ゲスト
(ka0000)
ドリームブレイクうさぎさん
マスター:白藤

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 5~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/17 12:00
- 完成日
- 2018/04/26 05:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●うさぎさん
雲ひとつない青々とした空が広がる、絶好のひなたぼっこ日和の今日。
うさぎのぬいぐるみを傍らに置いた幼い少女とその両親は自然公園の芝生の上にレジャーシートを広げ、ピクニックを楽しんでいた。
「美味しい~!」
「こら、食べながら喋らないの」
「えへへ……」
母の作ったサンドイッチを頬張り、少女・モカは嬉しそうに小さな栗色お下げを揺らす。
この後、彼女は父とバトミントンをして遊ぶ予定だった。そのためのエネルギーを蓄えるんだと言わんばかりに、モカはさらにサンドイッチに手を伸ばそうとして……その手を止めた。
「わぁ、うさぎさんだぁ!!」
彼女の視線の先、木々が生い茂る森の中で茂みが揺れ、真っ白なうさぎが姿を現したのだ。うさぎは長い耳をぴくぴくと動かし、愛らしく首を傾げている。
「おお、野生のうさぎか。モカは運が良いなぁ」
「パパ、ママ! うさぎさん、もっと近くで見てきても良い!?」
「良いけれど、あんまり近付いたらうさぎさんが驚いちゃうわよ。そっと近付くのよ?」
「はぁい!」
傍らに置いたうさぎのぬいぐるみを抱き、モカは嬉しさを隠せないと言わんばかりに頬を赤く染め、うさぎの傍へ近付いていく。
「可愛いなぁ……」
初めて目にした、野生のうさぎ。言わずもがな、モカはうさぎが大好きだった。
どこまでなら近付いても逃げずにいてくれるかな、触らせてくれたりしないかな、お友達になってくれたり、しないかなぁ……期待に胸を躍らせながら、モカは一歩、また一歩とうさぎに近付いてく。
うさぎの赤い瞳が、モカの青い瞳と交差する。うさぎが立ち上がった。
「あっ、に、逃げないで……!」
やはり、野生のうさぎは警戒心が強い。あまり近付けなかったと肩を落とすモカ。
そんな彼女の眼前で、真っ白なふわふわうさぎさんがムクムクと巨大化した。
ビシャリ、と、どこからともなく飛んできたドロドロとした液体がモカの身体に掛かる。
それは、うさぎから出た粘液だと、小さな少女の頭でもはっきりと理解出来た。
「う、ぁ……」
粘液が掛かった場所がびりびりとして、身体が動かない。逃げられない!
「ッ、モカ!」
ギチギチと気味の悪い音を立て、うさぎは姿を変えていく。
慌てて両親は動けなくなってしまった娘の傍に駆け寄り、うさぎから距離を取る。
その刹那――うさぎの口が大きく裂け、粘液とともに中からミミズのような、大蛇のような、生々しいグロテスクな化物が飛び出した。
「いやぁあああああぁああっ!!!」
●ドリームブレイク許すまじ
「あまりの気持ち悪さに、うさぎ恐怖症になる人々が増えています。害悪です」
ハンターズ・ソサエティの受付嬢は大変げんなりした様子で、適当に呼び止めたハンター達に依頼内容を語る。
「うさぎの皮を被った、ミミズと蛇を足して二で割ったような形状の雑魔です。愛らしい姿で獲物を誘い、怯んだ隙に捕食するようです。不幸中の幸い、犠牲者は出ていませんが、被害者はいずれも心に重症を負っています」
それも無理はない。しかも対象を選んでいるのか、件の雑魔に狙われるのは決まって幼い子ども。
最新の被害報告では、雑魔に狙われた少女がうさぎへの恐怖から家の外に出られなくなってしまったんだとか。本当に害悪である。
「単なる見間違いの可能性もありますが、少し目撃証言にブレがあります。いずれも本体は粘液ドロドロの気持ちの悪い雑魔、ええと……『キモうさぎ』であることは確かですが」
受付嬢は心底嫌そうな顔で『キモうさぎ』について語る。よく見ると後ろの棚にうさぎのキーホルダーが付いた鞄がある。
もしかすると、彼女の鞄かもしれない。彼女はうさぎが好きなのかもしれない。そうだとすれば、わざわざハンター達を呼び止めてこの依頼の説明をし始めたのも頷ける。
「自然公園は現在立ち入り禁止となっているようですが、もし依頼を受けて下さるのであれば管理者に話を通しておきますので、時間帯等は気にしなくても大丈夫です。あと、少しくらいなら環境を壊してしまっても大目に見てくれるみたいです」
依頼書を流し読みし、受付嬢はハンター達を一瞥して肩をすくめた。
「ただし、あくまでも『少しくらい』ですから、気にはして下さいね。それから自然公園には通常の野生うさぎも存在します。誤って何の関係もない無実のうさぎを殺さないように、お気を付け下さい」
雲ひとつない青々とした空が広がる、絶好のひなたぼっこ日和の今日。
