女将軍と開かずの金庫

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/04/17 12:00
完成日
2018/04/25 16:47

このシナリオは5日間納期が延長されています。

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とおる

オープニング


 星加 籃奈(kz0247)の夫が最後に乗っていたCAMから回収してきた通信ボックス。
 その解析が終わった。技術担当者は深いため息と共に、音声データと報告書やボックスを手渡ししてきた。
「……何か判明しましたか?」
「想像していた以上に……」
 技術担当者はそう前置きしてから言った。
 籃奈の夫が戦死した作戦が失敗した理由は、夫が無茶な突撃をした訳ではなく、上官による身勝手な作戦変更によるものだった。狭いトンネルに身動きが鈍くなるのを承知で大軍を攻め込ませたのだ。
 その上官は現在、軍に所属しつつ、コンフェンサーの評価担当者の一人でもあった。
「薄々、そうだとは思ったわ」
「……それと、それだけじゃないのです。最後の方のデータになりますが……」
 通信が記録された報告書を指さす。
 そこには、籃奈の夫と上司の会話がこう記されていた。


『君が悪いのだよ。我々の関わりを告発しようとするからだ』
『この無謀な作戦は、最初から俺を消す為なのか』
『まさか、優秀な戦力である君を失うのは私として損失だよ。ただ、こうなっても、私は痛くも痒くもないという事だ』
『俺は必ず生きて返る。不正をしたお前を絶対に許さない!』


 結局、籃奈の夫は歪虚との戦いで戦死している。
 遺体は見つかっていないが、あの戦いでは珍しい事ではなかった。
 強い負のマテリアルに当てられ遺体が消滅したか、狂気の歪虚に喰われたかしたのだろう。
「上司が不正……」
 険しい表情で籃奈が呟いた。
 夫は昔から真面目な性格だった。軍需産業体との癒着疑惑があると生前、言っていた気がするのだ。
「だから、あの男、ああ言ったのか……」
 それはコンフェンサーの実戦試験に臨む前の話だ。


『……そこまでの意気込みか。なら、仕方ない、か……。まぁ、私が君達の面倒を見てもいいんだがね。どうだ、そのつもりになるのであれば、次回のコンフェッサーの評価試験……甘く見られるが』
『必要ありません。コンフェッサーの出来は、充分です』
『……そうか。なら、構わないのだよ。精々、頑張るんだな』


 この会話の後だ。実戦評価の場所が急遽変更になったのは。
 十分に怪しい材料が揃っている。だが、肝心の不正の証拠は分からない。
 一先ず、通信ボックスの解析を終え、籃奈は祖国へと帰るのであった。


「母さん、お帰りなさい」
 家に帰って出迎えたのは一人息子の孝純だった。
 想像していた通り、家の中は綺麗にされていた。真面目な父に似て、この子もまた真面目に育った。
「ごめんね。長い間、帰って来れなくて。寂しくなかった?」
「大丈夫だよ。むしろ、鳴月さんが家を汚すから、そっちの方が大変だった」
「……分かった。後でよく言っておくわ」
 苦笑を浮かべる籃奈。
 担当していたコンフェンサーも少数ながら無事に量産が開始されているので、技術屋としては束の間の休暇だった。
 むしろ、大変なのはこれからだ。現場から得られた情報をフィードバックしていかなければならない。また忙しい日々になるだろう。
「そうだ。母さん……これ、父さんの部屋を片付けていたら出てきたんだけど……」
 孝純が手にしているのは小さい金庫だった。
 ただし、その作りは安物ではなく、確かな作りのものだった。例え、家が爆破されても金庫は無事だろう。
「初めて見るわ」
「ダイヤルと鍵が必要みたい」
 8桁のダイヤルだが、籃奈には見当がつかない。
 真面目な夫が教えるはずも無いし、そもそも、金庫の存在自体、初めて知った。
 該当するような鍵も思い当たる節は無かった。
(これだけ厳重なのは……もしかして、不正の証拠が入っている可能性も?)
 心の中で呟く籃奈。
 これはなんとしてでも金庫を開けたい所だ。しかし、中の物が重要な物であればあるほど、頼れる人は少なくなる。
「……ハンター達なら、なんとかできるだろうか」
「それなら、明日、鳴月さんが来るって」
 ワクワク感が溢れ出す孝純だった。


