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【王戦】未来のために、死んでくれ

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
ショート

関連ユニオン
アム・シェリタ―揺籃館―

難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 3~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2019/02/07 12:00
リプレイ完成予定
2019/02/16 12:00

オープニング


 罪は、彼にとって馴染み深いものだった。己の裡から這い上がる昏い畏れが、身も心も縛り上げていく。何かを成さねばならないことは明白なのに、震えと後悔に耐えることしかできず、顔をあげることもできやしない。それでも彼を動かしたのは結局のところ、責任――否、自罰とも言うべきものだった。彼がなすべきことは、彼にしかできないこと。よしんばそれが他人にできたとしても……間に合わないかもしれない。
 そう。“また”。間に合わないかもしれない。
 だったら、足掻くしかなかった。消え入りたいほどの重圧に耐えながら、それでも。
 光に祈るだけでは、状況は変わらない。
 それだけでは、生かされてしまったオーラン・クロスは、救われることはない。

 ――だって貴方《エクラ》は誰も、救わない。

 かつて紐解いた聖女の記録の中の一節。宗教家でもあるオーランは、その言葉にいくつもの逸話を引いて反論することも出来る。しかし、もはやそれは適わないのだ。“オーラン自身が、深い共感を持ってしまっている”、今となっては。
 だからこそ足掻くしかない。歯を食いしばりながら、我武者羅に。



 傲慢王イヴ。過去の歪虚王の性能や性質を鑑みるに、その最たる脅威を【強制】と考えていたオーランは、かねてよりその対策をすすめていた。スポンサーはヘクス・シャルシェレット。上司はセドリック・マクファーソンという分厚い圧力に耐えながら、法術陣を『携帯』するという技術を達成することができた。
 数多の聖職者によって聖別された資材を湯水のごとく使いながら、ようやく。
 しかし――まだ、足りない。それが明らかになってしまったのは、過日、神霊樹を徹してミュールなる歪虚の過去に迫った時のこと。

 イヴの【強制】は、ハンターたちの備えをたやすく突破し、【死】に至らしめた。過去の交戦経緯から、強制には範囲型の強制と、単体型の強制があることは判明していたが、イヴは数多の覚醒者に対して同時に死を命令せしめた。
 それがその出力に由来するものか、特殊な働きかけがあるのかは不明だが、その対策は必須だった。こちらの戦力が如何なるものであれ、イヴの【強制】を前にしてはただの同士討ちの駒にすぎない。
 そんな危険な戦場に――"また"、ハンターを晒すのか。
 それだけは、いやだった。
 しかし。
「……そろそろ、諦めるしかないんじゃないかな」
 眼前。スポンサーのヘクスはだらしなく肘を突いた姿勢のまま、オーランを見つめている。
「技術的な方向性は定まったんだろう。あとは、イヴの【強制】がどこに働くかを調べ、それをどのように守るか。さらに……守れるか。じゃあ、あとはやるだけだ。これは“以前も”言ったとおりのことだけれど……」
 選択を突きつける男のさまを、オーランは正視できない。きっと、ヘクスは悪魔の如き笑顔をしているに違いない。そしてそれは実際に、そのとおりなのだった。
「『アレ』しか方法はないと思うけど?」
 傲然と笑ったヘクスは、悄然と項垂れるオーランの芯を手折るように、言葉に毒を染み込ませる。まるで蛇に睨まれた蛙のよう。脂汗をだらだらと流しながら、オーランは返事もできなかった。なぜなら、その選択は……。
「……ハンターに、死ねというのと、一緒です。そんな依頼、彼らが受けるはずがない」
「かといって騎士は動かせない。この事態じゃ、いつ本格的な大攻勢が始まるかわからない。聖堂戦士団もそうだ。勿論僕だって、そうしないで済むならそれに越したことはないと思うよ? でもさぁ」
 空気が、軋む。それはあるいは、オーランの錯覚だったのかもしれないが。
 そうだ。
 もう、"いた"のだ。検証のために、ヘクスが差し出した者たちが。
「残念ながらもう、“うち”の志願者はみんな廃人同然だ。度重なる検証で薬と洗脳で記憶に蓋をして漸く表の業務をこなせている状況で……そのトラウマ故に、過去に飛ぶことが出来る人間はもはやいない」
「…………っ!」
「オーラン。君は【ハンターがそんな依頼を受けるはずがない】といったけど。いるよ。そんな物好きは……まぁ、多分、三人ぐらいはきっといる。十分じゃないか。だって、そうしなきゃ……」
 淡い吐息の気配と――恐怖。言葉を聞く前に、莫大な自罰が湧き上がり、オーランは顔を上げた。落ち窪んだ目が、ヘクスのそれと絡み合う。
 ヘクスは――。

「君自身、その手で誰かを殺すことになるかもしれないんだよ?」

 転瞬。
「ッッッッッッッッセェェェェェェイイイ!!!!」
「どわっ!」
「……おっと」
 突如室内に湧き上がった大喝と巨体に、オーランは魂消て転倒し、ヘクスは目を丸くして姿勢を正す。

