人はCAM嫌いを理由にしているが、統一地球連合宙軍からCAMを配備するよう掛け合えば、一部上層部から良い顔をされない事は分かっていた。戦力集中を避ける為に、様々な嫌がらせが考えられる。
ドリスキルも軍に身を置く存在だ。
あまり波風を立てない方が良いと考えたのだろう。
「ラズモネで砲撃支援をさせてもらうさ。それより八重樫、異変は本当にねぇのか?」
「……ん?」
ふいに八重樫の視界に入った異物。
ランカスター城付近に視線を送れば――金色に輝く何かが目を惹いた。
あれは、仏像なのか。
●
「来たか。戦に狂いし、修羅の群れ」
明法は城の石垣から遠くを見通す。
あれはドゥーン・ヒルで目撃した敵の母艦。
誘き出されている事は分かっていたにも関わらず、正面から挑むとは――。
「余程の自信か、それとも愚者か。
いずれでも構わぬか。ここで滅ぶなら、その程度の小鬼だっただけの事」
明法は、手にしていた錫杖を高く掲げた。
それを合図に石垣の下にいた強化人間は何処かへと通信を入れ始める。
「小鬼か、悪鬼羅刹か。
確かめねばなるまい。我と『如意輪観音』で」
明法は振り返る。
そこには金色に輝く巨大な仏像が、城門に腰掛けていた。
●
「敵襲です。左翼から無数のVOIDです」
ラズモネ・シャングリラのオペレーターがブリッジで声を上げる。
九時方向から飛来するのは、浮遊型の小型狂気や中型狂気。まるで風に乗って漂いながら、ラズモネ・シャングリラに向かって飛来する。
「見張りは何をしていたザマスっ!?
このままでは、激突ザマス。ドリスキルさん!」
「ああ。折角の出迎えだ。派手に歓迎してやらないと、な!」
ラズモネ・シャングリラの機銃砲座に腰掛けたドリスキルは、小型狂気へ弾丸の雨を叩き込む。
ムーンリーフ財団が覚醒者や強化人間用の機銃砲座を準備してくれていたのだが、早くも出番が巡ってきたようだ。
「続いて右翼から歪虚CAMです。強化人間のコンフェッサーも混じっています!」
「八重樫さんっ!」
「既に交戦中だ」
待ち伏せを想定していた八重樫は、恭子の声が発せられるよりも早く動き出していた。
歪虚CAM、更に失踪していたと思われる強化人間のコンフェッサーが複数。
コンフェッサーだけを相手にしていれば楽かもしれないが、歪虚CAMが混じる事で戦い難い相手となっていた。
「八重樫さん、識別信号からそのコンフェッサーの中にエース機が混じっているザマス」
「またか」
「それも間もなく軍へ配属予定だった子……タイラーって名前ザマス。とっても優秀で活躍を期待されてたザマス。
八重樫さん、この子を……」
「やってみる。だが、保証はできん」
一瞬、八重樫の視界に飛び込むコンフェッサー。
肩に緑のラインが入った機体。
おそらくあれがタイラーの機体なのだろう。
恭子はタイラーの保護を願っているようだが、この状況で強化人間を傷つけずに保護ができるのか。
それは八重樫自身にも分からない。
しかし――問題はこれだけではなかった。
「まずいザマス! こんな所をさらに攻撃されたら……マテリアル砲の準備は!?」
「もう少し、まだ時間がかかります!」
「艦長。ランカスター城に謎の機体が接近! ……モニターへ出します!」
恭子がモニターを見上げれば、座っていた黄金の仏像が立ち上がっている。
そしてまるで背中にブースターを備えているかの如く、巨大な体をラズモネ・シャングリラへ向けた。
「仏像!? あれは一体何ザマス? と、とにかくハンターさん達に応戦を要請するザマスっ!」
●
「敵を捕捉……攻撃開始」
コンフェッサー カスタムの中で、タイラーはそっと呟いた。
感情を消して戦うのは、タイラーの戦い方だ。
やる事はシミュレーターと同じ。
違うのは、仲間も敵も命があるという事。
それでも、タイラーは手を緩める気はない。
ここで倒れるなら、タイラーも居場所を失うから。
もう、居場所は失いたくない。
そうなるぐらいなら、すべての敵を倒す。
誰が来ても――構わない。
「敵を全滅させる。僕には、それしかできない。そうしなければ、帰る場所がなくなるから」
リプレイ本文
イギリス――エディンバラ。
ムーンリーフ財団トモネ・ムーンリーフの執務室へ急遽設置されたモニターには、ランカスターでの戦闘が映像として流れていた。
「総帥。中継車は出していますが、クルーに危険が及べば……」
「分かっている。だが、こうしている間にもアスガルドの子供達とハンター達が命を賭して戦っている。本来であれば、私自らランカスターへ赴くべきだ」
補佐兼世話役のユーキ・ソリアーノを前にトモネは語気を強めて反論した。
強化人間にならなければ、あの子達はこのような事にはならなかった。
誰があの子達をアスガルドへ連れてきたのか。
それは――トモネ自身だ。
トモネが承認してあの子達は強化人間となるべくアスガルドへやってきた。
では、この事態はトモネが原因なのか?
自問自答を繰り返すトモネ。
だが、こうしている間、無情にも時間は過ぎていく。
「いけません。総帥に何かあれば財団全体の問題となります。
……それは、ご理解いただいておりますよね?」
その焦りと不安に混じる感情を胸に、トモネは戦いの様子をモニター越しで見つめていた。
本当ならば、現地へ赴きたい。
しかし、総帥としての責務もある。
自らの身を危険に晒す訳にはいかない。
その妥協点が中継車による放送であった。
「分かっている。分かっているとも!
だが、私は知らなければならぬ。
あの子達が、何故……連れ去られねばならなかったのか。それを知る責任が、私にはある」
トモネは、食い入るようにモニターを凝視する。
そこでは歪虚と命を張って戦い続けるハンターが映し出されていた。
●
別名『首くくりの街』――ランカスターで激突するハンターと強化人間。
その戦闘の最中に現れるのは、強化人間失踪事件の首謀者であった。
「正と邪が混じりし混沌の世を守らんが為、現れたか。さて、彼の者は痴れ者か。それとも……」
慈恵院明法と名乗る歪虚は、歪虚CAM『如意輪観音』の背部ブースターを全開にする。
噴出する炎は、推進力を生み出して巨大な仏像を一気に前へと押し進める。
動き出す巨体。
しかし、ハンター達もその行動を黙って見過ごす訳にはいかない。
「よく分からねぇ勝手な理屈で活動するエセ宗教家って感じだぜ」
魔導型デュミナス『ドゥン・スタリオン』で如意輪観音行く手を阻んだアーサー・ホーガン(ka0471)。
如意輪観音の攻撃目標はラズモネ・シャングリラ。
CAMよりも巨大な上、攻撃方法も不明な敵を接近させればラズモネ・シャングリラの危機は間違いない。
ドゥン・スタリオンにも危険はあるが、アーサーは機体を屈ませて建物の傍から砲撃を浴びせかける。
「アクセサリを沢山身につけてやがるな。一つぐらい、置いて行けよ」
バズーカ「ロウシュヴァウスト」の砲撃で如意輪観音を正面から狙い撃った。
如意輪観音の胸部でマテリアル波動を乗せて炸裂する砲弾。
動きを予測した上での爆発。
しかし、爆発は如意輪観音の体表に傷を付ける事はできなかった。
金色に輝く体表は、想像よりも装甲が厚いようだ。
「やっぱ、一発だけじゃ壊れもしねぇか」
「やはり来たか。見せもらおう、この地獄と化した世界を守る者か否か」
アーサーの攻撃は如意輪観音へダメージを与える事はできなかったが、足を止める事はできた。
地面へと降り立つ大型歪虚CAM。
建物の越しではあるが、近づけば如意輪観音の威圧感が伝わってくる。
「仏像型CAMとは風流な物よな。ミグもいつかオーダーメイドのCAMを……」
CAM研究者を自認するミグ・ロマイヤー(ka0665)は、如意輪観音の動きを注視していた。
敵の動きに合わせて攻撃を直撃させる為だ。
ダインスレイブ『ヤクト・バウ・TT』は砲撃支援に特化した機体。だからこそ、長距離からの砲撃に強い自信を持っている。
「機体を調査する為じゃ。腕の一本でも置いてゆけっ!」
ヤクト・バウ・TTから発射される試作型対VOIDミサイル「ブリスクラ」。
ミサイルは如意輪観音に向けて飛来。
定められた攻撃目標に向けて一直線で突き進む。
そして、炸裂――。
「む。ブリスクラのプラズマバーストで巻き込んでも大きなダメージにはならぬか」
ミグのモニターには変わらぬままの姿で如意輪観音が立っている。
距離が先程から後方へ移動している。
炸裂する前に後方へ飛んで直撃を免れたようだ。だが、プラズマバーストの範囲内には収まっている。直撃を回避した上、その装甲によって攻撃が阻まれたと考えるべきだろうか。
「巨体に似合わず動きは速い。そして、あの装甲……どうやら、攻撃を集中させた方が良さそうじゃ」
ミグは推測を交え、行動を開始するハンター達へ通信を入れる。
相手は強化人間を連れ去ったと思しき歪虚。
この事件の真相を知る存在。
ならば、多少強引でも口を割らせる他無い。
ハンター達の怒りは、明法へと向けられる。
「冷静の中に憤怒が見え隠れしておる。
だが、まだだ。貴様等の罪深き心をもっと曝け出すがいい」
如意輪観音は、ハンター達の前に立つ。
強化人間失踪事件は、大きな転機を迎えようとしていた。
●
如意輪観音と激突するハンター達であったが、ランカスター周辺では別の場所でも戦闘が開始されていた。
その一つ――ラズモネ・シャングリラは、別の敵からの襲撃を受けていた。
「……よくぞこれだけの敵を集めたものです」
それが鳳城 錬介(ka6053)の率直な感想だった。
ラズモネ・シャングリラの左翼へ飛来したのは、浮遊型狂気の群れ。
小型から中型と大きさが様々な狂気が、多数襲撃してきたのだ。
その傍らにいるのは刻令ゴーレム「Volcanius」『崩天丸』。
ライフル「エトランゼ」を携えてラズモネ・シャングリラの甲板に陣取っていた。
「ウヨウヨ湧いてきたねぇ。これは掃除のし甲斐があるかな」
八島 陽(ka1442)はフライングスレッドに乗って狂気と並走。
フォースリングを嵌めた指を突き出し、マジックアローを放つ。
光るエネルギーが複数発生、小型の狂気を次々と貫いていく。
陽も先程から狂気を片付けているが、一向に減る気配を感じられない。
「早々に片付けなければ、ラズモネ・シャングリラに危険が及びますね」
錬介は崩天丸へ砲撃を指示する。
轟音を上げるは、12ポンド試作ゴーレム砲。
空気を震わせて発射された炸裂弾が、小型狂気の群れを強襲した。
一体一体はそれ程強くない。だが、ラズモネ・シャングリラの左翼に集まった狂気はかなりの数になっている。ハンター達も必死に倒し続けているが、まさに『切りがない』といった状況か。
「皆様、大丈夫ザマスか?」
森山恭子(kz0216)が甲板にいるハンターへ通信を入れてきた。
声の感じからすれば、ハンターの身を案じているのだろう。
だが、ハンター達は幾度も歪虚と戦ってきた猛者ばかり。
陽は恭子を安心させる為、イヤリング「エピキノニア」で答える。
「問題ですよ。主砲の方はどうですか?」
「まだすぐには準備できそうにないザマス。ハンターの皆さんにはもう少し頑張って貰う必要があるザマス」
恭子も陽も、前方から仏像型の歪虚CAMが接近している事は分かっている。
せめて主砲が万全であれば迎撃できるのだが、最終調整に手間取っているようだ。少なくとも主砲が発射されるまでは各地のハンターが時間を稼がなければならない。
「らずもね沈められてたまるかってんだよー!」
グリフォン『クルミン』の背に乗った道元 ガンジ(ka6005)は、空中から狂気の群れを攻撃し続けていた。
ダウンバーストで甲板に迫る狂気の群れへ突撃。風による爆風で小型狂気を弾き飛ばしていく。既に多数の狂気が甲板へ体当たりを仕掛けている。現時点で大きな被害は起きていないが、攻撃が続ければ甲板にも支障が発生する。そうなる前にガンジが群れを襲撃しているのだが――思わぬ事態がここで発生する。・
「!」
「クルミン!」
突如、周囲の狂気達がクルミンに向かって集中攻撃を開始し始める。
先程まで甲板を攻撃していた狂気までもがクルミンを攻撃目標へ定めた様子だ。
それは、クルミンだけではなく、崩天丸にまでも向かい始める。
「崩天丸、下がって」
錬介は崩天丸を守る為、龍弓「シ・ヴリス」から聖書「クルディウス」へ持ち替える。接近する小型狂気を斬り伏せていくが、数が多すぎて捌き切れない。
「な、何事ザマス?」
「まさか、敵は幻獣やゴーレムを優先目標へ切り替えた?」
陽は崩天丸に集まる狂気をアルケミックウィップ「ヤフタレク」で叩き落としていく。
どうやら甲板にいるハンターは狙われていないが、幻獣やゴーレムが存在した場合は攻撃目標とするように仕組まれていたようだ。これも明法の仕業だろう。
「甲板への攻撃は少し軽減されたザマスが、ハンターのお友達が危ないザマス!」
「くそっ! やらせるかよ!」
クルミンを守るべく、ガンジは翼鎌「フロガ・フテラ」を携えて狂気の群れに飛び込んでいった。
●
一方、ラズモネ・シャングリラの右翼では――。
「ま、俺様の超絶スキルの一つ『デスインフェルノブレイザー』なら一撃で全方位の敵を蒸発させちまう事も可能だが……ランカスターも無事じゃすまねぇ。
面倒だが、一体一体潰していくしか無ぇようだな」
R7エクスシア『閻王の盃』で状況を見据えるデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)。
明法が放った歪虚CAMの軍勢。
敵はラズモネ・シャングリラへ向かって進軍している。
甲板に迫る左翼の狂気同様、歪虚CAMも右翼で食い止めなければならない。
「ふん。やはりメインストリートを進むか。市街戦を知らぬか……ならば、俺様が教えてやる」
デスドクロは敵の進軍ルートを予想していた。