 翌日――籃奈から金庫の話をされた鳴月 牡丹(kz0180)。
 にこやかな表情で拳を掲げた。
「物理的に壊すとか、まさかとは思うけど、しないよね」
「と、と、当然じゃん!」
 牡丹は振り上げた拳でワザとらしく頭を掻く。
 壊せない事は無いかもしれないが、金庫を壊した衝撃で中の物が壊れてしまう可能性がある以上、やはり、金庫は壊せないだろう。
「これは、あれだね。ハンター達に頼むよ」
「手配の仲介を頼んでいいかい?」
「もちろんさ! というか、僕自身が気になって仕方ないからね!」
 グッと親指を立てた牡丹の目は、昨日、孝純が見せた目と同じだった。
「それで、金庫を開けるには8桁のダイヤルと、鍵が必要なんだっけ?」
「何かヒントになるようなものがあればと思ったけど……」
「うーん……」
 頭に手をやりながら必死に考える牡丹。
 だが、何も思いつかなかった。というか、考えるより体が先に出る性格なので、こればかりはどうしようもない。
「まっ! ハンター達からヒントを貰うといいかもよ!」
「ねぇ、母さん。鍵なら知ってるかもしれない」
 唐突な孝純の台詞に驚く籃奈と牡丹。
 孝純はある写真を持ち出してきた。それは、一家でよく行くキャンプ場だった。
「あぁ!」
「なんだいなんだい?」
 パンと手を叩く籃奈。一方、牡丹は首を傾げていた。
「このキャンプ場、父さんがいつも借りているエリアがあるんだけど、時々、父さんだけで行く事があったんだ」
「……つまり、キャンプだけじゃなくて、別の事をしていた可能性も?」
「これは決まりか。ちょうど良い季節になってきたし、宝探しついでにキャンプに行こうか」
 籃奈の提案に、孝純と牡丹は目を合わせ、大きな歓声を挙げたのであった。

リプレイ本文


 幸いな事に春の陽気な暖かさにキャンプ場は包まれていた。
 新緑の葉を開かせた木々が美しい中、爽やかな風が一行を迎える。
「……良い所ですね」
 ヘルヴェル(ka4784)が風になびく長い髪を手で抑えながら呟いた。
 これなら、アウトドア好きな人が通っていたと言われても、何の疑問も抱かないだろう。
 興味津々といった表情でイレーヌ(ka1372)も声を挙げる。
「キャンプか。あまり経験が無かったから楽しみだな」
「あの……イレーヌさん、動きにくいです」
 男の子の体を抱き締めているイレーヌ。
「挨拶のハグ程度で恥ずかしがるようじゃ、この先が心配だから、教育してあげてるんだよ」
 孝純の顔は真っ赤に染まっている。
 女の子慣れとかそういう訳ではなく、純粋に恥ずかしいのだろう。
 微笑ましくそれを眺める星加 籃奈(kz0247)に、孝純に聞かれない声の大きさで龍崎・カズマ(ka0178)が話し掛ける。
「金庫の中に……不正の証拠、なあ」
「厳重な金庫に入れていたのは、実は想い出の品でした……みたいな事をする、お茶目な人ではなかったからね」
 懐かしむように開かずの金庫を撫でる籃奈。
 きっと、真面目一筋な人だったのだろう。
 疑問を抱くようにアイビス・グラス(ka2477)が人差し指の先を口に当てながら、唸っていた。
「鍵の場所探しと、暗号解読ねぇ……」
「さすがのハンターでも骨が折れる事かな」
 ニヤニヤと挑発的に言ったのは、鳴月 牡丹(kz0180)だ。
 ハンターの役目はなにも歪虚退治だけではない。探索や調査という依頼もある……が、アイビスは苦笑を浮かべた。
「私そう言う、頭使う事とか苦手なんだ……けど、牡丹さんだけには負けたくないしなぁ」
「僕に負けるようじゃ、ハンターとして危ないよ」
 真顔で応える牡丹に思わず、アイビスは「えっ!?」と発した。
 これは……マジで負けられない戦い(?)になるのかもしれない……。
 そんな空気が流れる中、一行の先頭を意気揚々と進む時音 ざくろ(ka1250)が振り返った。
 その瞳は、キラッキラに光っていて眩しい程だ。これが冒険家か。
「キャンプに行って、籃奈の亡くなった旦那さんの隠した鍵を探しだし、パスワードの手掛かりのヒントを考え金庫を開ける、大冒険だよ!!」
 冒険家としてのプライドというのか、誇りというのか、彼のやる気は漲っていた。
 その心中には、亡くなった人の無念を晴らしたいという熱い想いもある訳だが。
 兎に角、必要な情報は、キャンプ場に到着するまでの間に籃奈親子から聞き取っていた。後は、探索あるのみだ。


