• 空蒼
  • 無し

【空蒼】選ばれぬことを、選べない

マスター:凪池シリル

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在4人 / 3~4人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2018/08/28 22:00
リプレイ完成予定
2018/09/06 22:00

オープニング

 ──なんでクリムゾンウェストは、俺なんか選んだんだろうな。

「……小野派一刀流はね。不器用な流派だと思うんだ。幕府に剣術指南役として召し抱えられた後も、徹底して剣術は斬り合いの技それだけであるということを曲げなかった。結果として、太平の世には合わなくて、精神修養に重きをおき安全な稽古を開発した柳生新陰流が厚遇されることになった。──どちらも賛否あると思うけど、立場の変化に、時代の流れに、変わるもの、変わらないもの……このところ、良く考える」
 舞台劇『新撰組 裏譚』。新撰組を題材にした物語というとありふれているが、つまり、それだけ可能性と魅力を秘めた素材ということでもあるのだろう。本作で話の中心となるのは「芹沢 鴨」および「山南 敬助」──「幹部の地位にいながら粛正された者」である。
 彼らはただ惨めな敗北者で、厄介者だったのか? 活躍の裏側で、影に追いやられたものたち。そこにも、『人物』が、『信念』があったこと。その死にも込められた意味があったことを、山南をストーリーテラーとし、試衛館の面々の京都出発から彼の切腹までを描く……そんなストーリーである。

 そんな舞台が、本日も無事終幕した。
「伊佐美さん、伊佐美さーん」
 呼ばれて、伊佐美 透ははっと目を見開く。楽屋で半分意識が飛んでいたらしい。
「ああ……梨山くん、ごめん……」
「いや、大丈夫ですけどね。そっちは大丈夫ですか」
「ああうん。ごめん。本当に気が抜けただけだから」
 それは実際、そうなのだと思う。覚醒者がこれくらいでへばったりはしない。ただ、終わって安心して、精神的な疲れがどっときた。今回、彼が演じた山南 敬助役は、普段から見ても台詞が長いし多かった。勿論、その分やりがいもあるのだが。……うん。やりがいは、あった。今この時に、この話、この役。
 そして、それから。
「……今回、ハンターの皆さんにかかってる心労は、劇の事だけじゃないですもんね」
 以前も共演したことのある梨山 修二は、申し訳なさそうに言った。
 地球に直接転移してくるVOID。イクシード・アプリによる混乱。世界の情勢は確実に不安定になっている。とあるアイドルのファンイベントでは、アプリインストール者が「君の事は僕が守る!」などと迫るという事件もあり、人を集めるようなイベントは控えるような動きも出てきている。
 この舞台を続行する、と判断されたのは、出演者にもハンターが居る、という面は小さくなかった。万が一、公演中に不埒な行動を起こす者が居ても、同じ舞台上から守りに入ることが出来る。そういう意味で、ただ舞台上に居る以外の緊張感もあったのは、確かだ。
「まあ本当、無事に終わってよかったよ」
 それすらも、終わってしまえば疲労は心地よい充足感に変わる。そう言って笑おうとして──
「イクシード・アプリ……俺も入れた方がいいんでしょうか?」
「いや待て! 駄目だ!」
 修二がそう言い出したとき、眠気も一気に吹っ飛んで慌てて言い返した。急な強い口調に、修二は目を丸くする。
「……あれは危険なんだ。ナディア総長は偽物で……実際にはVOIDと契約させられるものだって確認されてる」
「あ……やっぱり、そういうもんですか……」
 未だにインストールしていない、ということは、怪しげだという認識はあったのだろう。知り合いのハンターから言われたことで納得しつつも、そこに落胆は混ざっていた。
「……ていうか君が何言ってるんだ。変に力なんてあったら日常感覚狂うし、それを散々ツッコんでくるの君じゃないか」
 稽古中、何か透が異世界感覚の「ズレた」ことを言い出すと、それを指摘するのは大体修二だった──今回もそうやって、覚醒者とそうでない者の間の溝を、むしろ埋めてくれていた。
「そりゃ言いましたけど……憧れの裏返しも、ありましたよ。やっぱり」
「憧れ、なあ……」
 呟き返して、そんないいもんじゃないよ、少なくとも俺は、と、ポツリと言った。
「今の状況に、半端な力なんてある方がしんどいけどな。もっと上手くやれたんじゃないかとか──いや、そんな殊勝でもないな俺は。正直、こんなの俺にどうしろってんだよ、って思ってるよ」
 関わったことには、精一杯やってきたつもりだった。なのに、状況は悪化していく。役に立ててるのかと疑問に思うのに、何か起こればそれを無視するのもしんどい。なまじ力があるせいで。
 他でもない自分自身に、この力があってよかったなんて思えたのは。
「それこそ……この舞台が中止にならなかったことが、今までで一番かなあ」
 それはやっぱり、思って。それでもだから、自分はこの力で英雄になりたいのかと言われれば別に、だ。他に誰か居るなら、今回だって、役者としてただ守られて、役に専念出来る方が良かった。
「そういう……もんですかね」
 修二の声は落胆より納得が大きかったと思う。彼も役者だ。求めることは公演が続けられること、それが当たり前の世界、それなのだろう。一先ずアプリの使用を諦めてくれたなら、それでいい。