うさぎのぬいぐるみを傍らに置いた幼い少女とその両親は自然公園の芝生の上にレジャーシートを広げ、ピクニックを楽しんでいた。
「美味しい~!」
「こら、食べながら喋らないの」
「えへへ……」
母の作ったサンドイッチを頬張り、少女・モカは嬉しそうに小さな栗色お下げを揺らす。
この後、彼女は父とバトミントンをして遊ぶ予定だった。そのためのエネルギーを蓄えるんだと言わんばかりに、モカはさらにサンドイッチに手を伸ばそうとして……その手を止めた。
「わぁ、うさぎさんだぁ!!」
彼女の視線の先、木々が生い茂る森の中で茂みが揺れ、真っ白なうさぎが姿を現したのだ。うさぎは長い耳をぴくぴくと動かし、愛らしく首を傾げている。
「おお、野生のうさぎか。モカは運が良いなぁ」
「パパ、ママ! うさぎさん、もっと近くで見てきても良い!?」
「良いけれど、あんまり近付いたらうさぎさんが驚いちゃうわよ。そっと近付くのよ?」
「はぁい!」
傍らに置いたうさぎのぬいぐるみを抱き、モカは嬉しさを隠せないと言わんばかりに頬を赤く染め、うさぎの傍へ近付いていく。
「可愛いなぁ……」
初めて目にした、野生のうさぎ。言わずもがな、モカはうさぎが大好きだった。
どこまでなら近付いても逃げずにいてくれるかな、触らせてくれたりしないかな、お友達になってくれたり、しないかなぁ……期待に胸を躍らせながら、モカは一歩、また一歩とうさぎに近付いてく。
うさぎの赤い瞳が、モカの青い瞳と交差する。うさぎが立ち上がった。
「あっ、に、逃げないで……!」
やはり、野生のうさぎは警戒心が強い。あまり近付けなかったと肩を落とすモカ。
そんな彼女の眼前で、真っ白なふわふわうさぎさんがムクムクと巨大化した。
ビシャリ、と、どこからともなく飛んできたドロドロとした液体がモカの身体に掛かる。
それは、うさぎから出た粘液だと、小さな少女の頭でもはっきりと理解出来た。
「う、ぁ……」
粘液が掛かった場所がびりびりとして、身体が動かない。逃げられない!
「ッ、モカ!」
ギチギチと気味の悪い音を立て、うさぎは姿を変えていく。
慌てて両親は動けなくなってしまった娘の傍に駆け寄り、うさぎから距離を取る。
その刹那――うさぎの口が大きく裂け、粘液とともに中からミミズのような、大蛇のような、生々しいグロテスクな化物が飛び出した。
「いやぁあああああぁああっ!!!」
●ドリームブレイク許すまじ
「あまりの気持ち悪さに、うさぎ恐怖症になる人々が増えています。害悪です」
ハンターズ・ソサエティの受付嬢は大変げんなりした様子で、適当に呼び止めたハンター達に依頼内容を語る。
「うさぎの皮を被った、ミミズと蛇を足して二で割ったような形状の雑魔です。愛らしい姿で獲物を誘い、怯んだ隙に捕食するようです。不幸中の幸い、犠牲者は出ていませんが、被害者はいずれも心に重症を負っています」
それも無理はない。しかも対象を選んでいるのか、件の雑魔に狙われるのは決まって幼い子ども。
最新の被害報告では、雑魔に狙われた少女がうさぎへの恐怖から家の外に出られなくなってしまったんだとか。本当に害悪である。
「単なる見間違いの可能性もありますが、少し目撃証言にブレがあります。いずれも本体は粘液ドロドロの気持ちの悪い雑魔、ええと……『キモうさぎ』であることは確かですが」
受付嬢は心底嫌そうな顔で『キモうさぎ』について語る。よく見ると後ろの棚にうさぎのキーホルダーが付いた鞄がある。
もしかすると、彼女の鞄かもしれない。彼女はうさぎが好きなのかもしれない。そうだとすれば、わざわざハンター達を呼び止めてこの依頼の説明をし始めたのも頷ける。
「自然公園は現在立ち入り禁止となっているようですが、もし依頼を受けて下さるのであれば管理者に話を通しておきますので、時間帯等は気にしなくても大丈夫です。あと、少しくらいなら環境を壊してしまっても大目に見てくれるみたいです」
依頼書を流し読みし、受付嬢はハンター達を一瞥して肩をすくめた。
「ただし、あくまでも『少しくらい』ですから、気にはして下さいね。それから自然公園には通常の野生うさぎも存在します。誤って何の関係もない無実のうさぎを殺さないように、お気を付け下さい」
リプレイ本文
晴天の下、爽やかな風が吹き、青々とした芝生が靡く。
雑魔出没による影響で人気がなくなったためか、木陰に隠れることなく姿を現した数十匹のうさぎ達が幸せそうに草を食み、ひなたぼっこを楽しんでいた。
「ふむ……この辺りでどうだろうか」
周囲を見、ロニ・カルディス(ka0551)は仲間達を振り返る。そこはやや雑木林から離れ、障害物も無い開けた空間。そこは森林や通常の野生うさぎに配慮して選ばれた場所であり、彼の主張に否を唱える者はいない。
頷き、鞍馬 真(ka5819)は金の輝きを持つ優美なベルを、アリア・セリウス(ka6424)はバイオリンを取り出した。二人が奏でるは、繊細かつ美しい音色――小さくも高らかに鳴り響く高貴な音に、澄み渡った優しい高音域の旋律。
