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【幻想】白と黒「青木燕太郎撃破」リプレイ

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作戦2:「青木燕太郎撃破」リプレイ

イスフェリア
イスフェリア(ka2088
バタルトゥ・オイマト
バタルトゥ・オイマト(kz0023
仙堂 紫苑
仙堂 紫苑(ka5953
青木 燕太郎
青木 燕太郎(kz0166
フラメディア・イリジア
フラメディア・イリジア(ka2604
ヴァルナ=エリゴス
ヴァルナ=エリゴス(ka2651
アルマ・A・エインズワース
アルマ・A・エインズワース(ka4901
レイオス・アクアウォーカー
レイオス・アクアウォーカー(ka1990
アルスレーテ・フュラー
アルスレーテ・フュラー(ka6148
セレス・フュラー
セレス・フュラー(ka6276
時音 ざくろ
時音 ざくろ(ka1250
トリプルJ
トリプルJ(ka6653
アルト・ヴァレンティーニ
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
リューリ・ハルマ
リューリ・ハルマ(ka0502
八島 陽
八島 陽(ka1442
マルカ・アニチキン
マルカ・アニチキン(ka2542
夜桜 奏音
夜桜 奏音(ka5754
金鹿
金鹿(ka5959
エステル・ソル
エステル・ソル(ka3983
鳳城 錬介
鳳城 錬介(ka6053
ルトガー・レイヴンルフト
ルトガー・レイヴンルフト(ka1847
エステル
エステル(ka5826
ローエン・アイザック
ローエン・アイザック(ka5946
キャリコ・ビューイ
キャリコ・ビューイ(ka5044
アルバ・ソル
アルバ・ソル(ka4189
アイシュリング
アイシュリング(ka2787
マリィア・バルデス
マリィア・バルデス(ka5848
シアーシャ
シアーシャ(ka2507
ジェールトヴァ
ジェールトヴァ(ka3098
 次元の狭間『アフンルパル』は四大精霊の一人イクタサが形成した空間である。
 長く怠惰王を封じていたからか、空間内部は怠惰王の影響を受けているらしい。
 踏み込んだハンターたちを迎えたものは、黄昏のセピアの中に聳える城と――その前に立つ黒衣の男だった。
「バタルトゥさん、一旦下がって! 支援するから!」
 双剣で青木の攻撃を受け流したバタルトゥ・オイマト(kz0023)に声をかけるイスフェリア(ka2088)。
 仙堂 紫苑(ka5953)も注意深く様子を伺う。
「……青木、いつもと様子が違うな」
 いつもであれば涼しい顔をして不敵な笑みを浮かべていることが多い彼が、今回は――。
 目が血走り、こうしている今も右腕がミシミシと音を立て続けている。
「さて青木よ。そろそろ結着を……と思うたが、何という体たらくかの。力を求めすぎて本末転倒となっておるんじゃないかの?」
 呆れたようにため息をつくフラメディア・イリジア(ka2604)。
 ――青木がこうなったのも、ただひたすらに力を求めたからだ。
 結果的に、彼は『力』に飲まれようとしているが……これが歪虚としてではなく、精霊の加護を受けたハンターであったなら――。
「歩む道が違えば、傑物として仰ぎ見たやもしれませんね」
 ヴァルナ=エリゴス(ka2651)の呟きに頷くハンター達。
 ――青木達の乗っている哨戒艇が、違う場所に転移していたら。
 彼が歪虚に出会わなければ……。
 この事態はリアルブルーから転移した者にとっては誰もが起こり得ることだった。
 この些細で、埋めようがない決定的な差。
 運が悪かった。一言で言えばそうなのだろう。
 だが――決着をつけなければならない。
 アルマ・A・エインズワース(ka4901)は困ったような顔をすると、ぺこりと頭を下げた。
「燕太郎さん。僕、貴方に謝らないといけないです。燕太郎さんの事嫌いな理由、わかったです」
 ――好きなものに対する想いや行動がとても似ているのだ。
 僕の嫌いな『僕』。
 あってはならない自分。
 ……もしかしたら、少し道を違えていたら。自分もこの人のようになっていたのかもしれない。
「……同族嫌悪って言うんですよね。燕太郎さん悪くなかったです。ごめんなさい」
 その達の声に応える様子もなく、顔に苛立ちを滲ませる青木。
 無言で振るわれた槍を、星神器に秘められた戦神としての力を解放し、『無敗』の力を顕現させたレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が受け止める。
