●異動命令
　その日、ジェーンは上司に呼ばれて辞令を受け取った。
　今までのハンターズソサエティ本部での勤務から、ゾンネンシュトラール帝国のハンターズソサエティ支部へ転勤が決まったのだ。
　正確には、異動する上司のエルス・モウザルに引き抜かれる形での異動になる。
　独身で物を無駄に溜め込んでいるわけでもないので、転勤自体は問題ないが、移動が少々面倒くさい。
　ジェーンはハンターたちのように転移門を使用するのではなく、旅での移動を計画しているからだ。
　なお、エルス・モウザルはさっさと家族を連れて別口で護衛を雇って一足先に向かってしまった。引き抜いた部下を置いて行くとは薄情な上司である。
「……念のため、ハンターの方々に護衛を依頼しておきましょうか。道中何に襲われるか分かりませんし」
　動物や盗賊、雑魔。ハンターならばいざ知らず、受付嬢にはどれも相手にするには少々荷が重いだろう。
　受付嬢という括りにジェーンが大人しく収まるような性格かどうかは別として。
　本当に裏があるかどうかはともかく、ジェーン・ドゥという露骨な偽名といい、うさんくさい態度といい、彼女は癖のある女性なのである。
　愉快犯的側面もあり、これだけ思わせ振りな一面ばかりの癖して、蓋を開けてみたら何も出てこない可能性すらある。
　というかそっちの可能性の方が高いが、もしかしたらと思わせるうさんくささが、彼女が彼女たる所以だ。
「……うふふ。どんなハンターが受けてくださるでしょうか」
　いつも通り、ジェーンはうさんくさい満面の笑みを浮かべて依頼の手続きを始めた。

●護衛依頼
　以下、ジェーンが出した依頼の全文である。
『自由都市同盟の冒険都市リゼリオからゾンネンシュトラール帝国の帝都バルトアンデルスまでの旅の道中、護衛を引き受けてくださるハンターの方々を募集いたします。
　期間は一週間、報酬は普通、道中の食費等雑費についてはこちらで負担いたします。
　長期間の旅になることが予想されますので、道中全てではなく、目的地までの一定区間を護衛していただく形になります。
　ハンターズソサエティ所有の馬車を帯同させますが、荷物が軽いためそこそこの速度が出ると思われます。
　大型の馬車ですので、ハンターの皆様も宿泊場所としてご利用いただけます。
　皆様の参加をお待ちしております』
　手早く依頼作成手続きを終え、自ら受理まで手続きを進めたジェーンは、上司の下へ依頼を持っていくために席を外した。
　その途中、ふと心配が頭を過ぎる。
(誰も参加者がいなかったらどうしましょう……)
　何しろ、普段行っている所業について自覚があるジェーンである。
　割に合わなさ、面倒くささ故に流れそうな依頼を斡旋したのは一度や二度ではない。
　うさんくさい笑顔のまま、少し心配になるジェーンであった。

●概要
　護衛シナリオです。
　冒険都市リゼリオから帝都バルトアンデルスまでの道程のうち、一定区間ジェーンと彼女が乗る馬車を護衛してください。
　動物、盗賊、雑魔などが敵として出現する可能性があります。
　雨などによって天候が悪化する可能性があります。
　街道で持ち主不明の落とし物を見つける可能性があります。
　これらが一度に起こる可能性もあります。
　逆に何も起きない可能性もあります。
　道中の危険を排除しつつ、護衛依頼を全うしてください。

●達成条件
・一定区間馬車とジェーンを護衛する

●街道について
　一本道の街道がどこまでも続いてます。
　街付近では石畳で舗装されていますが、街から離れればそこは土が踏み固められ馬車の轍が残る極めて原始的な街道です。
　雨が降ればたちまち足元がぬかるんでしまうでしょう。
　それどころか、馬車が立ち往生してしまうかもしれません。

●敵
※何が出てくるかはダイス次第ですが、出現率は概ね動物＞盗賊＞雑魔となっています。また、全てが出てくるわけではありません。
〇動物……サイズ１～２。襲ってくるのは主に肉食獣です。ハンターにとって脅威にはなりません。一回の襲撃につき、数匹程度の少数で襲ってきます。爪や牙に頼った近接攻撃に偏っています。
〇盗賊……サイズ１。食い詰め者、元傭兵など事情は様々です。一人一人の戦闘能力は最大でも訓練された正規兵程度ですが、数だけは多く武器を使ってきます。近接攻撃から射撃攻撃まで幅広くこなすでしょう。
〇雑魔……サイズ１～３。そこそこの脅威。ですがベテランハンターならば苦戦する相手ではないでしょう。元となったのは主に動物や亜人で、中には魔法を使う個体もいるようです。

初めまして、こんにちは。
マスターのきりんです。
今回のシナリオはゆっくりまったり護衛依頼になります。
旅の風情を感じていただけたら幸いです。
起きる出来事は完全ランダムで、何も起きない可能性も含め、何が起きるかは判定次第になります。
なお、落とし物はアイテムとしては手に入れられません。ロールプレイ要素の一つと考えてください。
天候悪化も雰囲気作りのフレーバーですのでロールプレイに役立ててください。
イベント発生の判定は全部で三回程度が目安です。
それでは楽しんでくださいね。