心洗われるような演奏だが、野生のうさぎ達からしてみれば異質な物である。ハンター達の前に姿を見せていたうさぎ達は身体を起こし、耳をピクピクと忙しく動かし始めた。
「野生といえども、人に全く慣れていないというわけではなさそうだ」
「そうですねぇ……」
フワ ハヤテ(ka0004)、シレークス(ka0752)は音出しには参加せず、怪しいうさぎがいないかどうか目を光らせ始める。
眼前に広がるはもふもふで愛らしい、小さなうさぎ達の群れ。うさぎ好きには夢の楽園のような光景である……が、この後ゾッとする展開が待ち受けているわけだ。『夢の楽園なんて無かった』と言わんばかりの現実を思い出し、狐中・小鳥(ka5484)とエメラルド・シルフィユ(ka4678)は顔を引きつらせる。
「普通のうさぎと最初は見た目変わらないから、余計にアレだね……」
「見てしまった一般の方々は、本当に運が無かったというか、なんというか」
せめて最初からキモければ良かったのに。そう思ったのは間違いなくこの二人だけではないだろう。
真とアリアの演奏を聴きつつも周囲を一瞥し、ロニが静かに口を開く。
「随分と数が減ってきた。そろそろ目星を付けておくか」
聴き慣れぬ音色に警戒し、場所を移動したうさぎが大半。それらは間違いなく、本物のうさぎだろう。ロニの言葉に頷き、手が空いているハンター達は残ったうさぎの数を数え始める。
今、近くに残っているうさぎ達は八羽。彼らは人に慣れ過ぎているのか、単純に細かいことを気にしないのか、それとも――。
「うおおおおおおおお、どこだあああでてこおおおおい!!」
その時、玉兎 小夜(ka6009)の雄叫びが自然公園に響き渡った。
残っていたうさぎ達は蜘蛛の子を散らすように、一目散に茂みや雑木林に逃げていく。しかし、たった一羽のみ、赤い大きな瞳で小夜を見つめているうさぎの姿があった。
「ッ、異質……」
人に慣れていそうなうさぎも細かいことを気にしないうさぎも、人の大声には怯えて逃げ出すものだ。それにも関わらず、何故か動かない白うさぎ。これは、恐らく『キモうさぎ』で確定だろう。怒り心頭の小夜は奥歯を噛み締める。
「この、兎の恥さらしめ!!」
小夜の、うさぎへの情熱が、凄い――。
エメラルドは小夜の熱気に少々押され気味であった。
「みょ、妙に熱くなっている……」
雑魔がよりによって『うさぎ』に擬態してしまったものだから、小夜の怒りは割と最初から頂点に達していた。彼女とうさぎは切っても切り離せないものなのである。
とはいえ、キモうさぎは人に害を成す雑魔。本物のうさぎへの思いはさておき、見逃す理由は何も無い。
「ギチ……ギチ、ギチ」
ハンター達の殺意を感じ取ったのだろう。キモうさぎはおぞましい声を上げ始めた。ぞわりとした悪寒が走るのを感じ、ハンター達は一度キモうさぎから距離を取る。
ぶちり、ぶちりと可愛らしかった化けの皮が剥がれていく。その異様さを確認すると共にハヤテは即座に杖を持ち替え、キモうさぎと自分達の間にアースウォールを具現させる。
しかし、それでもハンター達は、気味の悪い光景を目の当たりにするのであった。
うさぎの皮を引き裂き、ズルリと姿を現した粘液塗れの蛇のような“何か”を。
「ひぃあぁっ!?」
思わず、といった様子でエメラルドが悲鳴を上げる。百聞は一見に如かず、どんなにこの現実を頭に叩き入れていようが、嫌な光景であることには変わりがないのだ。驚いたのは何も彼女だけではない。
「うわぁ、気持ち悪いな……」
「元より雑魔とは歪んだ命とその姿……とはいうけれど、これは想定の範囲外ね」
「まぁ、偽装して油断した処を襲ってくるのは、これまでにもよくあった事だが……それにしてもやり方があっただろうに……」
真、アリア、ロニは目を細め、想像を絶する異形を今一度視界に捉える。蛇なのかミミズなのか、それとも他の生物なのか。気味の悪いその姿は、どう足掻いても擬態していたうさぎとは結び付かなかった。
「現れたね! ……って、本当にきもいんだよ!? 想像以上だよ!? 元が可愛いだけに余計に精神にくるね、これは……ッ」
顔を真っ青にして叫ぶ小鳥の言う通りこの雑魔。とても、気持ちが悪い。
変形時に飛び散った粘液はハヤテのアースウォールによって阻まれたものの、ぬるぬるとしたそれは雑魔の身体から流れ続けている。
「うぇ~、この系統の敵は苦手でやがります。あーめんどくせぇっ」
うねうねと身体を動かす雑魔を一瞥し、シレークスは聖句が刻まれし聖盾を構える。そして彼女は迷う事なく、力強く地を蹴って雑魔の下へと駆け出した。
「触れる以上、この世に砕けぬものはねぇです! 夢を砕いた代償は、砕かれることで贖いやがれ!」
皆が粘液を警戒しいきなり近付くまいとする中、飛び出したシレークスに雑魔も狙いを定めた。盾を突き出し、防御の姿勢を取る彼女に向かうはぬめりをおびた巨大な尾。それを受け止めるシレークスの身体に、大量の粘液が掛かった!
