ゲスト
(ka0000)
歪を描く
マスター:硲銘介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- 参加費
1,000
- 参加人数
- 現在6人 / 4~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- プレイング締切
- 2015/01/09 07:30
- リプレイ完成予定
- 2015/01/18 07:30
オープニング
●
ふと、目線を上げれば、夜空に光る眩い星々があった。
月光と共に星は大地を照らし、若草色の草原に群青の色を落とす。
ひとたび穏やかな風が吹きこめば、草原もまた踊った。
この瞬間、この場所には静かながらも確かな自然の息吹を感じられた。
遮蔽物など一切無い緑の大地。漆黒に藍色が溶け込んだ空。両者が拮抗する地平線。
そのどれもが美しい、誰もが魅入ってしまうような光景だ。
現に、ここに一人の男がいた。麗しい自然を一望する丘の上に座り込んだ彼は、じっとその風景を眺めていた。
どれほど続いただろう。男はずっとそうしていた。
それは必然だった。誰しもこの景色に心を奪われる。その雄大さを讃えるように、男は息を吐き、
「つまらん。なんてくだらない画だ」
――その美しさを完全に否定してみせた。
なんてことはない。何処にだって例外というものは存在する。
誰もが息を呑むその美しさを、何ともありきたりな唾棄すべきものと感じる者もいた。
風景を楽しむ心など無くても、人が生きるのに問題はない。味気ない話だが美的感覚は必須ではない。
ただこの男――シギニスにとってはその限りでないのが、また皮肉であった。
男は絵描きであった。
誰もが心奮わせるものに惹かれない芸術家。唯一の感性といえば聞こえはいいが、理解されないならそれは無価値へ堕ちる。
実際、彼の描く絵は売れない。無名の絵描きの宿命か、ものの見事に売れなかった。
だが、シギニスが悲観する事は無かった。
「売れる為に描く絵とは何の為だ。この筆は網膜が捉えた美を表す為にこそ揮われる。俺は見て筆を動かす、それだけの機構に過ぎない。人の生計は二の次だ」
その言葉は彼の本心で以降も売る為に描く事は無かった。絵とは無関係の仕事で生き繋ぎ、気の向くまま描く。それが彼の生き方だった。
感性こそ異質なれど、彼は確かに芸術家であったのだ。
だが、男の欲するものはそうそう見つからなかった。
今夜も筆を動かす画を求め街を抜け出したが成果は無かった。
万人の言う美しさを尊いと感じられない。もっと、そう、もっと別のものが見たかった。
肩を落としてな美景を眺めるシギニスだったが、
「――あれは」
ふと、風景に混じった異物が目に入った。
空と大地の狭間を駆ける動物。あれは――馬、だろうか。
影絵の様な光景の中、馬が走っていた。何もない草原をただ駆け抜ける。
草原を走る一頭の馬、それは画になる。であれば、男にはくだらない一枚の筈だったが、何故か後ろ髪を引かれる。
その理由はほどなくして分かった。
馬は少しずつこちらにやって来る。だが、男に気づいた訳ではない様だ。まるで獲物を探すように長い首を動かしていた。
そう、まさに獲物を探しているのだ。しかし、それもおかしな話だ。普通馬というのは草食で、どちらかといえば狩られる立場だ。
その疑問も含め、影絵のシルエットではなく姿そのものを見た瞬間、理解した。
――おぞましい姿だった。鬣は逆立ち見るものを震え上がらせ、その蹄は蹴り殺す事に特化した形をしていた。
どう見たって普通の馬ではない。あれは雑魔と呼ばれるもの――世界から忌み嫌われる災厄の具現であった。
「――ハ。ハハ、ハハハハ……ハハハハハ……ッ!」
笑いがこみ上げる。目にした異形から目が離せない。
なんて醜い姿だろう。あれほど異常を体現した姿が他にあるか。
あれは誰にも好かれない。誰からも認められない。ただただ否定されるだけのものに相違ない。
生命とはすべからく愛し愛されるものという理は何処へいった。
――描きたい。
何としてでもあれを描きたい。それは紛れもない欲求であり、使命の様にも思えた。自分が筆を取ったのはあれを絵にする為だったとさえ思える。
