• 無し

雪解けの季節に

マスター:蝦蟇ダス

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
プレイング締切
2015/02/12 07:30
リプレイ完成予定
2015/02/21 07:30

オープニング

 山の谷間から、朝日がまばゆい光を投げ掛けてくる。
 目を細める男の隣に、家の中から出てきた女性がそっと寄り添い腕を絡めた。
「これから、私達の人生が始まるんですね。――あなた」
「……あぁ。ここが、俺達の家になるんだ」
 降り積もったばかりの純白の雪。雄大な風景を照らし出す柔らかな陽光が、それらを見つめる二人を祝福していた。

 ニエベという名の男と、その妻フロール。仲間達と暮らす山村は、慎ましくも温かな幸せに溢れていた。やがて娘も授かり、『春』を意味する『エアル』と名づけた。この雪に閉ざされた山に春を告げるような、優しさと明るさに満ちた子供に育ってくれると嬉しい。
 それから、どれだけの月日が流れただろうか。
 自慢の一人娘が町へ嫁いでいったのも、随分と昔の事のように思える。
 徐々に増える化け物の脅威を避け、町へ豊かな暮らしを求めて、仲間達は一人、また一人と村を去っていった。
 そして、妻が病気で逝った。
 男は、独りになった――

「……お願いよ、父さん。私達と一緒に暮らしましょう?」
「……………………」
 思いつめた表情で自分を見つめてくる視線に、しかし、豊かな口髭を蓄えた壮年の男性――ニエベは黙して答えなかった。
「母さんと暮らしたあの家に愛着があるのは分かるわ。私も、それで父さんの気が済むのなら、出来る限りそうして貰いたかった。――でももう限界よ! 化け物が出ているのよ!? いつ殺されてもおかしくない!」
「お義父さん、僕からもお願いします」
 女性をなだめながら、その隣に腰掛けた男性が口を開いた。
「お義父さんを年寄り扱いするわけではありませんが、このままあの家に住むのは危険過ぎます。最近ではエアルも心配して、あまり眠れていないようですし。妻を助けると思って、どうか」
 頭を下げる男性。なおもニエベが無言を貫いていると、義理の息子は頭を下げたままで切り出した。
「娘も会いたがっています。『じーじとお話ししたい』って。妻とあの子の幸せだけが、僕の願いです」
 細められる瞳。鋭い眼光は、猟師として長年暮らしてきた凄みを感じさせる。
 椅子の引かれる音が響いた。
「父さん!」
 娘の呼び止める声にも振り返らず、ニエベはその場を去った。

 数日後。夫婦の住む町の一角がざわついていた。
 その中に見知った顔を見つけたエアルがどうしたのかと様子をうかがっていると、気がついた一人が駆け寄ってきた。
「あぁ、エアルちゃん。良かった。呼びに行こうと思っていたところだ」
「どうかしたんですか?」
 相手のただ事ではない様子に、嫌な予感が胸を騒ぎ立てる。
「山の方で大きな雪崩があったんだ。それで、仲間が様子を見に行ったんだが――ニエベ爺さんの家の煙突から煙が出ていないらしい」
「――――ッ!?」
 麓のこの町ならともかく、父の住む一帯はこの季節雪が多く、暖無しに暮らしは成り立たない。もちろん家を空ける時は火も消すのだが、そんな事は彼も承知の上での言葉だろう。
「それに……な。こいつは爺さんから口止めされてたからエアルちゃんには伝えていなかったんだが」
 父の猟師仲間だった相手はばつが悪そうに頬を掻くと、
「爺さん、今日はこっちに来る予定だったんだよ。もうとっくに着いていてもおかしくねぇんだが。あの時間に厳しい爺さんがよ」
 差し出されたのは、綺麗な箱に収められた大小の髪飾り。
「こいつを受け取るはずだったんだ」
 男の目がふっ、と遠くを見るものになる。
「この『春』の模様、な。村に代々伝わっていた奴なんだ。俺達が暮らして、エアルちゃんが生まれた、あの村の」
「あ、ああぁ……」
 エアルは膝から崩れ落ち、両手で顔を覆った。
「爺さん、エアルちゃんに同居を勧められた帰り、こいつを職人に頼んでいったらしい。照れ隠しに土産を用意するなんて、爺さんらしいじゃねぇか」
「あ゛あ゛ああぁぁぁぁぁ……!」
 止まぬ慟哭は、濁り曇った空に虚しく吸い込まれていくだけだった。