「シレークス!」
真が叫ぶ。仲間達も彼女の様子を伺った。粘液により、シレークスが纏う衣服や皮膚が溶かされた気配は無い。つまり、溶解液では無い。
「く……っ」
しかし、シレークスの様子がおかしい。やはり、何かしらの害はあったのだ。
急に力が抜けてしまったのだろうか。彼女は雑魔の重みに耐え切れずに押されまけ、盾ごと地面に叩き付けられてしまった。
「シレークス! 怖……っ、じゃなくて、行くぞ!!」
若干声を震わせながらも、エメラルドが聖剣を手に雑魔の下へ向かい、その意識をシレークスから自分へと向けさせる。ゆうるりと、雑魔の首が動いた。
聞いていた通り、雑魔の動きは遅い。他の前衛達も、すかさず雑魔討伐へと動いた。
「私の歌を聞けー、なんだよ♪」
小鳥が武器を手に舞い、歌う。剣を手に舞い、小鳥とは違う旋律を奏でるのは真だ。小鳥の歌は雑魔の力を削ぎ、真の歌は仲間達を鼓舞する。
歌声に反応してか、がさりと茂みが揺れ、黒毛と茶毛のうさぎが飛び出してきた。すかさず状況の変化に気を配っていたハヤテが大声を上げる。
「うさぎが二羽増えたよ!」
戦闘の真っ最中に出てきたうさぎである。ほぼ確実に『本物』ではないだろう。
ハヤテは杖を持ち替え、重力波によるうさぎの足止めを試みるも、ちょこまかと動き回る二羽を同時に足止めするのは難しそうだ。茶色うさぎが、ハヤテの術が及ぶ範囲から外れてしまった。
「範囲外……!」
しかし、ハヤテは焦らなかった。燐光のようなマテリアルを魔導剣と刀に纏わせ、茶毛のうさぎに近付くアリアの姿を確認していたからだ。
「月と兎。というより月と鼈かしらね。……どちらにしても、触れないもの同士」
刃物を持って近付いても逃げ出さないうさぎ。微かに聞こえて来るのは、うさぎの仮初の皮膚が裂ける音。アリアの握る刃が、鈍い輝きを放った。
「さあ、幻月を描くが如く、二刀を閃かせましょう」
●
アリアが雑魔を斬り付けた、ちょうどその時。粘液を浴びた事によって身動きが取れなくなっていたシレークスが立ち上がっていた。
「あぁ~もう、ベトベトと鬱陶しいですっ!!」
ロニが発動した『キュア』により、身体の調子が元に戻ったのだろう。まとわりついた粘液に苛立ちながらも彼女はそれらを振るい落し、自らを不調に陥らせた元凶である雑魔を殴り飛ばしながら声を荒げる。
「この粘液、触れると痺れてきやがるです! 気をつけて下さい!」
彼女は変わらず不快感を顕にしてはいたものの、効果が分かればこっちのものだと言わんばかりにその瞳は爛々と輝いていた。
「よぉし、根絶やしにしてやりますです」
そのまま白うさぎの雑魔を殴り殺しそうな勢いだが、彼女が負っている傷は決して軽いものではない。彼女の傍にいたエメラルドは思わずといった様子で叫んだ。
「シレークス、気を付けろよ!」
「エメラルド、声が震えてますよ?」
「な、何を言う!? 私は大丈夫だ!!」
状況からして、シレークスのように全く身動きが取れなくなる程ではないにしろ、不調を感じている仲間は多い筈だ。飛び出したシレークスと入れ替わるようにエメラルドは雑魔から距離を取り、魔法『ピュリフィケーション』の発動を試みた。
「ならば、少し離れた場所にいる奴らは、俺が」
今回の戦闘は、支援重視の戦いとなりそうだとロニは仲間達全員を見回した。そんな彼の後方で、ガサリと茂みが揺れた。
「! ロニさん、来ます!」
小鳥が叫ぶ。現れたのは、三毛のうさぎと垂れ耳のうさぎ。小鳥は剣を手に、標的を新たに現れた雑魔達に切り替えた……が、ロニを狙う雑魔の変化と、その攻撃の方が早い。回避は、間に合わない!