「ここだね。私達がいつもテントを張っていた場所は」
 キャンプ場の奥まった一角に案内して、籃奈がハンター達に言った。
 念のため、管理人が帳簿を確認し、一人で来た時も同じ場所を使っていた事をヘルヴェルが補足する。
「……それと、特に何か預かっている品は無いという事です。契約の更新も自動で続けられていたそうです」
 少なくともキャンプ場の管理人が何か知っているというのは無さそうな線であるようだ。
 それが分かっただけでも、彼女が調べた意味は大きいだろう。
「後は林や山裾、洞に隠してある可能性も有るますね。区画からそう遠く離れていないでしょうか?」
「そうだな。探索の中心点は『いつもテントを立てていた場所』になるかな」
 やや疑問形で応えたのは、カズマだった。
 丹念に地面を確認する――特に痕跡のようなものは見当たらない。
「それにしてもこの広さの中から、鍵一つ……か」
 彼の言葉に全員が周囲を見渡す。
 何か手掛かりのようなものが欲しい所だ。
「ちょっと絶望的に感じるけど、鍵が生身で隠してあるとは思えないよね」
 難しい顔でアイビスが木の幹に手を触れる。
「外気に触れない様に何か密閉できる容器に入れた状態で、地面の下とか、観察すれば見分けのつく木々の根とか、そういう所はどうだろう?」
「それはあり得そうだ。そんな訳で、これだよ」
 イレーヌが取り出したのは、一枚のハンカチだった。
 柄は男物だ。当然、イレーヌの物ではない。
「これは、父さんが使っていたハンカチだよ」
 さり気なくフォローする孝純。彼が言われて用意したのだ。
 そして、イレーヌは連れてきた狛犬にハンカチを嗅がせる。
 スンスンと鼻を鳴らし――ブフーと吐き出した狛犬は……飼い主を見つめるだけで動かなかった。
「……イレーヌさん。犬に探させようと?」
「そうだが?」
「多分……ちゃんとした訓練を受けていない子には難しいかも……」
 なんだって! という驚きの顔のイレーヌに、何故か申し訳なさそうな孝純だった。
「そんな事もあろうかと」
 次に出てきたのは、フクロウに似た鳥型の幻獣――モフロウ――だった。
 これで上空から探すつもりなのだろう。
(多分……木々の葉で地上は見にくいかもしれないだろうけど……)
 孝純は思った事を口に出さなかった。
 これが落葉樹ばかりの林であれば、意味はあったかもしれないし、こればかりはある意味、運としか言えないだろう。
「見えないけど、諦めないよ!」
 ちなみに、ざくろも同じ方法を試みていた。
 彼はテントを立て終えるとすぐにファミリアズアイで上空から観ようとしたのだ。
 だが、見えない程度で彼の冒険が終わる訳ではない。
「環境の変化が激しくなりそうな場所も、隠し場所から除外できると思う」
「……凄い。ざくろがいつになく冒険家だ」
 思わず感心したイレーヌの言葉に照れながら、ざくろは言葉を続けた。
「掘り起こした跡や、木の洞、生き物の巣穴なんかに隠してあるかもしれない」
「なるほどです。生き物の巣穴ですか」
 ヘルヴェルが頷いた。
 例えば、兎や啄木鳥は巣を作る。その巣跡を使うという可能性は十分にあり得るかもしれない。
「流石だね。それだけの推測が出れば、なんとかなるかもよ。後は人海戦術でさ」
 考える時間が終わったとばかりに退屈そうに座り込んでいた牡丹が立ち上がる。
 一同はお互いに顔を見合わせ、力強く頷いた。


