• 戦闘

弔い

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在8人 / 4~8人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2014/06/30 19:00
リプレイ完成予定
2014/07/09 19:00

オープニング

 二人の旅人が眺めているのは荒れた教会だった。
 ひびの入った壁はシミが広がり、それを覆い隠すようにツタが生い茂っている。窓にはバツを描くように木の板が打ち付けられ、しかもそれは風雨にさらされて朽ちかけているようであった。漆喰が剥がれた塀の周りも草が繁茂し、教会を示す門標ですら探すのを困難にさせるほどであった。
 花束を持った髪の長い女性は寂れように悲しむ、というよりは、どこか遠い目をして自らの記憶を辿っているようであった。
「もうずいぶん経つのね」
「あの時にはもうボロボロだったしね。なんかあんまり好い感じゃないけど、本当に行く気?」
 女性を姉と呼んだ青年は大きな剣を背負い、周りに気を配っていた。確かに風は微かにすえた匂いを含んでいるし、太陽はかげり陰鬱な空気を強調させる。歪虚の影響を受けて破壊衝動にかられた動物が出てもおかしくないはずだ。
「ええ……あなた達のこと忘れてないって気持ち、届けてあげたいから。それに私を守ってくれるから、ここまで来てくれたんでしょ? あなたがいるなら大丈夫って、姉さん信じてるから大丈夫」
「あのね……どんな雑魔がいるかわからないところに墓参りに行くっていう身内を、はい、そーですか。って放っておけるわけないだろ」
 にっこり笑う姉に、弟は片頬だけ釣り上げてシニカルな笑みを浮かべた。ここに来る前までにもう何度もここに戻るのは止めようと言ってきたのだ。だが、姉はいつも同じ調子で微笑むのだ。まったく、こんな風に信頼されたらイヤだと言えなくなってしまうじゃないか。
 姉は弟が押し黙ったのを見て、もう一度にっこり微笑むと、花束を持ちなおして修道院へと足を踏み出した。
「それに悲しみを一人で背負い込ませたくないしね」
 か細い体ながら、草をはらい分けて歩いていく姉の背中を見ながら、聞こえないように弟は小さく呟いた。
 あの時。村が真っ赤に染まった夜。歪虚に襲われた記憶がよみがえる。
 狂気じみた咆哮。たくさんの悲鳴。断末魔。それらはまだ焼き付いて離れない。
 村に戻り、皆をこの修道院に葬り旅だった。あれから血のにじむような訓練を積んだおかげで、故郷を破壊した歪虚を見つけ出しこの手でトドメを刺すことはできた。だが姉も弟もその復讐の後に残ったのはすがすがしさではなく、虚無感であった。
 だからだろうか。姉が故郷にまた戻りたいと言った時に、口では制止を呼びかけるものの、止め切れなかったのは。

 草は奥に進むにつれ、数自体が減り、ほとんどが地面に寝そべるようにして枯れきってしまっていた。二人を歩を阻むものは少なくなり、歩きやすくはなっていたが、空気はさらに淀み、まるで水の中を歩くような重たるい感覚がつきまとった。
「墓は別のところに移した方が良かったかもね」
「でも、やっぱり眠るところは故郷がいいと思うわ。それに昔はこんなになると思っていなかったし……」
 そう言いつつも姉の言葉には後悔の色が浮かんでいた。これだけおどろおどろしい空気を歩いていれば、誰だってそう思うだろう。
 教会の壁が切れたところまで進むと、視界が大きく開ける。見えるのは等間隔に並ぶいくつもの石、石、石。
 墓地だ。
 いや、それは過去形に表現した方が良かったかもしれない。
 そこは負の生命がたむろう集会所だった。墓標の合間は不自然にへこみ、そこにいくつもの白骨が蠢いていた。彼らは虚無の眼窩からあるはずのない視線をこちらに送っていた。反射的に肌が泡立つような感覚に襲われる。
「姉さん、やっぱり墓参りは無理だ。引き返そう」
「でも……!」
 名前に反応されたことで、何らかの思念が残っているのでは。希望と絶望がないまぜになって泣きそうな顔をしながらも、姉は花束をしっかり抱きしめ続ける。
「でもじゃない! あっちの仲間入りをするために僕たちは来たんじゃないんだ!!」
 やはり、無理やり制止しておけば良かった。弟は心底後悔した。
 故郷の皆がアンデッドになっていることを予見してなかったわけでない。そんなことは百も承知で来たつもりだ。
 だが実際に蠢く白骨を目の前にして、これまでに体験したことのないひどい衝撃が心の中を走り、ようやく理解した。
 大切にしてくれていた人の残骸でも、手を上げることはできない。無理にその禁忌を破ろうものなら、自分のアイデンティティが根元から崩壊してしまうだろう。それは弟だけでなく、姉も同じのはずだ。
「姉さんっ」
 白骨の動きは思ったより早かった。気が付けば眼前に複数のサレコウベと尖った指の骨が迫っている。
 弟は素早く姉をかばい鋼鉄のアームレットで骨の攻撃を防ぐと、姉の腕を引っ張り一気に元来た道へと駈け出した。姉の手にしていた花束がその拍子に投げ出され、地面に落ちた。その衝撃で色鮮やかな花びらがグレーの世界に四散する。
 それを踏み荒らして骨は迫ってくる。
 姉弟はそれから無我夢中で走り続けた。