「ぐぅ……っ!」
三毛うさぎの雑魔に噛み付かれ、ロニの動きが止まる。しかし、身体中が痺れるよりも先に彼は勢いよく芝生を転がり、もう一体からの追撃は間一髪かわした。
ロニへの攻撃を外した雑魔に、勢いよく飛んできた氷の矢が突き刺さる。それを放ったのは、ハヤテだ。
「大丈夫かい?」
「ロニさんから離れろっ!」
口からロニの血を滴らせる雑魔は、小柄な身体を利用して至近距離に持ち込んだ小鳥が手にする火を纏った刃が切り裂き、その身を焦がした。
火が苦手なのだろう。雑魔が『ギャァア』と劈くような悲鳴を上げる――苦しみ悶える雑魔の背後には、白き兎の如き娘の姿。
「ヴォーパルバニーが、刻み、刈り獲らん!」
小夜が飛び上がると同時、雑魔の背から飛沫が上がる。小夜は空中で身体を翻し、握る刃を一息に振り下ろした。
ふたつの月を描く斬撃は雑魔の息の根を止め、葬る。粘液もろとも消え去ったのを確認し、小夜は「ふぅ」と息を吐いた。
倒した雑魔は、これで一体。しかし、全て片付け終わるのも時間の問題だろう。力が強く、身体を麻痺させる粘液を持つとはいえ、基本的な能力はそう高くないらしい。
周囲の警戒を続けていたハヤテが「恐らく五体で全てだ」と告げる。ハンター達は頷き、ラストスパートと言わんばかりに全力で残った雑魔を討ちに向かった。
「神の威光、其の背に刻んで逝きやがれっ!!」
火が効くということは、単純な物理攻撃よりも魔法が効くかもしれない。そう考えたシレークスは白うさぎの雑魔に光の鉄拳を下し、葬り去る。ほぼ同時に、対峙していた茶うさぎの雑魔にアリアがとどめを指した。
残ったのは二体。先程ロニを援護するためにアイスボルトを放ったことで敵認定されてしまったのか、垂れ耳うさぎに化けていた雑魔がハヤテを狙っている。挟み撃ちにしようと考えたのか、黒うさぎに化けていた雑魔も同様だ。
「いいかい、ボクはいたって普通の性癖をしているんだよ。触手や粘液と戯れる趣味はないんだ……それにしたって二体同時とはね、なかなか嫌な光景だよ」
ハヤテは土壁を出現させ、雑魔から距離を取る。ちょうど、直線上に二体の雑魔が並んだ。
「今だ!」
気付き、真は勢いよく白い光の刀身を突き出す。身を貫かれ、雑魔の口から粘液が散る。苦痛にもがき、おぞましい悲鳴が上がる。とどめとなったのは、追撃の形で発動したロニのプルガトリオ。全身を刃に貫かれた雑魔達は地に伏し、やがて跡形もなく消滅した。
●
雑魔消滅に伴い、周囲に飛び散っていた粘液も一緒に消滅した。ハヤテは少し残念そうな様子ではあったものの、あれが全て残るとなると後処理で大変だったに違いない。
「うえぇ……消えてくれて良かったです……」
シレークスは非常にげんなりした様子で、粘液塗れになった感覚だけが残った身体を拭う。これに関しては粘液を浴びた者全員が似たような感覚を覚えているに違いない。
ガサリ、と茂みが動いた。
「ッ!? な、なんだ、本物、か……?」
「はは、どうしてもあの雑魔の姿がチラつくな……」
戦闘が終わり、野生うさぎがちらほらと顔を出し始めた。一瞬身体を強ばらせるエメラルドに、何とも言えない表情を浮かべる真。そんな彼女らの下に、うさぎが近寄って来た。
「おっ、触らせてくれるのか」
彼らも雑魔の出現に迷惑していたのか、雑魔を退治したハンター達に気を許してくれた……のかもしれない。ふかふかでもふもふな手触りは、彼らが『本物』であることを証明してくれた。
「これは確認の為であって兎さんと戯れているわけじゃないんだヨ?」
あくまでも『確認の為』だと主張しつつ、うさぎと触れ合う小鳥の顔がほころんでいる。
気持ちの悪い雑魔と対峙して荒んだ心も癒された。この場所ももう、大丈夫だろう。
「あら?」
うさぎと別れ、帰路に着こうとしたハンター達の視界に怯えた眼差しでこちらを見ている少女が映った。その姿を見て、アリアは微かに目を細める。
「雑魔の……あの、悪夢の塊のようなものの被害者、ね」
少女の手に抱かれているのは、少しくたびれたうさぎのぬいぐるみ。うさぎに恐怖心を抱きながらも、うさぎへの憧れを捨て去ることが出来なかった。そんなところだろう。
「……」
少女の、見開かれた大きな瞳に小夜が映り込んだ。気付き、小夜は全力の笑みを浮かべてみせる。ちゃんと笑えていたかどうかは、少々怪しいところであるが……。
「やー、こんにちは? よくわかんないけど、ウサギだよー」
うさぎ、という単語に少女は身体を震わせる。警戒心の強い野生のうさぎと戯れるのは、まだ難しいかもしれない。そう思い、小夜は配下のうさぎ――『月兎』と『因幡』を呼んだ。
「っ、ひ……!」
「大丈夫。何も起こらないよ」
生きたうさぎを目の当たりにし、少女の顔が強ばる。しかし、好奇心には勝てなかったのだろう。少女は近くに寄ってきた二羽のうさぎに恐る恐る手を伸ばし、艶やかな毛に触れた。二羽はただ、じっと少女の傍に佇んでいる。
「わぁ……っ」
彼女は瞳に涙を浮かべつつ、嬉しそうな笑顔を見せてくれた。その顔を見て、小夜は満足そうに頷く。
「かの邪知暴虐なる輩は葬った。本当の兎はこっちだから、安心してね?」
雑魔出没による影響で人気がなくなったためか、木陰に隠れることなく姿を現した数十匹のうさぎ達が幸せそうに草を食み、ひなたぼっこを楽しんでいた。
「ふむ……この辺りでどうだろうか」
