ゲスト
(ka0000)
閉ざされた花畑
マスター:硲銘介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- 参加費
1,000
- 参加人数
- 現在8人 / 4~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- プレイング締切
- 2015/01/02 19:00
- リプレイ完成予定
- 2015/01/11 19:00
オープニング
●
ごほごほと咳き込む音が聞こえると、少女は早足で母の寝室へ向かった。
年の頃は十、といったところだろうか。小さな体が足早に歩いていく。
とはいえ狭い家だ、台所から母親の部屋まで少女の足でも十秒もかからず辿り着く。
「お母さん? 入るよ」
廊下から声をかけて扉を開けて室内へ入る。
必要最低限の家具があるだけの簡素な部屋。嗜好品の一つも見当たらないことがこの家の貧しさを物語っていた。
少女が部屋に入った時、ベッドの上の母親は苦しそうに胸を抑えていた。
娘が心配そうな顔をしているのを見て、母親はすぐに笑顔を作った。
「ごめんね、リラ。ちょっと咳き込んじゃっただけ。なんともないのよ」
心配しないで。母親の笑顔がそう言っていた。
だが、額には脂汗が浮かんでいた。否――そんなものを見るまでもなく、母の病状が悪化していることは分かりきっていた。
それでも、娘――リラは笑った。笑って見せた。
「ううん。それなら良かった。ご飯、もうすぐ出来るからね」
そう言って乱れた布団をかけ直し、リラは再び廊下へ出た。
●
――食事を終えて眠る母親を、リラは悲しそうに見つめていた。
少女の目から見ても、母や日に日にやつれていっているように見えた。
母の病気は流行り病で、治療さえ出来ればそれほど問題のあるものではなかった。だが、その治療を受けるだけの金が用意できずにいた。
食欲も段々と衰えている。それでも毎日食事を欠かさないのは、それしか出来ない娘に気を使っての事だとリラ自身も気づいている。
気がつけば、唇を噛んでいた。
悔しかった。早くに父親を亡くし、自分を女手一つで育ててくれた母親。その最愛の母が苦しんでいるというのに、自分には家事をこなすくらいしか出来ることがない。
ふと、質素な机の上に置かれた花の無い花瓶を見る。
あの花瓶に花が飾られなくなってから、もう二週間程になるだろうか。
そこに花を飾るのはリラの役目だった。元々は少女は花売りをやっていた。
少しでも母親の助けになれば。そう思って始めた幼い少女の仕事だった。
少女には秘密の花摘み場があり、そこで自ら摘んだ花を売る為元手要らずの仕事だったのだ。
といっても、花屋に売られた立派な花々と比べれば、少女の売るそれは商品としては些か心許ないものだった。残念ながら売り上げは殆ど無かった。
それでも、少女が選んだ花を家の花瓶に飾れば母親は喜んでくれた。リラにはそれが何よりも嬉しかった。
そして母親が病にかかってからは、もう一つ役立つことがあった。病気に効く薬草が少女の秘密の場所に生えている事がわかったのだ。
貧しさゆえに医者に掛かれず、まともな薬も入手できない彼女達にとってそれは僥倖であった。
町の図書館に通い、判別の難しい薬草も見つけられるようになったのはリラの自慢だった。
家の外の小さな花壇――もっとも、手入れする余裕もなくこれまでほったらかしではあったが――そこで薬草を栽培するのもいいかもしれない、そんなことを考えてもいた。
――だが、それももう過去の話になってしまった。
少女の秘密の場所は町から少し離れた小さな森の奥にあった。
他の町との行き来に通るわけでもなく、とりわけ珍しい草花が咲くわけでもないその森は特別目をかけられる訳でもなく存在していた。
気まぐれで足を運んだリラ自身、秘密の場所――森の奥の小さな花畑を見つけるまでは特に価値を見出してはいなかった。
誰も訪れない森の花畑。リラにとっての秘密の花園は何者にも侵されることは無い――筈だった。
何処からかやってきたのか湧いたのか、危険な害虫、それが森に居着いてしまったのだ。
いつものように花を摘みに森へ入った少女が目にしたその姿は、巨大な蝶そのものだった。それも数は一匹ではない。
大人の男だって恐怖する異形に、少女は恐怖した。花畑への道を塞ぐように現れた怪物染みた姿を前に少女は逃げ帰る他なかった。
もし、それが出るのがもっと町の近くなら。もし、その存在そのものが害悪とされる雑魔であったなら。少女の行く手を妨げる障害は速やかに取り除かれたのだろう。
そういう意味で言えば、今回は最悪だった。
件の森は用無しの森。誰も行かない無用の森の害虫駆除をわざわざする者などいなかった。
更に言うなら森に現れたビッグアゲハは所詮虫ではあるが、一般人が相手取るには十分すぎる脅威である。となれば排除はハンターに任せる他なく、金が要るとなれば尚の事、町の役所も動きはしなかった。