 ──だから、英雄になりたい訳じゃないんだ。
 なのにどうしてこうなるのだろう。
 解散して、帰還までの時間をどうするか。適当に過ごしていたら……近くで騒ぎが起きた。ここ最近で起きるようになった、VOIDの、直接転移。現れたのは良く見る小型が数体のようだが、町を行く人々には十分すぎる驚異だろう。そうして、ざわめく人々の口からは、悲鳴と共に──「アプリを使うしか」「誰かアプリを」、そんな言葉が聞こえてきて。
 咄嗟に、敵の群れに飛び込みながら叫んでいた。
「無理に戦う必要は無い! ここにハンターが居ます! 任せて避難してください!」
 倒れている人に向かう攻撃をねじ曲げて引き寄せる。近くの一体に向かって踏み込んで斜めに斬り下ろす。すぐさま身体と刃を切り返し、横から迫る別の個体を動きで牽制する。
 多少動きに見栄を張った。アプリに揺れる人たちを安心させようとしたのもあるが、手にする剣が普段よりずっと小降りなせいで自分自身心許ないのを振り払うためでもあった。……のだが。
 次に聞こえてきたのは「やっぱりハンターは格好いいなあ」「アプリを使えば俺にもあの力が……」そんな声だった。
 ……だから。何でそうなる! ホントどうしろってんだよ!?
 正直。一瞬思った。もうやってられっか。相手の周到な仕込みに対してこっちは後手後手すぎるだろう。
 だけど。
 だけど。
 それで本気で投げ出そうと思うと過っていくものがある。先程までの舞台の余韻。尊敬してやまない俳優。ファンになってくれた人。もうこんな世界どうなったって知るかと言わせてくれない、愛すべきもの。
 結局。それでも自分には力があると自覚している以上、ここで戦わない選択肢など有り得ないのだ。例え勝手に選らばれたのだとしても……それは、自分の意志だった。

解説

●初めに
※本文中、実在の人物、歴史に触れている部分がございますが、創作であり、必ずしも正確な資料と研究に基づくものではありません。またその内容については純粋に娯楽を目的としており、歴史解釈においてなんらかの主張を行う意図のものではありません。ご理解とご容赦をお願いいたします。

●状況
リアルブルーの町中に、突如VOIDが転移してくる事件が発生。
この時たまたま、近くでハンターも出演する舞台が行われていました。貴方はこれに「出演していた」「スタッフとして手伝っていた」「観劇に来ていた」などの理由で、事件発生直後に現場の近くに居合わせたことになります。
敵は良く見る浮遊型狂気VOIDが6体。触手と熱線で攻撃してくるのもこれまで通りです。これをすべて討伐するのが本シナリオの最低条件となります。
時刻は夕方、現場は普通の街角で、人通りはそれなりにあります。ただ、大混雑と言うわけではなく、今は比較的モラルが保たれており、多くの人は自主的に建物や地下鉄などに避難しようとしています。
ただ、果敢に怪我した人を救助しようとしたり、ハンターが居るなら大丈夫かと楽観的になって(というか、混乱による正常性バイアスでしょう)その場に残って見物しようという人も居ます。
最大の注意点として、本シナリオは「巻き込まれ型」です。リアルブルーの日本はまだ大手を振って武器防具を見せて歩ける状況ではありません。従って、本シナリオで使用できる武器防具は、「服の下などに仕込める、鞄に入れて隠せる」程度の目立たないものまでとします。逆に、とは言っても不安定な情勢下なので、念のため最低限の準備はしているというのは適当でしょう。
NPCは一般人を守ることを優先目標として適当に戦ってます。例によって放置で大きな問題はなく、絡みがなければリプレイには描写しません。

マスターより

凪池です。空蒼連動は二本立て。新たに登場した「イクシード・アプリ」と「使徒」、こちらはアプリに焦点を当てたシナリオとなります。
心情よりですが前ほど戦闘はお飾りでは無いのでご注意を。装備が使えるか不安であれば、一旦キャラクターシートに該当の装備を反映した上で、NPCに「これ大丈夫?」って質問して頂くのがお互い手っ取り早いと思われます。
劇に対して何をやったかは書かなくてもいいし書かれたらそれなりに描写します。特に出演した人は言ってねファンレターお出ししますので(笑)

こんなご時世ですがまだ芝居はやれてるみたいですね! まあ、一回はちゃんと刀使う役やらせてやりたかったんや。

関連NPC


  • 伊佐美 透(kz0243
    人間(リアルブルー)|28才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2018/09/01 18:04

参加者一覧

  • 矛盾に向かう理知への敬意
    初月 賢四郎(ka1046
    人間(蒼)|29才|男性|機導師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎(ka6016
    人間(蒼)|22才|女性|格闘士
依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
鞍馬 真(ka5819
人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/08/28 21:51:41
アイコン 質問卓
鞍馬 真(ka5819
人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/08/27 09:44:21
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/08/23 19:39:32