「……っ! 問答無用ってワケか。噂と違って随分と怠惰寄りだな」
「っていうか、私の時と随分態度違わない!!?」
 プリプリと怒るアルスレーテ・フュラー(ka6148)。
 前回青木と対峙した時、腹立たしいことに――ソードブレイカーを警戒していたのか、彼女に対して積極的に攻撃を打ち出して来なかったのだ。
「まあまあ、それだけお姉様を厄介だと思ってたんじゃないの?」
「厄介とは失礼ね! ちょっとツナサンド勧めただけじゃない!」
 宥めるセレス・フュラー(ka6276)にがるるると吠えるアルスレーテ。
 ――セレスが言う通り、ツナサンド……いやいや、ソードブレイカーを警戒されていたのもそうだろうが、同時に今の青木は『そんなことを考える程の思考力もない』状態とも言える。
「こんな状態になっちゃったらレギに会わせるどころじゃないじゃない! もう! 今回こそは絶対ツナサンド食わせてやるんだから!!」
「頑張って! 応援してる!」
「ありがt……誰?」
「えっ。やだな! ざくろだよ!」
 フードに金髪を隠し、マスクで顔を覆って応援してきた不審者に率直な感想を漏らした彼女。
 変装していた為分かり難かったが、どうやら時音 ざくろ(ka1250)であるようだ。
「……お前、何だってそんな恰好してんだ?」
「あ、これはちょっとした……うわあっ」
 あんぐりと口を開けているトリプルJ(ka6653)に答えようとしたざくろ。
 再び振るわれた槍を咄嗟に避けて――そこに、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)がスッと入り込む。
「エンタロウ……。一つ聞きたい。オーロラはお前が父親に……家族になりたかった人か?」
「う、るさい……! お前には関係ない……!」
「ああ、そうか。そうかもしれないな」
 ゆらりと動く青木を見据えるアルト。一気に踏み込んで黒い歪虚の顔に拳を叩き込む。
「腑抜けてんじゃねぇぞ、エンタロウ! 親父になりてぇんなら、力ごときに取り込まれてんじゃねぇ!」
「ちょっ。アルト、出会い頭に顔面パンチは乙女としてどうなのよ!」
「お姉さまがお世話になってるしちょっとくらいはいいと思う」
「ぐーぱんちは私の専売ーー!!」
 アルスレーテのツッコミにズレたコメントをするセレスとリューリ・ハルマ(ka0502)。
 素手で殴られたのは屈辱的だったのか。青木の怒りに任せた攻撃は直線的で……八島 陽(ka1442)が盾で槍を弾く。
「……本当に変わっちまったな、あんた。だが……ここで止める」
「ごちゃごちゃと煩い……! 黙って消えろ! それが出来ないなら……!」
 吠える青木。金色に変化する目。
 右手をまっすぐに。そして左手を折り曲げて……見覚えのある動きにマルカ・アニチキン(ka2542)が叫ぶ。
「来ます! 奏音さん!」
「任せてください!」
 それに応え、符を構える夜桜 奏音(ka5754)。
 その瞬間、青木は全ての意識を奏音に向けた。
「また貴様か……!!」
「……残念でしたわね。黒曜封印符を使えるのは、奏音さんだけじゃございませんのよ?」
 背後から聞こえる金鹿(ka5959)の冷たい声。
 投げられる符。発動した封印術。
 力を抑え込まれる感覚に青木が舌打ちする。
「金鹿ちゃん! 流石です! すごいです!」
 お友達が見事青木の行動を封印し、喜ぶエステル・ソル(ka3983)。
 封印には成功したが、スキルを封印し続ける為には集中が必要になる。
 術を行使している間、金鹿は能動的な行動を一切取れない。
 攻撃を食らったら、困ったことになる。
 ――この状態を良く理解している奏音は、金鹿が所属する右翼班に向けて叫ぶ。
「右翼班! 金鹿さんの護衛をお願いしますね!」
「了解です。任せておいてください」
「はいです! 金鹿ちゃんを守ります!」
「んじゃ、俺達は奏音の護衛といこうかね!」
 頷き、金鹿の傍に控える鳳城 錬介(ka6053)。青い髪のエステルが修祓陣を展開し、フォトンバインダーを構えたルトガー・レイヴンルフト(ka1847)がニヤリと笑い……ハンター達が散会する。
「お姉さま、支援しますから思い切りやってください!」
「とはいえ、君が支援の要なんだから無茶はしないようにね」
「分かっています!」
 マテリアルの光で周囲を鼓舞し始めるエステル(ka5826)に、オーラ状の障壁を付与しながら言い含めるローエン・アイザック(ka5946)。
 セレスもきびきびとした迫力のある歌とステップを詠唱し、仲間を鼓舞し始める。
「ありがと。行こう、リューリちゃん」
「うん……!」
 抜刀したアルトに頷くリューリ。
 行かなくては。……あの人の想いを届ける為にも。