そんな事情を知ってか知らずか、少女は次の日もまた次の日も足を運ぶ――そして、同じように立ち去るしかなかった。
幾度か繰り返して、ようやくリラは悟った――あの花畑には、もう行けないのだと。
●
気がつけばリラは外へ――ハンターオフィスへと向かっていた。
そこがどんな場所なのか、幼い少女にもちゃんとわかっていた。
一般人では対処できないあらゆる事柄を異能の力を有するハンター達へ処理を依頼する場所。
通った依頼は紛れも無く仕事であり、それは報酬なくしては成り立たない。
そしてリラには、彼女の貧しい家には依頼金など用意できるはずも無い。そんな事は分かりきっていた。
それでも。
「……お母さんを……助けたいよぅ……」
道の途中でそんな言葉と一緒に涙が零れた。
母親が大好きだった。何かしてあげたい。苦しむ母を少しでも楽にしてあげたい。
ただその一心で少女は歩を進める。
自分の願いが無謀だと分かっていても、それを諦めることなんて出来なかった。
故に、少女はひたすらに祈るばかりだった。
子供の身勝手な願い。報酬すら用意できない以上、仕事として扱われない。最悪、戯言にしか思われないかもしれない。
それでも。それでも。何度も何度も、胸の中で一途に繰り返す。
「お願い、します……! お母さんを、助けてくださいっ!」
その気持ちが変わることはない。大粒の涙を零しながら、少女は偽りない思いを口にした。
ハンターオフィスの受付前、涙ながらに懇願する少女を何事かと周りは見つめる。受付嬢も困惑している。
そんな中、迷わずに少女に歩み寄り、手を差し伸べる者達がいた――――
ごほごほと咳き込む音が聞こえると、少女は早足で母の寝室へ向かった。
年の頃は十、といったところだろうか。小さな体が足早に歩いていく。
とはいえ狭い家だ、台所から母親の部屋まで少女の足でも十秒もかからず辿り着く。
「お母さん? 入るよ」
廊下から声をかけて扉を開けて室内へ入る。
必要最低限の家具があるだけの簡素な部屋。嗜好品の一つも見当たらないことがこの家の貧しさを物語っていた。
少女が部屋に入った時、ベッドの上の母親は苦しそうに胸を抑えていた。
娘が心配そうな顔をしているのを見て、母親はすぐに笑顔を作った。
「ごめんね、リラ。ちょっと咳き込んじゃっただけ。なんともないのよ」
心配しないで。母親の笑顔がそう言っていた。
だが、額には脂汗が浮かんでいた。否――そんなものを見るまでもなく、母の病状が悪化していることは分かりきっていた。
それでも、娘――リラは笑った。笑って見せた。
「ううん。それなら良かった。ご飯、もうすぐ出来るからね」
そう言って乱れた布団をかけ直し、リラは再び廊下へ出た。
●
――食事を終えて眠る母親を、リラは悲しそうに見つめていた。
少女の目から見ても、母や日に日にやつれていっているように見えた。
母の病気は流行り病で、治療さえ出来ればそれほど問題のあるものではなかった。だが、その治療を受けるだけの金が用意できずにいた。
食欲も段々と衰えている。それでも毎日食事を欠かさないのは、それしか出来ない娘に気を使っての事だとリラ自身も気づいている。
気がつけば、唇を噛んでいた。
悔しかった。早くに父親を亡くし、自分を女手一つで育ててくれた母親。その最愛の母が苦しんでいるというのに、自分には家事をこなすくらいしか出来ることがない。
ふと、質素な机の上に置かれた花の無い花瓶を見る。
あの花瓶に花が飾られなくなってから、もう二週間程になるだろうか。
そこに花を飾るのはリラの役目だった。元々は少女は花売りをやっていた。
少しでも母親の助けになれば。そう思って始めた幼い少女の仕事だった。
少女には秘密の花摘み場があり、そこで自ら摘んだ花を売る為元手要らずの仕事だったのだ。
といっても、花屋に売られた立派な花々と比べれば、少女の売るそれは商品としては些か心許ないものだった。残念ながら売り上げは殆ど無かった。
それでも、少女が選んだ花を家の花瓶に飾れば母親は喜んでくれた。リラにはそれが何よりも嬉しかった。
そして母親が病にかかってからは、もう一つ役立つことがあった。病気に効く薬草が少女の秘密の場所に生えている事がわかったのだ。
貧しさゆえに医者に掛かれず、まともな薬も入手できない彼女達にとってそれは僥倖であった。
町の図書館に通い、判別の難しい薬草も見つけられるようになったのはリラの自慢だった。
家の外の小さな花壇――もっとも、手入れする余裕もなくこれまでほったらかしではあったが――そこで薬草を栽培するのもいいかもしれない、そんなことを考えてもいた。
――だが、それももう過去の話になってしまった。
少女の秘密の場所は町から少し離れた小さな森の奥にあった。
他の町との行き来に通るわけでもなく、とりわけ珍しい草花が咲くわけでもないその森は特別目をかけられる訳でもなく存在していた。
気まぐれで足を運んだリラ自身、秘密の場所――森の奥の小さな花畑を見つけるまでは特に価値を見出してはいなかった。
