ゲスト
(ka0000)
瞼の裏の色
マスター:サトー

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- 参加費
1,000
- 参加人数
- 現在6人 / 4~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- プレイング締切
- 2014/12/25 12:00
- リプレイ完成予定
- 2015/01/03 12:00
オープニング
大きな樹だった。
大樹に向かって緩やかな盛り上がりを見せる、穏やかな丘陵。
見渡す限りの草原に、海岸線からの潮風が心地よく吹きわたる。
草花がそよそよと揺られ足元をくすぐるのも、男の気を惹くには脆かった。
男はもう夢中になっていた。瞳はきらきらと輝き、瞬きすら忘れて立ちすくむ。手にした剣を取り落とし、口を半開きにしているのも知らず、歓喜に震える足が棒のようになって男を地面に釘付けにする。
このような見事な樹など、今まで見たことが無かった。
これから先、これ以上のものとまみえることがあるとも思えなかった。
眼前に佇む、樹齢何百年となろう大樹に、男の心は完全に奪われていた。
大地を染める緑に色とりどりの花々がまぶされ、空を覆うはどこまでも続く清浄なる青。紺碧の空を迷子になった一塊の雲がそぞろに惑い、燦然たる太陽の陽に白々しく口を挟む。
空の高い、広々とした草原に、たった一本そびえ立つ巨木。
両手で抱き付いても全く届かない、極太の幹。
木肌はごつごつと厳めしく、大樹の名に恥じるものではない。
地を這う根はこれまた太く、長く、また一部を土から隆起させ、大地に深く根ざしている。枕にするには太すぎるが、腰を下ろすには不足無い。今まで一体何人の旅人が、この根を利用しただろうか。想像が及ぶべくもない。
四方に目一杯もろ手を伸ばし、照り付ける太陽から旅人の憩いの場を作る緑の傘。
揺らぐ枝の上で踊る若々しい葉が降りそそぎ、眠り人の顔を静かに埋めていく。
風が湿気を孕んで男の頬をくすぐった。くせっ毛がくるくると縮まり、微かに男の目をよぎる。
目に映る全てのものに畏怖と羨望をこめ、男はただただ神に感謝した。
●ハンターオフィスにて
「その方の護衛、というわけでしょうか?」
女性職員の問いに、中年の男性が首を傾げた。
「どうなんだろうな。護衛っつうより、介護の方が近いかもしれんが」
男の言葉に、職員はとりあえず頷きを返す。
「その爺さんを、ある場所に連れて行ってもらいたいだけだ」
「ある場所とは?」
「俺たちの村から北へ半日ほど行ったところにあるらしい。詳しい場所は俺も知らねえ。爺さんの話じゃ、でっけえ大木があるらしいから、行けば分かるってよ」
今度は女性職員が首を捻る。
「連れていくだけで良いのですか?」
「ああ。それが爺さんの望みなんだ。
昔、そこの樹の下に武具一式を埋めたらしい。傭兵稼業との決別、とかなんとか。兜に大きなへこみがあって、胸当てにも大きく裂かれた痕があるらしいから、すぐに分かるだろう。それらの発掘も一緒に頼もうかな」
言って、男は悩ましそうに頬を引き締め、口を結んだ。
「隣の家の爺さんはよ、ずっと一人暮らしでな。とても昔傭兵をしていたとは思えないほど気の優しい穏やかな人なんだが、もう随分と歳がいっちまってるんだ。自力じゃ、もう、動けねえほどにな。いつ死んでもおかしくねえんだよ」
男は首を左右に振って、残念そうな顔をする。
「だから最後に、五十年前の想い出の場所、ってところに連れていってやりてえんだ。
馬車は一台こっちで手配する。俺は仕事があるから一緒に行けねえが。
出発は早朝だ。話通りなら夕方には着けるはずだ。御者とかはそっちで頼んでもいいか?」
「はい、承知いたしました」
席を立った男が、あっと言って職員に向き直った。
