ゲスト
(ka0000)
【王戦】善意に似た我儘
マスター:紺堂 カヤ

このシナリオは3日間納期が延長されています。
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- 参加費
1,000
- 参加人数
- 現在8人 / 4~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- プレイング締切
- 2019/05/10 09:00
- リプレイ完成予定
- 2019/05/22 09:00
オープニング
王都イルダーナには、暗雲が立ち込めていた。文字通りただの雲であったなら、まだよかった。だが、実際に王都へと影を落としているのは雲ではなく……、陸だ。人々の不安は日々膨らむばかりである。
王国随一の宝石商・モンド氏は、王都に宝石店だけでなく様々な商業施設を経営している。それだけに、従業員の数も多い。王都籠城に先駆けてモンド氏は、里へ帰せるものはいつもより多めの給料を支払ってすでに帰省させている。しかしモンド氏はかねてより身寄りのない者を優先的に雇い入れていたため、そもそも帰る場所のない者がたくさんいた。
モンド氏は、帰る場所のない従業員をすべて、王都内で面倒をみることに決めた。
実のところ、王都内のどこにいようが安全面において大した差はない。だが、誰もが明日を読めず不安がる中で、身寄りのない者はせめて身を寄せ合おうではないか、という動きが出てきたのである。モンド氏はそういう人々の気持ちをくみとり、氏がオーナーをつとめる『ダイヤモンドホール』に避難所を設け、従業員だけでなく近隣の人々も保護することにしたのである。
「物資は地下へ! 毛布や衣類は劇場内へ!」
ホール内で的確に指示を与えている青年――クロスも、身寄りのない従業員のひとりだった。普段クロスは、郊外に居を構えるモンド邸で、モンド氏の一人娘・ダイヤの側用人をしているのだが、避難所を取り仕切るのに人員が必要であるとわかるや、すぐさま駆け付けたのである。クロスにとって予想外だったのは、自分だけでなく、ともについてきてしまった人がいたことだった。その人、とは。
「医療班は楽屋で待機してね! 足らないものがあればすぐに言うのよ!」
モンド氏の一人娘・ダイヤ嬢である。クロスがそっとため息をつく。
「なんでついてきてしまうんですかね、このお嬢さまは」
「……まあ、ついてくるに決まってるでしょう、と言いたいところだけれどね、俺としては」
そう苦笑するのは、モンド邸に居候している青年――セブンス・ユング(kz0232)である。彼もまたモンド氏に世話になっている者として協力に乗り出していたのだ。だが、積極的に働きつつもどこか落ち着かぬ様子ではあった。
「そうよ、当然よ、私だって役に立ちたいんですもの」
「本当に役に立つんですか?」
「ハァ!?」
ダイヤが憤慨する。ふたりのやり取りに、周囲の人々が笑い声をあげた。ダイヤの存在は確実に、人々の心を和ませていた。クロスもそのことがわかっているだけに、心配こそすれど執拗に「お屋敷へ帰れ」とは言わない。
「しかし、我々だけではまだ人手が足りないな。物品を用意することはできても、ホールを警護できるわけではない」
セブンスが眉をひそめて呟いた。まさしくその通りで、今の状態はあまりにも武力に乏しかった。ホールの収容人数にはまだ余裕があるものの、その点がカバーできておらず安全が保障されていない状態ではむやみに受け入れる人々を増やすわけにもいかない。
「それについてなんだけど」
ダイヤが非常に落ち着いた声で話し始めた。
「先日、私からお父様に進言したの。王都籠城の役に少しでも立つためには、ここの守りもきちんとして、王国民の不安を取り除くことがひいては王国全体のためにもなると思うわ、って」
クロスとセブンスは思わず目を丸くした。ふたりの様子には気が付かぬように、ダイヤは話し続ける。
「今ならばまだ、ハンターに協力要請ができると思って。お父様も同意してくださって、明日にでもハンターが来てくれるように手配したわ」
「お嬢さま……」
クロスは内心で舌を巻いていた。本当に成長なさったことだ、と思ったのだ。
「だからね」
ダイヤはまっすぐに……セブンスの方を見た。まさか自分に語り掛けられるとは微塵も思っていなかったセブンスが少し面食らったようにまばたきをする。
「だからね、セブ君。ここは気にせず、行きたいところへ行っていいのよ」
「!」
セブンスは、両目を大きく見開いた。
「私、気が付いてたわ。セブ君がずっと、我慢してたことがあるって。行きたいところがあるんでしょう? 故郷に、行かなければならないんでしょう?」