「アルマ! 衝撃派来るぞ!!」
「……!」
 青木めがけて炎を放射していたアルマの耳に届くキャリコ・ビューイ(ka5044)の声。咄嗟に反応したアルマ。
 すんでのところで回避し……爆風は空気を震わせて、アルマのコートを揺らす。
「相変わらず馬鹿高い威力だな。食らったらひとたまりもないぞ……」
「アルマを狙う智恵は残ってんのかよ。まー、威力こそ強いが、そう簡単に軌道を変えられるものでもないらしいな。そこが救いか……」
 キャリコと紫苑の分析に頷くアルマ。
 衝撃波は広範囲である為至近距離では回避は難しいが、遠くから来る分には軌道が読みやすい。
「キャリコ、アルマ。狙撃続けるぞ。この調子なら多分デッカイ隙が出来る筈だ。それまで待つ」
「了解」
「分かったです」
 紫苑の指示で再び砲撃に戻るキャリコとアルマ。
 ――早々にスキルを封じることに成功したハンター達だったが、それからは膠着状態が続いた。
 黒弓や投擲槍と言う大技は封じることが出来ているが、衝撃波についてはそのままだ。
 黒曜封印符が使えるものが複数いるのだから……とも思うが、そもそも、同一の対象に対し同一のスキルが使用できるのは一つだけ。
 現状、金鹿が黒曜封印符を使っている状態で更に重ねた場合、先に使っていたスキルは解除されてしまう。
 結果、黒曜封印符の使い手が複数いても1つのスキルしか封印出来ないということになる。
 別なスキルがあれば話は違ったのだろうが、残念ながら今回の作戦でそれに対応できる者はいなかった。
 ……だが、ハンター達はこれまでに何度も青木と戦っている。
 ただやられている訳ではない。
 左翼班と右翼班が時折混じり合いながら、膠着しつつも黒い歪虚をじわじわと追いつめていた。
「タイミング合わせるぞ! 一斉! 掃射!!」
「鳥さん! お願いします!」
「了解! 行くぞ!!」
「お任せください!」
 陽とエステル、アルバ・ソル(ka4189)から同時に発射される15本の光の矢。
 魔箒に乗ったマルカ。射程距離を伸ばしたアブソリュートゼロが同時に青木に襲いかかる……!
「ぐっ……!」
 咄嗟に衝撃波を打ち出した青木。己に向かって放たれた攻撃を全て打ち消すことは出来ず、数本の光の矢が彼に吸い込まれる。
 踏み込むレイオス。閃く2本の剣。怒涛の三連撃を叩き込む。
「どうした? ビックマーがオーロラを護ろうって気迫はこの程度じゃなかったぜ」
 金色の双眸でレイオスを睨む黒い歪虚。
 その目線は、後方で集中を続けている金鹿に移り――。
 仲間達に守られ、術を行使し続ける金鹿。
 ……今己が成すべきは、術を途切れさせないことだ。
 仲間達を信じて。ただただ一心に……!
「くそっ。忌々しい……!」
「そうは問屋が卸しませんよ……!」
 舌打ちし、金鹿に迫る青木。同時に奏音の手から放たれる符。張られた結界から溢れる光が黒い歪虚を焼く。
「おのれ……! お前は殺す……!!」
「させません……!!」
 奏音めがけて振るわれる槍。そのダメージを引き受けるヴァルナ。
「アアアアアアアアアアアアア!!」
 続く咆哮。ミシミシと音を立て続ける右腕。痛みと右腕が思うようにならない苛立ちか、槍を振り回す青木。
 フラメディアは鎧受けでその攻撃を受け止める。
「ふん。なんじゃ、ただの暴力ではないか。これではおぬしの持ち味が全く活かせんじゃろうに……!」
 彼女の呟きに無言を返す青木。その代わりにレイオスが答える。
「何だか残念そうだな」