 結局、金庫の鍵はカズマが見つけた。カプセル状の物を、幹を削ったなにかの鳥の巣跡から見つけ出したのだ。
 もっとも、これは彼だけの功績という訳ではない。推測の過程、効率よく探す為の仲間の工夫があったからこそだろう。つまる所、彼に運が向いていたという訳だ。
「さて……鍵は見つかった訳だが……」
 籃奈に鍵を渡しながらカズマは言う。
 開かずの金庫を開けるには、鍵ともう一つ、暗証番号があるからだ。
「暗証番号については……無難に考えれば、大切な日とか考えられるか」
「それは私も思ったな。8桁で浮かぶとなると、藍奈の夫・藍奈・孝純の誕生日あたりだが……あとは結婚記念日?」
 イレーヌの言葉にアイビスも頷く。
「籃奈さんと出会った日というのも。特別な日……とか」
「えと、メモに書いていきますね」
 謎解きが得意なのか、孝純がペンを走らせる。
 何回かトライしたらロックが掛かる――という仕組みではない金庫で良かったというべき所だろう。
 8桁の数字が記されていくのを、前屈みになりながら覗き込むヘルヴェル。
「キャンプ場の番地やエリア番号、一人でいっていた月や日付、借りた日というのもあるかな」
 真面目な性格だったという籃奈の夫が設定するのだ。
 無駄にランダムな数字という可能性もあるが、万が一の事を考え、家族には分かる数値にしている可能性もあるはず。
「大体、列挙したら、こんな感じになります」
 孝純がメモを藍奈に渡した。
 それを一つ一つ間違いが無いように金庫の番号を打つ。
「……ダメね」
 落胆する藍奈の肩に、アイビスがポンと肩を叩く。
「諦めるのは早いよ。きっと、旦那さんと籃奈さんでしか知りえない特別な日ではないかと」
「そうね……」
 思い当たる記念日を片っ端から打ち込むが、どれも当たりはでない。
 そんな中、ざくろが真剣な表情でどことは無しに周囲の景色の一点を見つめていた。
 家族にも見当がつかない番号を設定したとすればアウトだが、どこかにヒントがあるはず。
 鍵の場合、『よく通っていた』という行動をヒントとして残したとすれば……。
「……一緒に初めてキャンプに来た日とか」
 ボソリと呟くように口にした台詞。
 まるで電撃が走ったように藍奈が背筋を伸ばした。
 鍵の場所自体のヒントとしてキャンプ場ではなく、“金庫を開ける”という事自体のヒントとしてキャンプ場だったのかもしれない。
 震える指先で8つの番号を押し――。
「……違うみたい」
「例えば、家族全員ではなく、『籃奈さん』と来た日とか」
 ざくろの言葉に、テント区画の管理簿を借りていたヘルヴェルがペラペラと捲る。
 年月はかなり前まで遡るようだ。だが、利用者全員の名簿ではないので、籃奈の名前が記されている訳ではない。
 記憶を呼び戻すように籃奈は悩みながら、金庫の番号を再び打ち込む。

 カチャ

 静かに、金庫が音を立てた。
「……そんな日、覚えている訳ないじゃない」
 その日はきっと、藍奈の夫にとって、思い出がある日だったのかもしれない。
 大切な思い出の品に触れるような優しい手付きで金庫の蓋をゆっくりと開ける。
「なんだいこれ?」
 覗き込んだ牡丹が首を傾げる。
 そこにあったのは、何かのチップのようなものが透明な保管カプセルの中に入っていたのだ。
「記憶メモリーの類か……」
 カズマの推測に、藍奈は頷いた。
「きっとそうだと思う」
 このチップには、一体、何のデータは何が入っているのか。
 それは帰ってからのお楽しみという事だろう。
「無事に金庫も開いたし、キャンプの続きだよ!」
 感傷に浸るという事は苦手なのか、あるいは何も考えていないのか、牡丹が手を叩きながら、元気な声で全員に呼び掛けた。
「まぁ、その方が明るくていいか」
「真面目な台詞を言いながら、僕の尻を撫でる人も同じだよ!」
 お互いに腕を出して構える牡丹とイレーヌのやり取りに、目尻を手で抑えながら藍奈が微笑を浮かべたのだった。


 ハンター達は、推測とそれに基づく探索で開かずの金庫を開くことが出来た。
 見つかったチップから不正データの証拠が見つかる事になるのだが……それはまた別の話である。