歪虚CAMの軍勢が一度に進軍するのであれば、相応に広い道が必要になる。
つまり、ランカスターに走るメインストリートだ。この中でラズモネ・シャングリラへ向かう道に当たりを付けて待ち伏せしていたのだ。
「慌てふためくのなら、もう遅い。そんな暇を与えるつもりはない」
デスドクロは、やや離れた位置から200mm4連カノン砲で歪虚CAMの群れに奇襲を仕掛ける。
地面を抉る爆発。
発射された数発は歪虚CAMを直撃。集団で密集していた事から回避行動を取れなかったと見るべきだろう。
「歪虚CAMと交戦を開始。各機、迎撃を始めて。強化人間の機体を発見したなら、情報を展開」
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)はイヤリング「エピキノニア」で周辺のハンターと情報共有していた。
ラズモネ・シャングリラを攻撃させないのは重要な目的だが、エラにはもう一つの目的があった。歪虚CAMの群れに紛れた新型CAM『コンフェッサー カスタム』――強化人間研究施設『アスガルド』から失踪した強化人間を確保する事だ。
決して殺さず、身柄を拘束する。
それを戦場で成し遂げるには、かなりのリスクを要する。
それでもエラはやり遂げなければならない。
強化人間達をあるべき場所へ帰す為に。
「七竃、炸裂弾。敵正面から右へ僅かにずらした地点。正面の歪虚CAMへ命中はさせても中央付近の敵には命中させないように」
エラは刻令ゴーレム「Volcanius」『七竃』へ砲撃指示を出した。
敵中央への砲撃をかければ、強化人間の機体へ命中する恐れもある。まずは敵の群れをかき回しつつ、コンフェッサーの位置を把握する必要があるのだ。
24ポンドゴーレム砲が、空気を震わせる。
発射された炸裂弾は、霰玉を撒き散らして前方にいた歪虚CAM数体へ命中する。
二方からの砲撃で歪虚CAMは物陰に隠れながら迎撃態勢へ入る。
破壊されたCAMに狂気が取り憑いた存在ではある。反応は鈍いが、取るべき行動は理解しているようだ。
「走るの、リーリー。攪乱して足止めして。子供達を助け出すの!」
ディーナ・フェルミ(ka5843)は、リーリーの背に乗ってメインストリートを走り続けていた。
デスドクロとエラによる砲撃は、確実に歪虚CAMの群れを浮き足立たせた。
ならば、敵の群れへ接近してコンフェッサーを探し出すチャンスだ。
瓦礫を盾に遮蔽物を意識しながら、コンフェッサーの姿を捜し続けるフェルミ。
「目標は……肩に緑色の三本ラインがある機体ですの」
ディーナは恭子から得ていた強化人間の情報を思い返していた。
強化人間のタイラーは間もなく軍へ配備される予定だった少年。アスガルドで行われた戦闘シミュレーターで好成績を収めたらしい。ドゥーン・ヒルで発生したという戦いはディーナも報告書でしか知らないが、油断して良い相手ではない。
それでもディーナはリーリーを走らせる。
タイラーを助け出す為に。
「ディーナっ、後ろだ! 既に回り込まれてるぞ!」
トランシーバーから流れるのは、魔導型ドミニオンに乗る八重樫 敦(kz0056)の声。
反射的に振り返るディーナ。
そこには瓦礫から少しだけ体をずらして射線を確保したコンフェッサーが、脚部のVOIDミサイルを発射した瞬間だった。
「リーリー、走るの!」
リーリーを走らせるディーナ。
間一髪、物陰に滑り込む事に成功。ミサイルは周辺の瓦礫を吹き飛ばすだけに留まった。
爆発が巻き起こした砂埃が晴れる頃、ディーナの目の前には一機のコンフェッサー。
肩には緑色の三本ラインが入っている。
「皆さん、探している子供がいました!」
ディーナのトランシーバを通して、各ハンターに位置が告げられる。
その頃、コンフェッサーの操縦席では――。
「敵、攻撃回避。想定よりも反応速度が20%速い……数値を向上させて再調整……」
強化人間タイラーは、静かに状況を分析していた。
敵の数は、想像よりも多い。
このまま攻撃目標へ向かえば、袋だたきに遭う。
周辺の敵を掃討した後、攻撃目標破壊任務を継続。
タイラーは、周辺のハンター達を探し始めた。
●
「わふー! おっきなきらきらです!」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)は、リーリー『ミーティア』の上で目を輝かせていた。
ミグとはまったく異なる視点で如意輪観音を見つめているようだ。
完全に新しい玩具を見つけた大型犬――ではく、子供のような顔。
屈託の無い笑顔には一切の邪気が感じられない。
「僕、あれ欲しいですー。お土産にするです。はがしたら持って帰れますかね……?」
如意輪観音の中でアルマが特に気に入ったのは六本の手の中で一本が持っている蓮の花であった。
如意輪観音は、六本の手が存在。
それぞれが何かしらの仏具を手にしていた。
如意宝珠。
法輪。
独鈷杵。
錫杖。
蓮の花。
数珠。
おそらくそれらが何らかの攻撃手段もしくは防衛手段である事を、ハンター達は直感していた。しかし、それがどのような効果があるのか。それはまったく手掛かりがない状態であった。
だが、アルマは敢えて前に出る。
気に入った蓮の花をゲットするべく。
「わふぅ! お花、ゲットですー」
アンチボディをかけたアルマは、ミーティアと共に如意輪観音へ近づいていく。
一方、別方向から如意輪観音へ接近する影もあった。
「一蓮托生ね。死なない程度に無茶しましょう、リク」
「こんな所で死なせるヘマはんてしないって」
キヅカ・リク(ka0038)は、高瀬 未悠(ka3199)のイェジド『ルキ』に相乗りする形で如意輪観音へ向かっていた。
リクの傍らにはユグディラ『ペリグリー・チャムチャム』もしっかりとスタンバイしている。
リクと未悠はコンビで強敵へと挑んでいた。
回復と行動阻害治療を担うリク。
如意輪観音へ攻撃を仕掛ける未悠。
二人が共に行動する事で、如意輪観音と対等に渡り合うつもりなのだ。
特に未悠は、背中に温もりを感じるリクを案じていた。
「リク、貴方はこの戦場の生命線よ。リクが落ちたら、戦線も崩壊する。そうならない為にも……私が守るわ」
未悠は、リクに向かって敢えて断言する。
リクを慕う人間は多い。彼らの為にも、ここでリクを失う訳にはいかないのだ。
「バックアップは全部こっちでやる。オフェンス、任せたよ!」
リクは、大きく頷いた。
そんなリクの脳裏には、敵の能力について思案していた。
おそらく行動操作や全方位攻撃を保持している。十分に注意する必要がある。
リク自身、ここで倒れるつもりはないし、未悠が倒れる事があってはならない。
二方向から襲撃を仕掛けるハンター達。
ミーティアに乗るアルマは射程距離に入ると同時に、紺碧の流星を放つ。
巨大な腕に向かって放たれる光。
だが、大きいとはいえ、動いている腕に対して打ち上げで狙い撃つのはやや難しい。直撃はできなかったが、掠める事ができた。それでも威力は折り紙付きだ。
「……やりおる!」
「わぅ? 中にヒトがいるです? あそんでくれるですー?」
明法の声に、アルマは素早く反応する。
どうやら仏像に夢中で明法の存在に気付かなかったようだ。
「未悠、行動阻害を狙ってくる腕を狙って」
「行動阻害ね……って、どの腕?」
リクの指示に、未悠は問い返した。
如意輪観音はまだ特殊な攻撃を行っていない。
行動阻害を司る腕があるとしても、どれか分からないのだ。
「えーと……あの如意宝珠で」
「確証はあるの?」
「無い。ほとんど勘だよ」
リクの勘。
だが、それ以外に頼る物はない。
未悠はルキに獣機銃「テメリダーV3」で攻撃を仕掛けつつ、クラッシュバイトのチャンスを窺う。如意輪観音は10メートルを超えるサイズだ。上の方にある腕に噛みつくとなれば、敵がしゃがまなければならない。
アーサーやミグが仕掛けた攻撃のように、大きなダメージを与えているようには見えない。それでも、ダメージは必ず与えているはずだ。
だが、そうした攻撃をあざ笑うかのように明法は動き出す。
「無情。まさに空しさの極限。愚の骨頂。如意輪観音を前に、かような攻撃なぞっ!」
如意輪観音は、手にしていた錫杖を上に掲げると強く地面を叩いた。
そこから生じるのは強烈な衝撃破。
衝撃の波がランカスターの道路や瓦礫を吹き飛ばしながら、周囲へと広がっていく。
「……! 全方位攻撃。それもただの衝撃破じゃない……未悠っ!」
「分かってる! だけど……」
未悠はルキへ回避を促していた。
だが、周囲から吹き飛ばされた瓦礫が迫っている。
スティールステップで回避すれば?
いや、瓦礫が広範囲過ぎて間に合わない!
「未悠!」
リクは、咄嗟に未悠を突き飛ばした。
そこへ崩れ落ちる瓦礫――。
「わぅわぅ!?」
崩れ落ちる瓦礫の中でアルマも必死にミーティアを走らせる。
だが、逃げ場を塞ぐように落ちてくる瓦礫を前に回避は難しかった。
「哀れなり。これでは、世界を守る獄卒とは呼べぬ」
衝撃破が収まった頃、如意輪観音は瓦礫の中からアルマとミーティアを発見。
明法は、傷を負った一人と一匹に対して容赦なく踏みつけた。
さらに明法はリクと未悠の姿も捜索するが発見できなかったようだ。
「リク、起きてリク!」
リクは、傷だらけのルキに背負われながら後退していた。
その間にも未悠は必死に呼び掛ける。
ペリグリー・チャムチャムも森の午睡の前奏曲で必死に演奏しているが、まだリクの意識は戻らない。
「リクは、私を……。私がリクを守らなきゃいけないのに。守るって、約束したのに……!」
未悠は、悔やんだ。
リクが目覚める事を必死に願うと同時に、未悠は自分自身を責め続けていた。
●
ランカスターの一部が瓦礫と化した。
その間にも如意輪観音に対する攻撃が止む事はなかったが、遠距離からの攻撃がどうしても多くなってしまう。
そんな中、敢えて如意輪観音へ正面から挑む者がいた。
「慈恵院明法とかいったか? 何をどう言うとお前のやった事は、子供達を無駄に戦場へ送り、無駄に子供を死なせているだけだ」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)はイェジド『イレーネ』と共に如意輪観音と対峙した。
その声、その顔には強い怒気が表れている。
臆する気配は無い。
アルトの言葉に明法は興味を抱いたようだ。
「ほう。まさに憤怒の化身。我の前に現れるか」
「お前の目的なんぞどうでいい。ただ、私を怒らせた。だから、全力で殺してやる」
「なら、その怒りは同じように人間へ向かうのであろうな?」
「なに?」
突然、明法から漏れ出た言葉。
アルトは、思わず聞き返した。
「無駄に戦場へ送り、無駄に子供を死なせている。それは我に限らぬ。子供達を戦士へ作り替えた大人達もやっている事は変わらぬ。貴様がその理由で怒るのであれば、その大人達にも同じように怒りを向けるのであろうな?」
先程まで声に余裕を見せていた明法であったが、気付けばその余裕は消え失せていた。
確かに明法は『秘術』を使って強化人間の子供達を失踪させ、ハンター達と戦わせていた。
だが、元を辿れば強化人間の候補を世界中から集め、施術し、訓練していたのは統一地球連合宙軍やムーンリーフ財団などの企業だ。立場は異なれど、子供を戦場で送って死なせるという観点で言えば彼らも同罪ではないか。
「希望を与えた後、訓練を施して戦場へ送り込む。歪虚も人もやっている事は同じよ」
「…………」
「弱者は強者に間引かれる。狂っているのはこの世界。まさに地獄。
だからこそ、我は彼らに使命を与えた。不遇の者達を救済するのだ」
明法は、強化人間達に使命を与える事で『救済』するという。
強化人間とされ、駒として戦場に送られる運命。
戦いの中で心をすり減らしてアスガルドを
弱者であるが故、強者に捕食される。
「もう並べ終わったか?」
「何?」
「御託は並べ終わったかと聞いている。まずはその無駄に多い腕と足を切り飛ばしてダルマにしてやる。こちらの世界では偉い僧侶なんだろう? 貴様も本望だろう」
アルトは、明法の言葉を聞く気はなかった。
ただ、目の前の坊主を容赦なく斬り伏せる。
それが、今のアルトの目的であった。
「良かろう。相手してやる。貴様のような……この世界を守る『賽の河原の鬼』を倒さねば、弱者は永遠に弱者のままだ」
如意輪観音は、アルトに向かって動き出した。
●
ラズモネ・シャングリラの甲板に集まってきた狂気の群れは、ハンター達によって確実に数を減らしつつあった。
数は多いものの、ハンター達が手分けをしながら狂気を駆逐していった事が成功へと繋がっている。
「邪魔なのよ」
マリィア・バルデス(ka5848)は、重魔導バイク「バビエーカ」で甲板を駆け抜けていた。
オフロードタイプの戦闘用魔導バイクであるバビエーカのタイヤを滑らせながら、銃架代わりにして大型魔導銃「オイリアンテMk3」を連射。適確に浮遊型狂気を撃ち抜いていく。
浮遊型狂気は時折目からレーザーを出して攻撃してくるものの、大半は体当たりによる攻撃が主体だった。
この為、動きを読みやすい。狙い撃つには最適な的だ。
「あら。ヨルズが見えなかったから、ドクターストップでもかかったのかと思ったわ」
マリィアの視界に入ってきたのは、機銃砲座で狂気を撃ち落とすジェイミー・ドリスキル(kz0231)の姿だった。
ドリスキルの愛機である戦車型CAM『ヨルズ』は、ムーンリーフ財団に預けて改修中だ。ドリスキルはその状況でも歪虚を倒すべく、ラズモネ・シャングリラの機銃砲座で狂気を迎撃していたという訳だ。
「ああ、なんだマリィアか」
「なんだとは何よ?」
「悪い。昔散々やったシューティングゲームを思い出してた所だ。上から列を成して降りてくるインベーダーを一匹一匹撃ち落としてくってゲームだ」