「言い忘れてた。爺さんはもう目が見えなくなっちまってるんだ。
だから、その場所に着いたら、爺さんの目の代わりをしてやってほしい。喋ったり聞いたりする分には問題ないから、心配しないでくれ」
その話を脇で聞いて興味を覚えたあなたは、依頼を受けてみようと女性職員に声をかけようとした。そのとき、一人のハンターらしき初老の男が、あなたに声をかけてきた。
「今の依頼、受けようとしてるんだったら止めたほうがいいぜ」
なぜかと問う目を向けられ、ハンターは咥えていたタバコの火を消した。
「俺は去年そこを通って来たからだ。
あそこは、知る人ぞ知るっつう場所でな。一部の物好きには風景が素晴らしいってよく知られてたんだが、それも今は昔。栄光はいつまでも続かないもんだ。
俺が通った時には、大地は荒れ果て、ゴブリンが棲みついていた。あのどでかい巨木も落雷でずたずたにされちまってたし、この時期は特に天候不順で大変だ。今なんか、雪も降り積もっているだろうしな。昔の面影なんて、これっぽっちもない。苦労して連れていくだけ損だぜ。
爺さんだって、そんな光景知りたくないだろうさ。想い出は綺麗なままでってな」
気の毒だがな、とハンターは懐から新たにタバコを取り出し、どこかへ歩いて行った。
あなたは一瞬躊躇いを見せた後、首を振って、女性職員の下へ足を向けた。
●
「あなたがたが、件のお方たちですかな?」
依頼人の男性に肩を担がれて民家から出てきたのは、身の丈百八十はあろうかという大柄な御仁だった。傭兵をしていたという当時のことを思えば、その恵体による働きは凄まじいものだったことが窺える。
だが、現在の姿は、当時のことを知る者には、とても想像だにつかないほど痩せていた。自力で立つのも困難という依頼人の言葉通りの風体だ。
今日の為に身を清めてきたのか、白髪は綺麗に整えられ、全身を覆う麻のローブにも汚れは見られない。みすぼらしい雪駄から見える足は寒々と赤冷えし、手と同様に骨と皮だけのようで痛々しいが、老人は全く気にしていないようだった。もしかしたら、もう手足の感覚も随分と鈍ってきているのかもしれない。
「こんな爺の我がままをお聞き下さり、感謝いたします。
面倒をかけますが、暫しの間、ご辛抱くだされ」
そう言って、老人は優しく微笑んだ。
大樹に向かって緩やかな盛り上がりを見せる、穏やかな丘陵。
見渡す限りの草原に、海岸線からの潮風が心地よく吹きわたる。
草花がそよそよと揺られ足元をくすぐるのも、男の気を惹くには脆かった。
男はもう夢中になっていた。瞳はきらきらと輝き、瞬きすら忘れて立ちすくむ。手にした剣を取り落とし、口を半開きにしているのも知らず、歓喜に震える足が棒のようになって男を地面に釘付けにする。
このような見事な樹など、今まで見たことが無かった。
これから先、これ以上のものとまみえることがあるとも思えなかった。
眼前に佇む、樹齢何百年となろう大樹に、男の心は完全に奪われていた。
大地を染める緑に色とりどりの花々がまぶされ、空を覆うはどこまでも続く清浄なる青。紺碧の空を迷子になった一塊の雲がそぞろに惑い、燦然たる太陽の陽に白々しく口を挟む。
空の高い、広々とした草原に、たった一本そびえ立つ巨木。
両手で抱き付いても全く届かない、極太の幹。
木肌はごつごつと厳めしく、大樹の名に恥じるものではない。
地を這う根はこれまた太く、長く、また一部を土から隆起させ、大地に深く根ざしている。枕にするには太すぎるが、腰を下ろすには不足無い。今まで一体何人の旅人が、この根を利用しただろうか。想像が及ぶべくもない。
四方に目一杯もろ手を伸ばし、照り付ける太陽から旅人の憩いの場を作る緑の傘。
揺らぐ枝の上で踊る若々しい葉が降りそそぎ、眠り人の顔を静かに埋めていく。