しかし、ここでは些か遠い。もっと、もっと近くで見たい。
だが、それは叶わない。
これだけの逸材だ、一度描き始めれば筆は止まらず、集中さえ出来ればほんの一時間程で仕上げる自信があった。
だが、あれに見つかれば殺されるだろう。男は筆を操る事意外、まるで凡庸である事を自覚している。あの怪物に睨まれたが最後、容易く餌食になるだろう。
――だが、それは悲しむ事ではない。描く為だけに生きている自分がその為に死ぬのはおかしい事ではない。むしろ当然の成り行きだ。
あぁ、しかし。男は思い直す。殺されるのはいいが、あれを描けなくなるのだけは困る。
生涯を賭けるだけの価値はあるが、達成する前に死んではどうにもならない。
シギニスは昂揚の中――命の価値を卑下しながらも――あくまで冷静に思考し、その場を後にした。
●
ハンターオフィスは騒然としていた。
やってきたとある男、彼の依頼内容が常識はずれなものだったからである。
二十代だろうその男は絵描きで、ある被写体を描きたいのだという。その間、男を護衛するのが依頼だったのだが、
「ぞ、雑魔の絵を描くんですか?」
受付嬢は戸惑いつつも男に尋ねた。そんな不気味な絵が売れるのか――少なくとも自分は欲しいと思わない。
だが男は平然と肯定し、
「目標は雑魔。依頼内容は俺の護衛、既に言った筈だが」
無愛想な答えに受付嬢はこっそり眉をひそめた。
こういう無駄に偉そうな依頼者はよくいるので慣れていたが、内容が異常だ。
いや、護衛はいい。雑魔の絵を描くというのも――理解は出来ないが――それも個人の自由だろう。
問題は男が出した条件だ。
「俺を守るのはしっかりやってもらうが、対象に傷をつける事は許さない。傷一つ無い、完璧なあれを描きたいからな」
――これである。この男は雑魔を愛玩動物か何かと勘違いしているのだろうか。
「で、ですが、お客様。雑魔というのは危険な相手でして――」
「でなければ依頼などしてない。それとも、こんな依頼も受けられぬ程、ハンターという輩は無能なのか?」
「違いますっ! そうではなくてですね、雑魔は排除が必要な相手なんですよ!」
「一体くらい見逃せ」
「駄目ですっ!」
一歩も引かず、男を睨む受付嬢。立場上こういう態度は良くないのだが、すっかり血が上っていた。
その頑なな態度が通じたのか、男が不服そうに妥協案を口にする。
「ちっ、無駄なやり取りをしてる場合か……已むを得ん。なら、絵が仕上がった後で殺せばいい。ただし、それまでは俺の条件を呑め」
「……それなら、まぁ、なんとか。けど、それでいいんですか?」
「構わん。実物が失われようとも、俺の筆で緻密に再現されたあれは不滅だ。あの存在を一部の乱れなく描き切ってみせよう」
そう言って、男は悦に入っていた。顔をしかめながら受付嬢はため息をつく。
不安を抱えつつも依頼申請の手続きに入る。しかし、この依頼受理していいものか。疑問は最後まで拭えなかった――――
ふと、目線を上げれば、夜空に光る眩い星々があった。
月光と共に星は大地を照らし、若草色の草原に群青の色を落とす。
ひとたび穏やかな風が吹きこめば、草原もまた踊った。
この瞬間、この場所には静かながらも確かな自然の息吹を感じられた。
遮蔽物など一切無い緑の大地。漆黒に藍色が溶け込んだ空。両者が拮抗する地平線。
そのどれもが美しい、誰もが魅入ってしまうような光景だ。
現に、ここに一人の男がいた。麗しい自然を一望する丘の上に座り込んだ彼は、じっとその風景を眺めていた。
どれほど続いただろう。男はずっとそうしていた。
それは必然だった。誰しもこの景色に心を奪われる。その雄大さを讃えるように、男は息を吐き、
「つまらん。なんてくだらない画だ」
――その美しさを完全に否定してみせた。
なんてことはない。何処にだって例外というものは存在する。
誰もが息を呑むその美しさを、何ともありきたりな唾棄すべきものと感じる者もいた。
風景を楽しむ心など無くても、人が生きるのに問題はない。味気ない話だが美的感覚は必須ではない。
ただこの男――シギニスにとってはその限りでないのが、また皮肉であった。
男は絵描きであった。
誰もが心奮わせるものに惹かれない芸術家。唯一の感性といえば聞こえはいいが、理解されないならそれは無価値へ堕ちる。