周囲を見、ロニ・カルディス(ka0551)は仲間達を振り返る。そこはやや雑木林から離れ、障害物も無い開けた空間。そこは森林や通常の野生うさぎに配慮して選ばれた場所であり、彼の主張に否を唱える者はいない。
頷き、鞍馬 真(ka5819)は金の輝きを持つ優美なベルを、アリア・セリウス(ka6424)はバイオリンを取り出した。二人が奏でるは、繊細かつ美しい音色――小さくも高らかに鳴り響く高貴な音に、澄み渡った優しい高音域の旋律。
心洗われるような演奏だが、野生のうさぎ達からしてみれば異質な物である。ハンター達の前に姿を見せていたうさぎ達は身体を起こし、耳をピクピクと忙しく動かし始めた。
「野生といえども、人に全く慣れていないというわけではなさそうだ」
「そうですねぇ……」
フワ ハヤテ(ka0004)、シレークス(ka0752)は音出しには参加せず、怪しいうさぎがいないかどうか目を光らせ始める。
眼前に広がるはもふもふで愛らしい、小さなうさぎ達の群れ。うさぎ好きには夢の楽園のような光景である……が、この後ゾッとする展開が待ち受けているわけだ。『夢の楽園なんて無かった』と言わんばかりの現実を思い出し、狐中・小鳥(ka5484)とエメラルド・シルフィユ(ka4678)は顔を引きつらせる。
「普通のうさぎと最初は見た目変わらないから、余計にアレだね……」
「見てしまった一般の方々は、本当に運が無かったというか、なんというか」
せめて最初からキモければ良かったのに。そう思ったのは間違いなくこの二人だけではないだろう。
真とアリアの演奏を聴きつつも周囲を一瞥し、ロニが静かに口を開く。
「随分と数が減ってきた。そろそろ目星を付けておくか」
聴き慣れぬ音色に警戒し、場所を移動したうさぎが大半。それらは間違いなく、本物のうさぎだろう。ロニの言葉に頷き、手が空いているハンター達は残ったうさぎの数を数え始める。
今、近くに残っているうさぎ達は八羽。彼らは人に慣れ過ぎているのか、単純に細かいことを気にしないのか、それとも――。
「うおおおおおおおお、どこだあああでてこおおおおい!!」
その時、玉兎 小夜(ka6009)の雄叫びが自然公園に響き渡った。
残っていたうさぎ達は蜘蛛の子を散らすように、一目散に茂みや雑木林に逃げていく。しかし、たった一羽のみ、赤い大きな瞳で小夜を見つめているうさぎの姿があった。
「ッ、異質……」
人に慣れていそうなうさぎも細かいことを気にしないうさぎも、人の大声には怯えて逃げ出すものだ。それにも関わらず、何故か動かない白うさぎ。これは、恐らく『キモうさぎ』で確定だろう。怒り心頭の小夜は奥歯を噛み締める。
「この、兎の恥さらしめ!!」
小夜の、うさぎへの情熱が、凄い――。
エメラルドは小夜の熱気に少々押され気味であった。
「みょ、妙に熱くなっている……」
雑魔がよりによって『うさぎ』に擬態してしまったものだから、小夜の怒りは割と最初から頂点に達していた。彼女とうさぎは切っても切り離せないものなのである。
とはいえ、キモうさぎは人に害を成す雑魔。本物のうさぎへの思いはさておき、見逃す理由は何も無い。
「ギチ……ギチ、ギチ」
ハンター達の殺意を感じ取ったのだろう。キモうさぎはおぞましい声を上げ始めた。ぞわりとした悪寒が走るのを感じ、ハンター達は一度キモうさぎから距離を取る。
ぶちり、ぶちりと可愛らしかった化けの皮が剥がれていく。その異様さを確認すると共にハヤテは即座に杖を持ち替え、キモうさぎと自分達の間にアースウォールを具現させる。
しかし、それでもハンター達は、気味の悪い光景を目の当たりにするのであった。
うさぎの皮を引き裂き、ズルリと姿を現した粘液塗れの蛇のような“何か”を。
「ひぃあぁっ!?」
思わず、といった様子でエメラルドが悲鳴を上げる。百聞は一見に如かず、どんなにこの現実を頭に叩き入れていようが、嫌な光景であることには変わりがないのだ。驚いたのは何も彼女だけではない。
「うわぁ、気持ち悪いな……」
「元より雑魔とは歪んだ命とその姿……とはいうけれど、これは想定の範囲外ね」
「まぁ、偽装して油断した処を襲ってくるのは、これまでにもよくあった事だが……それにしてもやり方があっただろうに……」
真、アリア、ロニは目を細め、想像を絶する異形を今一度視界に捉える。蛇なのかミミズなのか、それとも他の生物なのか。気味の悪いその姿は、どう足掻いても擬態していたうさぎとは結び付かなかった。
「現れたね! ……って、本当にきもいんだよ!? 想像以上だよ!? 元が可愛いだけに余計に精神にくるね、これは……ッ」
顔を真っ青にして叫ぶ小鳥の言う通りこの雑魔。とても、気持ちが悪い。
変形時に飛び散った粘液はハヤテのアースウォールによって阻まれたものの、ぬるぬるとしたそれは雑魔の身体から流れ続けている。
「うぇ~、この系統の敵は苦手でやがります。あーめんどくせぇっ」
うねうねと身体を動かす雑魔を一瞥し、シレークスは聖句が刻まれし聖盾を構える。そして彼女は迷う事なく、力強く地を蹴って雑魔の下へと駆け出した。
「触れる以上、この世に砕けぬものはねぇです! 夢を砕いた代償は、砕かれることで贖いやがれ!」
皆が粘液を警戒しいきなり近付くまいとする中、飛び出したシレークスに雑魔も狙いを定めた。盾を突き出し、防御の姿勢を取る彼女に向かうはぬめりをおびた巨大な尾。それを受け止めるシレークスの身体に、大量の粘液が掛かった!