風が湿気を孕んで男の頬をくすぐった。くせっ毛がくるくると縮まり、微かに男の目をよぎる。
目に映る全てのものに畏怖と羨望をこめ、男はただただ神に感謝した。
●ハンターオフィスにて
「その方の護衛、というわけでしょうか?」
女性職員の問いに、中年の男性が首を傾げた。
「どうなんだろうな。護衛っつうより、介護の方が近いかもしれんが」
男の言葉に、職員はとりあえず頷きを返す。
「その爺さんを、ある場所に連れて行ってもらいたいだけだ」
「ある場所とは?」
「俺たちの村から北へ半日ほど行ったところにあるらしい。詳しい場所は俺も知らねえ。爺さんの話じゃ、でっけえ大木があるらしいから、行けば分かるってよ」
今度は女性職員が首を捻る。
「連れていくだけで良いのですか?」
「ああ。それが爺さんの望みなんだ。
昔、そこの樹の下に武具一式を埋めたらしい。傭兵稼業との決別、とかなんとか。兜に大きなへこみがあって、胸当てにも大きく裂かれた痕があるらしいから、すぐに分かるだろう。それらの発掘も一緒に頼もうかな」
言って、男は悩ましそうに頬を引き締め、口を結んだ。
「隣の家の爺さんはよ、ずっと一人暮らしでな。とても昔傭兵をしていたとは思えないほど気の優しい穏やかな人なんだが、もう随分と歳がいっちまってるんだ。自力じゃ、もう、動けねえほどにな。いつ死んでもおかしくねえんだよ」
男は首を左右に振って、残念そうな顔をする。
「だから最後に、五十年前の想い出の場所、ってところに連れていってやりてえんだ。
馬車は一台こっちで手配する。俺は仕事があるから一緒に行けねえが。
出発は早朝だ。話通りなら夕方には着けるはずだ。御者とかはそっちで頼んでもいいか?」
「はい、承知いたしました」
席を立った男が、あっと言って職員に向き直った。
「言い忘れてた。爺さんはもう目が見えなくなっちまってるんだ。
だから、その場所に着いたら、爺さんの目の代わりをしてやってほしい。喋ったり聞いたりする分には問題ないから、心配しないでくれ」
その話を脇で聞いて興味を覚えたあなたは、依頼を受けてみようと女性職員に声をかけようとした。そのとき、一人のハンターらしき初老の男が、あなたに声をかけてきた。
「今の依頼、受けようとしてるんだったら止めたほうがいいぜ」
なぜかと問う目を向けられ、ハンターは咥えていたタバコの火を消した。
「俺は去年そこを通って来たからだ。
あそこは、知る人ぞ知るっつう場所でな。一部の物好きには風景が素晴らしいってよく知られてたんだが、それも今は昔。栄光はいつまでも続かないもんだ。
俺が通った時には、大地は荒れ果て、ゴブリンが棲みついていた。あのどでかい巨木も落雷でずたずたにされちまってたし、この時期は特に天候不順で大変だ。今なんか、雪も降り積もっているだろうしな。昔の面影なんて、これっぽっちもない。苦労して連れていくだけ損だぜ。
爺さんだって、そんな光景知りたくないだろうさ。想い出は綺麗なままでってな」
気の毒だがな、とハンターは懐から新たにタバコを取り出し、どこかへ歩いて行った。
あなたは一瞬躊躇いを見せた後、首を振って、女性職員の下へ足を向けた。
●
「あなたがたが、件のお方たちですかな?」
依頼人の男性に肩を担がれて民家から出てきたのは、身の丈百八十はあろうかという大柄な御仁だった。傭兵をしていたという当時のことを思えば、その恵体による働きは凄まじいものだったことが窺える。
だが、現在の姿は、当時のことを知る者には、とても想像だにつかないほど痩せていた。自力で立つのも困難という依頼人の言葉通りの風体だ。
今日の為に身を清めてきたのか、白髪は綺麗に整えられ、全身を覆う麻のローブにも汚れは見られない。みすぼらしい雪駄から見える足は寒々と赤冷えし、手と同様に骨と皮だけのようで痛々しいが、老人は全く気にしていないようだった。もしかしたら、もう手足の感覚も随分と鈍ってきているのかもしれない。