「賢いあやつと戦うのが楽しかったのじゃ。これではただの押し合い相撲じゃろ」
「こんだけ強けりゃ押し合い相撲も悪くねえと思うがな……!」
「いやいや、相撲じゃ済まないよね!? 結構痛いんだけど!?」
 強化術式で己の武器を強化しつつ、連携の取れた動きを見せるざくろ。
 今回何故か見た目はまるっきり不審者だが、この男本気を出せば強いのである。
 しかし、さすがの勇者といえども無傷では済まなかったらしい。
 そんな彼にアイシュリング(ka2787)がそっと声をかける。
「……ざくろさん、回復するわ」
「あ、ありがとう!」
「本職ではないので、アンチボディしかできないのだけれど……ごめんなさいね」
「ううん! 有り難いよ!」
「頭、重そうだけど大丈夫?」
「あ、うん。これ作戦なんだ!」
 フードから覗く金髪のかつらを揺らして笑うざくろ。
 青木が『長い金髪の女性』に対して攻撃を躊躇うと聞いた為、いざという時に攻撃を一瞬止めることが出来ないかと仕込んできたのだ。
「あら。じゃあわたしも足止め出来るかしら。長い金髪だし」
「あ、ホントだ……! でも無理はしないでね」
 己の長い金髪を指さす彼女に、慌てるざくろ。
 トリプルJは、青木に仕掛けた幻影の手がスッと消えて行ったのを確認して舌打ちをした。
「……やっぱファントムハンドは効かねえか」
「青木本体の抵抗力は健在ってところみたいね」
 マリィア・バルデス(ka5848)の声に頷くトリプルJ。闇雲にハンターに突っ込んで行き、槍を振るう青木を見てため息をつく。
「しかし何だありゃ。戦術も何もねーじゃねえか」
「力を持った上に賢いままだなんて考えただけでも恐ろしいわ。逆に頭が悪くなってくれて良かったかもしれないわよ」
「それはそうかもしれないけどよ……」
「あら。何か残念そうね?」
「……色々あったことは察する。あそこに至るまでの過程もな。でも、あいつには『ヒト』のままでいて欲しいんだよ」
「……気持ちは解るけど。下手な恩情は寿命を縮めるわよ」
 そう呟いて銃を構えるマリィア。
 トリプルJと同様に思った者、そして揺さぶりは有効かもしれないと思った面々は、代わる代わる青木に声をかけ続けていた。
「ねえ、青木さん! その右腕、明らかに変な音してるよ! このままだと、ニガヨモギみたいに、記憶を失くしちゃうかも? ねえ、それでもいいの!? あなたにとって大切なのは、強大な力? それとも過去の大切な記憶? 本当に大切なものは何?」
「青木さんにとって、オーロラさんを『助ける』っていうのは、命を守ること? 一緒にいてあげること? ……それとも過去の記憶を取り戻すこと? わたし、過去のオーロラさんに会ったよ。過去のオーロラさんが、今の青木さんを見たら、苦しむと思う。命を救っても、心が救われていないから」
 必死に叫ぶシアーシャ(ka2507)とイスフェリア。
 こちらの声が聞こえているのかいないのか分からないが……それでも。
 ルドガーも澱みなく続ける。
「なあ、青木よ。このままだと、オーロラは意思なくニガヨモギを放つだけのものになって、アンタはその右腕の様子からすると、意思のない化物になっちまいそうだな。それがアンタの望んだ結果か?」
 意思なく生き長らえることは幸せか?
 彼女に人としての尊厳を与えたかったんじゃないのか――?
「なら、辛くても、歪虚としての生を終わらせてやるのが……救いなんじゃないか?」
 ハンター達に金色の目を向ける青木。
 彼らの声に不思議そうな顔をする。