「……ええ」
冬のはじめ、セブンスはモンド家にかかわるある事件をきっかけに、自分の「夢」に影響を及ぼしているかもしれない存在の手がかりを得た。それは、もしかしたらセブンスが長年追っている「先生を殺した犯人」を知る手がかりにもなるのではないかと予想していた。その手がかりとは……、セブンスの実家である「ユング家」の存在だった。
セブンスが、もうほとんど思い出すことのできない、実家。思い出すことはできないだけに、行かねばならないと、そう思っていた。
しかし、年末年始をモンド家で過ごし、なにやかにやと用事を手伝ううちに冬は過ぎ、春を迎えるころには王国全体が大きく動いていて、自分の都合など口に出せない状態になっていた。
(いや、それは言い訳だ)
セブンスは胸中で否定した。周囲の環境を言い訳にして、きっと思い出したくないことを目の前に見せられるとわかっているユング家へ行くことが、怖くなってしまったのだ。
だから。
もう、行くには今しかない。
「……ありがとう、ございます。お言葉に甘えて、行かせていただきます」
「ま、待ってください、何もこんなときでなくとも」
慌てて止めたのは、クロスだった。セブンスは、きっぱりと首を横に振る。
「こんなときでなくてはならないんですよ。この有事を乗り越えたとして、ユング家の者が無事に生き延びているかどうかはわからないでしょう。それに、俺も。生き延びられるか、わからない。だからこそ今行かねばなりません」
「そうかもしれませんが」
あまりにシビアすぎる言葉に、クロスは顔色を曇らせた。普段は、クロスこそが一番シビアな物言いをするというのに。
「ユング家へ辿り着くところまでは、護衛をつけるわ。明日来てくれるハンターたちの中から数名」
「いえ、それはダメです、お嬢さま。そのハンターは民を守るための」
「セブ君も民でしょ」
ダイヤがスパっと言い切った。
「私だって民だし、クロスだってセブ君だって民でしょ。私、王侯貴族を気取るつもりはないわよ。モンド家は成り上がり。いわゆる成金だもん。だからこそ、民を助けるなんてそんな威張ったこと言うつもりないの、私も、お父様も。目の前の大事な人たちを守りたいの。善意じゃなくて我儘よね、これ。……だから、セブ君を守ることは私の我儘。我儘だけど、最優先事項よ。お願い、連れて行って」
ダイヤが、澄んだ瞳で懇願した。セブンスは、ふう、と息をついて微笑んだ。
「有難く、連れてゆかせていただきます、お嬢さま。ただし、ホールの警備要員を第一にしてくださいね」
「ええ」
しっかりと頷くダイヤはもうすっかり、大人の女性に見え、クロスは眩しさすら感じたのだった。
王国随一の宝石商・モンド氏は、王都に宝石店だけでなく様々な商業施設を経営している。それだけに、従業員の数も多い。王都籠城に先駆けてモンド氏は、里へ帰せるものはいつもより多めの給料を支払ってすでに帰省させている。しかしモンド氏はかねてより身寄りのない者を優先的に雇い入れていたため、そもそも帰る場所のない者がたくさんいた。
モンド氏は、帰る場所のない従業員をすべて、王都内で面倒をみることに決めた。
実のところ、王都内のどこにいようが安全面において大した差はない。だが、誰もが明日を読めず不安がる中で、身寄りのない者はせめて身を寄せ合おうではないか、という動きが出てきたのである。モンド氏はそういう人々の気持ちをくみとり、氏がオーナーをつとめる『ダイヤモンドホール』に避難所を設け、従業員だけでなく近隣の人々も保護することにしたのである。
「物資は地下へ! 毛布や衣類は劇場内へ!」
ホール内で的確に指示を与えている青年――クロスも、身寄りのない従業員のひとりだった。普段クロスは、郊外に居を構えるモンド邸で、モンド氏の一人娘・ダイヤの側用人をしているのだが、避難所を取り仕切るのに人員が必要であるとわかるや、すぐさま駆け付けたのである。クロスにとって予想外だったのは、自分だけでなく、ともについてきてしまった人がいたことだった。その人、とは。
「医療班は楽屋で待機してね! 足らないものがあればすぐに言うのよ!」
モンド氏の一人娘・ダイヤ嬢である。クロスがそっとため息をつく。
「なんでついてきてしまうんですかね、このお嬢さまは」
「……まあ、ついてくるに決まってるでしょう、と言いたいところだけれどね、俺としては」
そう苦笑するのは、モンド邸に居候している青年――セブンス・ユング(kz0232)である。彼もまたモンド氏に世話になっている者として協力に乗り出していたのだ。だが、積極的に働きつつもどこか落ち着かぬ様子ではあった。
「そうよ、当然よ、私だって役に立ちたいんですもの」