マリィアの記憶が確かならば、ドリスキルの言っているゲームはかなり古いものだ。
そんなゲームに夢中になっていたかと思うとマリィアは微笑ましくも感じる。
「へぇ、そんな面白そうなゲームがあんのか。なら、オレにもやらせろよ」
ドリスキルの隣にあった機銃砲座に腰掛けたのは玄武坂 光(ka4537)であった。
光もドリスキルとは見知った顔だ。
アスガルドでは強化人間のランディ達と共に訓練を『楽しんだ』仲だ。
「おいおい。今度は光か。今から同窓会でも始めようってぇのか?」
「おっさん、それ強ち間違ってねぇよ。星空の幻もこっちに来てんだよ。『ドリスキルチーム再来』だぜ!」
光の言っているドリスキルチームとは、まさにアスガルドの訓練で同じチームとなった者達の事だ。
本来であれば強化人間のランディ達も一緒のチームだったのだが。
「あの子達は、今もアスガルドのベットの上よね」
マリィアは銃底で近づいた狂気を殴り付けた後、オイリアンテMk3の銃撃を浴びせかける。
地面に転がった狂気は、そのまま霧散していく。
「ああ。今は寝てるがきんちょ共が起きた時に悔しがるぐらいの戦果、出してやろうぜ!」
光は機銃砲座に座ると、一気に前方にいた中型の狂気へ銃弾を叩き込んだ。
ドリスキルとタイミングを合わせてリロードタイミングが重ならないように呼吸を合わせる。
セッションと呼ぶに相応しい戦い方である。
ドリスキルと光が中型狂気を叩き落とし、砲座に近づいた敵をマリィアが駆逐していく。
「バンドだったら、最高の演奏だろうな」
「どうかしら。ボーカルがあなたでなければ良いけど」
テンションが高いドリスキルを前に、マリィアは敢えて水を差した。
●
「はん。軍の命令なんざあたしらには関係ねぇ。ガキ共はぶん殴ってでも連れて帰る。それだけだ」
それがリコ・ブジャルド(ka6450)の率直な言葉だ。
ハンターは、所謂傭兵に近い存在だ。
依頼内容に従って諸問題を片付ける。
依頼主の要望に従うべきであり、外野である軍の命令に従う謂われは無い。
だからこそ、リカは自分の意志に従って動くだけだ。
「エラ、敵が目の前を通過だ。まったく気付いていねぇぞ」
エマに向けてトランシーバによる通信。
R7エクスシア『トラバントII』のユニット用ギリースーツのおかげで、敵の目から逃れる事ができた。幸いにも周辺は建物が崩れて瓦礫が散乱している。隠れる場所も相応に多い。
「そう。だったら、その先の交差点に到達した段階で砲撃を仕掛けるわ」
「了解。連中を慌てさせてやろうぜ」
エマの言う交差点とは現在いる位置から百メートル先の十字路だ。
ちょうど瓦礫が少なく、射線を遮る物は少ない。
十字砲火を浴びせかけるなら、ここが最適だ。
「七竃、炸裂弾の発射を準備。30秒後に着弾させて」
エマは七竃へ指示を出した後、交差点の近くまで移動する。
リコと七竃と連携して三方から挟み込むつもりなのだ。
――そして。
複数の歪虚CAMが交差点へと差し掛かる。
「七竃、今よ」
七竃の24ポンドゴーレム砲が轟音を放つ。
霰玉が撒き散らされ、歪虚CAMへと突き刺さる。
同時にエマは物陰から飛び出した。
「貫け、三散」
エマの前に現れた光の三角形。その頂点から伸びた光が打ち上げの形で歪虚CAMを襲う。
エマもこれだけで敵が倒せるとは思っていない。
重要な事は、ここで敵を狼狽させて後方への注意を忘れさせる事だ。
そこには――。
「へへっ、何処へ行くってぇんだよ!」
ギリースーツを解除してメインストリートへ飛び出したトラバントII。
ガトリングガン「エヴェクサブトスT7」を携えて、一気に敵へと攻めかかる。
大型の機関銃で取り回しは難しい銃だが、瓦礫を銃座にすれば安定する。あとは自慢の連射速度で歪虚CAMを蜂の巣にするだけだ。
「コンフェッサーがいねぇなら、容赦する必要はねぇな。こいつは奢りだ。たっぷり味わえ!」
撃ち出される弾丸は、雨となって歪虚CAMの体を貫いた。
小気味の良い発射音に交じり、目標に命中する音が響き渡る。
気付けば、十字砲火を受けた歪虚CAMは瞬く間に全滅していた。
「楽勝だな」
「まだよ。戦いは終わってない。次の反応は隣の通りね」
「へいへい。さっさと片付けようぜ」
リコは再びギリースーツを作動させた。
●
「行くぞ生臭坊主。貴様の玩具の実力を見せてもらおうか?」
混乱に塗れた右翼の戦場では、不動 シオン(ka5395)がイェジドに跨がってメインストリートを駆け抜けていた。
シオンが望むのは熱いバトルではない。
決して手を取り合うことのない強敵との、ルール無用の残酷な『死闘』である。
「飛べっ!」
シオンは瓦礫を踏み台にしてイェジドをジャンプさせる。
眼下には歪虚CAMが二体。
背後を突く形での強襲だ。歪虚CAMが予想していなかっただろう。
イェジドは歪虚CAMの一体へ飛び掛かると同時にクラッシュバイド。歪虚CAMへのし掛かり、顔面から思い切りかじり付く。
同時にシオンは十文字槍「猛火」による閃火爆砕。
他のハンターによって破損していた歪虚CAMだったが、シオンの一撃を食らった為に地面へと倒れ込んだ。
「またしても歪虚CAMを生身で斬る機会が巡ってくるとは………天は私にもっとゲームを楽しめと告げているようだな」
広いランカスターの戦場において、シオンの体は歓喜に震えていた。
タイラーの身柄を抑える為に他のハンター達はコンフェッサーを止めるよう動いている。この隙にシオンは周辺の歪虚CAMを狩り続けているのだが、歪虚CAMを撃破する度にシオンの血が滾ってくる。
――鉄と狂気の集合体である歪虚CAM。
それに振り下ろした際、衝撃と共に手へ伝わる感触。
その感覚を何度も味わう事ができる。
それも、あの『生臭坊主』のおかげか。
「気に入ったぞ、生臭坊主。歪虚CAMの群れ。それも見渡せば何機も……これ程までに最高のゲームを用意してくれたんだからな」
シオンは再びイェジドを走らせる。
次なる獲物を追い求めて。
●
その頃、ラズモネ・シャングリラ近くでは接近した歪虚CAMを藤堂 小夏(ka5489)が対応していた。
「子供の相手じゃないのは良かったけど……包囲網を抜けられるとこっちへ来るよね」
ガルガリンの操縦席に映し出される周囲の映像。
今の所、タイラーが乗るコンフェッサーらしき機体は見つかっていない。
正直、小夏としても戦いにくいタイラーとは交戦したくない。
いくらタイラーが強化人間として優れていたとしても、それは強化人間としての話だ。幾度も死線を越えて歪虚と対峙してきたハンターから見れば経験も知識も足りていない。
そんなタイラーがハンターの包囲網を抜けて小夏の前に現れたならば、小夏も体を張って止める他無い。
「あのコンフェッサーは、有人……なのですよね。強化人間の彼らが……」
イェジド『ネーヴェ』と共にラズモネ・シャングリラの防衛に就いていた羊谷 めい(ka0669)。
ラズモネ・シャングリラへ集まってくる歪虚CAMを撃破しながら、通信で聞こえてくるコンフェッサーの情報に耳を傾ける。
そんな中で、めいは思い返していた。
子供達と一緒にアスガルドでお菓子を食べた思い出。
あの時は、本当に楽しかった。
誰もが笑っていた。誰もが平和の一時を感じていた。
しかし、その思いでも今は昔。
通信の先にいるコンフェッサーには、あの場にいた子が乗っているのかもしれない。
「でも。来ちゃったら、やるしかないよ」
ふいに小夏はめいを現実へ引き戻した。
ここは戦場。
ラズモネ・シャングリラを護衛するのが二人の役目だ。
ここに強化人間の子が現れて、ラズモネ・シャングリラを傷つけようとするのであれば、二人は全力で止める。
言っても聞かないようであれば、多少力尽くでも止めなければならない。
「そう、そうですよね」
「ラズモネ・シャングリラに向けて歪虚CAM三機が移動中。お願い、誰か止めて」
小夏のトランシーバーから聞こえてくるのは、エラの声。
戦況把握に努めていたエラは、包囲網を突破した歪虚CAMの存在にいち早く気付いた。
既にラズモネ・シャングリラを守る二人がいることも把握している。
「アスガルドで一緒に笑っていた子と戦うなんて、残酷な世界ですね」
「そうだけど、それでも生きて行かなきゃいけないんだ。こんな世界でもね。
……こちら藤堂、了解。今から迎撃に移るわ」
藤堂はガリガリンのレーダーをチェックに入る。
その傍らではめいは寂しそうにネーヴェを見つめていた。
「ここはお願いね、ネーヴェ」
●
ランカスターでの戦闘において、比較的被害が少ない地域はラズモネ・シャングリラの左翼であった。
敵数が多いものの、相応のハンターが尽力していた事。
さらには一部幻獣やゴーレムが的になった事でラズモネ・シャングリラ自体への被害が各段に少なかった事が大きな要因だ。
「マテリアル認証、ピアッサー展開」
叫びと共に放たれるは、八原 篝(ka3104)の魔導機式複合弓「ピアッサー」。
カチリと音を鳴らす歯車。
両翼が開き、ワイヤーが張り詰められる。
八原は移動しながら、素早く狙いを定める。
手には二本の矢。
矢を番え、強く弦を引いた。
「――貫けっ!」
叫びと共に放たれる強烈な矢。
小型狂気の体を貫き、一矢にして小型狂気を地面へと転がした。
だが、これで八原の攻撃が終わるだけではない。
瞬く間に次の矢を番えながら移動を開始している。
序盤に比べれば、敵の数は激減。だが、そうなってからは敵を探し出して駆逐する必要が出てくる。
八原は、その事を考えて壁歩きを駆使しながら確実に敵を葬っている。
「機銃の影に隠れて……いた」
機銃の死角に逃れた敵がいるのではないか。
そう考えていた八原は、敵の姿を捜索。発見すると同時に、敵へ矢の一撃をお見舞いしている。
八原自身にも分かる。
敵は確実に減っている、と。
一方、冷静に対処する八原とは逆に怒りの感情に身を任せる者もいた。
「あの坊主の……綺麗な頭に弾丸を埋め込めてやりたいですね…………っ!!」
普段は無表情な星空の幻(ka6980)だが、その口から漏れるのは過激な言葉であった。
今まで明法が行った事は、絶対に許せるような物ではない。
そこから生まれた怒りを、星空の幻は弾丸に乗せて狂気達へ叩き込んでいく。
「自分がやれることは……全力でやるしかない……!」
気配を感じてその場から回避する星空の幻。
次の瞬間、死角を狙うかのように飛来する中型狂気。
体当たりの形となって、ラズモネ・シャングリラの甲板に衝突する。
星空の幻は中型狂気を見据えると、アサルトライフル「ヴォロンテAC47」を構える。
「坊主の手先……消滅させる……」
引き金を引く星空の幻。
同時に放たれた弾丸はマテリアルによる冷気を纏っている。
狂気の体を穿った弾丸は、冷気によって敵の動きを阻害する。
「チャンス」
八原は、動きが鈍くなった狂気に向けて二つ番えの矢を放つ。
一呼吸置いて突き刺さる二本の矢。
中型狂気は甲板の上に横たわると、そのまま消滅していく。
「大分片付いたわね……ん?」
「この怒り……発散されませんね……」
周辺の狂気を排除して一呼吸を置いた八原であったが、傍らにいた星空の幻の言葉が耳に入ってきた。
顔は無表情なのだが、言葉の中に見え隠れする棘。
おそらく鬱屈した怒りが体の中に眠っているのだろう。
「絶対に……絶対に……この手で…………っ!」
星空の幻は体を震わせる。
坊主への怒りが蓄積するばかり。
八原の目にも良い状況でない事は一目瞭然だ。
「おい、平気……」
「何やってるんだよ、星空の幻」
星空の幻の背後に現れたのは光であった。
光が銃座から離れたという事は、中型狂気の群れを排除できたのだろう。
「あ……」
星空の幻も光の登場に気付いたのだろう。
だが、星空の幻が言葉を紡ぐ前に光はそっと星空の幻の頭に手を乗せた。
光にも怒りの色を感じたのだろう。そっと優しく撫でてやる。
「何を一人で突っ走ってるんだ? あっちにおっさんもいるから、一緒にからかってやろうぜ」
何気ない日常の会話。
だが、怒りに溢れて身を滅ぼすのではないかと思わせた星空の幻には、これが良いのかもしれない。
その証拠に星空の幻の怒りは瞬く間に収まっていく。
「…………うん」
「じゃあ、早速行こうぜ。あのおっさん、隣で見てたが命中率だけはすげぇ高ぇんだよなぁ」
光は星空の幻を連れてドリスキルの方へ歩いて行った。
その姿を見つめていた八原は、そっと胸を撫で下ろす。
「怒りが身を滅ぼすか。頭に血が上ってたら、勝てる相手にも勝てねぇか」
●
「……迷うな、俺」
ジュード・エアハート(ka0410)は、ワイバーン『アナナス』の背で自分にそう言い聞かせていた。
上空から見るランカスターの街は、方々から噴煙が視界に入る。
歪虚CAMとの大きな戦闘だ。被害はある程度やむを得ない。
しかし、被害が大きくなればアスガルドでの保護も難しくなる。
ムーンリーフ財団も企業であり、連合宙軍も世論を無視する事はできない。
被害を最小限に抑える――その為には、子供達を力づくでも止めなければならない。
「手加減して救える程、あの子達は弱くない。だから……今は」
ジュードは、帽子を深く被り直す。
――気持ちを切り替える。
今は、任務に徹する。
目標を『生きたまま確保』する。その為には上空から必要な情報を仲間と共有する必要がある。
「アナナス」
ジュードはアナナスの名を呼んだ。
次の瞬間、アナナスはジュードを背に乗せたまま、一気に行動を下げる。
スピードを出しながら、メインストリートを駆け抜ける。
「歪虚CAMばかり、か」
ジュードの視界に入ってくるのは、物陰に隠れる多数の歪虚CAM。
目標となるコンフェッサーは発見できない。
本当なら、見つからない方が良いのだが。
「きっと、彼らは戦ってしまう。命の限り」
