• 無し

祈りの遺伝子

マスター:守崎志野

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在5人 / 3~5人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2019/05/04 19:00
リプレイ完成予定
2019/05/13 19:00

オープニング


 サラサラと葉擦れの音。荒んだ風がまるで癒やされたかのように緑の匂いを含む。
 人は、その中で穏やかに佇む。そこには嘆きも怖れも怒声もなく、流血の匂いもない。
 穏やかな気分だ。どうして自分はあんなに抗ったのだろう?受け入れてしまえばこんなに楽なのに。
 あんなに苦しんで守る程、ヒトの姿は尊いものだったのか?
 そんな意識も次第に遠くなっていく。
 そこには笑い声も話し声もない。ただ、静かに佇み空を仰ぎ、或いは俯く。
 ただ、静謐だけがあった。


 だ・か・ら、無関係だって言ってるだろーがこの石頭!
 ……とは思っても口に出せない。出せば一層立場が悪くなるに決まっているし、自分一人の問題では済まない。
 ケイカは息を吸って気を落ち着かせると、改めて口を開いた。
「何度も申し上げていますが、そちらの言われる集団失踪の件は当方とは関係ありません」
「集団失踪が起こった複数の村付近でお前の姿が目撃されてるんだぞ」
「私じゃありません。失踪が起こったっていう村の辺りには行ったことがありませんし」
 証言してくれる人は何人もいるといえば、
「予め口裏を合わせておくことも容易いだろうな。それに、開拓地も随分と問題を起こしているようだが」
「それ、関係あるんですか?」
「怪しげな物が随分とあったらしいな」
「それは……」
 とっさにケイカは口ごもった。

 開拓地で作られている作物はどういうものなのか。
 開拓地に雑魔が現れた事件の後、シャハラが不在の為にフリッツにそれを聞いてみた。
「知らない方が良いかとも思ったけど、ここまで来たら仕方がないね。君が薄々察している通りだよ」
「それじゃ……」
「うん、クリムゾンウエストの魔導技術とリアルブルーの科学技術を組み合わせて生み出された物だ。全部では無いけどね」
 魔導によって新種を生み出す事は認められていない。事が公になれば開発の差し止め、作物の廃棄は免れないだろう。場合に依っては違法として関係者が処罰される事もあり得る。
「どうして……」
 そんな危ない橋をと言いかけてケイカは口を閉じた。その理由は察しが付いたからだ。
 部族会議に発言力があったり、歪虚との戦いに有益な力を持つところはまだ良い。辺境には生きていくのだけで精一杯で、消えたとしても気に止められる事すらない人々がいる。そんな人々に誰が手を差し伸べるだろうか。
 ただでさえ、世界は大きな流れに呑まれているというのに。
「大部族も城塞都市の人間も、そこに気を配る余裕は無い。それどころか、辺境の貧しさや教育が行き届かない事につけ込んで搾り取る事を当然としている者もいる。そんな連中が、手にした利権を手放す筈がないだろう。まともな手段ではどうにもならないところまで来てるんだ」
 例え歪虚との戦いが人の側に最も望ましい形で終わり、力無き者がその時まで生き延びたとしても、状況が好転する事はない。弱い者を踏みつける事も、自分に関わりが無ければ思ってみる事さえ無い事も、人にとっては当たり前なのだから。
「今必要なのは辺境の人々が自らを養い、経済的に自立できるという事を既成事実化することなんだよ。禁忌に触れても、それが人々を生かす力になっていればいずれ認めざるを得ないだろうからね」
 力無き者、運が無い者、そんな人達がそれだけの理由で貶められ消える事がない世界。シャハラはそれを祈り、そして祈るだけではどうしようもない事を悟って実行した。

 その為に、今は事を公にする訳にはいかないのだ。例え歪虚との関係を疑われたとしても。
「でも、それは長期にわたる品種改良の成果です。失踪事件とも歪虚とも関係ありません。それに、こちらにも調査に行った者が失踪する被害が出てるんです。」
「拙い事を掴まれて始末したのか?」
 ……似たようなやりとりがどれだけ繰り返されたことか。
「だったらうかがいますけど、当方が関係してるって確かな証拠でもあるんですか!?」
「埒が明かんな。一緒に来い!」
 結果がこうだ。
「ちょっと!勝手に決めるな!権力横暴!」
「野放しにして証拠隠滅でもされたら困るからな」
「無い物を隠滅なんて出来る筈無いだろうがー!」
 抗議虚しく、ケイカは連行され拘束される事となった。