「本当に役に立つんですか?」
「ハァ!?」
ダイヤが憤慨する。ふたりのやり取りに、周囲の人々が笑い声をあげた。ダイヤの存在は確実に、人々の心を和ませていた。クロスもそのことがわかっているだけに、心配こそすれど執拗に「お屋敷へ帰れ」とは言わない。
「しかし、我々だけではまだ人手が足りないな。物品を用意することはできても、ホールを警護できるわけではない」
セブンスが眉をひそめて呟いた。まさしくその通りで、今の状態はあまりにも武力に乏しかった。ホールの収容人数にはまだ余裕があるものの、その点がカバーできておらず安全が保障されていない状態ではむやみに受け入れる人々を増やすわけにもいかない。
「それについてなんだけど」
ダイヤが非常に落ち着いた声で話し始めた。
「先日、私からお父様に進言したの。王都籠城の役に少しでも立つためには、ここの守りもきちんとして、王国民の不安を取り除くことがひいては王国全体のためにもなると思うわ、って」
クロスとセブンスは思わず目を丸くした。ふたりの様子には気が付かぬように、ダイヤは話し続ける。
「今ならばまだ、ハンターに協力要請ができると思って。お父様も同意してくださって、明日にでもハンターが来てくれるように手配したわ」
「お嬢さま……」
クロスは内心で舌を巻いていた。本当に成長なさったことだ、と思ったのだ。
「だからね」
ダイヤはまっすぐに……セブンスの方を見た。まさか自分に語り掛けられるとは微塵も思っていなかったセブンスが少し面食らったようにまばたきをする。
「だからね、セブ君。ここは気にせず、行きたいところへ行っていいのよ」
「!」
セブンスは、両目を大きく見開いた。
「私、気が付いてたわ。セブ君がずっと、我慢してたことがあるって。行きたいところがあるんでしょう? 故郷に、行かなければならないんでしょう?」
「……ええ」
冬のはじめ、セブンスはモンド家にかかわるある事件をきっかけに、自分の「夢」に影響を及ぼしているかもしれない存在の手がかりを得た。それは、もしかしたらセブンスが長年追っている「先生を殺した犯人」を知る手がかりにもなるのではないかと予想していた。その手がかりとは……、セブンスの実家である「ユング家」の存在だった。
セブンスが、もうほとんど思い出すことのできない、実家。思い出すことはできないだけに、行かねばならないと、そう思っていた。
しかし、年末年始をモンド家で過ごし、なにやかにやと用事を手伝ううちに冬は過ぎ、春を迎えるころには王国全体が大きく動いていて、自分の都合など口に出せない状態になっていた。
(いや、それは言い訳だ)
セブンスは胸中で否定した。周囲の環境を言い訳にして、きっと思い出したくないことを目の前に見せられるとわかっているユング家へ行くことが、怖くなってしまったのだ。
だから。
もう、行くには今しかない。
「……ありがとう、ございます。お言葉に甘えて、行かせていただきます」
「ま、待ってください、何もこんなときでなくとも」
慌てて止めたのは、クロスだった。セブンスは、きっぱりと首を横に振る。
「こんなときでなくてはならないんですよ。この有事を乗り越えたとして、ユング家の者が無事に生き延びているかどうかはわからないでしょう。それに、俺も。生き延びられるか、わからない。だからこそ今行かねばなりません」
「そうかもしれませんが」
あまりにシビアすぎる言葉に、クロスは顔色を曇らせた。普段は、クロスこそが一番シビアな物言いをするというのに。
「ユング家へ辿り着くところまでは、護衛をつけるわ。明日来てくれるハンターたちの中から数名」
「いえ、それはダメです、お嬢さま。そのハンターは民を守るための」
「セブ君も民でしょ」
ダイヤがスパっと言い切った。
「私だって民だし、クロスだってセブ君だって民でしょ。私、王侯貴族を気取るつもりはないわよ。モンド家は成り上がり。いわゆる成金だもん。だからこそ、民を助けるなんてそんな威張ったこと言うつもりないの、私も、お父様も。目の前の大事な人たちを守りたいの。善意じゃなくて我儘よね、これ。……だから、セブ君を守ることは私の我儘。我儘だけど、最優先事項よ。お願い、連れて行って」
ダイヤが、澄んだ瞳で懇願した。セブンスは、ふう、と息をついて微笑んだ。
「有難く、連れてゆかせていただきます、お嬢さま。ただし、ホールの警備要員を第一にしてくださいね」
「ええ」
しっかりと頷くダイヤはもうすっかり、大人の女性に見え、クロスは眩しさすら感じたのだった。
解説
■成功条件
王都籠城に備えた「ダイヤモンドホール」の警護、およびセブンスの護衛
■人員配分と役割
・ホール警護 2名以上
