• 日常

冬の大地

マスター:サトー

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加人数
現在8人 / 4~8人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
プレイング締切
2015/01/12 09:00
リプレイ完成予定
2015/01/21 09:00

オープニング

※このシナリオは原則として戦闘が発生しない日常的なシナリオとして設定されています。

 都市と都市を結ぶ街道。
 地平線の彼方まで続く街道のただ中に、一軒の民家がぽつねんと建っている。
 道行く人はその民家を、「冬の大地」と呼んだ。


 外観は木造の一軒家。二階建て。馬小屋が脇にあり、井戸と小さな畑が裏手にある位で、取り立てて言うほどのことでもない、ただの民家。決して真新しいとは言えない、その古びた家は、宿屋を営んでいた。
 宿屋――といっても、町中にあるような宿屋とは趣きが異なる。ちゃんとした宿泊設備が整っているわけでもなく、旅人向けの雑魚寝ができるスペースがある程度。ひと時の暖を貪るためだけの、粗末な宿屋だ。好んで宿泊しに来るような場所ではない。
 けれど、なぜかこの宿には、好き好んで訪れる者達がいる。客は人それぞれ。性別も歳も立場も、皆ばらばら。ただ一つ共通していることと言えば、それは皆リピーターである、ということだ。そして、初めての訪れの時には皆酷く心を痛めていたのも、共通事項である。
 宿屋を営むのは、五十になる夫婦。不愛想で表情が表に出にくい旦那が厨房を、元気で快活な妻が一階の酒場で接客を担当している。
 「冬の大地」というのは、宿屋の正式名称ではない。客が勝手に名づけ、それを皆が言い伝えているに過ぎない。本来、この宿屋には名前が無い。「好きに呼んでくれ」と言う店主夫婦に甘えて、常連客はそう名付けた。無論、その名前には理由がある。

 この宿屋を訪れる客の中には、時折、えらく貧しい者がいる。
 例えば、着の身着のままでろくに物も持たず一晩の雨露を防ぐ場所を貸してほしい、といった客や、ぼろを纏った裸足で扉を叩く者、小さな子供を連れた痩せぎすの母子、疲れ切った表情で一杯の酒を呷る若者などなど。とても一泊の宿代すら持ち合わせていない客がやって来ることがある。
 そんなとき、店主夫婦はどうするか。
 夫婦は、十分な食料と安らげる暖かな寝床を無償で提供した。「いつか、お金を払いに来てくれたらいい」と言って。そうして、彼らが旅立つ時には、女将はこう言って送り出すのだ。
「ありがとうございました! 良い旅を!」
 その中には、律儀に払いに来る者もいれば、それっきり音沙汰の無い者もいる。
 だが、夫婦がそれに対して不満を言っている姿を見た者はいない。
 店主夫婦はお人好し。客は口ぐちにそう言う。実際、店内を見てみれば、それはよく分かる。民家は内装も外装も手入れはされているが年季を感じさせるのは避けられず、椅子やテーブル、皿やベッドなども、全て手製だ。夫婦自身が身に着けている服にも、継ぎ接ぎがそこかしこに見られる。決して余裕があるわけではない。裕福とは断じて言えない。それでも、夫婦は自分達の方針を曲げることはなかった。
 不器用な生き方かもしれない。けれど、それを粋に感じる者もいた。
 事実、律儀に払いに来た者はその後もかなりの確率でリピーターとなったし、この宿屋に格安で食糧を運んでくる商人も、かつてはここでお世話になった者だ。宿屋はその恵まれぬ立地でありながら、常に賑わっていた。立身出世したのか大金を恩返しと積んでくる者もいたが、夫婦は丁寧に断った。それは他の貧しき人達のために、私たちは今のままで十分だから、と。