 春とはいえ、夜になれば流石に冷え込むのは当たり前の事。
 焚き火を囲む面々にアイビスが小皿を皆に分かるように置いた。
「大人数だと好みが分かれるからね」
 小皿に入っているのは調合済みのカレースパイスだった。
 これなら、辛さ調整が出来て良い。
「それで、こっちは、肉。クリムゾンウェストの辺境部族風のハーブ焼きだよ」
 もはや調理担当のアイビスというべきかもしれない。
「肉なんてあったの!?」
 牡丹が驚きの声を挙げた。
 作っている最中から何かとつまみ食いに来ていた彼女に、適当な餌をあげていたようだ。
「孝純君の大事なキャンプ料理体験の邪魔をするからだよ」
「とても勉強になりました」
 頭を丁寧に下げる孝純。
 きっと、料理の仕方というよりかは、つまみ食いに来る厄介な相手のあしらい方を一番に学んだ――のかもしれない。
「その、お姉さん的ポジずるいよ、アイビス君」
「それなら、ヘルヴェルさんも同じだと思うけど」
 牡丹の恨めしい台詞をサラっと流す。
「私はアイスを一緒に作った程度だから」
 カレーにトッピングする具材を何気なしに孝純に渡しつつ、応えるヘルヴェル。
 ちょっとした合間の時間を見計らって、孝純と即席のアイスを作っていたのだ。それには、イレーヌも一緒だった。
「孝純君と一緒にアイスを作るのは楽しかったよ」
「思うんだけどさ、イレーヌ君もずるいよね」
「その時間、牡丹はカズマとお楽しみしていたじゃん」
 唐突に自分が引き出され、カズマはカレーをむせ込んだ。
 ここぞとばかりに、イレーヌはイヤらしい視線を向ける。恋バナはこういうシチュエーションでは絶好の肴だ。
「ナニしてたのさ? どこまで進んだのかな」
「何もないさ。どつきあいだよ」
 その言葉に、今度はざくろがお茶を噴出した。
 想像力豊かな冒険者には、十分過ぎる言葉だろう。
「大丈夫?」
 心配した藍奈がタオルを渡そうとし、それを受け取るざくろの手が止まった。
 ここでラキスケの神が降臨しそうだったからだ。無造作に袖で顔を拭き、ざくろは自分を落ち着かせると、咳払いをしてからギターに手を伸ばした。
「だ、大丈夫だから」
「顔真っ赤だよ、ざくろ」
 イレーヌの指摘に対して誤魔化すようにざくろはギターを弾きだした。
「そういえば、孝純君はお父さんとキャンプでどう過ごしていたんだ?」
 場の流れを変えるようにカズマが孝純に尋ねた。
「父さんは、いつもキッカリしているけど、キャンプだと結構適当だったかな。何でも、手伝わされたし」
「まぁ、確りしている人もどこかで息抜きもいるだろうからな」
 そんな風に答えつつ、カズマは心の中で別に感じていた。
 色々と手伝いさせていたのは、きっと、孝純の成長に期待しての事かもしれない。真面目で家族思いの良いお父さんだったのだろうと。
「……カズマ君もずるい」
 ジッと彼の横顔を睨みながら牡丹が頬を膨らませた。
 どうやら、孝純君の年上的ポジを狙っているようなので、ライバル視しているのだろう。もっとも、端から勝負になっていないのだが。
「そう言われてもな」
「僕も頑張るよ! ほら、折角の宴なんでしょ。何かやるよ!」
「いや、これはキャンプであって、宴じゃね……って聞いてないか」
 無駄にやる気全開の牡丹にカズマは言葉を途中で切った。
「それなら、牡丹さん。これをどうぞ」
 ヘルヴェルが突然、どこから持ち込んだのか、怪しい服を広げた。
 漆黒のナース服だ。一体、ナニをやらせようとしているのか。
「猫耳と肉球グローブもありますよ」
「それじゃ、そっちはカズマ君が付けてよ」
 ド突き合いでも始めるつもりなのか、多感な男子もいるのに着替え始める牡丹。
 そんなカオスな状況に、ざくろが再び噴き出し、それまで静かに奏でていたギターが悲鳴にも似た音を立てる。
「ちょっと、牡丹。ここで脱がない!」
 藍奈が牡丹の腕を掴んだ。
 さすがに教育上よろしくないと判断したようだ。
「……えー。じゃ、ほら、カズマ君が着ればいいよ」
「あ。なるほど」
 ポンと手を打つ藍奈。
「なぜ、そうなる」
 こめかみのあたりを掻きながらツッコミを入れるカズマ。
「すね毛……剃った方がいいかも」
 肉をこれから捌くかのような視線でアイビスが呟いた。
 どうやら、キャンプから女装大会になったようだ。
「いや、待て。カズマの女装も楽しそうだが、女装といったら、一番似合う奴がこの中にいるだろう」
 容赦ないイレーヌの一言に、申し合わせたように全員の視線がある人物に集中した。
 その視線に、ざくろが奏でるギターの音色が、再びあらぬ方向へと飛んだのであった。


 おしまい。

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    龍崎・カズマka0178
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろka1250

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  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 白嶺の慧眼
    イレーヌ(ka1372
    ドワーフ|10才|女性|聖導士
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 絆を繋ぐ
    ヘルヴェル(ka4784
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
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最終発言
2018/04/16 12:35:19
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龍崎・カズマ(ka0178
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2018/04/16 20:57:03
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龍崎・カズマ(ka0178
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最終発言
2018/04/16 23:09:39