ジュード自身は、先の戦いでそう学んだ。
強化人間達は、植え付けられた目的の為なら自分の命を簡単に捨てる。
だから、万一自分の身に危険が及べば、自爆や捨て身の攻撃に走る事は考えられる。
――そんな事はさせない。
弓が届く範囲なら、その子を妨害して止めてみせる。
それが、ジュードが強く心に誓った事だ。
「アナナス、バレルロール」
アナナスは、飛行しながら体を回転させる。
地上からの対空砲火を避けながら、ジュードは地上に視線を向ける。
そこには肩に緑の三本ラインが入ったコンフェッサーが一機。既に数名のハンターと交戦しているようだ。
「目標を上空から視認。周辺にはコンフェッサーは一機のみ。今戦っている機体を押さえれば、大丈夫」
トランシーバーに向けて報告するジュード。
上空からコンフェッサーの影を追い続けたが、敵軍にはコンフェッサーは一機のみ。
あの一機さえ止められれば、子供達を救う事ができる。
「了解。他のハンターにも優先してコンフェッサーの無力化を打診するわ」
「お願いします。どうか、子供達を……」
返答してきたエラに向かって、ジュードは願った。
現在交戦しているハンター達が、無事に子供達を『助けられる』ように。
●
ジュードが空中でコンフェッサーの姿を視認した頃。
地上では発見されたコンフェッサーへハンター達が攻撃を仕掛けていた。
「……敵出力、更に向上。攻撃力、数%アップ。任務成功確率に影響……」
タイラーは、幾度もシミュレーターで戦闘訓練を受けてきた。
その結果は研究者達も驚嘆するレベルだった。
タイラー自身はその事を気にも留めてなかったが、それが良い評価であった事は理解している。
口には出さないが、強化人間として生きる決意をしたタイラーにとって、それが誇らしい事も理解している。胸を張って良いのだ。自分は誰よりも役立つ存在だ、と。
つい先程――この戦闘が始まる前までは。
「居場所なんて幾らでもあるよ。ただ知らない、知らされていないだけさ」
オファニム『Re:AZ-L』に乗るウーナ(ka1439)は、タイラーのコンフェッサーへ迫っていた。
タイラー以外のコンフェッサーを止める予定だったが、タイラーのコンフェッサー以外は通常の歪虚CAMである事に気付いた。ならば、せめてタイラーのコンフェッサーを足止めするべく動く事を決めた。
居場所で悩むタイラーに、その事を教える為に。
「……くっ。敵前方から射撃。瓦礫に隠れて機体は視認できず」
ウーナはハンドガン「トリニティ」による銃撃をコンフェッサーの前方へ放ち続ける。
狙いはコンフェッサーへ命中させる為ではない。
ラズモネ・シャングリラへ向けて移動する足を止めさせ、進路を塞ぐ事にある。
ウーナはあくまでも救出を重視している。強化人間がタイラーのみであるなら、タイラー救出の為に全力を尽くす。
「このルートからは進めない。……別ルートを模索する」
ウーナの銃撃を前に、タイラーは瓦礫の隙間を縫って移動する事にしたようだ。
このままウーナに正面から挑んだとしてもラズモネ・シャングリラまで到達できる可能性は低いと考えたのだろう。
――それでいい。その行動が救出までの第一歩になる。
「まずは成功かな。後は、あの子を孤立させる為に……他の歪虚CAMは片付けないとね」
ウーナは末那識で周辺にいる歪虚CAMを探り始めた。
タイラーが取らされたルート。
それはウーナによって誘導されていた物であった。
アスガルドのシミュレーターでは取り得ない動き。
幾度もの戦いを経て身につけたハンター間の連携が為し得た行動でもある。
「……敵母艦到着予定時刻を修正。二十分のロスが発生」
タイラーは、肩で息をしている事に自身で気付いていなかった。
戦場において精神的に追い込まれつつある状況。
それでもタイラーは進む以外の選択肢はない。
ここで戦う事ができなくなれば、自分の居場所を失う事になる。
――不要品。
使えなくなれば、捨てられるだけ。
それだけは、絶対に避けたい。
「……敵襲! 後方から」
モニターへ映し出された敵影。
現れたのは後方。瓦礫に紛れていつの間にか回り込まれていたのか。
反射的に振り返るタイラーのコンフェッサー。
しかし、そこにあったのはマテリアルバルーンであった。
「やっぱりだ。あんた、戦場で戦った事はないな?」
再びタイラーの背後に機体反応。
そこにはアニス・テスタロッサ(ka0141)のコンフェッサー『キマリス・ラーミナ』が立っている。
反撃の為、再度反転を試みるタイラー。
だが、アニスはその反撃を黙って見守る程お人好しではない。
タイラーのコンフェッサー目掛けてマテリアルフィスト。
Mショットナックル「ペルセヴェランテ」がコンフェッサーの胴体部分に直撃する。
「うわっ!」
激しく揺れるタイラーの機体。
容赦なく叩き込まれた一撃が、操縦席でアラームを打ち鳴らす。
「敵の攻撃が直撃……一部計器が損傷。だけど……」
タイラーはコンフェッサーの被害状況を再度チェックする。
こうしている間にもアニスは開いた距離を利用して魔導銃「アウクトル」で畳み掛ける。
銃弾がコンフェッサーの左腕に直撃。
間接部分に激しいスパーク。操縦系に異常が発生したようだ。
「まだ、まだやれる。戦えない訳じゃ……」
「そういう風にダメージを与えられているって気付かないのか?」
タイラーの心を切り裂くように現実を突き付けるアニス。
確かにタイラーのコンフェッサーは、完全に戦闘不能になった訳ではない。
右腕は残っている。バランサーに異常はあるが、立つ事はできる。
それはアニスがそうなるようにダメージを与えていたからだ。
タイラーを生きて保護するには、タイラー本人を負傷させないように戦う必要があったからだ。
「居場所を奪うだけじゃなく……愚弄するのか」
「力の差を見せ付ける形にはなったな。一人で戦うあんたじゃ、仲間と一緒に戦う俺達には勝てない」
「…………」
「そもそも、あんたが今いる場所は本当に居るべき場所なのか?」
居るべき場所。
そのアニスの言葉がタイラーに突き刺さる。
自分の居場所は、本当にここなのか。
そんな風に考えた事はなかった。
疑問を持つ事は、とうの昔に諦めたから。
「そうかもしれない。だけど……もう遅い。敵にこの機体は渡さない」
「自爆か? それを予想していないと思ってたのか?」
アニスは聞かれていた。
強化人間達が自滅する可能性を。
それを一番危惧していたハンターが、タイラーに向かって飛来する。
「アナナス、ファイアブレス!」
コンフェッサーへ急降下したジュードは、アナナスへファイアブレスを指示する。
炎に見舞われるコンフェッサー。
さらに聖弓「ルドラ」による妨害射撃で脚部の関節部分を狙う。
矢が直撃したと同時に、コンフェッサーは大きくバランスを崩して倒れ込んだ。
「死なせない、絶対に」
「自爆させないつもりか……」
「当たり前だ。俺達の前じゃ、そんな事は絶対にさせねぇ」
倒れるコンフェッサーを見下ろすようにキマリス・ラーミナは立っていた。
圧倒的な力を持って、タイラーのコンフェッサーを制圧した瞬間だった。
●
「己が万能と傲る仏なんざ、機体であれど……ヒトにも劣る、畜生じゃ」
明法の如意輪観音を前にASU-R-0028(ka6956)は、攻撃のチャンスを窺っていた。
既に他のハンターと戦闘中の明法であるが、一撃を叩き込んで形勢逆転を狙う。
正々堂々。あの畜生にそんな言葉は必要ない。
ただ、歪虚として存在するのであれば、徹底的に叩くだけだ。
「畜生か。言ってくれる。ならば、貴様はこの世界を守る小鬼よ。弱者を食い物にするのは我と変わらぬ」
「抜かせ!」
魔導アーマー「プラヴァー」『羅刹ノ甲』に乗り、機会を窺っていたASU-R-0028。
隙を突いて飛び上がり、下段にある腕に向かって斬魔刀「祢々切丸」を振り下ろす。
だが、重さを利用しても斬り落とすまでには至らない。
考えてみれば、ハンター達の間で腕を狙う作戦ではあったものの、どの腕を集中で狙うかがまとまっていなかった。この為、腕を狙うにしてもそれぞれの腕にダメージが与えられた状況であった。
これではASU-R-0028の力で叩き落とす事は難しい。
「小鬼が果敢に挑むか。ならば、褒美を取らせてやろう」
そう言うなり、如意輪観音は数珠を手にして腕を掲げて打ち鳴らす。
次の瞬間、ASU-R-0028の周辺に黒いオーラが纏わり付く。
ASU-R-0028は危機を感じて逃れようとするが、もう遅い。
「く、動けぬ」
黒いオーラが纏わり付き、うまく機体を動かす事ができない。
その間に如意輪観音は羅刹ノ甲へ近づいてくる。
「如意輪観音に死角はない。このまま三途の川へ沈むがいい」
独鈷杵を振りかぶる如意輪観音。
禍々しいオーラが集まってくる。
あれを振り下ろす気だ――ASU-R-0028も、それを察していた。
だが、それは別の形で阻止される。
「何処を見ている!」
飛花・焔で残像を残しながら加速するアルト。
手には剛刀「大輪一文字」が握られている。
「あの獄卒か!」
明法は瞬時にアルトの一撃を独鈷杵の刃で迎撃する。
空渡で駆け抜けたアルトは、そのまま大輪一文字を振り抜いた。
衝突。
同時に独鈷杵から消失するオーラ。
次の瞬間、大きな爆発が発生した。
「ぬぅ! 何という一撃か! 地獄を守るだけはある」
「…………ここが地獄だろうと何だろうと関係ない。ここでお前を殺すだけだ」
爆風で吹き飛ばされたアルトだったが、直様立ち上がる。
明法をこの手で葬るために――。
●
「まじかよ……」
アーサーは明法の持つ能力を攻撃しながら確認していた。
攻撃する事で防御力の高さに驚かされた。だが、それ以上に恐ろしいのは各腕に備わった能力だ。
錫杖 → 衝撃破による範囲攻撃(吹き飛ばし能力あり)
数珠 → 対象へ行動阻害
独鈷杵 → 爆発系の攻撃である可能性がある
すべての能力が判明している訳ではないが、これだけでもかなり厄介だ。
更にまだ能力を隠し持っていると考えれば、あの仏像を倒すには作戦を練る必要がありそうだ。
「だけどよ……ここで諦められるかよ!」
アーサーはドゥン・スタリオンによる刺突一閃。
試作CAMブレード「KOJI-LAW」で強烈な突きを繰り出した。
刃は数珠を握った腕を貫いた。先程までアルトが叩いていた腕だ。うまく命中すれば腕は破壊できない訳ではないようだ。
――だが。
「傷を付けて喜んでいるか。だが、お前達が相手をしているのは如意輪観音だ」
明法は蓮の花を掲げた。
次の瞬間、アーサーが開けた穴は瞬く間に修復していく。
さらに傷を負っていたと思しき箇所も次々と塞がっていく。
「やっぱり回復能力までありやがったか」
「当然だ。この地獄を破壊して救済する為に来たのだ。このぐらいの力は有している」
明法の自信。
それはこの如意輪観音の性能からも来ているのだろう。
「貴様等の戦いは、まさにこの地獄を守らんとする鬼そのもの。なればこそ、我らの相手となる価値はある。貴様等を越えてこそ、弱者は救済される」
「訳分からねぇ事を言ってるんじゃねぇぞ。何が弱者だ! お前等がやってる事は弱者イジメそのものじゃねぇか!」
アーサーは反論せずにはいられなかった。
だが、明法も理解してもらおうとは思っていない。
「理解させるつもりはない。必ず貴様等を屠り、地獄を終わらせる。
ここより相応しい場所でな」
「なに?」
聞き返すアーサー。
同時にトランシーバーから聞こえる恭子の声。
「主砲の準備ができたザマス! あの仏像に向けて発射するザマス!」
ラズモネ・シャングリラの主砲が発射可能となったようだ。
それを察したのか、明法は振り返ると背面のブースターを稼働させる。
「考えよ。誰が本当の強者なのかを」
主砲の一撃が発射される頃、如意輪観音は既に遠くへ飛び去った後だった。
●
明法の能力を一部確認。強化人間タイラーの保護。
タイラーはその後意識を無くしてしまったが、それでも充分な成果である。
だが、中継を見ていたトモネの顔は優れない。
「総帥」
その表情を案じたユーキは、そっと声をかける。
しかし、その言葉にトモネは気付かない。
「私が弱者を虐げているだと。そんなつもりは……」
明法の言葉。
『子供達を戦士へ作り替えた大人達もやっている事は変わらぬ。貴様がその理由で怒るのであれば、その大人達にも同じように怒りを向けるのであろうな?』
その大人にはトモネも含まれる。
弱者である子供達は強化人間にされて戦場へ送られる。
すべては強者である大人が自らの身を守る為。
なら、弱者と強者とは何か。
この構図を形作る世界とは何か。
トモネの中で様々な事が駆け巡る。
「総帥。お気を確かに。敵の甘言に惑わされてはなりません。今は戦場の後始末をしなければなりません」
「……かも、しれぬな。
あの明法とやらを探し出せ。絶対に。VOIDだろうと財団を敵に回した事、教えてやらねばなるまい」
様々な禍根を残したランカスター戦は、こうして幕を閉じた。
明法は、必ずまた現れる。
地獄を終わらせ、救済を成し遂げると称して――。
ムーンリーフ財団トモネ・ムーンリーフの執務室へ急遽設置されたモニターには、ランカスターでの戦闘が映像として流れていた。
「総帥。中継車は出していますが、クルーに危険が及べば……」
「分かっている。だが、こうしている間にもアスガルドの子供達とハンター達が命を賭して戦っている。本来であれば、私自らランカスターへ赴くべきだ」
補佐兼世話役のユーキ・ソリアーノを前にトモネは語気を強めて反論した。
強化人間にならなければ、あの子達はこのような事にはならなかった。
誰があの子達をアスガルドへ連れてきたのか。
それは――トモネ自身だ。
トモネが承認してあの子達は強化人間となるべくアスガルドへやってきた。
では、この事態はトモネが原因なのか?