 夕暮れが迫る頃、その日も、一人の旅人がやって来た。
 旅人は、客のひしめく酒場の扉をゆっくりと押し開く。
 見るからに憔悴したような三十過ぎの男は、女将にハーモニカを一つ差し出して言った。
「これで、一晩泊めて貰えないか? お金は……無いんだ」
 訊けば、男――オバドは親友と長らく旅をしてきたと言う。親友が歌を歌い、オバドがハーモニカで伴奏する。そうして、日銭を稼ぎ、各地を転々と回って来た。だが、その親友は先日ゴブリンに襲われ命を落としたらしい。
 一人生き残ったオバドは、ふらふらと道に惑い、ここに辿り着いた。もう音楽を続けていくことは不可能だから、このハーモニカはそれなりに値打ちがあるから、売れば宿代位にはなると思う、と。
 女将は厨房の方を振り返る。顔を覗かせていた主人がこくりと頷くのを見て、女将はオバドに微笑んだ。
「お代はいらないよ。さあ、座った」
 戸惑うオバドの肩を抑えつけ椅子に座らせると、女将は厨房の方に消えた。
 オバドは訳が分からないといった顔をしていたが、やがてテーブルに置いたハーモニカに、光の無い瞳を落とした。
 つい先日までは、どこまでも続く輝ける道が見えていたのに、今ではもう……。
 ゴブリンから自身を逃がすために、身体を張った親友――デュオの背が脳裏に焼き付いて離れない。

 デュオは陽気で考え無しな奴だった。
「俺達は音楽が大好きだ。けど、その才能は無い」などと自虐しつつも、ちっとも悲しそうな顔をすることなく、むしろ胸を張っていた。「人の記憶に残るなんて大層なことは俺達には無理でも、音楽への愛さえあれば、ほんのひと時、ほんのちょっと、その心に明かりを灯すことはできるはずさ!」と。
 そんなデュオだったからこそ、大して上手くもない歌声にも、人々は立ち止まり耳を貸してくれたのだろう。
 そんなデュオだったからこそ、大して自信の無い自分も、デュオと共に歩んでくることが出来たのだろう。貧しくとも、心に影の差すことのない日々を、歩んでくることが出来たのだろう。そう、歩んでくることが出来た、それはもう、過去形になってしまった。

 遺体は今も尚、ゴブリンの住処に囚われているのだろう。もし取り返しに行くのならば、それは文字通り命がけになる。まず間違いなく死ぬだろう。そんな度胸も無い自分に、不義理を成してしまった自分に、愕然としてオバドは彷徨った。
 形見の回収すらも叶わなかった。せめてデュオが大事にしていた家宝の宝石がついていたペンダントだけでも回収することができていれば、また違ったのかもしれないが、もう遅い。
 いっそ、あの時一緒に死んでいれば……、そんなことがオバドの脳内を呪文のように巡り続けている間、その後ろのテーブルには、ハンターの一団が席に着いていた。
 ひと時の休息を、と仕事帰りに立ち寄ったハンター達は、オバドの話を聞き、何やら思う所があったようだった――。

解説

目的:
 オバドの励まし

オバド:
 三十過ぎ。黒髪。短髪。一文無し。
 デュオと二人で弾き語りの旅をしていた。
 路上や広場、酒場などでハーモニカを吹いて回っていた。
 無名だが、音楽で日々の糧を得られる程度には好評だった。

デュオ:
 三十過ぎ。赤髪。長髪。
 右手の甲に大きな火傷の跡有。ペンダントを首から服の中にさげていた。
 ペンダントには透明度の高い水色の小さな宝石が付いており、裏面には「二人の旅路に祝福あれ」と刻まれている。
 胸を大きく斬られて死亡。遺体はゴブリンの住処に放置されている模様。

備考:
 オバドとデュオが襲われた現場は宿屋から徒歩で二日ほどの所。
 現場近くの村から、ゴブリン討伐の依頼がハンターに出ている。
 皆さんが何の仕事帰りなのかは、無理の無い範囲内でご自由にご設定頂いても構いません。

マスターより

こんばんは、サトーです。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
これは誰からの依頼でもありません。ゆえに、報酬もありません。ご注意ください。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2015/01/15 00:42

参加者一覧

  • 雄弁なる真紅の瞳
    エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029
    人間(紅)|18才|女性|魔術師

  • ルシン(ka0453
    エルフ|20才|女性|魔術師
  • 金色の影
    Charlotte・V・K(ka0468
    人間(蒼)|26才|女性|機導師
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • 粗野で優しき姉御
    アゼル=B=スティングレイ(ka3150
    エルフ|25才|女性|聖導士
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
依頼相談掲示板
アイコン 【相談】オバドさんを励ます会
ルナ・レンフィールド(ka1565
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/01/12 06:51:21
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/12 06:47:51