ダイヤモンドホールの安全確保のための警護と、集まってきている人々のケア。
(ホールが直接脅威にさらされる危険性はないとみて良いため、ハンターたちがともに過ごしてくれる、という安心感を与えることが最重要任務)
ホールの設備などは過去のシナリオ『胸騒ぎに似たアルペジオ』を参照のこと。
・セブンス護衛 2名
王都イルダーナから徒歩で丸一日かかる集落にまでセブンスを送り届ける。
集落までには、大きな脅威はないと予想している道を使用するものとする。ただし、非常時につき何が起きても不思議ではない。
セブンスは武器として弓を所持しており、腕前も実戦に耐えうるものである。馬など移動手段は所持していない。(乗馬、バイクの運転などは可能)
護衛は送り届けるだけのものとし、帰り道については考えなくともよい。護衛に成功したハンターは無条件でホールへ戻ってこれるものとする。
■注意事項
当シナリオの難易度は「普通」となっているが、ホール警護を担当するものは「やや易しい」、セブンス護衛を担当する者は「やや難しい」に相当する任務となっている。
王都からユング家のある集落までの道のりについては不明点ばかりで、セブンスもまったくわかっていない状態である。よって、質問にはほぼ答えられない。
※セブンス自身のこれまでの経緯については、過去のシナリオを参照のこと。ただし、一切知らずとも任務に支障はない。
王都籠城に備えた「ダイヤモンドホール」の警護、およびセブンスの護衛
■人員配分と役割
・ホール警護 2名以上
ダイヤモンドホールの安全確保のための警護と、集まってきている人々のケア。
(ホールが直接脅威にさらされる危険性はないとみて良いため、ハンターたちがともに過ごしてくれる、という安心感を与えることが最重要任務)
ホールの設備などは過去のシナリオ『胸騒ぎに似たアルペジオ』を参照のこと。
・セブンス護衛 2名
王都イルダーナから徒歩で丸一日かかる集落にまでセブンスを送り届ける。
集落までには、大きな脅威はないと予想している道を使用するものとする。ただし、非常時につき何が起きても不思議ではない。
セブンスは武器として弓を所持しており、腕前も実戦に耐えうるものである。馬など移動手段は所持していない。(乗馬、バイクの運転などは可能)
護衛は送り届けるだけのものとし、帰り道については考えなくともよい。護衛に成功したハンターは無条件でホールへ戻ってこれるものとする。
■注意事項
当シナリオの難易度は「普通」となっているが、ホール警護を担当するものは「やや易しい」、セブンス護衛を担当する者は「やや難しい」に相当する任務となっている。
王都からユング家のある集落までの道のりについては不明点ばかりで、セブンスもまったくわかっていない状態である。よって、質問にはほぼ答えられない。
※セブンス自身のこれまでの経緯については、過去のシナリオを参照のこと。ただし、一切知らずとも任務に支障はない。
マスターより
皆様ごきげんいかがでしょうか。紺堂でございます。
国家における大事にも、民衆は存在するものでございます。民衆とは、人の集まり。ひとりひとりに事情があり、生活があり、意志があります。
大きな流れの中でも、それを軽んじるべきではないと、そんな思いでいます。
少しでも同じ思いを抱いてくださる方がこの依頼を助けてくださったなら、とてもとても幸せです。
よろしくお願いいたします。
国家における大事にも、民衆は存在するものでございます。民衆とは、人の集まり。ひとりひとりに事情があり、生活があり、意志があります。
大きな流れの中でも、それを軽んじるべきではないと、そんな思いでいます。
少しでも同じ思いを抱いてくださる方がこの依頼を助けてくださったなら、とてもとても幸せです。
よろしくお願いいたします。
関連NPC
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2019/05/19 20:24
参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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相談卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/05/10 08:32:01 |
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![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/05/06 10:06:55 |