• 戦闘

魂に安らぎを

マスター:サトー

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2014/12/28 09:00
リプレイ完成予定
2015/01/06 09:00

オープニング

「すまねぇ……すまねぇ……」
 男が涙を流しながら、山道を登っていく。
 寒々しくなった木々の合間を抜けて、堆積した落ち葉を踏みしだく度にパリパリと乾いた音が鳴る。乾燥し、色落ちした葉が儚く砕け散るにつれ、男のかさついた心にも罅が入っていくようだった。
 言葉にならない想いが涙となって、ぽつりぽつりと足跡を濡らす。水玉模様が点々と彩るのは、小高い山の山頂へと続く道。人気のない山道は冬の冷気に凍え、男の嗚咽を虚しく響かせる。
「すまねぇ……」
 これで何度目になるだろうか。
 男の謝罪は途切れ途切れに道に落ちていく。降り積もる慚愧の念に男の足もたまらず鈍っていく。
 それを叱咤するのは、しわがれた老婆の声。
「もうええ。もう……何も言わんでええ」
 男が背に担ぐ老婆は、息子の背に顔を埋めて穏やかに言った。
「お前のせいじゃねぇ。わしが望んだんじゃ」
 母の声色に、男を責める気持ちは欠片も含まれていない。それが分かるからこそ、男は貧苦に怨嗟の声をぶつけ、さらに嗚咽を響かせた。
 男の隣を歩くあばら骨の浮き上がった犬が、男を見上げてくぅんと弱弱しく鳴いた。
 老婆が犬を見下ろして、優しく微笑みかける。
「もう少しの辛抱だ。頑張ってな」
 再びかすれた声を上げて、犬はとぼとぼと山道を登っていく。
「すまねぇ……」
 男の涙が、また一つ山道に降り積もった。


「ここで、ええ」
 男は廃棄されて久しい暖炉のそばに老婆をゆっくりと下ろした。椅子もベッドも無い、だだっぴろい部屋の床に、老婆が尻をつく。
 山頂付近の打ち捨てられた山小屋は、隙間風がびゅうびゅうと入り込むとても寒い場所だった。
「お袋……。俺は……」
 男が沈痛な表情で、老婆を見た。これが最後となる、自分の母の顔を。
 言葉を詰まらせた男の顔を、老婆の骨ばった手がそっと撫でる。
「お前は生きろ……。家族を、守ってやれ」
 男は俯き、肩を震わせる。
「爺さんをあんまり待たせても気の毒だからね」
 もうええから行け、という老婆の言葉に、男は泣く泣く小屋を後にした。


 北風が小屋の中の熱を攫って行く。
 老婆は両足を投げ出したまま、寒さに震えた。足は先ほどから、いや、男に背負われている間も含めて、髪の毛一本ほども動いていない。
 寒さに震えた老婆を気遣ったのか、年老いた老犬がよぼよぼと老婆の下へ歩み寄り、その太ももの上を跨ぐように丸まった。
「あー……あったかいねぇ……」
 老婆は犬の背を撫でながら、慈悲に満ちた瞳を向ける。
「お前には悪いねぇ……。わしの我がままに付きあわせちまって」
 老犬は老婆に撫でられるがままに、目を閉じてその手を受け入れている。自分の運命を悟っているかのように、瞬き一つ無く泰然としている。
「お前がいないと、爺さんのところまでたどり着けないかもしれないからね。案内を頼むよ」
 夫が可愛がっていた愛犬に死出の旅路を任せ、老婆は首に下げたネックレスをたぐり寄せる。胸元から出てきたのは、禍々しいほどに赤い宝石のような石だった。
 無骨な造りのネックレスに付けられた石は、情熱的なまでに赤くもあり、月の無い闇夜よりも猶黒くもあり、見る度に色が変わるようで、おどろおどろしいほどに濁った輝きを放っていた。自分の代わりに母の最期を看取ってもらおうと、老婆の息子が河原で拾ってきた石だ。
 夫からの唯一の贈り物であるうら寂びた鉄のネックレスに、妖しげな色の石をくっつけたものは、不思議と老婆の心に安らぎをもたらしてくれた。
「きれいだねぇ……」
 零れた想いに、老犬の耳がぴくりと反応する。
 老婆――ハナは今までにない穏やかな笑みを浮かべた。
「お爺さん、今、行きますよ……」


 ――一か月後。
 男は再び、あの山道を登っていた。今度は一人でだ。
 枯葉のように軽かった母の重みが甦り、男の目に涙が浮かぶ。
 母が自ら言い出したこととはいえ、懐に余裕があればこんなことは起こりはしなかったのだ。
 不作は天の運命。それでも……。
 男は涙を拭う。
 身体の不自由な年老いた母を、口減らしに。自身の家族を養っていくためだからといって、許されることではないだろう。
 男はスコップを担ぎ、山道を行く。
 遺体を埋葬せねばならない。
 ただそれだけのために、ただそれだけのことしかできない自分に憤りを覚えつつ、男は山道を歩みゆく。
 北風が身に染みる。弱った心に隙間風が入り込む。
 心が寒い。空洞のできた場所を埋めるものは、まだない。
 男は目にたまった涙を再び拭い、ひたすら足を動かした。
 何も考えずに、何も考えられずに。
 気づけば、男は山小屋に辿り着いていた。
 そして、男は見た。
 半壊した山小屋を――。
 そこに鎮座する、体長五メートルはあろうかという、巨大な犬のような生物を――。