誰も訪れない森の花畑。リラにとっての秘密の花園は何者にも侵されることは無い――筈だった。
何処からかやってきたのか湧いたのか、危険な害虫、それが森に居着いてしまったのだ。
いつものように花を摘みに森へ入った少女が目にしたその姿は、巨大な蝶そのものだった。それも数は一匹ではない。
大人の男だって恐怖する異形に、少女は恐怖した。花畑への道を塞ぐように現れた怪物染みた姿を前に少女は逃げ帰る他なかった。
もし、それが出るのがもっと町の近くなら。もし、その存在そのものが害悪とされる雑魔であったなら。少女の行く手を妨げる障害は速やかに取り除かれたのだろう。
そういう意味で言えば、今回は最悪だった。
件の森は用無しの森。誰も行かない無用の森の害虫駆除をわざわざする者などいなかった。
更に言うなら森に現れたビッグアゲハは所詮虫ではあるが、一般人が相手取るには十分すぎる脅威である。となれば排除はハンターに任せる他なく、金が要るとなれば尚の事、町の役所も動きはしなかった。
そんな事情を知ってか知らずか、少女は次の日もまた次の日も足を運ぶ――そして、同じように立ち去るしかなかった。
幾度か繰り返して、ようやくリラは悟った――あの花畑には、もう行けないのだと。
●
気がつけばリラは外へ――ハンターオフィスへと向かっていた。
そこがどんな場所なのか、幼い少女にもちゃんとわかっていた。
一般人では対処できないあらゆる事柄を異能の力を有するハンター達へ処理を依頼する場所。
通った依頼は紛れも無く仕事であり、それは報酬なくしては成り立たない。
そしてリラには、彼女の貧しい家には依頼金など用意できるはずも無い。そんな事は分かりきっていた。
それでも。
「……お母さんを……助けたいよぅ……」
道の途中でそんな言葉と一緒に涙が零れた。
母親が大好きだった。何かしてあげたい。苦しむ母を少しでも楽にしてあげたい。
ただその一心で少女は歩を進める。
自分の願いが無謀だと分かっていても、それを諦めることなんて出来なかった。
故に、少女はひたすらに祈るばかりだった。
子供の身勝手な願い。報酬すら用意できない以上、仕事として扱われない。最悪、戯言にしか思われないかもしれない。
それでも。それでも。何度も何度も、胸の中で一途に繰り返す。
「お願い、します……! お母さんを、助けてくださいっ!」
その気持ちが変わることはない。大粒の涙を零しながら、少女は偽りない思いを口にした。
ハンターオフィスの受付前、涙ながらに懇願する少女を何事かと周りは見つめる。受付嬢も困惑している。
そんな中、迷わずに少女に歩み寄り、手を差し伸べる者達がいた――――
解説
●解説
少女・リラを町外れの森の奥『秘密の花畑』まで護衛する依頼です。
森へ入ってから花畑に辿り着くまでの所要時間は、少女の足で十五分程になるそうです。
母親を自分の手で助けたいという少女の意思を尊重してあげて下さい。
森には大きな蝶――ビッグアゲハと呼ばれる大型の虫が確認されています。
彼らはこちらの存在に気がつけば襲ってくると思われます。
数は正確には分かりませんが十匹はいるようです。
蝶は常にまとまって行動している訳ではありませんが、戦闘が始まれば徐々に集結して来ると思われます。
戦闘時、鱗粉を撒き散らし、こちらの狙いを乱してきます。
また、護衛対象の少女は非常に非力です。間違っても敵の攻撃を受けないよう注意が必要です。
尚、今回の依頼は少女の個人的な頼み事という形になり、報酬はありません。
少女の手を取った皆様方は既に承知かと思われますが、再度ご確認くださいませ。
マスターより
こんにちは、硲銘介です。
今回の依頼は母親の為に動こうとする女の子を助けてあげるというものになります。
報酬のお金はありませんが、どうか少女の力になっていただければ幸いです。
ボランティアへの参加、お待ちしております。
それでは、よろしくお願い致します。
今回の依頼は母親の為に動こうとする女の子を助けてあげるというものになります。
報酬のお金はありませんが、どうか少女の力になっていただければ幸いです。
ボランティアへの参加、お待ちしております。
それでは、よろしくお願い致します。
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2015/01/08 21:22
参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ジョン・フラム(ka0786) 人間(クリムゾンウェスト)|28才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/01/02 17:02:02 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/29 18:09:53 |