「シレークス!」
真が叫ぶ。仲間達も彼女の様子を伺った。粘液により、シレークスが纏う衣服や皮膚が溶かされた気配は無い。つまり、溶解液では無い。
「く……っ」
しかし、シレークスの様子がおかしい。やはり、何かしらの害はあったのだ。
急に力が抜けてしまったのだろうか。彼女は雑魔の重みに耐え切れずに押されまけ、盾ごと地面に叩き付けられてしまった。
「シレークス! 怖……っ、じゃなくて、行くぞ!!」
若干声を震わせながらも、エメラルドが聖剣を手に雑魔の下へ向かい、その意識をシレークスから自分へと向けさせる。ゆうるりと、雑魔の首が動いた。
聞いていた通り、雑魔の動きは遅い。他の前衛達も、すかさず雑魔討伐へと動いた。
「私の歌を聞けー、なんだよ♪」
小鳥が武器を手に舞い、歌う。剣を手に舞い、小鳥とは違う旋律を奏でるのは真だ。小鳥の歌は雑魔の力を削ぎ、真の歌は仲間達を鼓舞する。
歌声に反応してか、がさりと茂みが揺れ、黒毛と茶毛のうさぎが飛び出してきた。すかさず状況の変化に気を配っていたハヤテが大声を上げる。
「うさぎが二羽増えたよ!」
戦闘の真っ最中に出てきたうさぎである。ほぼ確実に『本物』ではないだろう。
ハヤテは杖を持ち替え、重力波によるうさぎの足止めを試みるも、ちょこまかと動き回る二羽を同時に足止めするのは難しそうだ。茶色うさぎが、ハヤテの術が及ぶ範囲から外れてしまった。
「範囲外……!」
しかし、ハヤテは焦らなかった。燐光のようなマテリアルを魔導剣と刀に纏わせ、茶毛のうさぎに近付くアリアの姿を確認していたからだ。
「月と兎。というより月と鼈かしらね。……どちらにしても、触れないもの同士」
刃物を持って近付いても逃げ出さないうさぎ。微かに聞こえて来るのは、うさぎの仮初の皮膚が裂ける音。アリアの握る刃が、鈍い輝きを放った。
「さあ、幻月を描くが如く、二刀を閃かせましょう」
●
アリアが雑魔を斬り付けた、ちょうどその時。粘液を浴びた事によって身動きが取れなくなっていたシレークスが立ち上がっていた。
「あぁ~もう、ベトベトと鬱陶しいですっ!!」
ロニが発動した『キュア』により、身体の調子が元に戻ったのだろう。まとわりついた粘液に苛立ちながらも彼女はそれらを振るい落し、自らを不調に陥らせた元凶である雑魔を殴り飛ばしながら声を荒げる。
「この粘液、触れると痺れてきやがるです! 気をつけて下さい!」
彼女は変わらず不快感を顕にしてはいたものの、効果が分かればこっちのものだと言わんばかりにその瞳は爛々と輝いていた。
「よぉし、根絶やしにしてやりますです」
そのまま白うさぎの雑魔を殴り殺しそうな勢いだが、彼女が負っている傷は決して軽いものではない。彼女の傍にいたエメラルドは思わずといった様子で叫んだ。
「シレークス、気を付けろよ!」
「エメラルド、声が震えてますよ?」
「な、何を言う!? 私は大丈夫だ!!」
状況からして、シレークスのように全く身動きが取れなくなる程ではないにしろ、不調を感じている仲間は多い筈だ。飛び出したシレークスと入れ替わるようにエメラルドは雑魔から距離を取り、魔法『ピュリフィケーション』の発動を試みた。
「ならば、少し離れた場所にいる奴らは、俺が」
今回の戦闘は、支援重視の戦いとなりそうだとロニは仲間達全員を見回した。そんな彼の後方で、ガサリと茂みが揺れた。
「! ロニさん、来ます!」
小鳥が叫ぶ。現れたのは、三毛のうさぎと垂れ耳のうさぎ。小鳥は剣を手に、標的を新たに現れた雑魔達に切り替えた……が、ロニを狙う雑魔の変化と、その攻撃の方が早い。回避は、間に合わない!