実際、彼の描く絵は売れない。無名の絵描きの宿命か、ものの見事に売れなかった。
だが、シギニスが悲観する事は無かった。
「売れる為に描く絵とは何の為だ。この筆は網膜が捉えた美を表す為にこそ揮われる。俺は見て筆を動かす、それだけの機構に過ぎない。人の生計は二の次だ」
その言葉は彼の本心で以降も売る為に描く事は無かった。絵とは無関係の仕事で生き繋ぎ、気の向くまま描く。それが彼の生き方だった。
感性こそ異質なれど、彼は確かに芸術家であったのだ。
だが、男の欲するものはそうそう見つからなかった。
今夜も筆を動かす画を求め街を抜け出したが成果は無かった。
万人の言う美しさを尊いと感じられない。もっと、そう、もっと別のものが見たかった。
肩を落としてな美景を眺めるシギニスだったが、
「――あれは」
ふと、風景に混じった異物が目に入った。
空と大地の狭間を駆ける動物。あれは――馬、だろうか。
影絵の様な光景の中、馬が走っていた。何もない草原をただ駆け抜ける。
草原を走る一頭の馬、それは画になる。であれば、男にはくだらない一枚の筈だったが、何故か後ろ髪を引かれる。
その理由はほどなくして分かった。
馬は少しずつこちらにやって来る。だが、男に気づいた訳ではない様だ。まるで獲物を探すように長い首を動かしていた。
そう、まさに獲物を探しているのだ。しかし、それもおかしな話だ。普通馬というのは草食で、どちらかといえば狩られる立場だ。
その疑問も含め、影絵のシルエットではなく姿そのものを見た瞬間、理解した。
――おぞましい姿だった。鬣は逆立ち見るものを震え上がらせ、その蹄は蹴り殺す事に特化した形をしていた。
どう見たって普通の馬ではない。あれは雑魔と呼ばれるもの――世界から忌み嫌われる災厄の具現であった。
「――ハ。ハハ、ハハハハ……ハハハハハ……ッ!」
笑いがこみ上げる。目にした異形から目が離せない。
なんて醜い姿だろう。あれほど異常を体現した姿が他にあるか。
あれは誰にも好かれない。誰からも認められない。ただただ否定されるだけのものに相違ない。
生命とはすべからく愛し愛されるものという理は何処へいった。
――描きたい。
何としてでもあれを描きたい。それは紛れもない欲求であり、使命の様にも思えた。自分が筆を取ったのはあれを絵にする為だったとさえ思える。
しかし、ここでは些か遠い。もっと、もっと近くで見たい。
だが、それは叶わない。
これだけの逸材だ、一度描き始めれば筆は止まらず、集中さえ出来ればほんの一時間程で仕上げる自信があった。
だが、あれに見つかれば殺されるだろう。男は筆を操る事意外、まるで凡庸である事を自覚している。あの怪物に睨まれたが最後、容易く餌食になるだろう。
――だが、それは悲しむ事ではない。描く為だけに生きている自分がその為に死ぬのはおかしい事ではない。むしろ当然の成り行きだ。
あぁ、しかし。男は思い直す。殺されるのはいいが、あれを描けなくなるのだけは困る。
生涯を賭けるだけの価値はあるが、達成する前に死んではどうにもならない。
シギニスは昂揚の中――命の価値を卑下しながらも――あくまで冷静に思考し、その場を後にした。
●
ハンターオフィスは騒然としていた。
やってきたとある男、彼の依頼内容が常識はずれなものだったからである。
二十代だろうその男は絵描きで、ある被写体を描きたいのだという。その間、男を護衛するのが依頼だったのだが、
「ぞ、雑魔の絵を描くんですか?」
受付嬢は戸惑いつつも男に尋ねた。そんな不気味な絵が売れるのか――少なくとも自分は欲しいと思わない。
だが男は平然と肯定し、
「目標は雑魔。依頼内容は俺の護衛、既に言った筈だが」
無愛想な答えに受付嬢はこっそり眉をひそめた。
こういう無駄に偉そうな依頼者はよくいるので慣れていたが、内容が異常だ。
いや、護衛はいい。雑魔の絵を描くというのも――理解は出来ないが――それも個人の自由だろう。
問題は男が出した条件だ。
「俺を守るのはしっかりやってもらうが、対象に傷をつける事は許さない。傷一つ無い、完璧なあれを描きたいからな」
――これである。この男は雑魔を愛玩動物か何かと勘違いしているのだろうか。
「で、ですが、お客様。雑魔というのは危険な相手でして――」