自問自答を繰り返すトモネ。
だが、こうしている間、無情にも時間は過ぎていく。
「いけません。総帥に何かあれば財団全体の問題となります。
……それは、ご理解いただいておりますよね?」
その焦りと不安に混じる感情を胸に、トモネは戦いの様子をモニター越しで見つめていた。
本当ならば、現地へ赴きたい。
しかし、総帥としての責務もある。
自らの身を危険に晒す訳にはいかない。
その妥協点が中継車による放送であった。
「分かっている。分かっているとも!
だが、私は知らなければならぬ。
あの子達が、何故……連れ去られねばならなかったのか。それを知る責任が、私にはある」
トモネは、食い入るようにモニターを凝視する。
そこでは歪虚と命を張って戦い続けるハンターが映し出されていた。
●
別名『首くくりの街』――ランカスターで激突するハンターと強化人間。
その戦闘の最中に現れるのは、強化人間失踪事件の首謀者であった。
「正と邪が混じりし混沌の世を守らんが為、現れたか。さて、彼の者は痴れ者か。それとも……」
慈恵院明法と名乗る歪虚は、歪虚CAM『如意輪観音』の背部ブースターを全開にする。
噴出する炎は、推進力を生み出して巨大な仏像を一気に前へと押し進める。
動き出す巨体。
しかし、ハンター達もその行動を黙って見過ごす訳にはいかない。
「よく分からねぇ勝手な理屈で活動するエセ宗教家って感じだぜ」
魔導型デュミナス『ドゥン・スタリオン』で如意輪観音行く手を阻んだアーサー・ホーガン(ka0471)。
如意輪観音の攻撃目標はラズモネ・シャングリラ。
CAMよりも巨大な上、攻撃方法も不明な敵を接近させればラズモネ・シャングリラの危機は間違いない。
ドゥン・スタリオンにも危険はあるが、アーサーは機体を屈ませて建物の傍から砲撃を浴びせかける。
「アクセサリを沢山身につけてやがるな。一つぐらい、置いて行けよ」
バズーカ「ロウシュヴァウスト」の砲撃で如意輪観音を正面から狙い撃った。
如意輪観音の胸部でマテリアル波動を乗せて炸裂する砲弾。
動きを予測した上での爆発。
しかし、爆発は如意輪観音の体表に傷を付ける事はできなかった。
金色に輝く体表は、想像よりも装甲が厚いようだ。
「やっぱ、一発だけじゃ壊れもしねぇか」
「やはり来たか。見せもらおう、この地獄と化した世界を守る者か否か」
アーサーの攻撃は如意輪観音へダメージを与える事はできなかったが、足を止める事はできた。
地面へと降り立つ大型歪虚CAM。
建物の越しではあるが、近づけば如意輪観音の威圧感が伝わってくる。
「仏像型CAMとは風流な物よな。ミグもいつかオーダーメイドのCAMを……」
CAM研究者を自認するミグ・ロマイヤー(ka0665)は、如意輪観音の動きを注視していた。
敵の動きに合わせて攻撃を直撃させる為だ。
ダインスレイブ『ヤクト・バウ・TT』は砲撃支援に特化した機体。だからこそ、長距離からの砲撃に強い自信を持っている。
「機体を調査する為じゃ。腕の一本でも置いてゆけっ!」
ヤクト・バウ・TTから発射される試作型対VOIDミサイル「ブリスクラ」。
ミサイルは如意輪観音に向けて飛来。
定められた攻撃目標に向けて一直線で突き進む。
そして、炸裂――。
「む。ブリスクラのプラズマバーストで巻き込んでも大きなダメージにはならぬか」
ミグのモニターには変わらぬままの姿で如意輪観音が立っている。
距離が先程から後方へ移動している。
炸裂する前に後方へ飛んで直撃を免れたようだ。だが、プラズマバーストの範囲内には収まっている。直撃を回避した上、その装甲によって攻撃が阻まれたと考えるべきだろうか。
「巨体に似合わず動きは速い。そして、あの装甲……どうやら、攻撃を集中させた方が良さそうじゃ」
ミグは推測を交え、行動を開始するハンター達へ通信を入れる。
相手は強化人間を連れ去ったと思しき歪虚。
この事件の真相を知る存在。
ならば、多少強引でも口を割らせる他無い。
ハンター達の怒りは、明法へと向けられる。
「冷静の中に憤怒が見え隠れしておる。
だが、まだだ。貴様等の罪深き心をもっと曝け出すがいい」
如意輪観音は、ハンター達の前に立つ。
強化人間失踪事件は、大きな転機を迎えようとしていた。
●
如意輪観音と激突するハンター達であったが、ランカスター周辺では別の場所でも戦闘が開始されていた。
その一つ――ラズモネ・シャングリラは、別の敵からの襲撃を受けていた。
「……よくぞこれだけの敵を集めたものです」
それが鳳城 錬介(ka6053)の率直な感想だった。
ラズモネ・シャングリラの左翼へ飛来したのは、浮遊型狂気の群れ。
小型から中型と大きさが様々な狂気が、多数襲撃してきたのだ。
その傍らにいるのは刻令ゴーレム「Volcanius」『崩天丸』。
ライフル「エトランゼ」を携えてラズモネ・シャングリラの甲板に陣取っていた。
「ウヨウヨ湧いてきたねぇ。これは掃除のし甲斐があるかな」
八島 陽(ka1442)はフライングスレッドに乗って狂気と並走。
フォースリングを嵌めた指を突き出し、マジックアローを放つ。
光るエネルギーが複数発生、小型の狂気を次々と貫いていく。
陽も先程から狂気を片付けているが、一向に減る気配を感じられない。
「早々に片付けなければ、ラズモネ・シャングリラに危険が及びますね」
錬介は崩天丸へ砲撃を指示する。
轟音を上げるは、12ポンド試作ゴーレム砲。
空気を震わせて発射された炸裂弾が、小型狂気の群れを強襲した。
一体一体はそれ程強くない。だが、ラズモネ・シャングリラの左翼に集まった狂気はかなりの数になっている。ハンター達も必死に倒し続けているが、まさに『切りがない』といった状況か。
「皆様、大丈夫ザマスか?」
森山恭子(kz0216)が甲板にいるハンターへ通信を入れてきた。
声の感じからすれば、ハンターの身を案じているのだろう。
だが、ハンター達は幾度も歪虚と戦ってきた猛者ばかり。
陽は恭子を安心させる為、イヤリング「エピキノニア」で答える。
「問題ですよ。主砲の方はどうですか?」
「まだすぐには準備できそうにないザマス。ハンターの皆さんにはもう少し頑張って貰う必要があるザマス」
恭子も陽も、前方から仏像型の歪虚CAMが接近している事は分かっている。
せめて主砲が万全であれば迎撃できるのだが、最終調整に手間取っているようだ。少なくとも主砲が発射されるまでは各地のハンターが時間を稼がなければならない。
「らずもね沈められてたまるかってんだよー!」
グリフォン『クルミン』の背に乗った道元 ガンジ(ka6005)は、空中から狂気の群れを攻撃し続けていた。
ダウンバーストで甲板に迫る狂気の群れへ突撃。風による爆風で小型狂気を弾き飛ばしていく。既に多数の狂気が甲板へ体当たりを仕掛けている。現時点で大きな被害は起きていないが、攻撃が続ければ甲板にも支障が発生する。そうなる前にガンジが群れを襲撃しているのだが――思わぬ事態がここで発生する。・
「!」
「クルミン!」
突如、周囲の狂気達がクルミンに向かって集中攻撃を開始し始める。
先程まで甲板を攻撃していた狂気までもがクルミンを攻撃目標へ定めた様子だ。
それは、クルミンだけではなく、崩天丸にまでも向かい始める。
「崩天丸、下がって」
錬介は崩天丸を守る為、龍弓「シ・ヴリス」から聖書「クルディウス」へ持ち替える。接近する小型狂気を斬り伏せていくが、数が多すぎて捌き切れない。
「な、何事ザマス?」
「まさか、敵は幻獣やゴーレムを優先目標へ切り替えた?」
陽は崩天丸に集まる狂気をアルケミックウィップ「ヤフタレク」で叩き落としていく。
どうやら甲板にいるハンターは狙われていないが、幻獣やゴーレムが存在した場合は攻撃目標とするように仕組まれていたようだ。これも明法の仕業だろう。
「甲板への攻撃は少し軽減されたザマスが、ハンターのお友達が危ないザマス!」
「くそっ! やらせるかよ!」
クルミンを守るべく、ガンジは翼鎌「フロガ・フテラ」を携えて狂気の群れに飛び込んでいった。
●
一方、ラズモネ・シャングリラの右翼では――。
「ま、俺様の超絶スキルの一つ『デスインフェルノブレイザー』なら一撃で全方位の敵を蒸発させちまう事も可能だが……ランカスターも無事じゃすまねぇ。
面倒だが、一体一体潰していくしか無ぇようだな」
R7エクスシア『閻王の盃』で状況を見据えるデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)。
明法が放った歪虚CAMの軍勢。
敵はラズモネ・シャングリラへ向かって進軍している。
甲板に迫る左翼の狂気同様、歪虚CAMも右翼で食い止めなければならない。
「ふん。やはりメインストリートを進むか。市街戦を知らぬか……ならば、俺様が教えてやる」
デスドクロは敵の進軍ルートを予想していた。
歪虚CAMの軍勢が一度に進軍するのであれば、相応に広い道が必要になる。
つまり、ランカスターに走るメインストリートだ。この中でラズモネ・シャングリラへ向かう道に当たりを付けて待ち伏せしていたのだ。
「慌てふためくのなら、もう遅い。そんな暇を与えるつもりはない」
デスドクロは、やや離れた位置から200mm4連カノン砲で歪虚CAMの群れに奇襲を仕掛ける。
地面を抉る爆発。
発射された数発は歪虚CAMを直撃。集団で密集していた事から回避行動を取れなかったと見るべきだろう。
「歪虚CAMと交戦を開始。各機、迎撃を始めて。強化人間の機体を発見したなら、情報を展開」
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)はイヤリング「エピキノニア」で周辺のハンターと情報共有していた。
ラズモネ・シャングリラを攻撃させないのは重要な目的だが、エラにはもう一つの目的があった。歪虚CAMの群れに紛れた新型CAM『コンフェッサー カスタム』――強化人間研究施設『アスガルド』から失踪した強化人間を確保する事だ。
決して殺さず、身柄を拘束する。
それを戦場で成し遂げるには、かなりのリスクを要する。
それでもエラはやり遂げなければならない。
強化人間達をあるべき場所へ帰す為に。
「七竃、炸裂弾。敵正面から右へ僅かにずらした地点。正面の歪虚CAMへ命中はさせても中央付近の敵には命中させないように」
エラは刻令ゴーレム「Volcanius」『七竃』へ砲撃指示を出した。
敵中央への砲撃をかければ、強化人間の機体へ命中する恐れもある。まずは敵の群れをかき回しつつ、コンフェッサーの位置を把握する必要があるのだ。
24ポンドゴーレム砲が、空気を震わせる。
発射された炸裂弾は、霰玉を撒き散らして前方にいた歪虚CAM数体へ命中する。
二方からの砲撃で歪虚CAMは物陰に隠れながら迎撃態勢へ入る。
破壊されたCAMに狂気が取り憑いた存在ではある。反応は鈍いが、取るべき行動は理解しているようだ。
「走るの、リーリー。攪乱して足止めして。子供達を助け出すの!」
ディーナ・フェルミ(ka5843)は、リーリーの背に乗ってメインストリートを走り続けていた。
デスドクロとエラによる砲撃は、確実に歪虚CAMの群れを浮き足立たせた。
ならば、敵の群れへ接近してコンフェッサーを探し出すチャンスだ。
瓦礫を盾に遮蔽物を意識しながら、コンフェッサーの姿を捜し続けるフェルミ。
「目標は……肩に緑色の三本ラインがある機体ですの」
ディーナは恭子から得ていた強化人間の情報を思い返していた。
強化人間のタイラーは間もなく軍へ配備される予定だった少年。アスガルドで行われた戦闘シミュレーターで好成績を収めたらしい。ドゥーン・ヒルで発生したという戦いはディーナも報告書でしか知らないが、油断して良い相手ではない。
それでもディーナはリーリーを走らせる。
タイラーを助け出す為に。
「ディーナっ、後ろだ! 既に回り込まれてるぞ!」
トランシーバーから流れるのは、魔導型ドミニオンに乗る八重樫 敦(kz0056)の声。
反射的に振り返るディーナ。
そこには瓦礫から少しだけ体をずらして射線を確保したコンフェッサーが、脚部のVOIDミサイルを発射した瞬間だった。
「リーリー、走るの!」
リーリーを走らせるディーナ。
間一髪、物陰に滑り込む事に成功。ミサイルは周辺の瓦礫を吹き飛ばすだけに留まった。
爆発が巻き起こした砂埃が晴れる頃、ディーナの目の前には一機のコンフェッサー。
肩には緑色の三本ラインが入っている。
「皆さん、探している子供がいました!」
ディーナのトランシーバを通して、各ハンターに位置が告げられる。