「お陰様で、開拓地はここ数ヶ月平穏なのですが……別の問題が起こりました」
 眉間を押さえてフリッツは切り出した。
「複数の村で失踪者が出たのですが、それが当方と関係があると疑われているんです」
 勿論濡れ衣でこちらとしては全く覚えが無いのですとフリッツは続けた。
「とはいえ放置する訳にもいかないので、人をやって失踪者を調べさせたのですが……」
 調査にやった者も相次いで連絡を絶ってしまった。おまけに失踪者達が姿を消す直前にケイカに似た少女と接触していたという話まで出てますます疑いが深まっている。
 折悪しくシャハラの方も出先で事故に巻き込まれたとかですぐには戻れそうにない。
「正直、シャハラを良く思っていない人間は結構います。そういう連中がこの機に乗じてこちらを潰そうとしているのだと思いますが……どうやら向こうもはっきりとした証拠を掴んでいる訳では無い。だから、ケイカに自分達にとって都合の良い自白をさせようとしているのでしょう」
 そうさせない為には事実を掴んでおかなければならない。
「まずは連絡を絶った調査員の行方を調べてください。連絡が途絶えた位置はこちらで把握出来ています」


 かつてはささやかな営みがあっただろう家々は既に朽ち果て、人が住めるとは思えない。
 それでも、そこには人が居た。
 木々に溶け込むようにひっそりと、働くでも話すでも無くただ佇んで。

解説

依頼内容:連絡を絶った調査員の追跡
     (連絡が途絶えた地点の調査)
     雑魔など有害な存在がいた場合は退治する事が望ましい

問題の地点は荒れ地だが低木(1~2mくらい)の茂みが見られる
ただ、虫や獣など動物の気配は無い

かつては集落があったらしいが建物や設備は全て朽ち果てて人が暮らせるようには見えない
にもかかわらず5、6人の人間がいる
何をするでも無く佇んでおり、話しかけてもほとんどまともな言葉は返ってこない
触れてみると人体とは思えない程固くなっている者もいる

茂みの周辺を調べると散らばっている鞄や袋・道具などを見つける事が出来る
また、木の枝や幹には衣服の名残と思われる破れた布がまとわりついている

※PL情報
鞄や袋には中を調べると手記と思われる紙片が見つかるものがある
生活や立場に対する絶望の他に1人の少女に助けられ、ここに導かれた事や
不思議な幸福感に包まれた事が切れ切れに綴られている
最も新しいと思われる紙片には
『雑魔として平和に生きる事を拒む程にヒトの姿は』までが書かれている

この地の雑魔は他者を攻撃する事もなく一見何の害も無い様に見えるが
時間を掛けて近くの生き物を同類にする性質を持っている
中心部分を折られるか燃やされると枯れ果て、消滅する

マスターより

お久しぶりです
辺境の開拓を巡る事件に連なるシナリオです
解決の為に以前のシナリオを読む必要はありませんが
読んでおくとこの件を取り巻く事情がわかりやすいかもしれません

世界の大きな動きが続く中でもささやかな事件は起こっては消えています
お陰様で平穏が続いたように見えた開拓地も裏で色々あったようで…
ただ、今回はそうした裏事情は考えなくても失敗する事はありません

ご縁がありましたらよろしくお願いします
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2019/05/12 09:36

参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • システィーナのお兄さま
    ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929
    人間(紅)|24才|男性|疾影士
  • アウレールの太陽
    ツィスカ・V・A=ブラオラント(ka5835
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • 重なる道に輝きを
    ユメリア(ka7010
    エルフ|20才|女性|聖導士
依頼相談掲示板
アイコン 相談
ツィスカ・V・A=ブラオラント(ka5835
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2019/05/04 18:02:52
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/05/04 16:41:20