 気が付けば、淀んでいた空気は薄まり、ごく普通の草原の中にいた。息も絶え絶えで二人は座り込んだ。
「どうしよう……」
「他のハンターに頼もう。自分たちで決着つけられないのは歯がゆくて仕方ないけど、僕も姉さんも……きっと手を下せないよ」
 姉は不服そうな顔をしていた。自分たちが手を下せないことを他人にゆだねるなんてしたくはない。
 だが、自分たちでどうにかできるのか、と問いかけられれば、きっと答えられないし、歪虚を放っておくわけにもいかない。
「うん……そうだね、それがいいよね」
 姉は自分に言い聞かせるように、何度もそう言って頷いた。
 そしていつもの微笑みを作って、弟に向けた。
「できる弟を持てて、姉さんは嬉しいなあ。私だときっと一人で抱え込んでるところだわ」
「うん、そうだろうね。だから姉さん、依頼で来てくれたハンターに無理言わないように。姉さんが喋るとぼろが出て、みんな心配して無茶するから」
 声を詰まらせる姉に、追い打ちをかけるように弟は言葉をつづけた。
「あと余計な希望もいわない。間違ってもハンターに花束届けたいから同行したいとか、安全なところで埋葬しなおしたいから遺品を、とか。そういうのは来てくれた人に任せる。そして、どんな結果になっても僕たちは受け入れる。いいね?」
「え、あ……はい」
 反論させないように弟はまくしたてながら、姉の了承を奪い取った。
 それでもやっちゃうんだろうなぁ。と心に思いながら。
 いざという時は仕方ない。大事なものを守るのが僕が剣を握る理由なんだから。弟は剣を杖にして立ち上がり、もう一度遠くになった故郷を見つめなおしたのであった。

 ほんの少しの時間でいい。故郷に安寧を届けたい……。

解説

 姉弟の故郷の住人であったスケルトンの退治をお願いします。教会に埋葬された者すべてがスケルトンとして襲い掛かってくるわけではありません。おおよそ5体前後、とのことです。依頼主である姉弟としては亡くなった方々の供養ができればというのが本意ですが、歪虚に浸食されている以上、その目的を果たすのは不可能だと考えていますので。スケルトンの退治がされれば目的は達成した、というように考えています。
 姉弟は同行を希望します。オープニングでは無理言わないこと、と弟にクギを刺されてますが。やっぱりできるなら、という感じです。自分を守るくらいなら十分可能です。オープニングにも書いていますが、姉弟は家族や大切な故郷の住民だったものに剣をふるうことができないだけです。これがもし全く関係ないものなら二人でバラバラにしてしまえる程度の実力はもっています。姉は聖導士、弟は闘狩人です。

 成功ラインの判定は、
 供養をしてあげたいと思う姉弟の気持ちを汲んだ行動ができるか、です。
 その最低ラインの項目がスケルトン退治、ということです。
 よりよい成功に導くにはそれなりに皆様のアイデアが必要になるでしょう。

 場所は廃村の教会裏手にある墓地です。スケルトンが底から湧き上がってきた部分が多いので、やや凸凹があります。広さは十分ありますので、武器を振り回すのに不都合、ということはありません。墓地の周りは塀で囲まれています。高さは2mほど。

 プレイングが白紙の場合はリプレイに描写されませんので、やりたいことなどで仮プレイングを作成しておき、相談が進むにつれ随時編集していくことをお勧めします。
 思いつかない場合でも何か入れておきましょう。
 プレイングの締切日はよくよく確認し、間違えないようご注意ください。

マスターより

 こんにちは、DoLLerです。
 ジョブやスキルは問いませんが、皆様のお気持ち次第でいろんな展開を迎えられるよう幅を持たせています。
あなたの優しい気持ちこそ姉弟の心にあいた虚無感を埋めることができるのだと信じています。

 それでは皆様、よい冒険を。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2014/07/07 06:36

参加者一覧

  • 風の紡ぎ手
    クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659
    人間(蒼)|20才|女性|魔術師
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人

  • トレイシー・ヴィッカー(ka1208
    人間(紅)|18才|女性|聖導士

  • シエル・ヴァンテスター(ka1612
    人間(紅)|21才|男性|機導師
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士

  • ガルヴァート=キキ(ka2082
    エルフ|87才|女性|霊闘士

  • マファルダ・ベルルーティ(ka2311
    人間(紅)|20才|女性|疾影士
依頼相談掲示板
アイコン 【弔い】相談スレッド
ザレム・アズール(ka0878
人間(クリムゾンウェスト)|19才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/06/30 18:40:04
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/06/25 07:50:14