その頃、コンフェッサーの操縦席では――。
「敵、攻撃回避。想定よりも反応速度が20%速い……数値を向上させて再調整……」
強化人間タイラーは、静かに状況を分析していた。
敵の数は、想像よりも多い。
このまま攻撃目標へ向かえば、袋だたきに遭う。
周辺の敵を掃討した後、攻撃目標破壊任務を継続。
タイラーは、周辺のハンター達を探し始めた。
●
「わふー! おっきなきらきらです!」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)は、リーリー『ミーティア』の上で目を輝かせていた。
ミグとはまったく異なる視点で如意輪観音を見つめているようだ。
完全に新しい玩具を見つけた大型犬――ではく、子供のような顔。
屈託の無い笑顔には一切の邪気が感じられない。
「僕、あれ欲しいですー。お土産にするです。はがしたら持って帰れますかね……?」
如意輪観音の中でアルマが特に気に入ったのは六本の手の中で一本が持っている蓮の花であった。
如意輪観音は、六本の手が存在。
それぞれが何かしらの仏具を手にしていた。
如意宝珠。
法輪。
独鈷杵。
錫杖。
蓮の花。
数珠。
おそらくそれらが何らかの攻撃手段もしくは防衛手段である事を、ハンター達は直感していた。しかし、それがどのような効果があるのか。それはまったく手掛かりがない状態であった。
だが、アルマは敢えて前に出る。
気に入った蓮の花をゲットするべく。
「わふぅ! お花、ゲットですー」
アンチボディをかけたアルマは、ミーティアと共に如意輪観音へ近づいていく。
一方、別方向から如意輪観音へ接近する影もあった。
「一蓮托生ね。死なない程度に無茶しましょう、リク」
「こんな所で死なせるヘマはんてしないって」
キヅカ・リク(ka0038)は、高瀬 未悠(ka3199)のイェジド『ルキ』に相乗りする形で如意輪観音へ向かっていた。
リクの傍らにはユグディラ『ペリグリー・チャムチャム』もしっかりとスタンバイしている。
リクと未悠はコンビで強敵へと挑んでいた。
回復と行動阻害治療を担うリク。
如意輪観音へ攻撃を仕掛ける未悠。
二人が共に行動する事で、如意輪観音と対等に渡り合うつもりなのだ。
特に未悠は、背中に温もりを感じるリクを案じていた。
「リク、貴方はこの戦場の生命線よ。リクが落ちたら、戦線も崩壊する。そうならない為にも……私が守るわ」
未悠は、リクに向かって敢えて断言する。
リクを慕う人間は多い。彼らの為にも、ここでリクを失う訳にはいかないのだ。
「バックアップは全部こっちでやる。オフェンス、任せたよ!」
リクは、大きく頷いた。
そんなリクの脳裏には、敵の能力について思案していた。
おそらく行動操作や全方位攻撃を保持している。十分に注意する必要がある。
リク自身、ここで倒れるつもりはないし、未悠が倒れる事があってはならない。
二方向から襲撃を仕掛けるハンター達。
ミーティアに乗るアルマは射程距離に入ると同時に、紺碧の流星を放つ。
巨大な腕に向かって放たれる光。
だが、大きいとはいえ、動いている腕に対して打ち上げで狙い撃つのはやや難しい。直撃はできなかったが、掠める事ができた。それでも威力は折り紙付きだ。
「……やりおる!」
「わぅ? 中にヒトがいるです? あそんでくれるですー?」
明法の声に、アルマは素早く反応する。
どうやら仏像に夢中で明法の存在に気付かなかったようだ。
「未悠、行動阻害を狙ってくる腕を狙って」
「行動阻害ね……って、どの腕?」
リクの指示に、未悠は問い返した。
如意輪観音はまだ特殊な攻撃を行っていない。
行動阻害を司る腕があるとしても、どれか分からないのだ。
「えーと……あの如意宝珠で」
「確証はあるの?」
「無い。ほとんど勘だよ」
リクの勘。
だが、それ以外に頼る物はない。
未悠はルキに獣機銃「テメリダーV3」で攻撃を仕掛けつつ、クラッシュバイトのチャンスを窺う。如意輪観音は10メートルを超えるサイズだ。上の方にある腕に噛みつくとなれば、敵がしゃがまなければならない。
アーサーやミグが仕掛けた攻撃のように、大きなダメージを与えているようには見えない。それでも、ダメージは必ず与えているはずだ。
だが、そうした攻撃をあざ笑うかのように明法は動き出す。
「無情。まさに空しさの極限。愚の骨頂。如意輪観音を前に、かような攻撃なぞっ!」
如意輪観音は、手にしていた錫杖を上に掲げると強く地面を叩いた。
そこから生じるのは強烈な衝撃破。
衝撃の波がランカスターの道路や瓦礫を吹き飛ばしながら、周囲へと広がっていく。
「……! 全方位攻撃。それもただの衝撃破じゃない……未悠っ!」
「分かってる! だけど……」
未悠はルキへ回避を促していた。
だが、周囲から吹き飛ばされた瓦礫が迫っている。
スティールステップで回避すれば?
いや、瓦礫が広範囲過ぎて間に合わない!
「未悠!」
リクは、咄嗟に未悠を突き飛ばした。
そこへ崩れ落ちる瓦礫――。
「わぅわぅ!?」
崩れ落ちる瓦礫の中でアルマも必死にミーティアを走らせる。
だが、逃げ場を塞ぐように落ちてくる瓦礫を前に回避は難しかった。
「哀れなり。これでは、世界を守る獄卒とは呼べぬ」
衝撃破が収まった頃、如意輪観音は瓦礫の中からアルマとミーティアを発見。
明法は、傷を負った一人と一匹に対して容赦なく踏みつけた。
さらに明法はリクと未悠の姿も捜索するが発見できなかったようだ。
「リク、起きてリク!」
リクは、傷だらけのルキに背負われながら後退していた。
その間にも未悠は必死に呼び掛ける。
ペリグリー・チャムチャムも森の午睡の前奏曲で必死に演奏しているが、まだリクの意識は戻らない。
「リクは、私を……。私がリクを守らなきゃいけないのに。守るって、約束したのに……!」
未悠は、悔やんだ。
リクが目覚める事を必死に願うと同時に、未悠は自分自身を責め続けていた。
●
ランカスターの一部が瓦礫と化した。
その間にも如意輪観音に対する攻撃が止む事はなかったが、遠距離からの攻撃がどうしても多くなってしまう。
そんな中、敢えて如意輪観音へ正面から挑む者がいた。
「慈恵院明法とかいったか? 何をどう言うとお前のやった事は、子供達を無駄に戦場へ送り、無駄に子供を死なせているだけだ」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)はイェジド『イレーネ』と共に如意輪観音と対峙した。
その声、その顔には強い怒気が表れている。
臆する気配は無い。
アルトの言葉に明法は興味を抱いたようだ。
「ほう。まさに憤怒の化身。我の前に現れるか」
「お前の目的なんぞどうでいい。ただ、私を怒らせた。だから、全力で殺してやる」
「なら、その怒りは同じように人間へ向かうのであろうな?」
「なに?」
突然、明法から漏れ出た言葉。
アルトは、思わず聞き返した。
「無駄に戦場へ送り、無駄に子供を死なせている。それは我に限らぬ。子供達を戦士へ作り替えた大人達もやっている事は変わらぬ。貴様がその理由で怒るのであれば、その大人達にも同じように怒りを向けるのであろうな?」
先程まで声に余裕を見せていた明法であったが、気付けばその余裕は消え失せていた。
確かに明法は『秘術』を使って強化人間の子供達を失踪させ、ハンター達と戦わせていた。
だが、元を辿れば強化人間の候補を世界中から集め、施術し、訓練していたのは統一地球連合宙軍やムーンリーフ財団などの企業だ。立場は異なれど、子供を戦場で送って死なせるという観点で言えば彼らも同罪ではないか。
「希望を与えた後、訓練を施して戦場へ送り込む。歪虚も人もやっている事は同じよ」
「…………」
「弱者は強者に間引かれる。狂っているのはこの世界。まさに地獄。
だからこそ、我は彼らに使命を与えた。不遇の者達を救済するのだ」
明法は、強化人間達に使命を与える事で『救済』するという。
強化人間とされ、駒として戦場に送られる運命。
戦いの中で心をすり減らしてアスガルドを
弱者であるが故、強者に捕食される。
「もう並べ終わったか?」
「何?」
「御託は並べ終わったかと聞いている。まずはその無駄に多い腕と足を切り飛ばしてダルマにしてやる。こちらの世界では偉い僧侶なんだろう? 貴様も本望だろう」
アルトは、明法の言葉を聞く気はなかった。
ただ、目の前の坊主を容赦なく斬り伏せる。
それが、今のアルトの目的であった。
「良かろう。相手してやる。貴様のような……この世界を守る『賽の河原の鬼』を倒さねば、弱者は永遠に弱者のままだ」
如意輪観音は、アルトに向かって動き出した。
●
ラズモネ・シャングリラの甲板に集まってきた狂気の群れは、ハンター達によって確実に数を減らしつつあった。
数は多いものの、ハンター達が手分けをしながら狂気を駆逐していった事が成功へと繋がっている。
「邪魔なのよ」
マリィア・バルデス(ka5848)は、重魔導バイク「バビエーカ」で甲板を駆け抜けていた。
オフロードタイプの戦闘用魔導バイクであるバビエーカのタイヤを滑らせながら、銃架代わりにして大型魔導銃「オイリアンテMk3」を連射。適確に浮遊型狂気を撃ち抜いていく。
浮遊型狂気は時折目からレーザーを出して攻撃してくるものの、大半は体当たりによる攻撃が主体だった。
この為、動きを読みやすい。狙い撃つには最適な的だ。
「あら。ヨルズが見えなかったから、ドクターストップでもかかったのかと思ったわ」
マリィアの視界に入ってきたのは、機銃砲座で狂気を撃ち落とすジェイミー・ドリスキル(kz0231)の姿だった。
ドリスキルの愛機である戦車型CAM『ヨルズ』は、ムーンリーフ財団に預けて改修中だ。ドリスキルはその状況でも歪虚を倒すべく、ラズモネ・シャングリラの機銃砲座で狂気を迎撃していたという訳だ。
「ああ、なんだマリィアか」
「なんだとは何よ?」
「悪い。昔散々やったシューティングゲームを思い出してた所だ。上から列を成して降りてくるインベーダーを一匹一匹撃ち落としてくってゲームだ」
マリィアの記憶が確かならば、ドリスキルの言っているゲームはかなり古いものだ。
そんなゲームに夢中になっていたかと思うとマリィアは微笑ましくも感じる。
「へぇ、そんな面白そうなゲームがあんのか。なら、オレにもやらせろよ」
ドリスキルの隣にあった機銃砲座に腰掛けたのは玄武坂 光(ka4537)であった。
光もドリスキルとは見知った顔だ。
アスガルドでは強化人間のランディ達と共に訓練を『楽しんだ』仲だ。
「おいおい。今度は光か。今から同窓会でも始めようってぇのか?」
「おっさん、それ強ち間違ってねぇよ。星空の幻もこっちに来てんだよ。『ドリスキルチーム再来』だぜ!」
光の言っているドリスキルチームとは、まさにアスガルドの訓練で同じチームとなった者達の事だ。
本来であれば強化人間のランディ達も一緒のチームだったのだが。
「あの子達は、今もアスガルドのベットの上よね」
マリィアは銃底で近づいた狂気を殴り付けた後、オイリアンテMk3の銃撃を浴びせかける。
地面に転がった狂気は、そのまま霧散していく。
「ああ。今は寝てるがきんちょ共が起きた時に悔しがるぐらいの戦果、出してやろうぜ!」
光は機銃砲座に座ると、一気に前方にいた中型の狂気へ銃弾を叩き込んだ。
ドリスキルとタイミングを合わせてリロードタイミングが重ならないように呼吸を合わせる。
セッションと呼ぶに相応しい戦い方である。
ドリスキルと光が中型狂気を叩き落とし、砲座に近づいた敵をマリィアが駆逐していく。
「バンドだったら、最高の演奏だろうな」
「どうかしら。ボーカルがあなたでなければ良いけど」
テンションが高いドリスキルを前に、マリィアは敢えて水を差した。
●
「はん。軍の命令なんざあたしらには関係ねぇ。ガキ共はぶん殴ってでも連れて帰る。それだけだ」
それがリコ・ブジャルド(ka6450)の率直な言葉だ。
ハンターは、所謂傭兵に近い存在だ。
依頼内容に従って諸問題を片付ける。
依頼主の要望に従うべきであり、外野である軍の命令に従う謂われは無い。
だからこそ、リカは自分の意志に従って動くだけだ。
「エラ、敵が目の前を通過だ。まったく気付いていねぇぞ」
エマに向けてトランシーバによる通信。
R7エクスシア『トラバントII』のユニット用ギリースーツのおかげで、敵の目から逃れる事ができた。幸いにも周辺は建物が崩れて瓦礫が散乱している。隠れる場所も相応に多い。
「そう。だったら、その先の交差点に到達した段階で砲撃を仕掛けるわ」
「了解。連中を慌てさせてやろうぜ」