 ……こいつらは何を言っている?
 わからない。言っているいみが。
 わからない。わからない。
 みぎうでが、うずく。

 ジェールトヴァ(ka3098)は変わり始めている青木を見つめてため息を漏らす。
 どこまで届いているか、理解できているか。もう分からないが……試す価値があるのであれば。
 これは、ここで仕留めなければならない。その為にも……。
「青木さん、右腕が随分と辛そうだね。余裕がない。そんな君に変わって私が考察したことをお伝えしよう」
「おまえは、だれだ」
「おや。私を忘れてしまうとは悲しいことだ。ではゴヴニアは解るかい? 彼女は人の心を操る能力があるようだ。私は彼女の力で、オーロラさんの心に干渉したよ。青木さん、ゴヴニアに利用されていないかい? オーロラさん彼女に任せていていいのかな……?」
「…………うるさい。うるさいうるさい!! ゴヴニアなど元から信じていない! 俺は、俺はあの子を……!」
 更に膨れ上がる腕。
「ジェールドヴァさん、下がって!」
 そこに飛び込んできたリューリ。
 ぶつかり合うリューリの魔斧と槍。飛び散る火花。彼女は衝撃に顔を顰めるも、そのまま叫ぶ。
「燕太郎さん! ダメだよ! 力に飲まれないで! セトさんが悲しむよ……!」
 聞き覚えのある声。揺れる長い金髪。
 ―― ……ロラ?
 いや、違う。この娘は……。
「……リューリ?」
「そうだよ! 燕太郎さん、しっかりしてよ! オーロラさんを守りたいんでしょう!? そんな力に負けるような決意だったの!?」
「……本当にしつこい女だな。何故そこまでして俺に構う」
「何でって放っておけないからだよ! セトさんにも頼まれたし!」
「セトか……。あいつはさぞ俺を恨んでいるだろうな」
「そんなことないよ。ずっと燕太郎さんのこと心配してたよ。……セトさんは誰かを恨むようなヒトじゃないって、燕太郎さんが一番よく知ってるでしょ?」
 金色の目が黒く戻る青木。
 ――何故だろう。この娘は攻撃する気になれない。
 あの子に似ているからか。それとも……。
 リューリは武器を下ろして、そのまま話を続ける。
「……私ね、セトさんの事を思い出してくれてうれしかったよ。親友に忘れられたままだったら悲しいかなって思ったんだ。……燕太郎さんもオーロラさんに忘れられたら悲しいよね」
「……思い出してくれなくて構わない。生来優しかった娘だ。自分の状況を知れば深く傷つくだろう」
「燕太郎さん……」
 青木の静かな声。紫の瞳を涙で濡らすリューリ。
 ……きっと、生来のエンタロウは真面目で、こうやって誰かを思いやれる気持ちを持つ人物だったのだろう。
 歪虚とリューリのやり取りを注意深く見守っていたアルスレーテは、隣にいるアルトに声をかける。
「……あいつ、何か素直に話してるみたいね。どうする? 攻撃続ける?」
「リューリちゃんが青木を『ヒト』で留めてくれているうちに倒そう。ここまで来たらあいつはもう引き返せない」
 ……セトの望みは、ヒトならざるものに変わった親友が『ヒトであるうちに死ぬこと』だった。それを叶える為にも、渾身の力を……!
 炎のようなオーラを纏い超加速をして連撃を叩き込むアルト。アルスレーテも一気に踏み込み、強烈な掌底を食らわせる。
「私の鎧徹し受けてみなさいな!」
「アルマ! キャリコ! そろそろ攻勢に転じるぞ!」
「分かったです!」
「了解。地獄への道を拓いてやろう……!」
 好機と覚って攻撃に転じる紫苑とアルマ、キャリコ。
 イスフェリアとレイオス、ざくろとバタルトゥによって交互に行われる剣戟。
 その隙間を縫って、陽やマルカ、アルバと青い髪のエステルから続けられる砲撃。
 繰り返される青木の槍での攻撃と衝撃波。
 仲間達は消耗をし始めていたが、錬介やジェールドヴァ、イスフェリアの支援で戦線を維持できている。
 そう……このまま行けば時間をかけても耐えられる。打ち込み続ければ青木を倒せる筈……だったのだが。


 ――その異変は不意にハンター達を襲った。
 青木と対峙し、追いつめていたハンター達に、強烈な虚脱感が襲いかかる。
「なんだ……!? 何が起こった……!?」
 フラつく身体を咄嗟に支えるトリプルJ。
 この感覚を、青い髪のエステルとイスフェリア、シアーシャは知っている。
 そう。先日、ニガヨモギの対抗策を得る為に神霊樹のライブラリで辺境を覆う嵐の記録を見た。
 間違いない。これは……。
「これ、ニガヨモギです……!」
 青い髪のエステルの絞り出すような声に戦慄するハンター達。
 これは一体どういうことだ? 想が結界の維持を出来なくなったのか……?
 詳しい状況は分からないが、とにかくニガヨモギが溢れ出している。
 ニガヨモギはまだ即座に命を奪うほど強いものではないが――気力が削がれる。立っていることが難しい。
「マズいな……」
 呟く陽。
 この状況で、青木と戦い続けるなど不可能に近い。
 それでも……ここで膝をつく訳にはいかない……!
 気力を振り絞るハンター達。