「ぐぅ……っ!」
三毛うさぎの雑魔に噛み付かれ、ロニの動きが止まる。しかし、身体中が痺れるよりも先に彼は勢いよく芝生を転がり、もう一体からの追撃は間一髪かわした。
ロニへの攻撃を外した雑魔に、勢いよく飛んできた氷の矢が突き刺さる。それを放ったのは、ハヤテだ。
「大丈夫かい?」
「ロニさんから離れろっ!」
口からロニの血を滴らせる雑魔は、小柄な身体を利用して至近距離に持ち込んだ小鳥が手にする火を纏った刃が切り裂き、その身を焦がした。
火が苦手なのだろう。雑魔が『ギャァア』と劈くような悲鳴を上げる――苦しみ悶える雑魔の背後には、白き兎の如き娘の姿。
「ヴォーパルバニーが、刻み、刈り獲らん!」
小夜が飛び上がると同時、雑魔の背から飛沫が上がる。小夜は空中で身体を翻し、握る刃を一息に振り下ろした。
ふたつの月を描く斬撃は雑魔の息の根を止め、葬る。粘液もろとも消え去ったのを確認し、小夜は「ふぅ」と息を吐いた。
倒した雑魔は、これで一体。しかし、全て片付け終わるのも時間の問題だろう。力が強く、身体を麻痺させる粘液を持つとはいえ、基本的な能力はそう高くないらしい。
周囲の警戒を続けていたハヤテが「恐らく五体で全てだ」と告げる。ハンター達は頷き、ラストスパートと言わんばかりに全力で残った雑魔を討ちに向かった。
「神の威光、其の背に刻んで逝きやがれっ!!」
火が効くということは、単純な物理攻撃よりも魔法が効くかもしれない。そう考えたシレークスは白うさぎの雑魔に光の鉄拳を下し、葬り去る。ほぼ同時に、対峙していた茶うさぎの雑魔にアリアがとどめを指した。
残ったのは二体。先程ロニを援護するためにアイスボルトを放ったことで敵認定されてしまったのか、垂れ耳うさぎに化けていた雑魔がハヤテを狙っている。挟み撃ちにしようと考えたのか、黒うさぎに化けていた雑魔も同様だ。
「いいかい、ボクはいたって普通の性癖をしているんだよ。触手や粘液と戯れる趣味はないんだ……それにしたって二体同時とはね、なかなか嫌な光景だよ」
ハヤテは土壁を出現させ、雑魔から距離を取る。ちょうど、直線上に二体の雑魔が並んだ。
「今だ!」
気付き、真は勢いよく白い光の刀身を突き出す。身を貫かれ、雑魔の口から粘液が散る。苦痛にもがき、おぞましい悲鳴が上がる。とどめとなったのは、追撃の形で発動したロニのプルガトリオ。全身を刃に貫かれた雑魔達は地に伏し、やがて跡形もなく消滅した。
●
雑魔消滅に伴い、周囲に飛び散っていた粘液も一緒に消滅した。ハヤテは少し残念そうな様子ではあったものの、あれが全て残るとなると後処理で大変だったに違いない。
「うえぇ……消えてくれて良かったです……」
シレークスは非常にげんなりした様子で、粘液塗れになった感覚だけが残った身体を拭う。これに関しては粘液を浴びた者全員が似たような感覚を覚えているに違いない。
ガサリ、と茂みが動いた。
「ッ!? な、なんだ、本物、か……?」
「はは、どうしてもあの雑魔の姿がチラつくな……」
戦闘が終わり、野生うさぎがちらほらと顔を出し始めた。一瞬身体を強ばらせるエメラルドに、何とも言えない表情を浮かべる真。そんな彼女らの下に、うさぎが近寄って来た。
「おっ、触らせてくれるのか」
彼らも雑魔の出現に迷惑していたのか、雑魔を退治したハンター達に気を許してくれた……のかもしれない。ふかふかでもふもふな手触りは、彼らが『本物』であることを証明してくれた。
「これは確認の為であって兎さんと戯れているわけじゃないんだヨ?」
あくまでも『確認の為』だと主張しつつ、うさぎと触れ合う小鳥の顔がほころんでいる。
気持ちの悪い雑魔と対峙して荒んだ心も癒された。この場所ももう、大丈夫だろう。
「あら?」
うさぎと別れ、帰路に着こうとしたハンター達の視界に怯えた眼差しでこちらを見ている少女が映った。その姿を見て、アリアは微かに目を細める。
「雑魔の……あの、悪夢の塊のようなものの被害者、ね」
少女の手に抱かれているのは、少しくたびれたうさぎのぬいぐるみ。うさぎに恐怖心を抱きながらも、うさぎへの憧れを捨て去ることが出来なかった。そんなところだろう。
「……」
少女の、見開かれた大きな瞳に小夜が映り込んだ。気付き、小夜は全力の笑みを浮かべてみせる。ちゃんと笑えていたかどうかは、少々怪しいところであるが……。
「やー、こんにちは? よくわかんないけど、ウサギだよー」
うさぎ、という単語に少女は身体を震わせる。警戒心の強い野生のうさぎと戯れるのは、まだ難しいかもしれない。そう思い、小夜は配下のうさぎ――『月兎』と『因幡』を呼んだ。
「っ、ひ……!」
「大丈夫。何も起こらないよ」
生きたうさぎを目の当たりにし、少女の顔が強ばる。しかし、好奇心には勝てなかったのだろう。少女は近くに寄ってきた二羽のうさぎに恐る恐る手を伸ばし、艶やかな毛に触れた。二羽はただ、じっと少女の傍に佇んでいる。
「わぁ……っ」
彼女は瞳に涙を浮かべつつ、嬉しそうな笑顔を見せてくれた。その顔を見て、小夜は満足そうに頷く。
「かの邪知暴虐なる輩は葬った。本当の兎はこっちだから、安心してね?」
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シレークス(ka0752)
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/16 13:10:42 |
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作戦相談卓 玉兎 小夜(ka6009) 人間(リアルブルー)|17才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2018/04/17 00:39:34 |