「こんな爺の我がままをお聞き下さり、感謝いたします。
面倒をかけますが、暫しの間、ご辛抱くだされ」
そう言って、老人は優しく微笑んだ。
解説
目的:
お爺さんの護衛兼目的地までのお世話。
敵:
ゴブリンが三体、目的地に棲みついています。
大きくへこんだ兜を被ったゴブリンや剣で断たれたような跡のある胸当てを鎧のように纏ったゴブリン、一際長い錆びれた剣を持ったゴブリンがいます。
戦闘力は全て駆け出しのハンターと同程度です。
このゴブリン達はそれほど根性が無いので、命の危険を感じたら逃げ出す可能性があります。
状況:
目的地の様子はOPの通りです。
お爺さんの目の代わりとなることを求められています。
備考:
御者は皆さんが担当してください(一人で十分です)。
馬車は全員乗れるスペースがありますが、乗っても乗らなくても自由です(乗らない場合は各自で馬を用意してください)。
お爺さんはあまり食欲がなく、水と干し肉だけ所持しています。
食糧は各自でご用意ください(水と干し肉で良ければ出発前に貰えます)。
戦闘はあくまでも付属です(必ずしもする必要はなく、スルーしても構いません)。
道中はなだらかな道になっており、とりわけ困難な道程ではありません。
お爺さんの目の役割に関して:
真実を告げるのか否か、ということに関しては、必ずしも皆さんの中で意見の一致をみる必要はございません。
お爺さんの護衛兼目的地までのお世話。
敵:
ゴブリンが三体、目的地に棲みついています。
大きくへこんだ兜を被ったゴブリンや剣で断たれたような跡のある胸当てを鎧のように纏ったゴブリン、一際長い錆びれた剣を持ったゴブリンがいます。
戦闘力は全て駆け出しのハンターと同程度です。
このゴブリン達はそれほど根性が無いので、命の危険を感じたら逃げ出す可能性があります。
状況:
目的地の様子はOPの通りです。
お爺さんの目の代わりとなることを求められています。
備考:
御者は皆さんが担当してください(一人で十分です)。
馬車は全員乗れるスペースがありますが、乗っても乗らなくても自由です(乗らない場合は各自で馬を用意してください)。
お爺さんはあまり食欲がなく、水と干し肉だけ所持しています。
食糧は各自でご用意ください(水と干し肉で良ければ出発前に貰えます)。
戦闘はあくまでも付属です(必ずしもする必要はなく、スルーしても構いません)。
道中はなだらかな道になっており、とりわけ困難な道程ではありません。
お爺さんの目の役割に関して:
真実を告げるのか否か、ということに関しては、必ずしも皆さんの中で意見の一致をみる必要はございません。
マスターより
お爺さんの命の灯火はもう仄かにたゆたうばかりです。
この僅かな旅路を終え、帰路に就くのは難しいかもしれません。
最期の時を前に、あなたはどうお爺さんに接するのでしょうか?
この僅かな旅路を終え、帰路に就くのは難しいかもしれません。
最期の時を前に、あなたはどうお爺さんに接するのでしょうか?
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2014/12/27 11:49
参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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相談卓 ラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/12/25 03:34:51 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/22 21:01:07 |