エマの言う交差点とは現在いる位置から百メートル先の十字路だ。
ちょうど瓦礫が少なく、射線を遮る物は少ない。
十字砲火を浴びせかけるなら、ここが最適だ。
「七竃、炸裂弾の発射を準備。30秒後に着弾させて」
エマは七竃へ指示を出した後、交差点の近くまで移動する。
リコと七竃と連携して三方から挟み込むつもりなのだ。
――そして。
複数の歪虚CAMが交差点へと差し掛かる。
「七竃、今よ」
七竃の24ポンドゴーレム砲が轟音を放つ。
霰玉が撒き散らされ、歪虚CAMへと突き刺さる。
同時にエマは物陰から飛び出した。
「貫け、三散」
エマの前に現れた光の三角形。その頂点から伸びた光が打ち上げの形で歪虚CAMを襲う。
エマもこれだけで敵が倒せるとは思っていない。
重要な事は、ここで敵を狼狽させて後方への注意を忘れさせる事だ。
そこには――。
「へへっ、何処へ行くってぇんだよ!」
ギリースーツを解除してメインストリートへ飛び出したトラバントII。
ガトリングガン「エヴェクサブトスT7」を携えて、一気に敵へと攻めかかる。
大型の機関銃で取り回しは難しい銃だが、瓦礫を銃座にすれば安定する。あとは自慢の連射速度で歪虚CAMを蜂の巣にするだけだ。
「コンフェッサーがいねぇなら、容赦する必要はねぇな。こいつは奢りだ。たっぷり味わえ!」
撃ち出される弾丸は、雨となって歪虚CAMの体を貫いた。
小気味の良い発射音に交じり、目標に命中する音が響き渡る。
気付けば、十字砲火を受けた歪虚CAMは瞬く間に全滅していた。
「楽勝だな」
「まだよ。戦いは終わってない。次の反応は隣の通りね」
「へいへい。さっさと片付けようぜ」
リコは再びギリースーツを作動させた。
●
「行くぞ生臭坊主。貴様の玩具の実力を見せてもらおうか?」
混乱に塗れた右翼の戦場では、不動 シオン(ka5395)がイェジドに跨がってメインストリートを駆け抜けていた。
シオンが望むのは熱いバトルではない。
決して手を取り合うことのない強敵との、ルール無用の残酷な『死闘』である。
「飛べっ!」
シオンは瓦礫を踏み台にしてイェジドをジャンプさせる。
眼下には歪虚CAMが二体。
背後を突く形での強襲だ。歪虚CAMが予想していなかっただろう。
イェジドは歪虚CAMの一体へ飛び掛かると同時にクラッシュバイド。歪虚CAMへのし掛かり、顔面から思い切りかじり付く。
同時にシオンは十文字槍「猛火」による閃火爆砕。
他のハンターによって破損していた歪虚CAMだったが、シオンの一撃を食らった為に地面へと倒れ込んだ。
「またしても歪虚CAMを生身で斬る機会が巡ってくるとは………天は私にもっとゲームを楽しめと告げているようだな」
広いランカスターの戦場において、シオンの体は歓喜に震えていた。
タイラーの身柄を抑える為に他のハンター達はコンフェッサーを止めるよう動いている。この隙にシオンは周辺の歪虚CAMを狩り続けているのだが、歪虚CAMを撃破する度にシオンの血が滾ってくる。
――鉄と狂気の集合体である歪虚CAM。
それに振り下ろした際、衝撃と共に手へ伝わる感触。
その感覚を何度も味わう事ができる。
それも、あの『生臭坊主』のおかげか。
「気に入ったぞ、生臭坊主。歪虚CAMの群れ。それも見渡せば何機も……これ程までに最高のゲームを用意してくれたんだからな」
シオンは再びイェジドを走らせる。
次なる獲物を追い求めて。
●
その頃、ラズモネ・シャングリラ近くでは接近した歪虚CAMを藤堂 小夏(ka5489)が対応していた。
「子供の相手じゃないのは良かったけど……包囲網を抜けられるとこっちへ来るよね」
ガルガリンの操縦席に映し出される周囲の映像。
今の所、タイラーが乗るコンフェッサーらしき機体は見つかっていない。
正直、小夏としても戦いにくいタイラーとは交戦したくない。
いくらタイラーが強化人間として優れていたとしても、それは強化人間としての話だ。幾度も死線を越えて歪虚と対峙してきたハンターから見れば経験も知識も足りていない。
そんなタイラーがハンターの包囲網を抜けて小夏の前に現れたならば、小夏も体を張って止める他無い。
「あのコンフェッサーは、有人……なのですよね。強化人間の彼らが……」
イェジド『ネーヴェ』と共にラズモネ・シャングリラの防衛に就いていた羊谷 めい(ka0669)。
ラズモネ・シャングリラへ集まってくる歪虚CAMを撃破しながら、通信で聞こえてくるコンフェッサーの情報に耳を傾ける。
そんな中で、めいは思い返していた。
子供達と一緒にアスガルドでお菓子を食べた思い出。
あの時は、本当に楽しかった。
誰もが笑っていた。誰もが平和の一時を感じていた。
しかし、その思いでも今は昔。
通信の先にいるコンフェッサーには、あの場にいた子が乗っているのかもしれない。
「でも。来ちゃったら、やるしかないよ」
ふいに小夏はめいを現実へ引き戻した。
ここは戦場。
ラズモネ・シャングリラを護衛するのが二人の役目だ。
ここに強化人間の子が現れて、ラズモネ・シャングリラを傷つけようとするのであれば、二人は全力で止める。
言っても聞かないようであれば、多少力尽くでも止めなければならない。
「そう、そうですよね」
「ラズモネ・シャングリラに向けて歪虚CAM三機が移動中。お願い、誰か止めて」
小夏のトランシーバーから聞こえてくるのは、エラの声。
戦況把握に努めていたエラは、包囲網を突破した歪虚CAMの存在にいち早く気付いた。
既にラズモネ・シャングリラを守る二人がいることも把握している。
「アスガルドで一緒に笑っていた子と戦うなんて、残酷な世界ですね」
「そうだけど、それでも生きて行かなきゃいけないんだ。こんな世界でもね。
……こちら藤堂、了解。今から迎撃に移るわ」
藤堂はガリガリンのレーダーをチェックに入る。
その傍らではめいは寂しそうにネーヴェを見つめていた。
「ここはお願いね、ネーヴェ」
●
ランカスターでの戦闘において、比較的被害が少ない地域はラズモネ・シャングリラの左翼であった。
敵数が多いものの、相応のハンターが尽力していた事。
さらには一部幻獣やゴーレムが的になった事でラズモネ・シャングリラ自体への被害が各段に少なかった事が大きな要因だ。
「マテリアル認証、ピアッサー展開」
叫びと共に放たれるは、八原 篝(ka3104)の魔導機式複合弓「ピアッサー」。
カチリと音を鳴らす歯車。
両翼が開き、ワイヤーが張り詰められる。
八原は移動しながら、素早く狙いを定める。
手には二本の矢。
矢を番え、強く弦を引いた。
「――貫けっ!」
叫びと共に放たれる強烈な矢。
小型狂気の体を貫き、一矢にして小型狂気を地面へと転がした。
だが、これで八原の攻撃が終わるだけではない。
瞬く間に次の矢を番えながら移動を開始している。
序盤に比べれば、敵の数は激減。だが、そうなってからは敵を探し出して駆逐する必要が出てくる。
八原は、その事を考えて壁歩きを駆使しながら確実に敵を葬っている。
「機銃の影に隠れて……いた」
機銃の死角に逃れた敵がいるのではないか。
そう考えていた八原は、敵の姿を捜索。発見すると同時に、敵へ矢の一撃をお見舞いしている。
八原自身にも分かる。
敵は確実に減っている、と。
一方、冷静に対処する八原とは逆に怒りの感情に身を任せる者もいた。
「あの坊主の……綺麗な頭に弾丸を埋め込めてやりたいですね…………っ!!」
普段は無表情な星空の幻(ka6980)だが、その口から漏れるのは過激な言葉であった。
今まで明法が行った事は、絶対に許せるような物ではない。
そこから生まれた怒りを、星空の幻は弾丸に乗せて狂気達へ叩き込んでいく。
「自分がやれることは……全力でやるしかない……!」
気配を感じてその場から回避する星空の幻。
次の瞬間、死角を狙うかのように飛来する中型狂気。
体当たりの形となって、ラズモネ・シャングリラの甲板に衝突する。
星空の幻は中型狂気を見据えると、アサルトライフル「ヴォロンテAC47」を構える。
「坊主の手先……消滅させる……」
引き金を引く星空の幻。
同時に放たれた弾丸はマテリアルによる冷気を纏っている。
狂気の体を穿った弾丸は、冷気によって敵の動きを阻害する。
「チャンス」
八原は、動きが鈍くなった狂気に向けて二つ番えの矢を放つ。
一呼吸置いて突き刺さる二本の矢。
中型狂気は甲板の上に横たわると、そのまま消滅していく。
「大分片付いたわね……ん?」
「この怒り……発散されませんね……」
周辺の狂気を排除して一呼吸を置いた八原であったが、傍らにいた星空の幻の言葉が耳に入ってきた。
顔は無表情なのだが、言葉の中に見え隠れする棘。
おそらく鬱屈した怒りが体の中に眠っているのだろう。
「絶対に……絶対に……この手で…………っ!」
星空の幻は体を震わせる。
坊主への怒りが蓄積するばかり。
八原の目にも良い状況でない事は一目瞭然だ。
「おい、平気……」
「何やってるんだよ、星空の幻」
星空の幻の背後に現れたのは光であった。
光が銃座から離れたという事は、中型狂気の群れを排除できたのだろう。
「あ……」
星空の幻も光の登場に気付いたのだろう。
だが、星空の幻が言葉を紡ぐ前に光はそっと星空の幻の頭に手を乗せた。
光にも怒りの色を感じたのだろう。そっと優しく撫でてやる。
「何を一人で突っ走ってるんだ? あっちにおっさんもいるから、一緒にからかってやろうぜ」
何気ない日常の会話。
だが、怒りに溢れて身を滅ぼすのではないかと思わせた星空の幻には、これが良いのかもしれない。
その証拠に星空の幻の怒りは瞬く間に収まっていく。
「…………うん」
「じゃあ、早速行こうぜ。あのおっさん、隣で見てたが命中率だけはすげぇ高ぇんだよなぁ」
光は星空の幻を連れてドリスキルの方へ歩いて行った。
その姿を見つめていた八原は、そっと胸を撫で下ろす。
「怒りが身を滅ぼすか。頭に血が上ってたら、勝てる相手にも勝てねぇか」
●
「……迷うな、俺」
ジュード・エアハート(ka0410)は、ワイバーン『アナナス』の背で自分にそう言い聞かせていた。
上空から見るランカスターの街は、方々から噴煙が視界に入る。
歪虚CAMとの大きな戦闘だ。被害はある程度やむを得ない。
しかし、被害が大きくなればアスガルドでの保護も難しくなる。
ムーンリーフ財団も企業であり、連合宙軍も世論を無視する事はできない。
被害を最小限に抑える――その為には、子供達を力づくでも止めなければならない。
「手加減して救える程、あの子達は弱くない。だから……今は」
ジュードは、帽子を深く被り直す。
――気持ちを切り替える。
今は、任務に徹する。
目標を『生きたまま確保』する。その為には上空から必要な情報を仲間と共有する必要がある。
「アナナス」
ジュードはアナナスの名を呼んだ。
次の瞬間、アナナスはジュードを背に乗せたまま、一気に行動を下げる。
スピードを出しながら、メインストリートを駆け抜ける。
「歪虚CAMばかり、か」
ジュードの視界に入ってくるのは、物陰に隠れる多数の歪虚CAM。
目標となるコンフェッサーは発見できない。
本当なら、見つからない方が良いのだが。
「きっと、彼らは戦ってしまう。命の限り」
ジュード自身は、先の戦いでそう学んだ。
強化人間達は、植え付けられた目的の為なら自分の命を簡単に捨てる。
だから、万一自分の身に危険が及べば、自爆や捨て身の攻撃に走る事は考えられる。
――そんな事はさせない。
弓が届く範囲なら、その子を妨害して止めてみせる。
それが、ジュードが強く心に誓った事だ。
「アナナス、バレルロール」
アナナスは、飛行しながら体を回転させる。
地上からの対空砲火を避けながら、ジュードは地上に視線を向ける。
そこには肩に緑の三本ラインが入ったコンフェッサーが一機。既に数名のハンターと交戦しているようだ。
「目標を上空から視認。周辺にはコンフェッサーは一機のみ。今戦っている機体を押さえれば、大丈夫」
トランシーバーに向けて報告するジュード。
上空からコンフェッサーの影を追い続けたが、敵軍にはコンフェッサーは一機のみ。
あの一機さえ止められれば、子供達を救う事ができる。
「了解。他のハンターにも優先してコンフェッサーの無力化を打診するわ」
「お願いします。どうか、子供達を……」
返答してきたエラに向かって、ジュードは願った。
現在交戦しているハンター達が、無事に子供達を『助けられる』ように。
●
ジュードが空中でコンフェッサーの姿を視認した頃。
地上では発見されたコンフェッサーへハンター達が攻撃を仕掛けていた。