「でなければ依頼などしてない。それとも、こんな依頼も受けられぬ程、ハンターという輩は無能なのか?」
「違いますっ! そうではなくてですね、雑魔は排除が必要な相手なんですよ!」
「一体くらい見逃せ」
「駄目ですっ!」
一歩も引かず、男を睨む受付嬢。立場上こういう態度は良くないのだが、すっかり血が上っていた。
その頑なな態度が通じたのか、男が不服そうに妥協案を口にする。
「ちっ、無駄なやり取りをしてる場合か……已むを得ん。なら、絵が仕上がった後で殺せばいい。ただし、それまでは俺の条件を呑め」
「……それなら、まぁ、なんとか。けど、それでいいんですか?」
「構わん。実物が失われようとも、俺の筆で緻密に再現されたあれは不滅だ。あの存在を一部の乱れなく描き切ってみせよう」
そう言って、男は悦に入っていた。顔をしかめながら受付嬢はため息をつく。
不安を抱えつつも依頼申請の手続きに入る。しかし、この依頼受理していいものか。疑問は最後まで拭えなかった――――
解説
変態男――もとい、絵描きのシギニスさんからの依頼です。
夜の草原に出現する馬型の雑魔を絵にしたいという彼を護衛してください。
尚、完璧な姿の雑魔を描きたいという依頼人の意向を尊重し、絵の完成まで雑魔を傷つけてはいけません。
完成後は煮るも焼くも好きになさってください。
馬型の雑魔ですが、その姿から強力な突進攻撃を得意とすると推測されます。
また、移動力にも秀でていると思われます。
戦場は遮蔽物の一切無い広大な草原、相手の機動力が最大限活かされる場所です。
今回の依頼、肝は依頼人の護衛です。
彼の作業を邪魔しないよう完全な防御をしつつ、かつ雑魔を傷つけない工夫が要求されます。
圧倒的に不利な条件での交戦になります、十分に注意してください。
※
蛇足ですが、今回の依頼人は我儘で頑固で常識の無い変人です。
こちらからの進言を受け付ける気なんて皆無な素敵な自己中心ぶりです。
予め、ご容赦下さい。
尚、この依頼人に対する文句は当ハンターオフィスでは受け付けておりません。
夜の草原に出現する馬型の雑魔を絵にしたいという彼を護衛してください。
尚、完璧な姿の雑魔を描きたいという依頼人の意向を尊重し、絵の完成まで雑魔を傷つけてはいけません。
完成後は煮るも焼くも好きになさってください。
馬型の雑魔ですが、その姿から強力な突進攻撃を得意とすると推測されます。
また、移動力にも秀でていると思われます。
戦場は遮蔽物の一切無い広大な草原、相手の機動力が最大限活かされる場所です。
今回の依頼、肝は依頼人の護衛です。
彼の作業を邪魔しないよう完全な防御をしつつ、かつ雑魔を傷つけない工夫が要求されます。
圧倒的に不利な条件での交戦になります、十分に注意してください。
※
蛇足ですが、今回の依頼人は我儘で頑固で常識の無い変人です。
こちらからの進言を受け付ける気なんて皆無な素敵な自己中心ぶりです。
予め、ご容赦下さい。
尚、この依頼人に対する文句は当ハンターオフィスでは受け付けておりません。
マスターより
こんにちは、硲銘介です。
今回は変な人に付き合い縛りプレイをやらされる依頼です。
こういう変な依頼人、私は大好きです。
困った絵描きさんのアレな欲望を叶える為、皆様のご助力をお待ちしております。
それでは、よろしくお願い致します。
今回は変な人に付き合い縛りプレイをやらされる依頼です。
こういう変な依頼人、私は大好きです。
困った絵描きさんのアレな欲望を叶える為、皆様のご助力をお待ちしております。
それでは、よろしくお願い致します。
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2015/01/17 12:15
参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
作戦相談卓 ラスティ(ka1400) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/01/08 21:53:01 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/06 02:41:57 |