 彼らが異変に苦慮している間、青木もまた苦悶の表情をしていた。
 槍を持つ手が震えて、あちこちからミシミシと言う音を立てている。
 ――ニガヨモギは対象を選ばない。歪虚も範囲内に入れば影響を受ける。
 彼も、苦しいのだろうか。
 リューリは憶することなく近づいて、大分面代わりしたその顔を覗き込む。
「燕太郎さん、大丈夫?」
「……リュー、リ」
「うん。何?」
「――離れ……ろ! おれから……! はやく……!」

 吐き出すように告げた言葉。
 ……それが、青木が『ヒト』として。最後に発した言葉となった。


「燕太郎さん! ダメ!! 気をしっかり持って……!!」
「リューリちゃん! 危ない!」
 青木の異変に気付いたリューリ。咄嗟に親友を突き飛ばしたアルト。彼女とアルスレーテが膨れ上がった青木の右腕に薙ぎ払われる。
 次の瞬間。上がる悲鳴。
 青木の全身から溢れ出す黒い鎖。
 それは無差別にハンター達を襲うも――ラストテリトリーやガウスジェイルを展開していたルトガー、銀髪のエステル、ヴァルナ、錬介がそのダメージを一手に引き受け、一気に生命力を削られ地に伏せる。
 4人によって、大半のハンター達は黒鎖から免れることが出来たが……それだけでは済まなかった。
 聞こえる骨が軋む音。肉が割ける音。
 変わる。変わって行く。……エンタロウがヒトではなくなっていく。
「エンタロウ! 気をしっかり持て! 君は彼女を投げ出すのか!? 僕達をここまで負かしてきた相手が、得体の知れない何かに負けるなんて許せるか――!」
「こんなのに負けちゃだめです! オーロラさん、でしたっけ……あの人を『貴方』として守らなきゃ、意味ないです……!」
「――――――――――――――――――!!!!」
 叫ぶアルバに重なる青木――否、獣の咆哮。
 アルマが決死の覚悟で近づいて、機導浄化デバイスを用いた浄化術を発動するが効いた様子は見られず……大量の黒い鎖を引きずった巨大な獣が城の方へ移動を開始する。
「まずい。あいつ城に行く気だ……!」
「オーロラを探しに行くのかもしれぬの」
「大変! 止めなきゃ……!」
「どこまで出来るか分からないけど、やろう……!」
 重たい身体を引きずって、獣を追う陽とフラメディア、ざくろとシアーシャ。
 こんな状態ではまともに戦えないかもしれないが、時間稼ぎの壁くらいにはなれるだろう……。
 バタルトゥはため息をつくと、剣を収めてハンター達を振り返る。
「……ニガヨモギが発生した以上、これ以上の戦闘継続は無理だ……。ローエン、マルカ。重体の者を即刻避難させてくれ……。ここにいては命に関わる……」
「了解だよ」
「急ぎましょう」
 要請を受けて動き出したローエンとマルカ。踵を返したバタルトゥにマリィアが声をかける。
「待って。バタルトゥ。あなたどこへ行く気?」
「……このままでは、青木がオーロラ討伐部隊に遭遇するだろう。ニガヨモギの影響か、通信が通じない。危険を伝えにいかねばなるまい……」
「待ってください! わたくしも一緒に行くです!」
「……お前は先に脱出しろ。外で待機しているヴェルナーにこの状況を伝えてくれ……」
「バタルトゥさん……」
「……大丈夫だ。すぐに戻る」
 不安そうな青い髪のエステルとイスフェリアの頭をぽんぽん、と撫でるバタルトゥ。
 彼はそのまま振り返ることなく、まっすぐ城へと向かい……。
「セトさん、燕太郎さん……ごめんね。ごめんなさい……」
「いいえ。リューリさんのせいじゃないわ。むしろ良く引き留めてくれたわ」
 そして涙を落とすリューリの背を、アイシュリングが撫で続けていた。


 ――それから、どうしたのか。よく覚えていない。
 目の前にやってくるヒトを薙ぎ払い、目の前にある壁を壊して――ただただ、あの子の姿を探して、探して……。
 そして、獣は見た。
 花びらのように砕けたあの子を。その骸を。

 わすれない。わすれるものか。
 おれの、なによりたいせつだった……をころしたもののにおい!!
 ゆるさない。けっして。ゆるさない。
 あのいしくれも。
 ヒトも。
 すべてすべて――!


 ――彼の親友の願いは、叶えられることはなく。
 時空の狭間に、終末の獣の悲痛な咆哮が響いた。

執筆:猫又ものと
監修:神宮寺飛鳥
文責:フロンティアワークス

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