 吹きつける風と、身体に積もった雪の冷たさは、意識を容易に死の深淵へと運び去ろうとする。
 ――あなた――
 しかしそれでも、老体は生命の炎を燃やして目を見開くのだった。
(お前の所へ行くのは、まだ早いとでも言うのか……フローラ)
 既にこの世に無い妻の幻覚で目を覚ますというのも皮肉な話である。こちらは一分一秒でも早く逢いたくて仕方が無いというのに。
「――――――――ッ!!」
 足の傷口を布で縛り、思い切り引っ張って出血を止める。
 大きく息を吐く彼の元へ、数頭の犬が温めてくれるかのように身を寄せてきた。――そうだな。自分の命に未練などもう無いが、こいつ等だけでも生きて帰さねば。
 風が強くなってきている。おまけにこの怪我だ。動き回るのは自殺行為だろう。
 横倒しになったソリの荷物を探りながら、ふと考える。
 時間を稼いだとして、それでどうなる? まともな助けなど期待できない。血の臭いを見逃さない奴等に見つかるのも時間の問題だろう。苦しみをいたずらに引き延ばすだけではないのか?
(……エアル……)
 だが、それでも。
 彼の脳裏に浮かんだのは、まだこの世で生を紡いでいる家族の姿であった。

解説

●目標
 ニエベ爺さんの救出。

●遭難場所
 山の中腹付近で雪崩が発生したらしく、その付近が怪しいと考えられている。が、依然として天候は安定せず、雑魔の出没地域でもある為、捜索隊を組もうにも難しい状況。
 際立って険しい山ではないが、近年では人の行き来が極端に減っているので、道はすっかり荒れ果ててしまっている。雪も多く残っているが、丈夫な靴を履いていけば充分に対応可能(激しい運動まで保証するものではない)。

●ニエベ爺さん
 依頼主の父親で、腕利きの猟師。覚醒こそしていないものの、若者に負けない体力の持ち主で、山の事を熟知している。おそらくは犬ぞりで町へ向かっていたところを雪崩に巻き込まれたものと見られる。

●雑魔
 山村が寂れてしまった一因として、人間と猛禽類を掛け合わせたような姿をした飛行型雑魔の存在が確認されている。血の臭いに敏感で、怪我をした動物(人間を含む)をよってたかって骨だけにしてしまうらしい。詳しい人間がいない為、その規模は不明。

●備考
 ニエベ爺さんの生死は普通に考えてると絶望的だが、せめて遺体を弔いたい、というのが依頼主(ニエベ爺さんの娘であるエアル)の願い。それも叶わぬ場合、遺品を一つでも持ち帰れば報酬の支払い対象とする。
 必要であれば、かつての猟師仲間の一人が山のガイドを引き受けてくれるが、覚醒者ではないので雑魔との戦闘では要注意。

マスターより

 当シナリオのマスターを務めさせて頂きます蝦蟇ダスで御座います。どうぞ宜しくお願い致します。
 冷たい冬に閉ざされた地の雪解けは、父娘に何をもたらすのでしょうか。そしてあなたは、何を想うのでしょうか。
 春の陽射しが近付いております。どうかこのひと時、お付き合いを。
 それでは、皆様のプレイングを心よりお待ちしております。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2015/04/21 09:44

参加者一覧

  • 完全少女
    エフィルロス・リンド(ka0450
    エルフ|15才|女性|聖導士

  • フラヴィ・ボー(ka0698
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • 黒き殲滅者
    姫凪 紫苑(ka0797
    人間(蒼)|13才|女性|疾影士

  •  (ka0824
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 交渉人
    J・D(ka3351
    エルフ|26才|男性|猟撃士
  • 春をもたらす者
    マリーナ・スゥ・シュナイダー(ka3966
    人間(紅)|16才|女性|魔術師

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
J・D(ka3351
エルフ|26才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/02/12 02:05:56
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/02/08 02:09:16