●ハンターオフィスにて
「雑魔の目撃報告があったのは、山頂付近の山小屋です」
 職員が資料をぺらぺらとめくりつつ、説明を続ける。
「お母上の埋葬に来たという依頼人の男性――ハロルドさんの情報では、半壊した山小屋の隣に丸まって休んでいるような犬型の生物がいたそうです。と言っても、山小屋と同程度の大きさがある生物ということですから、雑魔であることは間違いないでしょう。
 山小屋の中には、お母上のご遺体と連れの犬が亡くなっているはず、とのことでしたが、もしかしたら、何らかの影響でその犬が雑魔化したのかもしれません」
 なぜそんなところに遺体があるのかは分かりませんが、と職員は呟く。
「ハロルドさんはお母上のご遺体の無事を心配しておりましたので、できればその確認もお願いします。
 場の状況ですが、小屋の前に草の生えぬ剥き出しの大地が四方三十メートルほど広がり、その周辺をどこまでも木々が疎らに立ち並んでいる、とのことです。その内幾つかの木がなぎ倒されていることから、雑魔の力はそれなりのものと窺えます」
 職員は厳しそうに眉根を寄せる。
 雑魔といえどもピンキリだ。決して侮ることはできない。相手の力が分からない以上、手配するハンターの力量を定めるのも難しい。
「……最悪、雑魔の力量を調査するだけに留めても構いません。
 ――生命を落とされても、こちらは責任をとれませんからね」


「俺が悪いんだ」
 麓の村にて、ハロルドはハンター達の前で顔を歪め、今までの経緯を話した。
「あのとき引き返していれば」
 その頬には、涙の跡が残っていた。


 曇天の下、薄靄が広がる木々の陰から、ハンター達が小屋の様子を遠目に窺う。
 昼間だというのに視界はあまり良くないが、あの巨体だ。目を凝らせば黒々とした雑魔。
 雑魔は寝転がり、微動だにしていない。背には人骨のようなものが一部見え隠れし、雑魔の眉間に宿る赤黒い石が、妖し気な煌めきを見せていた。
 不意に、雑魔が首をもたげる。
 くんくんと鼻を鳴らし、ハンター達の方に顔を向けると、醜悪な顔を歪ませ、すっくと立ち上がった――!

解説

目的:
 犬型雑魔の討伐(もしくは力量の調査)。


敵:
 犬型の雑魔。
 体長五メートルほど。
 大まかな形は犬のそれと酷似しているが、所々奇怪な形状をしており、背には人骨のようなものが見え隠れし、全体的に酷く歪んでいる。
 四肢は丸太ほどに太く、爪や牙は長く太く鋭く硬い。
 でかい図体に似合わず、動きはかなり機敏(覚醒者が反応できないほどではない)。
 毛皮は硬く分厚い。(全く傷つけられないほどではない)
 聴覚や嗅覚などは野生の犬と同程度。
 攻撃方法は、普通の犬や猪、狼が合わさったような感じ。一定間隔おきに高く跳躍して踏み潰そうとするが、着地した際の衝撃により人骨は少しずつ破損していく。


備考:
 布陣を整える間もなく、いきなり襲いかかってきます(とはいえ、山に登る前に決めていただろう範囲内であれば、予め作戦や陣形を決めていた風でも構いません。事前の打ち合わせの描写は行いません)。後は戦闘中にどうにかしてください。
 山頂付近とありますが、特に高い山では無いので、酸素的な心配は不要です。

※ 通常雑魔は死ぬと消滅いたしますが、まだ雑魔化してそれほど時間が経過していない為、雑魔消滅後も人骨だけは残ります。

マスターより

 こんばんは、サトーです。
 姥捨て山のお話になります。
 強い敵を出してみたかったのです。ただそれだけです。
 いきなり戦闘開始で大変ですが、皆様のご活躍をお待ちしております。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2014/12/30 20:42

参加者一覧


  • カルムカロマ=リノクス(ka0195
    エルフ|26才|男性|疾影士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 激しき闘争心
    ライガ・ミナト(ka2153
    人間(蒼)|17才|男性|闘狩人

  • マウローゼ・ツヴァイ(ka2489
    エルフ|25才|女性|猟撃士
  • 『未来』を背負う者
    エリー・ローウェル(ka2576
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • 咎の翻刃
    ネリー・ベル(ka2910
    人間(紅)|19才|女性|疾影士
依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2014/12/27 21:26:41
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/24 22:25:44