「……敵出力、更に向上。攻撃力、数%アップ。任務成功確率に影響……」
タイラーは、幾度もシミュレーターで戦闘訓練を受けてきた。
その結果は研究者達も驚嘆するレベルだった。
タイラー自身はその事を気にも留めてなかったが、それが良い評価であった事は理解している。
口には出さないが、強化人間として生きる決意をしたタイラーにとって、それが誇らしい事も理解している。胸を張って良いのだ。自分は誰よりも役立つ存在だ、と。
つい先程――この戦闘が始まる前までは。
「居場所なんて幾らでもあるよ。ただ知らない、知らされていないだけさ」
オファニム『Re:AZ-L』に乗るウーナ(ka1439)は、タイラーのコンフェッサーへ迫っていた。
タイラー以外のコンフェッサーを止める予定だったが、タイラーのコンフェッサー以外は通常の歪虚CAMである事に気付いた。ならば、せめてタイラーのコンフェッサーを足止めするべく動く事を決めた。
居場所で悩むタイラーに、その事を教える為に。
「……くっ。敵前方から射撃。瓦礫に隠れて機体は視認できず」
ウーナはハンドガン「トリニティ」による銃撃をコンフェッサーの前方へ放ち続ける。
狙いはコンフェッサーへ命中させる為ではない。
ラズモネ・シャングリラへ向けて移動する足を止めさせ、進路を塞ぐ事にある。
ウーナはあくまでも救出を重視している。強化人間がタイラーのみであるなら、タイラー救出の為に全力を尽くす。
「このルートからは進めない。……別ルートを模索する」
ウーナの銃撃を前に、タイラーは瓦礫の隙間を縫って移動する事にしたようだ。
このままウーナに正面から挑んだとしてもラズモネ・シャングリラまで到達できる可能性は低いと考えたのだろう。
――それでいい。その行動が救出までの第一歩になる。
「まずは成功かな。後は、あの子を孤立させる為に……他の歪虚CAMは片付けないとね」
ウーナは末那識で周辺にいる歪虚CAMを探り始めた。
タイラーが取らされたルート。
それはウーナによって誘導されていた物であった。
アスガルドのシミュレーターでは取り得ない動き。
幾度もの戦いを経て身につけたハンター間の連携が為し得た行動でもある。
「……敵母艦到着予定時刻を修正。二十分のロスが発生」
タイラーは、肩で息をしている事に自身で気付いていなかった。
戦場において精神的に追い込まれつつある状況。
それでもタイラーは進む以外の選択肢はない。
ここで戦う事ができなくなれば、自分の居場所を失う事になる。
――不要品。
使えなくなれば、捨てられるだけ。
それだけは、絶対に避けたい。
「……敵襲! 後方から」
モニターへ映し出された敵影。
現れたのは後方。瓦礫に紛れていつの間にか回り込まれていたのか。
反射的に振り返るタイラーのコンフェッサー。
しかし、そこにあったのはマテリアルバルーンであった。
「やっぱりだ。あんた、戦場で戦った事はないな?」
再びタイラーの背後に機体反応。
そこにはアニス・テスタロッサ(ka0141)のコンフェッサー『キマリス・ラーミナ』が立っている。
反撃の為、再度反転を試みるタイラー。
だが、アニスはその反撃を黙って見守る程お人好しではない。
タイラーのコンフェッサー目掛けてマテリアルフィスト。
Mショットナックル「ペルセヴェランテ」がコンフェッサーの胴体部分に直撃する。
「うわっ!」
激しく揺れるタイラーの機体。
容赦なく叩き込まれた一撃が、操縦席でアラームを打ち鳴らす。
「敵の攻撃が直撃……一部計器が損傷。だけど……」
タイラーはコンフェッサーの被害状況を再度チェックする。
こうしている間にもアニスは開いた距離を利用して魔導銃「アウクトル」で畳み掛ける。
銃弾がコンフェッサーの左腕に直撃。
間接部分に激しいスパーク。操縦系に異常が発生したようだ。
「まだ、まだやれる。戦えない訳じゃ……」
「そういう風にダメージを与えられているって気付かないのか?」
タイラーの心を切り裂くように現実を突き付けるアニス。
確かにタイラーのコンフェッサーは、完全に戦闘不能になった訳ではない。
右腕は残っている。バランサーに異常はあるが、立つ事はできる。
それはアニスがそうなるようにダメージを与えていたからだ。
タイラーを生きて保護するには、タイラー本人を負傷させないように戦う必要があったからだ。
「居場所を奪うだけじゃなく……愚弄するのか」
「力の差を見せ付ける形にはなったな。一人で戦うあんたじゃ、仲間と一緒に戦う俺達には勝てない」
「…………」
「そもそも、あんたが今いる場所は本当に居るべき場所なのか?」
居るべき場所。
そのアニスの言葉がタイラーに突き刺さる。
自分の居場所は、本当にここなのか。
そんな風に考えた事はなかった。
疑問を持つ事は、とうの昔に諦めたから。
「そうかもしれない。だけど……もう遅い。敵にこの機体は渡さない」
「自爆か? それを予想していないと思ってたのか?」
アニスは聞かれていた。
強化人間達が自滅する可能性を。
それを一番危惧していたハンターが、タイラーに向かって飛来する。
「アナナス、ファイアブレス!」
コンフェッサーへ急降下したジュードは、アナナスへファイアブレスを指示する。
炎に見舞われるコンフェッサー。
さらに聖弓「ルドラ」による妨害射撃で脚部の関節部分を狙う。
矢が直撃したと同時に、コンフェッサーは大きくバランスを崩して倒れ込んだ。
「死なせない、絶対に」
「自爆させないつもりか……」
「当たり前だ。俺達の前じゃ、そんな事は絶対にさせねぇ」
倒れるコンフェッサーを見下ろすようにキマリス・ラーミナは立っていた。
圧倒的な力を持って、タイラーのコンフェッサーを制圧した瞬間だった。
●
「己が万能と傲る仏なんざ、機体であれど……ヒトにも劣る、畜生じゃ」
明法の如意輪観音を前にASU-R-0028(ka6956)は、攻撃のチャンスを窺っていた。
既に他のハンターと戦闘中の明法であるが、一撃を叩き込んで形勢逆転を狙う。
正々堂々。あの畜生にそんな言葉は必要ない。
ただ、歪虚として存在するのであれば、徹底的に叩くだけだ。
「畜生か。言ってくれる。ならば、貴様はこの世界を守る小鬼よ。弱者を食い物にするのは我と変わらぬ」
「抜かせ!」
魔導アーマー「プラヴァー」『羅刹ノ甲』に乗り、機会を窺っていたASU-R-0028。
隙を突いて飛び上がり、下段にある腕に向かって斬魔刀「祢々切丸」を振り下ろす。
だが、重さを利用しても斬り落とすまでには至らない。
考えてみれば、ハンター達の間で腕を狙う作戦ではあったものの、どの腕を集中で狙うかがまとまっていなかった。この為、腕を狙うにしてもそれぞれの腕にダメージが与えられた状況であった。
これではASU-R-0028の力で叩き落とす事は難しい。
「小鬼が果敢に挑むか。ならば、褒美を取らせてやろう」
そう言うなり、如意輪観音は数珠を手にして腕を掲げて打ち鳴らす。
次の瞬間、ASU-R-0028の周辺に黒いオーラが纏わり付く。
ASU-R-0028は危機を感じて逃れようとするが、もう遅い。
「く、動けぬ」
黒いオーラが纏わり付き、うまく機体を動かす事ができない。
その間に如意輪観音は羅刹ノ甲へ近づいてくる。
「如意輪観音に死角はない。このまま三途の川へ沈むがいい」
独鈷杵を振りかぶる如意輪観音。
禍々しいオーラが集まってくる。
あれを振り下ろす気だ――ASU-R-0028も、それを察していた。
だが、それは別の形で阻止される。
「何処を見ている!」
飛花・焔で残像を残しながら加速するアルト。
手には剛刀「大輪一文字」が握られている。
「あの獄卒か!」
明法は瞬時にアルトの一撃を独鈷杵の刃で迎撃する。
空渡で駆け抜けたアルトは、そのまま大輪一文字を振り抜いた。
衝突。
同時に独鈷杵から消失するオーラ。
次の瞬間、大きな爆発が発生した。
「ぬぅ! 何という一撃か! 地獄を守るだけはある」
「…………ここが地獄だろうと何だろうと関係ない。ここでお前を殺すだけだ」
爆風で吹き飛ばされたアルトだったが、直様立ち上がる。
明法をこの手で葬るために――。
●
「まじかよ……」
アーサーは明法の持つ能力を攻撃しながら確認していた。
攻撃する事で防御力の高さに驚かされた。だが、それ以上に恐ろしいのは各腕に備わった能力だ。
錫杖 → 衝撃破による範囲攻撃(吹き飛ばし能力あり)
数珠 → 対象へ行動阻害
独鈷杵 → 爆発系の攻撃である可能性がある
すべての能力が判明している訳ではないが、これだけでもかなり厄介だ。
更にまだ能力を隠し持っていると考えれば、あの仏像を倒すには作戦を練る必要がありそうだ。
「だけどよ……ここで諦められるかよ!」
アーサーはドゥン・スタリオンによる刺突一閃。
試作CAMブレード「KOJI-LAW」で強烈な突きを繰り出した。
刃は数珠を握った腕を貫いた。先程までアルトが叩いていた腕だ。うまく命中すれば腕は破壊できない訳ではないようだ。
――だが。
「傷を付けて喜んでいるか。だが、お前達が相手をしているのは如意輪観音だ」
明法は蓮の花を掲げた。
次の瞬間、アーサーが開けた穴は瞬く間に修復していく。
さらに傷を負っていたと思しき箇所も次々と塞がっていく。
「やっぱり回復能力までありやがったか」
「当然だ。この地獄を破壊して救済する為に来たのだ。このぐらいの力は有している」
明法の自信。
それはこの如意輪観音の性能からも来ているのだろう。
「貴様等の戦いは、まさにこの地獄を守らんとする鬼そのもの。なればこそ、我らの相手となる価値はある。貴様等を越えてこそ、弱者は救済される」
「訳分からねぇ事を言ってるんじゃねぇぞ。何が弱者だ! お前等がやってる事は弱者イジメそのものじゃねぇか!」
アーサーは反論せずにはいられなかった。
だが、明法も理解してもらおうとは思っていない。
「理解させるつもりはない。必ず貴様等を屠り、地獄を終わらせる。
ここより相応しい場所でな」
「なに?」
聞き返すアーサー。
同時にトランシーバーから聞こえる恭子の声。
「主砲の準備ができたザマス! あの仏像に向けて発射するザマス!」
ラズモネ・シャングリラの主砲が発射可能となったようだ。
それを察したのか、明法は振り返ると背面のブースターを稼働させる。
「考えよ。誰が本当の強者なのかを」
主砲の一撃が発射される頃、如意輪観音は既に遠くへ飛び去った後だった。
●
明法の能力を一部確認。強化人間タイラーの保護。
タイラーはその後意識を無くしてしまったが、それでも充分な成果である。
だが、中継を見ていたトモネの顔は優れない。
「総帥」
その表情を案じたユーキは、そっと声をかける。
しかし、その言葉にトモネは気付かない。
「私が弱者を虐げているだと。そんなつもりは……」
明法の言葉。
『子供達を戦士へ作り替えた大人達もやっている事は変わらぬ。貴様がその理由で怒るのであれば、その大人達にも同じように怒りを向けるのであろうな?』
その大人にはトモネも含まれる。
弱者である子供達は強化人間にされて戦場へ送られる。
すべては強者である大人が自らの身を守る為。
なら、弱者と強者とは何か。
この構図を形作る世界とは何か。
トモネの中で様々な事が駆け巡る。
「総帥。お気を確かに。敵の甘言に惑わされてはなりません。今は戦場の後始末をしなければなりません」
「……かも、しれぬな。
あの明法とやらを探し出せ。絶対に。VOIDだろうと財団を敵に回した事、教えてやらねばなるまい」
様々な禍根を残したランカスター戦は、こうして幕を閉じた。
明法は、必ずまた現れる。
地獄を終わらせ、救済を成し遂げると称して――。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/04/15 16:14:29 |
|
![]() |
相談:左翼 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/04/16 02:33:51 |
|
![]() |
相談:正面 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/04/16 20:30:42 |
|
![]() |
相談:右翼 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/04/16 03:12:06 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/12 23:19:01 |