「我輩を求める声が聞こえたぞ!!!」
「………………お久しぶりです、プラトニス様」
 かろうじて声を出したのがオーラン。対して、ヘクスは何気ない所作で室外へと出ようとしていた。
「ンンンンム!!! 待てェいヘクス!!!! 今日こそお主の腐った口を節制で満たしてやらねばならん!!!!」
 いつだったかと同様にプラトニスをオーランに押し付けようとしていたヘクスは、名指しされたことに息を吐き、振り返る。
「や、他意があったのは認めるけど……必要なことだったんじゃないかなあ」
「ンンンンなっとらンンン!!! お主のそれは【傲慢】のそれと同じだ! 心を折られた末に掴み取るのはただの従属! 思考停止よ! 己の意思で選び取ってこそが節制というものだ!」
「だから、待ったんだけどなぁ」
「笑止!!! 我輩発憤したぞヘクス!! なぁ、なぁおいそこなオーランよ、迷える中年よ!」
「は、はい」
「お主の節制……決して折れぬその心、我輩はしかとこの目に焼き付けた!」
 クワッ! とプラトニスの眦が釣り上がり、大胸筋が炸裂し、上腕二頭筋と前腕がパンプアップする。
「つべこべ言わず依頼を出してこい!!!!」



「……つまり、今回の依頼は、ハンターの皆に神霊樹にアクセスし、ミュールが居たという村……唯一イヴの足跡が明らかになったあの村に行ってもらう。そこで【強制】を受けることで、イヴの【強制】の精査をしたい。具体的には、この携行型の法術陣を使ってもらう」
 そういって差し出したのは、ティアラのような宝飾品と――黒い布にマテリアル鉱石を加工した染料によって線が引かれた衣服であった。
「全身……タイツ……?」
「……いや、そうだ。そうなんだが、それはインナーなので、ちゃんと服は着てくれて構わないよ」
「………………」
 疑念の眼差しにオーランは咳払いをすると、
「その装具と服で、イヴの【強制】を調査する。その結果を携帯型法術陣にフィードバックすることで、イヴへの【強制】の対策としたいんだ。勿論僕も一緒に過去に潜ることになる。…………ごめん。だけど、言わせてほしい」
 オーランは固く目を閉じて、最後にこう結んだ。
「頼む。未来のために、死んでくれ」

解説

 ・オーラン・クロスがイヴに見つからないようにしながら、イヴの【強制】を受けてください。
 ・強制さえ受ければその前後は自由です。

●解説
【羽冠】失望の世界 https://www.wtrpg10.com/scenario/detail/10631 赤山優牙MSの依頼と同じ場面です。

 ・本依頼では【強制】の調査が目的となっています。そのため、直接的な戦闘は必須ではありません。
 ・本依頼のリプレイでは、死ぬ前後の心情なども描写されえます。しかし、踏み込みすぎた描写は規約上問題になりえるため、一定の内容はリプレイ上でアドリブがかかることになります。
 ・ライブラリ内で【死んだあと】のサポートは万全です。死んだ際の記憶や、味方を倒した記憶がトラウマ・PTSDになるようなケース、廃人になってしまうケースに対してはプラトニスが介入します。その場合、死ぬよりも前、トラウマが成立するよりも前で記憶が欠損する形になります。
(要は今後もPC活動を続ける妨げにはなりません。今回の依頼により考え方が変わった、など、PC設定への反映は問題ありません)

●傲慢王イヴ
・ほとんどの情報が不明です。追加の情報については前回リプレイをご参照ください。
・強制については前回の依頼でも【抵抗】はできたことから、その性能に限界があるか、全力を出していない可能性が考えられます。いずれにしても【強制】を引き出すことが肝要です。
・なお、性質上本気を出すことはあり得ません。



●とある村(上述の依頼より引用です)
 年代不明&場所不明の村。
 建物の雰囲気から西方世界のいずこかと思われる。人口300人程度。
 数十の家からなる村であり、宿は無い。
 酒場は1店舗あり、村人の憩いの場ともなっている。
 村長の家は周囲の家よりも二周り程大きいので、現地につけば、すぐには分かる。
 村の中心地には広場があり、食料品などの売買や物々交換が行われている。

マスターより

こんにちは、【王戦】の新フェイズです。

彼方此方が戦火が燻りつつある中でも、来るべき決戦にそなえて準備を進めなくてはなりません。
長らく王国を苦しめてきた【強制】、その最上位の存在に対する備えをするための依頼です。

ライブラリ内でのシミュレーションとはいえ、その時訪れるのは死そのもの。
そのことを十分理解したうえでの参加をお願いします。
(意訳:とても美味しいRP機会かもしれないDEATHね!)

それでは皆様、よろしくおねがいします!

関連NPC

  • ガンナ・エントラータ領主
    ヘクス・シャルシェレット(kz0015
    人間(クリムゾンウェスト)|34才|男性|猟撃士(イェーガー)
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2019/02/16 17:27

参加者一覧

  • フューネラルナイト
    クローディオ・シャール(ka0030
    人間(紅)|30才|男性|聖導士
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠(ka2876
    人間(蒼)|25才|男性|疾影士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 清冽なれ、栄達なれ
    龍華 狼(ka4940
    人間(紅)|11才|男性|舞刀士
  • 輝く星の記憶
    深守・H・大樹(ka7084
    オートマトン|30才|男性|疾影士
依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/02/04 00:02:31
アイコン 相談卓
誠堂 匠(ka2876
人間(リアルブルー)|25才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2019/02/06 23:02:18